僕は幻想郷に入ってはいけなかったかも知れない。 作:敗北勇者
「誰?」
「いや、まあそのだな。そんなに単刀直入に言われても逆に答えづらいってもんだぜ」
うーん、また頭が混乱しそうだ。
疑問しかない。
なぜここに来たのか。
なぜそんなコスプレを?
考えればきりがない。
「えっと、私は霧雨魔理沙。魔法使い。」
「ま、魔法使い?」
そんなバカな。魔法使いはこの世には存在しないはずだ。
魔法なんて使えてたら、さも生きやすそうだ。
「信じられないなら見せてやるぜ。おらよっと」
僕は今度こそ開いた口が塞がらなくなった。
自分に巻かれていた縄がするするとほどけ、引き締められていた体が解放感に騒いでいるのを感じる。
マジもんだ。この世界には変な人が多い。巫女だったり魔法使いだったり。
「じゃあこっちから逆に質問させて貰うぜ。何でお前は縛られてたんだ?」
僕はその問いに対する答えを優越感とともに即答した。
「なぜって。僕はここの巫女に愛を受けているんだ。」
これは、といって自分の横においてある縄を指差す。
「これは霊夢の僕に対する愛の象徴なんだ。」
「........................」
魔理沙は黙ってしまった。深刻な顔をして。
やはりこの魔法使い、愛を知らなかったか。愛、と言うことに関して後輩ができたような気がして、僕は少し嬉しくなる。
「お前の名前は知らないが。」
と魔理沙は前置きをして。
「これは少なくとも愛ではないぞ。私みたいに愛に疎い人でもわかる。これは、歪んでいる。」
「私はもう行くが、一つだけお前に言いたい。」
「愛とは一方的なものじゃない。双方が理解しあうことが愛だと思うぞ。この形ではいつか終わりがくる。とても悲しい終わりがな。」
そういうと、魔理沙はもう行くな。といってすべてを一瞬で元通りに戻して去っていった。
僕は自分と霊夢の愛を汚されたような、そんな不快感を感じた。この愛は、と僕は口中に呟く。
決して一方的じゃない、と。
しばらくして霊夢が帰ってきた。
「ただいま♪」
「おかえり」
僕が縛られた部屋に入ってきた霊夢はただいまのキスをしてから一瞬、不思議な顔をした。
しかし、すぐに笑顔に戻り、縄をほどいた。
「夕飯作るから待っててね♪」
そう言ってキッチンに向かう霊夢の後ろ姿に僕は呟く。
一方的じゃない。双方が愛し合ってると。
夕飯を食べ終えると猛烈な睡魔が襲ってきた。
おかしいな。さっき寝たばっかなのに......
あ、でもあいつが来てたからそんなに寝てないのか。
やっぱり食って寝ての生活だと体調が悪くなりそうで怖い。朝、運動するのはどうだろう。
「霊夢ー」
「ん?」
キッチンで片付けをする霊夢に尋ねる。
「このまま食って寝ての生活だと健康に悪いから、朝、走りにいってもいい?」
「それはダメよ。」
ん?なんでだ?
「あなたが事故にあったらどうするの?他の女に弄ばれたらどうするの?」
「う、ううん、そっか。やめておくよ。」
ここで僕は少し違和感を感じた。
過保護すぎないか?と。
その考えと、さっきの魔理沙が言ったことが重なり、僕は慄然とした。いつか終わりが来る......?
そんな、そんなはずはない!僕は霊夢に永遠の愛を......
でも、これは一方的な愛じゃ......
布団に入っても僕の葛藤は続いた。
心の奥に隠していた違和感が溢れ出す。
いつか終わりがくる?
嫌だ。また誰からも愛されずに生きるのは嫌だ。
でもこのままだと、いつか終わってしまうかもしれない
僕は布団の中で頭を抱え、呟いた。
どっちが真実だ?
と。