受け継がれし閃光と人形と   作:CFA-44

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最新話です!

ホワイト・グリントに関しては後書きにて画像を上げておきます


episode1

トンネルを抜けるとそこはーー『雪国だった』ーーとか言っている本をセレンに貰って呼んでた事がある。

残念な事にそんなに読まないまま本棚に入れた後、手を付ける間もなく連戦に連戦を重ねてしまい、読む余裕が無いまま何処かにいってしまったかもしれない。

他にも『目を覚ませばそこは異世界だった。』というそんなキャッチフレーズの本も読んでみた事がある。あれは確かフィオナさんが読んでいたのを借りて読んでいた事があった。

それはさておいて、目を覚ませば目の前に5人の女性……少女?がそれぞれ違う銃を"こちらに向けて"いた。

 

(俺企業連に何かしでかしたっけ?いやいやネクストにも乗ってない状態の一リンクス如きに差し向けるにしちゃ随分なもんだな。)

 

「起動してすぐで色々認識出来ていないところ悪いんだけど、貴方はここで何をしているのかしら?」

 

『起動……?』

 

状況から言って最悪なのはまあ分かる。だが『起動』とはどういう事だ?普通なら『寝起き』とか言うんじゃないのか?

どういうこっちゃと思いながら周辺のコジマ汚染濃度とコジマ粒子貯蔵タンクの状態を確認する。

 

《周辺領域コジマ汚染濃度:0 コジマ粒子貯蔵タンク残量:100% コジマジェネレーター定格出力稼働中 PA展開率:50%》

 

(タンク内の粒子残量100%、プライマルアーマーも節約モードとはいえ展開済みなのにコジマ汚染濃度0……どういうことだ……)

 

「……状況が飲み込めていないみたいね。45、恐らくコイツも鉄血の連中が造ったモノよ。早く破壊した方が良いわ。」

 

(まさか……フィオナさんの持ってた本の通り、という事か……?)

 

「うーん……でも何か鉄血のクズ共が造ったようには見えないんだよね……」

 

鉄血?何の事だ?そんな事を思いつつふと上を見上げると、空が見える。鈍色の空が。コジマ汚染された空より暗く見えるのは雨とやらが降る前兆なのか。

彼女達の言う事は取り敢えず無視しつつ自分の姿を確認出来るものを視認出来る範囲で探す。

と、自分の肩があるべき所に"見覚えのある白いモノ"が見える。

 

(……は?)

 

今度は反対側、左肩を見る。やはり見覚えのある白いモノが。胸の部分を、脚を、両腕を。全てが見覚えのある白いモノに置き換わっていた。

で、あるなら。鏡かガラスを見なければならない。そこに写る姿を見て認めなければならない。俺の姿を。

突如立ち上がってきた俺に警戒心を高めたのか、彼女達が何か言っていた。だが、そんな事はもう耳に入らない。目の5人の後ろにあった窓ガラスに写った俺の姿は、

 

 

 

『ホワイト……グリント……』

 

 

 

故アスピナの傭兵が扱い、機体名をアナトリアの傭兵が受け継ぎ、その彼から俺が受け継いだ左肩にフォグシャドウのエンブレムを付けたネクスト。

アルテリア・クラニアム防衛直前にコジマジェネレーターに異常が見つかり、急遽レイヴンに乗り換えた俺が死んでしまったからラインアークに置き去りにしていたはず。

それが何故……いや、そもそも何故こんな訳の分からない場所にいるのか。何故俺がネクストのコクピットに居るのではなくネクストそのものになっているのか。

疑問は尽きないが、背後の殺気に嫌な予感がしつつゆっくり振り返る。何度問い掛けても無視され続けた事に流石に腹を立てた彼女達の射抜かんばかりの鋭い眼光がこちらを見ていた。

特に敵対する要素も無いのだが、身の危険を感じている。取り敢えず『三十六計逃げるに如かず』という言葉が唐突に頭の中に浮かんだので逃げる事にした。

直上の穴目掛けてメインブースターをフル出力で吹かす。プライマルアーマーの展開状態を確認している暇は無かった。

膝を曲げて軽くジャンプすると同時に上昇力に特化した特殊ブースター『CB-JUDITH』から高出力プラズマジェットが噴射され、急加速で飛び上がる。飛び上がると同時に銃撃を受けたが飛び上がる方が速かったので一切被弾はしていなかった。

