ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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ユウキファン、SAOガールズファンの皆さまお待たせしました!

ようやくユウキたちメイン回です。
登場キャラが多いので、珍しい三人称でのお話です。
それではどうぞ!
 
余談ですが、タイトルがゼロワン27話と似てるのは特に意味はありません。


第14話 「それでも僕は諦めない」

「・・・蓮?」

 

蓮が菊岡たちの策略に気付き、尾行した翌日・・・

 

木綿季は蓮と暮らすマンションへと帰って来ていた。

 

蓮の頼みで明日奈の家に泊まっていたのだが、昨日の病院で菊岡と別れた後の蓮の様子がおかしかったことから、嫌な予感を覚えた木綿季は早朝から家に戻ってきていた。

 

蓮のバイクは専用の駐輪場に停められていたのだが、部屋には誰も戻った形跡がなかった。不安に思った木綿季は名前を呼びながらリビングに入った。そして、机の上にあった書置きを見つけた。

 

『木綿季へ

ゴメン。しばらく家に戻れそうにない。

黙ってこんなことをして本当にゴメン。

でも、必ず帰ってくるから・・・それまで明日奈たちを頼む   蓮』

(なんだろう・・・胸がザワザワする。本当に大丈夫だよね・・・蓮?)

 

ここにはいない彼のことを思い、木綿季は胸を抑えながら手紙を握りしめた。

蓮がどこかへと行ってしまうのではないか・・・そんな不安が彼女を襲っていた。

 

そして、その懸念はすぐに当たった。

 

「ええっ!?キリトに会えなかった?!」

「うん・・・特殊な危機で治療をしているから、治療が終わるまでは面会謝絶だって・・・」

「でも、そんなことってあるんですか?家族まで面会できないなんて・・・」

「なんだかひっかかるわね・・・」

 

ALOのシルフ領であるスイルベーン。

アスナとリーファから、キリトとの面会ができなかったことを聞いたリズベッドとシリカ、シノンはその事実に驚愕していた。一方、ユウキはその報告を聞き顔を俯かせていた。

 

「そうなの。私たちもおかしいと思って・・・」

「データ上は確かに入院中なんですが・・・お兄ちゃんを搬送した救急車、その病院には到着していないんです」

「えっ?それって・・・」

「キリトさんは実際にそこにはいないってことですか?」

「菊岡さんから説明はないの?」

「電話はずっと圏外だし・・・メールも返ってこないの。総務省に問い合わせたら、昨日から出張中だって」

「それ・・・どう考えたっておかしいわよ!あのオッサン、絶対何かしてるわよ!」

「・・・ねぇ、ユウキ。さっきから何も話してないけど、何かあったの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

全員がキリトの安否を心配し、菊岡のことを疑っていると・・・いつもと様子が違うユウキに気が付いたシノンがそう尋ねた。

 

この状況を悪化させるだけではないかと思い、話すべきかどうか迷ったユウキ。だが、アスナの話を聞いたユウキはひっかかりを覚え、打ち明けることにした。

 

「あのね・・・ずっと黙ってたんだけど・・・実はフォンも家に戻ってきてないんだ」

「「「「「ええっ!?」」」」」

「キリトが病院に運ばれた日・・・アスナの家に泊まりに行ってくれと言われた時、フォンの様子がおかしかったんだ。

なんていうか、怖いっていうか、怒ってるみたいだったんだ。なんでもないってフォンは言ってたけど・・・家に帰ったら、しばらく帰れないって書置きがあって・・・」

「・・・なんで言ってくれなかったの、ユウキ?!」

「ゴメン、アスナ・・・これ以上、アスナに心配を掛けたくないと思って・・・

でも、さっきの話を聞いて、ちょっと引っかかったんだ」

 

アスナの問いかけに謝りながら、ユウキはさっきのひっかかりを説明し始めた。

 

「心配になってフォンのスマホに電話してみたんだけど、フォンのスマホも圏外だったんだ」

「フォンのも?・・・それって、菊岡と同じ?」

「うん。もしかしたらなんだけど・・・菊岡さんとフォンは一緒にいる、っていうのは考えすぎかな?」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

ユウキの推測に全員がその考えに至り、黙ってしまった。

 

「それじゃ、フォンはあの菊岡のオッサンが何かを企んでいるのに気づいて、後を追っていったかもしれないってこと?」

「・・・・・多分だけど」

「フォンの奴・・・!この前、ユウキに心配を掛けるなって言ったばかりなのに!」

 

リズベットの言葉に曖昧に頷くユウキ。フォンの行動にシノンはかなり苛立っていた。

 

「でも、フォンさんは何に気付いたんでしょうか?それに意識不明のキリトさんに何かをさせようだなんて・・・菊岡さんは何を考えているでしょうか?」

「・・・ちょっと待って・・・意識不明?

