1話目が約7文字、2話目が約1万字、そして、今回1.8万字…(笑)
滅茶苦茶長くなったのが遅刻の原因でした。
というわけで、フィリア編ラストエピソードです。
それでは、どうぞ!
「…追ってはこないか」
地下室から逃げるように退却した俺は、伯爵と呼ばれた吸血鬼の主が追撃してこないことを確認し、警戒を解いた。だが、あいつを倒さない限り、フィリアを助けることはできない。事態は一切好転していない…この事態をなんとかするには…
「…あんたらは一体何者なんだ」
俺の周囲を漂う2つの光球…先程、俺の窮地を救ってくれたそれらに正体を尋ねると、伯爵に放った程ではないが、光球からまた光があふれ出し、姿を露わにした。
『我が名は陽光の4騎士の1人、レイ!』
『私の名は陽光旅団の1人、サリアと申します』
「いや、グループ名が既に違うじゃねぇか」
重騎士装備の紫色のショートヘア―の女性と、聖職者のような恰好をしたライトブルーのカール調のロングヘア―の女性が姿を露わにした。彼女らが自身の正体を名乗るも、名乗ったグループ名が異なることに、思わずツッコミが出てしまった。
『…サリア、我らのパーティ名は4騎士だと言っただろう』
『騎士であるのはあなただけでしょう。それに、私たちは困った人たちを助ける旅団です、と何回言えばいいんですか』
『何を言う!我ら4人は邪なるものを祓う聖なる騎士だろう!』
『私はプリーストですし、他の2人だって…「そろそろいいか?」…失礼しました、妖精様』
俺を置いてけぼりに口論する2人…普段であれば、漫才としてもう少し聞いていたかったが、今はそれどころではなく声を掛ける。
すると、聖職者であるサリアと名乗った方が俺へと謝罪しながら、話をしてくれるようだ。
「あんたらは…その…」
『あなたの思っている通りです。私たちは既にこの世を去っております』
『今は私たちが力を込めた遺物に残る、魂の残影といったところだ』
「遺物…もしかして、これらのことか?」
半透明になっている彼女らは宙に浮いていた。その状態から何となく、彼女の正体を俺は察してしまった。
正直に聞いていいかと思い言い淀んでしまったが、サリアは俺が思っていることを言葉にすることで答えてくれた。そして、レイと名乗った重騎士が補填してくれた言葉に、俺はもしやと思い、ストレージに収容していた『藍陽の杖秘珠』と『青陽の盾秘石』を出すと、2人は肯定するように頷いた。
『伯爵が完全に復活するまで時間がありませんが、伯爵を倒すには私たちの力が必要なのです』
「…さっきはあんたたちのお陰で助かったけど。あの伯爵とあんたたちは一体どういう関係なんだ?」
『我らは邪を祓う者…各地を旅しながら、あらゆる邪なるものを祓ってきていた。そして、奴を祓うべく我らはこの地に来たのだ』
『しかし、かの者の力は私たちの力を超えていたのです。勇者の力をもってしても、伯爵の力を封印するのがやっとでした』
「勇者…そういえば、あんたらは4人だって言ってたな」
『うむ…重騎士である我、聖職者であるサリア、斥候役でありアサシンのソレイユ、そして、聖なる血を持つ勇者のサンの4人で、我らは伯爵に挑んだ。だが…』
『伯爵を倒すには太陽の力が必要なのです。ですが、この館は一切の陽の光を閉ざしてしまうだけでなく、私たちの力までも弱めてしまったのです』
『そのため、我らは伯爵を封印することがようやくだったのだ。そして、封印を完全にするべく力を込めた遺物を作り、この屋敷の祭壇に奉ることで封印を完璧にしようとした』
『ですが、伯爵の右腕であるバトラーにより、遺物を作った反動で力をほとんど失っていた私たちは…』
「…そういうことだったのか」
彼女らと伯爵の因縁の経緯が分かったところで、バトラーが何故俺たちに遺物の捜索を依頼したのかが分かった。そして、その思惑に乗せられる形で、俺たちは伯爵の封印を解いてしまったということだ。
『流石のバトラーも遺物を破壊することはできなかったからな。我らは遺物に残った僅かな力で遺物を屋敷に散らばせることで封印を何とか保ってきたのだ』
『奴が復活するのはもう避けられません…しかし、妖精様。あなたの力があれば、今度こそ伯爵を滅ぼすことができるかもしれません』
『我らと異なり、貴殿の力はこの屋敷の影響を受けることはない。奴の闇の力さえ抑えることができれば…妖精殿の攻撃も通る筈だ』
「そう、そこだ。奴には俺の攻撃が通じなかった…どうすれば、あいつの闇の力というのを抑えることができるんだ?」
先程、伯爵に仕掛けた俺の攻撃は一切通じなかった…それは闇の力なるもので守られていたせいらしい。彼女ら曰く、その力を抑える方法があるらしいが、おそらくその方法は…
『残り2つの遺物を含め、我らの遺物をそれぞれの祭壇へと納めてくれれば、我らの最後の力を使い、奴の力を抑えよう』
「まぁ、やっぱりそうだよな。それで、その残りの2つは探し出すとしても…祭壇なるものはどこにあるんだ?」
『『……………』』
予想通り、残り2つの遺物を探し出す上に、祭壇も探す必要があるらしい。だが、遺物探しやフィリアを探す過程でそれなりに部屋を見回ったのだが、祭壇らしいものはなかったのだ。それがどういったものかを2人尋ねると…2人が不自然に目を逸らした。その様子に嫌な予感を覚えた俺は、
「…まさか祭壇までもどこかに隠されているのか?」
『…うむ』
『この屋敷のどこかにあることは確実なのですが…私たちの遺物に対応した祭壇全てが、バトラーに隠されてしまったようなのです』
「そんな……何か手がかりはないのか?」
『1つだけある』
