ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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アリシゼーション編開幕です。

アニメ準拠ですが、時系列はほぼほぼオリ主中心で進みますので、少しややこしかったりします。お気をつけ下さい。

書いてて思いましたが、またしてもユウキの出番が少ない!後半でがっつり登場させますので、お許し下さい!!

それではどうぞ!


アリシゼーション
第1話 「幼き日の思い出」


人界歴372年

天職をこなしていると汗を流す時期になってきたなと思いながら、俺は幼馴染が必死に竜骨の斧でその樹に切り込みを入れるのを見守っていた。

 

「おっ・・・!」

 

そして、クリーンヒットした音と共に、寝転がっていたもう一人の幼馴染がその記録を新たに一つ足していた。

 

「はぁ、はぁ・・・これで、50!!」

 

最後の一撃は、切り込みを外し、樹の外皮に当たってしまった。

 

「ぷはっ・・・はぁぁぁ・・・はぁ、はぁ」

「いい音がしたのは、50回中3回だったな。えっと、全部合わせて41回か」

 

息を切らし、地面に倒れてこんでしまった亜麻色の髪と緑色の瞳の幼馴染に、黒髪の彼が声を掛けた。

 

「どうやら、シラル水を奢らないといけないのは、そっちの方みたいだぜ・・・ユージオ」

「ふん・・・そっちだって、まだ43回じゃないか。すぐに追いつくよ・・・キリト」

 

ユージオとキリトの会話に、俺はどっちもどっちだろうと内心突っ込みながら、竜骨の斧を拾っていた。

 

「分かんねーぜ?まぁ、一位が確実なのはお前だけどな・・・・フォン」

「そうか?まぁ、今が75回だから・・・差をつけさせてもらうけどな?」

「本当に・・・フォンは上手だよね」

 

ユージオの言葉に少し照れくさくなりながらも、俺は撃ち込んでいる樹・・・ギガシスダーを見上げていた。

 

「それにしても・・・毎日3人でこれだけ斧を振るっているのに、全然倒れる気配がないよな?」

「ああ・・・やってられないよな」

 

俺の言葉にキリトもうんざりした表情で同意した。そんな俺達を見ながら、ユージオが諫めた。

 

「文句を言っても仕方ないさ。このギガシスダーを切り倒すことが、僕らの天職なんだから」

「そりゃ、分かっちゃいるけどさ・・・本当に達成感がない仕事だよな」

 

そう言って、キリトはギガシスダーに近づき、指で『ステイシアの窓』を開いた。

 

「えっと、この天命・・・前はいくつだっけ?」

「えっと・・・」

「23万5590だな・・・2か月で50しか減ってないのは、確かにやりがいがないと思ってもしょうがないかもな?」

 

俺の言葉に、キリトが思わず俯いた。その様子をユージオと共に不思議そうに見つめていた。

 

「た、たったの50・・それぽっちしか減ってないって、これじゃ一生かかっても切り倒せねーよ!?」

「アハハ・・・なんたって鉄の固さを誇る大樹だ。僕らの前に6代の刻み手が300年かけて、頑張ってたんだからさ。あと18代・・・900年くらいはかかるよ」

「それって、途方もない話すぎないか?確かに、未来につなぐ、とか良い言葉に聞こえるけど・・・軽く呪いみたいになってないか?」

 

ユージオの分析に、俺は思わず苦笑いしながら、ツッコミを入れた。ある意味、怖い話だ。

すると、単純作業に飽きたのか、ストレスがたまったのか、キリトが・・・

 

「お~ま~え~は!おりゃあ!!!」

「うわぁぁ!?」

 

ユージオに飛び掛かった。二人は地面を転がり、キリトが馬乗りになった。

 

「いたた・・・うん?」

「なんでそう優等生なんだ?もうちょっと、この理不尽な役目をどうにかしようと、な、や、め!」

「な、なにすん・・・!?止めろよ!」

「お前ら、元気だな・・・さて、俺は続きをやるとするか」

 

いつもの二人のじゃれ合いに呆れながら、俺は切り込みの続きをやろうと斧を構えた。そして、作業の続きをしようとした時だった。

 

「こ~ら~!そこの二人!」

「うん・・・?」「げっ、やべぇ・・・」「あっ・・・」

 

いきなりの声に、俺たちは三者三様の反応を示した。そこには、金色の髪にリボンを付け、バスケットを持った少女がいた。

 

「や、やぁ・・・アリス」

 

ユージオが気まずそうに少女・・・アリスに挨拶した。

 

「よ、よう、アリス。神聖術の練習は終わったのか?今日は随分と早いけど・・・」

「はぁぁ・・・全然早くないわ。いつもの時間よ?」

 

そう言って、アリスは岩から飛び降り、こちらへと歩いてきた。

 

「喧嘩する元気があるのなら、フォンを見習って切り込みをしたら?それとも、ガリッタさんに言って、回数を増やしてもらおうかしら?」

「や、止めて!?」「ひぃぃ!?」

「まぁまぁ。アリス、冗談はその辺にしといてやれよ?キリトたちだって、息抜きでやってるもんなんだからさ?」

「分かってるわよ。もう、フォンは真面目なんだから。逆にキリトたちを見習った方がいいんじゃない?」

「ア、アハハハハ・・・」

 

