ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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フィリアのキャラエピ中編です。ここからガッツリバトル回です(そして、引き続きフィリアの出番が薄い…)

ちょっとフォンの様子が変なところもありますが、その原因は後半にて解説いたします。
それでは、どうぞ!


フィリア編② 「蘇る吸血鬼の主」

「…くそっ、どこにもいない…!」

 

屋敷内を探りまくるも、見つかるのはゾンビもどきだけ…フィリアの姿を見つけらずにいた俺は焦りを覚えていた。宝物など後回しに探し回ったのだが、ここまで探しても見つからないでいると思うと、何かがフィリアにあったに違いないだろう。

 

ともかく、このままでは埒が明かないと思った俺は一旦屋敷のエントランスにまで戻ってきたのだ。

 

「…フィリア、どこに行ったんだ…?」

 

「おやおや、妖精様。いかがなさいましたか」

 

フィリアの行方が一向に掴めずにいた俺だったが、いきなり聞こえてきた声に俺は振り返ると、いつのまにかバトラーさんが姿を現わしていた。

 

「貴方も無事だったんですね。この屋敷に一体何が起こって…「まさか、我がしもべの餌にならずにいるとは…キサマの力を見くびっていたようだな」…っ、お前、何者だ…?」

 

バトラーさんも無事だったと安堵し、この屋敷の異変について尋ねようとした矢先だった。雰囲気と共に口調が変わったバトラーさん…いや、バトラーに俺も身構える。バトラーはそのまま笑いながら…なんと宙に浮いたのだ!

 

「カァ!!」

 

そして、バトラーに蝙蝠が集まっていき…掛け声と共にバトラーの姿が変わる。肌ゾンビもどきと同じく青く、そして、口からは長い二本の犬歯が飛び出ており、その背中には黒い翼が出現していた。

 

「…なるほど、吸血鬼がお前の正体だったわけか?」

 

「キキィ!その呼び名は美しくないな…我らはヴァンパイア、高貴なる夜の種族だよ」

 

(…ということは、屋敷をうろついていたのはゾンビなんかじゃなく、ヴァンパイアの配下だったということか)

 

吸血鬼もといヴァンパイアだと訂正するバトラーの言動に冷静に分析しつつ、俺は片手剣を抜く。ゾンビもどき…屋敷を徘徊するヴァンパイアたちが俺を見かけては襲ってきたのは、血を吸うためだったのだろうか…と思いつつ、俺は目の前のバトラーに意識を再度向ける。

 

「フィリアはどこだ?彼女をどうした!?」

 

「あの娘のことがそんなに心配か?これから我が餌となる貴様が知ったところで意味がないが…冥土の土産に教えてやろう。あの娘は我が主の生贄になってもらうのだよ」

 

「…お決まりのパターンだな。だったら、その主様とやらの居場所を教えてもらおうか。お前をぶっ倒して、その主様も倒してフィリアを返してもらう」

 

「キキィ、大した自信だな。貴様らの役目は既に終わった今、もう用済みだというのに」

 

「役目…どういうことだ?」

 

フィリアはどうやらこいつに襲われたらしく、そして、そのままどこかに連れていかれたようだ。であれば、早々にこいつを打ち倒し、こいつの主というのも倒しに行くだけだと思った俺だったが、バトラーが気になることを口にしたため、それを聞き出すことにした。

 

「貴様らに探し回ってもらった光のアイテム…それは我が主を縛りつける封印の遺物だったのだよ。我が主を不愉快にも封印しようとした奴らがほどこした忌々しいアイテム…我が策略により、誤った場所に設置させることには成功したが、仮にも光の遺物…闇の種族である我では破壊することが適わなかった…だが、貴様ら下等種族が遺物を取り払ってくれたことで、我が主の封印が揺らいだのだ。キキィ、我が主の目覚めは近い…!」

 

「…なるほど、なるほど。そういう仕様のクエストってわけか。ハハッ、なるほどな……分かりやすいし、丁度いい」

 

長々とバトラーが解説してくれたところで、俺は静かな怒りを覚えつつ、片手剣を構えた。ここまではこいつの策略だということを理解できたのと同時に、やってくれたなという怒りが湧き上がっていたからだ。

 

「なら、お前から聞きたいことはもう充分だ。さっさと掛かってこい、すぐに倒してやる!」

 

「キキィ、その自信いつまで続くか、見せてもらおうか!」

 

俺の挑発に、バトラー…いや、HPゲージ2本と共に表示されたモンスター名『The Nocturne Butler』が翼を広げたことで、戦闘が開始された!

