眩しい光が瞼を照らし、冷たい風が頬を撫でる。
「もう朝か…」
初めての野宿のせいか余り疲れが取れない、ふと肩口を見るとクラリスが安心仕切った顔で眠っていた。
少しずり落ちた毛布をかけてやり、思わずその美しい髪を撫でていた。
「…うぅん」
「おっと」
起こさないように撫でていた手を離し、二人で使っていた毛布から抜け出る。
「さてと」
湖の水面に顔を写す、そこには眼鏡をかけていない自分が写る。
「なんだか変な感じだけど、便利なもんだよな」
水でばしゃばしゃと顔を洗い、鞄を探ると歯ブラシが出てくる
「まさか、歯磨き粉は無いよな」
呟きながらごそごそと鞄を探ると、歯磨き粉が出てくる。
「なんて便利な、ありがとう鞄」
鞄にお礼を言うとコップがポロリと出てくる。
「明らかに鞄の意思を感じる!」
やはりこの鞄には意識があるのか、生きているのか?と不思議に思いながらも、歯磨きを終えた後、又鞄を探り朝食を探す。
二人分の菓子パンが出てくる。
クラリスの分のコップも出し朝の準備は完了だ。
そろそろクラリスを起こそうかと思っていると、後ろからぶつぶつと何かが聞こえてくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
暖かい、すぐそばに誰かの温もりを感じる。
頭を撫でる誰かの優しい手、思わずすり寄るとふと温もりも優しい手の感触も消える。
「…陽さん?」
隣に居る筈の彼の温もりを手探りで探すも、そこに有るのは冷たい地面の感触だけ。
…夢だったのかも知れない、もしかしたら昨日の触れ合いや出会いは夢だったのかも知れない。
「そうですよね、私なんかにそんな都合の良い事なんて起こりませんよね。
陽さんと出会った事も夢で、今も夢の中なのかも…」
そう思うと怖くて体か動かせない、起きてしまうと昨日の事が全て夢だったと分かってしまう。
陽さんは居なく、一人寂しく追っ手から逃げて居るそんな現実に気がついてしまう。
「クラリス?」
その時陽さんの声が聞こえた気がした。
私はまだ自分に都合の良い夢を見ているのかも知れない。
「クラリス?起きたの?」
まだ声が聞こえる、もしかしたら本当に陽さんが居るのかも知れない。
怖いけれど、思いきって目を開いてみる。
そこには朝の光に照らされた陽さんが居た、夢じゃなかった…ここに手を伸ばせば届く距離にちゃんと居てくれた。
「陽さん!」
嬉しくなって思わず抱きつく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
クラリスを起こしに近付くと、クラリスは夢なのかも…とか何とかぶつぶつと呟いていた。
少し怖いが起こしに声をかける。
「クラリス?起きたの?」
「陽さん!」
クラリスが目を開いていきなり抱き付いてくる。
「クラリスどうしたの?何か怖い夢でも見たの?」
そう聞くとふるふると頭を振る。
「違います、夢だったら怖かったんです」
「?」
よく分からないが怖かったんなら、取り敢えず頭を撫でて慰めておこう。
頭を撫でる手にクラリスはすり寄ってくる。
「あっそうだ、おはようございます陽さん」
「おはようクラリス」
ふふっとクラリスが嬉しそうに笑い、何かを思い付いたようだ。
「陽さん次からは、陽さんが起きる時に一緒に起こしてくれませんか?」
「良いけどどうして?少しでも長く休めた方が良いんじゃないの?」
「その、私どうしても陽さんに置いていかれたく無いんです、少しの間でも離れて居ると不安で…」
「俺は置いていかないよ」
寝ている間に女の子を一人で置いていくなんて、そんな酷い事は出来ない。
「約束してくれますか?」
「ああ、約束するよ」
「安心しました、陽さんと出会えて良かった」
クラリスは尚更きつく抱き付いてくる、どれだけ怖い夢を見たんだろう。
背中を撫でながらクラリスが落ち着くのを待つ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ご迷惑をおかけしました、お陰様で落ち着きました」
「そう?それなら良かったよ。クラリスの分の朝食も用意してるから、一緒に食べようよ」
抱き締めていた手を背中からゆっくりと離す、クラリスは何か言いたそうな顔をしていたがゆっくりと離れていく。
「うぅ、何から何まですみません。何か返せる物が有れば良いんですけれど。
私の身も心も既に陽さんの物ですし」
「タダで貰えるものは、ラッキーだと思って貰って置けば良いんだよ」
「はい、陽さん。このご恩はいつか、何倍にもしてちゃんと返しますね」
「あれ?話が噛み合って無い…」
あげる本人がタダで良いと言っているのだから、そうすれば良いのに律儀な性格だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「で、森を抜ける方向はこっちで良いのかな?」
「はい、こちらをまっすぐ行くと、街まですぐです。
でも…」
「でも?」
「私を襲った者達が居るかも知れません」
クラリスが不安そうな顔でおずおずと告げる。
「それなら俺の霊力で、何とかならないかな?」
「そうでしたね!陽さんの霊力が有れば百人力です!
