ほぼ説明会になりますが、オリ設定の解説もしないといけないため、めちゃくちゃ長くなりました。
会話シーンが多くなりますが、ご容赦頂ければと思います。
それでは、どうぞ!
おみやげグレネードによって、キリト、シノンとともに同時優勝したことで第3回BoBは終わった。
結果画面ということで、予選でも使った待機室へと俺は転送されていた。
そこで、俺は順位を見ていたのだが・・・
(回路切断が、ペイルライダーの他にもう一人・・・やっぱり現実世界の共犯者も2人以上いたのか・・・)
制限時間がゼロになり、俺は思考を辞め、意識が遠ざかるのを感じた。今は現実世界に戻ることが先決だ・・・まずはシノン・・・詩乃の安全を確保しなくては・・・
「うん・・・ううん・・・」
「和人君!和人君!」
「・・・もう大丈夫だよ、明日奈」
「・・・うん?明日奈・・・?」
現実世界に戻ってくると、明日奈の声が聞こえてきた。それに答える和人の声もだ。
「あっ、蓮君・・・良かった」
「・・・どうして、ここに?」
「その・・・菊岡さんに和人くんたちの場所を聞いて・・・」
「ああ、なるほど」
ということは、俺たちがGGOに行っていた理由もバレたわけだ。
「・・・そうだ!シノン・・・!行かないと・・・!?」
「か、和人君・・・!?」
「悪い、明日奈。俺、今すぐ行かないと・・・!?蓮、菊岡への連絡を頼む!」
「わ、分かった・・・気を付けろよ!」
和人は慌てて、電極を強引に外して、俺にそう頼むと、病室を後にした。
「ちょ、ちょっと!桐ヶ谷君!?」
「安岐さん!今すぐ菊岡さんに連絡したいんです!お願いできますか?!」
「・・・!分かったわ、ちょっと待ってて」
俺の剣幕にただ事でないと悟ったのか、安岐さんはすぐに菊岡さんへと連絡を取れるように動いてくれた。
「ど、どういうこと、蓮君・・・?」
「今から話すよ・・・菊岡さんにも聞いてもらわないといけないんだけど・・・」
「・・・もしもし!・・・音弥君、繋がったわ!」
困惑する明日奈を制止し、安岐さんから電話を受け取った。
「ありがとうございます!もしもし、菊岡さん!」
『菊岡だ。音弥君、どうしたんだい!?』
「要件は二つ!まず一つ、ある人の所にすぐに警察を派遣してほしいんです!彼女の名前は朝田詩乃。デス・ガンに狙われていたプレイヤーの一人です!もしかしたら、彼女に危害が加えられる可能性があります!
今、和人が向かってますが・・・念のためにそちらから警察への要請をお願いします!住所は・・・・・」
俺は要点をまとめ、菊岡さんに情報を伝える。菊岡さんも緊急とのとこで余計なことは聞かずにいてくれた。
『分かった。すぐに人を向かわせる。おい、すぐに捜査官を向かわせろ!住所は・・・・・』
おそらくすぐに人を動かせるように待機してくれていたのだろう。電話越しに指示を飛ばす菊岡さんの声が聞こえた。
『それで、もう一点は!?』
「デス・ガンの正体について・・・もうご存知かもしれませんが、犯人は元『笑う棺桶』の残党です」
『・・・『笑う棺桶』・・・明日奈君たちが言っていた通りか』
「はい・・・ただ、犯人たちは現実世界と仮想世界とで連動して殺人を行っていたんです」
『・・・ど、どういう意味だい・・・?』
俺は電話口の菊岡さんと、その場にいた明日奈、安岐さんに説明した。
デス・ガンと名乗るプレイヤーがSAO生還者である『赤目のザザ』と『キバオウ』だったこと、
デス・ガンは仮想世界においてプレイヤーを銃で撃つと同時に、共犯者が現実世界で薬物か毒で殺人を行っていたこと、
この大会で2人の死人が出ていること、
それらをかいつまんで話した。
「・・・というわけだったんです。おそらく、現実世界の共犯者もSAO帰還者、レッドプレイヤーの可能性が高いです。すぐに調査をお願いします!」
『・・・分かった。うん・・・?ちょっと待てよ・・・?』
「・・・どうしましたか?」