 

(さて、どうやって戦っていくか)

 

敵は空にいる…王道なのは弓矢での戦いだろう。とあれば、換装して武器を変更しようと思っている時に、バトラーが先に仕掛けてきた。

 

「我が直接を手を下す必要もないだろう…シャドウ・ダンス」

 

「っ?!」

 

その言葉と共に、俺の周囲を…いや、俺の影が不規則に動き、何かが出現した。奴の固有魔法らしく、俺を取り囲むように黒い人影が現れた。

 

盾を持った重騎士、ロングソードを手にした剣士、短剣にマフラーが特徴的なアサシン、そして、錫杖を身に着けたプリースト…影の兵士を操る魔法なのだろうか。そんなことを分析していると、影の兵士が襲ってきた!

 

「っ!?」

 

まず襲ってきたのはアサシンと剣士、見事な同時攻撃に俺は短剣を躱しながら、片手剣でロングソードの一撃を逸らす。重騎士はプリーストの護衛らしく、そのプリーストは魔法で俺を狙っているようだった。

 

戦い慣れている…一方で、バトラーは相も変わらず宙に浮いていて、特に指示を出しているような気配も見られなかった。だとすれば、この影の兵士たちの攻撃はオートなのだろうか。

 

分析している最中も剣士とアサシンの猛攻は続く。片手剣で捌き続けるも、これがまた見事なもので、そこにプリーストの補助魔法と攻撃魔法が絡んでくるのだから、片手剣1本で防ぎ続けるのは限界がある…そのため、早々にこちらも手札を切らせてもらうことにした。

 

アサシンの攻撃を避け、そのまま剣士の攻撃をバック宙にて回避しながら、左手でメニューを高速操作し、両手剣を呼び出す。そのまま迫ってきていたアサシンの短刀を片手剣で受け止め、身体を回転させることで短刀を逸らし、その勢いで両手剣を振り払う!

 

アサシンの影の身体が半分に分かれるも、仲間の姿に構うことなく、剣士が襲ってくるも、両手の武器でロングソードを受け止め、一気に押し戻す!ロングソードを押し戻されたことで、ガラ空きとなった剣士の胴体に両手剣と片手剣を突き刺し、そのまま引き裂くように武器を操り、剣士の身体も真ッ二つにする。

 

これで残すは重騎士とプリーストだけと思っていたところだったが、これまでプリーストの護衛をしていた重騎士が突如攻撃を仕掛けてきた!ランスの突進を咄嗟に躱すも、距離を取らされてしまう。

 

その間にプリーストが何かの魔法を詠唱していたらしく、長めの呪文を詠唱していた。その間にも重騎士が猛攻を仕掛けてくるため、プリーストの邪魔をすることができず…呪文が詠唱されて切ってしまった。すると、先程まで倒れていたアサシンと剣士が復活してしまったのだ。

 

(プリーストが万能すぎるな…重騎士は再びプリーストの護衛に戻ったか。防御力は重騎士以外は大したことない。ならば…)

 

プリーストを倒さなければ、他の3人を何度でも復活させられてしまう。時間を掛けてもいられないため、俺は勝負に出ることにした。

 

剣士とアサシンの攻撃をいなしながら、タイミングを見図る。そして、剣士とアサシンが同時に剣を振り下ろしてきたところで、俺は…

 

「っ…このぉ!?」

 

剣士とアサシンの攻撃を同時に受け止め、2人のバランスを崩したところで、剣士にミドルキックを喰らわせて蹴っ飛ばす。そして、片手剣を両手剣を持つ左手に同時に持つことで、空になった右手でアサシンの身体を拘束する。

