ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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初の1万字越え(笑) 

途中、区切ろうかと思いましたが、作者がそういうの嫌いなので、こういう形になりました。

ちなみに、オリ主ちょっとだけ無双回です。
お気を付けください。


第5話 「黒の剣士と夢幻の戦鬼」

「せぇい!」

 槍で最後のモンスターを倒し、自作のショートランス『マガ・ジュネス』を背中にしまった。

 

(スキルの確認は大体できたか……)

 

 一応、槍のスキルはこれで全て確認が終わった。あと確認していないのは……短剣と曲刀、それと刀か……

 

(今日はこのくらいにして、残りの確認は明日にするか)

 

 そんなことを考えながら、俺は町へ帰るために、町への道順を歩き出した。

 俺が今来ているダンジョンは、第35層の『迷いの森』だ。ここは、モンスターのポップ率や数の多さに熟練度上げやスキルの確認にはうってつけの場所である。アルゴさんからこの場所の情報を買い、スキルの確認に俺は来ていた。その時だった……

 

「きゃぁ!!!」

「っ……! 誰か、襲われているのか!?」

 

 俺は索敵スキルを暗視モードに切り替え、スキルを広範囲に広げ、先ほどの悲鳴の主を探した。

 

(いた……! ドランクエイプに襲われているのか!?)

 

 このエリアはそこまで敵が強くないが、ダンジョンの仕組みで、正しい手順でダンジョンを進まなければ、ダンジョンから脱出できないのだ。おそらく、あのプレイヤーはそれを知らずにここに来てしまったのだろう。俺は、プレイヤーの元に走りながら、槍を構えた。そして、ソードスキルを発動させ、一気にドランクエイプとの距離を詰めた。

 

「はぁぁぁ!」

 

 そのまま、ソードスキルをプレイヤーに襲い掛かろうとしていたドランクエイプに食らわせた。ドランプエイクはそのままポリゴンになって、消滅した。俺が、残りの二体を倒そうとした時、すでにドランプエイクは倒されていた。

 

「……キリト?」

「っ……!? フォン、お前だったのか」

 

 残りの二体を倒したプレイヤーがキリトと気付き、俺たちは少し気まずくなってしまった。

 クリスマスのイベントボス戦以来、久しぶりに顔を合わせたからだ。

 

「あ、あの……」

「っ……すみません、大丈夫でしたか?」

「は、はい……でも、ピナが!?」

「……すまない、君の友だちを助けることができなかった……」

 

 彼女は何かを持っていた。どうやら羽のようだが……

 

「それは……?」

「見せてくれるかな……〈ピナの心〉……そうか、もしかしたら、君の友達を助けられるかもしれないよ!」

「ほ、本当ですか!?」

 

 どうやら、キリトには、少女が持っているアイテムが何か分かったらしい。残念ながら、話が分からない俺は完全に置いていけぼりだ。

 

「うん。47層の南に『思い出の丘』っていうフィールドダンジョンがあるんだ」

「……そうか、やっと話が見えた。使い魔蘇生のアイテムか」

「ああ……そこに咲く花が、使い魔蘇生用のアイテムなんだ」

 

 キリトの話に、ようやく理解ができた俺は、アルゴさんから聞いた話を思い出した。ということは、彼女は噂に聞いたビーストテイマーか……

 

「ほ、本当ですか……? でも、47層……私のレベルじゃ……」

 

 最前線ではないとはいえども、今の彼女のレベルでは難しいのだろう……彼女は俯いてしまった。

 

「だが、ビーストテイマー自身が行かないと花は咲かないんだろう?」

「ああ……しかも、使い魔を蘇生するには、死んでから3日以内じゃないと駄目らしい」

「そ、そんな……!?」

 

 俺はキリトに確認するように聞いたが、どうやら時間もそう多くは無いらしい。少女はさらに落胆してしまった。

 

「……フォン、何かいい武器や防具を持ってないか?」

「キリト……?」

「俺も一応、予備のアイテムはあるんだが、どうだ?」

「そうだな…………このダガーと、このブーツとかはどうだ?」

「……よし、俺のと合わせれば、十分だな」

 

 そう言って、キリトはトレードメニューを開き、キリトの考えを理解した俺も同じ行動を取り、少女にアイテムトレードを申請した。

 

「えっ、これは……?」

「この装備とフォンの装備を合わせれば、10レベルくらいは底上げできるだろうし、俺も一緒に行けば、47層でも十分に突破できると思う」

「なら、俺も同行するよ。そのほうが確実だ」

「……いいのか?」

「二人よりも三人の方がいいだろう?」

「あ、あの……」

 

 俺とキリトが話を進めていると、少女が遠慮がちに声を掛けてきた。

 

