キャリバー編のお話が絡みます。
シノンがフォンに持ち込んだ依頼とは・・・?
それでは、どうぞ!
「フォン、ちょっといいかしら?」
「・・・シノン?ああ、いいぞ」
21層の俺個人の工房・・・『ファントム・クラウド』。そこを訪れてきたのは、意外な人物・・・猫妖精のシノンだった。俺は動かしていた手を止め、鍛冶槌を机に置いてから、カウンターに近づいた。
「へぇ~・・・ここがあんたの工房なのね。リズの工房とは、また違った感じだけど、いい感じね」
「お褒めに預かりどうも・・・それで、今日はどうしたんだ?」
「実は、フォンに作ってほしい物があるんだけど・・・」
「作ってほしい物・・・?」
シノンのリクエストに俺は何だろうかと思い、話を先に促した。
「対人用の火矢よ・・・それもとびっきり威力の高いやつ!」
「・・・は、はい・・・?」
殺意のこもったシノンの言葉に、ちょっと引きながら、俺は疑問の声を上げた。最近、疑問の声を上げてる機会が多い気がするが・・・気のせいだろうか?
「だ・か・ら・・・!人にぶち込める用の火矢よ!!一発で、HPを消し飛ばせるくらいのね!!」
「・・・お、落ち着け、シノン!いつもの冷静さはどうした!?」
イマイチ状況が読み込めない俺は、怒り狂うシノンをなだめるのだった。
「・・・ゴメン、取り乱した」
「・・・それで、どうしたんだ、一体?」
二階の簡易住居スペースにシノンを通し、紅茶を淹れて、席に座らせる。ようやく落ち着いたシノンから、事情を聞けるようになった。
「・・・実はね・・・」
眉を顰め、怒りの真相を語りだしたシノン・・・その理由は、
「キリトに耳を触られた・・・?」
とのことだった。それを聞いた俺は・・・なんと言えばいいのか分からず、困惑するのだった。
「そうよ!今、思い出しても、腹が立ってきた」
「どうどう・・・落ち着け、落ち着け。そんな様子じゃ、クールビューティの名が泣くぞ」
スチャ・・・
「・・・フォン・・・貴方も風穴を開けられたいのかしら・・・?」
「・・・わ、悪かった・・・余計なことを言いました・・・なので、その弓を下してもらえますか!?ごめんなさい!?」
ちょっとからかうつもりで、そんなことを言った瞬間・・・どこから取り出したのか、一瞬で眉間に突き付けられた弓矢に、俺は両手を上げ、必死に謝った。
うん、こういった時のシノンにはもう冗談は言わないようにしよう・・・そう、心に決めた俺だった。
「・・・ふぅ・・・確かに、どうでもいい話に聞こえるかもしれないけど・・・!」
「知ってるよ。猫妖精の耳と尻尾は触られると、変な感覚に感じるだろう?」
以前、アルゴさんに聞いたことがあった。猫妖精のアバターに備わっている、猫耳と尻尾は触られると変な感覚なのだという。実際に、人間にはない器官だから、それが原因なのではないかと、アルゴさんは言っていた・・・彼氏に触られるのは、悪くないのだと、惚け話をされたのは余談だが・・・
「前にも、尻尾を触られたことがあるんだけど・・・その時に忠告したのよ!次、やったら、火矢をぶち込むって!そしたら、あいつ・・・今度は耳を触ってきたのよ!?しかもその時の言い訳が・・・!