・・・ねぇ、アスナ、ユウキ。覚えてる?

キリトとフォンがこの前話してくれたこと」

「・・・・・もしかして、あのバイトのこと?」

「バイト・・・?」

 

シリカの言葉からシノンはあることに気付き、その場にいた二人に尋ねていた。思い当たる節があったユウキの言葉にシリカが首を傾げた。

 

「ええ。意識不明っていうのは、それって外から見た話だよね?もし魂そのものにアクセスできるマシーンを使うことができるとしたら・・・?」

「あっ!?フォンが話してたSTLっていう機械!」

「・・・ソウルトランスレーター・・・!」

 

アスナとユウキの答えに頷くシノン。一方で事情を知らないシリカとリズベットが疑問符を頭に浮かべていた。

 

「ソウル・・・トランス・・・?」

「・・・なにそれ?」

「人の魂を読み取る機械のことなんだって・・・フォンが言うにはラースっていう会社が開発してた新しいフルダイブのマシーンだって」

「ラースって・・・お兄ちゃんが最近バイトしてた会社のことですか?」

「えっ?リーファちゃん知ってるの?」

「あっ、いえ・・・詳しいことは私も。でも、本社が六本木にあるってことは聞いてます」

「じゃあ、キリトとフォンは六本木のどこかにいるってこと?」

 

リーファの言葉にシノンがそう推測した。すると、アスナがメニューが操作しながらあることを話し始めた。

 

「実はね・・・ユウキの話を聞いて私も引っかかったことがあったんだ」

「えっ?ボクの話・・・?」

「うん・・・そして、多分これはキリト君にも繋がっている線かもしれないの」

「・・・それは何?」

 

アスナのいう手がかりが気になり、問いかけるシノン。それに答えるようにアスナはウインドウを可視化した。

 

「ユウキとしののんにはこの前説明したよね?キリト君の心電図モニター」

「心拍数を確認できるアプリよね?」

「な、なんですか?アプリ?」

「キリトの心電図を計るアプリだよ。それがどうかしたの?」

 

戸惑うシリカに説明しながら、ユウキはアスナが引っかかった点を尋ねていた。

 

「うん。この心電図モニターにはGPS機能も搭載されているの。実はキリト君が搬送された日・・・フォン君にこのアプリのことを聞かれたの。

それで、自分もキリト君の容態を随時知りたいって言われたから、スマホにアプリのデータを送ったの。

・・・もしかしたらだけど」

「フォンはそのアプリを使って、キリトの後を追ったってこと?」

「・・・うん。その時はそこまで疑問に思ってなかったんだけど・・・ユウキの話を聞いて、そうじゃないかと思って・・・

だから、今、解析をお願いしてるの・・・ユイちゃん」

「はい!」

 

ユウキの言葉に頷きながら答えるアスナに呼ばれ、小妖精姿のユイが姿を現した。

そして、東京の全体マップを表示し、キリトの位置情報が確認された地点の説明を始めた。

 

キリトが搬送された世田谷総合病院から、GPSの位置情報が確認できたのは目黒区青葉台と港区白金台の地点・・・そして、

 

「最後に確認できたのは港区海岸2丁目の地点になります。ここを最後にパパからの信号はずっと途絶えたままです」

「ねぇ、ユイちゃん。フォンがその信号を辿って、キリトを追うことは可能なのかな?」

 

ユイの説明に、気になったことを尋ねるユウキ。ユイはもう一つのデータを画面に表示させながら答えた。

 

「おそらく可能だと思います。

このアプリのGPSは一定期間での記録をこのようにログで残すだけですが、リアルタイムで検索すれば現在の位置を突き止めることは可能です。

解析していると、パパが搬送された日にママ以外のスマホから何度も現在位置を確認した痕跡がありました。そして、そのスマホはフォンさんのものでした」

「じゃあ、やっぱりフォンさんはお兄ちゃんを追って・・・」

「ユイちゃん。その港区の住所には何があるの?」

「どうやら港湾地区にある倉庫のようです」

「倉庫?なんでそんなところに・・・?」

「・・・港区・・・」「・・・倉庫・・・」

 