「な、なんでここまでしてくれるですか……?」

「どうして、って……目の前に困っている人がいるから……理由はそれだけですよ」

「俺もフォンと同じ理由かな。それに……」

「それに……?」

 

 キリトは少し困ったように黙ってしまった。

「……君が妹に似ているから、かな……」

 その発言に少女は笑っていた。

 

 

 

「じ、自己紹介が遅れました。私、シリカって言います」

「俺はキリトだ」

「僕はフォンって言います」

 町に戻りながら、俺たちは自己紹介をしていた。

 

「……あの、どうして、フォンさんは敬語なんですか?」

「ああ、初対面の人や年上の人にはどうしても敬語になってしまって……今からは普通に話すよ」

 

 シリカに指摘され、俺は話し方を普段のものに戻した。この癖、完全に無意識だからな。

 

「そういえば、シリカはどうして一人であそこにいたんだ?」

「……実は、パーティメンバーとアイテム分配でもめてしまって……一人であの森を抜けようとして……」

 

 どうやら、他にもパーティメンバーがいたらしい。だが、あの森はまさしく迷宮だからな。

 

「私が悪いんです。ピナが死んだのは、私が調子に乗ってしまったから……竜使いなんて呼ばれて、舞い上がっちゃって……」

「…………確かに、君の友達が死んだのは、その驕りのせいかもしれないな」

「っ……フォン!」

 

 俺の言葉に、キリトが睨みつけてきたが、俺は言葉を続けた。

 

「……だけど、君はそのことを反省している。自分の間違いを素直に認められる君は強いよ」

「……ふ、フォンさん?」

「それに、君の友達は俺とキリトが必ず生き返らせてみせる……そうだろ、キリト?」

「……そうだな」

「あ、ありがとうございます……!」

 

 そうこうしているうちに町についた。そのまま、俺たちは宿を目指すことになったのだが……

 

「あっ、ロ、ロザリアさん……!」

「あ~ら、シリカじゃない。よく一人であの森を抜けられたわね」

 

 赤髪の女プレイヤーが声をかけてきた。どうたらシリカの知り合いらしい。だが、

 

「……………………」

(キリト……?)

 

 キリトの目が険しくなっていることに気付いた。どうやら、キリトもロザリアのことを知っているようだ。

 

「あら、あのトカゲはどうしちゃったの? ……ああ、もしかして……」

「……ピナは死にました……ですけど、ピナは必ず生き返らせてみせます!」

「へぇ~……っていうことは、『思い出の丘』に行く気なんだ。でも、あんたなんかのレベルで攻略できんの?」

 

(……ああ、こういうタイプか……)

 俺はロザリアの態度に思わずイラっとした。キバオウ以来だな、こんな人に会ったのは……

 

「大丈夫。あのダンジョンはそこまで難易度は高くないし、俺たちも一緒に行くつもりだからな」

「……へぇ、良い装備をしてるけど、あんたたちもその子に誑し込まれたのかしら?」

 

 キリトがシリカの前に立った。先ほどの様子とは違って、相手を挑発するように言い放った。ロザリアはキリトや俺の装備に興味を示していた。

 

「俺たちは正式に彼女から依頼を受けたんだ……悪いが、これ以上、用がないのなら、そこを通してもらうぞ。行こう、キリト、シリカ」

 俺はなんとかイライラを見せないようにそう言い、キリトたちに声を掛け、宿へと向かった。

 

 

 

「どうして、あんな意地悪なことを言うのかな……」

「シリカもMMOは、SAOが初めてなのか?」

「はい。フォンさんもですか?」

「ああ…………俺も色々なプレイヤーに会って来たけど、あんなプレイヤーは久々に見たよ」

「……どんなオンラインゲームでも性格が変わる人は多いんだ。その中には、進んで悪役を演じる人だっている。俺たちのカーソルはグリーンだろう?」

 

 キリトの言葉に俺やシリカはカーソルを見ながら頷いた。

 

「これが犯罪行為を行った場合、カーソルがオレンジに変わるんだ。中には、殺人をする奴らだっている……」

「っ……さ、殺人って……」

 

 キリトの言葉にシリカは驚いていた。そうだ、このゲームでプレイヤーを殺すということは本当に人を殺すということだからだ。プレイヤーの中には、それが本当だと信じられないという奴らもいるのだろう。だが、この世界のことを読んだ俺には、それが本当のことだと理解していた。

 

「従来のゲームなら悪人を気取って楽しめたが……ソードアート・オンラインは違う……これはデスゲーム、遊びじゃないんだ」

「…………………………」

 キリトの言葉にシリカは何も言えなくなっていた。キリトの様子が先ほど感じたものに近くなっていたことに気付き、俺は話題を変えることにした。

 

「この話はここまでだ……シリカ、さっき頼んだチーズケーキって、どれくらいおいしいんだ?」

「えっ? そ、そうですね……現実世界の味付けとはやっぱり違うですけど……」

 

 話題を振られたシリカは慌ててケーキの説明を始めた。説明を聞いているうちにケーキが届き、俺たちはケーキを堪能し、解散となった。

 

 

 

 キリトがシリカに『思い出の丘』について説明し忘れていたということで、俺たちはシリカの部屋を訪れていた。ノックすると、慌てたシリカの声が聞こえた……もしかして、もう既に寝ていたのだろうか? 