予想は当たったらしく、どうやら祭壇はこの屋敷のどこかに隠されているらしい。地下に繋がる階段までも隠されていたのだから、おそらくそう簡単には見つからない場所にあるのだろう。
しかし、ヒントもなしに探すことはほぼ不可能であると思った俺は2人に探す方法はないのかと尋ねると、どうやら1つだけあるらしい。
『遺物が近くにあれば、私たちが検知することができます。そして…』
『我らがリーダーである勇者のサンの遺物だけは、どうやら祭壇に置かれているようなのだ。だから、サンの遺物を見つけることができれば、祭壇がどうやって隠されているかも分かる筈なのだ』
「…分かった。ともかく祭壇を探さないといけないってことだな。問題はゾンビ…いや、吸血鬼たちか…」
『ご安心を。遺物を持っている貴方は、奴らの僕に噛まれても吸血鬼になることはありません。しかし…』
『妖精殿の仲間はそうではない…奴はバトラーに噛まれているようだ』
「なぁ……それじゃ…」
『伯爵が復活しかけている今、この屋敷に陽が昇ることはありません。陽が昇らなければ、死以外に吸血鬼化を防ぐ術はありません。ですので、もし彼女を助けたいのであれば…』
「…伯爵を倒すしかない、ってことだな。逆にシンプルで助かるよ」
残りの遺物の1つはどうやら祭壇に置かれているらしい…つまり、遺物を全て見つけることができれば、祭壇の探し方も分かるらしい。
そして、問題のゾンビ…もとい吸血鬼たちからの攻撃もこれからは気にしなくていいらしい。かすり傷を気にしなくていいのなら、強引にこの屋敷を駆けまわることができる。
一方で、レイが告げた事実に俺は最悪の可能性が当たってしまったことに舌打ちが出かかる。伯爵を倒すことはいいのだが、フィリアがかなり危険な状況である事実に、頭の熱が更に高まるのを覚えつつ、俺は思考を冷静にするべき深呼吸をする。
「よし、すぐに探しに行こう」
おおよそすべきことを理解したところで、俺は残る遺物を探しに、まずは1階の残る部屋に向かった。
「これで3つ目…おっと」
1階の部屋を4つほど巡ったところで、レイが『むっ、この部屋にいるぞ!』という反応を見せたことで、俺はいくつもの小さな宝箱が置かれた部屋にてそれらを開けまくり、半分ほど開けたところで、3つ目の遺物…『緑陽の探秘盤』を見つけた。
すると、遺物から緑色の光球が出てきて、小柄な人柄となり…
『……………』
『すみません、この子がアサシンのソレイユです』
『あいかわらず無口な奴だな!妖精殿に礼でも言ったらどうだ』
『…陽に対する影の者…それがあたし』
(…ど、独特な子だな)
寡黙というか、どこか不思議な雰囲気をした少女…アサシンのソレイユに、どこか慣れたように苦笑しながら紹介するサリアと呆れたようなレイの言葉を受けても、態度を崩さないソレイユに俺は何とも言えなくなるのだった。
『……サンはどこ?』
『これから探すところだ。この妖精殿がな!』
「って、人任せなくせになんでそんな偉そうなんだよ。まぁ、バトラーが2階にあるって言ってたから、あとはしらみつぶしに『そうは上手くいかないと思う』…えっ?」
最後の1人である勇者の所在を尋ねられ、レイが勢いよく答える。その言葉にどこか呆れつつ、後は2階を探すだけと思っていると、ソレイユが意味深な言葉を呟いた。どういうことから思っていると、彼女がその言葉の真意を語った。
『……サンがいる場所は隠されている…ような気がする…気配が…隠れてるような…気がする』
『…妖精様。ソレイユの勘は侮れません、ご注意ください』
サリアの言葉を信じるのなら、どうやら残りの1人の遺物は凝った隠され方をしているらしい。これは覚悟を決めて探すべきかと思い、俺は2階へと向かうのだった。
「…どこの部屋にもないぞ…」
『『……………』』
『…だから…言った』
2階の部屋全てを探し回った俺は、螺旋階段の前でその結果を言葉にしていた。俺の周囲に漂うサリアとレイも困惑しており、一方でソレイユは当然だとばかりの表情をしていた。
『おかしいですね…サンの気配は確かに2階にあるのですが…』
『…奴の気配が2階全体から感じられるせいでどの部屋にいるのか探知できないとは…』
『…当然…サンは…特別…』
(まさかここに来て躓くとは…3人の力は頼れないってことか)
ソレイユの予感が当たった上に、頼りにしていた3人の感知能力が使えないとなり、俺はこの場を乗り切るには自分でなんとかするしかないと思い、地図を懐から取り出す。
…全ての部屋を物色したが、遺物はどこにも隠されていなかった。もし可能性があるとすれば、
(まだ見れてない部屋がある…?例えば、、隠し部屋とか…地下に繋がる階段も隠れていたし、可能性としてはあり得なくないか。だけど、問題はそのギミックがどこにあるか…部屋全部を探すわけにはいかないし…)
一番あり得そうな可能性が隠し部屋だったが、それを探し出す方法が思いつかない。こういう時、フィリアがいてくれればと思った時だった。
『……?あれ…』
『フィリア、どうした?』
『…なんか違和感を覚えたんだけど……ゴメン、気のせいだと思う』
(そういえば…あの時、フィリアが地図を見て、何かを気にしていたよな)
地図を見ていて、この館に来た時のことを思い出していた。あの時、フィリアは地図を見て、何かが気になっているようだった。この地図に何があるのかと思い、再度見てみると…
(そういえば…この屋敷って四角形の上に、通路に沿って部屋が設置されているけど…屋敷の大きさの割に部屋の数が合ってない…?それに…どうして1階の地図には方角を表す記号があるのに、2階には書いてないんだ…?)