飛び上がりながら背面のオーバードブースターと背面装備の分裂ミサイルSALINE05が引っ掛からないか不安だったが無事に穴を通って外へ出られた。

眼前に広がるのはいくつものビル群が連なった廃都市。そこからは生命の一欠片も感じ取れない。まるで、コジマ汚染された巨大コロニーのように。

追撃が来ないうちに離脱しなくては。何となくだが、これからは彼女達から追われる日々になるだろうと予想していた。だがそれを振り切りつつ情報収集と食料を確保しなければならない。

PAが展開されていることを確認した後メインブースターを吹かしつつAMSを介して機体にコマンドを行い、オーバードブースターを使用。

背面に並んだ左右7基ずつ計14基のブースターが翼のように展張。メインブースターを挟む形で着いているこれまた左右6基ずつ、計12基のブースターが展開される。

オーバードブースター展開に合わせて機体形状が可変を始める。頭部がコアに半分沈み、肩が前にせり出ると同時に突き出す形で伸ばされている両腕部の装甲が肩にくっ付く。両脚部も突き出された両脚部と平行になるよう、後ろに突き出され、足首辺りでつま先とかかとの部分が重なるように畳まれた。

周りから見れば何とも変な形に見えるかもしれないが、これがホワイト・グリントのオーバードブースト使用時の可変形態なのだ。

可変を終えて合計26基のオーバードブースターに一斉点火。一気に時速1240km/hまで加速してその場を飛び去る。とにかくここから離れなくては。

 

 

 

 

白い存在が逃走に際して行った行動に5人の少女達は唖然としていた。3mほどの大きさだというのに、滑らかに動き、あまつさえ自分達の弾速よりも速く飛んだ。

 

「……45姉、あれどう報告するの?」

 

「……見たまま報告するしか無いでしょ。」

 

ツインテールの少女から45姉と呼ばれたサイドテールを揺らす少女はサブマシンガンUMP45を扱う戦術人形で、404小隊所属。そんな彼女は特殊小隊『404小隊』を率いる小隊長。因みにツインテールの少女の方はサブマシンガンUMP9を扱う人形である。

どうにか答えを絞り出したとはいえ、難しい事だった。

 

「さっきの逃げちゃったしもう寝ていい?」

 

「ダメよ。これから追跡しなきゃならないのよ。」

 

「あたいあんなの初めて見た!!」

 

それ以外の各々は順に観測手兼狙撃手のGr G11、ちょくちょく『私は完璧よ』botと化すHK416であり、最後は最近になって戦線復帰したUMP40である。

隠密行動中に休憩を取るべく立ち寄った廃ビルの中に先程の白いアレが居た。まるで、熟睡しているかのような体勢で。

起動してすぐに状態を確認していたようで、すぐに破壊しようと言い出す416を半ば無視する形で考えていたけどアレからは何も感じなかった。ただ、そこで眠っていた、という感じ。

無視され続けた事に少し苛立ちはしたけど416程じゃない。結局逃げられはしたけど、取り敢えず雇い主への状況報告も兼ねてイレギュラーとして白い存在の報告を行う。一応名前らしい事を喋ったのでそれも添えておいた。

雇い主はうんうん唸っているようだったが、当然の如く新しい任務が与えられた。

 

ーー404小隊は現状の任務を中断、ホワイト・グリント追跡任務に移れ。ーー

 

 

まあ、そうなるよね……追跡、とは言っても追い掛けるのには相当苦労させられそうだ。AIが弾き出した計算ではホワイト・グリントが飛び去った時の速度は時速1240km/h。飛び去った方向は覚えているとはいえ、徒歩で追い掛けるとなれば時間もかかる。

幸いにも軍が放棄して間も無い基地が近いからそこから『色々と』拝借していこう。装甲車とかがあれば良いけど。

 

「皆、さっきのアレを追跡するよ……と言っても、少し休んでからだけどね。」

 

「追跡手段はあるのかしら?」

 

「ここから近い所に軍が放棄していった基地と民間の廃空港があるわ。そこから車とか色々調達しましょう。」

 

彼女の姉妹銃、UMP9の質問に対して色々と強調しておいた。まあ9の事だから本当に"色々と"調達してきそうだけど。

 

 

 

 

オーバードブーストを使用しながら周辺を捜索していた時に、意外なモノを見つけた。

 

「……滑走路か。」

 

恐らく廃棄された空港だろう。ならば何か情報があるはず。オーバードブーストを停止して着地。ターミナルと思しきガラス窓を破壊(そうする以外に手近に入れる場所がなかった)。

ブーストを使った高機動戦を主体としているために空中でも姿勢制御程度にしか使われない脚部で、歩行がそこまで得意ではないネクストだが意外にも普通に歩けた。

 

(歩けた……ネクストそのものになってるから出来る……のか?)

