バトルシーン書くのが、難しい・・・
一部、原作キャラファンの方、ご注意下さい。
アルゴのしゃべり方・・・合ってるか分からない(困惑)
「せいっ!」
俺はコボルトの攻撃を躱し、カウンターで片手剣単発ソードスキル〈ホリゾンタル〉を叩き込んだ。その一撃でコボルトのHPがゼロになり、コボルトはポリゴンとなって、消滅した。
「ふぅ……しまった、ダンジョンに潜りすぎたな……早く帰らないとキリトが心配するかもな」
俺は時刻を確認して、自分が数時間、ダンジョンにいたことに気付いた。
少し練習してみたいことがあったので、モンスター相手に試していたら、時間を忘れてしまっていたようだ。
(……あれから二ヵ月……小説通りならもうそろそろ第一層のボス攻略戦か)
帰りながら、俺はこれまでに分かったことをまとめていた。
まず、この世界は俺が読んだ小説『ソードアート・オンライン』の世界であることに違いないこと、小説と同じように話が展開していること……そして、俺が元の世界に帰還する方法はまったく分からないということ。
(……この〈Phone〉って、キャラネームも、昔俺がゲームで使ってた名前だしな)
HPバーにある自分のキャラネームを見ながら、俺はそんなことを考えていた。この世界に来て、二ヵ月……ようやく俺自身も落ち着き、状況を確認できるようになったが、手がかりはまったくいっていいほどない状態だった。
(本来なら、GMである茅場……ヒースクリフに接触できればいいんだろうが、居場所が分からない上に、会う理由もなんといえばいいのか分からないしな……)
そもそもの話……俺がこの世界にきてしまった理由が分からない。これが俗に言う転生やら生まれ変わりなら、まだ納得がいく点もあるが……
(いきなりゲームの世界に迷い込むなんてな……)
この世界に自分がいることは現実として受け入れられたが、その次に疑問に浮かんだのは、自身の体がどうなっているのか、ということだった。
(こうして、俺がSAOにいるってことは、俺の体も現実世界にはあるってことなのか?でも、もしそうじゃないのなら……)
ふと最悪の考えが浮かんだが、俺はそれを振り払うように首を振った。
(いや……今は分からないことが多すぎる。もっと事態がはっきりするまで、この考えは頭の隅に置いておこう)
考えをまとめながら、帰路を辿っていると町に着いた。
(キリトはもう戻ってきているのだろうか……)
俺が借家のドアを開けると……
「ヨウ!お邪魔してるヨ!」
「………………………………………………」
「アルゴさん!それと……キリトはどうしたんですか?」
椅子に座ったアルゴさんと床で気絶しているキリトの姿が目に入った。それに、お風呂場にも誰かいるようだが。
「あー、気にするナ……キー坊が原因だからな」
「……そうですか。アルゴさんはどうしてここに来たんですか?」
「ああ、キー坊に用事があったんだけどナ……それは終わったんだが、キー坊がこの状態だからな。フォン坊が戻ってくるまで、居た方がいいと思ってな」
「なるほど……ありがとうございます」
「なになに、礼を言われることでもないサ……そうだ、キリ坊にも話したんだけどな……明日、第一層ボス攻略会議が開かれるゾ」
「本当ですか……?」
「ああ。まぁ、キー坊には別の話もあったんだけどな……」
最後の方は聞き取れなかったが、キリトに関する話らしいので、気にしないことにした。それにしても、明日か……俺がそんなことを考えていると、
「お風呂、いただき…………誰!?」
「っ!?き、君は……!?」
「おう!アーちゃん、今度は服を着ているらしいな!」
「あ、当たり前です!それより、その人は誰ですか!?」
風呂から出て来た女性とアルゴさんは親しげに話していたが、俺は彼女の顔を見て、驚いた。
その素顔は、小説の表紙で見た……
「……お、俺はフォン。キリトの相棒、っていうところかな……?君は?」
「……アスナよ」
「そ、そうか……よろしく、アスナさん」
「………………………………………………」
まさかの展開だ。ここで、キリトの嫁に出会うとは……というか、なんで睨みつけられてるんだ俺……
「うっ……あれ、俺……?」
ようやく起きたキリトから、何が起こったのかを聞いた俺は、キリトのラッキースケベに呆れてしまったのだった。
翌日、床で寝たせいか、俺とキリトは少し疲れていた。今夜は俺、別の宿に泊まろうかな……
(そんなことよりも……初めて小説と展開が違ったな……)
キリトとアスナが出会うのは、この攻略会議の時だったはずだ。
こんなに早くはなかったはずだ。俺は先を歩く二人を見ながら、そんなことを思っていた。というか……
(二人とも、何か話せよ!?)