ユイの説明にシノンを始め、一同が頭を悩ませる中、アスナとユウキはその地点の地図を見ながら、そう呟いていた。

 

 

 

「夜だし、道も空いてるからもうちょっとで着くと思うぜ?」

「すみません、クラインさん」

「急に車を出してほしいなんてお願いしちゃって」

「気にすんなってさっきから言ってるだろう、アスナ、ユウキちゃん」

 

善は急げ・・・そう思った一同はALOからログアウトし、現実世界からキリトたちの痕跡を辿っていた。

 

オーディナル・スケールの一件のことを思い出した明日奈の提案でクライン・・・遼太郎に車をお願いできないかという話になり、事情を説明して頼んでみたところ、遼太郎は快く引き受けてくれたのだ。今、遼太郎の車には明日奈と木綿季、直葉の3人が同乗していた。

 

「それにしても、ついこの間までGGOで一緒だったのに・・・キリトもフォンも無事だといいんだけどな」

「本当にお兄ちゃんって巻き込まれてばっかりで・・・」

「・・・フォンも、巻き込まれることを分かってて追いかけたんだと思う。フォンって、しっかりしてるようで自分のことには無頓着なところがあるから」

「・・・そういえば、ラースって会社は六本木にあるんだろう?そっちも探した方がいいじゃないのか?」

 

空気が重くなったのを感じた遼太郎が話を切り替えた。その質問には直葉が答えた。

 

「はい。そっちの方にはシノンさんたちが向かってくれてます」

「でも、ラースって分からないことだらけなんです」

「ユイちゃんが色々と調べてくれたんだけど、会社の場所以外全然分からなかったんだって」

「ソウルトランスレーターについても、申請済みの特許を含めて一切の資料を見つけられなくて・・・」

「人の魂を読み書きするなんて・・・大発明なのに特許申請もしてないのかよ。秘密主義の徹底しすぎじゃないのか?おっと・・・もうすぐ着くぜ」

 

クラインの言葉通り、一同が乗った車はキリトの位置情報が最後に確認された場所・・・品川ふ頭へと到着した。

 

周辺は倉庫しかなく、建物も倉庫を管理するものばかりだった。何かないかと周囲を探索していると、明日奈のスマホが振動した。スマホを確認すると、里香からの着信だった。

 

「リズ、どうだった?」

『ラースは見つかったんだけど、セキュリティが厳しくて相手にしてもらえなくてさ』

 

六本木のあるビルにラースの本社を見つけた里香・珪子・詩乃の3人。しかし、全く相手にしてもらえなかったことを報告する3人。

 

『それに、ユイちゃんにこの辺りの防犯カメラを確認してもらったんだけど・・・キリトがここに運び込まれた様子もフォンらしき人物の姿も映ってなかったそうよ』

「そう・・・分かったわ」

 

オーグマーを通して、ユイとやりとりをした里香の報告を受けた明日奈は、向こうが空振りだったことを木綿季たちに告げた。そして、今度は自分が装着しているオーグマーを通して、ユイを呼び出した。

 

「ユイちゃん、こっちのカメラはどうだった?」

「はい、ママ。こちらの防犯カメラも確認しました。昨日の21時20分。あちらの開けた場所からヘリコプターが発進しています」

「「ヘリコプター!?」」

 

ユイの説明に驚きの声を上げる木綿季と直葉。

 

「はい。それとここから少し離れた場所のカメラにフォンさんが乗っているバイクが映っていました。

ナンバーも同じだったので、フォンさんがここに来たのは間違いないと思います・・・・・ですので、もしパパがヘリコプターで運ばれたのだとしたら、フォンさんも一緒に乗って行った可能性が高いのではないでしょうか?」

「じゃあ、お兄ちゃんたちは更に遠くに運ばれたってことですか?」

「でもどこに?東京から離れたとしても、GPSなら跡を追えるんでしょ?」

「・・・待って。ここを最後に、もしキリト君達がヘリコプターで運ばれたのだとしたら・・・キリト君の治療のためにどこかの施設に行くはず。

そうだとしたら、ユウキの言う通り圏外になることなく追えるはず・・・でも、GPSで追えないってことは・・・」

「はい。ママの推測通り、GPSで追えないエリア・・・海外に運ばれた可能性があります」

「か、海外!?そんなバカな・・・」

「でも、状況としては一番可能性が高いと思います」

 

明日奈とユイの推理に、一同が打つ手なしかと諦めそうになった。だが、彼女だけは諦めてなかった。

 

「まだだよ、アスナ・・・」

「ユ、ユウキ・・・?」

 

そういう木綿季の目は語っていた・・・ここで諦めてなるものかと。必ずフォンを・・・蓮を探し出すのだと。木綿季の意志はもう決まっていた。

 

「こんなところで諦めるなんて、明日奈らしくないよ。僕は絶対に蓮を探し出して見せるよ!