地図を改めて見直してみると、違和感を覚えた。屋敷の大きさに対し、部屋の数や部屋自体の広さがどうにも合っていないのだ。そして、そのまま地図の表記にも違和感を覚える…気のせいかもしれないが、その引っ掛かりがどうしても気になってしまった。
「(…方角……向き……待てよ、確か……もしかして…)なぁ、あんたらの祭壇も2階にあるんだよな。それらの気配は辿れないのか?」
『…難しいですね。あっ、でも私たちの祭壇がどの位置に作られたかは覚えていますよ』
『伯爵の力を封じるために、遺物を四方の方向にて納める必要があったからな』
『…みんな…バラバラ…わたし……西』
『私は北ですね。そして、レイが…』
『南だな!それで、サンが…』
「東側ってことか…」
『…でも…サンの力…弱く感じる…きっと……正反対の…場所に…いる』
「……………」
3人から新しいヒントをもらえたことで再度地図を見る。もしも俺の考えが当たっているとすれば…そう思い、俺はその部屋へと向かうのだった。
『妖精殿…ここは南側の一番端の部屋ではないか?』
レイが疑問符を浮かべながら言葉にしたが、俺は2階の螺旋階段の出口から真っ直ぐ出たところの通路に沿ってそのまま進み、一番奥の部屋にやってきていた。レイが言うように、1階の玄関があった通路に属するのだろうが、俺はレイの言葉に応えずに部屋を再び物色し始めた。
『…ここにサンがいるのですか?どちらかと言えば、西側の部屋を探すべきではないでしょうか』
「いや、だったらこの部屋であってるよ」
『『『…?』』』
サリアが他の部屋を探すべきだと進言するが、俺はこの部屋で問題ないと告げて、本棚のあたりを調べていく。どういうことだと3人が顔を見合わせる中、俺は自分の推測を述べていく。
「人間って、回転移動を行うと位置の認識を誤りやすいことがあるんだ。特に、同じ光景が続いたりすると特にな。螺旋階段の中は独立していているし、階段を上り下りした際に、その方角を気にすることもない…出た時の方角が、入ってきた方角と一緒かどうかなんてまず気にしない…(地図と屋敷の構造的に、多分この辺の筈…)…うん?この本棚の本…これだけ奥に押し込めるぞ…」
これがクエストということなら、ノーヒントで探せということはない筈…3人の証言と地図の情報を頼りに俺はある仮説を立てた。
この地図…2階部分の記載についてミスリードがあるのではないかと。そして、それは部屋の構造…正確には、方角についてではないか。
フィリアが違和感を覚えたのはきっと地図の記載とこの屋敷の構造に違和感を覚えたからだろう。よく宝探しをしているフィリアからすれば、トレジャーハンターとしての勘が騒いだのだろう。
そんな推察と共に本棚を調べていると、1冊の真っ黒な本が更に奥に押し込めることに気付いた。表面上はきちんと整理されているように見えるが、こうして触ってみないと分からない仕掛けだったらしい。
俺が本を押し込むと、そのまま黒い本は奥へと吸い込まれるように、勝手に収納されたと思えば、
…ゴゴオォォォ
「…フィリアの言葉を借りるのなら、ビンゴ、ってところか」
『やるな、妖精殿!』
本棚自体も背後にスライドした後、地面に収納されたことで、隠れた通路…3階へと繋がる階段が姿を現した。どうやら3階という隠された階層もあったようで、フィリアがいれば言いそうだと思いつつ、レイからの称賛を受けながら、俺は3階へと歩を進めた。
3階は屋根裏部屋のような小部屋だった。そして、周囲を見渡すと、
「これが…祭壇ってやつか。そして、置かれているこれが…」
久々に見た赤色の炎を灯した2本の蝋燭が立つ小さな台座…そこに剣を象った装飾の台座が祭壇だと判断した俺は、その祭壇に置かれている遺物…最後の遺物である『赤陽の剣秘飾』を手にした。
すると、案の定、赤い光球から人の形を形成し、その姿を…
『遅いです!!!』
「『『『…?!』』』」
第一声がまさかの怒号だったため、俺(と霊体(と呼んでいいのか?)である3人までも)は思わずビックリしてしまった。
『もっと早く見つけてくれてもよかったじゃないですか!?私1人で心細かったし、伯爵の力を抑えるのも大変だったんですよぉ!?』
「…これ、勇者?」
『アハハ…戦いになったら凄かったんですよ?』
どこか泣きそうになっている女勇者…サンの情けない姿に、俺は思わず指差しながら、仲間の3人に尋ねてしまった。苦笑しながらサリアが肯定していたので、どうやら生きている時からそうだったらしい。
…余談だが、ゴースト系とかに怯えるアスナに似ていると思った。髪色が深紅という違いはあるが、この勇者、どこかアスナに似ているのだ。そういえば、レイはゴツイ体格となったリズ、サリアはお淑やかになったアリス、ソレイユはボブカット+感情を殺したシリカ…という感じがする(そっくりというわけではないが、似ているという感じだ)。
『…でも…やっぱり、サンは凄い…わたしたち抜きで…伯爵抑えた…』
『流石は4騎士のリーダーだな!』
『あー、また言ってる!?パーティ名はフレア・バスターズでしょ!』
『そのくだりはもうやりましたから!?』
『見てたわよ!?私を置いてみんなで楽しそうに!?私が1人頑張って封印を維持してたのに、ワイワイ盛り上がって『…ドン!!』…あっ』
「感動の再開を邪魔して申し訳ないんだけど…俺の仲間が大変なことになってるんだ。さっさと話を進めさせてもらっていいか?」
『『『…す、すみません』』』『…ごめん』
集結したことでまた漫才が始まりそうになったのを、わざと両手剣にて地面を叩き、更に圧を込めた声で中断させる。流石の4人も俺が我慢しているのだと悟ったらしく、謝罪をした上で話の本筋に入った。
『コホン…妖精さん。まずは私たちの残影を回収してくれたことについてお礼を申し上げます。それと同時に、伯爵の封印を破れそうになっている以上、今度こそ伯爵を倒すしかありません』
「ああ。後はあんたたちの遺物を正しい祭壇に設置すればいいんだよな?」
『そうです。バトラーは遺物を動かすことはできましたが、祭壇を破壊することはできませんでした。私が最後の力で邪なる者の力を跳ね返す結解を施したためです。そのため、妖精さんを利用して、遺物を無きものにしようとしたのでしょう。もっとも、妖精さんの力を侮っていたようですが…』
一気に雰囲気が変わったサンの言動に驚きつつも、俺は彼女の言葉に応えていく。それと同時に、祭壇が無事だった理由を明かされ、納得していた。それほどまでにサンの力は強いのだろう。
あとは、各祭壇に正しい遺物を設置すればいい…そう思い、まずは『赤陽の剣秘飾』の代わりに、祭壇に『緑陽の探秘盤』を置いた。
『……………』
ソレイユは特に何も言わないでいたが、祭壇の炎が緑色に変わり、そして、光に包まれた。どうやら正しい遺物を設置すると、このような反応を見せるようだ。
「…祭壇の隠し方は分かった。このまま一気に探しに行こう」
『お願いします、妖精さん』
そこからは先はすぐだった。祭壇の場所とその行き方の隠し方が分かっているのだ、そして、方角と地図から場所についてもある程度の推察はできた。北と南にある祭壇もすぐに見つけ出し、レイとサリアの遺物を設置した。そして、最後に東の方角でサンの遺物を祭壇に置くと…
…ゴゴゴゴォ!!!