『いや、今『赤眼のザザ』のパーソナルデータにアクセスして、アミュスフィアの履歴を見ていたんだが・・・彼は医者の家の子どもみたいだね。それに弟がいるみたいだ』
「それがどうかしたんですか・・・?」
『いや、その弟君もどうやらGGOをやっているみたいでね・・・アミュスフィアの履歴によると、彼のアバター名は『シュピーゲル』というらしい』
「・・・・・えっ?」
その言葉に、俺の思考は一瞬停止し一気に加速した。
〈彼はシュピーゲル。リアルでの友達で、彼にGGOを教えてもらって、私も始めたの〉
〈近くに信用できる友達が住んでるから〉
「・・・マズイ!」
「れ、蓮君!?」『音弥君?音弥君!?』
最悪の考えに俺は電話を放り出し、明日奈の制止を振り切り、病室を飛び出した。
そのまま、停めていたバイクに飛び乗り、すぐさまシノンの家へと急行した。
もし、共犯者が彼だとしたら・・・推測が外れていることを祈りながら、俺はアクセルを噴かせた。
シノンの家に着くと、和人のバイクが泊まっており、ドアが開けっぱなしの部屋がすぐ目に入った。俺はすぐさま部屋へと駆け込んだ。
「和人!?シノン!?」
「あっ・・・フォ、ン・・・?」
「よ、よう・・・蓮」
そこにはベッドのもたれかかるようにぐったりした和人と、グレーがかった髪の少女・・・おそらくシノンらしき少女が和人の傍にいた。そして、奥には誰かが倒れているようだった。
「・・・無事だったか!?」
「な、なんとかな・・・」
「・・・・・もしかして、この人は?」
和人たちに近づき安否を尋ねる。何発か殴られているようだが、一応は大丈夫のようだ。。そして、気を失って倒れている奥の人物に対して質問した。
「・・・うん。デス・ガンの共犯者・・・・・それで・・・」
「シノン・・・それ以上は、言わなくてもいい」
「・・・うん」
どうやら、彼が『シュピーゲル』ことデス・ガンの弟で、共犯者・・・なのだろう。
「もうすぐ警察も来る」
「・・・・・うん」
その後、間もなく警察が到着し、俺たちは事情聴収を受けることになったのだった。
「やぁ、桐ヶ谷君、音弥君。そして、初めまして、朝田詩乃さん・・・自分はこういう者になります」
「ど、どうも・・・」
以前、死銃の話を聞いた銀座の某高級喫茶店で俺、和人、そして和人に連れて来られた詩乃(最初は苗字で読んでいたのだが、名前で呼んでほしいとのことで、そうすることにした)は菊岡さんと待ち合わせをしていた。
菊岡さんから、例の堅苦しく分かりにくい部署が記された名刺を受け取り、詩乃は困惑していた。
「そう緊張しないで・・・とりあえず、好きな物を頼んでくれてかまわないよ」
「それじゃ・・・『本日の季節のデザート』と『ダージリンティー』で」
「え、ええっと・・・コーヒーで」
「和人・・・この『ガトーショコラ』とかお薦めだと思うぞ」
「そ、そうなのか?というか、なんで、そんなに慣れてるんだよ、蓮・・・!?」
「料理とかするから、そういう雑誌を読んで知ってるだけだ」
「・・・・・うーん」
「詩乃。悩んでるようなら、『アールグレイティー』と・・・この『ミルフィーユ』なんてどうだ?」
「・・・そうね。それじゃ、それにしようかな」
それぞれ注文を終えたところで、菊岡さんの話を聞く体制に入った・・・ちなみに、和人と詩乃に薦めたケーキがかなりいいお値段をしてたのは秘密だ。
「さて・・・今回は危険な事件に巻き込まれた上に、そのお話を伺わせてもらって申し訳ない」
「い、いえ・・・大丈夫ですから」
菊岡さんの謝罪に詩乃は恐縮しながら頭を下げていた。珍しく真面目な対応をしている菊岡さんに、普段からそうすれば腹黒く見えないのに、と思ったのは俺だけではない筈だ。
「それじゃあ、菊岡さん・・・分かっている範囲でいいので、話を聞かせてもらえますか?」
「ああ・・・とりあえず分かっている範囲で話すとね・・・
まず、今、判明している死銃の人数は4人。