 

そして、そのまま重騎士とプリーストがいる方へとアサシンをぶん投げる!重騎士が慌てて盾で受け止めるも、アサシンの身体が盾で受け流されてしまい、空に浮く。その一瞬の動作が好きを生み出す。

 

「そこだぁ!」

 

駆け出しながらソードスキルを発動させる俺は叫ぶ。両手剣から膨大なオーラがあふれ出し、掛け声と共に振るわれたのは、幻想剣≪両手剣≫超重単発最上位ソードスキル〈エンド・オブ・フォーチュン〉が重騎士ごとプリーストを叩き斬った!

 

そして、そのまま右手の片手剣へと意識を切り替え、剣技連携にて片手剣ソードスキルを繰り出す!狙うは不時着したことで体勢を崩したアサシン…こちらの攻撃を防ごうとする短剣を1撃目で弾き、残りの3連撃でアサシンを斬り飛ばす。

 

片手剣4連撃ソードスキル〈バーチカル・スクエア〉に続け、今度は両手剣ソードスキルに意識を切り替える。背後から最後の1人である剣士がロングソードを突き刺そうとしていたが、剣技連携で発動させた両手剣単発ソードスキル〈サイクロン〉で無効化する。

 

そして、三度剣技連携により片手剣4連撃ソードスキル〈ホリゾンタル・スクエア〉で剣士に止めを刺す。こうして影の兵士を全滅させたところで、

 

…パチパチパチ

 

「お見事。口だけの自信家ではなかったようですね」

 

「…換装」

 

感心しながらもこちらを小馬鹿にするような賞賛をするバトラー。そんな相手に対し、俺は一切応える気はなく、2つの武器を背中の両鞘に素早く仕舞いながら、左手でメニューを再び開き、そのまま…

 

「っ!!」

 

「なぁ…!?」

 

弓『風月の灯』を両手に、右太ももに矢筒を装備したところで、素早く幻想剣ソードスキルを発動させる!

 

満タンであるMPを使い切るかのように一気に魔法の矢を放つ、幻想剣≪弓≫魔法兼用連射ソードスキル〈ヘクセレイ・アンフィニ〉を発動させる。一切の躊躇のない魔法の矢の雨がバトラーに襲い掛かる!

 

俺のまさかの強襲に、バトラーは回避行動に移ろうとするも、慢心も祟り回避が遅れる。放った魔法の矢の半分ほどが奴の右半身を直撃し、爆発によりその身が焼かれていく。

 

「ぐぅ…きさまぁ?!」

 

「どうした、さっきまでの余裕はどこにいった?(思った以上に直撃してくれたようで、何よりかな。HPも1本の8割ほど削れたようだし…このまま一気に決めさせてもらう)」

 

先程の紳士ぶった余裕は消え去り、激情を露わにしたバトラーが怒りの視線を俺に向けるも、対する俺の頭は冷め切っていた。怒りのあまり、冷静な思考だけが…いや、こいつを倒すことだけに俺の思考のリソースが完全に割かれていたのだ。

 

幻想剣スキルは普段使わないのだが、今回ばかりはその制限を解いていた…このまま押し切るべきと俺が考えていると、

 

「許さん…この下等種族が!きさまは何千回、何万回と殺したとしても許してやらんぞ!?」

 

「俺は最初から許してやるつもりはない…さっきから言ってるだろうが、さっさと来い」

 

魔法の矢の爆発によりほぼ原形を残していない右翼と無事だった左翼を体内に収容したかのように消したバトラーが更に殺気を飛ばしてくるも、俺は一切動じることなく、弓を腰に装着することで簡易的に収容し、代わりに再び右手で片手剣を抜く。

 

いきなり体力を減らしたことでパターンが変わったようで、バトラーは両腕に何かのオーラを纏わせ接近戦を仕掛けてきた!