 

「お、お待たせしました……!」

「大丈夫? もしかして、もう寝てた?」

「い、いえ……それでどうしたんですか?」

 

 俺の問いかけにシリカはなんでもないと答えてくれた。

 

「さっき、47層の説明をするのを忘れてたからさ……今からでも大丈夫かな?」

「はい。どうぞ!」

 

 シリカに了承をもらい、俺たちは部屋に入った。

 そして、キリトはミラージュスフィアを取り出し、47層の説明を始めた。シリカはスフィアの映像に見とれていた。そして、説明が『思い出の丘』のことになった時だった。

 

「っ! 誰だ!?」

 

 俺は気配に気づき、扉を叩き開いた。すると、誰かが階段から逃走していくのが見えた。

 

「今のは……」

「ああ、どうやら聞かれていたようだ」

「えっ? でも、ノック無しなら、ドアを閉めていれば、中の会話は聞こえないんじゃ……!」

 

 キリトもどうやら気配に気づいていたようだ。シリカは当たり前の疑問を口にしていた。

 

「いや、『聞き耳』スキルを上げていれば、壁や扉越しでも会話を聞くことができるんだ」

「……だが、『聞き耳』スキルは習得に手間がかかるし、まず優先して上げようとするスキルでもない。そんなスキルを高める奴なんて、碌な奴じゃないだろうな」

 

 キリトの説明に俺が補足した。俺もスキルの存在は知っていたが、習得はしなかった。流石のアルゴさんもそのスキルは習得しなかったな。

 

「……俺が外で見張りをしているから、キリトはシリカに説明の続きを頼む」

「分かった」

 

 俺はキリトに後を頼み、廊下に出た。一応、索敵スキルで窓から外の様子も見張っていたが、先ほどの失敗に懲りたのか、説明が終わるまで不審者は現れなかった。

 そして、説明が終わり、キリトが部屋から出て来た。

 

「終わったのか?」

「ああ。それで、どうだった?」

「あれから姿は確認できなかった……おそらく諦めたんだろう」

「そうか」

 

 俺の言葉を聞き、キリトは難しい顔をしていた。どうやら、キリトには心当たりがあるらしい。

 

「……キリト、心当たりがあるんだな?」

「…………フォン、少しだけ耳を貸してくれないか?」

 

 キリトは俺に耳打ちで、なぜキリトが『迷いの森』にいたのか、そして、キリトの目的を聞かされた。

 

「なるほどな。そういう訳だったのか」

「ああ。シリカを囮にする形になっちまったけどな……」

「……シリカを助けたいと思ったのは、本当だろう? あいつらのことが重なったのは偶然だ。気にするな」

「……前から思ったんだが、フォンって、どこか大人びてるよな……?」

「そうか? 友人からは、頭が固いってよく言われたんだが……」

 

 友人か……そういえば、あいつらは元気なのだろうか。この世界に迷い込んでから、もう長い月日が流れたが……

 

「…………フォン?」

「……いや、なんでもない。俺はこのまま朝まで見張りを続けてるから、キリトはもう休め」

「だ、だけど……」

「俺は大丈夫だ。少し考えたいこともあるしな」

「…………分かった。それじゃ、頼む……おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 キリトはそう言って、自分の部屋に戻った。一人になった俺は再び思考に戻った。

 

(……あれから一年と三か月足らず……結局、俺は元の世界には戻れず、こうして攻略組として戦ってきたけど……何も分からないままなんだよな)

 

 これまで前線でずっと戦い続けてきたが、俺が知りたいことは何一つ分かっていなかった。一番知っていそうな人物、血盟騎士団団長……ヒースクリフに話を聞いてみたいと思ったのだが……

 

(……アスナがあんな状態になるとはな)

 

 血盟団騎士団の本部を訪れた時だった。

 アスナに血盟騎士団に入れ、と勧誘を受けたのだ。俺は断ったのだが、アスナのしつこい勧誘に思わず言ってしまったのだ。

 

『あんたのとこの団長は胡散臭い』

 

 その一言にアスナがぶちキレたのだ。その結果、あんなことになったのだが……

 

「……答えを知っているっていうのは、得ばかりじゃないんだな」

 

 その騒動のせいで、俺は血盟騎士団からもの凄い目で見られるようになった。おかげで、なおさらヒースクリフに近づきにくくなってしまったのだ。

 

(しかも…………よく分からないスキルまで現れたし)

 スキル欄を開き、俺はそのスキルを確認していた。

 

(……ヒースクリフ……いや、茅場晶彦……あんたなら、なんか知ってんのかよ?)

