レミリアから出されたあまりに無茶すぎるお題。
5秒差のマージンを覆せるか。
魔「ストップ!」
咲「何よ?」
魔「エボを先に行かせてくれ。私はその5秒後に出る。」
咲「(ため息)わかったわ。それじゃあ、カウント行きます!」
「5!4!3!2!1!スタート!!」
先にエボが出る。
「続いて5!4!3!2!1!GO!!」
続いて、FDが飛び出す。
魔(1本目でうすうす気づいてはいたが…こいつ、速い。ハンデをやると、それが地味によくわかる。赤城のころはすべてが慣れで把握できてたんだ…。集中しろ…。前を見ることだけに意識を置くんだ。)
後ろのFDのペースはすさまじかった。
滑りやすい路面でさえも、いとも簡単に乗りこなす。
魔理沙はこの時、遠征の厳しさを痛感していた。
遠征とはつまり、アウェーで向こうの地元のやつに勝つこと。幻想レーシング時代とは全くわけが違う。あのころは、まだ群馬県内だったから、いつでも走りに行ける。そんな軽い気分だった。でも、今は違う。1日のプラクティスでそのコースのすべてを学ばなきゃならない。自分はそれをバトルに生かし切れていない。なら…なら。生かせばいい。路面の状況、タイヤの状態。そのすべてを、こいつ(FD)にささげる。ハクがそうであるように、私もそうじゃなきゃならない、
と。
あいからず、FDは突っ走る。コーナーも、直線も、魔理沙はほとんどアクセルを離さなかった。ブレーキをするときは、アクセルをちょん踏みする。魔理沙にはそれが、FDに負担がかかることもわかっていた。痛いほどわかっていた。だが、それはやめられない。なぜなら、前に自分がいるから。相手のペースに合わせていた自分がいるから。
魔(とにかく…集中だ…。)
星(まだ追ってこない…ってことは…私のほうが速いのか?)
バトルはいつの間にか、側溝のあるセクションに入る。
エボは側溝を使わずとも、インをしっかり詰める。FDは側溝を容赦なく使い、怒涛の走りを見せる。
魔(そうだ…この感じ。だんだんエボが近づくのが手に取るようにわかる。)
――――これは、きついことなのかもしれない。
―――――だけど、同時に楽しいんだ。
―――FDから伝わるこの感覚。
―――――こいつがいかに走りたがっていたかが、ほんとにわかる。
―――……!石!
魔「くっ!」
降ってきた石で、一時的にFDのペースが崩れる。
だが、それはほんの一瞬だった。すぐに取り戻す。さらに、その前よりペースが上がる。
魔理沙は決して焦ってなどいなかった。FDに従うだけ。やりたいことをやらせる、やってあげる。それだけ。決してそれ以上でも、それ以下でもない。
星(来てる…バックミラーには見られないけど…FDから出る、すさまじいほどのプレッシャーが、私にはわかる!)
麓では6秒差だったのが、側溝セクションの終わりには、2秒差まで詰められていた。
魔(3本目はない…あるなら、潔く負けてやるよ…。負けないがな!)
ストレートに入る。
星(来るか…来るなら早く来い!)
星はどこかからくるプレッシャーが怖くてたまらなかった。だから、ストレートはアクセルべた踏みだった。加速しすぎたまま、コーナーに入る。
星(しまった!)
思ってももう遅い。コーナーを抜けたころには、もうだいぶ減速してしまっていた。
一方FDは、こちらもまたアクセルべた踏みだった、が、コーナーの前で、全力ブレーキング。するりとコーナーを抜ける。
抜けた先には…エボのテールランプがいた。
魔(とらえたっ!)
――――さーて、こっからは遠慮は無しだ。一気にけりをつける!
星(来たっ!なら!)
星は少し楽になったのか、少しずつペースを戻し始める。
――だが、
もう手遅れだった。FDがもうスペードでするりと横を抜け、そのままコーナーに入る。
明らかにFDのほうはオーバースピードだった。
星(そんなスピードで行けるはずない!)
魔(行ける…いあや、行ってやる!)
――――今の私は、FDそのものなんだっ!
ビカッ!
星(うっ!)
突然のフラッシュに、エボの体制が乱れる。
星(………!)
光の先には…誰もいなかった。もうFDは2つ目の折り返しに入っていた。
―――――もみじライン頂上 午後21:45――――
ひっそりと静まり返った駐車場に、FDのロータリー音が響く。
フ「あ、帰ってきたよ!」
ハク「・・・・。」
レ「あなたも、すぐにわかるわ。魔理沙の本気の顔。」
ハク「本気の顔なら今まで何度も見たことありますよ。今日は魔理沙一人で走っているから、あの人なりに新鮮なことがあったんでしょうね。」
FDが駐車場に入る。すると、ハクの姿が薄くなりやがて消え、FDに吸い込まれる。
ハク「お帰り、魔理沙。」
魔「おいおい、お帰りを言うのはこっちの方だぜ。」
ハク「魔理沙…。私…」
魔「いいのさ。お前もどうせレミに言ってたんだろ?おまえがいなかったせいで私には新鮮なことだったって。」
ハク「ちぇ。なんでばれちゃうかな。」
魔「なんだかんだでもう3年だぜ?それぐらいわかんなきゃしょうがないだろ。」
魔理沙はFDを停め、外に出る。
魔「うわっ!?」
魔理沙の体がグラッとゆらぐ。あのハイペースで集中していたのが3分も続いたのだ。体力の消耗も激しい。
すかさずレミリアが支えに向かう。
レ「おかえり。大丈夫?」
魔「あ、ああ。大丈夫だ。だがちょっとくらくらする…。」
レ「そうね…。じゃあ帰りのFDの運転は咲夜に任せなさい。あなたは1号車に乗ってゆっくり休んでなさい。」
魔「ほんとなら断るとこだが…。ま、事故ってもハクに申し訳ないからな。了解だ。」
魔理沙がとぼとぼと1号車に向かう。
エンジンつけっぱのFDのヘッドライトが、それをギラギラと照らしていた。
霊「あれ?なんか忘れてるような気が…。」
レ「気のせいじゃん?それより咲夜は?」
フ「下じゃないの?」
魔「下だと思うぜ。」
レ「しょうがない…。霊夢。私を乗せて下に咲夜を取りに行くわよ。」
フ(あ、絶対強がってるわ、これ。)