 

ターミナル内部は当然ながら静まり返り、そこそこ長く放棄されていた事もあって歩く度にホコリが舞っていた。

今の状況を再確認するべく、ターミナル内部に併設されていた売店らしい所に近付いた。カウンターに置かれた紙の束(新聞)を取ろうとして右手の高精度ライフル051ANNRと左手の高精度アサルトライフル063ANARに気付いて手頃なソファに立て掛けておく。

そうして新聞を取って内容を見てみる。何年何月か確認しなければ…………そういえば俺は7月31日が誕生日だとセレンが言っていたけど…………ええい、日付けはどこに書いてあるんだ!!

立ったまま新聞を読むのもどうかと思い、座ろうとして失敗した。ホワイト・グリントとしてのパーツが色々と邪魔になる。

コア下部から伸びるスタビライザーと尻尾のように付けられたバックスタビライザーが兎に角邪魔になる。まあ外したとしても今度はオーバードブースターの部品が邪魔になるだけなのだが。

何とかネクストとしての状態からリンクス単体になれないのだろうか、と思いAMSにコマンドしてみる。

思いの外アッサリとネクストからリンクス単体へとなれた。何故か放置されていた大きな鏡(姿見)があったのでそれを利用して自分の身体状況を確認する。

姿は死ぬ直前となんら変わらない。身長も、体格も、髪の色も、瞳の色も変わらない。唯一変わったといえば、首に白いチョーカー(真ん中に蒼く明滅するホワイト・グリントのカメラアイの様な模様がある)のようなモノが付けられている事か。触ってみるとどうやら首の後ろにあるAMSジャックと直接繋がっているようだ。これがあるからこそ、ネクストとリンクス単体のどちらかに切り替えられるのだろう。

となれば、この白いチョーカーはホワイト・グリントという事になる。哀れ、ホワイト・グリントは遂に首飾りになってしまった……と嘆く事はなく、もう一度意識を集中してAMSにコマンド。

ネクストと繋がる瞬間やコジマジェネレーターが起動する時をイメージし、目を開けた時にはホワイト・グリントを纏っていた。なるほど、そういう事か。

 

「………………?」

 

ターミナル内部で不意に何かが動いた気がした。突然現れた、と言うべきか。何かに見られているという違和感。ライフル達を取りながら視線を感じた方向に向いて警告を発した。

 

「……出て来い。そこに居るのは分かっている。」

 

『…………』

 

「な……!?」

 

物陰から出てきたのは……ネクスト。空港ターミナル内部で出くわすとは思っていなかったが……

 

「……っ…!!」

 

唐突なマシンガンでの攻撃を左への二段クイックブーストで回避。そのままガラスを突き破って滑走路近くまで飛び出す。飛び出した勢いでオーバードブーストを起動。一切に敵ネクストとの距離を開けてからオーバードブースト使用停止。滑走路上空で滞空しつつクイックターンで振り返る。

敵ネクストもオーバードブーストでこちらに接近してきている最中だった。ヒトの頭部を模した様なヘッドパーツにLAHIREコア。右腕にはマシンガン。左手にレーザーブレード。何処かで見た事のあるネクストだが……

 

「……アレは……AAアンプ……まさか…グレイグルームか!!」

 

両肩に取り付けられた装備、アサルトアーマー強化装置(AAアンプ)が良く目立つ。機体本体は大した防御力を持たないが近付かれるとAAで吹き飛ばしに来る厄介な奴だ。無事だったとはいえ、ジェラルドのノブリス・オブリージュも引っ掛かってたし。

尤も、接近されれば、の話だ。こちらは中距離射撃戦主体。距離を開け続けなければならない。懐に潜り込まれそうになったらこちらもAAでやり返す。

FCSが射程に入ってきたグレイグルームをロック。突き出された両腕部に握られたライフル(051ANNR)アサルトライフル(063ANAR)が一斉に火を噴き、弾丸を叩き込むがグレイグルームも左右へのクイックブーストでこちらの攻撃を回避……せずに真っ直ぐにこちらへ突っ込んでくる。