 

振り下ろされた拳をバックステップで躱すも、俺がいた場所に振り下ろされた拳はかなりの勢いで地面を揺らした。直撃すればかなりのダメージになりそうだと思いつつ、俺は冷静にバトラーの攻撃を見切っていく。

 

豪語するだけのことはあり、パワーは確かにそれなりにあるのだろう。だが、その練度は決して高くはなかった。新生アインクラッドの階層ボスに比べれば、攻撃の仕方が単純すぎるのだ。

 

どれだけ威力が高くても当たらなければ意味がないのだ…大振りの攻撃に合わせて、片手剣の斬撃を浴びせていく。だが、ネームドモンスターということもあり、バトラーもやられてばかりではなかった。

 

「くぅ…シャドウ・バタフライ!」

 

左手でフィンガー・スナップを鳴らした瞬間、バトラーの周囲に影で構成された蝶が出現し、数秒後、俺目掛けて真っ直ぐに飛んできたのだ。

 

スピードもかなりのもので、カウンターを狙おうとしていただけに回避が疎かになってしまい、2羽ほど掠めてしまった。ダメージはそこまで大きくないのだが、

 

(AGIダウンのデバフ付きか…当たれば当たる程、こっちのスピードが下げられる形か)

 

2羽当たっただけでAGIが5%も下がったことを、HPバーの上に表示される簡易ステータスにより理解する。そのせいもあり、分かりやすく身体を動かすスピードが下がった。

 

「ちょこざいな動きはそこまでだ!」

 

俺のスピードが下がったことをいいことに、ここぞとばかりにバトラーが拳のラッシュを繰り出してくる。それを片手剣でいなしていくも、

 

「もらったぞ!」

 

俺が片手剣で、奴の左拳による大ぶりなフックを弾いた際、ノックバックにより背中を見せたことをチャンスと捉えたらしく、奴は俺に右拳を振り下ろそうとしていた。だが、

 

「…そうすると思ってたさ」

 

逆に一回転による遠心力を加えながら発動させたソードスキルの一撃目により、奴の右拳を斬り裂きながらカウンターを喰らわせる。だが、そこで俺の反撃は終わらない。片手剣2連撃ソードスキル〈バーチカル・アーク〉は、その攻撃の軌道自体が身体を回転させながら放つ連撃技である。そこに技の出初めから遠心力が加わっていれば、少しばかりソードスキルの威力と技を放つスピードが上がるのだ。

 

「がぁ…ぐああぁ…!?」

 

クリーンヒットしたらしく、胴体に2撃目の斬撃を浴びたバトラーが膝を突く。ソードスキルの硬直によりすぐには動けないが、バトラーのHPはもう3割を切っていた。このままソードスキルを1撃でも喰らわせれば倒し切れるだろう。

 

そう思い、俺は硬直が解けた瞬間にソードスキルを再び発動させようとした時だった。

 

「シャドウ・ゾーン」

 

バトラーが呪文を詠唱したことで、フィールドに変化が生じた。

 

文字通りの変化、それは俺の視界に起こった。バトラーを含め、全てが黒に染まったのだ。視界が封じられたわけではない…俺の視界がまるで闇に包まれたように、見渡す空間が全て黒い空間に変わったのだ。

 

『この闇の中できさまは我を捉えることはできない…そして!』

 

「っ!?」

 

周囲を見渡しても全てが闇…そんな中、バトラーの声が聞こえてきた。声がした方向から気配を辿れないかと思うものの、まるで反響するかのように聞こえる声でそれもできない。

 

だが、次の瞬間、風邪を切るような音がして、俺はすぐさまその場を飛びのく!すると、突風が前から襲ってきた。気配は辿れないが、攻撃してきたということはすぐそこにいるということだと思い、急ぎ片手剣を振るうも…手ごたえはなく、刃が空を斬る。

 

だが、俺の反撃は空ぶったにも関わらず、今度は背後から拳の気配がいきなり感じ、俺は前に飛びのく!しかし、奴の気配は一切捕らえ切れないのに、四方八方から拳が飛んでくる…次第に回避し切れずに、拳が掠めてくる程にだ。

 

(こうも乱撃されるばかりだと、回復する暇もない!この状況を打開するには…)

 

ポーチに収納しているハイポーションには限りがある。そして、この猛攻の中、メニューを開いている余裕もない…だからこそ、手持ちにある手段でなんとかするしかない。

 

バトラーの技のカラクリを分析する暇などない…一気に勝負を決めるしかないと思い、俺はハイポーションを飲み干し、同時にポーチからあるアイテムを取り出し、そのまま地面に投げつける!