「…!なんだ、今の揺れ…」
『…どうやら伯爵の目覚めが近いようです。ですが、これで…全ての準備が整いました』
屋敷全体が大きく揺れ体勢が崩れる…その揺れの正体が伯爵によるものだとサンが語ったところで、もう時間的猶予がないのだと悟った。
「このまま伯爵のところに向かったので大丈夫なんだな?」
『ええ。奴と対面した時、私たち4人が伯爵の力を弱めます。妖精さんには、伯爵の肉体を滅ぼしてほしいのです』
「肉体を滅ぼす…?とりあえず、伯爵を倒せばいいってことは分かったよ」
『それともう一つお願いしたいことがございます。伯爵と対峙した際に…………と。でなければ、私たちが力を行使することができないので』
「…分かった。なら、また後で頼む」
その言葉を最後にサンは姿を消してしまった。これで伯爵に勝負を仕掛けることができるようになったのだと判断し、俺は再び地下へと急ぐのだった。
「…っ!(さっきよりも…地下の雰囲気が重くなってる…!)」
地下の階段を駆け下りていたが、その最中、俺は地下を漂う空気が重く、そして、生臭いものになっていることに気付いた。呼吸するだけで気分が悪くような…現実ではそう味わうことのない嫌な空気に、俺は覚悟を決めて…伯爵がいる地下室へと再び足を踏み入れた。
『…光の4勇士どもと何かをしていたようだが…また無駄な戦いを挑みにきたようだな』
部屋の奥の祭壇に佇んでいた伯爵は、部屋に駆け込んできた俺を一瞥し、そのような言葉を放ってきた。その視線は先程と同じように…俺を敵ではなく、ただの小物としか見ていないようなものだった。
「さっきのようにはいかないぜ。悪いが、今度こそフィリアは返してもらう」
『ふん、貴様の要求など知らぬな。また…いや、今度こそその命を散らせてやろう』
俺も負けじと反論するも、伯爵は一切介さず、指を鳴らした。その鳴らし方は見覚えがあった…それにより、地下室に血雨を降らせる雲が再び出現しようとしていた時だった。
『…今です、妖精さん!』
「ああ!…たいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
サンの言葉が脳裏に聞こえ、俺は右手を空へと掲げながら叫んだ!それは、サンから最後に頼まれていたことだった。
伯爵の力を弱めるため、その封印術を発動させるために1つの言葉を発してほしいと…そのワードである太陽の言葉を叫んだことで…サンたちの最後の力による封印術が発動する!
『な、なにぃ!?ぐぅぅ…があああああああぁぁぁぁぁ?!』
雲を切り裂き、伯爵を4色の光柱が包み込んだ!そして、そのまま光が伯爵を焼き尽くすように降り注ぐ!先程以上の悲鳴が伯爵から上がり、光に焼かれた身体から黒煙が零れ上がっていく。
『…よ、4勇士どもがぁ!?よくも我の闇夜の血衣を…羽虫、貴様は決して生かしては帰さんぞぉ!?』
「本性が出たな…生かして帰さない?フィリアに手を出したんだ…てめぇこそ覚悟できてんだろうな!!」
光が止んだところで、激高した奴からとんでもない殺意がぶつけられる。だが、その殺意に対し、ここまで堪えていた我慢が限界を迎え、俺も闘気と共に殺意を解放した!
互いの殺意がぶつかる中、伯爵…『The immortal vampire』の横に3本のHPが表示されたことで、ボス戦の火蓋が切られた。
両手剣を抜きながら俺が接近戦を仕掛けようとするも、伯爵は両腕の指を連続して何度も鳴らす。それに連動し、様々な魔法が俺に襲い掛かってくる。
炎の球の連射、地面からランダムで生えてくる血の槍、誘導性がある鉄の輪の召喚…身動きせずに放たれる魔法の数々は、俺を近寄らせまいとしていた。
「……………」
『…どうした。我に一太刀を浴びせられていないぞ?』
ランダムに放たれる魔法…プレイヤーが使うものとは全く異なる魔法は、俺の進撃を足止めしていた。
俺が近寄れないことに、少しばかし余裕を取り戻したのか…伯爵の顔に冷徹な笑みが宿る。だが、伯爵は理解していなかった…いや、俺を甘く見過ぎだ。
「…もう見切った」
『…?』
様子見はもう終わりだった…おおよそのパターンは見切ったことで、俺は空いていた左手で背中の片手剣を抜いた。そして…一気に仕掛けた!
伯爵も俺の雰囲気が変わったことに気付いたようだが、その前に俺が再び接近しようとしたことに、魔法で迎撃をしかけようとしていた…が、俺は伯爵の指の動きだけを見ていた。
『…な、なに?なぜ魔法が当たらない…?!』
炎と血槍は避け、金属の輪は軌道を逸らし、十字架を飛ばしてくる攻撃はその隙間を掻い潜る…ありとあらゆる魔法を乱雑に放っている筈が、それらが俺に一切直撃しないことに、伯爵が困惑する。
…魔法といっても、伯爵は呪文ではなく指の動きで発動している。それはつまり、指の動きで発動する魔法が何かを容易に予測できるということだ。呪文いらずの即時発動と言えば聞こえはいいが、指の動きで読み取れる以上、覚えてしまえば、避けることなどそう難しくない。
焦って魔法のコントロールが雑になり、ますます当たらなくなったところで、俺の接近を許した伯爵は、慌てて拳を振って迎撃しようとするが…
「遅いんだよ!」
僅かに身体をずらすだけでその拳を躱し、返す刀で両手剣と片手剣を同時に振り、伯爵の胴体を斬りつける。防御力はそこまで高くないのか、ただの斬撃で2割ほどHPが減った。このまま肉薄し続け、斬撃を加えていけばと思っていたが、そう簡単にはいかず…
『うっとおしいわ!?』
「っ?!」
両腕をクロスしたと思いきや、それを伯爵が振り下ろすのと同時に、奴の身体から赤い竜巻が放たれる!どうやら接近時の迎撃技があったらしく、俺の身体を血風が切り刻む!