アリスの脅しに、悲鳴を上げる二人を庇うも、逆にそんな心配を掛けられてしまったことに苦笑いした俺。

 

「さぁ・・・早くお昼にしましょう?」

 

アリスの言葉に、俺たちは作業(とサボり)を止め、昼食にすることにした。アリスが持ってきたバスケットを開くと、

 

「「「おおおっ!!」」」

 

黄金のように輝く出来立てのアップルパイにパン、果物にシラル水・・・見るだけで食欲をそそる料理に思わず声が出てしまった。

 

「今日は暑いから、悪くなっちゃう前に急いで食べてね?」

「「「おう!」」」

 

ステイシアの窓を開きながら、そう告げるアリスの言葉に俺達は料理を手に取り、口に放り込み始めた。パイの甘味とさくっとした皮が疲れた体に染み渡る・・・そう思えるほど、美味だった。

 

「う~ん!今日のパイは美味しいな!はむっ!」

「うんうん!大分、腕が上がってきたみたいだな!」

「これは・・・もうお店で出すこともできるじゃないのか、アリス」

「そ、そうかしら・・・?私はもう一味足りないような気がしたんだけど・・・」

 

俺達の感想に顔を赤くして目を反らすアリスに、俺たちは思わず笑ってしまった。その時、キリトが何かに気付いた。

 

「それにしても・・・せっかくの美味い弁当なんだから、もっとゆっくりと食べたいよな?なんで、暑いとすぐに悪くなっちゃうだろう?」

「なんでって・・・」

「冬なら、生の塩漬け肉を外に放っといても、なにしても持つじゃないか?」

「そりゃ・・・冬は寒いから、天命も減りにくいしな・・・」

 

キリトの言葉に、ユージオと俺は目を合わせながら、そう答えた。俺たちの言葉を聞いたキリトは、

 

「そうだよ!なら、寒くすればこの時期だって弁当は長持ちするはずだ!」

 

そのアイデアを自信満々に述べた、思わず俺とユージオは肩を竦めてしまった。

 

「絶対禁忌の天候操作術で雪でも降らせる気かい?」

「そんなことしたら、公理教会の整合騎士に捕まるぞ?」

「・・・・・う~ん・・・」

 

俺達の言葉に再び考え事を始めたキリト。そんな俺達の様子を、アリスは弁当を食べながら見守っていた。すると、

 

「・・・あっ・・・氷だ」

「えっ・・・?」「・・・氷?」

「ああ!氷がいっぱいあれば、十分に弁当を冷やせる!そして、美味い弁当をいつまでも食べられる!・・・そうだよ、氷だよ!氷を探しに行こう!」

 

立ち上がりながら、そう宣言したキリト。そこにアリスがやれやれといった表情で突っ込んだ。

 

「・・・アンタね・・・今は夏なのよ?氷なんて、どこにあるっていうのよ?央都の市場にだって、ありはしないわ」

「あっ・・・・・・・う~~~ん・・・・・・・・・」

 

アリスの言葉に、キリトはまたしもて熟考のポーズに入った。それを俺たちが見つめていると、キリトの目が開いた。

 

「なぁ・・・英雄ベルクーリの武勇譚、覚えてるか?」

「えっ?」「どの話?」

「もしかして、あれか?『ベルクーリと北の白い竜』の話か?」

 

 

キリトの話がピンときていない二人に、俺はその逸話を説明し出した。

 

『ベルクーリと北の白い竜』・・・英雄ベルクーリが、村の東側に流れるルール川で氷の塊を見つけ、その源・・・人界の終わりとされている『果ての山脈』にたどり着いた冒険譚。ベルクーリはその洞窟で財宝の山と巨大な白竜を見つけ、宝の中から美しい剣を手に取った時、その途端、白竜が目を覚まし・・・ベルクーリは白竜に襲われることを覚悟するも、彼の勇気を免じた白竜がその場を見逃し、ベルクーリは生還した・・・というおとぎ話だ。

 

俺が一通り話したところで、キリトが話を本題に戻した。

 

「あの話だと、洞窟に入ってすぐにでっかい氷のツララが生えてただろう?そいつを折ってくれば・・・」

「・・・お前な・・・」「キリト、それは・・・」

「悪くない考えね」

「「えっ・・・」」

 

キリトの提案にユージオと俺が諫めようとした時、アリスの賛同の言葉が飛び出した。思わず、俺たちは嫌な予感を感じ取っていた。

 

「あのね・・・知ってるだろう?村の掟では」

「村の掟では、大人の付き添いなく、子供だけで果ての山脈に遊びに行ってはならない、よ?でも、氷を探しに行くのは遊びじゃないわ。お弁当の天命が長持ちするようになれば、村の皆が助かるでしょう?」

(・・・あっ、これ、駄目なパターンだわ)

 

