結局、かっちゃんはシルバーマンジムに入会する事になった。
トレーニー仲間が増えて嬉しい限りだ。
「かっちゃんも一緒にマッチョを目指そうね!」
「目指さねえよ!? お前目的と手段が逆転してねえか!?」
「そんな事無いよ」
失礼な。僕は今も昔もオールマイトのようなヒーローを目指しているのだ。ほら、オールマイトもマッチョじゃないか。
つまりマッチョを目指す事はオールマイトに近付くという事だ。
「何でか分からねえが……本質的にズレた事を考えてるような気がする……」
気のせいだよ。
…………
それからはかっちゃんも順調にトレーニングに励んでいった。
元々自分でもそれなりに鍛えていたのか、初めから結構な量のトレーニングをこなしている。
だけど独学でトレーニングしていた時と比べてここでは街雄さんの存在がある。
筋肉とトレーニングの知識を幅広く持つ街雄さんのアドバイスによって今までよりも効率よく、かつ目的に沿った的確な筋肉を鍛える事が出来ているハズだ。
かっちゃんもその効果を確かに感じ取っているようで、戦闘訓練の時にこれまでよりも身体能力が上昇しているのを実感したと言っていた。
ただ、僕や街雄さんが鍛え上げた筋肉を披露する度に白目を剥くのはどうにかならないものだろうか?
いい加減に慣れてほしいものだ。
「いや、無理だろ。というかあれに慣れてしまったら人として大事な何かを失ってしまう気がする」
失礼な。
そして、また幾分かの時が経った。
…………
嘘の災害と事故ルーム、略してUSJという怒られそうな名前の場所で今日は授業を行う事になった。
凶悪な
オールマイトが多くの人々を助けたあのレスキュー動画は今でもよく視聴している。
気を引き締めなくては、そう思っていた時の事だ。
「? 何だあれ?」
突然黒いモヤのようなものが現れた。
そしてその中から次々と何者かが出てくるではないか。
事前にこんな話は無かったが一体どういう事だろうか?
「何だこれ? ひょっとして受験の時みたいにもう始まってんぞパターン?」
そうなのだろうか? それにしては彼らは被災者を想定した様相には見えないし、にやついた笑みを浮かべながらこちらに向かってきている様子を見るにあれはどちらかと言えば……
「お前ら下がれ! あれは……」
相澤先生と13号先生が臨戦態勢を取る。
「
ーー
僕達がいずれ立ち向かうべき相手であり現役のヒーロー達が日夜戦っている存在。
「あれ? オールマイトがいないんだけど……どうなってんの?」
「13号に……イレイザーヘッドですか……事前の情報ではオールマイトもいたハズですが……」
「何だよ……全く……せっかくぞろぞろ大衆引き連れて来たって言うのに……オールマイトがいないなんて……」
その脅威が悪意が。
「子 ど も を 殺 せ ば く る か な ?」
僕達に牙を剥いた。
…………
ーーその頃のシルバーマンジム
「むっ、これは……」
シルバーマンジムトレーナーの街雄はいつもの様にトレーニングを済ませ、小休止に入っていた。
そして愛用のプロテインを飲もうとしていた時の事だ。
「プロテインが……ダマになっている!?」
そう、いつもはキレイに溶けきっているハズのプロテインが見るも無残な塊のまま溶けずに残ってしまっていたのだ。
「嫌な予感がする……何も無ければいいのだが……」
日頃起きない事態に妙な胸騒ぎに襲われながら彼はダマが残っているプロテインを飲み込んだ。
(やっぱりバニラ味は、美味しいな)
が、すぐに忘れた。
…………
個性を無効化する個性を駆使し、敵集団の連携を乱しつつ、身に付けた戦闘技術で相手を次々と地に叩き伏せていく。
だがいくら相澤先生が多対一を得意としているとはいえ、これだけ多くの
「! まずい!」
黒いモヤで出来た体を持つ
そいつは僕達の前に立ち塞がるとその黒いモヤを広げてきてーー
「うわああああああ!!」
僕達は散り散りの場所へと転移されてしまった。
…………
「SMAAAAAAAASH!!」
「うん、おいらこうなるって知ってた(白目)」
「緑谷ちゃんは凄いのね」
水難エリアへと跳ばされた僕はまず全力で拳を振るい、水を真っ二つに割ってから峰田君と蛙水さんを抱え、水が戻ってくる前に露出した地面を駆け抜けて陸地へと戻った。
水中にいた
見たところ全員水中活動が可能な個性みたいだから溺れ死ぬ事もないだろう。
「取りあえず戻ろう」
「そうね、避難しないと」
「緑谷についてれば安全そうだ。あのとんでもない筋肉は伊達じゃないな!」
峰田君の言葉に思わず力こぶを作ってみせる。
その衝撃で服の腕の部分が弾け飛んだが些細な事だ。
「あら、相変わらずいい筋肉ね」
峰田君は白目を剥いていたが、蛙水さんは動じた様子は無い。
ボディビルダーや慣れた人達以外は鍛え上げた筋肉を見せると大体が峰田君のようなリアクションを取るものだけどこうやって素直に筋肉を褒めてもらえるのはやっぱり嬉しい。
「蛙水……お前、これを見てよくそんなリアクション出来るな……」
「実は私、意外と筋肉好きなのよ」
「!?」
え!? そうなの!?
