更新再開です…!(言い訳などは、のちほど追記するあとがきにて…仕上がったのがギリギリでしたので…!?)
三日間の休養を終え、破壊された武器の修復も完了したことで、俺たちはホロウ・エリアの攻略を再開することにした。
ホロウPoHが仕掛けたアップデート…アインクラッドにいるプレイヤーたちと、ホロウ・エリアにて活動をするホロウ・プレイヤーとの入れ替わりを目的としたアップデートが実行されるまでまだ時間があるとはいえ、あまり余裕をもって攻略できるかと言われると少し不安なところもある。
だからといって、焦って事を仕損じるわけにもいかないため、慌てず慎重に最短での攻略をしていこう…そんなことをフィリアと話し、遂に俺たちはホロウ・エリア最後の区域『アレバストの異界』エリアへと足を踏み入れた…のだが、
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
足を踏み入れて僅か十数秒…目の前で起こったことに俺もフィリアもただ茫然とするしかなかった。
何が起こったのか…いや、この目で見たものの、あまりに突然のことに理解が…というか、脳の処理が追いつかないと言った方が適切だろう。VRMMOという性質を考えれば、(キリト曰く)処理落ちというやつが近いのかもしれないが、ある意味ではその表現も適切だったかと思う。
とりあえず、今、目の間で起こったことをありのままに話そう。
異界エリアに足を踏み入れた瞬間、ボスが空から落ちてきた!?
ボスが俺たちを視認した瞬間、跳躍してどこかへと飛んで行った!?
いや、もうその二文に事実が集約されている。あまりにも突然かつ予想外のことが立て続けに起こったせいで、剣を抜くことすらもできず、俺とフィリアはボスが一撃離脱(一撃も攻撃されてないから、表現として少し不適切だが、他にいいものが思い浮かばなかった)する様を呆然と見ていることしかできなかった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
そして、今に至るわけだ。いや、紫色の空に青紫の地面に、どこか配色に違和感を覚える木々や花のことなど忘れ、俺とフィリアは口を開け、目を見開き驚いていた。
多分数秒ぐらいだったと思うが、かなりの時間そうしていたかと感じる程の衝撃からようやく我に返り、俺たちは顔を見合わせ…
「なんだ、今の…?」「なに、今の…?」
思っていたことは同じだったらしく、そんな感想が重なり口から出ていた。いきなりボスが逃走するという珍事に見たものが信じられずにいたが、どうやら見間違いではなかったらしい。
「あ、ありのままに今見たことを言葉にするのなら…突如としてボスと遭遇したと思いきや、逃げたってことだよな…いや、あまりにも初めてのケースに自分が今言ってることが正しいのかちょっと疑わしいんだけど…これが異界エリアのボスのギミックということなのか…?」
「…ぽ、ポルナレフ構文…フォン、それもしかして意識して言ってるの?いや、気持ちは分からないこともないけど…」
「ぽ、ぽる…?なに構文だって?そんな有名な格言とか公式なんてあったっけ?」
「し、知らないの!?あの有名漫画の名台詞だよ?!」
「…?…?どっちかというと、俺、小説は読むけど、漫画はあんまり読まないんだよな」
「う、噓でしょ…人間の楽しみ2割を損してるよ…!」
「そこまで言うか…!?って、そうじゃない!」
事実の確認をするように言葉にしてみたのだが…どうやら言い方がフィリアの何かに引っ掛かったらしい。どうやら何かの漫画の台詞に似ていたらしい…漫画をほとんど読まないことを告げると、信じられないといった目をフィリアから向けられるも、今はそんなことを話している場合ではなかった。
「あれが…このエリアのボスか」
「甲殻系…ううん、大きな針と尻尾があったからスコーピオン系のモンスターっぽかったよね」
「そうだが…スコーピオンって六本足歩行だったよな。さっきのあいつ、四本足で跳躍して、残りの二本は腕のように掲げてなかったか…」
「ま、まぁ…ホロウ・エリアのボスっぽいってことで。フォンはアインクラッドの階層ボスでさっきの奴と似たような相手は…」
「……ないな。昆虫や虫系統のボスは何体かいたし、迷宮区ボス以外のフィールドボスとも嫌という程に戦ってきたけど、酷似した相手はいなかったと思う」
驚きが完全に収まったこともあり、ようやく思考が先程の逃走ボスへと働いた。スコーピオン系統のモンスターはネームドも含め戦ってきたが、あのような個体は迷宮区ボスにもいなかった。
「ともかく…ボスが跳んで行った方へ行こう。幸いなことに、このエリアはそこまで広くないようだし。ただ、さっきみたい遭遇戦は大いにあり得るだろうから、注意していこう」
「…うん!」
これまでのホロウ・エリアのボスを考えれば…また厄介な能力を持っていそうだと思いつつ、ひとまずは逃げて行ったボスを追いかけるのだった。
「…!いたよ、あそこ!」
ボスが消えていった方へと進み、少しすると…『強さを求めて彷徨った異形の森』というエリアにてボスがいた。
俺たちの存在にまだ気が付いていないのか…フィリアの声に反応することもなく背を向けたままのボス。このまま先手が取れればと思ったが、話はそう簡単なわけがなく…
『…!GYAAAAAAAAAAAAAA!!』
「フィリア、くるぞ!」
「分かってる!」
俺たちの存在に奴も気が付き、振り向きと共に咆哮を発した奴のステータスが表示される。
『Frexible THE Beetle Queen』…これまでのエリアボス同様三本のHPバーがネームドと共に表示され、俺とフィリアは戦闘態勢に入るべく両手剣と短剣を抜いた。その時、振り返ったボスの口元から何かが零れるのが見えた。
(何かを食べていた…?あれは……何かの破片みたいだが、一体…?)
淡い光が灯るエリアのそれに照らされたことで煌めいたそれら…形が歪であることから、俺たちに気づくまでボスがそれを食べていたと思われるのだが…その正体が見当つかず、思わず眉を顰めていたのだが、その答えはすぐに分かることになった。
…パキパキパキ!
「っ…腕が……変わった…!」
腕のように構えていたボスの前足二本が、身体から走った光に合わせるように何かが形成され、フィリアの言葉通りその姿を変えたのだ!
巨大な三本指の上から水色の鉱石を思わせるような歪な拳…そう、まるでボクサーグローブのようなものが形成されたのだ!
「こいつも変化形か!?本当に、ホロウ・エリアのボスはどいつもこいつも厄介な能力を持ってやがるな」
「愚痴はあと!作戦は!」
「いつもどおり臨機応変対応!」
「だよね、了解!」
ここまでくればそのやりとりだけで言いたいことを察してくれるフィリアの反応を感謝しつつ、両手剣『エンプレス・ジェイル』を抜く!
まずは様子見と思い、どう対処するかと思考を巡らせようとした直後、先に動いたのはボスの方だった。なんと…
(…跳んだ!?)
四つ足を屈めたかと思えば、なんとその反動の如く、さっき見せたように上空へとボスの巨体が跳び上がったのだ!?