逮捕されたリーダー…『ステルベン』こと『赤眼のザザ』新川昌一、
『コボルト』こと『キバオウ』小山鬼平、
現実世界の襲撃犯として、昌一の弟で朝田さんを襲撃した新川恭二
・・・そして、もう一人いるわけだが、それは後で説明するよ」
菊岡さんの言葉に俺たちはそれぞれ頷いた。
もう一人の共犯者も気になるが、話の順序を壊すのは悪いと思い、聞きに徹した。
「事の発端は、新川昌一だ。彼は総合病院の院長を務める家系の長男なんだが、幼少期から体が弱く、何度も入退院を繰り返していたらしい。
そのせいで、高校の入学が遅れ、父親からも見切りをつけられていたらしい。跡継ぎとしては、恭二が選ばれ、彼に期待が寄せられる一方で、昌一は孤立化していったらしい」
「・・・そんなので、兄弟間の仲は悪くならなかったのですか?」
「ああ、そういうことは決してなかったらしい。弟の恭二がVRMMOを始めたのも、病弱だった昌一がのめり込んでいたことが影響されているらしい。
さらに・・・昌一はSAOでの殺しの話を弟の恭二にだけはしていたらしい」
「・・・・・新川君」
菊岡さんの話に気になった点があったので、質問するとそう答えが返ってきた。一方、友人の事情を聞かされた詩乃は悲痛な表情を浮かべていた。
「そして、SAOから帰還後・・・弟に誘われ、『ガンゲイル・オンライン』を始めた昌一がリアルマネートレードによって、光学迷彩のマントを購入したことが、死銃が生まれたきっかけだったらしい。そのマントと双眼鏡を使い、昌一はプレイヤーの個人情報を収集するのに熱中したらしい」
話の途中で菊岡さんは水を飲んだ。それに併せて俺も紅茶を一口飲み、言葉の続きを待った。
「・・・一方で、恭二はキャラ育成の方針に悩み、キャラビルドを方向転換した『ゼクシード』への恨みを相当募らせていたらしい。その話を聞いた昌一は恭二に手に入れていた『ゼクシード』の個人情報を教えたらしい。
そして、二人でどのように殺し・・・いや、粛清しようか話し合ったらしい・・・
話し合いを重ねる事に計画は現実味を増していき、遂には実行可能なのではないか、という結論になったらしい」
「・・・まさか・・・それじゃ、『ゼクシード』を殺したのは・・・」
「ああ・・・実験も兼ねたものだったらしい。彼らは父親が経営する病院から緊急時に電子キーを解除することができるマスターキーと劇薬『サクシニルコリン』を持ち出した。念入りの下調べを重ね、標的をセキュリティの低い一人暮らしに絞った。
『ゼクシード』の殺害は、現実世界で昌一がマスタキーを使って、侵入。
・・・一方、恭二は兄のキャラである『ステルベン』を使い、MMOストリームに出演していた『ゼクシード』を銃撃・・・時間を合わせて、昌一が茂村氏を殺害・・・恭二はその場でデス・ガンを名乗り、周りに印象づけた。
二人目の被害者、『薄塩たらこ』も同様の手口だったそうだ・・・ふぅ」
少し喋り疲れたのか、菊岡さんは息を吐いてから、再び水を飲んだ。
俺たちの飲み物もほとんど無くなっており、おかわりを勧められたのでそこは親切心に甘えることにした。
「・・・さて、二人を殺し、デス・ガンはGGOで有名になるはず・・・そう思っていた彼らの予想は大きく裏切られた」
「・・・GGOどころか、VRMMOではそんなものは眉唾ものだと見られたってわけか」
「・・・私も、そんな話、ただの都市伝説だと思ってたしね」
和人の言葉に、GGOプレイヤーである詩乃の同意は説得力があるものだった。
「そう・・・そして、今回の大会での凶行に走ったってわけだ」
「BoBのような大きな大会で有名プレイヤーを殺せば、注目される・・・って考えたわけか・・・」
「ああ。音弥君の言う通り、先の二件と同じ条件だった『ペイルライダー』、『ギャレット』・・・そして、朝田さんを標的にしたんだ」
「・・・だけど、複数人を殺すには障害がある」
