書きたいこと書いてたり、キリのいいところまで書いていたら、滅茶苦茶長くなりました。
対フェイカー戦の始まりです。そして、衝撃のラストは…
それでは、どうぞ!
「スイッチ!」
「おう!」
轟音と共に壁を揺らした亀型のモンスター…それを最低限のコミュニケーションで連携し、相手取るフィリアの声に応える形で、俺は片手棍にライトエフェクトを宿らせた。
戦闘を開始して10分も経っていなかったが、こいつのやっかいなところは常時甲羅に手足と頭を隠し、回転スピンによる一方的な攻撃を仕掛けてくるというところ…だったのだが、完全に復調したフィリアとの連携の前には、そこまで苦戦する相手ではなかった。
イソギンチャクもどきモンスターとの戦闘で、耐久値があまり宜しい状態ではない両手剣と片手剣の代わりに、片手棍にて甲羅スピンを打ち返す要領で壁へと亀型モンスターを叩きつけ、数秒スタンすると同時に露出した頭と手足目掛けて、二人で一斉攻撃を喰らわせる。
俺の幻想剣の固有効果と、フィリアの『リノベイド・ベリッタ』の威力の前では、4回その行為を繰り返すだけで、亀型モンスターの体力を削り切るには十分すぎた。
そんなわけで…短剣最上位4連撃〈エターナル・サイクロン〉に続き、片手棍最上位8連撃〈ヴァリアブル・ブロウ〉の連撃により、HPがゼロになった亀の身体がポリゴンへと変わる。
「よっと…お疲れ、フィリア」
「うん、お疲れ」
服や防具が乾き切った後、セーフエリアの先へと進んだ俺たちを待っていたのは、さっきの亀型モンスターを含めた3連戦のボス戦だった。
1戦目が大型蝙蝠、2戦目が大型蜘蛛、そして、3戦目が先程の亀というわけだ。音波攻撃をしてくるわ、糸の粘着弾でこっちの移動を阻害してくるなど、少しばかり厄介なところもあったが、なんとか撃破し終えたわけだ。
片手棍を左腰のホルダーへとしまい、一息を吐いたところで、労いを込めてフィリアとハイタッチをする。
「…流石だね、フォン。ネームドくらいじゃ、やっぱりそう苦戦はしないね」
「まぁ、あれくらいなら…と言いたいところだけど、フィリアが俺に合わせて動いてくれたからな。やりやすかったっていうのが大きいよ」
「エヘヘ。といっても、幻想剣なしであれな感じのフォンに言われてもね」
「いや、なんか基準をそれにされると色々と困るんだが…ホロウ・エリア以外だと、SAOはほとんど幻想剣なしで攻略してたし、ALOでも滅多に使ってないからな」
3体とも厄介ではあったが、そこまで強くはなかったのもあり、幻想剣ソードスキルは使用せずの戦いだったため、フィリアから苦笑交じりの指摘が飛んできたが、待ったを掛けた。
幻想剣スキルを使ってこそ本気と見られても仕方ないかもしれないが、そもそも幻想剣スキルは能力も威力も反則級だけど…それが俺の能力なのかと言われると、甚だ怪しいところだし、それを上手く使っているだけの俺が強いかと言われるとな…キリトやユウキみたいな反射神経はないし、ゲーマーとしてのスキルは少し劣ってるのではというちょっとした敗北感を覚えてるんだよな…あー、こういうことを口に出して言うから、シノンに嫌味を言われるんだろうなぁ…
なんてことを苦笑いしながら、思っている俺だった。
「さてと…この先には何が待ってるのやら」
「4体目のネームドか、それとも、ようやく別のエリアか…ゴールだと嬉しいんだけどね」
「索敵は頼んだ。ともかく、何があってもいいように警戒して進もう」
「うん!」
そんな思考は一旦置いておいて、この先に何が待っているのか…フィリアの言う通り、そろそろゴールに辿り着きたいところだ。他の面子ももう他のデイリーダンジョンを終えている頃ではないかと思いつつ、俺たちは先へと進むのだった。
「…?…何か聞こえない?」
「…何だ、この音?行ってみよう」
予想はいい方向に外れたのか、4戦目はなく、洞窟を進んでいくと、フィリアが何かに気付いた。俺も意識を集中させると、奥から何かの音が聞こえていた。だが、それはどっかで聞いたような音だが、ALOでは聞き覚えのない音だった。
その音の正体を確かめるべく、俺たちは先を進む足を早めた。
「…あっ、あいつ!ここにいたんだ!」
進んだ先…光が入り込んでくる場所に向かい、開けた空間に出ると…中央に誰かがいた。それがフェイカーだと分かり、フィリアが叫ぶ。
フェイカーの周りには数台のコンソールが並んでおり、その中心にいるフェイカーの前には、奴が持っていた大剣が地面に突き刺さっていた。突き刺さった地面にはいくつもの幾何学模様がコンソールから大剣に走っており、音の正体がデジタルチックな機械音であることで、先程感じた正体であることを悟った。
フィリアの声に、背を向けていたフェイカーも俺たちに気付いたようで…
『ほう…先日の道案内をさせたガキに、君か。まさかの邪魔者…いや、これは必然か。もっとも、君との遭遇はもっと先のことを想定していたのだけどね。まぁ、いい…予定が早まったとすればいいさ』
「…フォン、フェイカーと知り合いだったの?」
「そんなわけないだろう…って言いたいけど、もしかしたらな。あいつの顔は見えなくて分からないけど、あいつは俺のことを知ってるという可能性はあるからな」
振り返ったフェイカーは俺たちの登場に驚きながらも、どこか余裕そうに笑みを浮かべて、そんな言葉を言い放った。
言葉のニュアンス的に、どうやらフェイカーは俺のことを知っているらしい。フィリアに心当たりがあるかと問われるが、俺は否定できずに言葉を濁すことになった。かつてGGOで起こった死銃事件のことが頭を過り、奴もSAO生還者だとすれば、俺のことを知っている可能性があるのだ。
『あのキリトっていうガキに僕のことを見られた時には、どうしたものかと思ったが…渡り人である君をこうやって誘き出せたことは幸運だったと言えるんだろうね。君が持つあのデータをどうやって手に入れようかと思っていたからね』
「渡り人…?何を言ってる。それにあのデータだと…まさか、幻想剣スキルのことか?」
『そんなたかがゲームにしか使えない玩具じゃないさ…まぁ、今、ここで持っていないデータのことを言ってもしょうがないか。そのデータをこのVRワールドに持ってこさせるために、こんな面倒なことをやってるんだからね』
渡り人に、奴が求めているデータ…油断、というよりも余裕のせいか、それとも、目当てらしい俺の登場にテンションが高まったのか、そんな訳の分からないことを言いまくるフェイカーの言葉に、俺は何か嫌な感じを覚えていた。フィリアも下手なことを言えずに事の成り行きを見ていたが、あまりいい表情はしていなかった。
「何を企んでいるかしらないが、ホロウ・エリア関連のデータをALOに持ち込もうなんて凶行、見過ごせるわけがない。その面倒な企みってやつを、止めてもらおうか」
『止めてくださいと言って、止める馬鹿はいないだろう?それに、子供が大人のやることにいちいち物言いをするもんじゃないさ』
「その大人が間違ったことをしてたら、子供とどこが違うんだ?大の大人だっていうのなら、そのぐらい分かりなよ」
『それは凡才の者だった場合の話…天才であるこの僕がすることに間違いなどある筈がないだろう!』
ともかく、フェイカーの目的ははっきりとはせずとも、凶行であることだけは間違いないと判断し、俺は武器を片手棍から両手剣『エンプレス・ジェイル』へと換装し、抜刀する。その動きに合わせ、フィリアも短剣を抜き、俺たちが戦ってでも止めるつもりだと悟ったらしく、フェイカーも地面に突き刺さっていた大剣を抜いた。
(あの剣…昨日は突然のことでよく見れなかったが、ユイちゃんに言っていたように、あの剣は何かがヤバい。この感じは…)
「フォン、あの剣…あの時の…」
「ああ…ホロウキリトが持っていた宝剣と似た感じだ。ヤバさはこっちの方が増しだけどな」
二色の濃淡が異なる紫の剣…毒々しいというよりも、凶悪な印象を感じさせるには十分すぎる程の何かを感じ、鍛冶やとして、そして、剣士としての直感が危機を知らせていた。フィリアも同じものを感じていたらしく、冷や汗が伝うのが見えた。
『さぁ、デモンストレーションだぁ!君を打ち倒して、僕の力を思い知らせてあげよう!』
「上等だ!やれるもんなら、やってみやがれ!」
幻想剣によく似たスキルに加え、あの凶悪な武器が奴の自信の源なのだろうか。自信満々な豪語に迎え撃つように、俺も気合を入れ…た瞬間だった。
『ヘブンズ・レリーフ』
「っ…!フォール・ルイン!」
まさかの先手必勝…初っ端から幻想剣モドキスキルのソードスキルをぶっ放してくるという予想外の攻撃に、俺も慌てて反撃の幻想剣ソードスキルを放つ!