本当にこの後結婚するのか、というくらいに二人には会話がない。キリトのコミュ障を垣間見た気がする……そして、俺たちは攻略会議が行われる場所へと来ていた。そして、
「はーい!それじゃ、少し遅れたけどそろそろ始めさせてもらいます!
俺の名はディアベル!職業は……気持ち的にナイトやってまーす!」
……ここは小説通りのようだ。ディアベルが広場の真ん中で話を切り出した。
そこから、ボスの情報が公開された。ボスの名前は『イルファング・ザ・コボルド・ロード』。武器は斧とバックラーで、HPが少なくなると武器をタルワールに持ち替え、攻撃パターンも変化するとのこと。
(だけど、それはβテストの時の話だ……本当は刀系統の武器だが……)
小説を読んでいる俺は、βと正式版の違いを知っていた。しかし、そこで迷いが生まれた。
(アスナのことから考えれば、俺が知っている知識が必ずしも合っているとは限らない……ここは、余計な口出しはしないほうがいいか……?)
アスナとの出会いの一件で、俺は進言することを迷ってしまい、発言を控えてしまった。
俺が思考しているうちに、ディアベルの話が終わり、レイドパーティを組もうとなった時だった。
「ちょっと待ってんか、ナイトはん!」
ある男が飛び出して来た……そうだ、このイベントもあったんだ。
「わいはキバオウってもんや。この中に、5人か10人、ワビぃ入れなあかん奴がおるはずや!」
叫んだ男……キバオウはそう切り出し、βテスターを糾弾し出した。
小説で呼んでいた時もこいつの一方的な発言にはどこか嫌悪感を抱いた。だが、今の俺は、キバオウの発言に対し、嫌悪感を通り越し、怒りが沸いていた。
それは、これまで一緒に行動してきたキリトや親切に情報をくれたアルゴさんのことを知っていたからこそだった。
「だからや!βテスターは今すぐにでも死んだ奴らに土下座して「ちょっといいか!」……なんや、自分?」
俺は我慢の限界を超え、キバオウの言葉を遮って発言した。
「あんた、さっきからβテスターを批難してるけど……これまでに死んだ2千人には、βテスターだっていたんだぞ……!
それに、全てのβテスターがあんたが言ったみたいに姑息なわけじゃない!少なくとも、俺が知ってるβテスターの奴らはそんなことはしない!」
「じゃ、じゃが……!?」
「それに……ここにいるメンバーはこのゲームを攻略しようと、命を懸けてここにいるんだ!必死に戦ってる奴らの和を乱すあんたの方が、明らかに攻略の邪魔だよ!」
「こ、このガキが……言わせておけば!?」
どうやら、俺の言葉に向こうも完全にキレたらしい。一触即発のムードになった時だった。
「俺もいいか?」
野太い男の声がその場に響いた。そう、俺はこの人が発言してくれると知っていたから、強気に出られたのだ。
「俺の名前はエギルだ。俺もそこの少年と同意見だ。キバオウさん、だったか。
金ならともかく情報はあったはずだ」
「な、なんやと……?」
「これを見てくれ……このガイドブックは無料で配布されているものだ。ここには、第一層の情報について、詳しく書かれている。そして……このガイドブックを作成し、配布するように手配したのは、元βテスターだ」
「なっ……!?」
エギルさんの言葉にキバオウは言葉を失った。
「分かったか……手に入れようとすれば、情報は手に入ったんだ。それを怠り、死んだのは、そいつの責任だ。ニュービ―でもβテスターでもだ……」
エギルさんの言葉にキバオウは何も言い返すことができなかった。
「……キバオウさん、納得がいかないかもしれないが、ここは俺に免じて、矛を収めてくれないか?今は、第一層を攻略することが最優先だ」
「……分かった。今は、引いてやる……おい、そこの小僧!」
「……なんですか?」
「お前、名前は……?」
「……フォン、ニュービ―ですよ」
「…………その名前、絶対に忘れんからな……!」
血走った目と憎しみのこもった声でそう言われたが、俺はまったく気にせずに席へと戻った。