「そう、複数人を殺すためには、実行犯がそれぞれの家に行かなくはならない。
更には、BoBのような大規模ステージであると、ゲームの中でもそのプレイヤーに接触するのも簡単な話ではなくなってくる」
おかわりで頼んだコーヒーを飲んでから発言した和人に菊岡さんがそう返した。
「それで、キバオウをもう一人のデス・ガンとして、現実世界でももう一人共犯者を作った・・・そういうことですか」
「ああ。そして、その4人目の共犯者、金本敦を実行犯として、昌一が誘ったらしい」
「・・・そいつも元『笑う棺桶』なんですか?」
「ああ。桐ヶ谷君や音弥君は知ってるんじゃないかい・・・彼のSAO時代のキャラネームは『ジョニー・ブラック』」
「・・・あいつか」
「・・・ああ」
ジョニー・ブラック・・・討伐戦で俺が牢獄へと放り込んだ相手だ。あいつの子供じみた残虐性は今でもよく覚えている。
・・・もちろん最悪の意味でだが・・・
「金本は家が近い『ペイルライダー』と『ギャレット』の実行犯を担当したらしい。恭二はシノンを引き受けた・・・今回に限って、恭二が実行役に固執したらしい」
「あの・・・その話は新川君・・・いえ、恭二君が話したんですか?」
「いや、今の話は兄の昌一が話したものです。恭二の方は黙秘を続けている」
「そうですか・・・」
「俺からも一ついいですか?」
詩乃の質問に便乗して、俺も気になっていたことを質問してみることにした。
「なんだい、音弥君」
「キバオウ・・・いえ、小山氏が今回の計画に参加した本当の理由って・・・?」
「・・・小山の供述では・・・復讐だそうだ」
「それは・・・俺に対して、ということですか・・・?」
「いや、それだけじゃないみたいだ。小山はSAOから生還後、社会復帰しようとしたらしい。だが、SAO帰還者であることと、元々の傲慢な性格が災いし、仕事は続かず、職を転々としていたらしい・・・
定期のメンタル検診では、今の自分がこうなったのは社会のせいだと、責任転換をする傾向が見られていたらしい・・・そこに、死銃の計画を昌一に持ち掛けられ、
過去の因縁がある君や桐ヶ谷君がBoBに参加することを知り、復讐も兼ねて計画に参加することを決めたらしい」
「・・・・・そう、ですか」
「昌一は今回の事件に関して、全てゲームのようなものだった、と供述している。
SAOのように、標的の情報を集め、装備を整え、襲撃を実行したのとなにも変わらないのだと」
「・・・VRMMOのダークサイド、なのかもな・・・現実が薄くなっていく」
・・・菊岡さんの回答と和人の言葉に俺は何も言えなくなってしまった。
俺達みたいに帰還者学校に通っていたり、クラインやエギルのように社会復帰に成功した一方で、その裏ではザザやキバオウなど、SAOのダークサイドから抜け出せない者もいるのだということを見せつけられたような気がしたのだ。
「・・・君たちはどうなんだい?」
「「えっ・・・?」」
「君たちの現実はどうなのかと思ってね・・・」
その言葉に俺と和人は、詩乃を挟んで顔を見合わせた。
そして、和人は窓の外を見ながら答え始めた。
「・・・あの世界に置いて来た物は、確かに存在するよ。
だから、その分、今の俺の質量は減少している・・・とは思う」
「・・・音弥君は?」
「・・・そうですね。俺にとってもあの世界には残しすぎた物があります。
今回の一件はある意味では俺が因果で引き起こした部分もあります。残したものが戻ってこようとした・・・それを実感させられた気がします」
「・・・戻りたいと思うかね?」
「聞くなよ、悪趣味だぜ?」「それを聞くのは悪趣味ですよ」
菊岡さんからの意地の悪い質問に俺と和人はそろって返した。
すると、
「キリト・・・あなた、この前と言っていることが違うわ」
「「えっ・・・?」」
「仮想世界なんてないって…あなたは言ったわ。その人がいる場所が現実なんだって・・・」
(…初耳なんですが…そんな話をしたんですか、和人さん?)