だってそうでしょ?蓮や明日奈は、僕がALOから姿を消した時、病院まで来てくれたよね?あの時、明日奈たちが諦めなかったら、今僕はこうしてみんなと一緒にいる。

 

だから・・・今度は僕たちの番なんだ。

絶対に諦めちゃ駄目だよ!」

 

「そうです、ママ!ユウキさんの言う通りです!」

「ユイちゃん・・・」

「アルヴヘイブでママを探していたパパはただの一度も諦めたりしませんでした!きっとパパに繋がる手がかりはどこかに残っているはずです!

ママとパパ、ユウキさんとフォンさんの絆はどんなに離れていたって、きっと繋がってます!」

「ゴメン、ユウキ、ユイちゃん・・・そして、ありがとう!私もキリト君を見つけるまで絶対に諦めたりなんかしない!」

「うん!」「はいです!」

 

木綿季とユイの励ましに、立ち直った明日奈は再び頭を巡らせた。

何かを見落としていないか・・・そう考え、これまでの記憶を辿る。

 

「あの、ユウキさん。フォンさんはラースでのバイトについて何か言ってませんでしたか?」

「・・・ううん。フォン、そのバイトの時はほとんど家にいなかったから・・・それに専門的知識が多かったみたいで、フォンも全部は把握しきれてなかったみたいだから」

「そうなんですか・・・私も似たような感じですね」

「キリトもリーファにはあんまり話してなかったの?」

「はい・・・あっ、でもお兄ちゃん言ってました。今、バイトしてる機械の元になったのはメディキュボイドだって」

「えっ、メディキュボイド!?」「・・・ちょっと待って!」

 

直葉から飛び出したまさかのワードに、木綿季と明日奈は反応した。

 

「メディキュボイドが元に・・・?ってことは、倉橋先生に頼ればもしかしたら・・・アスナ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そう提案する木綿季だったが、思考の海に浸かった明日奈には届いていなかった。

そんな明日奈の頭には、3月末の出来事・・・蓮が和人と明日奈にメディキュボイドの設計資料を持って来た時のことが蘇っていた。

 

『・・・あれ、メディキュボイドって、外部から基礎設計の提案があったんだ』

『最後のページにその人の名前も載ってたよ。確か・・・神代凛子、って人らしいぞ』

『・・・俺は、その人を知っている』

『その人は、ダイブ中のヒースクリフの身体の世話をしていた人だ。

彼と同じ研究室で、一緒にフルダイブ技術の研究をしていたんだ』

 

「そうだ・・・!神代凛子・・・メディキュボイドの本当の設計者!ユイちゃん!」

「はい!すぐに検索します!」

「ど、どういうこと、アスナ!?」

「フォン君、菊岡さんにメディキュボイドに関する資料を渡されてたことがあったの。その資料にはメディキュボイドの設計者に関する記載があったのを思い出したの!」

 

話についていけない一同。代表して木綿季が尋ねると、思い出したことを明日奈は説明した。その間にユイの検索が完了した。

 

「ママ。該当しそうなデータの中で最も可能性の高い人物が・・・カリフォルニアの大学で研究職に就いています。この人です」

 

ユイが表示したデータには一人の女性の写真と英語で記載された経歴が表示されていた。その画面を一同は覗き込んでいた。

 

「大学のデータベースにアクセスしました。経歴を見ると、かつては日本の東都工業大学、電気電子工学科・・・重村研究室に所属してます」

「重村って確か・・・オーグマーを開発した・・・」

「そして、団長・・・茅場晶彦がいた研究室でもあるわ」

「・・・じゃあ、この神代って人ならもしかしたら・・・!」

「STLやラースについて、知っているかもしれない!」

 

