キリトさんはお休みです(笑)
時系列的には、『心の温度』後になります
第55層『グランザム』にある血盟騎士団の本部に俺は一人で来ていた。
その理由は……アスナからのメッセージだった。
『団長があなたに会いたい、と言っているの』ということで、本部の前に来たのだが、
「……あいかわらずだな、この本部は」
「それはどういう意味かしら……?」
「……副団長。いや、あまり長居したくはない場所だと思ってな。それで、団長さんはどこにいるんだ?」
「団長室にいるわ案内するから、ついてきて」
入り口からやってきたアスナの言葉に俺は頷き、その後を追った。
「「…………………………」」
そのまま会話が何もなく、俺たちは本部の中を進んでいった。これは気まずすぎる……
すると、少し大きな扉の前に着いた。
「失礼します。団長、フォン君を連れてきました」
アスナがノックしてから、扉を開き、用件を言った。
俺も続き、部屋に入ると、
「うむ、ご苦労。私が呼ぶまで、外で待機していてくれているかな?」
「……分かりました。失礼します」
ヒースクリフが座っていた。ヒースクリフはアスナに待機を命じ、アスナはそれに従い、部屋を出て行った。
「やぁ、久しぶりだね、フォン君……いや、夢幻の戦鬼と呼べばいいのかな?」
「その呼び方はあんまりしてほしくないな……フォンでいい」
「そうか。今日、君を呼び出したのは他でもない……我が血盟騎士団に入る気はないかな?」
ヒースクリフを警戒しながら、俺は冷静に考えていた。これは、キリトの時と同じことなのだろうか……?
「……一応理由を聞いてやる。どうしてだ?」
「ふむ……君のようなハイレベルなプレイヤーを我がギルドに誘わない理由はないだろう?」
「……俺は、前にもあんたのとこの副団長の誘いを断ったんだぞ?」
「だから、私がこうして直接交渉しようと思って、今日は君に来てもらったのだよ……どうかな?
もし血盟騎士団に入ってくれるのなら、それなりのポストも約束するが……君にとっても悪い話ではないと思うがね?」
……なるほどな。確かに俺にとっては、悪い話ではない。基本、俺はソロプレイヤーだ。この先、モンスターのアルゴリズムにランダム要素が加わってくると、迷宮区を攻略していくのも厳しくなるだろう。だが……
「……悪いが、断る」
「……理由を聞こうか?」
俺の言葉にヒースクリフは予想通りという風に尋ね返して来た。食えない男だ。
「……俺はソロだ。ソロだからといって、特段困ることはないし……それに、俺はそんな役職なんてものが苦手だから、欲しくもない……」
俺は適当な理由を言い、いったん言葉を切り、奴に最大の理由を言った。
「なにより、あんた自身が信用できない」
「……そうか。少しは信用されていると思ったのだが」
「…………話はもうないな?帰るぞ?」
ヒースクリフの言葉を無視し、俺は背を向け、ドアへと向かった。
「……ユニークスキル」
「…………………………」
ヒースクリフの言葉に俺の動きは止まった。
「様々なスキルを習得・発見し、様々な武器で戦場を駆ける……それが君の二つ名の由来の一つだったな。
夢幻の戦鬼と呼ばれる君なら知らないかな、ユニークスキルと呼ばれるものを……」
「……あんたの『神聖剣』のような、ワンオフスキルのことか……悪いが、いくら俺でも流石にユニークスキルは習得してないし、習得方法だって分かっていない」「……………………………………」
「……………………………………」
場を沈黙が支配した。俺と奴は黙ったまま、睨みあっていた。
「…………そうか。すまない。引き止めってしまったな」
「……俺からも一つ、聞いてもいいか?」
「……なんだね?」
食えない男に対して、俺はある質問をぶつけてみたくなった。こういう機会でもなければ、こいつから話を聞くこともできないだろうしな。
「……あんたは平行世界、ってやつを信じてるか?」
「…………ほう……」
珍しくヒースクリフが驚いていた。それが何を意味するのか……表情から読み取ることはできなかった。
「そうだな…………あると私は信じているよ」
「………………そうか。変なことを聞いたな……それじゃあな」
「…………」
俺は奴にそう言って、部屋を後にした。
「フォン君。話は終わったの?」
「副団長……本当にずっと外にいたのか」
部屋から出ると、アスナが待機していた。真面目すぎないか……?