そう思いながら、詩乃と和人の会話を聞き続けた。
「今、私がいるこの世界が唯一の現実なんだって・・・
もしここが仮想世界だったとしても、私にとっては現実、ってことだと思う」
「・・・そうか。そうだな・・・今のシノンの言葉、この事件の唯一価値のある真理かもしれないぜ」
「もう!からかわないで!!」
(今、自分がいる世界が現実・・・か)
詩乃の言葉は、別世界からやってきた俺には深く刺さり、納得がいく言葉だった。
この世界に来て、初めて現実世界に戻ってきた時・・・ここは俺にとってある意味、仮想世界そのものとも言えた。
・・・だが、この世界を生きている俺にとって、ここが別の世界であっても、ここにいることは事実で、この世界は現実であることも事実なのだ。
そう考えれば、詩乃の言葉は確かに一つの真理なのかもしれない。
「さて、僕が把握している情報は以上だ。他に質問はあるかな?」
菊岡さんの言葉に熟効していた俺の意識は引っ張り戻された。
「あの・・・恭二君は、どうなるんですか?」
「うーん・・・彼らの言動を見る限りでは、医療少年院へ収容される可能性が高いと、僕は思う。
・・・なにせ、彼らは現実というものを全く持っていないわけだし・・・」
「いえ・・・そうじゃないと思います」
詩乃の言葉に菊岡さんだけでなく、俺と和人も驚いた。
「お兄さんのことは私には分かりませんけど・・・恭二君にとっての現実は『ガンゲイル・オンライン』の中に有ったんです。この世界を、全部捨てて・・・GGOの中だけが真の現実だと、そう決めてたんだと思います・・・」
詩乃の表情には悲しみが混じっていた。近くで彼と接していた彼女だから、何か感じるところがあったのだろう。
「最強を目指して、毎日、何時間も面倒でつらい経験値稼ぎをして・・きっとすごい、ストレスがあったんだと思います」
「ゲ、ゲームでストレス?でも、それでは本末転倒じゃ・・・?!」
「はい・・・恭二君は文字通り転倒させたんです。
・・・この世界とあの世界を」
「・・・な、なぜそんなことを・・・?」
「私にもそれは分かりません。でも……
キリト、フォン・・・あなたたちには分かる?」
「・・・強くなりたいから」
「・・・俺も和人と同意見だ」
「・・・私もそうだった・・・VRMMOプレイヤーは誰だって、同じなのかもしれない。
…ただ強くなりたい、って」
詩乃の言葉に俺と和人は静かに答えた。
・・・VRMMOプレイヤーにとって、それは避けられない宿命・・・なのかもしれない。
「菊岡さん・・・私、彼に会いに行きます。会って、私が今まで何を考えてきたのか・・・今、何を考えているのか、話したい・・・!」
「うん、あなたは強い人だ・・・ええ、是非そうしてください。面会ができるようになったらご連絡しますよ」
菊岡さんが指摘したように、詩乃の目には迷いはなく、強い意志の光が宿っていた。
「おっと、すまない。そろそろ時間だ・・・行かなくては」
「ああ。悪かったな、手間を取らせて・・・」
「色々と教えて頂き助かりました」
「あの、ありがとうございました」
「いやいや・・・君たちを危険な目に合わせたのは、こちらの落ち度です。これくらいのことはしないと」
そう言って、席を立とうとした菊岡さんは何かを思い出したように動きを止めた。
「そうだ・・・桐ヶ谷君、音弥君・・・君たちにデス・ガン・・・『赤眼のザザ』こと新川昌一から伝言を預かっている。
・・・聞くか、聞かないかは君たち次第だが・・・どうする?」
その言葉に俺と和人はアイコンタクトで意思を確認しあった。
「もちろん・・・」
「聞かせてもらえますか?」
俺達の言葉に、菊岡さんは封筒から手紙のようなものを取り出し、メッセージを読み上げた。
『これが終わりじゃない。終わらせる力はお前たちにはない。
すぐにお前達も気付かされる。
It‘s show time』
それが、デス・ガン・・・ザザからのメッセージだった。
菊岡さんと別れ、事前に打ち合わせしていたように、詩乃を連れ、俺と和人は『Dicey Cafe』を訪れた。扉を開くと・・・
「遅~い!!」
その罵声に思わず俺は苦笑いし、和人はげんなりしていた。
「待っている間にアップルパイ二切れも食べちゃったじゃない!