非常識というか、戦闘のセオリーというやつをガン無視の戦法にツッコミたい気持ちを抑えつつ、両腕に走る衝撃を堪えながら、なんとか剣に力を込めるが…
…ガキィン!?
「っ…!(押し負けた!?)」「フォン…?!」
ほぼ同じ軌道で放たれた二つのソードスキル…薄蒼と黄白色のライトエフェクトがぶつかり合っていたのだが、俺が一方的に吹っ飛ばされるという結果に驚愕することになった。
威力は奴の方が上…武器の差か、まともに撃ち合うのは危険…そう思いつつも、状況は待ってくれず…次に奴が見せた行動に、俺は目を丸くした。
『ダウン・リバース』
(振り被りからのソードスキル…!クアンタム・カウントと同じなら、8連撃か!?)
紫色のライトエフェクトが、背中にまで振り被った両手剣の刃から零れ落ちたのが見え、俺も迎撃を図ろうと…
「舞え、狂魔の嵐よ!!」
「っ…?!(飛ぶ斬撃…!?違う、これは…?!)」
紫色のライトエフェクトを刃が宿していたのは一発目だけ…轟音というよりも、わざとらしい効果音のような風の音が響いた瞬間、俺の身体に斬撃が飛んできていた。
幻想剣≪細剣≫遠距離ソードスキル〈ランバルト・ノイン〉のような飛ぶ刺突の斬撃版、そこに闇属性魔法が加わるという…幻想剣≪弓≫魔法兼用連射ソードスキル〈ヘクセレイ・アンフィニ〉のような魔法付与という馬鹿げたソードスキルに驚きの声も出せず、俺はギリギリで盾として構えた両手剣で受け止めた。
魔法は防御したところで、防御魔法による結解で塞がなければ貫通ダメージを受ける。初撃の闇の斬撃に続き、火・岩・水・雷・光・風・無の残り7連撃が追撃として俺を襲い、両手剣が悲鳴を上げるのと共に、少なくないダメージが俺のHPを削っていく!
(くそっ…魔法爆発で視界が…?!)
「フォン?!」
『地へと沈め、グラビティ・ネット』
「っ…がぁ?!」
何色もの煙によって視界が完全に塞がれてしまい、下手に動くことができないでいた。そんな中、フィリアの声で警戒度を上げるも、またしても奴は予想外の技を放ってきた。
ソードスキルの名を呟いたと思った矢先、俺の身体はいきなり地面へと叩きつけられた。いきなりのことに、受け身を取ることもできず、全身に強い衝撃が走り…立ち上がろうとしても、身体を動かすことができない…いや、何かに抑えつけられているようだ。
『重力魔法を自在に操るソードスキルの加減はどうだい?この世界じゃ、未実装に終わった魔法を味わう機会はそうないだろう?』
「っ…?!(じゅ、重力魔法…!そんなもん聞いたことも…いや、確かどっかで…)」
踏ん張ろうとする力とは逆方向…まさしく、自分の体重が何倍にも重くなったように感じ、背中に物凄い圧力によって呼吸が制限される。今のALOにはある筈がない種類の魔法を耳にした時、何かが頭を過った…だが、そんな猶予は今はなく…
「フォン!?」
『っ…そうか、君もいたな。ならば…バドラック・パラドックス』
俺の危機に、気配を消していたフィリアが背中から奴に斬り掛かる!だが、そもそもフィリアの存在など今の今まで忘れていたかのように…なんと、奴は硬直無しでソードスキルを連続発動させたのだ!
剣技連携ではない…かつて、俺がSAOでとっておきとして使っていた技術連携そのもの…二つの武器を使っての擬似連続発動ではなく、一つの武器による硬直なしでの連続ソードスキルの発動に、俺とフィリアの目が丸くなり…
「っ…きゃああああぁぁ?!」
幻想剣≪両手剣≫重3連撃ソードスキル〈クラッシュ・エンカウンター〉に似た挙動…だが、全く異なる剣技が黒いライトエフェクトと共にフィリアを刻む!
それは黒いライトエフェクトの色のように…フィリアが放った短剣2連撃ソードスキル〈クロス・エッジ〉を無効化…いや、短剣のライトエフェクトを吸収したかのように見え、そのまま返す形の二連撃目の回転斬りでフィリアを吹っ飛ばしたのだ。
次々から次へと…本当に幻想剣のように、見たこともない、そして、異常な威力と効果を放ってくる奴の姿は、まるでホロウの俺を見ているような気がした。
そんな幻視を振り払うように…
「はああああああああぁぁ!!」
『っ…!?おっと』
フィリアを迎撃したために、重力を操るソードスキルが解け、解放された俺は最大スピードで奴に肉薄し、両手剣を振るう!俺の一撃に気付いた奴も大剣で防御の姿勢を取るも、油断していたらしく、俺の一撃を受けた勢いで後ろへと後退った。
『遊びはここまで…最強の一撃で屠ってあげよう!!』
「っ…(あの構え!?エンド・オブ・フォーチュンと一緒…!ってことは、キリトが言ってたあの技か!?だったら…!)」
俺がまだ諦めていないと悟ったらしく、奴は嘲笑うかのように笑みを浮かべ…そして、大剣を大きく振りかぶった。その構えが、俺がよく知るものであったことに、すぐさま反撃の一撃を放つ体勢に入る。
振り被った両手剣にライトエフェクトと併せてオーラが迸り、それに対峙するかのように、奴の大剣からも、黒炎のようなオーラが迸るのと同時に溶けるように地に落ちていた。
そして、双方のオーラが最大限にまで高まった時…
「エンド・オブ・フォーチュン!!」
『ビギン・オブ・ディストピア!!』
三つ又に分かれた一撃と、全てを覆い焼き尽くそうとする一撃がぶつかった!