「っぅ…!こ、のぉぉ!!」
少なくないダメージが入るも、足を踏ん張ることで吹き飛ばされるのをなんとか防ぐ。そして、強引に血嵐を破るべく、ソードスキルを発動させる!
両手剣単発ソードスキル〈サイクロン〉が血嵐にぶつかり、歪な音を立てる!だが、拮抗したのは一瞬…血嵐とソードスキルが相殺され、再び伯爵の身体が未防備になる!
「…!貫けぇぇ!!」『吹き飛べ!』
そのまま剣技連携にて左手の片手剣にてソードスキルを放つ!俺の追撃に気付いた伯爵も右拳で反撃するも、拳に刀が突き刺さる。だが、お構いなしに伯爵は拳を振り抜こうとするも…その前に片手剣をソードスキルの軌道に併せて操る。
幻想剣≪片手剣≫重2連撃ソードスキル〈ブレイス・ホイール〉の2連撃目による回転斬りが、拳を伝うようにして、そのまま奴の身体に斬撃を浴びせる!ダメージに怯む伯爵…そして、再び血嵐を放とうと両腕をクロスしようとしていたが…一手遅かった。2度目の剣技連携…幻想剣≪両手剣≫単発ソードスキル〈フォール・ルイン〉が、今度は頭から縦真っ二つに伯爵の身体を斬り裂く!
…これで伯爵のHPバーは1本減り、残り2本となった。このまま削り切ると思った矢先だった!
『ぬあぁ!!』
「ぐぅ?!」
ノーモーションで叫んだ伯爵から衝撃波が放たれ、俺は無理矢理距離を取らされる。HPの変動による行動パターンの変化によるものだと理解し、戦いは祭壇上から地下室の広場へと移る。
吹き飛ばされた俺を追うように、ふわりと移動してきた伯爵が着ていたマントを脱ぎ去る。そして、脱ぎ去ったマントが奴の周りに黒い霧となった思いきや…伯爵がなんと3人に分裂した!
『『『さぁ、無様なダンスを舞うがいい』』』
「…またありきたりな…チープな技だな」
言動が連動しているようで、挑発の声が揃うだけでなく、拳を構えたファインティングポーズまでもが連動していた。だが、それを目にした俺は溜息を吐きたい気持ちを堪える代わりに、そのような言葉を吐いた。
分身した2人の伯爵が素早く動き、3方向から俺を包囲するように迫る。一方で俺は…特に何もしないでいた。種は既に見切っているため、逆に奴に気取られないようにするため、ワザと冷めた態度を取っていた。
それが功を制したのか、奴は俺が分身を見切れていないのだと思ったのか、愉快そうに笑う。そして、そのまま3方向から同時に拳を振り下ろすも…俺はその直前に跳躍し、空へと逃げる。それと同時に2つの剣にライトエフェクトを宿らせる!
「…影があるのが本体だろう!」
分身した時点で、見分け方のパターンは何通りかあると思い、それに沿って観察して、すぐに気づいた。1体だけ影があるのだから、そいつが本体なのだと…空に跳んだ俺を追うように視線を上げる伯爵たちだったが、また一手遅かった。
全力で叩き潰す…それだけが理性として残っていたこともあり、俺は一切の加減なしで、全力の必殺技を繰り出す!
「マージニック・ステラファントム!!」
幻想の星々の如く、剣の軌道を描く18連撃…OSS〈マージニック・ステラファントム〉が伯爵の身体に刻まれる!全ての連撃を浴びせるまでに多少の時間を要するため、その間は敵の攻撃を受ける可能性も高いのだが…伯爵の分身からの攻撃も避けながら、斬撃を浴びせていく!
巨体であるがゆえに攻撃範囲は広いが、逆に大振りになるためスピードはそこまで早くない…最後の2振りによる大振りの一撃が伯爵の2本目のHPを削り切った!
「あと…1本!」
このまま…もうすぐフィリアを助けられる。その思いと共に思考が更に加速する。あと少しで倒せる、もう少しだと…その思いを裏切るかのように、伯爵は最悪の一手を打ってきた。
HP変動によるパターン変更により、再び俺は衝撃波で吹き飛ばされる。そして、伯爵は祭壇へと戻ったと思えば、
『…我に傷を与えた代償として…貴様に最悪の悪夢を見せてやろう』
仕切り直しだと思い、俺はすぐに回復結晶でHPを全快にしている隙に、伯爵は意味深な言葉を呟き…これまでとは異なる動きにて指を鳴らした。すると、
…パキン…
フィリアを拘束していた十字架がゆっくりと地上に降りたと思いきや、そのまま砕け散った。フィリアを解放したのかと思った矢先、その推察は一番最悪の形で裏切られた。
『…ぐうぅぅぅ!!』
「っ…!フィリア?!」
地上に降り立ったフィリアの見開かれた目は赤く…そして、その口から2本の長い犬歯が伸びていた。その異常な姿に俺は何が起こったのかをすぐに察した。そして、伯爵の行動に…更に怒りが募った。
ブチギレそうになる理性をなんとか堪えるも…状況はそれを許してくれなかった。唸り声を上げたフィリアが俺に襲い掛かってきたのだ!
「っ…フィリア、止めろ!」
『があああああぁぁ!!』
「っ!?(くそっ…フィリアを攻撃するわけには…)」
『…降れ、血の雨よ』
「なぁ…(ここで伯爵も攻撃してくるのか…!)」
俺を噛み殺そうとばかりに肉薄してくるフィリアに、俺は躱すことでしか対処できない。俺がフィリアを攻撃できないと察した伯爵は更に歪んだ笑みを浮かべ、更なる追撃を仕掛けてきた。
例の血の雨の攻撃が始まり、俺とフィリアにダメージが入る。もっとも、フィリアはヴァンパイアとなっているせいか大したダメージになっていないが、俺にとっては継続的なスリップダメージが入り続けていた。最初に受けたものと比べればダメージ量は少ないのだが、全身に感じる不快感と痛みは俺の動きを鈍らせるには十分だった。
(ハイポーションでの継続回復でダメージはなんとかなる…なんとか伯爵に近づかないと…!)