「フ、フォン、その……」
「何も言うな……俺が勝手にやったことだ」
心配そうにキリトに声を掛けられたが、俺は気にしないように言った。隣のアスナに至っては、目を丸くしていた。その後、ボス攻略のためにパーティを組むことになり、俺はキリトとアスナの三人パーティ(はぐれ組だが)を組むことになった。
そして、攻略会議はそのまま解散となった。
「それで……俺を呼び出して、どうしたんですか?」
深夜、俺はある人に呼び出されていた。ちなみに、今日はキリトとは別の宿に泊まった。流石にあの二人の近くで寝るのには、勇気が足りない。
「ニャハハ、フォン坊……今日は大暴れしたらしいじゃないカ!」
「……それで、本題はなんですか?」
「こういう時、フォン坊には冗談が通じないな……話っていうのは、そのキバオウとかいう奴さ」
まさかの名前に少し驚いたが、アルゴさんの真剣な表情から良い話ではないらしい。
「俺っちじゃないんだけどな……どうやら、そいつ、フォン坊の情報を他の情報屋から仕入れようとしたらしい」
「……なるほど。どうやら因縁をつけられたみたいですね」
「まったくだな……まぁ、安心しな。フォン坊の情報は漏れないようにしてやるからナ」
「……有料で、ですよね?」
「ニャハハ。そうそう、と言いたいところだが……気を付けるんだぞ、フォン坊」
「ありがとうございます、アルゴさん」
「……それじゃ、明日のボス戦、頑張ってナ……!オヤスミ!」
そう言って、アルゴさんは行ってしまった。変な因縁をつけられたものだ……まぁ、ボス戦が終われば、あいつと関わることもないだろう……そう考え、俺も宿に戻った。
翌日
トールバーナの広場には、昨日と同じ人数のプレイヤーが集まっていた。
もちろん、エギルさんやあのキバオウの姿もあった。というか、キバオウは俺とキリトをもの凄い目で睨んでいた。
(なんでキリトまで睨んでいるんだ?もしや、俺の情報を集めている途中で、キリトのことも知ったのか……?)
俺はそんな推測をしていたが、ディアベルの掛け声によって、ボス部屋への移動が始まったので、俺は考えるのを止めた。
モンスターのポップに注意しながら、俺たち攻略パーティは迷宮区を進んでいた。
キリトはアスナにスイッチなどの連携を教えていた。もうすぐボス部屋に着く手前で、俺はキリトに気になっていたことを聞いた。
「キリト、少し聞きたいことがあるんだが」
「うん……?なんだ、フォン?」
「キリトはβテストの時、どんな敵の武器を見てきた?」
「そ、そうだな……これから戦うボスの斧や曲刀、それに弓……あと、ボスじゃないけど刀もあったな……それがどうかしたのか?」
「……いや、俺も初めてのボス戦だからな……緊張しててな」
「……そうだよな、フォンは初めてのボス戦だもんな」
俺の嘘の言い訳をキリトは信じてくれたようだ。少し罪悪感が沸いたが……
これだけはどうしても確認しておきたかったのだ。そして、パーティがボス部屋の前へと到着した。
ディアベルが最終確認を行っていた。どうやら、俺たちあぶれ組は取り巻きである「ルインコボルト・センチネル」を相手にするらしい。キリト、アスナと動きを確認しあい、俺たちは準備を整えた。
「……よし、みんな、準備はできたみたいだな!これより、第一層ボスを攻略する!最後に俺から言えることは一つだけだ……勝とうぜ!」
ディアベルの言葉に、パーティ全員が大きく頷いた。
そして、扉が開かれ…………
「戦闘、開始だ!」
『グルラァァァァ!!!』
ディアベルの掛け声に答えるように、ボス「イルファング・ザ・コボルド・ロード」も雄たけびを上げた。そして、その周りに取り巻きであるがル「ルインコボルト・センチネル」が複数体ポップした。そして、ボス戦の火蓋が切って落とされた。
「スイッチ!」
キリトの掛け声に、アスナがソードスキルを発動させ、コボルドの鎧の隙間を〈リニア―〉で貫いた。そのまま、コボルドはポリゴンとなって、消滅した。
(流石は閃光か……負けてられないな!)