斥力により周囲に突風が起こる中、ぶつかり合った剣戟が拮抗したのは、ほんの一瞬だけだった。
(ヤバい、押し負ける…!?)
ライトエフェクトとオーラ以外は全く同じ挙動で放たれた二つのソードスキル…しかし、互角に撃ち合えるのでは、と予想していた俺の期待を裏切り、どんどんとエンド・オブ・フォーチュンが押し込まれていく。
一瞬でも力を緩めたり、気を抜けば、あっという間に奴のソードスキルに飲み込まれることは確実…だが、このままではジリジリと押されていき、同じ結末を辿ることになるだろう。なんとか打開策をと頭を巡らせるも…ソードスキル発動中はどうすることもできない。
今はこのままなんとか、この一撃を耐えることだけに集中しようと…
…ズリ!
(っ、しまっ…?!)
だが、その考えとは裏腹に、衝撃と撃ち合いの負荷で一瞬足の力が抜けた。マズいと思った時には、体勢が大きく崩れようと…
「っ…!?」
「えっ…フィリア?!」
「前だけ見て!?絶対に支えてみせるから!」
だが、崩れそうになった俺の身体を何かが後ろから支えてくれ、俺の身体が吹っ飛ぶことはなくなった。何がと後ろ目に視線を送ると…俺の背中をフィリアが両手で押すような形で支えてくれていた。
危ないとも言う余裕もなく、フィリアの言葉の通り、俺は再びぶつかり合う剣戟へと意識を集中させ直す。後ろにフィリアがいる以上、押し負けるわけにはいかない!押し勝てないのであれば、ただ耐え切ることだけに全神経を集中させ、思考を傾倒させる!
反動で減っていくHPバーのことも、身体にかかる負担のことも完全に無視し、ただただ考えるのは、耐え忍ばせようと剣を操る両腕を制御する。
何秒、何十秒経ったかも数えられない程…いつ終わるのかと思っていると、
…バキン?!
「ぐああぁぁ?!」「きゃああぁ!?」
エンド・オブ・フォーチュンは完全に押し負け、その反動で、耐久値が限界を迎えた両手剣が真っ二つに折れた。
幸いなことに直撃することはなかったが、余波によって俺とフィリアは後ろへと大きく吹っ飛ばされることになった。
「くぅ…くそ、反則だろう。幻想剣以上の威力を持つソードスキルとか」
「…本当に。悪夢って、こういうのを言うのかな」
直撃しなかったのもあり、俺がレッド寸前、フィリアは半分を切った程度にまでHPが残った。だが、この短時間の戦闘で、嫌という程に奴の持つ幻想剣スキルもどきの恐ろしさを味わったせいで、俺とフィリアの口から自然と悪態が出ていた。
だが、俺たちの反応など全く意に介さないフェイカーは、
『おやおや…まさかさっきの一撃を防ぐとはね。まぁ、ちょっとは抵抗してくれた方が潰しがいがあるってものかな。でも、流石は僕がプログラミングした力…君のそのクズスキルを昇華させた技の威力はどうだい?』
「プログラミング…その幻想剣もどきはお前が作ったっていうのか!?」
『そのとおぉりぃ!!SAOサーバーのデータをただ移そうとしているだけかと思ったのかい!僕は天才…新しくスキルを作ることなど片手でできることなのさぁ!あらゆるソードスキル、そして、ユニークスキルを超越し、それらの優れた部分だけを凝縮させた力!幻想の剣を打ち払い、真の英雄こそが手にすることを許された破壊の剣…この『神裁剣』をね!』
「神裁…剣…」
『「神の裁きを具現化した剣」…シンプルイズベストだろう?このスキルの前じゃ、全てのソードスキルが意味を為さないのさ!それがユニークスキルであっても…あの神聖剣ですら、このスキルの前で無意味!ヒャハハハハハ!!そうさ、僕は遂にあの男を超えたんだぁ!?』
(っ…!あらゆるソードスキルが意味をなさない…まさか、奴の放つソードスキルは、対ソードスキル特攻能力があるのか!?だから、フォール・ルインやエンド・オブ・フォーチュンが押し負けたのか…!)
俺たちの疑問に、余裕もあってかテンションがこれでもかと上がり切った奴は、聞いてもないことをベラベラと語りだし、光悦に浸っていた。
そのお陰で状況を整理できる時間が生まれた。奴が有頂天になっている間に、奴の言う神裁剣の力とやらを考察するも、その厄介な能力を理解するのと同時に、嫌な汗が頬を伝った。
各スキルやソードスキルが無効化されるということはないが、撃ち合えば最後…奴のソードスキルは確実に押し切られることになる。さらに、技術連携までも無制限で使えるというのなら…この戦いでソードスキルはほぼ使用不可能に近いということになる。
おまけに、ここに来るまでの戦闘が響き、残っている武器にあまり余裕がない。あとは耐久値が心配な片手剣と片手棍、そして、もう一つだけ残っているが…奴の力を考慮すると、どうにかできるかと言われると、断言はできない状態だった。
『そうだ、僕は奴を超えたんだ!今度こそ!?そして、この僕こそが、あのデータを使うにふさわしい頭脳を持ち、資格を有するのさぁ!この世界は、そんな僕のための実験場!どうこうしようと、僕の勝手なのさぁ!!』
「っ…それは「それは違うよ!」…っ?!」
なんとか打開策はないかと思考を巡らせる中、奴のそんな言葉が聞こえた。思わず否定しようとしたが、なんと俺よりも先にその言葉を言ったのはフィリアだった。
『あぁん…?』
「この世界はあんたのものなんかじゃない!誰のものでもないよ!ここは、みんなが愉しくゲームをする世界で、SAOでもなければ、あなたが勝手に何かをしていい場所じゃない!