フィリアの襲撃を掻い潜り、ハイポーションを口にする。ほんの少しだけハイポーションによるリジェネが上回ることで血の雨のスリップダメージを無視することができたが、このままではじり貧だった。
伯爵のHPは残り1本…幻想剣ソードスキルならあの程度のHPを吹き飛ばすことは造作でもない。だからこそ、接近さえできればと思っていたのだが…
『小娘…奴を取り押さえろ』
「っ…!?(な、なんだ…足が急に…!)」
奴に接近する方法を考えていたところで、急に足が何かに掴まれたように動かなくなった。何事かと足へと視線を向けると、血で象られたような複数の手が俺の足を拘束していた!
これまで指パッチンで魔法を発動させていたため、まさか伯爵がノーモーションでこんな魔法を発動させられるとは思ってみなかった俺は完全に油断していたところを突かれた。そして、動揺したところをフィリアが襲い掛かってくる…なんとか噛みつかれることは回避したが、その襲撃を防ぐために俺は両腕に持っていた武器を手放し、フィリアの腕を抑える!
…だからこそ、それが完全な隙を生み出してしまった。四肢を塞がれてしまった俺を、伯爵が見逃す筈がなかった。
『…散れ』
「くっ…(こいつ、フィリアごと俺を…?!)」
今まで見たことがない程の火球を掌に出現させた伯爵の行動を理解した俺は…迷わず力の限りを振り絞り、フィリアを火球の衝撃から逃すべく突き飛ばす!その直後だった…放たれた高速の火球が俺に直撃したのは。
両腕をクロスしてなけなしの防御を図るも…全身が焼かれるのと同時に、俺の身体は地下室の壁へと叩きつけられた!
衝撃によって全身の空気が口から零れ、俺の身体は地面に崩れ落ちる。そのHPは既にレッドに突入していた。
『…小娘、その羽虫の命を刈り取るがいい』
『ううぅ…がああああああああぁぁ!!』
伯爵の容赦ない命令がフィリアに下り、その指示のままにフィリアが俺に飛び掛かってくるのが見えた。それを視界の端に捉えていた俺は…
……ガキィン!
『うがぁ…?!』
飛び掛かったフィリアの犬歯が俺の喉笛を噛みちぎろうと、すぐ近くにまで顔が近づいていた…だが、その歯が俺に届いてはいなかった。咄嗟に背中の片手剣の鞘を盾にしたことで、フィリアはその鞘に嚙みついていたのだ。だが、その力は凄まじいもので…俺は抑えるのがやっとの状態だった。
腕力も限界寸前…どうすると思っていた時だった。俺の身体に温かい何かが落ちてきていた。それは…
『…ううぅぅ…うぅ!?』
フィリアの目から零れる涙だった。それを見て、フィリアの意識はそのままで、身体だけが操られているのだと悟ってしまった。そして、フィリアの涙を見た俺の中で…完全に理性が切れた。
「…伯爵。お前だけは……死んでもぶっ飛ばす!!」
殺意…というよりも、フィリアをこんな目にあわせ、泣かせたことに、理性がブチギレた。限界など忘れ、俺はフィリアをそのまま押し切り、鞘ごと放り投げた。そして、あらん限りの力で駆け出す!
だが、奴は俺の動きを予測していたようで…再び巨大な火球を放とうとしていた。あのスピードで放たれる火球を避けることは困難だろう。だからこそ、俺は回避も防御することも選択肢から既に捨てていた。
ポーチに残っていた最後の回復結晶でHPを全快にし、そして、地面に手放してしまっていた両手剣と片手剣を拾い上げる。
『…わざわざその命を捨てに来たか、羽虫がぁぁ!?』
俺が一切避ける気がないのだと知った伯爵が一番の笑みを浮かべ…そして、火球を俺に放った。その火球を前に俺は…一切スピードを緩めることなく、突っ込んだ!
…火球が直撃したことによる爆発が発生する。その突風は周囲に伝搬した…伯爵にもその衝撃は伝わり、俺に火球が直撃し、消し飛んだと思った…満足げに笑みを浮かべた。両手剣と片手剣が半壊し、その斬撃がパラパラと地に落ちたことで…伯爵は勝ったと確信した…その瞬間だった。
「…うおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」
『なにぃ!?』
爆炎から俺が飛び出してきたことに、伯爵の笑みが凍り付く。装備していた蒼炎の烈火も半壊し、所々が焼けたことで焦げてしまっていたが…俺のHPはまだ半分と少し残っていた。
…火球が直撃する寸前、俺は両手剣と片手剣を…片手1本で無理矢理2剣を持ち、強引にソードスキルを発動させたのだ。幻想剣≪両手剣≫単発ソードスキル〈フォール・ルイン〉で可能な限り火球の威力を殺し、そして、その衝撃を武器を盾にすることで緩和させたのだ。
さらに、フォール・ルインの硬直時間は0.2秒とかなり短い。技を放った直後に硬直が解ける…だからこそ、スピードを落とすことなく、俺は伯爵に肉薄することができたのだ!
そして、俺は既に最後の一撃を放つための準備を終えていた。火球の衝撃波から飛び出す直前、俺は高速換装スキルによる装備換装を行っていた。
たった一部分…右腕と左腕のみの部分換装にて変更したのは、防具『骨織りの海装束』だ。そして、その真の目的は、右肩に装備された防具兼手甲である『スカル・ヘッド』を手にするためだった。
俺を消し飛ばしたと思い、完全に油断していた伯爵は俺を迎撃しようと拳を振り上げるが…もう遅かった。俺が伯爵に手甲による拳を放つ時には、既に幻想剣ソードスキルの発動準備は完了していた。
「…ぶっ飛べぇぇ!!!」
互いの拳が交差し、奴の拳が左頬を掠めるも…俺の拳は奴の胸元に叩き込まれた!幻想剣≪手甲≫超重単発ソードスキル〈ゼーロイバー・フェアダンプ〉の一撃が、先程のお返しとばかりに、奴を壁へと叩きつけた!
「ぐううううぅぅぅ!!」
このまま押し切る…その思いと共に俺は拳を奴に押し込もうとする。だが、腐ってもヴァンパイアの主というべきか…なんと俺の左肩に噛みついてきたのだ!
『このまま貴様を噛み殺してくれるわ!?』
左肩を嚙み砕く勢いで…俺を噛み殺そうとする伯爵。その凶牙が更に食い込み、押し込もうとする拳が緩みかかり…だが、一層力を込め、俺は拳を押し込む!