太ったたら、あんたたちのせいだからね!」
「な、なんでそうなるんだよ・・・」
「まぁまぁ・・・」
罵声の主・・・里香の言葉に不機嫌になる和人をなだめながら、俺たちは詩乃と共に店の中に入った。
「ねぇ!早く紹介してよ、キリト君!」
「ああ、そうだった・・・こちら、ガンゲイル・オンライン三代目のチャンピオン、シノンこと朝田詩乃さん」
「や、止めてよ・・・!」
「「・・・じーーーーーーーーーーー」」
「あっ・・・ゴ、ゴホン!?」
「・・・はぁ・・・詩乃、彼女らはSAO時代からの仲間だよ。
右が、鍛冶のスペシャリスト『リズベット』こと篠崎里香」
「よろしく!」
「で、左の彼女が、バーサクヒー「音弥君・・・?」・・・コホン、閃光の細剣使い『アスナ』こと結城明日奈だ」
「よろしくね!・・・フォン君・・・後でお話があります」
「・・・・・はい」
詩乃に彼女たちの紹介をしたのだが・・・どうやら明日奈の激怒を買ったらしい・・・
「ククク・・・!」
「キリト君も・・・色々聞きたいことまだあるんだから・・・
あとでね?」
「・・・・・・・はい」
隣で笑っていた和人の笑みもその宣言に凍り付いていた。
・・・同情はしない。
「とりあえず座ろうか?」
・・・無事(?)紹介も終わり、とりあえず俺たちは席に腰かけることにした。
「『ステルベン』・・・スティーブンじゃなかったのね」
エギルさんが持って来てくれた飲み物(俺はジンジャーエール、詩乃はココア、和人はコーヒー、明日奈と里香は紅茶)を飲みながら、死銃のキャラネームのことを話していた。
「病院用語で死…か。どういう意味でそういう意味をつけたのかな・・・」
「キャラクターネームに名前以上の意味を探さない方がいいわ。気付くことより、見失う物の方が多いから」
「確かにな・・・キバオウのキャラネームである『コボルト』だって、一体どういう意味でそれを選んだのか・・・結局、本人の中にしか理由はないんだ」
「・・・そうかもね。それにしても、アスナが言うと説得力があるわね!」
「もう!余計なこと言わないでよ!」
シノンの疑問に明日奈と俺はそれぞれの解釈を述べた。それをいじった里香は明日奈から肘打ちを食らっていたが・・・それを見た詩乃は思わず笑っていた。
「と、ともかく・・・女の子のVRMMOプレイヤーとリアルで知り合えたの、嬉しいな!」
「本当だね!友達になってくださいね、朝田さん」
「えっ・・・ええっと・・・・・・・・・・・・・・・・」
里香と明日奈の提案に、詩乃は気まずい顔をして黙ってしまった。そこで、俺たちは計画通りに動くことにした。和人の合図に明日奈は頷き、口を開いた。
「あのね、朝田さん・・・シノンさん。今日、この店に来てもらったのには理由があるの」
「・・・・・・理由?」
明日奈の言葉に詩乃は驚いていた。
「詩乃。まず君に謝らなければならない」
そう謝った和人は詩乃に頭を下げた。
「・・・俺、君の昔の事件のことをフォンやアスナ、リズに話した」
「・・・・・えっ・・・!?」
「どうしてもフォンたちの協力が必要だと思ったんだ・・・」
「ええっ・・・!?」
「シノンさん。実は私たち・・・以前、あなたが住んでいたい町に行ってきたんです」
「っ・・・なん、で!?そんな、こと・・・!?」
ショックのあまり、その場から出て行こうとする詩乃の袖を俺は掴んで制止した。
「シノン、落ち着け!・・・君は、会うべき人にまだ会っていない・・・!」
「・・・えっ?」
「俺たちがそうしようと思ったのは、君が聞くべき言葉を聞いてないと思ったからだ」
「・・・・・・・・・・・」
俺と和人の言葉に詩乃はこの場に留まってくれた。
そして、そのまま和人が言葉を続けた。
「今からのことは君を傷つけるかもしれない・・・でも!