 

「単調過ぎるだろッ!!」

 

急いで両背面のSALINE05を展開し、発射。距離が近くなっていたため、打ち出されたスプレッドシェルがすぐさま分裂し、内部に搭載された8発のミサイルが顔を出す。

16発のスプレッドミサイルに対しては流石に反応し、マシンガンを乱射して可能な限りミサイルを撃ち落としていく。

撃ち落としきれなかったミサイルは左右への連続クイックブーストで回避してくる。

ここで少しでもPAを削ぎ落として起きたいレイは前へクイック。続けてAMSにコマンド。機体に埋め込まれている整波装置が一斉にせり上がり、機体を覆うPAが減少していく。

 

"整波装置最大展開 (アサルトアーマー発動)"

 

緑色の光がグレイグルームと滑走路に襲い掛かり、滑走路の路面を球状に抉った。

PAの消失したネクストはノーマルよりAPが高い程度の存在と化す。それはホワイト・グリントもグレイグルームにも当て嵌る事。

AAを発動した直後ホワイト・グリントは右にクイックブースト。もしグレイグルームのPAが少しでも残っていたら強化AAが発動される。

それだけは何としても避けたい一心で距離を離し続ける。だがグレイグルームは何事も無かったかのように緑の粒子を突き破って現れた。

 

「やっぱり躱すか……」

 

PA性能に優れるアクアビット製とLAHIREのコアパーツを使用している事から差したるダメージは無いと端から想定していた事だ、と思いながら両手の銃を撃ち続ける。両銃共、精度に長けているため、的確にグレイグルームのPAを削り続ける。と、PAが無くなったのか、グレイグルームの装甲に幾つもの銃弾が爆ぜるが臆する事無くレーザーブレードを構えるのが見えた。

 

ーー来る。

 

レーザーブレードは多少距離が離れていても急接近するには最適な装備の1つ。離し続けたと言ってもそこまで離れている訳では無い。レーザーブレードを一振するだけで急激に距離を縮める事は容易かった。

そして、急激に距離を詰めながら振るわれたレーザーブレードのレンジに入らないギリギリで左回りでグレイグルームを軸にするようにホワイト・グリントはクイックターンを決める。ブレードを振った直後は隙が大きいため、狙いやすい。

今まで相手にしてきたブレード持ちの中でもグレイグルームはアサルトアーマーでの攻撃を主体としている。故にブレードは接近する為の布石でしか無いとレイは考えていた。何しろレイが相手にしてきたブレード持ちはそんなに多い訳ではなく、真改というバケモノと斬り合いを展開したくらいに少なかった。

だからこそレイにも隙が生じていた。『慢心』という致命的な隙が。レーザーブレードを振り抜いた直後のグレイグルームが緑色の光を帯びた。

直感的に不味いと感じてバックブースターを全開にしながらのクイックブーストで距離を取ろうとしたが、僅かに遅かった。

目を閉じる行動がAMSを通じてホワイト・グリントにも伝達され、カメラアイ保護用シャッターが降りた。直後、人間の耳では聞き取れないほどの凄まじい炸裂音と緑色の閃光がホワイト・グリントに大ダメージを齎した。

 

「がっ……!?」

 

爆発の衝撃波で激しく機体を叩かれ、吹き飛んだPAを回復させようとコジマジェネレーターがフル出力で稼働し、コジマ粒子を大量に供給するが、中々追い付かない。

大きく吹き飛ばされたホワイト・グリントは急いで体勢を立て直そうとするが、吹き飛ばされた勢いが強過ぎて格納庫の壁に激突する。

グレイグルームはゆっくり振り向き、再度ブレードを構えて接近。

 

ーー確実に殺す構えかーー

 

死ぬ訳にはいかない。まだ何も分からない状況だからこそ余計に。KPが回復し切っていない以上、AAは使えないし間に合わない。ミサイルも瓦礫が邪魔で発射したら自爆してしまう。それに格納にレーザーブレードなんて入っていない。

となれば、レーザーブレードで斬りに来た瞬間を狙うしかない。

 

『…………』

 

思った通りにレーザーブレードで斬りに来たが、その前にヤツのPAが再展開されたのも確認出来た。既にAPは2万を下回ってしまっている。どっちに転んでも死が待っている。