『がぁ?!…き、貴様ぁ…!』
「お前は…お前だけは許さない!…フィリアは返してもらう!?」
『貴様のものではないだろうが!?』
「…!俺の女に手出すなって言ってんだよぉぉ!?」
その言葉と共に俺の拳が奴を貫いた!その勢いにより、噛みついていた奴の牙が俺から放れた。そして、ゼーロイバー・フェアダンプの特殊な攻撃…オーラによるパイルバンカーが、奴が眠っていた棺桶ごと…その身体を焼き付くすかのように光が溢れ出した。
『ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!』
その一撃によって、残っていたHPも吹っ飛び、断末魔と共に伯爵の身体は…塵となって崩れ落ちてしまった。ポリゴンではない、珍しい消え方に呆然としつつも、俺は…ようやく終わったのだと脱力してしまっていたのだが…ふと背後に気配を感じ、
「っ…!フィリ、ア…?」
すぐ近くに、俺に襲い掛かろうとしていたフィリアの影が迫っていた。ヤバいと思い、覚悟を決めた時だった。予想していた衝撃はなく、そのままフィリアが俺の方へと崩れ落ちてきたのだ。
なんとか抱き留めることで彼女の身体を支える…伯爵を倒したことで、ヴァンパイア化も解けたらしい。そこには、元に戻ったフィリアの穏やかな顔があった。
…これで一段落かと思っていたが、残念ながら事態は俺を待ってはくれなかった。
…ゴゴゴゴゴゴォォ…
「な、なんだ…?!」
屋敷が揺れ始め、何かが崩れるような音が聞こえてきた。すると、地下室の天井の破片が崩れ落ちだした。
「まさか…ボスを倒したから、屋敷が崩壊し始めたのたか!?フィリア、起きてくれ!……駄目か。こうなったら、背負って脱出するしかない…!」
左腕は伯爵に肩を噛み砕かれたことで操ることができない。右腕で左腕を動かし、メニューを開き、半壊した両手剣と片手剣をストレージに素早く収容し、右腕だけでフィリアをおんぶして、地下室から地上に向けて脱出を試みるのだった。
「…もうちょっとで玄関に…っ!?そんな…」
地下室から脱出し、玄関から外に出ようとしたのだが…俺はその光景を見て絶句した。なんと、玄関が瓦礫によって塞がれてしまっていたのだ。ちょっとやそっとでは動かせる量の瓦礫ではなく、脱出口が塞がれてしまったことにどうするべきかと思っていると、
『…ニガサンゾ…!?』
「っ…!今の声は…!?」
地の底から這いずってくるような声が聞こえ、その声の主に聞き覚えがあった俺はまさかと思って振り返る。すると、エントランスの宙に黒い炎が集まっていき…なんと、伯爵の巨大な顔が出現したのだ!
『ニガサン…ニガサンゾォォ!?オマエラモミチズレダァァァァ!!』
「くそ!ヴァンパイアだからって、しつこいにも程があるだろう!?」
フィリアを背負い、更に左腕も使用不可な上に、屋敷が今にも崩壊しそうな中、伯爵の最後の足掻きを相手にしている余力などなかった。その巨顔で俺たちを噛み殺そうとするとする伯爵の亡霊の攻撃を躱し、俺は螺旋階段へと飛び込み、2階へと逃げ込んだ。
玄関からの脱出が不可能なら、2階の通路の端にある窓から外に飛び出すしかない。少々危険だが、それ以外に手がなかった。
『マテェ!?』
待てと言われて、待って殺される奴はいない。後ろを振り返らずに、衝撃だけが背後から伝わるのを感じつつ通路を駆けていく!南側の窓までもう少し…あと少しだと思った矢先だった。
『ニガサンゾォ!!?』
(しまった!?回り込まれた!)
背後を振り返っていなかったことが仇となった…窓を目の前とした矢先、地面から伯爵の顔が飛び出してきたのだ!咄嗟に止まったことでぶつかることはなかったが…逃げ場を塞がれてしまった。
『シネェェェ!!』
打開策を思いつく間もなく、そのまま伯爵は俺たちを飲み込もうと大きく口を開け、飛び込んできた。万事休すと思った時だった。
「…しつこいのよぉ、あんた!!」
背後からその声が聞こえたと思いきや、何かが伯爵に向かって投げつけられた!それが、意識を取り戻したフィリアが投げたものだと理解したのと同時に、水のような何かが伯爵の怨霊にかかった。
『っ!?ぎゃあああああああああぁぁぁ?!』
どうやら伯爵にとっては苦手なものだったらしく…伯爵の怨霊は絶叫を上げ、そのまま通路の壁にぶつかり、地面に横たわってしまった。
「フォン、今のうちに!」
「…!?あ、ああ…!」
状況を理解する前に、フィリアの叫びに我に返った俺は、再び駆け出し、そのまま窓から外に飛び出した。飛び出した直後、屋敷も完全に崩壊し…俺は地面の落下からフィリアを庇うべく、そのまま地面に擦れるように不時着した。
「……ふぅぅ…どうやら、これで完全に終わっ『マダダ…!』…っ!嘘だろう…」
屋敷が崩れ落ち、跡形もなく崩壊したことで…俺はようやく安堵の息を吐こうとした直後、あの声が聞こえた。その声に連動して、また地面が…いや、崩壊した屋敷の残骸が揺れていた。
そして、その残骸から伯爵の怨霊が飛び出してきたのだ!まだ倒せていないのかと俺が、そのしつこさに歯噛みしようとした矢先だった。
『いえ、これで終わりです!!』
『っ…?!ぐぎゃああああああああああぁぁぁ!?』
凛々しい声共に4つの光が屋敷を覆っていた分厚い黒い木々の影をぶち破った!それにより、遮られたいた日光が伯爵の怨霊へと降り注いだ!それが止めとなり…伯爵の怨霊は陽の光に焼かれてしまったのだった。
『…妖精さん。これで私たちの使命を果たすことができました。最後に…お礼を申し上げます』
伯爵の怨霊が完全に消え去り…そして、最後に助けてくれた4つの光…サンたちが姿を現し、その言葉と共に彼女たちの光球も空へと登るように消えてしまった。
「…終わった、みたいだね」
「だな…ったく、とんだ宝探しになっちまったな」
宝探しから、ホラーサバイバルにボスとの連戦に脱出ゲーム…もうお腹いっぱいだと思っているところに、フィリアの言葉に応えつつ、俺はようやく安堵の息を吐くのだった。
「…ゴメンね、フォン」
「うん?何がだ?」
フィリアをおんぶしたまま帰路についた俺は、フィリアの謝罪に首を傾げていた。
「私が誘ったクエストのせいで…フォンを大変な目に逢わせちゃって…本当は、フォンと一緒に宝探しをしたかっただけなのに…」