 俺はここにはいない、今一番話を聞きたい人物にそう問いかけていた。

 

 

 

「ここが、『フローリア』ですか?」

「ああ。別名『フラワーガーデン』とも呼ばれているんだ」

「この層は全体に花が咲き乱れているんだ。迷宮区にまで花が咲いていたときには驚いたな……」

 

 シリカの言葉にキリトと俺は攻略当時のことを思い出しながらそう言った。迷宮区はその層の特徴が表れる事が多いが、迷宮区まで花だらけだったのは、この層くらいのものではないだろうか。そんなことを考えながら俺たちは『思い出の丘』の入口へと向かった。

 

「そうだ。シリカ、これを持っていてくれないか?」

「これって、転移結晶……?」

「もし、何か起きた時、俺たちがこれを使え、って言ったら、これで町まで戻るんだ」

「で、でも……」

「……大丈夫だ、シリカ。俺やキリトが一緒なんだ。キリトが言っているのは、万が一の時に備えてのことだ。だから、安心してくれ」

「……フォンさん……分かりました」

「よし、それじゃ、行こうか」

 

 俺の言葉に納得してくれたシリカは、転移結晶をポーチにしまった。そして、キリトの掛け声に俺たちはダンジョンに入った。

 

 

 

「そういえば、このダンジョンはどんなモンスターが出るんですか?」

「そうだな。基本的には植物系のモンスターだな」

 

 先を進むキリトにシリカがこのダンジョンのモンスターについて尋ねていた。

 

「へぇ~……こんなに静かなところなのに」

「……そういえば、不意打ちしてくる敵もいるから気を「きゃぁぁぁぁ!!!」……遅かったか」

 

 この辺りのことを思い出しながら、俺がシリカに注意しようとした時だった。彼女はモンスターの不意打ちによって、触手で足を掴まれ宙づりにされていた。

 

「み、見ないでぇぇ!!!」

「い、いや……み、見てない! 見てない!」

「キリト、そんなことを言ってる場合か……はぁぁ!」

 

 キリトは手で目を隠すふりをしながら、隙間から覗いていた。俺はそんなキリトの行動に呆れながら、ジャンプしながら装備している刀を抜き、触手を斬った。

 

「シリカ、今だ!」

「こ、このぉ!」

 

 触手から解放されたシリカはソードスキルを発動し、モンスターの頭部に突き刺した。その一撃でモンスターは消滅した。

 

「…………み、見ました?」

「……み、見てない……」

「………………キリト」

「すいません、ちょこっとだけ」

「……ううう……!」

 俺がジト目でキリトをにらむと、キリトは観念したようにシリカに謝った。シリカは顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

「……だいぶ戦闘に慣れてきたな」

「フォンさんやキリトさんのおかげです。それに、フォンさんのダガーの性能も、凄いですね」

「それ、こいつのハンドメイドなんだよ。フォンって、いつの間にか色々なスキルを習得してるんだよな」

「そうか? 確かに鍛冶スキルは大体高めたが、俺だってまだマスターしていないスキルだってあるんだぞ? 

 料理スキルや釣りスキル、あと裁縫スキルとかもまだだな……」

「……お前の女子力はカンストしてそうだな」

「うるさい」

「……フォンさんの手作り……こんなダガーを作れるなんて……本当に凄いんですね!」

「……そう言われると、照れるな」

 

 キリトの一言には思わずむっとしたが、シリカの純粋な言葉には思わず照れてしまった。鍛冶スキルを習得したのはちょっとした事情があったからなのだが。

 

「そういえば、キリトさん、妹さんがいるって言ってましたよね?」

「えっ……あ、ああ」

「そういえば、昨日そんなこと言ってたな。初めて聞いたぞ?」

「……まぁ、話してなかったからな」

 

 シリカの言葉で話はキリトの妹の話になった。キリト曰く、本当の妹ではなく、従妹の女の子だと言うのだ。

 

「生まれた時から、一緒でさ。向こうはこのこと、知らないはずだけど……そのせいかな、俺の方から距離を取っちゃってさ」

 

 そう語るキリトの表情に、少し後悔の色が混じっていた。

 

「祖父が厳しい人でね。8歳の頃から剣道道場に通わせたんだけと、俺は2年で止めてさ……その時も、かなり怒られたんだけど、妹が代わりに頑張るって話で許してもらえたんだ……それから、あいつは猛練習して、遂には全国大会まで出場する程に強くなったんだ」