木綿季の言葉に明日奈も大きく頷いた。どうにか彼女と連絡を取るため、明日奈たちは動き始めた。

 

 

 

米国 カリフォルニア州 

 

神代凛子は自身のパソコンに来ていた新着メールを見て、うんざりしていた。

 

(しつこいわね、この人も・・・・・)

 

凛子が見たメールの差出人は『菊岡 誠二郎』とあった。メールの題名は『プロジェクト』に関連したものでメールボックスの大半を占めていたが、その全てを凛子は未読のままにしていた。

 

(空飛ぶ鋼鉄の城・・・それを夢見た彼の設計を基礎にしたSTL・・・だけど、私には・・・)

 

凛子に脳裏に蘇ったのは茅場との思い出だった。

鋼鉄の城のことを語る茅場は・・・どこか悲しそうな表情をしていたのだった。

 

(・・・・・嘘吐き・・・)

 

胸のペンダントを握りしめ感慨に耽っていると、新たなメールが届いた。しつこいと思い、メール画面を見ると、届いたメールに凛子は疑問譜を浮かべてしまった。

 

「結城明日奈?・・・それにこの方は・・・」

 

凛子に届いたメールはアスナからのメールと・・・メディキュボイドのフィードバックに対する意見を頂いていた、倉持医師からのメールだったからだ。

 

そのメールをそれぞれ見た凛子の目は大きく開かれた。そこには、彼女がよく知る人物の名前があったからだ。

 

そう・・・桐ヶ谷和人の名前が・・・

 

 

 

 

「見えてきましたよ、皆さん。あれがオーシャン・タートルです」

 

ヘリコプターのパイロットに指さされた方向を凛子が見た。そこには、海上に健在しているオーシャン・タートルが見えてきた。

 

「いよいよよ、二人とも。覚悟はいいかしら?」

「「(コクッ)」

 

凛子の小声による問いかけに同乗している二人の助手らしき人物は静かに頷いた。

ヘリコプターが着陸態勢に入ったところで、凛子はオーシャン・タートルに対してあることに気付いた。

 

「亀で豚・・・そういえば、不思議の国のアリスにそんなのがいたっけ」

(・・・ここがオーシャン・タートル・・・ラースの本当の居場所・・・ここに・・・!)

 

黒髪の女性はサングラス越しに施設を睨んでいた。隣の金髪の女性も険しい表情をしていた。

 

そして、ヘリコプターを降りた3人を出迎えたのは丸刈りでスーツ姿の男性だった。

 

「神代博士、お待ちしていました。そちらのお二人は?」

「私の助手たち、マユミ・レイノズルとヨエク・ケアハよ」

「Nice to meet you」「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・どうも」

 

凛子から紹介を受け、彼女たちから求められた握手に応えながら、男は自己紹介を始めた。

 

「私は皆様のご案内を命じられました、中西一等海尉です。さぁ、どうぞこちらに」

 

中西の案内の元、3人はオーシャン・タートルの中へと進んだ。

施設の中を進むと、警備員による厳重な審査が待ち構えていた。

 

顔認証による画像審査まで行われ、凛子はあまりの厳重さにうんざりしてしまっていた。助手の顔認証まで行うほどなのだから、凛子がそう思うのは当然だった。サングラスを取って、画像認証を終えた助手と共に先を進むと・・・ようやく目的地へと辿り着いた。

 

「ようこそ、ラースへ」

「・・・っ!菊岡・・・二等陸佐とでも呼べばいいのかしら?それに、なんなんですか?その恰好は?」

「こんな海のど真ん中にずっと居続けてるだ。制服ばかり着ていたら、息が詰まってしまうからね」

 

呆れた凛子の質問にあっさり答える菊岡。それが本気の回答なのかどうかは怪しいものだった。

 

「いやはや。我らラースに足をお運び頂いて本当に嬉しいよ。ずっと声を掛け続けてきた甲斐があったよ」

「お役に立てるかどうかは分からないけど・・・」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

助手たちの視線が気になったが、意識を凛子に戻した菊岡は話を続けた。

 

「貴女は、僕がこのプロジェクトに必要だと思った4人のうちの最後の一人なのだからね。これで全員揃ったわけだ」

「ふーん、なるほどね・・・そのうちの一人はやっぱり君だったのね、比嘉君」

「アハハ。どうもッス、凛子先輩。重村ラボの一員として、先輩たちの志しは継がないと、と思いまして」

「相変わらずね、君は・・・それで残りの2人はどこにいるのかしら?」

 