「…全然気にしてないよ。むしろ、フィリアに何かあった方が、俺としては嫌だったしな。それに…こういうのもありだろう。その…ちょっと変わってるけど、恋人としては…」
「…っ~~//。なんで、フォンはそういう恥ずかしいことを平然と口にできるのよぉ…!」
少しばかり気恥ずかしと思いつつ、本心を告げると…フィリアから慌てた口調と共に、背中を叩かれた。まぁ、これくらいは許してほしいものだ。そんなことを思っていると、
「…でも、フォン。一つ気になっていることがあったんだけど…」
「ん…?何がだ…?」
「なんで、半ヴァンパイア化した私を倒そうとしなかったの?」
「えっ…いや、いくらなんでもフィリアに剣を向けるなんて選択肢はなかったよ。そんなことするくらいなら、フィリアにやられる方を選ぶさ」
「っ…そ、それは嬉しい答えなんだけど…別に私は倒されても、リメイントライトになるだけで、その時点で半ヴァンパイア化としての状態異常は解けるから、それであとは蘇生させれば、フォンが苦戦することはなかったんじゃないの?」
「……………」
その指摘に…俺は思わず足を止めてしまった。フィリアがどうしたのかと思っていると、俺が足を止めた理由に気付いたようだった。
「…もしかして、気づいていなかったの?」
「っ~~~~~~!?」
フィリアの指摘に、俺は声にならない悲鳴を上げていた。正直言って…完全に失念していた。フィリアが奴に囚われたことと、伯爵から助けることで頭がいっぱいになってしまっていて、その方法が完全に頭から抜け落ちてしまっていたのだ。
「…フォンって普段は冷静なのに、なんっていうか…私やユウキたちのことになると、変なところでかなりポンコツになるよね?」
「…わ、悪いかよ」
もう言い訳の仕様がないことに、俺は真っ赤になった顔を覆いたくなった。フィリアを背負っているのと、左手が使えないこともあって、顔を覆うことができないのだが…なんとなく、フィリアが苦笑していることだけは背中越しに分かった。
もう言い訳することもできず、俺は口を尖らせながら開き直っていたのだが、そんな俺に対し、フィリアは体重を預けるように抱き着いてきて…
「ううん…ちゃんと私のことも愛してくれるんだなって表現してくれて、私は嬉しいよ?」
「…そ、そうか」
「それに…私は、フォンの大事な人…愛している女なんだって想ってくれているだけで…私にとっては十分だから」
「愛して……あっ!?」
フィリアの告げた言葉に、俺は一瞬呆然とし…思い出したことで更に顔を真っ赤にした。伯爵に止めを刺した際の言動…今、思えば、半ヴァンパイア(という状態異常だったらしい)になっていたフィリアには意識があったのだ。
…つまり、俺の超恥ずかしい言葉も聞いていたわけで…
「…そうだよ!フィリアに俺にとって、あんな恥ずかしい言葉を叫ぶくらいに…大事な人だよ、悪いか!」
もう諦めと同時に開き直るしかなく、俺は叫ぶ。そんな俺の様子を見て、フィリアは困ったように笑い出すのだった。
「そんなに笑う元気があるのなら、落っことすぞ…」
「え~、さっきまで半ヴァンパイアになっていたんだから…もう少し甘やかしてほしいなぁ…」
「…主街区が見えるまでだからな」
誤魔化すために暴言を吐くも、フィリアの甘えた言葉に…俺はそれ以上反論することもできず、フィリアをおんぶしたまま帰路につく。
…なんというか、俺は甘いのだろうな。フィリアに…ユウキやカナデにも、どうしても甘くなってしまうらしい。
「(惚れた弱みって奴か…)…そういえば、最後に伯爵に投げたアイテムって…何だったんだ?」
「宝探しの途中で見つけたアイテムだけど…聖水って書かれてたから、あいつにも聞くかなって。フォンは見つけなかったの?」
「遺物を探すのに必死で、他のアイテムなんて目についてなかったよ…それどころじゃなかったしな」
本人たちには絶対に言わないが…そんなことを思いつつ、俺たちは談笑しつつ、陽の当たる道を歩いていくのだった。
最後の最後で、ようやくキャラエピっぽくなりました。
今回、フォンが好戦的だと思った方もいると思いますが、理由は単純…フィリアのピンチに、理性がちょっと飛んでいただけでした(黒笑)
フィリアが行方不明→ブチギレ度10%
バトラーの挑発→ブチギレ度30%
伯爵との邂逅により、フィリアが十字架に張り付けられている姿を見た時→ブチギレ度60%
フィリアごと攻撃されそうになり、更にフィリアの涙を見たこと→ブチギレ度90%以上
…ようは、相手がフォンの逆鱗を踏みまくったのとが原因でした。本当に怒らせると怖い人です、うちのオリ主は(苦笑)
さてと、本キャラエピのモチーフは『ボクらの太陽』でした。伯爵はまんまあのキャラと、『悪魔城ドラキュラ』で、バトラーはロックマンエグゼ4や5に出てきたシェーエドマンだったりします。
伯爵は読者のみなさんもなんとなく予想ついていたと思います。攻撃が当初通じない設定は、3作目である通称『新ボク』や2作目のクロスオーバーストーリーでの隠しボスのオマージュでした。
それでは、次回のキャラエピで…と思っていましたが、公開順を公表していなかったので、ここで告知です。
次回はアンケート1位であったミトのキャラエピになります。また、今後のスケジュールは、以下の順を予定しておりますので、ご期待ください。
①ミト
②ユイ
③リーファ
④シノン
⑤シリカ
⑥リズ
キャラエピ第2段!どのキャラから見たいですか?(時系列の問題で多少前後することがあります)
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リーファ
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シノン
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リズ
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シリカ
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ミト
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ユイ