「…………それは凄い話だな」

 

 キリトの話に、剣道をやっていた俺は本当に凄いと感じた。おそらく、キリトの妹も死ぬほど、練習と努力を重ねたのだろう。

 

「……でも、俺はずっと引き目を感じてたんだ。本当は、他にもやりたいことがあったんじゃないかって……俺を恨んでいるじゃないかって……」

 

 そう言って、沈んでいくキリトに……

「阿呆か……」

 その後頭部に手刀を入れ、その考えを否定する。

 

「ふぉ、フォン……!?」

「俺も剣道やってるから、なんとなく分かるが、普通、好きでもないことにそこまで打ち込めるわけないだろう……? 

 きっかけはどうであれ、妹さんは剣道を好きで続けてるじゃないか? 俺はそう思うぞ」

 

 俺の言葉に、キリトは目を丸くしていた。

 

「フォンさんの言う通りですよ! きっと、剣道が好きだから、全国大会に行くまで、強くなれたんじゃないですか?」

「…………そう、かな。そうだといいだけどな」

「……よ~し、私も頑張り「ちょっと待った、シリカ!」えっ! きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 意気込むシリカを、反応に気付いた俺が引き留めようとしたが、遅かった。潜んでいたイソギンチャクもどき型モンスターに拘束されてしまった……のだが、

 

「ふっ!」

 

 キリトが高速で片手剣を抜き、そのモンスターをソードスキルで切り倒した。

 

「気合を入れるのはいいけど、気を付けて、な?」

「は、はい……えへへ」

 そうキリトから注意を受け、シリカは恥ずかしそうに笑うのであった。

 

 

 

 俺たちがそんなことを話しながら、ダンジョンを進んでいくと……

「あっ、もしかして……」

「ああ。あれが、花が咲くっていう『思い出の丘』だな」

 

 目的地に到着し、シリカが台座に向かって走って行った。すると……

 

「これが、ピナを生き返らせることのできる……」

「うん。使い魔蘇生用のアイテムだね」

 

 シリカは花を手に取って確認するようにそう言った。どうやら《プネウマの花》というらしい。

 

「さぁ、ここじゃ危険だから、町に戻ってからピナをよみがえらせようか」

「はい!」

 

 キリトの言葉に、シリカは頷きながら花をストレージにしまった。そして。俺たちは元来た道を戻り始めた。

 

「ふーん、ふふん♩」

 シリカは嬉しそうに歩いていた。帰りはモンスターもポップせず、無事に入り口の近くにまで俺たちは戻ってきていた。しかし……

「「……………………………………」」

 

 俺とキリトはシリカに悟られぬように索敵スキルを全開にして、周囲を警戒していた。そろそろ仕掛けてくる頃だろう。俺がそんなことを考えていると……

 

「……キリト」

「ああ。シリカ、ちょっと待った」

「キ、キリトさん……?」

 

 シリカを手で制止しながら、キリトは前に出た。

 俺も二人の背後を守るように立った。

 

「そこにいるのは分かってるぜ。隠れてないで、出て来いよ」

 

 隠蔽スキルで隠れていたのだろうが、索敵スキルを上げている俺とキリトにはその程度では意味がなかった。

 キリトの呼びかけにその人物は姿を現した。

 

「ロ、ロザリア、さん? ど、どうしてこんなところに……!?」

「あたしの隠蔽スキルを見破るなんて……なかなか高い索敵スキルね、剣士さんたち。やっぱり、その装備のレア度から少しは腕が立つかと思っていたけど……」

 

 現れた人物……ロザリアは笑っていた。キリトの話通りなら、奴の目的は……

 

「その様子だと、どうやら花は手に入れたようね。おめでとう、シリカちゃん! じゃ、さっそくだけど、その花を渡してちょうだい」

「な、なにを、言ってるんですか……?」

 

 シリカはロザリアの言葉に信じられないといった表情をしていた。その間に割って入るようにキリトが間に入った。

 

「そうはいかないな、ロザリアさん。いや、オレンジギルド『タイタンズハンド』のリーダー、とでも言った方がいいのかな?」

「……へぇ」

 

 キリトの言葉にロザリアは感心したように声を出した。

 

「で、でも、ロザリアさんは、グリーンじゃ……!?」

「オレンジギルドって言っても、全員がオレンジってわけじゃないんだ。獲物を見つけるためにグリーンのメンバーがパーティの中に紛れ込んで、仲間のいるところに誘導……そして、獲物を狩る。昨夜、俺たちの会話を聞いていたのも、あなたのお仲間ですよね?」