 

『…!小賢しい真似を…どこだ?!』

 

(やっぱりそうか…あくまで塞がれているのは俺の視界であって、奴からは俺が見えている。逆に言えば、俺から奴の視界を塞いでしまえば…!)

 

俺が地面に投げつけたのは煙玉だ。緊急時の視界防ぎのアイテムだったのだが…まさかこんな形で役に立つとは思っていなかったが、狙い通りに奴は俺を見失ったようで、拳のラッシュが止んだ。そのチャンスを活かし、そのまま俺は僅かに回復したMPを使い、呪文を詠唱する。

 

俺が唱えた呪文により形成されたそれは俺から離れていき…俺の左斜め方向へと飛んで行った。そして、

 

『っ…!邪魔だ、消えろ!!』

 

「…!そこかぁぁぁ!!」

 

俺が唱えたのは追跡用の使い魔を召喚する魔法…弓の幻想剣ソードスキルにより枯渇していたが、少ないMPで召喚できるのが、この魔法のいいところだ。そして、あくまで閉ざされているのは俺の視界…詳細に言えば、バトラーの姿や背景だけが見えないのであって、俺の身体や武器などは見えている。つまり、俺が召喚した使い魔の姿も見えているわけで…

 

使い魔が消えた箇所が、バトラーのいる場所だと悟り、俺はいつでも発動できるように構えていた片手剣のソードスキルを解き放つ。剣に引っ張られるかのように俺の身体が一気に前進する!

 

轟音と共に俺の剣が何かにぶつかる音がする…だが、その感覚は掠めたようなものであり、直撃したことではないことを悟る。

 

『くぅ……ざんね「これで終わりだぁ!?」…なぁ』

 

掠めた場所さえ分かれば十分だった…ヴォーパル・ストライクでは仕留めきれない可能性があったため、俺はこの技を使ったのだ。

 

幻想剣≪片手剣≫重2連撃ソードスキル〈ブレイス・ホイール〉による、2連撃目の回転斬りを、刃を掠めた方へと繰り出す!すると、今度は何かにめり込むような感覚がし、そのままに刃を押し込むように振るう!そして、刃を振り切った瞬間に、

 

『…ば、馬鹿なァァ…!?』

 

バトラーの絶叫が聞こえ、俺の視界が闇から解放される。復活した視界には、俺の剣によって斬り飛ばされた首と、あり得ないといった表情をしたバトラーの顔が映っていた。どうやら北側の屋根の近くにいたようで…宙にことで、重力に引かれて俺とバトラーが地に落ちていく。

 

もっとも、俺は無事に着地した一方で、首と胴体が離れたバトラーはそのまま地面に落下した。身体が先にポリゴンに変わり、首もポリゴンも変わるかと思いきや、

 

『キキ……フハハハハハハハ!!』

 

倒されたにも関わらず、首だけで高笑いするバトラーの様子があまりにもおかしく、俺は何がおかしいのかと問い掛ける。

 

「何がおかしい…!?」

 

『もう遅い…我が主は復活する。そして、きさまは真の絶望を知るのだ……フハハハ…キキキィィ!?』

 

負け惜しみとも、絶望の宣告とも取れる最後の言葉と共に…高笑いを上げながら、バトラーの首もポリゴンに変わるのだった。すると、地面が揺れ始め…!