浮遊遺跡エリアボスとは異なるその挙動に目を奪われるも、同時に脳が警戒心に沿って回避行動の指示を身体に飛ばす!
フィリアの方も同じく動き出しており…いや、俺よりもAGI値が高いこともあって、既に十分な距離を取れていた。人の心配をしている場合ではなかった。間に合うかどうか…着地予想点より距離を取るべく駆けていたところ…奴は落ちてきた!
「「っ!?」」
鉱石の拳を振り下ろすかのように落ちてきたボスの一撃は、殴った地を中心に轟音が走る!直撃すればタダでは済まないことは確かで…咄嗟に両手剣を盾にするように構えるのと同時に跳躍し、遅れて走ってきた衝撃の余韻をも活かし、距離を取ることに成功した。
「(…4、5…落下攻撃後の硬直は5秒間。余韻の受け流しを考慮すれば、近づいて攻撃するのに掛けられる時間は3秒!この装備じゃ相性が悪いか…!)様子見も兼ねて、この装備でいくか…!」
武器の性質上どうしても大ぶりになりがちな両手剣から装備を換装するべく高速換装スキルを発動させる。持っていた剣と背中の鞘が同時に消え、代わりに手の中にオブジェクト化されたのは銀色のショートランス…細槍『マガ・ジュネス』を両手にて構える。
軽量化とAGI値への補正効果もあり、両手槍でありながら扱いやすい自慢の一品だが、この装備を…いや、両手槍を選択した理由は他にもある。両手槍の幻想剣固有効果は持続強化…戦闘時間が長引けば長引くほど、5秒ごとに攻撃・防御力が1%ずつ上昇していくのだ。250秒…4分10秒にて最大値である1.5倍の強化を図れるだけでなく、攻撃モーションの短縮もある。
「フィリア!」
「…!分かった、フォローするね!」
槍をその手に一気にトップスピードにて駆け出すのと同時にフィリアの名を呼ぶ。俺の言動で考えを察してくれたようだ。アイコンタクト一つで『俺が攻めてモーションを誘い出すから、フォロー頼む』と言おうしたことを察せられてしまった。
こういうのは自信を持って伝わると思っていたのはキリトぐらいじゃないかと思っていたが…まさかフィリアにまで察してもらえるとは。それとも、俺が分かりやすいだけなのだろうか…そんな疑問を抱きつつ、俺はボスとの距離を一気に詰めていた。
『…!』
ボスの方も俺に方に気が付いていたらしく、大技の隙から復帰して迎撃態勢に移っていた
だが、その巨体通りに機動性は高くないらしく、四つ足を順番に動かしながら俺の方へと身体の向きを変えていた。
さっきの大技に気を付けつつ、ボスの動き全てを視界に収める…そして、迎撃すべく右腕を振り上げる挙動を予知し、併せて動く!
「…っ!はあぁぁ!!」
振り下ろす場所を逆に誘導するように動き、ギリギリのところで躱す!その勢いをも活かす、右鉱拳に槍をぶつけてみると鈍い音が返ってきた。見た目通りかなり硬いようで、腕を攻撃するのは現実的ではないようだ。
そんな分析をしながら、ステップにて懐に飛び込んでいたのもあり、そのまま槍の穂先にてボスの身体へと直撃を喰らわせる!こっちはさっきとは異なりダメージエフェクトが発生し、しかし、HPの減りはよろしくなく、ほんのちょっと緑のゲージが減っただけだった。
(硬いな…俺でこれだと、フィリアの攻撃だと普通にやったらダメージ皆無に等しいか。機動力がない代わりに防御重視の形態変化タイプ。前みたいに次々とやられたら堪ったものじゃない…!)
軽くトラウマになりかかった大空洞エリアボスのことが脳裏をよぎり、異界エリアボスの硬さに心の中で舌打ちした。
長期戦になるのは避けたいが、性質上それは不可避だろう。効率的にダメージを与えるにはソードスキルを…それも硬い表皮ではなく、急所や間接といった柔らかい箇所に叩き込む必要がある。
「フォン!」
「動きは鈍いけど生半可な攻撃は通用しない!間接か急所への攻撃推奨!もう少し時間がほしいから、一緒に攪乱頼む!」
幸いなことにスピードはこちらにかなり分がある。よほど変なことをされない限りは、直撃を喰らうこともないだろう。あとはどういった形で攻めていくかだが…一応プランはあるが、あと3分…いや、2分はほしい。
ボスの特徴を簡素にフィリアへと伝え、少し離れた場所にて待機していた彼女も加わり、同時に仕掛けようと…
「…!フォン、また跳ぶよ!」
「…了解!」
離れていたことでボスの全体が見えていたフィリアの警告に、乱撃を加えていた槍の手を止め、すぐさまバックステップをして距離を取る。その直後、ボスが上空へと跳躍したのだった。
「一定周期ごとの大技発動か…タイミングとモーションが分かってるなら!」
またさっきと同じ攻撃だと分かっていることもあり、ポーチから取り出したハイポーションを一気に飲み干し、そのまま短槍を地面に突き付ける!
そして、ボスが二度目となる叩きつけを行う…それにより先程と同じ衝撃波がおまけとして周囲に飛んでくる。さっきよりもボスに近い位置にいたせいで、衝撃波が俺の身体を襲いHPを2割減らすが、すぐさま減った分の回復がハイポーションの効果にて行われる。
それを気にせず、突き刺していた槍を抜き、俺はソードスキルを発動させる!ダメージなど覚悟の上だ…大技を放った5秒の隙があるのを突けるのに、こんなもの許容できるリスクだ。
「(槍の特性を利用して…狙うは…!)…そこだぁぁぁぁ!!」
ソードスキルを発動させる直前に、身体の向きがあおむけになるようにしながら前方に飛び込む。こいつが蠍に似た体の構造であるのならば、急所は存在する…そう、地面に接している腹部だ。
そこは構造上、どうしても柔らかくなっている筈…その予想通りに、俺が放った槍単発ソードスキル〈ソニック・チャージ〉の一撃がボスの腹部を抉り、微々たる量しか減っていなかったHPを今度は大きく減らした。
これでボスの一本目のHPバーは残り8割弱となった。
「…スイッチ!」
「オッケー!」
そして、俺へとボスのヘイトが移ったところで、硬直で動けなくなった俺を狙って拳を振り下ろそうとするも、カバーすべく動いたフィリアがその一撃を短刀にて逸らし、前線を変わってくれた。
あの短剣…『リノベイド・ベリッタ』には強力なHPリジェネ効果がある。他にも特殊能力があるのだが、今は置いておいて…生存能力に特化した効果と、フィリアの素早い動きによる回避率を考慮すれば、今のボスに負ける要素はないだろう。
(フィリアが時間を稼いでくれている内に…最後の仕上げをしないとな!)