『耳なら、ノーカンかと思って・・・』
・・・よ!まるで、してやったり、って顔でよ!あー、むかつく!!!」
「・・・お、おう・・・」
怒りのシノンさんに、俺は頷くことしかできなかった。
「・・・それで、フォンのところに来たの。リズには頼みにくいし・・・」
「なるほどな・・・・・」
シノンの事情を聞いた俺は、少し考え・・・あることを思い出した。
「なぁ、シノン・・・もちろん火矢を用意することもできるが・・・そんな方法よりも、もっといい復讐の仕方があるぞ?」
「えっ・・・?」
「・・・よく言うだろう・・・目には目を、歯には歯を、だ」
驚くシノンに、俺は(物凄い悪い)笑みをして、その方法を話した。それを聞いたシノンも、俺と同じ笑みを浮かべていた。
翌日・・・
クエストを終え、ユウキとともにログハウスに帰ろうと、22層の空を飛んでいると・・・
「勘弁してくれ~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
「「!?」」
大声が聞こえ、その方向を見ると、キリトがもの凄い勢いで、ログハウスから飛び出していったシーンだった。
「ど、どうしたんだろう、キリト・・・?」
「あー・・・行ってみるか?」
疑問譜を浮かべるユウキに、事情を察した俺はキリトたちのログハウスに寄ることを提案し、賛同したユウキと共に、ログハウスの近くに着地した。ログハウスに入ると、
「あっ、フォン君、ユウキ!ゴメン、ちょっと家のことお願い!」
「ママ、早く、早く!」
慌てた様子で飛び出すアスナと小妖精姿のユイちゃんと、
「あら、フォン。ユウキも・・・」
どこか嬉しそうなシノンがいた。
「どうやら、上手くいったようだな?」
「ええ・・・ありがとうね、フォン」
「どういたしまして・・・これで、キリトもちょっとは懲りたんじゃないのか?」
どうやら首尾よくいったらしく、シノンはすっきりとした表情をしていた。
「え?え?どういうこと・・・?」
「・・・こういうことよ」
状況が分からないユウキに、シノンがウィンドウを可視化し、一枚のスクリーンショットを見せた。そこには・・・
「こ、これ・・・アハハハハ、なにこれ・・・フフフフ!」
「・・・似合ってなさ過ぎて、逆に面白いな」
・・・そこには、狼の獣耳と尻尾が生え、顔を真っ赤にしたキリトの姿があった。それを見て、思わず俺とユウキは笑ってしまった。
そう、俺が教えた復讐方法・・・それはあるクエストのことだった。二人以上で受けることが前提のクエストなのだが、このクエスト・・・普通の成功報酬は他のクエストと大して変わらないのだが、ある特定の条件・・・魔法を使わずにクリアした場合、特別報酬がもらえるのだ。その報酬が・・・アバターの一日擬獣化なのだ。まぁ、簡単に言えば、他の種族のアバターが猫妖精もどきになるということだ・・・猫妖精には影響のない報酬なのだが、ケモミミが生える、とのことで、女子には人気のクエストだったりする。
ちなみに、擬獣化は報酬の宝箱を開けた瞬間から、効果が発動するので、好きなタイミングで擬獣化できるのだが・・・そこは、シノンが上手くやったのだろう。
「・・・それで、どうして、キリトは飛び出していったんだ?」
「ユイちゃんに、耳と尻尾を嫌という程、触られたのよ。最初はなんとか我慢して、見ているだけだったアスナにも触られて、限界を超えちゃったみたいよ」
「・・・・・アハハハハハハハ!」
俺の疑問に、冷静に答えるシノンの横で、ツボにはまったのか、ユウキが爆笑し、床を叩いていた。
「・・・これで、ちょっとは懲りればいいんだけどね」
「・・・その時は、今度こそ火矢をぶち込めば、いいじゃないのか?」
「・・・そうね。そうするわ」
「・・・アハハハハ!アハハ!アハハハハハハ!!!」
「・・・それにしても、ユウキ、笑いすぎじゃない?」
「面白かったんだろうな・・・さっきの画像」
未だに爆笑を続けるユウキに、俺とシノンは苦笑いするしかなかった。
ちゃっかりアルゴが出た、フォン・シノン回でした。
擬獣アバターのお話は、またどこかで出来ればと考えてますので、お楽しみにお待ち頂ければと思います。
次回はオーディナル・スケール編、最終回のお話です。
次回予告 29日0時予定