そんなことも分からないなんて…あんた、ただの子供じゃない!」
『こ、子供…!?この僕が…子供だとぉ!?』
「そうよ!何が天才よ!何が神裁剣よ!あなたがやっていることを聞いてれば、他の人の成果を、ただ自分のものだって言ってるだけじゃない!ユニークスキルを混ぜ合わせて、ただ強力なスキルを作って、その力に溺れてはしゃいでる…ただのガキよ!!」
『っ~~~…!?こ、このガキィ…創造主である僕に、馬鹿げたことを言いやがって!?』
「何度でも言ってやるわよ!?あんたはただのガキ…ただ力を持っただけの普通の人、ただの悪もんよ!だから、私たちが止めてやるわ…だよね、フォン!」
「…ったく、俺の言いたいことを全部言いやがって。まぁ、そうだな」
精神耐性があまりにも低いのか、フィリアの煽りと指摘に、フェイカーは冷静さを失くし、癇癪を起したように怒りの感情をむき出しにしていた。
舌戦にて見事にやり返したフィリアの問い掛けに、俺はやれやれと思いつつ、メニューから高速換装スキルを発動させながら応える。
装備するは今持っている武器の中で唯一無事な短剣『メップ・ザンバー』へと武器を換装。そして、防具は…初めて装備する俺の新しい鎧だ。
試作01(赤鱗甲)・04と並ぶ、新防具の一つ…試作03での運用を経て、ようやく最終調整が完了した、高機動戦闘を目的とした軽装装備『颯 結縁』…白色のアンダーアーマーの上に、胸当てや肩といった重要箇所をカバーするように、流れる風を模したかのような緑と薄黄緑色の軽装甲が特徴の防具と薄水色のマフラーが換装と共に風で揺れる。
『止める…?フッハ、さっき僕の力は散々見せてやっただろう?それなのに、まだ勝てるつもりでいるとは…これだから、馬鹿の相手は嫌なんだよ』
「知らないの?少なくとも、隣にいるフォンは滅茶苦茶諦めが悪いのよ」
「それと、今から教えてやるよ…俺とフィリアの二人なら、お前を倒せるってことを。俺たち二人なら、負けるわけがないってな。だから…!」
「お前を止める、絶対に!」
「あんたを止める、絶対に!」
…その時だった。あの感覚が頭を走った。
「…ハハッ、そういえば、発動条件は揃っていたか」
狙って発動するのが難しいのもあり、これまで実戦で発動させることができたのは、ユウキとカナデだけだったのもあり、その不思議な感覚に思わず笑みを浮かべながら、俺は思わずそんなことを呟いていた。
システム外スキル『レゾナンス』…俺とフィリアの思考が完全に一致したことで、発動条件が全て揃ったのだろう。だから、
(な、なに、この感覚…なんかフォンの声が勝手に頭の中に響いてる?ちょっと気持ち悪い…)
(あー、まぁ、初めてレゾナンス状態になると、そうだよな)
(…!?フォン、何か知ってるの!?これも幻想剣の効果!?)
(いや、ちょっと違うというか…システム外スキルというか…分かりやすく言うと、思考共有の上に、視界に入れなくても互いの位置が分かる共感スキルみたいな感じ?)
(…ツッコミ待ちなの?なんで、そういうのがあるって言ってくれないのよ!?)
(いや、フィリアと再会したの昨日だし、説明する時間というか機会がなかったというか…)
(それはそうだけど…うん、もう諦めた…フォンってことで諦めた)
(おい!?それはどういう意味だぁ!)
言葉を発さずに、頭を抱えて困惑するフィリアの姿が予想通りに目に入った。そんな彼女の反応にしょうがないと思いつつ、レゾナンスに関する最低限の説明をした。すると、返ってきたのは、また予想通りのツッコミで…そんなどこかお約束なやりとりをし終えたところで、
(まぁ、詳しいことはあとで聞くとして…)
「ああ、行くぞ、フィリア!」
「了解!」
『諦めが悪い愚者を導くのも天才の仕事か…本気で潰してあげよう!』
短剣を抜くのと同時に、最低限の言葉で意思疎通を図ったフィリアと共に、第2ラウンドとばかりに戦闘体勢を取る。フェイカーの方もやる気とばかりに大剣を構えた。
そして、俺たちは自分たちが出せる最大スピードで駆け出した!
(フォン、フェイカーのソードスキルは確かに無敵だけど、弱点は…)
(ああ、分かってる!遅れるなよ、フィリア!)
(もちろん!フォンの方こそ、とちらないでよ!)
フェイカーを挟み込みように、それぞれ斜めに駆け出しながら、レゾナンスの効果で言葉を交わさずに頭の中で会話をする。フィリアの方も神裁剣の抜け穴に気付いたようだ。
意識を攻撃だけに集中するべく、フォローをフィリアに頼み、俺は更に駆ける足へと力を込める。
『ちょこまかと…ダウン・リバース!』
「(飛ぶ斬撃…けど、)悪いが、それはさっき見た!」
魔法属性が乗った飛ぶ斬撃…それだけ聞けば、確かに脅威だろう。だが、ようは〈ランバルト・ノイン〉と〈ヘクセレイ・アンフィニ〉の合体版ソードスキルだ。そして、あくまで飛ぶ斬撃ということで、そこまでスピード自体は速くないのだ。キリトの言葉を少し借りるのなら…対物ライフル弾よりも、そして、普通の魔法よりは遅いのだ。
「っ…!」
飛んでくる斬撃の軌道を…奴が振るう大剣の軌道から先読みし、最小限の動きで回避し、奴に接近していく。
(そして、こいつの剣筋は読みやすい…!)
飛ぶ斬撃といっても、ランバルト・ノインと違い、奴は大剣を振るうことで発動させている。そして、大剣の弱点として、どうしても振りが大振りになってしまう関係上、動きによって軌道が読まれやすいというものがある。
何よりも…さっきは神裁剣の能力により意表を突かれ、気づくのが遅れたが…フェイカー自身のプレイヤースキルが高くないのだ。神裁剣スキルが強力すぎるためにカバーできているが、悪い言い方をすれば、力のままに振るっているだけなのだ。
そうと分かれば、やりようはある。動きにフェイントを交えてしまえば、簡単に奴は引っ掛かってくれる。おかげで、回避が更にしやすくなった。
「っ…はああぁ!!」
『ぐぅ…!?うっとしい、僕に近づくな!』
ソードスキルの硬直を無視できるとはいえ、ソードスキルを完全に放ち終えるまでは、拘束されることに変わりはない。
そして、俺が装備した新防具『颯 結縁』は空中での飛行や洞窟通路の狭い空間といった三次元的な戦闘における高速戦を目的とした速度重視の装備だ。防具の性質上、重量装備の運用に適さないが、総合的な機動力は随一、小回りも恐ろしい程に利く…回避しながらの接近は得意なのだ。
飛ぶ斬撃7連撃を躱し切り、奴が8連撃目を放ち終える直前、間合いに入った俺は奴の身体に短剣の一撃を叩き込む!
ダメージが入ったことで奴から苦悶の声が漏れ、俺を迎撃しようと…やはり、硬直無しで、大ぶりの一撃…ヘブンズ・レリーフを放ってきた。それを躱し、返す形で…
『なぁ…がぁ、ごおぇ?!』
その場ですぐさましゃがみ、ブリッジをするかの体勢で手と足の上下を入れ替える。そして、入れ替えた右足で蹴り上げを放つと、完全に気配を消していたフィリアがそれに併せ、背後から空中踵落としを繰り出し、俺の蹴りと同時に奴の頭を挟み蹴り込んだ!