アスナの動きに関心しながらも、俺はもう一体のコボルドの武器を弾き、一撃を加えた。
「キリト、スイッチ!」
「おう!」
そのまま、俺にタゲをとったコボルドにキリトが〈バーチカル〉を叩きこんだ。そして、もう一体のコボルドも消滅した。
「やったな!」
「ああ……そっちも、良い動きだな」
「っ……あ、ありがとう」
どうやら、キリトに褒められ、照れているらしい。アスナがそう言う風にお礼を言った時だった。
「グラララララァァァァ!!!」
「!!!どうやら、ボスの体力バーがあと一本になったらしいな」
「情報通りなら、武器を持ち変えるのよね……?」
ボスの叫び声を聞き、キリトとアスナがボスの動きに注目していた。だが、俺だけは違うものを見ていた。
「……キリト、ボスの腰にある武器……曲刀って、あんなに長かったか?」
「えっ?……言われてみれば、βテストの時はあんな形じゃなかったはずだけど……?」
「っ!?」
その言葉を聞き、俺は思わず駆け出していた。背後からキリトたちの声が聞こえるが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
すでにディアベルは独りでボスへと攻撃を仕掛けようとしていた。そして、ボスが斧とバックラーを捨て、武器を持ち変えた……そして、ボスが持った武器にキリトも気付いたようだった。
「っ!駄目だ……!?全力で後ろに飛べぇ──────!!!」
だが、既にその叫びは遅かった。ボスは持ち変えた武器……刀でソードスキルを放った。
範囲攻撃だったのだろう、攻撃の余韻で周囲にいたプレイヤーも吹き飛ばされた。
そのまま、ボスはディアベルに照準を定め、さらに刀のソードスキルでディアベルに追撃をかけた。その一撃を受けたディアベルは空中へと打ち上げられた。
そして、止めと言わんばかりにボスはディアベルにソードスキルを叩きこもうと飛び上がった。だが……
「さ、せるかぁぁぁぁ────ー!!!」
俺は片手剣を構え、一気に助走をつけ、ジャンプした。普通にジャンプしたのでは、到底ボスのいる高さには届かない。そこで、足りない高さを補うために俺はソードスキルを発動させた。
「届けぇぇぇぇ!!!」
片手剣単発ソードスキル〈ソニック・リープ〉を発動させた。キリト曰く、ソードスキルはそれぞれモーションが決まっているらしく、体が勝手に動く感覚に近いらしい。俺は、下から切り上げる〈ソニック・リープ〉でさらに高さを稼いだ。そして、ディアベルにとどめを刺そうとするボスのがら空きとなった腹部にソードスキルを叩き込んだ。
「グルラァ!?」
「くっ……ディアベル!?」
ボスは俺の一撃で体勢を崩し、そのまま地面に落下した。俺もディアベルを庇い、地面に背中から落ちた。落下の衝撃に、俺は思わず武器を手放してしまった。
「グラァァァァァァァ!!」
「っ……マズイ!」
どうやら、先ほどの一撃で俺にタゲが向いたらしい。体勢を整えたボスは俺目掛けて突進してきた。武器はどこかに飛んでいってしまい、瀕死のディアベルを抱えて逃げる時間は無かった。その時……
「フォン!」
キリトが飛び出し、ボスとソードスキルをぶつけ合った。そして、アスナがその背後から飛び出し、追撃をかけた。
「スイッチ!」
キリトの掛け声に、アスナは追撃のためにソードスキルを発動させた。ボスの一撃がアスナのフードを切り裂き、その素顔が露わになるが、そんなことは気にせず、アスナはソードスキルをボスに叩きこむ。その一撃にボスがひるんだ。そのまま、二人は息のあったコンビネーションでボスにダメージを与えていく。
「……凄い……」
その動きに俺は思わず呟いていた。これがキリトとアスナの力なのか……
俺が二人の強さに関心しているときだった。
「ぐっ!?」
「っ……キリト!?」
キリトがボスのソードスキルの相殺に失敗し、吹き飛ばされた。後ろにいたアスナも吹き飛ばされたキリトを受け止めきれず、一緒に吹き飛ばされた。HPが減った二人にボスが追撃をかけようとした。