時間は十分…そこに更なら要素を付与すべく、メニューを開き6つのアイテムをオブジェクト化する。液体の入った瓶たち…しかし、それはさっき飲んだハイポーションとは色も効力も違うものだった。それらの封を一斉に切り、飲み干していく!それぞれが独自に癖のある味をしているのと、一本の量がそれなりにあるのもあり胸焼けと胃もたれを起こしかける…だが、準備としてはこれで完了だ!
「(…!くる…)フィリア、下がれ!あれがくる!」
「…!うん!」
三度目となる大技の予備動作として跳躍の予兆が見られ、ボスのヘイトを稼いでいたフィリアが俺の警告を聞き、距離を取るべく後退する。それに合わせ、俺は前へと出て…!
「ちょ、フォン!何してるの?!」
「一発どでかいのをぶちかましてくる!いつでも動けるようにしておいてくれ」
「あー、もう…分かった!」
申し訳ないと思いが苦笑いとなって出てしまう。俺の言葉にどこかヤケクソになったような反応をするフィリアと入れ替わり、奴が落ちてくるであろう場所で急停止する。
奴はその拳を地面に叩きつけるべく構えていたが…俺も空へと目掛けて槍を構え、左膝を曲げることでしゃがみ込みの体制になる。それにより、ソードスキルの発動モーションが発生する。
そして、それを解き放つべく膝を元に戻した瞬間だった。
…ズガァン!?
『Gya!?』
鈍い音が…砕けたような音がフィールドに響き、上空に新たな影が舞った。それが、俺が放ったソードスキルにより今にも振り下ろさんとしていたボスの右鉱拳が腕ごと砕けた轟音によるものだった。
幻想剣≪槍≫超重単発ソードスキル〈コンセント・レイベット〉…幻想剣固有効果・ソードスキル・バトルスキル・装備品・その他ポーションの効果により発生したバフ効果を発動直前に解除する代わりに、解除したバフ効果分に比例し技のダメージと加速度が倍化する、まさしく一点集中と言っても過言ではない…まぁ、デメリットもそれ相応に大きいのだが。
「フィリア、追撃の準備を!?落ちるぞ!」
「了解!」
デメリットである5秒間のスキル硬直時間に襲われ、空中で思うように身動きが取れない俺は動かせる首をなんとか下へと向け、待機しているフィリアへと叫ぶ。部位破壊に加え、大技を放つ途中で迎撃されたボスの巨体が俺よりも早く地へ落ちていくのが見えていた。
HPも一本目がほとんどなくなり、落下ダメージを考慮すれば一本目を切ることは確実だった。このまま落下ダメージを相殺するのと同時に、ボスを拘束して更なる追撃を図るべく、幻想剣≪槍≫単発超範囲ソードスキル〈トライ・エルスパイラル〉を放とうかと思考していた時だった。
『GYAAAAAAAAAAA!!』
「えっ…きゃあ!?」「…なぁ…!?」
俺の思考を裏切るかのように、落下していたボスは地面に衝突直前に体勢を立て直し…なんと、初めて遭遇した時のように跳躍したかと思えば…またしても彼方へと消えたのだ!?
まさかの二度目の逃走に追撃しようと近づいていたことで衝撃の余波により少しばかり後退ったフィリアも、すれ違うような形でそれを目撃した俺も、思わず驚きの声が出てしまった。
「(っ…!驚いてる場合じゃなかった…!?)はぁぁぁぁぁ!!」
跳んで行ったボスの動向に目を奪われていたが、今はそれどころではないことを思い出し、俺は硬直が解け動けるようになった両腕を操り、地面が迫ったところで槍単発ソードスキル〈フェイタル・スラスト〉を放ち、無事に地上へと生還した。
「フォン、大丈夫?」
「大丈夫だ、一応計算していた範囲内ではあっ、いった!?なんで叩いた、フィリア…?」
「私を心配させたのと、またしても何も言わずに無茶なことをした罰よ。なんで、そういうことをいきなりやるのよ、フォンは…!」
「ほ、ほら…こうして何の問題もなくちゃんと戻って来たし、そこまで危ないことはしてないぞ?」
「…もう一回叩いたほうがいいの?」
「すみませんでした」
「分かればよろしい」
心配から一転、応答の最中に頭を軽く叩かれた俺は抗議の声を上げるも、有無を言わさないとばかりに拳を握りしめたフィリアの姿を見て即座に謝った。アスナもそうだが、女性って怒らせると怖いのは共通事項なのだろうか…そういえば、母さんも怒った時は普段の姿と打って違って怖かったか。
ともかく、俺の謝罪を聞いたことでフィリアもそれ以上の追及をする気はないらしく、話は逃げたボスへと移った。
「今度のボスは…逃げるタイプってことでいいのかな?」
「一旦はそう考えていいだろうな。いちいち仕切り直しにされるのはいい面もあれば厄介な面もあるけどな…バフ効果が場合によったら無駄になるし」
「…あー、そっか。幻想剣の両手槍の固有効果って持続強化バフがあるんだっけ?」
「時間経過での段階的かつ持続強化がな。もっとも、こうなるのだったら、コンセント・レイベットを早めに使ったのは正解だったかもな」
「そういえば…何だったの、あのヤバい効果のソードスキル。あれも最上位ソードスキル…?」
「いや、あれは幻想剣の槍の普通のスキル。といっても、自身に掛かっているバフ効果を代償に威力を強化する技なんだけどな…」
「あ、あれで普通のスキル…やっぱり反則じゃない、幻想剣?」
「だよな…もっとも強力なスキルはそれに比例したデメリットがあるんだけどな」
「デメリット……あっ!…で、でも…今回はHPも武器も無事っぱい…?」
「コンセント・レイベットのデメリットは二つ…硬直時間が5秒と長めなこと、そして…代償として解除したバフが3時間適用されなくなることだ」
「…!(そ、そういえば…解除したとはいえ、幻想剣のバフ効果が切れたまま、フォンのステータスに表示されてない…!)」
最上位でないにも関わらず、それと同等かそれ以上の威力を発揮するのだから、フィリアの感想はごもっともだと思った…だって、使っている俺自身が否定しきれないのだから、しょうがない。
そして、先程ボスに対して使用したソードスキルのカラクリを話したところで、ようやくフィリアも気づいたようだ。
コンセント・レイベットのデメリット…特に後者は幻想剣の槍の固有効果をも代償にしてしまうため、この技を使うと槍で戦闘を継続するメリットが半減してしまうのである。だからこそ、基本的には使用することがあまりない各種ステータス強化ポーション(STR・VIT・DEX・AGI・SPD・LUCを一時的に強化するポーション…ちなみに希少品)を一気飲みし、技を放ったのであんな威力になったわけだ。
「まぁ、他の武器に変えたらあんまりデメリットはなくなるんだけどな」
「…フォンに弱点なしと言っていいのか、幻想剣に死角がないと評価すればいいのか…って、そんな話をしてる場合じゃなかった。ボスの話だよね…」
今回、両手槍の出番は終わりだろう…といっても、最上位ソードスキルの使用どころが限られる上に、戦闘がこうも仕切り直しにされるのだとしたら、相性はあんまり良くなかったのでちょうどよかったのかもしれない。
そんなことを思いつつ、メニューを開き武器を槍から曲刀『砂漠鳥の懐刀』へと変える。ボスとはいえ、対モンスター用としてはうってつけの武器だから、防御力が高いあいつにはちょうどいい。
一方で話をボスへと戻すフィリアだったが、何かを迷うような素振りを見せ…ようやく口を開いたかと思えば、
「なんか…弱く感じるのは私だけ?」
「気持ちは分かるけど、けっしてあのボスが弱い類じゃないからな」
自分が言っていることがおかしいと感じているせいで眉を顰めているのだろうが、言っている内容がズレているとフィリアにツッコミを入れつつ、同じことを思っていたので苦笑してしまう。
まぁ、フィリアがそう感じるのも無理はないだろう。
「前の…大空洞エリアのボスが異常過ぎたんだよ。あれ、軽く25層や50層で戦ったクォーターボスを超える強さだったからな。ユニークスキルなしだと勝てないレベルと言っても過言じゃないだろうし…(…二刀流を解禁したキリトとならもっと楽に…いや、それでも苦戦は必至か)」
「やっぱりそうだよね…なんかあのボスを経験したせいか、どうにも感覚が…」
「まぁ、攻略組じゃないフィリアからしたら無理ないよ。幻想剣ありであれだったことを考慮すれば…そりゃな」
「飛んでる敵を軽く圧倒するぐらいだもんね、流石は幻想剣というか」
「強すぎて人目を避けて使わないといけないんだけどな」
(…それを苦も無く使いこなせているフォンも結構な化け物のような気がするのは心の内に秘めておこう)
大空洞エリアボス戦から日がそこまで経っていないのもあり、ちょっと感覚が狂ってしまっている自覚がフィリアにも俺にもあったわけで…あと、幻想剣がやっぱり強すぎるのだ。あのスキルだけで下手すれば迷宮区ボスをソロ討伐しかねない能力なのだから…何かフィリアが言いたげそうだったが、やっぱりチートすぎると心の中でツッコんでいるのだろうか?