俺の咄嗟の一撃だけでなく、フィリアの踵落としまでも予想外だったらしく、間抜けな声が奴から漏れる。奴が怯んだ隙に、俺たちも一旦距離を取るべく、離れる。
『よ、よくも…よくもこの僕を足蹴にしたなぁ!?地に落ちろぉ!?』
「ぐぅ?!」
ダメージとしてはそこまで大きくないが…方法が癪に障ったらしい。怒りを表情に表したまま、奴は俺に向けて両手剣を向け、そのまま振り下ろした!すると、さっきと同じように、俺の身体がまたしても重くなる。
重力を操るグラビティ・ネットというソードスキルだろう。さっきと比べて、地に埋まるほどではないが、それでも耐えるのがやっとで移動することができない。
『動けないだろう!さっきのお返しをしてやるぅ!』
「そうはさせない!」
倍返しにしてやると言わんばかりに、フェイカーが再度ダウン・リバースを発動させようと、大剣を構える。それを見たフィリアは、すぐさま魔法を詠唱し出し、完了と同時に俺とフィリアを黒煙が包み込んだ!
『っ…目くらましか。子供だましを…!煙から飛び出すところを狙えばいいだけだぁ!そこだぁ!』
黒煙が晴れるのなど待っていられるかと、適当にダウン・リバースによる飛ぶ斬撃を乱れ撃ちしてくるフェイカー…だが、突如として黒煙から飛び出してきた何かへと狙いを定めようと…
『っ…なぁ、あれは……』
突如として飛び出したのは空中を舞い…その正体を目にしたフェイカーの驚きの声が聞こえた。当然だ…だって、それは俺がさっき投げた短剣だったのだから。
奴が放り投げた短剣に気を取られた隙を使い、重力から解放された俺は真正面から奴に突っ込もうと…
『くそっ、グラビティ・ネット!!』
「ううぅ…!」
だが、流石にそんな単純な手は通じず、硬直なしで二度目のグラビティ・ネットが俺を捉え、再び俺は動けなくなってしまった。
『子供だましを…そんなので、僕の目を欺けると思ったのかい?』
「…ああ、もちろん。忠告してやるよ、短剣はどこに飛んだでしょう?」
『ふん、そういって僕の「もらったぁ!!」なぁ、ぐぎゃぁ!?』
重力で俺が動けないことを確認し、今度は接近して斬ろうという魂胆なのだろう。重力を操るソードスキルを発動させたまま、俺に近づくフェイカー…だが、完全に俺に注目している状況で、俺は敢えて忠告の言葉を告げる。
それを素直に聞かずにいたフェイカーの背後に、二つの斬撃がクリティカルヒットした!それは、幻影魔法が解けたフィリアの手に握られた二つの短剣によるものだった。
種は簡単…黒煙による幻惑魔法とは別に、フィリアは別種の幻惑魔法で姿を消していたのだ。隠蔽スキルに近い、いわゆるハイディング系の魔法で、影妖精が得意とする魔法だ。攻撃すると解けてしまうのだが、こっそり移動する際には重宝する。
つまり、さっきのは二段構えの目くらましだったのだ。投げた短剣が本命…こっそり奴の背後へと移動していたフィリアへのパスであり、俺の方が囮だったのだ。
『お、女ぁ?!よくも僕に傷を!』
「こう近いと、お得意のソードスキルはほとんど使えないでしょ!?」
『っ!?こ、こいつ…!』
そして、神裁剣の弱点…というよりも、奴が持っている武器が両手剣カテゴリーに属する以上、ソードスキルを発動しようとすると、どうしても適切な間合い管理が重要になってくるのだ。
そして、接近されれば、リーチ的には短剣の優位性が一気に高まる。そこに、AGI値が高いフィリアによる短剣二刀流の攻撃は辛いものだろう。だから、奴が次に取る行動は、
『(ここは一旦距離を取って、大技で…!)ちぃ…!』
「逃がさない!」
『あぶ…剣を投げるなんて、なんて野蛮なぁ!?』
「投擲兼パスだよ…隙あり!」
『ぐああぁ!?』
フィリアの連撃に耐え切れず、慌てて距離を取ろうと後ろにバックステップしたフェイカー。そこに追撃と言わんばかりに、フィリアが俺の短剣を投擲した。顔を狙ったそれを、咄嗟に首を逸らして躱した。
だが、それもまた引っ掛けであり、既に奴が逃げる方向を予想し先回りしていた俺が、短剣をキャッチするのと同時に、空中蹴りで奴の側頭部を蹴っ飛ばす!
『に、二度も蹴ったなぁ!?この愚民がぁ!頭がおかしくなったら、どうするんだぁ!?』
「こんな凶行をしておいて、よく言えたな…このまま一気に決めるぞ!」
「終わらせよう、フォン!」
レゾナンス様様である…ノールック・タイムレスなしで意思疎通が取れてしまうこのシステム外スキルはやはり便利すぎる。それに、フィリアのサポートのお陰でとても動きやすい。
ユウキとの連携も同じ感じだが、ユウキとの場合は双方が同時に攻撃したり、俺がサポートに回ることが多い。一方で、フィリアとの連携は、俺が攻めと立案の主軸になるため、何をしたいかを伝え、それをフィリアが支えてくれると信頼できるからこそ、俺は攻めることだけに思考を集中させることができ、レゾナンスはそれを後押ししてくれる。
そんなことを思っていると、蹴っ飛ばされたことで、地を滑っていたフェイカーが泣きそうな感情が入り混じったようにキレていた。
…なんか、フィリアの言う通りガキっぽく見えてきたその姿に、どこか呆れつつ、そろそろ勝負を決めるべきだと、レゾナンスによってフィリアに作戦を伝える。
ソードスキルが原則使用できない関係で、通常攻撃に限定されているため、直撃はしてもそこまで大きなダメージが与えられていない。次で決めるべきだろう。
「…ゴー!」
「…!」
俺の合図で、フィリアと共に駆け出す!俺の背後に続く形でフィリアが駆ける…奴の視界からフィリアを隠すように接近していくのに対し、フェイカーも勝負を決めるべく、大技を放とうとしていた。
『真正面…二人とも、吹き飛ばてやるぅぅ!?』
大剣を振り被り、俺たちを纏めて斬り飛ばすつもりなのだろう。それを見た俺は、
「フィリア!」
「うん、よろしく!」
「っ…いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
すぐさま振り返り、両手を組んで足場を作る。その足場目掛けて跳躍したフィリアを、渾身の力で上空へと飛ばす!
上空と地上…二手に分かれた俺たちに、フェイカーの注意が散漫になる。そこに突け込むべく、俺が一気に奴へと肉薄する!