僅かな抜け道を探して思い付いたのはーー

 

「オラァ!!」ガギャリ

 

『……!?』

 

背面と脚部のメインブースターを最大出力で吹かしてレーザーブレードを振り下ろす直前のグレイグルームに強烈な体当たり(ボディチャージ)を見舞う。

ネクストによる『体当たり』という予期せぬ出来事に着いてこれなかったグレイグルームはコアを思い切りぶつけられた衝撃で硬直。

AAを使われる前に急上昇で効果範囲から離脱するが、すぐさま硬直から復帰したグレイグルームも上昇しながら追いかけて来ていた。

ライフルを発射しながら後退を続け、引き撃ちの状況を作り続ける。やはり近寄られたくない機体に対してはこの戦法が良い。

空になったマガジンをパージして新しいマガジンをコアの格納領域から取り出してリロード。リロードの合間にはミサイル攻撃を挟んで時間を稼ぐ。幸いにもグレイグルームが同高度には到達していないため、一度上を通り越してターン。

向こうも同じようにターンして更に昇ろうとしているがそれはさせない。ヒラヒラと左右に飛びながらグレイグルームに弾丸を叩き込み、片方とはいえ右肩のアンプを破壊した。

機体のバランスが崩れ、不安定になった瞬間を突いて背後に回り込む。狙うは一箇所。

 

「墜ちろ……!」

 

『……!!』

 

多少PAが厚いとはいえ、抜けないわけではない。連続して撃ち込まれた弾丸の大半はPAにより阻まれるが残りは全てメインブースターとオーバードブースターの周辺に直撃し、更にコジマジェネレーターの一部にも被害を及ぼした。

黒煙が噴き出し、翼を失ったグレイグルームは格納庫の屋根に向けて落ちていく。追撃に移りながら左腕とそのレーザーブレード、そしてコアの一部を破壊。

と、ここでグレイグルームがもう片方のアンプをパージ。少しでも落下の衝撃を減らす腹積もりだろうか。

 

「……無駄だ。」

 

グレイグルームが牽制に放ち続けるマシンガンの弾丸を必要最低限の回避行動で避けつつグレイグルームに迫る。

グレイグルームが格納庫の屋根に激突し、マシンガンのシャワーが止んだ瞬間にAAを使用。球状に屋根を抉り飛ばし、劣化していた外壁や窓ガラスが四散する。

AAの直撃を受けて地面に叩き付けられたグレイグルームの右手を踏んでヒットマンを撃たれることを防いでから特徴的なランスタンヘッドに051ANNRの銃口を突き付けた。

 

「……聞きたいことは山ほどあるが……」

 

『…………』

 

「……今は不要だ……消えろ……」

 

ランスタンヘッドとコアを重点的に撃ち抜いて、再びAAを発動。閃光が走り、格納庫はグレイグルーム諸共跡形もなく吹き飛んだ。

 

 

 

 

ビル郡を貫く旧ハイウェイに沿って1台の装甲機動車が走っていた。

 

(方角はこっちで合ってるから……あとは時間の問題ね……)

 

404小隊は放棄された軍の基地で必要な装備を調達し、それ等を載せるため兵員輸送車(30mm機関砲搭載型)もついでに拝借し、旧ハイウェイに沿って走らせていた。

 

「45姉、本当に追い付けるの?」

 

「……どうかな……多分空振りになるかもしれない。」

 

ハンドルを握る9の質問は尤もだ。飛び去った方向しか分かっていないし、その先に廃空港があるとしてもそこに居る可能性は五分五分。

 

「行かなきゃならないんでしょ。だったら行くしかないわ。」

 

後ろから416の声がした。今彼女はG11や40と一緒に砲塔の方に居るはずなんだけど。

それ以上の会話は特に無く、ただただ無言で過ごす。G11が何も見つけなければ。

 

「…………あっちは廃空港があるんだよね……」

 

「向かっているのは確かに廃空港よ。問題があったかしら?」

 

「…………空港の方だと思うけど光が見える。ここからじゃちょっと分かりにくいけど……多分銃撃戦じゃないかな。」

 

「………9、スピード上げれる?」

 

「え?上げてもいいけど瓦礫を避けたりするから結構揺れるよ?」

 

「構わないわ。スピードを上げて。」

 

「了解〜」

 