そこから団長との話の内容を聞かれたため、俺はスカウトのことを話した。
「やっぱり……団長、その話をしたんだ」
「…………意外だな」
「えっ?」
「いや、アスナの反応が思っていたのと違ったからな……」
俺の話を聞いたアスナの態度が少し困ったような感じだったのに、俺は驚いたのだ。以前ならば、断ったと聞いたら、間違いなく烈火のごとく、怒っていたのに。
「……この前のデュエルの時に、フォン君が言ったでしょう?私の視野が狭いって……」
「…………………………」
「……その後、色々あってね。君の言う通り、私、見えてなかったなと思ったの」
「……キリトか?」
「そ、それは…………う、うん!」
「そうか。まぁ、頑張れよ!」
「なぁ……!?い、いや、私は、べ、別に!?」
俺の言葉にアスナは赤面したまま、慌てだした
……アスナって、意外にポンコツなのか。
「いや。俺はこれからも頑張れと言ったつもりだったんだが……そうか、副団長……いや、アスナはキリトのことが……なるほどなぁ~」
「っっっ~~~~!!!」
……まぁ、アスナがキリトのことを好きになることを知ってたからこそ、わざとからかったのだが……
なにがあったのかは知らないが、二人の仲が進展したことはいいことだろう。赤面して顔を抱えるアスナを見ながら、俺はそんなことを考えていた。
「フォンさん、ここって、鍛冶屋さんですか?」
「ああ。アスナに教えてもらってな……ちょっと聞きたいことがあってな」
俺は一度、ホームに戻り、武器の強化を相談されていたシリカを誘い、一緒に第48層にある『リズベット武具店』に来ていた。
ここはアスナの知り合いが経営しているらしく、経験豊富ということもあり、話を聞きに来たのだ。俺は扉を開き、店内へと入った。
「いらっしゃいませ!リズベット武具店へようこそ!」
「あなたが店主のリズベットさんですか?」
「そうですけど……どうかしましたか?」
店に入ると、ピンクの髪色をした女性が声を掛けてきてくれた。
どうやら、彼女がマスタースミスのリズベットらしい。
「わぁ……ここに並んでる武器、すごいですね!」
「そこにある武器は全部、私が作ったんですよ!
もし良ければ、試し振りしてみますか?」
「い、いえ……今日は武器を買いに来たのではないので」
「そうですか……それでは、今日はどういったご用件ですか?」
シリカの言葉にリズベットは少し肩を落としていたが、すぐに切り替えたようだ。
「実は……これらのアイテムについて意見を聞きたいと思って、来たんです」
俺はストレージからあるアイテムをオブジェクト化した。
「……どれどれ『霊華の蜜石』『希樹の琥珀』……聞いたことがないアイテムですね」
「実は、あるボスからドロップしたのですが、素材としてどう使えばいいのか、分からないんですよね……」
「ふむふむ…………ボスからか…………
おそらくですけど、この鉱石一つで一つの武器が作れるのではないでしょうか?」
「どういう意味ですか?」
俺はリズベットさんの言っていることが分からず、聞き返していた。
「……噂で聞いた話なんですが、あるドラゴンのインゴットはそのまま武器の素材として使えるそうなんです。これがボスからドロップしたものだというのなら、どういう武器を作るのかさえイメージすれば大丈夫だと思います。
もしよければ、私がお作りしましょうか?」
「……いえ、大丈夫です。俺も鍛冶スキルはコンプリートしているので。
自分で作ってみようと思います」
「そ、そうですか……そういえば、どうしてうちのお店に?」
リズベットさんは先ほどよりも落ち込んでしまった。
まぁ、かなりのレアアイテムだし、自分の実力を試してみたいと思ったんだろうな……
「ああ、実は血盟騎士団のアスナからここのことを「アスナが!?」え、ええ……」
リズベットさんの質問に答えると、かなりの大声で驚かれた。
「フォンさん、もう少し長くなりそうなら、私、外で待っていましょうか?」
「いや、話はもう終わったから「待って……!」……な、なんですか?」
またしても言葉を遮られた。しかし、今度は様子がおかしかった。俺を指さしたまま、震えていた。
「フォンって、もしかして……夢幻の戦鬼?」
「え、ええ。そうですけど……?」