「うっそだろお前……」
蛙水さんの意外な一面を知ってしまった。
…………
「ヤバいヤバいヤバい! あいつ絶対ヤバいって緑谷!」
峰田君が小声で恐怖を訴えてくる。
改人脳無……彼らがそう呼んでいたそれは相澤先生を地に叩き伏せていた。
特異な姿である事からおそらくは異形型の個性と思われる。
相澤先生をあっさり叩き伏せていた辺り峰田君の言う通り確かに脅威であろう。
だけど僕はその時全く別の事を考えていた。
「あの脳無と呼ばれていた彼はもしかしたら……」
その事に気付いた僕は抑えきれない衝動に突き動かされ脳無の前へと駆け出していた。
「お、おい緑谷!?」
制止の声がかかるが止まる気は無い!
そして僕は……
「ハイっ! モストマスキュラー!!」
鍛え上げた筋肉を解放し脳無へと見せつけた。
「「「は?」」」
そしてそれを見た脳無はこちらへと向き直ると。
「……!」
それはそれは見事なモストマスキュラーを返してくれた。
「「「!!?」」」
周りの人達は状況を飲み込めないようで困惑しているようだがやはり彼は……
その後も様々なポージングを取ると彼もそれに合わせて見事なポージングを返してくれる。
「おい……! 脳無何やってんだおい!? …………なあ、黒霧どうなってるんだ? 脳無に自我は無いハズだろ……!?」
「そのハズですが……あっ! そういえばこの脳無のベースになったのは確かボディビルダーというお話だった気が……」
「お前は何を言っているんだ?」
やはり彼は
鍛え上げたこの筋肉にかけて……この勝負、負ける訳には行かない!
「俺達はいったい何を見せられているんだ……?」
「帰りてえ……」
他のエリアへと跳ばされていたかっちゃん達もこちらへと戻ってきたようだ。
白目になっているのが些か気になるが……今はそれどころじゃないので放っておこう。
そうして、幾度となくポージングを披露しあって僕と脳無との激しい戦いも佳境を迎えつつあった。
最後に相応しいポーズはこれだ!!
「ハイっ! サイドチェストォォォォ!!」
これまでで一番のポーズを決め、脳無の様子を窺う。
「……!」
脳無は一瞬硬直し驚愕したかのようなリアクションを取ると右手を差し出してきた。
僕はそれに応え硬い握手を交わし合う。
「スバラシイ筋肉ダッタ。ワタシノカンパイダ」
「あなたこそ鍛え上げられたとてもいい筋肉でした。ナイスバルク!」
「……なあ? 脳無って喋れたか……?」
「……さあ?」
心なしか
「こんなバグったクソゲーなんてやってられるか……! 帰るぞ黒霧」
「そうですね……脳無もあの様子じゃダメそうですし……」
こうして、僕達を襲った
相澤先生と13号先生は傷を負ってしまったが命に別状は無く、全員が無事に生き残る事が出来た。
…………
「悪い予感が当たってしまった……!」
街雄は目の前にある現実へと戦慄していた。
まさかそんなハズは無い。嘘だと言ってくれ……! そう念じても現実は変わらない。
「まさか……お気に入りのプロテインを切らしてしまうなんて……!」
悲しみのあまり街雄はうちひしがれていた。
「街雄さん! 俺、多めに持ってるんで良かったら分けますよ!」
「え? 良いのかい!」
そこに親切なモブマッチョが救いの手を差し伸べた。
街雄は暗い表情から一変、輝くような満面の笑みを浮かべ、二人で幸せそうに笑い合っていた。
シリアスなシーンを書くのが大変だったのでこれ以上続きません(戒め)
真面目な話をするとこれ以上続けても単に緑谷君が無双するだけで特にオチも山もない話になりそうですし、ヒロアカ一期もちょうどここで終わりで切りもいいので完結でいいですよね?
本作における梅雨ちゃん
何故か筋肉好きの設定が生えてきた。
本来そんな設定にする予定は微塵も無かったのに……これが筋肉の力か(錯乱)