「そ、それじゃ……この2週間、一緒のパーティにいたのは……」

 

 俺の説明にシリカはロザリアの行動を理解し、愕然としていた。

 

「そうよ。戦力を確認して、お金を貯めてたの。

 まぁ、今回のあたしたちの狙いはあんた。あんたが途中で抜けた時には正直困ったけど……

 まさか、レアアイテムの蘇生アイテムを取りに行くなんて聞いたからね……そんなお得な儲け話、逃すわけにはいかないからねぇ。

 それにしても、そこまで分かっていながら、この子に付き合うなんて、あんたら馬鹿なの?」

「いいや、俺もあんたを探してたんだよ、ロザリアさん」

 

 キリトの言葉に、ロザリアは顔をしかめた。

 

「……どういうことかしら?」

「あんた、10日前に『シルバーフラグス』って言うギルドを襲ったな? メンバー4人が殺され、リーダーだけが生き残った」

「……ああ、あの貧乏ギルドね。それがどうしたの?」

「リーダーだった男はな、朝から晩まで最前線の転移門の前で泣きながら、仇討ちをしてくれる奴らを探してたんだ。そいつはあんたらを殺さずに、牢獄へと送ってくれと、毎日毎日、必死にプレイヤーに頼んでいたんだ。

 あんたらにその人の気持ちが分かるか……?」

「……はぁ、そんなくだらないこと聞かされてもね」

「くだらないだと……!?」

 

 キリトの言葉にロザリアは興味がなさそうに答えた。俺はその言葉と態度に思わずブチ切れそうになった。

 

「くだらないわよ! 何よ、マジになって……

 ここはゲームの世界なのよ。ここで人を殺したって、本当に死ぬなんて証拠はないんだし、現実世界で罪に問われるわけでもない。まったく、本当に人が死ぬなんて信じてるなんて、これだから子供は……」

「…………………………………………」

 

 ロザリアの言葉に、この世界のことを読んだ俺は怒りを抑えるので必死だった。

 

『本当に死ぬじゃない、殺しても罪にならない……』

 

 それはこの世界で全力で生きている人たちを冒涜する言葉だったからだ。なんとか俺は殺意を抑えながら、ロザリアに問いかけた。

 

「……おとなしく投降する気はないんだな?」

「投降? アハハハ、この人数を見てからもそんなことが言えるのかしら?」

 

 ロザリアが右手を上げると、プレイヤーが前後から現れた。前に9人、後ろに12人か……

 

「き、キリトさん、フォンさん、数が多すぎます! 

 ここは、脱出しないと……!?」

「……大丈夫。俺が逃げろって言うまで、結晶を持ったまま、そこで見てて」

「キリト、そっちは任せるぞ……後ろの奴らは俺がやる!」

「ああ。頼んだぜ、フォン」

 

 そう言って、俺は武器を素早く両手剣へと変更し、後ろのオレンジプレイヤーに近づいて行った。

 

「死ねぇ!」

「やっはぁ──!」

 プレイヤーたちは狂気の声を上げながら、俺を武器で攻撃し始めた。

 

「フ、フォンさん……!?」

 シリカは俺の方が気になったらしく、ダガーを抱えたまま、俺の名前を呼んでいた。

 

「…………大丈夫(ボソッ)」

「えっ……?」

 

 俺は彼女の方を振り返り、小さくそう言った。

 シリカ越しに、向こうの戦況を見たが、キリトの方もどうやら大丈夫そうだ。

 

「ハァ……ハァ……!」

「……こんなもんか……」

 プレイヤーたちは息を切らしていた。かなり攻撃されたが、俺のHPは一ミリも減少していなかった。

 

「な、なんでだ? HPがまったく減らない……!?」

「当たり前だ……俺にはダメージを受けた時に、確率でHPが回復する《ダメージヒーリング》、斬撃・貫通・打撃武装をダメージを軽減する《ダメージカット》、そして《バトルヒーリング》よりも効果は劣るが、発動サイクルが早い《ライフヒーリング》を習得してる。それに加えて、俺のレベルは77。

 あんたらがどんなに攻撃しても俺は一生倒せないよ」

「な、なんだよ、それ……そんなの、ありかよ!?」

「ありだよ。レベルだけじゃない……多彩なスキルが存在するこのゲームだからこそ、その組み合わせで強くなれるんだよ」

「……思い出した! その顔、お前……まさか、夢幻の戦鬼か!?」

「へぇ、俺のことを知ってるんだ。それじゃ……とっておきをみせてやるか。せいやぁ!」

 

 そういって、俺はソードスキルを発動させ、両手剣を地面に叩きつけた。

 

「「「「「「!?!?!?!?!?」」」」」」

 

 その一撃にオレンジプレイヤーはスタン状態に陥り、地面に倒れてしまった。

 