「………………このぉ」
リズベットさんの質問に、俺は嫌な予感を感じながらも答えた。すると……
「よくも……アスナを泣かせたわねぇ!!!」
「ぶべぇ!?」
「フォ、フォンさん!?」
リズベットさんの怒りの咆哮と共に顔面を思いっきりハンマーで殴られたのだった。
「その……ゴメンね、フォン君」
「……いや、俺がアスナを泣かしたのは事実だしな」
「だ、大丈夫ですか、フォンさん?」
「……わ、悪かったわね」
……偶然にもアスナが、店を訪れてくれて助かった。
もしアスナが来なければ、いまごろ醜いトマトに変えられていただろう。
……ダメージはないんだけど……
「……ゴメン……前に、アスナがあんたに負けたって私のところに泣きついてきたからさ。つい……」
「そ、そうですか。まぁ、誤解が解けて良かったです……」
どうやらリズベットさんはアスナとの決闘の件で、俺に対して怒っていたらしい。
「それにしても、夢幻の戦鬼といつの間に仲良くなったの、アスナ?」
「い、いつって……?今日の朝、フォン君と話す機会があって……」
「それで、わだかまりが解けた、ってことですよ。その時にここの店のことも聞いたんですよ」
あの後、アスナと少し話す時間があったのだ……主にキリトに関することだったのだが……
「そう……それにしても、まさか鍛冶スキルまでコンプリートしてるなんて……流石は夢幻の戦鬼と言うべきなのかしらね」
「……リズベットさん、話し方、変わってませんか?」
「さっきまでは営業スタイルの話し方だったのよ!
まぁ、もう素でしゃべった方が楽だと思ってね。それにさん付けはいらないわよ、年もそう違わないだろうし……」
「……分かった。それじゃ、俺も普通に話すよ」
リズベットの言葉を聞き、俺はそう返した。すると、
「あ、あのぉ……!」
「あら、あなたは……?」
「わ、私……シリカって言います!よ、よろしくお願いします!」
「そう!私はアスナ、よろしくね、シリカちゃん!」
「は、はい……!そ、それでお聞きしたいことがあるんですけど……さっきから言ってる、夢幻の戦鬼ってなんなんですか?」
「あー、それか……」
シリカの質問に俺は思わず、言葉に詰まった。アスナも少し苦笑いをしていた。
「えっ?様々なスキルの開拓に貢献し、あらゆる武器で戦場を駆けたから、つけられた二つ名だって私は聞いたけど……?」
「……リズ、実はね……フォン君の二つ名はね、もっと恐ろしい意味が込められてるの」
「恐ろしい意味……?」
リズベットの言葉にアスナが補足し、シリカが不思議そうに呟いた。
「……25層のボス戦の話なんだけどね……」
そう言って、アスナは話し始めた。
25層のボス、クォーターポイントと呼ばれるこの層のボスは俺たちの予想を超える強さだったのだ。
その時、俺が取った戦法がこの二つ名の由来となったのだ。
「その時のボス戦はね、私たち血盟騎士団も全力を挙げて、挑んだんだけど……ボス戦は大苦戦したの。
だけど、フォン君が取った戦法で勝利できたの……」
「「戦法……?」」
「……アスナ、そこからは俺が説明するよ。
そのボスは武器を次々と持ち変えてくるタイプだったんだ。そこで、俺も……」
「ま、まさか…………」
「うん。俺もボスの武器に合わせて、次々と武器を変えて戦ったんだよ……」
「あの時は、本当に驚いたわ……高速でメニューを操作して、次々と武器とスキルを切り替えて、戦ってたんだから……」
「「………………………………」」
俺とアスナの言葉にシリカとリズベットは言葉を失っていた。
「まぁ、基本どの武器でも戦えるようにスキルは習得してたからな」
「それでもよ!普通、戦闘中に装備を変えないわよ……」
まぁ、そのボス戦における俺の戦法と様々な武器を扱うこと、そこに様々なスキルの開拓を行っていることからついた二つ名が『夢幻の戦鬼』というわけだ……ちなみに命名者はアルゴさんだ。
「はぁ。フォンさんって、そんなときから無茶してたんですね……」
「私、頭痛くなってきた……」
シリカとリズベットにそれぞれそんな反応をされ、俺は苦笑いするしかなかったのだった。
バトル回が続いたので、ちょっとした日常回
次回から、一気にアインクラッド編は終盤へと向かって行きます