ともかく、話も一段落したところで、
「…それじゃ、奥に逃げたボスを追いかけるか」
逃げている内にボスにHPを回復させられたら厄介なので、消耗もほとんどないので、俺たちはこのまま追撃戦に入るのだった。
「…いた!」
「また何かを…食ってる?」
エリアを一つ奥へと進み…森の薄暗さが一段と重くなった先にボスはいた。フィリアがすぐさま短剣を抜くも、またしてもボスは何かを喰らっており…俺たちに気づき振り返ると、
「…っ!?」「…うぅ!?」
声を上げなかった自分を褒めたかったが、それでも気分の悪さを覚えるのは許してほしかった。隣のフィリアが左手で口を抑えていたが、確かに女性にはキツイ光景だ。
…ボスの口から緑色の液体が零れ、振り返った拍子で零れたそれが破片となった落ちた。アインクラッドではまず見ることがないあまりにリアルなその光景はフィリアにとっては刺激が強すぎた。
ボスは俺たちから逃げた後に、捕らえたのであろう蜂型モンスターを捕食していたのだ。アインクラッドでもそういった光景に遭遇したことはあったが、ここまでリアルな光景はなかった…それと同時に理解してしまった。
さっきの拳の強化…見た光景と併せて、奴は鉱石を食って自身を強化していたのだろう。そして、このエリアに来てから感じていた違和感の正体に気づいた。このボス以外のモンスターと遭遇を…モンスターのポップが起こっていなかったのだ。それも…このボスがこのエリアの支配者であり、最上級の捕食者であったからだろう。
浮遊遺跡エリアのボスが支配者だったことから似ているようだが、こいつの場合は全てを喰らいつくす者という大きな違いがあるが…食物連鎖のピラミッドバランスどうなってんだというツッコミは置いておき、さっきが拳の強化だとしたら…!
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「…!(さっき突き破った右腕が再生した…!しかも、まだ変化が続いてる!?)…ヤバい、フィリア!?」
「えっ…!?」
部位破壊した筈の右腕が鈍い音共に内側から突き破るように再生し、それに続くように頭上に掲げていた尻尾が異常に肥大化していき…嫌な予感を覚え、右手でメニューを開きながら、フィリアを庇うように前へと出る!
空いていた左手にオブジェクト化したそれが装備されたのと、奴の尻尾が一気に膨らんだのはほぼ同時だった!
「…ぐぅ!?」
「危ない…!」
鋼核盾『オルテアス』に重たい一撃が伝わり、衝撃に押し負けたことで俺の身体が吹っ飛ばされそうになった…咄嗟にフィリアが背中を支えてくれたことで、なんとかふんばれたが…
奴が放ったのは尻尾の棘…しかしのその大きさや速さからしてミサイルと言っても過言ではないものだった。防御したにも関わらずHPが一割も減っていたほどにだ…蠍らしい尻尾の攻撃に、蜂らしい棘攻撃の合成技とは…こいつの特性がなんとなく分かってきた。
「今度は棘飛ばしってわけ…まるで固定砲台だね…!」
「あのスタイルなら機動性の低さも関係ないってか…進化するボス、またこれは厄介なタイプだな、おい」
「…!次がくるよ!」
攻撃パターンを変えるのは大空洞エリアのボスとどこか似ているが、あのエセ武人と違い、自己強化をメインとし、部位破壊を回復する(その代わりにHPの再生はないようだが)特性…なんとなく読めてきたところで、二回戦の火蓋を切られた!