 

「っ…地下に繋がる階段か。もしかして、この先に……」

 

地響きと共に、螺旋階段のすぐ近くの床が動き出した。そして、地下へと繋がる階段が姿を表したのだ。

 

この先に、バトラーが主と呼ぶ、この一件の元凶がいる。そして、フィリアも…そう思うと、迷うことはなく、俺は地下へと繋がる階段を一気に駆け降り始めたのだった。

 

 

 

「…ここがバトラーの主がいる場所なのか」

 

地下2階分ほど階段を下りたところで、かなり大きな扉がある場所へと辿り着いた。3mを優に超える扉を開いた先は、広い空間の部屋だった。黒い炎が灯った蝋燭の燭台がこれでもかと壁に備え付けられていて、奥は祭壇のような構造になっており、また目立つように大きな棺桶が壁に減り込むように置かれていた。

 

そして、その頭上の空間には十字架が浮いていて、そこには…

 

「っ…!フィリ『ガァン!?』…っ?!」

 

十字架に括りつけにされているフィリアの姿があり、彼女の名を呼ぼうとした矢先に、棺桶の蓋が勢いよく弾け飛んだ!轟音と突如として表れたプレッシャーに、俺は思わず身構える。

 

『…バトラーは消滅したか。まぁ、我の復活に貢献できたので、それだけで僕としては役に立ったとするか』

 

「お前が……この屋敷の主か」

 

白い髪と長い顎鬚、顔はバトラーと同じように青白いのだが、バトラーと違いヴァンパイアらしい長い犬歯は見えなかった。だが、その容姿は一線を画していた。古いヨーロッパを思わせるような洋式の服に黒いマント、そして、2mを超える巨体に筋肉隆々の身体つきは強者だと見た目だけで判別できる程にだった。

 

…バトラーと比にならない強者の気配に俺は腰に据えていた弓を手にし、右太ももに装着していた矢筒から矢を1本抜き、弓に矢を番えながら言葉を口にする。そこで、初めて奴は俺を視界に捉えたようだった。

 

『…バトラーに唆されたハエか。ふむ…あのバトラーを倒したということは、お前もそれなりにやるようだな。少しばかり興味がある…どうだ、お前も我らの配下に下らんか。たかがハエの種族のままにしておくのは惜しい力だ』

 

「…悪いな、ハエはハエなりに一生懸命生きてるもんでな。それに、俺はあんたのことが気に喰わない。俺の大事な人を勝手に生贄にしやがって…覚悟しやがれ…!」

 

バトラー同様に、いや、それ以上に俺のことを見下す奴が酷く達観しているような物言いが特徴的だった。そして、次に放ってきた言葉はまさかの勧誘だった。

 

もっとも、フィリアを攫った時点で俺の奴に対する印象はマイナスかつ最悪だったので、速攻で拒否ったのと同時に、矢を番えることでチャージしていた一撃を放つ!

 

轟音と共に放たれた超重撃の矢が線を描く…幻想剣≪弓≫超重撃最上位ソードスキル〈ケラブフォス・ヴェロス〉…1分の溜め時間が必要だが、会話により時間を稼いでいたこともあり、放った一撃は確実に奴に直撃した!

 

反動によって俺もかなり後退るが、光と雷の属性を持つ最上位ソードスキルの威力は絶大だ!更に、(弱点かどうかは不明だが)闇の住人であるヴァンパイアにとって光属性の攻撃はそれなりに効く筈だ。その期待と共に、俺はヒットした矢を見ていたのだが…その結果は俺の期待を裏切るものだった。

 

『…今のがお前の全力か?』

 

「なぁ…(馬鹿な、無傷だと!?)」

 

最上位ソードスキルは確かに奴にヒットした。だが、その矢を受けた奴は一切のダメージを負っていなかった。正確には、奴の2本あるHPが全く削られておらず、更にはダメージエフェクトである赤いエフェクトも発生していなかったのだ。

 

(遠距離攻撃の無効化…それとも、ソードスキル自体が利かない特殊能力か…?)