「な、なんだ? 体が……!?」

「じ、地面が……揺れて!?」

 

 プレイヤーたちはなにが起きたのか、分からず困惑していた。

 俺が放ったのは、複合型ソードスキル〈クラッシュホール〉。両手剣によって、前方に高確率かつ長時間のスタン効果を衝撃ダメージを与える対人スキル。両手剣と体術をマスターし、体術スキルを習得できる場所で、NPCに話しかければ、習得できる隠しスキルだ。

 あの時の岩を割るのに、体術スキル習得の倍、時間がかかったのは、つらい記憶だ。

 

「……あっちも終わったようだな。さて、あんたらはどうする?」

 どうやらキリトの方も決着がついたようだ。キリトはロザリアの首元に剣を近づけていた。

 俺はスタンから復帰できていないオレンジプレイヤーの武器を一撃で破壊し、問いかけた。

 オレンジプレイヤーは恐怖の表情で頷くしかなかった。

 

 

 

「悪かったな、シリカ、囮にするような形にしちゃって……」

「い、いえ……」

「フォンも……手伝ってくれて、助かったよ」

「いや、あんなやつらは俺も許せなかったからな」

 

 町に戻って来て、俺たちは宿に戻っていた。キリトは今回のことを俺たちに謝ってきたが、俺とシリカもあまり気にしていないことを告げた。

 

「さぁ、君の友達を早く蘇らせてあげようか」

「は、はい! ちょっと待っててくださいね!」

 そう言って、シリカはテーブルにアイテムを置いて、蘇生を始めた。

 

「…………フォン、悪かった」

「だから気にするなって……」

「いや、そうじゃなくて……クリスマスのイベントボスのことだよ」

 

 キリトの言葉に俺は驚いた。

 

「あの時、お前やクラインが心配してくれてたのに……俺、目的のことで頭がいっぱいになってて……本当は俺が謝らないといけなかったのに、あのままずっと何も言えずに……」

「……いや、俺のほうこそ。お前があんなに苦しんでいたなんて、知りもせずに……悪かった」

「……フォン」

「…………だけど、今回の話を聞いた時、正直、嬉しかったんだ」

「えっ……?」

 

 俺の言葉に今度はキリトが驚いた。

 

「お前が、《シルバーフラグス》の依頼を受けた話を聞いたとき、初めて会った時のキリトに戻ったと思ったんだ」

「…………………………」

「あの後、お前に何があったのかは知らないけど、俺は今のキリトの方がいいと思う」

「…………そうか」

 

 その言葉を聞いたキリトは穏やかな表情をしていた。おそらく俺も同じ表情をしているのだろう。

 再会した時は互いの距離感が分からず、こっちも固くなっていたが、この出来事を通して、キリトと和解できた。俺とキリトがそんなことを話していると……

 

「お待たせしました! ピナ、この人たちが私たちを助けてくれたんだよ!」

「キュルル!」

「初めまして、俺の名前はフォンって言うんだ、こっちはキリト」

 

 蘇ったフェザーリドラのピナは俺たちを不思議そうに見つめていた。俺が自己紹介するとピナはシリカの元から飛び立ち、

「おっと……?」

「……お礼を言ってるのかもな」

 ピナは俺の肩の上に乗り、俺とキリトにそれぞれお辞儀をした。その姿にキリトとシリカは微笑んでいた。

 

 

 

「それじゃ、俺はここで……フォンはどうするんだ?」

「そうだな……今日は疲れたし、今晩はこの層に泊まるよ」

 宿から転移門まで移動しながら、俺はキリトと今後の予定を確認していた。

 

「そうか。俺は前線に戻るよ。また、今度な」

「ああ。偶にはパーティにでも誘ってくれよな?」

「……ああ。それじゃ…………転移!」

 

 そう言ってキリトは前線の町に向かった。俺とシリカは二人きりになった。

 

「あっ、フォンさん、今晩もこの層に泊まるのでしたら、夕飯一緒に食べませんか?」

「……いいけど、どうしたの、急に?」

「その、もっとフォンさんの話を聞きたいと思ったんです……駄目ですか?」

 

 シリカの涙目+上目遣いに俺は断ることができなかった。

 

「分かった。いい店を知ってるんだ……そこでいいかな?」

「はい!」

 そして、俺たちはレストランへと向かった。

 以前アルゴさんから依頼というか頼まれて向かったお店に俺はシリカと来ていた。

「ここの料理は花が必ず料理に添えられておるんだ。見た目だけでなく、味も美味しいだ」

「へぇ……雰囲気も落ち着いていいですね!」

「ピュル!」

「ハハハ、ピナも気にいってくれたようだね」

 