「ほら、受け取れ!」
「うわっ……!?」
走って来た誰かに俺は自身の武器を投げられた。その人は……
「お、らぁぁぁ!!!」
エギルさんだった。そうだ……小説でも、ピンチのキリトたちを救ったのはエギルさんだった。エギルさんはそのままボスの攻撃に加わり、他のプレイヤー達も加勢した。
だが、ボスも反撃とばかりに、先ほど放った範囲攻撃のソードスキルをもう一度放ち、攻撃メンバーを吹き飛ばした。そして、またしても空中からソードスキルを叩きこもうとしていた。
「っ……ディアベルを頼む!」
俺は近くにいたプレイヤーに気絶しているディアベルを頼み、ポーションを飲み、剣を構え、走り出した。ボスは、復帰したキリトの一撃によって、またしても空中から地面に叩き落されていた。
「キリト!」
「フォン、アスナ、合わせてくれ!」
「うん!」
俺の掛け声にキリトとアスナは一気に動いた。ボスの攻撃をキリトと俺が弾き、アスナがソードスキルを叩きこんだ。完全に体勢を崩したボスに止めを刺すために再びソードスキルを発動させた。
「いけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺とキリトのソードスキル〈ヴァーチカル・アーク〉はボスを挟み込むように切り裂き、俺たちの一撃によって、ボスのHPゲージがゼロになり、そして……
『Congratulations』
空中にその文字が浮かんだ。それを見た俺は……
「勝、ったのか……?」
その文字に力が抜け、地面に座ってしまった。すると、リザルト画面が起動し、経験値とドロップアイテムの確認……それに、もう一つ欄が表示されていた……これは、『LAボーナス』か?
すると、キリトやアスナ、エギルさんが声を掛けてきた。
「お疲れ、フォン」
「……お疲れ、キリト、アスナ……さっきはサンキュー、助かったよ」
「よくやったな。特に、お前さん……フォンって言ったか?お前さんのおかげで誰
も死なずにすんだ……コングラチュレーションだ」
「……ありがとうございます、エギルさん」
エギルさんの言葉に照れてしまい、俺は頭を掻きながらそう返した。
ともかく、どうにかできたようだ。小説とは異なる展開だが、うまくいって良かったと思う。俺がそんなことを考えていると……
「ちょっと待てや!」
その声に俺たちの勝利ムードの空気は壊された。もちろん、その声の主は……
「なんでや……!特に……そこの小僧!なんでお前はボスの動きに気付いたんや!?」
「な、なに言ってるんだ!フォンは、ディアベルを助けようとして……!?」
「そういうお前もや!お前、ボスの攻撃が何か分かってたんやろ!なんで、それをワイらに教えんかった!知ってたら、ディアベルはんがあんな危険な目に合うこともなかったやろう!?」
キバオウの言葉に、場は完全に俺とキリトに疑惑のまなざしを向けていた。アスナとエギルが俺たちを庇ってくれているが、完全に焼石に水の状態だった。
「アハハ……あはははははは!」
「キリト……?」
黙ったままだったキリトの突然の豹変に俺は思わず驚き、まさかと思った……
「こいつがなんでボスの動きに気付いたかって……?それは俺がこいつにだけボスの動きを教えていたからだよ!こいつは、お前らと違って、かなりセンスのあるニュービ―だからな!囮として使うには、適任だったぜ!」
……キリトの豹変ぶりにアスナやエギルさん……プレイヤー全員が驚き、目を丸くする中、俺だけはキリトの本心が分かっていた。
(……やっぱり、お前は茨の道を行くのか)
「いいか、よく思い出せよ!SAOのクローズドβテスターはとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。受かった千人のうちでも、本物のMMOゲーマーが何人いたと思う。ほとんどはレベリングの仕方も知らない初心者ばっかだったよ!