エンジンが唸りを上げて車輪に動力を伝え、速度が上がっていく。瓦礫を避けるために何度もハンドルが切られる。

幸いにもこのハイウェイ跡は途中で空港へ向かうルートに分岐している。それを辿れば目的地に着くなど造作もなかった。最初はハイウェイ跡を走ることも考えたけれど、所々崩壊している上に他のグリフィンの人形や鉄血共に見つかるのは極力避けるべく、下道を使った。

まあどの道装甲機動車(こんな物)で動いている時点でバレるのは時間の問題かもしれないけど。

グリフィンにも鉄血にも見つからずになんとか廃空港に近付いていた時、断続的な発砲音と空気の振動が響き始めた。

 

「……居るね……9、ターミナルの入口に止めて。私と9と40で格納庫側を調べるからG11、416はターミナル側をお願い。」

 

「死なないようにしてよね。」

 

「お互いにね。」

 

416達と別れて格納庫のある方へ進む。この間もずっと発砲音が響いている。しかも更に大きくなっていた。

 

「45!アレ!」

 

40が何か見つけたようで、上空を指している。見上げればそこにはホワイト・グリントと戦闘になっているもう一体の灰色の人形の存在があった。

ヒラヒラと自由自在に飛び回るホワイト・グリントとは違い、灰色の人形の方はホワイト・グリントに頭上を取られて思うように動けないようだ。

何度も方向を変えながら背後に回ろうとするホワイト・グリントとそれをさせまいとする灰色の人形の応酬が続いていたが、右肩に付いていた3つの棒が付いた丸いユニットが撃ち抜かれて脱落した。

直後、ホワイト・グリントは後背に回り込んで背面の1箇所に攻撃を集中させる。

飛行ユニットと思わしき場所を破壊されたのか灰色の人形は背面から黒煙が吹き出し、落下を始めた。

落下し始めたと同時にホワイト・グリントが追撃を行い、マシンガンの雨をすり抜けながら弾丸を叩き込み、灰色の人形の左肘関節部分を的確に破壊して吹き飛ばした。

対する灰色の人形はマシンガンを撃ちながら残った左肩のユニットを破棄。少しでもバランスを取り戻し、機体を軽くする事で落下時の衝撃を和らげようとしている。

マシンガンでの反撃を嘲笑うかのように必要最低限の回避機動を取ってなおも追撃を続け、灰色の人形が格納庫の屋根に激突した影響で反撃が止んだ。

次の瞬間、ホワイト・グリントは球状の光に包まれ、周辺に破壊を齎した。

格納庫の屋根と周りの窓は盛大に吹き飛び、咄嗟に伏せなければ全員が飛んできたガラスの破片と連絡路の窓ガラスでズタズタにされていただろう。

 

「9、40、怪我は?」

 

「大丈夫。」

 

「あたいも大丈夫だよ。」

 

「……ん、それなら大丈夫ね。じゃあ、もう少し近付きたい、と言いたい所だけどちょっとだけ様子見するわ。さっきの爆発を使われると厄介だからね。」

 

あの緑色の光を発する爆発は危険過ぎる。せめて使わせないように出来れば良いのだけれど。

UMP45はそっと窓枠から格納庫の様子を窺ってみる。灰色の人形は既にホワイト・グリントにマシンガンを持った手を踏みつけられ、頭部に銃口を突き付けられていた。

淡い緑のスパークがホワイト・グリントを包んだ直後、灰色の人形の頭部と胸部が撃ち抜かれる。そして、ホワイト・グリントを中心として緑色に輝く破壊の奔流が解き放たれた。

跡形もなく消し飛んだ格納庫跡地に佇むホワイト・グリントにそっと接近していく。

しかし、一度こちらの居る位置を見てから再び空の彼方へ飛び立ってしまった。

 

交渉も何も会話すら出来ずに飛び去ってしまった。一応戦闘の一部始終は記録済みなので、提出する事は出来るけど……依頼主が事の一部を知っているとしても、正直信じてもらえるかは怪しい。

グリフィン所属でも鉄血所属でもない人形、

 

『ホワイト・グリント』

 

そんな人形の存在を誰が認めるのだろうか。きっと誰も認めない可能性の方が高い。そしてその存在を認知している者は現時点では私達とクライアント以外は居ないのだから。




ホワイト・グリント


【挿絵表示】



【挿絵表示】



スタビライザー

頭部
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背面
【挿絵表示】


脚部
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