ですが、霊力が強いものとは聞いていますが、一体どう言う方法で戦うのですか?
魔力と同じ様に詠唱をして、効果を指定する方法でしょうか?」
成る程魔力は詠唱をして効果を発動するのか、何だかますます異世界じみてきたが、霊力はそんな仰々しい呪文なんて無い。
「詠唱?霊力で戦うのには御札を使ったりするみたいだよ?俺は無くても大丈夫だから、やりたいことを念じると出来るよ」
霊力を使う者は補助として御札を使ったり、数珠や錫杖など人それぞれ自分に合った物を使う。
その中でも霊力の多い者は補助を必要としない。
「成る程…陽さんは霊力使いの中でも特別なのですね。流石です!」
「そんな事は無いよ、霊力が多すぎると体から漏れ出した霊力に悪い物が寄って来るから、普段は御守りを持ってるんだけど…」
「?どうしましたか?」
「その大切な御守りを落としちゃって…少し大変な事に成るかもって…」
「えぇ!どうしましょう!」
「まぁ、無くしてしまった物は仕方無い…かな。
何か御守りの代わりに、霊力を貯められる物が有れば良いんだけど…」
けれども生半可な物では俺の霊力に耐えきれずに直ぐに壊れて、使い物にならなくなってしまう。
「そうですねぇ、大量の力を貯めておける物…」
「出来れば必要に応じて、霊力を取り出せると良いんだけど。そんな都合の良い物は無いよねぇ…」
う~んと二人して悩んで居ると、クラリスが「…あっ!」と何かを思い付いた様だった。
「…有りましたよ、その一つだけ思い付いたのですが…あの」
「どうしたの?何だか言いづらそうだけど、もしかしてとても高価とか、手に入れにくい物なの?」
「そうですね、とても手に入れにくいのは間違い無いです、値段はその…付けられる様な物では無くて…」
「それじゃあ止めておいた方が、良いんじゃないかな」
そんな手に入れにくくて、高い物は到底無理だ。
クラリスはどうして今その話題を出したのだろう?
「でも、それでももし私が今それを陽さんに渡せると言ったら、どうしますか?」
「え!クラリスが俺に?でもそんな高価な物…」
「陽さんには命を救われました、私には陽さんよりも大切な物は有りません。
物は所詮物、陽さんには変えられません」
「クラリス…」
「それであの、それを取り出すにはどうしてもその、陽さんにやって貰いたい事が有りまして…」
「俺に?」
「はい、お願いします」
そう言うとクラリスは、その長い髪の毛を纏めて肩にかける。
首の後ろの宝石が露出し、まばゆい輝きを見せる。
「陽さん嫌かも知れませんが、首の宝石にキスしていただけませんか?」
「え?別に嫌じゃ無いけど、その宝石は敏感なんじゃ無いの?」
「はい、そうです陽さん以外には触れさせません。
ですが陽さん、貴方にならば触れて欲しいのです」
顔を赤らめ耳までも赤くなっているクラリスにそう言われては、触れても良いのだろうかという葛藤は消えていく。
クラリスは宝石を露出したままもじもじと、俺に触れられるのを待っていた。
「それじゃあ、キスするよ?」
「はい、どうぞ」
おずおずとクラリスの宝石にキスをすると、一瞬眩しく光り、光がおさまると両手には一つの綺麗な宝石があった。
「綺麗だ…」
「あっありがとうございます」
クラリスが照れながら返事をする。
「クラリスこの宝石は一体何なの?」
「その…えっと大切な物なのですが、沢山の魔力を貯める事が出来るので、多分霊力でも大丈夫では無いかと…」
クラリスは答えにくそうにあえてずれた回答をする、言いたくないのならば触れ無い方が良いのか。
クラリスに貰った宝石はアクアマリンの様に綺麗な水色をして透き通っている、試しに霊力を入れてみるとスルスルと簡単に入り相性が良いようだ、容量も全く問題ないように思う。
「クラリスありがとうこれなら、俺の霊力にも平気で耐えてくれそうだよ」
「それは良かったです、その宝石は本当に大切な物はなので割れたり無くしたりしない様に、気を付けて下さいね」
「ああ一生大切にするよ」
クラリスは何故かぼふっと赤くなると
「はい!是非末永くお側に置いてくださいね」
と嬉しそうに微笑んだ。
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