 どうやらピナも満足しているようだ。俺たちは料理が来るまで雑談をして時間を潰すことになった。

 

「へぇ~、それじゃ、ピナの名前はシリカの猫の名前からとったのか……」

「はい! 私、このゲームが始まってから怖くて……

 でもピナと出会ってから、少しは勇気が出せるようになったんです……ピナがいたからここまで頑張れたんです」

「キュル……?」

 

 シリカに顎をなでられ、ピナは不思議そうに鳴いた。本当に信頼しているんだな。

 

「フォンさんは何かペットを飼っていなかったんですか?」

「うん。うちにはいないね。爺ちゃん家には犬がいたよ。今も元気だといいんだけど……」

 

 ……俺は家族のことをふと思い出していた。みんな、元気なのだろうか……? 

「……フォンさん?」

「っ! いや、なんでもない……おっ、料理が来たみたいだな」

「あっ……そうですね。わぁ、綺麗!」

 

 料理が届き、俺たちは料理を堪能した。ピナもシリカにベーコンを分けてもらいながら、料理を堪能してくれたようだ。

 

 

 

 その夜、シリカと別れ、俺は宿に部屋を取った。

 しかし、就寝はせずに装備を戦闘状態のまま、息を殺していた。

(……来たか!)

 俺は部屋のドアをほんの少しだけ開けて、システム外スキル『聴音』で廊下の音から気配に気づいた。

 俺はそのまま槍を抜き、一気に部屋から飛び出し……

 

「せやぁぁ!」

「なぁ……ぐはぁ!?」

 

 俺の不意打ちに男は反応できずにまともにソードスキルを食らい、宿の窓から吹き飛んだ。

 俺は追撃のために窓から飛び降り、奴の前に着地した。

 

「き、貴様……!?」

「……あの襲撃の中にお前の姿が見えなかったんでな。『聞き耳』スキルなんてものを上げてるから、もしやと思っていたが……やはり『強制開錠』スキルを持っていたか」

「……ちっ!」

 

 俺は昨日の盗聴していた男に槍を向けたまま、そう問いかけた。俺の推測通り、どうやら奴はシリカの部屋に侵入しようとしていたようだ。

『強制開錠』スキル……トレジャーハンターの『解錠』スキルとは異なり、宿や民家のドアを強制的にこじ開けるのがこのスキルの能力である。このスキルを習得するためにはミミックを100体以上討伐し、カーソルがオレンジの状態の時だけ受けられる、ある暗殺クエストの報酬として、習得できると言われているスキルである。しかし、熟練度を高めても成功、失敗に関わらず、一度スキルを使用し、鍵を開けようとすれば、カーソルがオレンジに変わるという恐ろしいほどにデメリットが大きいスキルである。

 まったく、クリエイターの顔が見てみたいほどの凶悪スキルである。

 

「あんなガキのせいでお頭は捕まったんだ! あの女だけは、この俺の手で地獄に送ってやらないと気が済まねえんだよ!」

「……そんな理由でシリカを襲おうとしたのか!?」

 

 逆恨み目的の男の言葉に俺の言葉も思わず熱くなっていた。

 

「い、今のは……! フ、フォンさん……!?」

「フ、フォン、だと!? まさか、夢幻の戦鬼!?」

「……オレンジギルドには俺やキリトの二つ名は有名らしいな……悪いがお前もロザリアたちと同じ場所に行ってもらうぞ」

 

 シリカが宿から慌てて飛び出して来た。どうやら先ほどの音で起こしてしまったらしい。

 俺の名前に男は酷く動揺していた。俺は回廊結晶を取り出し、奴に最後の勧告を行った。

 

「ち、畜生……!」

「……逃がすかよ!」

 

 俺は槍を振りかぶり、そのまま投擲スキルを発動させた。槍は男に直撃したが、ダメージエフェクトは発生せず、男はスキルの威力で吹き飛んだ。

 

「圏内だからHPは減らないが、俺のカーソルが変わることもない。さぁ、このままサンドバックにされるか、おとなしく監獄に向かうか……好きな方を選ばせてやる」

 

 俺は槍を拾い、男の喉に槍を突き刺した。男は諦めたようでおとなしく監獄行きの開かれた回廊結晶の門へと入って行った。

 

「フ、フォンさん……」

「ゴメン、起こし…………」

 

 シリカの声に俺は謝ろうとして、言葉を失った。なぜならば……

「シ、シリカ!? 服!!!」

「へっ……? き、きゃぁぁぁぁ!!!」

 そう、シリカは寝間着姿だったのだ。しかも下は……これ以上は何も言えない。

 

 その後、散々互いに謝りあう事になったのは余談だ。




最後の描写は、こういうことも可能性としてはあったのではないか、
作者が思って、生まれたシーンです。

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