比嘉はいることを予想していた凛子はあまり驚かず、菊岡に残りの2名について尋ねた。聞かれた菊岡は肩を竦めながら答えた。

 

「残念ながら今は紹介できないんだ。折を見て数日中に紹介を「いい加減にしてよ」っ!?」

 

菊岡はその声に思わず動きが止まった。そして、思わず黒髪の助手を見た。

 

「き、君は・・・」

「その3人目と4人目は僕たちがよく知ってる人間だよね?」

「紹介ができないっていうのなら、私たちがここでその名前を言ってあげるわ、菊岡さん」

 

そう言って、彼女は変装を解いた。サングラスと金髪のカツラを取ったのは、菊岡を睨み続ける明日奈だった。そして、黒髪の彼女もサングラスとカツラを取った。

 

「明日奈君に、紺野木綿季さん・・・どうして君たちがここに・・・神代博士と一緒に・・・!?」

 

驚く菊岡を放置し、彼に詰め寄る木綿季と明日奈。

 

「彼女と彼女たちが懇意にしている医師からメールをもらったのよ。貴方が桐ヶ谷君と音弥蓮君という少年を連れ去り、行方が分からないって聞いてね・・・これで、私がここに来た理由は分かってもらえたかしら?」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

凛子のまさかの理由に開いた口が塞がらない菊岡と比嘉。だが、いち早く冷静になった菊岡は疑問をぶつけた。

 

「研究助手の身元確認は大学学籍データベースで多重チェックしたはずだが?」

「ええ。何回も嫌ってほど、ジロジロと顔を見られたわ」

「でも、その学籍データが本当に合っているのかまで確認したの?」

「・・・!まさか・・・」

 

明日奈と木綿季の言葉から菊岡はすぐに答えに辿り着いた。

 

「そうです。うちには防壁破りが得意な娘がいますから」

「髪まで切って真似したんだ。そう簡単に気付くわけないよね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そう言う木綿季の髪はショートカットになっていた。モデルとなったヨエクが短髪だったため、木綿季はせっかく伸ばしていた髪を切ったのだ。まさしく執念だった。

 

再度菊岡に詰め寄り、二人は菊岡を問い詰めた。

 

「キリト君はどこ!?」

「フォンはどこにいるの!?」

 

(・・・まいったね。まさか、本当にここに辿り着くなんて)

 

ここに辿り着いた明日奈と木綿季に驚きながら、菊岡は先日の蓮との会話を思い出していた。

 

『菊岡。頼みたいことがある』

『・・・頼み?』

 

アンダーワールドにダイブする前。チェックを完了した蓮にそう言われ、菊岡は尋ね返していた。

 

『もし木綿季がこの計画に気付いたり、この場所に辿り着いた時は一切合切隠さず全てを伝えてほしい』

『・・・・・・・ありえないとは思うけどね』

『・・・かもな。でも、木綿季はもう一人じゃない。案外、仲間と力を合わせてここに辿り着くかもしれないぞ?』

『・・・・・分かったよ。その時は真実を伝えるとしよう』

『それと・・・もしダイブが長期に渡った場合は、俺の安否が大丈夫であることを伝えてほしい。その時は真実は告げなくていい・・・これ以上、不安にならないようにしてほしいんだ・・・・・頼む』

 

そう言って、真っ直ぐ頭を下げる蓮。その姿を真摯に受け止めた菊岡は約束は守ることを誓ったのだった。

 

(だが・・・まさか本当にたどり着くとはね。すまない、音弥君。君との約束・・・木綿季君を不安にさせないという約束だけは守れそうないにないよ)

 

そう思いながら、菊岡は二人にどう説明していくべきかを考え始めたのだった。

 




最後のユウキたちのしてやったりという言葉と菊岡に詰め寄るシーンが作者的にお気に入りだったりします。

次話以降、当分のお話はUWのお話になります。
セントラルカセドラルでの決戦が終わるまで現実世界のお話はお預けになりますのでご注意ください。

それではまた。

ちなみにユウキの『ヨエク・ケアハ』という偽名は『ユウキ・コンノ』を一文字ずつ下にずらしたものだったりします。

次回更新 26日0時予定

アスナにしてほしいコスプレは?

  • 聖女
  • 女教師
  • メイド服
  • アサシン
  • 鬼姫(茨城童子みたいな感じ)

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