フィリアの警告の言葉に、俺たちは左右に分かれて散開し、再び放たれた棘ミサイルを躱す。
「・・・・・・・・・・・・・」
「…!(コクッ)」
僅か数秒のアイコンタクトでこちらのおおまかな主旨を理解してくれたことを頷きで示すフィリアの頼り強さに笑みを零し、俺もやることをすべく動く。
棘ミサイルの連射力はそこまで高くないようだが、5秒間おきに俺とフィリアのどちらか距離の近い方を優先して狙ってきているようだ…だが、棘ミサイルの発射元は尻尾だ。そのため、照準をつけるために多少のタイムラグが生じる。そのため、フィリアと距離を取る形で散開したのだ。
いくら遠距離攻撃できるようになったとはいえ、機動性が鈍いことに変わりはない上に棘の発射タイミングがとても分かりやすい。機敏性に優れたフィリアは当然、俺ですら見切ることができるので、回避は造作もなかった。
「(狙うは…)発射のタイミング、そこだぁ!」
間合いの少し外でタイミングを計らい、奴がフィリアを狙った直後、ソードスキルを活かして一気に距離を詰める。
幻想剣の曲刀の固有効果はモンスターに対しダメージ値を2倍にする…俺だけであれば、多少のダメージは与えることができるだろうが、フィリアにも攻撃に回ってもらう必要があるので…放つのは幻想剣≪曲刀≫3連撃ソードスキル〈ラック・アクローチ〉だ。
HPを0.5割ほど減らしたのと確定のデバフが入るが…残念ながら狙っていたものとは異なるものが入り、ボスの動きが更に鈍くなった。外れではないが、本命であった防御力ダウンが引けなかったのは運がなかったと諦めよう…ラック・アクローチはどうしても運要素が絡むため、仕方ない。
そして、硬直を動けなくなった俺を狙い、射程距離ということで棘ミサイルではなく、尻尾の直接攻撃を仕掛けてきたのだが、
「させない!!」
読んでいたのもあり、短剣単発ソードスキル〈アーマー・ピアス〉でフィリアが尻尾を逸らしてくれた…と思っていた矢先に今度は俺たちを捻りつぶそうと左の剛腕を振るってきていた。
「フォン!」「スイッチ!」
それをフィリアと入れ替わるように前衛を代わり、左腕に装備した盾を活かした殴りで逸らす!その動きに併せてフィリアが俺の方へと駆けてきて、
「よろしく!」
「行って来い!」
以前にもやった連携を今度は盾で行うべく、跳躍してきたフィリアの動きに合わせ、彼女を空へと打ち上げる!それに続き、俺も曲刀にライトエフェクトを宿す。
「これで、どうよ!!」
「これでも喰らっとけ!!」
機動力が鈍ったということは反撃がくるまでのテンポも遅れるということだ…それはこちらに大技を使わせるチャンスが生まれるということだ。
尻尾の付け根という装甲が薄い箇所へとフィリアの短剣4連撃最上位ソードスキル〈エターナル・サイクロン〉が放たれるのに合わせ、俺も幻想剣の曲刀最上位ソードスキルを繰り出す。
11の紫赤色の高速斬撃…最上位ソードスキル〈アフタージュ・フレーム〉での高速乱舞は動きながらの連撃になるため、回避しながら使う技としては使いやすいかつ威力のあるソードスキルだ…まぁ、効果がえげつない分、最上位の中では威力が控えめなんだが。
で、そのえげつない効果が確定かつ永続での弱体と攻撃ダウンデバフ付与なのだが…更に下がっていた機動力が更に鈍くなった(あと、おまけで攻撃力が下がった)。
それでも、ボスの防御力の硬さは健在で…最上位二つのソードスキルをぶつけたというのに、HPの二本目をようやく半分切ったところだった。
『g,Giiii…!?』
複数のデバフ…特にAGIにかかるデバフにより、機動力が4割も下がっているのだ。違和感を動きで表すかのように苦痛に近い声を上げながら悶えるボス。このまま押し切れるかと思いきや…
突如として尻尾を空へと掲げて、棘ミサイルを上空へと放ったのだ!
「外した…?」
「…!違う!フォン、回避して!?」
「…っ!」
狙いがズレたと思っていたのは早計だった…フィリアが真っ先にその狙いに気づき、遅れて理解した俺は駆けていた足を無理矢理に止める!
空で何かが微かに光ったと思った次には、複数の破片が徐々に大きく…いや、落ちてきたことで近づいてきていたのだ!空に討ったのが拡散弾に近い尻尾棘だったと気づき、攻撃から一転し回避行動に移るが、
(避け切れるか…!?)
「フォン、影を見て!」
「…そうか…!」
落ちてくる棘は大小の大きさに加え、落ちてくるタイミングが異なるようで…空からの攻撃にどう回避すべきかと頭を回転させていた最中、フィリアの叫びに視線を地面に落とす。
落石と同じだ…昼の郊外にて落ちてくる以上、太陽(異界の太陽が現実世界と同じかは怪しいが…)の光によって影が生まれる。それによって、ある程度は落下地点の予測をすることができる。
おおまか予測をしたことで一番ダメージが少ない地点へとギリギリで辿り着き、すぐさま左腕の盾を構える…その直後、落ちてきた針の雨が地を揺らした!
「「…っ?!」」
襲ってきた衝撃をなんとか逃しながら堪えるも…かなりの質量をもった針が落ちてきたことで、戦場を覆うように土煙が発生した。直撃は避けられたものの、そう何度もすんなりと避けられる範囲攻撃ではない…ならば、それを逆に利用して一気に勝負を決めるべきだ!
盾を固定していた留め具を外し、曲刀を持つ右腕を大きく振りかぶり…そのまま剣を投擲する!
「フィリア!今、投げた方向…ボスがいる方へと走れ!」
「えっ?!…り、了解!」
駆け出しながらフィリアへと指示を出し、俺は右手でメニューを開いていた。発動させるのはもちろん高速換装スキルだ。俺の突然の指示に一瞬戸惑ったフィリアだが、遅れて駆け出したのを視界に捉えながら、装備するのは…
「…!フォン、またあの範囲攻撃をしてくるつもりだよ!どうするの!?」
「回避はいい!俺を信じて、突っ込め!」
「…了解!」
既にボスの尻尾が膨張していたこともあり、理由を告げる時間がなかったが、フィリアはそれ以上の有無は言わず信じてくれた。そして、俺が換装した武器を手に取ったのとボスが棘を再び上空へと放ったのは同時だった。
「その巨大な砲撃は確かに厄介だが…同時に固定砲台と化しているのが弱点だ!」
幻想剣≪曲刀≫のソードスキルによって機動力が大幅に下がっている今、俺やフィリアを奴は捉えることができない。だからこそ、ちょっとした強引な攻めができるというわけで…奴の大ぶりな巨腕の一撃をスライディングで躱す直前にオブジェクト化されたそれを、奴の死角である下腹部へと滑り込むのと同時に僅かな捻りを加えた身体の流れに合わせて振るう!
…ドゴォン!
外甲とは裏腹に、柔らかさのせいでその衝撃を受け流せずに、武器を振るった方向性…上空へとボスの巨体が打ち上げられた。修復した後ということもあり、実戦での性能確認を試すのもオブジェクト化したのは片手棍『フェイタル・アウト』、そして、ボスを打ち上げたのは幻想剣≪片手棍≫超重単発最上位ソードスキル〈アブスターディ・ターミネイター〉…防具が『蒼炎の烈火』だったこともあり、固有とソードスキルそれぞれのダメージアップ能力の恩恵はそこまで上乗せできていないが、今回の目的はボスの巨大を打ち上げることそのものだ。
上空に打ち上げられる棘が散弾とかして落ちてくるまで多少のタイムラグが存在する。そして、拡散する都合上、拡散する棘は一束になっているわけで…
『GYAAAA…!?』
打ち上げられたボスの身体が拡散した棘の雨に襲われ、本来降り注ぐ筈だったそれから、俺たちの盾になった。自分の攻撃を利用され、逆にダメージを与えられたボスが悲鳴を上げるも、
「フィリア、落ちてくるぞ!重撃系のソードスキルを一緒に頼む!」
「了解!」
硬直が解けるのと同時に、フィリアに指示を出し、俺も落下予想地点から距離を取り、ソードスキルの構えを取る。溜めを取る時間ができたことで、硬直が少ないこのスキルの威力を最上位に迫るものへと引き上げることができる。
「「い、けぇぇぇぇぇぇ!!」」
白蒼から紫赤色へと変わった片手棍のライトエフェクトと、赤黒色の短剣のライトエェフクトが同時に輝き、重なった俺たちの咆哮と共に二つの閃光が墜ちてきたボスの腹部へと繰り出される!