目をランランとさせ、屁理屈・・・もとい、妙高な論理のすり替えを述べるアリスに俺は心の中で諦めた。こうなってしまえば、アリスとキリトは止まることはないことを幼馴染の俺は十分に理解していた。

 

「だから、これは仕事の内だと解釈すべきだわ」

「うんうん・・・そうだな!まったくその通り」

「・・・でもさ、果ての山脈に行くのは村の掟だけじゃなくて、あれでも禁じられてるだろう?」

「あれ、って?」

「禁忌目録のことだろう、ユージオ」

「「・・・あっ」」

 

ユージオと俺の言葉に、キリトとアリスが思い出したかのように声を出した。

 

『禁忌目録』・・・公理教会が定めた法で、最も破ってはならないもの。子供のころから、大人たちにそう教えられてきたのが、禁忌目録だ。内容は教会への忠誠や殺人の禁止といったもので、これを破れば、整合騎士に捕まる・・・と大人たちから脅されてきた。

 

「まさか・・・禁忌目録を破るわけにはいかないだろう?」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

ユージオの言葉に、キリトは反論に困っていた。しかし、アリスは違った。

 

「ユージオ・・・目録に書かれているのはこうよ?禁忌目録第1章3節11項・・・何人たりとも、人界の果てを囲む『北の山脈』を超えてはならない・・・超える、っていうのは果ての山脈の向こう・・・ダークテリトリーに入ることだわ」

「・・・なるほど。確かに、『洞窟に入るな』とは目録には定められてないな」

「・・・えっ、フォンまで!?」

 

アリスの言葉に思わず納得してしまった俺にユージオが動揺した。そこにキリトが畳みかけた。

 

「よし、決まり!次の安息日は、白竜!・・・じゃない、氷の洞窟探しだ!」

「・・・うん!」

「え、ええ~・・・フォン・・・」

「諦めろ、ユージオ・・・こうなった二人はもう止められないだろう?」

 

盛り上がる二人に困惑するユージオに、俺は肩に手を置き、覚悟を決めるように言った。なんやかんやで巻き込まれるユージオに俺はどこか自分とシンパシーを感じるのだった。

 

「じゃあ、朝7時に北の門に集合ね!」

「おう!寝坊すんなよ?」

「そっちこそ!」

「「・・・はぁ」」

 

そんな二人の会話に、俺とユージオは思わずため息を吐くのだった。

 

 

 

それから3日後・・・

 

「フフン♩フフフン♬」

「まったく・・・荷物は俺らに持たせるんだからな」

「まぁ、いいじゃない?こうやって、アリスと出かけるのも今だけかもしれないよ?アリスは村長の娘だから・・・」

「もっと大きくなったら、神聖術や他の勉強に時間を取られちまうかもしれないからな」

「・・・まぁ、天職に就いてないのも、神聖術の才能を伸ばす勉強のためだしな・・・」

「それに、村の規範になるよう、男の子と遊ぶことも禁じられちゃうかも」

「・・・アリスならそんなことお構いなしな気もするけどな・・・」

 

鼻歌を歌いながら、先を歩くアリスの話で盛り上がる俺達。すると、俺たちの会話が気になったのか、アリスがこちらを向いた。

 

「こら!なに3人で内緒話してるのよ!」

「い、いや・・・なんでも。な?」

「う、うん」

「夕方の鐘までには、帰るようにしないといけないなって話をしてたんだ」

「そう・・・そうね。ソルスが空の真ん中まで来たら、引き返すことにしましょう」

 

俺達の言い訳に納得したアリスは、ソラスの位置を確認してから、気合を入れた。

 

「そうとなれば・・・急ぐわよ!」

「「「・・・・・ハハハ」」」

 

そんなアリスの姿に俺達は笑い合ってから、その後を追った。

 

 

 

岩場が露出した道へと来た時、キリトがある話をし出した。

 

「そういや、知ってるか?この村ができた頃のばっかりは、偶に闇の国から悪鬼・・・ゴブリンだの、オークだのが山を越えて来て、羊を盗んだり、子供を攫ったりしたんだぞ?」

「なによ・・・私を怖がらせようとして・・・知ってるわよ?最後には、王都から整合騎士が来て、退治してくれたんでしょう?」

「それからというもの、晴れた日には、果ての山脈のずっと上を飛ぶ白銀の竜騎士が見えるようになったのです!」

「・・・・・あっ」

 

演技かかったキリトの言葉を聞いていた俺がふと空を見た時・・・驚きの光景が目に入った。俺に釣られ、ユージオとアリス、遅れてキリトが空を見上げると・・・光り輝く何かが空を高速で飛んでいったのだ。

 

「まさか、ね・・・」

「ああ・・・まさかだろうな」

 

アリスの言葉に、俺は目の前の光景が信じられず、そう呟いたのだった。

 

 




祝え!
世界の壁を越え、現実と仮想を行き来する幻想の剣士。その新たなる物語の始まりを!!!

お気に入り数が200を突破したのと、アリシゼーション編スタート記念にウォズりました。

読者の皆様には頭が上がりません。今後ともよろしくお願いします。

次話でアンダーワールドのお話は一旦区切りになります。

次回更新 2日 0時予定

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