『キー坊がギルドに入った』
アルゴさんからのメッセージに俺は驚いていた。キリトから前線を離れると聞いてから6日目の夜、俺はキリトの様子が気になり、アルゴさんにメッセージを送り、キリトが今何をしているのかを聞いたのだ。
情報料を取られるかと思ったが、意外にも無料で教えてくれたので驚いた。どうやら、この前のエクストラスキルの情報のお返しらしい。鍛冶スキルとアイテム作成スキルの派生スキル、装飾品作成スキルの情報はアルゴさんにとってはかなり有益な情報だったらしい。
あれから、アインクラッド攻略は第37層まで完了した。クォーターポイントと呼ばれる第25層のボスはかなり手ごわかったが、俺とキリト、そして血盟騎士団の活躍によって、なんとか倒すことができた。
その時のLAボーナスは俺が獲得し、その武器は今でも十分に使えている。まぁ、その時に鍛冶スキルを鍛えようと思い、習得を始めた。今では熟練度もそれなりに上がってきたところだ。
「ギルドねぇ……ソロだったキリトが入るなんて、どんなギルドなんだろう?」
メッセージを消し、俺は第15層にある自分の小さな作業小屋の簡易ベットで寝転びながら、呟いていた。そして、どんなギルドかが気になったのだ。
「……明日、覗いてみるか」
好奇心に駆られた俺は、そう思い、ベッドで目を閉じたのだった。
翌日
キリトは何人かのプレイヤーと共に第27層の迷宮区の入り口にいた。周りにいるプレイヤーがおそらく、キリトが入ったギルド『月夜の黒猫団』のメンバーなのだろう。
俺は、キリトの索敵スキルに見つからないように、隠蔽スキルを使い、さらに距離を取って覗いていた。これならば、キリトに見つかる心配もないだろう。
(……あのメンバーを見ていれば、なんとなくキリトが入った理由が分かる気がするな)
キリトの表情やパーティメンバーの様子を見て、俺はキリトがあのギルドに入った理由が、なんとなくだが分かった気がした。黒猫団のメンバーの雰囲気は攻略組とは、どこか違うものを感じたのだ。
(おっとと、どうやら迷宮区に行くようだな)
俺が思考に耽っていると、キリトたちが動き始めた。俺は置いて行かれないように距離を取りながら、キリトたちの後を追ったのだが……
「……しまった、完全に見失った……」
キリトの索敵スキルを警戒しすぎて、距離を取りすぎた結果、キリトたちを見失ってしまったのだ……俺がキリトたちを探して、迷宮区を彷徨っている時だった。
「うわぁぁぁぁ!」
「!……壁から!?そうか、この壁は隠し扉か!」
悲鳴が聞こえた方を見ると、壁に何かのマークがあった。どうやら、この壁に中に誰かがいるらしい。俺は急ぎ、壁のマークに触れた。すると、壁が動き、隠し部屋が見つかった。
そこで俺が見たものは……最悪の場面だった。
「ああぁ、あああぁぁぁぁぁ!?」
「これは……!?っ……キリト!?」
俺の目の前では、大量のモンスターがキリトとそのパーティメンバーを襲っていた。俺が扉を開いた直後、パーティの一人がモンスターに殺された。もうパーティメンバーは一人しか残っていなかった。そして、そのプレイヤーもHPがレッドに近づきつつあった。
「サチ!!!」
「……くっ、させるか!?」
サチと呼ばれたプレイヤーに背後からモンスターが一撃を食らわせようとしていた。俺は、すぐさま両手剣を抜き、手前のモンスターを両手剣で吹き飛ばし、プレイヤーを狙っていたモンスターにぶつけた。
「えっ……!?」
「伏せろっ!!!」
戸惑うプレイヤー……サチと呼ばれた少女に俺は叫び、範囲ソードスキル〈ブラスト〉を放った。その一撃に何体かは消滅し、残った敵もスタン状態になった。
「フォン……!?」
「話は後だ!彼女は俺に任せて、今は目の前の敵に集中しろ!!」
硬直の解けた俺は両手剣を振るい、次々と出てくる敵を撃退しながら、キリトに叫んだ。
それからは敵からサチを守りながら戦い、キリトが宝箱を壊したことで敵のリポップも終わり、俺たちは部屋から脱出することができた。
「……何があったんだ?」
「…………トラップだったんだ。結晶が無効化されてて……俺、守れなくて……!」
「…………………………」
どうやら宝箱を開けると作動する罠だったらしい。ここを攻略していた時、こんなトラップは存在しなかった。おそらくボス攻略後に追加されたのだろう。
「…………ともかく、町に戻ろう」
「「…………………………」」
キリトは黙って頷いたが、サチという女性プレイヤーは俯いたまま何も言わなかった。
それから月日は流れ……12月24日
「…………やっぱり来たな」
「…………フォンか」
クリスマスツリーに続く道の前で待っているとキリトがやって来た。
「どうやら、クラインはお前を止められなかったようだな」
「……そこをどいてくれないか」
「俺も協力する」
「…………駄目だ。ボスは俺一人だけで戦う……お前は手を出すな」
「……お前の気持ちが分かる、そんな簡単なことは言わない……!