幻想剣≪片手棍≫重単発ソードスキル〈ネギルインパクト〉と、短剣3連撃ソードスキル〈シャドウ・ステッチ〉の同時攻撃が、これまでの攻撃によって減少していたボスの二本目HPゲージをゼロへと追い込んだ。そして、起こったのは…
『GYAAAAAAAAAAA!!』
「あっ、また逃げた…!?」
「追うぞ!このまま一気に叩くんだ!」
大ダメージを受けたにも関わらず、初遭遇の時と同じように、ボスはいとも容易く反転していた巨体を立て直したかと思えば、すぐさま大空へと跳躍し森の奥へと消えて行ってしまった。
予想していたとはいえ、二度目の逃走を目にしたフィリアから批難に近い言葉が零れる。それを耳にしつつ、フィリアに回復結晶を投げ、すぐさま追撃を掛けることを告げる。もう少し慎重になるべきところだろうが、勝機を逃すわけもいかず、俺たちは異界の森の最奥へと追撃戦に出たのだった。
「…霧が…出てきたね」
「ああ…紫桃色の霧って、本当にここが異界かと思わせる演出なのか、ある意味ではSAO…アインクラッドらしくない感じだよな。特に毒とかそういうものじゃないみたいなのが幸いか」
『女王の寝所』…奴の住処ともいいただげなネームのエリアへと足を踏み込んだ俺たちを出迎えたのは視界を僅かに遮る奇妙な色の霧だった。二人して索敵スキルを全開にしているため、ある程度の視界は確保できていたが…色的に気持ちのいいものではない確かだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうした、フィリア?なんか落ち着かない感じだけど…」
「う、うん…なんていうか、変な感じがして…なんていうか、視線を感じるというか…気配を感じるというか…
「違和感ってやつか?確かに森の最奥にきたせいか、異界感が増した感じもするけど」
「それもあるかもしれないけど……ごめん、うまく説明できないんだけど、ここに来てから変な感じがしてるんだ…」
マップからして、ここが異界エリアの最奥であることは間違いない…つまりは、この先に逃げたボスがいると見て間違いない…最後のボスエリアということで、フィリアの警戒心も敏感になっているということなのだろうか。
それとも、フィリアのトレジャーハンターとしての経験からくる直感が反応しているのかもしれない…いや、ホロウ・エリアのエリアボスの性質を考えれば、それはきっと当たっているのだろう。
俺も言葉にできない違和感を覚えていたのだ…フィリアのそれとは違う、これまで何度か感じてきた背中を伝う悪寒に近いそれをだ。
「警戒しながら進もう…少なくとも、ボスはこのエリアにいるのは確かだからな」
「…うん」
装備を一番使い慣れている両手剣『エンプレス・ジェイル』へと戻し、最大限の注意を払いつつ、俺たちは深森を進んでいく。そして、辿り着いたのは…
「…いた。ここが、あいつの住処…」
拓けた場所の一番奥…そこにボスは鎮座していた。まるで、俺たちを待ち構えるように、そして、ここで確実に俺たちを仕留めるかのような態度のように見えた。すると、
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「「っ~?!」」
これまでの咆哮とは全く異なる甲高い音…キィィィィーンという高音の叫び声がエリア全体に響き渡り、全く予備動作なしのそれに俺とフィリアは思わず耳を塞いでしまった。そして、それがようやく収まったと思った矢先だった。
バキィ…バキィ…バキィ…バキィ…
「なんの…音…?」
「分からない…けど、どこか聞き覚えがあるような…?」
周囲から遠近問わずに聞こえてきた音にフィリアが身構える。その背中をカバーするように俺も周囲を見るも、その音によく似たものが記憶の断片として引っ掛かった。だが、その心当たりに気づく前に、正体が姿を現した。
「…?光が……っ!?フォン、周りの光の様子が変だよ!」
「…!くそ、そういうことか…!ここは奴の住処でもあり、産卵場でもあったんだ…!」
「産卵……そういうこと?!じゃあ、今見えてる動いてる光って…!?」
フィリアの言葉に、周囲に無数に広がる光の群体が動いているのを認識した。その光が消えたのと同時に鈍い音が大きく響き、そして、影が生まれる…それらが孵化を告げる音だと気づいた俺は思わず悪態を吐き、フィリアも理解したようだった。
『GYAGYAGYA!』
『『『『『……!』』』』』
ボスの…女王の雄たけびに反応するように、木々の影から奴らは姿を現した。女王蠍を小型化し、尻尾を失くした個体…子蠍とも呼ぶべきなのか、それでも、俺たちと同じぐらいのサイズだ。
「ここにきて量産型のおまけ付きかよ…」
「しかもどんどん増えてる…!フォン、このままじゃ…!」
「分かってる!まずは数を減らして、戦況を整える」
このまま見ているだけでは数の暴力に押されてしまう…ボスがまだ行動を起こしていない今のうちにできる限りを数を減らすべきだと、俺たちは抜刀と共に包囲網を形成しつつある子蠍たちへと迫る。
(数は多い上に、リスポーンの…いや、孵化のスピードが思った以上に速い!?俺たち二人の討伐スピードよりも上か…このままだと押し切られる!)
子蠍自体のステータスはそこまで高く…いや、低いと言い切っていい程のものだ。フィリアのステータスによる攻撃で、2、3撃で倒せるのだからそうだろう。だが、1体倒すのに7~9秒はかかるのに、森の奥からどんどんと光が増えてくるのだ。
「フィリア、伏せろ!」
「っ!?」
「…おらぁぁ!」
状況を一旦整えるため、両手剣を振りかぶり、ライトエフェクトを刃に宿らせる。俺の掛け声にすぐさま体勢を伏せたフィリアの気配を感じ、そのまま両手剣単発範囲ソードスキル〈サイクロン〉を放つ…緑光の軌道が、迫っていた十数体の子蠍をポリゴンへと変えた。
これで戦況をなんとか立て直しを図れれば、
「…!」「フォン!?」
戦況の立て直し方を組み立てようとしたが、それをぶっ飛ばす光景が俺とフィリアの視界に入った。息を呑むのと同時にフィリアの叫びが耳に届き、頭をすぐさま切り替える!?
まるで狙っていたかのように…女王蠍が尻尾の棘を俺たちへと向けていたのだ!その威力は先程味わったばかりだ。しかし、さっきとは状況が違い過ぎる…今は子蠍の包囲網があり、回避できるスペースがないのだ!
(間に合うか…?!)