「こっちだ!」
『っ…!そんなに死に急ぎたいのなら、望み通りにしてあげるよ!暗黒の郷に飲み込まれるといい!ビギン・オブ・ディストピア!!』
近づく俺を仕留めようと、溜まり切ったオーラを解き放つべく、大剣が振るわれた。だが、
「それを待っていたんだ!?」
俺も短剣のライトエフェクトを解放するべく、ソードスキルを発動させる!その瞬間、幻想剣≪短剣≫の共通効果である分身により、俺の身体が二つに分かれる。
そして、突如として、二人に分かれた俺に釣られ、フェイカーは慌てて放ったビギン・オブ・ディストピアの矛先を変えた!それによって、一人の俺が消し飛ぶ…だが、そちらは分身体の方であり、残った本体は引き続きソードスキルを繰り出そうと…
…ガキン!
「っ…!」
『…残念。本当に残念だよ、惜しかったね。僕を倒そうとして、焦ったようだね。忘れたのかい、僕にはソードスキルを無効化して、倍返しにできるバドラック・パラドックスがあることを』
俺が放とうとした幻想剣≪短剣≫多重6連撃最上位ソードスキル〈ファントム・ボーン・ダスト〉の初撃が、奴の放ったソードスキルによって止められた。そう、さっきフィリアのソードスキルを無効化しように、ソードスキルのモーションを途中でストップさせられ、更にライトエフェクトが吸われるように無効化されたのだ。
奴が硬直無しで放ったバドラック・パラドックスというソードスキルには、そういう効果があるらしい。ご丁寧な説明を終え、カウンターとなる二撃目を俺に叩き込もうと、奴は大剣を振り被ろうと、
「忘れてないさ。けど…それは、お前がソードスキルを放てたらの話だろう」
『…?何をいっ……まて、あの女はどこに!?』
「…はあああああああああああぁぁぁぁ!!」
ふと零した俺の言葉に、気づいたようだが、既に遅かった。ちょうど狙ったように、落下してきたフィリアが咆哮と共に、短剣のソードスキルを発動させる!短剣2連撃範囲ソードスキル〈ラウンド・アクセル〉による二撃が、完全に隙だらけになっていたフェイカーの両腕を斬り落とす!
『なぁ…』
「確かに…お前のソードスキルは強力だ。幻想剣でもまともにやりあったら、勝てないだろう。だけど…」
「それは放てたらの話…あんたの武器を破壊したり、もしくは、あんたが技を放てないようにすれば、関係ない!」
「そして…!」
神裁剣のもう一つの弱点…それはあくまで強力なのはソードスキルのみであり、対ソードスキル特攻能力も、真正面からやり合わなければ、全く意味を為さなくなるのだ。つまり…ソードスキルを放てなくなる状態…武器破壊か部位欠損状態にしてやれば、そのアドバンテージは一気になくなる。
幻想剣と同じだ…確かにその力は強力だが、過信してまで勝てる力ではない、絶対的な能力ではないのだ。
ましてや…俺とフィリアのコンビネーションの前に、あのホロウ・エリアで戦ってきたボスと同じように、息を併せれば無力化できるのだ。
硬直が解け、動けるようになった俺はその勢いのままに、呆然とするフェイカーに迫る。これまでのお返しとばかりに、幻想剣ソードスキルを解放させる!
「クロノ・エデンズ!」
白色のライトエフェクトによる8連撃の軌道を、剣舞によって描き、分身と共に計16連撃の斬撃をフェイカーに叩き込む!だが、まだ終わりではない。硬直で動けるなる前に、前屈みになることで土台となった俺の背中を転がる形で、スイッチすることで前に出たフィリアが追撃を掛ける!
「アクセル・レイド!」
体術を加えた短剣9連撃ソードスキル〈アクセル・レイド〉…高速連撃をその身にそのまま受けるしかないフェイカーの身体が、斬撃を受ける度に後ろへと後退る。そして、9連撃目を放ち終えた時には、幻想剣の効果で俺の硬直が解け、
「アザー・ワンズ・ストライク!」
「シャドウ・ステッチ!」
代わる形で、俺が放つは幻想剣≪短剣≫多重4連撃ソードスキル〈アザー・ワンズ・ストライク〉…挟み込むような形での分身体と同時に放つ4連撃、そして、先程の繰り返しのようにフィリアが追撃の短剣4連撃ソードスキル〈シャドウ・ステッチ〉を放ち、フェイカーにこれでもかと大ダメージを叩き込んだ…その時だった。
(っ…なに、これ…この技って!?)
(フィリア、これで決めるぞ!合わせてくれ!)
(…うん!)
以前、ユウキの時に発動したように、俺と、そして、フィリアのユーザーフェイスにその技名が表示された。15秒間しか発動する機会がないようだが、迷うことなく発動することを選んだ。
その瞬間、俺たちの身体が電光を纏ったかのように消えた。
『っ…!?』
消えたというのは語弊があった…目で追えない程のスピードを纏い、周囲を縦横無尽に移動しているのだ。高速移動している俺たちの影を追うことがやっとのフェイカーの気が完全に逸れた時だった。
「「はあああぁぁ!!」」
奴の胸元…俺たちの短剣の一撃が奴の身体を斬り裂いたが、それは始まりに過ぎなかった。俺が奴に両肩に二連撃の突きを放ち、それ続く形でフィリアが高速連撃を繰り出す。言葉を交わさずとも、一寸の無駄もない連撃を交互に繰り出していく!
「これで…ラストぉ!!」
「これで、終わりよ!!」
無数の斬撃を奴に叩き込み、最後の一撃は二人そろっての振り下ろしの一撃だった。それを受けたフェイカーはよろけながら後退り…
『…ふっ。大げさな攻撃のわりに、大したダメ―、ぐぉ…な、なにが、ぎゃぁ?!ぐおおおおぉぉ?!』
だが、自分の身体に何も起こっていないと笑みを浮かべたフェイカーの言葉が途中で止まった。それは胸元に再び現れたダメージエフェクトと共に訪れた衝撃のせいだった。それが呼び水のように、今度は両肩に衝撃が走り、そして、全身に無数の斬撃によるダメ―ジエフェクトが発生していく!