 

硬直が解けながら、俺は思考を巡らせる…これまで、数は少ないが、こちらの攻撃の一部を無効化するという前例はあった。ネームド級ということもあり、こいつにも何かの特殊効果があるのかと思っている矢先、

 

『…いくら考えても無駄だ。お前の攻撃は我には一切通らない。夜の住人である…不死身の我を倒す手段は…ない』

 

「…そんなの、やってみないと分からないだろう!?」

 

『…ならば、いくらでも試してみるといい』

 

「っ!?うおおおぉぉぉぉ!!」

 

挑発と言わんばかりに、右人差し指を内側に曲げるかのような奴の仕草に…俺は両手剣を抜き飛び掛かる。放つのは幻想剣≪両手剣≫超重単発最上位ソードスキル〈エンド・オブ・フォーチュン〉…その一撃が奴の身体を袈裟斬りにて切り裂くも…

 

「…なぁ…?」

 

確かに斬った感覚はあったものの、刃が奴の巨体を斬り裂いている筈なのに…奴は何事もなかったかのようにそこに立ち尽くしており、更にはHPも減っていなかった。

 

『やはりハエはその程度か…ふん!!』

 

「っ?!ぐぅ…があぁ!?」

 

興醒めしたかのように…その言葉と共に奴が右足にて蹴りを放ってきた。我に返り、咄嗟に両手剣を盾にするも…その重さに踏ん張ることは一瞬しかできず、俺は吹き飛ばされた!受け身を取ることもできない程の威力に…俺の身体が地面を滑る。

 

『…さぁ、すぐに終わりにしてやろう』

 

無理矢理身体を起こすも打つ手が見つからず、思わず歯噛みしてしまう。そんな俺に全く構うことなく、奴が右手の親指と人差し指を鳴らした。すると、

 

「…雲?」

 

室内にも関わらず、黒い雲が部屋の天井を覆うように現れ、そして、すぐさま雨が降ってきたかと思ったが、それはただの雨ではなかった。

 

「…っ!?」

 

血のように赤い雨…しかも、その質量が普通の雨と比較にならないほど重い雨なのだ。数滴浴びただけでHPも減ってしまい、慌てて両手剣を傘のように盾にして防ぐ。だが、部屋全体に降り注ぐ雨を両手剣で防ぎ切ることはできず、更に赤い雨は量を増していき、雨に圧し潰されるかのような感覚に俺は膝を突いてしまった。

 

HPも半分を切り、これ以上受け続けることはできない。だが、血の雨の物量により、俺は動くことすらもできずにいた。このままではと考えている矢先、奴は俺に止めを刺そうとしていた。

 

『…蠅らしく焼き払ってやろう』

 

(…!やられる…?!)

 

その場から一切動かず、右手の人差し指で空間をなぞるように軌道を描くと、奴の周囲に火球が出現した。それを目にした俺はなんとかしなければと思いつつ、何もできない状態に負けが頭を過った。

 

…その時だった。

 

『…?…この気配は』

 

『…そこまでだ、伯爵!?』

 

「『っ…!?』」

 

何かに気付いた奴がその動きを止めた。そして、それに応えるように何かの声が…俺のすぐ近くから聞こえた。すると、それに呼応するかのように俺の胸元から光が放たれていた。そして、そこから2つの光球…紫と青色の2色の球がそのまま俺の周囲に佇むように浮遊し、次の瞬間、とてつもない光を放った!

 

『ぎゃあああああああああぁぁぁ?!』

 

光をまともに浴びた奴…伯爵と呼ばれた奴は、この戦いで初めて絶叫を上げた。奴が大きく怯んだことで、俺を襲っていた赤い雨も止んだ。

 

『妖精殿!今は退け!』

 

「…!けど、フィリアが…!?」

 

『このままではあなたに勝ち目はありません。ここは私たちの言葉を信じて!』

 

「……くそっ!」

 

動けるようになったものの、HPはレッドに突入してしまっていた。このまま追撃すべきだと思ったが、紫色の光球から聞こえてきた声が退却を進言してきた。その声に反論するも、青色の光球からも退却するべきだと告げられ、少し迷ったが、俺は悪態をつきながらその場を後にするしかなかった。

 

 




何となく、敵のモチーフに気付いている人もいるのかなと(苦笑)
ということで、バトラー戦と敗北イベントの2本立てでした。
次回は後編ということで…更に長くなります(もう決定事項です)。

それでは、また。

キャラエピ第2段!どのキャラから見たいですか?(時系列の問題で多少前後することがあります)

  • リーファ
  • シノン
  • リズ
  • シリカ
  • ミト
  • ユイ
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