硬直が早く解けることを祈っていると、幻想剣の共通スキルによる『ソードスキル硬直時間の緩和』のお陰もあって、再度両手剣を振りかぶることができた!両手剣にライトエフェクトが再び宿ったのと、巨大棘が射出されたのはほぼ同時だった。
「ぐぅぅ……うおおおおぉぉ!?」
剣を振るい解き放った大技…幻想剣≪両手剣≫超重単発最上位ソードスキル〈エンド・オブ・フォーチュン〉が眼前にまで迫っていた棘を迎え打った。両腕に走るとてつもない衝撃を物語るように、俺のHPも物凄い勢いで減少していく!
手段が瞬時に思いつかずに、咄嗟に取れた手段がこれしかなかったのだ…負けて堪るかと、出せる力を振り絞り、両手剣を振り切り棘の軌道をズラした!
「はぁ…!はぁ…!…っぅぅ…」
軌道をズラした棘が左斜め後方に飛んで行ったことを確認…する余裕はなく、俺は右膝を地に突いた。棘が巨大であったかが故にソードスキルを当てることができたが、質量が大きすぎた故にこちらへの反動も大きかった。
ゲームの仕様により痛みはある程度緩和されているにも関わらず、両腕に痺れが発生している程だ。それに加え、急な対応に全力を費やしたことと、HPはレッド直前のイエローゾーンまでに低下してしまったことによる倦怠感までも発生し、その反動が一気に俺に襲い掛かっていた。
「はああぁぁ!」
すぐに動かなければならないと頭で分かっているが、身体が言うことを聞いてくれない…そんな俺に追撃を掛けようと子蠍が迫ってきていたが、カバーしてくれるようにフィリアが飛び出し、子蠍たちを相手していく。
「ヒール!フォン、動ける!?」
「…な、なんとか…けど、さっきみたいな防ぎ方はもう無理だな…」
「どうする…このままじゃボスにも近づけないよ…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フィリアが全快結晶を使用してくれたお陰で、HPが一気に回復する。まだ反動が残る身体が無理をすれば言うことを聞いてくれる程度には動かせるようになり、両手剣を杖にして立ち上がる。
だが、さっきみたいな強引な防ぎ方はもうできない…少なくとも、腕の痺れが取れるまでは無理だ。
この包囲網を抜け、ボスを倒さねばならないことは確実なのだが…先程の砲台に巻き添えになったにも関わらず、子蠍は次々とポップし続けていた。腕が上手く使えない以上、それ以外をフル活用して、打開策を見出すしかない。
「…っ!(ガリッ!?)フィリア、少し…いや、大分無茶をする。俺を信じてくれるか」
「…!…なんで、今さらなそんなことを聞くの。もちろん…信じるよ!」
「…なら、耳を貸してくれ。いいか…(ボソボソ…)……」
「……本当に大分無茶なことを、なんでそんなにすぐに思いつくのかな…でも、それしかなさそうだね」
鈍い身体を無理矢理覚醒させるために思いっきり下唇を噛み切る…幾分か、痛みによって意識がはっきりしたところで、フィリアに端的に作戦を…いや、無茶ぶりを伝える。
予想していたように、呆れたような笑みを浮かべるフィリアの態度に、俺も乾いた笑みを浮かべつつ、装備を換えるべく右手でメニューを開く!換装の隙を狙わせないと、フィリアが近づく子蠍たちを撃退する最中、『高速換装』スキルによって、装備一式を呼び出し換装する。
赤炎と紫雲の模様が絡み合った和装飾の防具『柴・真剣烈火』に、同時に装備された刀『真猛丸』を鞘から抜刀し、俺は大きく息を吸う。
「いくぞ、フィリア!遅れるなよ!」
「うん!」
刀単発範囲ソードスキル〈浮船〉と短剣2連撃ソードスキル〈ラウンド・アクセル〉の同時連撃により、一定距離の子蠍どもを屠り、硬直が解けた直後、俺とフィリアは持てる全速力で駆け出した!
…フィリアに告げた無茶ぶりはただ一つ…「俺の後に遅れずついてきて、連撃を加えてほしい」と伝えたのだ。無茶ぶりではあるが、作戦はシンプルかつフィリアの戦闘スタイルに合わせた内容だ。
俺が先導を切り、刀で大まかなダメージを与え、フィリアが止めを刺す…一撃で倒し切れない子蠍でも、二人で連続して攻撃すれば速攻で倒すことができる。そして、攻撃と同時に女王蠍へと肉薄するための作戦だった。
だが、この作戦には二つ問題があった…一つは、俺もフィリアも全力での高速移動と攻撃をそう長くは続けられないこと…もって、5分がいいところだろう。そして、もう一つは…先導を切る俺がルートや回避を誤れば、フィリアに危険が及ぶことだ。
(集中しろ…!二手先を…いや、五手先まで、全てのルートを予測しながら、捌き、斬って、駆け抜けろ!?)
敵の動きを捉える視界の、僅かに耳に聞こえてくる周りの音を…自身の五感をこれでもかとフル動員させ、伝わる情報を基に頭をフル回転させる!
僅かな可能性の先にある勝利を、迷いなく信じると言ってくれたフィリアの信頼に応えるために、俺はそれらを掴み取るべく、無駄な思考を放棄し、駆ける!
「「…!!」」
ほんの僅かの隙間を掻い潜るように足を動かし、身体を捻ることで刀を振るう!それに続くように、後ろですれ違い様に短剣の斬撃音が聞こえ、遅れたポリゴンへと変わる音が聞こえるも、それらを確認する暇もなく、駆けていく!
駆けては斬り、それらの繰り返し…だが、一切の言葉を発することはなく、俺たちは確実に少しずつ女王蠍へと迫りつつあった。だが、黙って接近を許してくれるわけがなく、女王蠍の前足二本が変化しようと…
「…っ!(あの動き…一段階目に見せた鉱拳か!?)…すぅぅ、っ!?」
前足が肥大化していくのを目にし、あの拳の攻撃と跳躍を何度もされては厄介だと思い、俺は前方に軽く跳躍し、その最中に素早く納刀した刀をソードスキルによって再び抜刀した!
「しゃあああああああああぁぁぁ!!」
抜刀する直前、瞬間移動したように姿がブレた俺はスキルを後押しするように刀を振るう!幻想剣≪刀≫超高速単発ソードスキル〈瞬葉〉の一撃がボスの腹部を斬り裂いていた!
その一撃により、ボスのHPが二割減るも…攻撃されたことで、タゲを俺へと移したボスはお返しとばかりに、素早く反応してきて、右後ろ脚で背後に移動した俺を弾き飛ばそうと…
「霧霞!!」
技術連携で硬直を無視し、立て続けに幻想剣≪刀≫単発ソードスキル〈霧霞〉を繰り出すことで、振るわれた左後ろ足を逸らす!このソードスキルはどんな体制であっても、高速の一撃を放つことができるため、こういった咄嗟の撃退用の技としてはとても重宝する。
「…!フィリア!?」
「エターナル・サイクロン!!」
タゲが俺へと向き、更に反撃を逸らされたことで明確な隙ができたことで、フリーとなったフィリアが最大威力の技を叩き込む!突風を思わせる短剣最上位の4連撃がクリティカルヒットし、更に女王蠍のHPを大きく減らす!