俺は、それをそのままにしておけないと思った」
「…‥会うべき人…聞くべき、言葉…?」
和人が里香にアイコンタクトを送り、里香が奥の扉へと向かった。
「どうぞ」
そこには親子が立っていた。俺達は席を空け、親子に譲った。突然のことに驚きっぱなしの詩乃も一先ず席に着き直した。母親が一礼し、それにならって娘さんも一礼した。
「あ、あの・・・あなたは・・・?」
「初めまして。朝田詩乃さんですね?
私は大澤祥恵。この子は瑞恵…今年で4歳になります」
「は、はぁ・・・」
「・・・この子が生まれるまで、郵便局で働いていました」
「・・・あっ、ああ・・・!?」
その言葉に詩乃も思い出したのだろう。そう、母親の女性…大澤さんは詩乃が遭遇した事件の時に現場で働いていた女性なのだ。俺たちは彼女に話を聞きに行った際、詩乃のことを話し、今日ここに来てもらったのだ。
「ごめんなさい、詩乃さん・・・」
「・・・えっ?」
「私、もっと早く貴女にお会いしなければならなかったのに・・・謝罪も、お礼さえも言わずに・・・」
大澤さんは言葉の途中で涙を流していた。それを娘さんが不思議そうに見上げていた。
「あの事件の時、私、この子がお腹の中にいたんです。だから、詩乃さん・・・貴女は私だけでなく、この子の命を救ってくれたの。本当に・・・本当にありがとう・・・!」
「・・・・命を、救った・・・?」
頭を下げる大澤さんたち。だが、詩乃はその言葉に驚いていた。
「詩乃・・・」
「えっ・・・?」
「君はずっと自分を責め続けてきた・・・自分を罰しようとしてきた。
それが間違いだとは言わない・・・でも、君には同時に救った人たちのことを考えがえる権利があるんだ・・・それを考えて・・・自分自身を許す権利があるんだ。
俺は、それを君に・・・きみ、に・・・!」
感極まり、言葉が詰まりながらも和人は詩乃に必死にその思いを訴えかけた。
「おねえさん」
「あっ・・・」
瑞恵ちゃんが詩乃に近づき、声を掛けた。
そして、鞄から何かを取りだした。それは人が描かれた一枚の絵だった。
おそらく瑞恵ちゃんが書いたのだろう・・・詩乃はそれをおそるおそる受け取った。
「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう!」
「あっ・・・ああ・・・!っ・・・!?」
その言葉と絵に、詩乃は涙を流していた。
「・・・良かったな」
「ああ・・・」
瑞恵ちゃんの手を取る詩乃の姿を見ながら、俺は和人にそう声を掛けた。
全てを乗り越えるなんてことは、まだできないのかもしれない。それでも・・・この一歩は、明日へと進む小さな勇気なんだと、俺は思った。それは詩乃だけじゃない。俺や和人にとっても同じことなんだと、今の光景を見て感じたんだ。
ファントム・バレット編 完
・・・というわけで、GGO編はこれで終わりになります。
次回・・・ようやく、ヒロインとオリ主がメインとなる、マザーズ・ロザリオ編となります!!
・・・と、行きたいところですが・・・活動報告でも書きましたが、
ここで一度、SAO編~GGO編の見直しを行います。
指摘された・・・の多用についての修正、PCで書いたことによる不自然な改行の訂正、文章・誤字脱字の修正を行います。
あと、10月下旬、ちょっと予定がごたついているのもあり、すぐに投稿できるか、分からないといったこともあります。
さらに、「そーどあーと・おふらいん」や第5章となります「オーディナル・スケール」の執筆、まだ掲載していませんが、もう一つの小説の執筆も重なってきてますので、ちょっとだけ更新期間を空けて、マザーズ・ロザリオ編を投稿しようと考えてます。
おそらく、10月25日には、投稿を再開できると思いますので、そこから連日投稿させて頂ければと考えております。それまで、お待ちいただければと思います。
最後に、SAO編から続いてきてこの『SAO~夢幻の戦鬼~』もメインとなるマザーズ・ロザリオ編までたどり着きました。多くの方にこの作品が読んでもらえているようで、作者も感謝の極みでございます。
まだまだ、至らない点もございますが、これからも本作品を宜しくお願い致します!