俺たちが繰り出したレゾナンスによる特殊技…ユウキとの時は、ユウキが幻想剣の片手剣ソードスキルを一時的に使用できる状態になるものだったが、フィリアとの技はまた方向性の異なる合体ソードスキル…その名も〈ホロウ・シンクロナイザー〉だ。
高速連撃で無数の斬撃を交互に繰り出し、時間差でそのダメージを倍にして敵に与える。そして、そのダメージは防御無視の上に、ダメージエフェクトとして表示される関係上、無効化することができない。
『ぐぅあああああああああああああああ!?!?』
更に…蓄積されたダメージは発生していく度に連鎖的に威力が増加していく。最後の二連撃が一際大きなエフェクトを発生させ、断末魔と共にフェイカーの身体が大きく吹っ飛んだ。
「…やった、よね?」
「多分…あれでまだ戦えるとなったら、流石にお手上げだぞ」
吹っ飛んだ勢いて壁へと激突したフェイカーは、そのまま地に落ちて動かなくなった。それを見て、安堵の声が混じったフィリアの問い掛けに、俺は警戒を解かずにそう答える。
今のところ、フェイカーが立ち上がる気配はなく、それでも警戒を解かずに、奴へと近づいていく。あと少しですぐ近くにまで辿り着くとなった時だった。
「っ…いたたぁ。こ、ここは…」
「「っ…!?」」
フェイカーが意識を取り戻したらしく、欠損した腕で立ち上がろうとしていた。まだやる気なのかと、俺とフィリアが咄嗟に短剣を構えるも、
「…あなたたちは、さっきの…っ!?普通にしゃべれる…!ってことは…あいつは!?アタシを操ってたあいつはどこ!?」
「あ、あたし…?それにあいつって…何を言ってるんだ…?」
「っていうか、ちょっと待て…さっきと声が違う!喋り方に、その声色は…」
だが、次に聞こえてきたのは困惑と驚きが入り混じった言葉だった。さっきまでの口調や雰囲気はどこにいったのかと思うレベルで話し方が変わったフェイカーの様子に、俺はどういうことかと驚くしかなかった。
しかし、フィリアの指摘に俺もその違和感の正体にようやく気付いた。さっきまではどこか機械調の…声を変えたような音だったのに、今は女性らしい声がクリアに聞こえていたのだ。そして、これまで素顔を隠していたフードが外れ…
「っ…女の子…!この子がフェイカーの正体…?」
薄紫色の髪に、赤い目の長身の女性…だが、ALOアバターの特徴である長耳はなく、普通の人間を模したような見た目のそれに、俺たちは思わず目を見合わせていた。
「フェイカー…?っ!?アタシを操っていたあいつはどこ!あいつを止めないと…!?じゃないと、大変なことになるの!?」
「あいつ…?操っていたって、さっきも……まさか、君がフェイカーの正体じゃないのか!?」
「アタシは…ううん、アタシのことよりも、あいつのことを!システムコンソールを早く止めないと…SAOのデータがここに…」
焦った女性の言動に嘘は感じられない…ということは、さっきまで彼女にフェイカーの人格が宿っていたということなのだろう。そんな彼女の言葉がシステムコンソールで何かが行われていることを告げようとしたのだが…その言葉が最後まで続くことはなかった。
『フフッ…アハハハハハハハハハハハハ!!!』
「「「っ?!」」」
突如として、背後から聞こえてきた笑い声が女性の言葉を遮った。それはさっきまで対峙していた際に聞こえてきたあの機械調な声で…発信源はフィリアが斬り飛ばした両腕と共に放置されていた、あの不気味な大剣からだった。
どす黒い紫色のオーラと共に不気味な宙に浮かんだ大剣…その姿に俺たちは息を呑み、目を奪われていた。
『まさか…まさかの事態だよ!だが、保険を掛けておいて正解だったよぉ!よくも僕の操り人形を倒してくれたね!だけど…時間稼ぎは終わったんだ!神が顕現する瞬間に立ち会えることを感謝するがいい!!』
喋り方さえもフェイカーそのものであることから、どうやらフェイカーの人格は大剣に移っているらしい。ますます奇怪な現象に理由を問いたかったが、事態はそれを許してくれるものではなかった。
気が付けば、地面に走っていた幾何学模様がエリア全体に広がっており…その中心に移動した大剣が地面へと突き刺さった時、エリア全体が大きく揺れ出したのだ!
そして、振動と共に剣の周囲が輝き始め、魔法陣に似た無数の幾何学模様と文字が現れ、大剣が地面に沈み込んだ!それと入れ替わるように、姿を現わし始めたのは…
「…なに、あれ…?」
「なんで、こいつが…くそぉ!まさか、こいつのデータまで持ってきていたのか?!」
白色の上半身と元は赤いスカートを模した下半身が、今は紫と濃い蒼色へと変わったそれ…そして、右手には巨大な大剣、それもフェイカーがさっきまで使っていたあの禍々しい剣をそのまま巨大化させたようなものを持ち、左手には稲妻が耐えず走り続ける巨槍を持っていた。頭部に設置されていた赤い宝石は、紫色の複数の目へと変わっていたが…俺はそいつを知っていた。
フィリアは初めて目にするだろうが、俺は奴を見るのは二度目だった。かつて、SAOの100層ボスとして設定され、そして、オーディナル・スケールでの最終決戦で対峙した大型ボス。
アン・インカーネイト・オブ・ザ・ラディウス…その亜種と言うべき姿のボスが、俺たちの前へと現れたのだ。
「フォン、こいつはなんなの!?」
「…SAOのラスボス…アインクラッド100層にいたとされるラスボス」
「うそ、でしょ…!…なんで、そんなのがここに…」
「ひとまず、ここで倒さないといけないことは確かだろう。なんとか……っ?!」
再び対峙することとなったSAOのラスボス…消耗し過ぎていて、状況はかなり厳しいが、それでも、こいつを放置するわけにはいかない。厳しい状況だが、なんとかしないと思い、剣を構えようとして…俺は激しい脱力感に襲われた。
「フォン…!?うぅ…なに、身体から力が抜けて…!?」
俺の異変に気付いたフィリアだが、すぐさま彼女も同じ現象に襲われたようで…その原因が何かを悟った。
レゾナンスのデメリット…さっきの大技を放ったことで、レゾナンス状態が解除され、発動状態にあった俺とフィリアは激しい脱力感に襲われていたのだ。
ここにきて、レゾナンス状態の代償に襲われ、名も知らぬ女性も両腕が欠損状態と戦える状態ではないという事態に、俺たちは一気に窮地に陥るのだった。
オリジナルスキル・防具解説
●神裁剣(しんさいけん)
本来存在する筈がない、新しく作られた12番目のユニークスキル。
幻想剣をベースにあらゆるユニーク・エクストラスキルに、全てのソードスキルの優れた能力を集約し作られた。
あらゆる武器で使えるところは幻想剣と同じだが、大きな違いは、武器を換えても、ソードスキルが変化せず、5種類のみであること。
また、固有効果として、
・ソードスキルの硬直を無効化
・敵対する相手の中で、最も高いステータス値を必ず上回るように、スキルホルダーのステータスを調整する。
・スキルホルダーの武器・防具の耐久値を破壊不能オブジェクトにする。
・15秒ごとにHPが完全回復する。
・ソードスキルとの撃ち合いの際、必ず相手のソードスキルの威力を上回るように威力が自動調整される。
を持つ、まさしくチートにふさわしい力を持つ。(誰が言ったか、オーマジオウ)。ソードスキルをメインとしたVRMMOにおいては、最強と言っても差し支えない能力を持つ。
一方で、確かに強力ではあるのだが、ソードスキル以外の部分ではプレイヤースキルに依存している部分もあり、経験を積んでいるプレイヤーからすれば、見切れないものではなかったりする。