(ここまで減れば…いける!)
残りHPは半分と少し…ここまで減れば、幻想剣ソードスキルにて削り切ることも不可能ではない。再び刀を鞘に納め、大技を放つチャンスを探る。
『…!?』
本能か、俺が何かをしようと察したようで、女王蠍が尻尾を俺へと向け、棘を放とうとしてきていた。弾丸のごとく、棘が放たれようと…
「い、けぇぇ!?」
幻想剣ソードスキルの機動力を生かして、回避しようかと考えていた最中、再びフリーとなっていたフィリアが何かを女王蠍へと投げつけた!着弾すると同時に、周囲を煙が包み込んだ。
それが煙玉の効果だと気づいたのと同時に、俺は動き出す。モンスターには、攻撃する対象を視線で追うというNPCに近い挙動をとる癖がある。キリト曰く、視線誘導というシステム外スキルで、動きで視線を誘導することで、攻撃の向きを歩いて程度コントロールさせることができるのだ。
そして、視界を塞がれた今、女王蠍の攻撃はもと俺がいた場所へと放たれるしかなかった。煙を打ち払うように放たれた棘弾丸は…射線上にいた子蠍どもを一層するも、既にそこから退避していた俺を捉えることができず…
「フォン…!」
「任せろ!!」「
声だけが聞こえ、俺はその呼びかけに応えながら、既に女王蠍へと肉薄していた。そのまま、動けずにいる女王蠍の上半身を駆けていき…発射の硬直で固まっている尻尾をも土台に駆け上がり、奴の上空を取るように跳び上がった!
「…俊過瞬刀!!」
幻想剣≪刀≫単発最上位ソードスキル〈俊過瞬刀〉…足場のない空中にも関わらず、ソードスキルによる強制的な軌道により、超高速の居合術を繰り出す!女王蠍の硬い装甲の隙間…全ての関節を斬り裂くかのように狙った複数の連撃が、まるで一瞬で斬ったかのようにほぼ同時に女王蠍の全身にダメージエフェクトを発生させることで表していた。
遅れて、ダメージエフェクトによる効果がHPに表示され、女王蠍のHPが一気にゼロへと…
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
急激に減っていたHPがほんの僅か…1割を切ったところで、止まった。その残り火を全て注ぐかのような雄たけびを上げ、女王蠍は尻尾を振り上げていた!硬直で動けない、眼前の俺を叩き潰すつもりなのだろう。
…だが、それは最後にして最善にように見えたが、最期の選択肢としては最も悪手だった。俺だけを見ているなど、愚策にも程があった。
「…後は頼んだぜ……フィリア!!」
「これで…終わりよぉ!!」
わざと技術連携を使わず、隙を見せた俺にタゲを取ってしまったことで、三度彼女の存在をおざなりにしたのがお前の敗因だ…そう言いたげ笑みを浮かべ、俺は彼女の名を呼んだ!
その呼びかけに…いや、いつでもどう動けるように控えていた彼女が…短剣単発ソードスキル〈アーマー・ピアス〉を発動させ、女王蠍に真正面からソードスキルを叩きこうもうと、俺の傍を追い越すようにして飛び出したフィリアが、叫びと共に渾身の一撃を繰り出す!
僅かに残っていたHPを吹き飛ばすには十分過ぎた…眉間に突き刺さられた一撃により、女王蠍の身体が一瞬硬直し、そして、遂に…
『…!?!?』
無言の代わりにその巨体を震わせ、崩れ落ちるように地面へと身を倒れ伏せ、ポリゴンへと変わった。
それに連動するように、子蠍たちも次々とその活動を停止していき…周囲に見えていた卵の光も徐々に消えていった。
【Congratulation!!】
…パン…!
システムメッセージが表示されるのを目にし、乾いた音が戦場に響く。
それがボス撃破を互いに称え合った、笑みを浮かべた俺とフィリアの無言のハイタッチによる音だったのは言うまでもないだろう。
…こうして、異界エリアのボスを撃破し、異界エリアを攻略したことで、俺たちはようやく管理区の地下…中央管理コンソールが置かれているホロウ・エリアの最奥へと向かうための条件を達成したのだった。
オリジナルソードスキル解説
●幻想剣≪槍≫超重単発ソードスキル〈コンセント・レイベット〉
黒色のライトエフェクトを宿し放つ、単発の突進突きソードスキル。
軌道自体は単調だが、その威力がぶっ壊れているほどの特殊能力を持つ。発動時、自身にかかっているバフ(幻想剣固有効果・ソードスキル・バトルスキル・装備品・その他ポーションの効果など、種類を問わない)を全解除し、解除したバフ効果分に比例し技のダメージと加速度が倍化する威力・速度変動制ソードスキル。
威力を自身でコントロールできる半面、相応のデメリットも存在し、スキル硬直時間が5秒と長めであることと、解除したバフ効果が3時間適用されなくなるというものがある(例えば、能力アップポーションを飲み直したとしても、すぐさま効果が解除される形で無効化される)
名前の由来は、集中するの英単語「concentrate」と賭けるの英単語「bet」とポーカーでよく出る単語の「レイズ」を組みわせたもの。
…いや、大変お待たせしました、本当に…
感想とかも色々もらって、ご心配させたかもなのですが、何があったかというと…
もう単純に仕事に忙殺されてました。
ふざんけなぁ!という量の仕事がもう立て込んで、土日も仕事してたレベルでしたので…
まぁ、公開日にSEEDの劇場版見に行ったりしてたのもあったんですけど…(劇場で心の中で叫んでましたが…)
…当面はリハビリも兼ねて、またちょっとずつ投稿できたらいいなぁと思ってます。(外伝もごじょじょの方もそろそろ書かないとな…)
さてと、本題です。
Q.異界エリアはもうおしまい?
A.おしまいです。当初から異界エリアは1話で終わる予定でした。だからこその、出オチネタでした。
Q.異界エリアのボス、弱すぎない?
A.弱くはありません。ただ、これまでのボスと条件が違い過ぎたのが原因です。
幻想剣スキル全開放+フォンとフィリアの信頼関係が完全なものになってしまったので…対峙した相手が悪かったとしか(あと、大空洞エリアのボスがえげつなさ過ぎたのが原因です)
ということで、速攻で異界エリア編が終わったところで…ようやくお話はラストエピソードへと入っていきます。多分長くても、あと4,5話で前半戦「ホロウ・レトロスペクト」も終わりかと(昨年末までに終わらせたいとか言ってたくせに…)
フォンとフィリアの冒険譚と恋物語の一旦の結末ももうすぐ底に迫っているわけで…どうなることやら。
その前に、外伝の更新をすると思いますが…ご期待頂ければと思います。
それでは!
キャラエピ第2段!どのキャラから見たいですか?(時系列の問題で多少前後することがあります)
-
リーファ
-
シノン
-
リズ
-
シリカ
-
ミト
-
ユイ