今のアンタらの方がかなりマシさ……俺はそいつらなんかとは違う!俺はβテスト中に、他の誰も到達できない層まで登ったんだ。ボスが使った刀のソードスキルを知っていたのは、その時に刀を持ったモンスターと散々戦ったからだよ。他にも色々知ってるぜ、鼠が知らない情報だってな!」
「な、なんや、それ…………そ、そんな、チートやないか……!?」
「そ、そうだ……チーターだ……βテスターのチーター……!」
キリトの言葉に、キバオウを始め、プレイヤーがキリトに非難中傷が向けられた。そして、その言葉の中に「ビーター」という言葉が響き始めた。
「……『ビーター』か。良い呼び方だな、それ」
そう言ったキリトは、メニューを開き、アイテムを装着した。今まで見たことのないコートだった。もしやLAボーナスの……確か『コート・オブ・ミッドナイト」』だったか。
「そうだ。俺は『ビーター』だ。これからは元βテスターごときと一緒にしないでくれ」
そのまま、キリトは第2層へと続く階段へと向かってしまった。俺は、キリトを追いかけるためにその背中を追おうと……
「ち、ちょっと待たんかい……!」
「……なんです?」
キバオウに呼び止められ、俺は冷たい声で反応した。自分がここまで、冷たい声が出せるとは正直俺自身も驚いていた。
「お前もLAボーナスを獲得したんやろ……!?それ、置いてってもらおうやないか!」
「…………………………」
あまりに勝手すぎる言葉に俺の頭はさらに冷たくなっていくのを感じた。俺が言う言葉は決まっていた。
「……断る……あんたみたいな弱いプレイヤーに渡したところで、使いこなせるわけがないからな」
「な、なんやと……!?」
「俺は、このゲームをクリアするために戦ってる……お前らのために戦ってるわけじゃない……!お前らにはない力が俺にはある。あとから難癖つけるような、お前らみたいなプレイヤーと一緒にしないでもらいたい」
「こ、このガキが……!?」
「……それとも、力づくで奪ってみるか?勝てるもんならだけどな……」
「くっ……!」
俺の言葉にプレイヤーたちは黙ってしまった。
(これで……俺も茨の道入りか)
俺はLAボーナスで獲得したアイテム『コート・オブ・ディープブルー』を装備した。深海の海のように深い青色のコートだった。かなりかっこいいと思ったのは余談だ。
そのまま、俺も第2層への階段へと歩み出した。
「すまない。あのバカのことを頼んでもいいか?」
「……ええ。あとはお願いします」
エギルさんにキリトのことを頼まれ、俺は小さく頷きながら、そう返した。
階段を昇っていると、降りてくるアスナとすれ違った。どうやら、キリトを追いかけて、話をしていたようだ。
「キリトのことは任せろ」
「…………分かった」
俺はアスナにそう言って、あのバカに追いつくために一気に走り出した。第二層の扉の前にキリトはいた。
「……お前も馬鹿だよな。あんなこと言って……」
「一人でβテスターへの憎しみを全部背負ったお前にだけは言われたくないよ」
キリトに馬鹿呼ばわりされたが、今のこいつだけには間違いなく言われたくない言葉だった。
「行くか……」
「ああ……」
キリトの問いかけに、俺は頷きながら、第二層の扉を開いた。
SAO攻略まで、あと74層…………俺は、元の世界に戻れるのだろうか……