●神裁剣超重単発ソードスキル〈ヘブンズ・レリーフ〉
黄白色のライトエフェクトが特徴のソードスキル。
ライトエフェクトを発動させるための構えを取らずに即座に放てるソードスキル。特殊効果は他にはないが、構えなしで発動できる即効性は奇襲にもカウンターにも使える汎用性が高い技。
技名の由来は、天国と救済の意味を持つ英単語の組み合わせ。
●神裁剣魔法8連撃ソードスキル〈ダウン・リバース〉
紫色のライトエフェクトが特徴のソードスキル。
その場で魔法属性を宿した飛ぶ斬撃を放つソードスキル。(≪細剣≫遠距離ソードスキル〈ランバルト・ノイン〉と魔法兼用連射ソードスキル〈ヘクセレイ・アンフィニ〉の性質を持つ)
属性は、火・水・雷・風・岩・光・闇・無を1連撃ずつ放ち、その順番はランダムであるため、相手に読ませないという利点がある一方で、コントロールができないという弱点がある。
技名の由来は、作者の思いつき。
●神裁剣魔法ソードスキル〈グラビティ・ネット〉
紫黒色のライトエフェクトが特徴のソードスキル。
重力魔法を自在に発動させる特殊なソードスキル。対象を剣先で定めるだけで発動できるため、回避することが難しい。また、一度喰らうと5秒間は拘束され、ソードスキル発動中は永続的に効果が持続する。さらに、相手の重量によって効果が変わる(相手の装備している武具の重さを3倍にするため)
技名の由来は、技の効果からそのまま命名。
●神裁剣2連撃ソードスキル〈バドラック・パラドックス〉
黒色のライトエフェクトが特徴のソードスキル。
一撃目で相手のソードスキルを無効化し、返す二撃目の回転斬りで無効化したソードスキルの威力を3倍にして上乗せ加算した一撃を加えるカウンターソードスキル。
あらゆるソードスキルを無効化する上、無効化された相手はすぐさま硬直に襲われるため、ほぼ無敵に等しい。一方で、ソードスキルを使われないと全く意味を為さないので、単純な技術勝負に持ち込まれると滅法弱い。
技名の由来は、不運(=「Bad luck」)と逆説を意味する英語の組み合わせ。
●神裁剣超重単発最上位ソードスキル〈ビギン・オブ・ディストピア〉
黒赤い炎のようなライトエフェクトとオーラが特徴のソードスキル。
エンド・オブ・フォーチュンに酷似した巨大な一撃を放つソードスキル。相殺したソードスキルの威力差をプラスしてダメージを与える。単純だが、威力は既存のソードスキルを遥かに超えるダメ―ジ値が設定されているため、最強クラスに等しいエンド・オブ・フォーチュンでさえ、このスキルの前では押し負ける。
技名の由来は、見たまんまとエンド・オブ・フォーチュンの逆の意味を意識して。
●防具『颯 結縁』(はやて けつえん)
フォンが新しく作り出した新系統の防具の一つ。
試作03として試作と運用を繰り返していた防具で、空中での飛行や洞窟通路の狭い空間といった場所での、三次元的な高機動戦闘を目的したものであり、短剣や弓、ショートランスといった小回りが利きやすい武器を得意とする。
白色のアンダーアーマーの上に、胸当てや肩といった重要箇所をカバーするように、流れる風を模したかのような緑と薄黄緑色の軽装甲、薄水色のマフラーが特徴。
先行登場…ロスト・ソング編以降に登場する新しい防具シリーズ。
●レゾナンツ・アーツ『ホロウ・シンクロナイザー』
対象プレイヤー:フォン&フィリア
発動条件:レゾナンス状態で、交互にソードスキルを3種類以上連続ヒットさせる
。その後、15秒間の間、発動可能となる。
発動可能時間の間にどちらかが使用をユーザーフェイスから選択すると、二人が高速化し、その後に無数の斬撃を交互に浴びせた後に、強力な一撃を同時に与える。
攻撃中は相手にダメージが発生しないが、最後の一撃を与えた数秒後、浴びせた斬撃のダメージエフェクトが遅れて再び発生し、二倍のダメージを与える。そして、最後のダメージは、浴びせた連撃数に応じ連鎖的に威力が加算したものを与える。
防御や特殊効果を無視した上に、自動回復能力があったとしても、発動する前に一気にダメージを与えるため、一度喰らうと相手は必ず死ぬ。
元ネタは、ゲーム版にてあったスキルチェイン(一定条件下で連携してソードスキルを発動した際に発生する追加攻撃)の一つ「連携絶技ホロウシンクロナイザー」。
実はレゾナンツ・アーツの誕生の経緯が上記の内容を流用させようと思ったのがきっかけだったりします(レゾナンツはまた別の経緯で思いついたのですが、レゾナンツの設定的に、上記を加えるのはありかと思ってでした)
久々に登場のレゾナンツ…忘れた頃の登場でした(苦笑)
上記したように、本章や続章のロスト・ソング編のために生まれたシステム外スキルですので、まぁ、決めとしての登場でした。
さて、されでは、本題に…
幻想剣もどき改めて、12番目のユニークスキル「神裁剣」の正体が明らかになったお話でした。
コンセプトは、まさしく対ソードスキル・ユニークスキル特攻スキルという形でした。ようは、幻想剣ソードスキルを真っ向から負けさせたかったために生まれたソードスキルでした。
あと、フェイカーのプレイヤースキルが拙劣であることを表すため、強力なスキルに頼り切りという面を出すためでもありました。
幻想剣も二刀流にも言えることですが、どんなに強力なスキルであろうと、プレイヤー自身がそれに見合った実力を持っていないと、結局は持てあますことになるわけです。
フォンとの絆を改めて結び直したフィリアとのコンビネーションの前に、弱点見抜かれたら、それは勝てるわけがないわけです(なので、感想でフェイカーはホロウキリトより厄介なのでは?と書かれていた際には、このオチどうしようと、ちょっと冷や汗を流してました(苦笑))
ユウキとフィリアとの連携の差はフォンの立ち位置にあります。作中でフォンが語ってますが、ユウキとフィリアとの連携のしやすさは実は同じです。一方で、前者の場合は、フォンがサポートも視野に入れて動くのに対し、後者は攻め一転に思考を集中できるという違いがあります。
更に、フィリアの場合、影妖精ならではの幻惑魔法でのサポートが充実しているため、なおさら攻めとしては戦いやすいわけですね(キリトはちょっとは見習った方がいいのでは?)
そして、最後に登場したラスボス…ラストバトルはもう少し続きますので、次回はそのお話を。が、そんなことよりも、まさかのフェイカーの正体…というよりも、身体を操られていた女性の正体…みなさん、特徴や本章の前半のお話からして、もうお分かりですよね?
そうです、彼女も本作では物語にガッツリ絡んでまいります!あっ、ヒロインとしてはキリト側になるので、ご安心を(黒笑)(そして、キリトの刺される理由がまた増えるという)
実はこれまでフェイカーの正体について言及する際に、作者は「男」とは一言も言わないようにしておりました。まぁ、大剣(両手剣)を使っている時点で、もしかしたら薄々と気づいていた人もいたのかもしれませんが…
レゾナンスの後遺症で、激労状態のフォンたち…大ピンチの中、駆け付けるのはもちろん…オールメンバー集合での最終決戦にご期待頂ければと存じます。
それでは!
キャラエピ第2段!どのキャラから見たいですか?(時系列の問題で多少前後することがあります)
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リーファ
-
シノン
-
リズ
-
シリカ
-
ミト
-
ユイ