だが、今のお前の行動は自殺行為だ!そんなことをして……あいつらが喜ぶとでも思っているのか!?」
「……うるさい!?そこをどけ、フォン!」
殺気を全開にしたキリトだったが、俺は一向に退くつもりはなかった。キリトが片手剣に手をかけようとした時だった。
ガサッ!
「「っ……!?」」
キリトの後ろに6人のプレイヤーが来ていた。
あのプレイヤーたちの装備……『青龍連合』じゃない。あれは……!
「ちぃ、軍か……!」
「……悪いが、蘇生アイテムは我が軍がもらい受ける!」
どうやら、『青龍連合』だけでなく、軍も動いていたようだ。このままじゃ、足止めを食らうか……
「……キリト、お前は行け!」
「…………フォン……?」
「…………ただし、絶対に死ぬなよ……もし死んだら、俺がお前を生き返らせて、ぶん殴るからな!」
「……………………」
俺の言葉にキリトは、何も言わず走って行ってしまった。
「ま、待て!」
「おっと……!悪いが、あんたらの相手は俺だ」
俺は武装を細剣から両手剣に武器を持ち変え、プレイヤーたちに立ちはだかった。
「はぁ、はぁ……流石に6人相手じゃ疲れるな……」
軍所属のプレイヤーを撃退し、地面で横たわり、息を吐く俺。レベルが下とはいえ、殺さないように相手を倒すのはかなり骨が折れた。俺もキリトみたいに武器破壊を練習しようかと本気で考えていると……
「はぁ!はぁ!フ、フォン!……キリトは!?」
「すまん。こっちも妨害にあってな……止められなかった」
向こうから息を切らせてきたクラインにそう尋ねられ、俺も失敗したことを告げた。すると、キリトが逆の道からやってきた。
「キ、キリト、無事だったか!?」
「……………………クライン……」
しかし、キリトの様子はどこかが変だった……キリトの手には何かが握られていた。
「……蘇生アイテムは手に入ったのか?」
「…………一応な……だけど……」
キリトはそう言って、手に持っていたアイテムを地面に投げた。俺はそれを拾い、クラインとともにアイテムの効果を見た。確かにこれは蘇生アイテムのようだ……だが……
「HPがゼロになってから、10秒……」
「……なるほどな……」
クラインと俺はその効果を見て、キリトの様子に納得がいった。そのまま、キリトはフラフラと歩き出した。
「キリト……キリトよう…………お前は死ぬんじゃねえぞ!!!」
クラインが涙ながらにそう叫んだが、キリトは何も答えなかった。
「…………フォン……」
「今の俺たちには……今のキリトにどうすることもできない」
うなだれるクラインに俺はそう返すことしかできなかった。
(……もし俺がSAOの全てを知っていれば、あの事件は防げたんだろうか……?)
作業小屋で、俺は武器のメンテナンスをしながら、後悔していた。
元の世界では、『ソードアート・オンライン』は確か10冊以上、シリーズとして発売されていた。もし、俺が全ての本を読んでいれば、あの悲劇を防げたのだろうか……?
今でも、あの時のキリトの表情が忘れられない。
『お前が……ビーターであるお前が僕たちに近づかなければ、こんなことにはならなかったんだ!』
ケイタという黒猫団のリーダーの言葉にキリトは何も反論しなかった。
だが、その表情には絶望と後悔が映っていた。もし、あのままサチがケイタを止めていなければ、どうなっていたのか……想像したくもなかった。
「メッセージは……返ってきてないか……」
あれから、キリトとは一度もパーティを組んでいない。サチからキリトの様子を何度か聞かれたのだが、俺も分からないと答えることしかできなかった。
(……キリト……お前は、こんなことを背負って戦ってたんだな)
今まで知らなかったキリトの鎖を知り、俺はあいつのことを知っているようで何も分かっていなかったことを後悔していた。
短いので、このまま連投します