機動戦士ガンダムSeeD DESTINY~ANOTHER DESTINY~ 作:Pledge
先週ぐらいには大体完成していたのですが、不満な部分があったので更新出来ませんでした。
その部分も納得する形になったので、更新させて頂きます。
そして今話は、1万字を超えていますのでボリュームたっぷりかと思います。
多少ですが、原作キャラも出てきます。
時間が出来て暇だなという時にでもご覧頂ければと思います。
C.E.73年7月
【プラント】で開発中のMSのロールアウトが目前に迫ったある日、【WIA】長官室で仕事をしているとデュランダルから呼び出しを受けレオハルトは議長室を訪れていた。
入室すると、デュランダルしか居ないと思っていた部屋に先客がいた。
「お久し振りです、レオ」
「久し振りだな、レイ」
先客は、レイ・ザ・バレル。
以前、レオハルトが視察の際に会って話して以来だった。お互いに笑みを浮かべ、久々の再会を喜ぶ2人。
「いきなり呼び出してすまないね、レオ。レイが来月、ついに
「おめでとう、レイ。そういうことなら、付き合わせてもらおうか」
レオハルトが了承すると、デュランダルはまだ話があると言ってレイを部屋から出すと、改めてレオハルトへと視線を移す。
「君も知っている通り来月、
「シン・アスカか」
デュランダルが机の上を滑らせるようにして差し出してきたのは、今年の
付箋が付けられたページをめくると、まだ幼さの残る顔立ちをした少年が写っていた。
「どうかな、レオ」
「俺に決定権も、否定する権限も無い。それに、もう決めているのだろう?」
レオハルトはリストを机の上に投げると、デュランダルの質問にそう返した。肯定も否定もしなかったデュランダルだが、レオハルトは確実に前者だろうと考える。
「もう1つ。君には先に話しておこう」
「まだあるのか」
「プロパガンダのための人間を、【プラント】に招き入れようと思ってね。彼女、ラクス・クラインを」
「……替え玉か。確かに、彼女の影響力は今の【プラント】にとって大きい。彼女が亡命した今でも、な」
現在、ラクス・クラインは【オーブ】へ亡命の状態にある。
無論、【プラント】の市民がその事実は知らされていない。病気のため療養、養生という形をとっている。
前大戦の際、ラクス・クラインは前大戦の際、キラに当時の最新鋭機であり【NJC】を搭載した極秘機体の
さらに、極秘裏で進められていた【オペレーション・スピットブレイク】の真の標的地であるアラスカ基地こと【JOSH-A】への情報を流出させたとして、クライン親子は国家反逆罪により指名手配される予定だった。
だが、市民に多大な悪影響を与えることやアスランとの婚約破棄によるパトリックが自身の支持率低下を恐れ、口頭のみで公式の発表などはしなかった。重病により療養中という形を取り、後に病死ということで処理しようと考えていた。
その後の戦争の状況の変化により次第にラクス・クラインの存在は後回しにされていき、現在に至っている。
戦争終了後にラクス・クラインの行方を捜索すると、【オーブ】への亡命が発覚。新議長になったデュランダルによって、この件は放置されている。
「【オーブ】の彼女を呼び戻す気は無いか」
「また新型を横流しされるのは困るからね。それに厄介だろう、色々とね」
さらに、【プラント】にとってラクス・クラインはデメリットしかないとデュランダルは考えている。
故シーゲル・クライン元議長が最高評議会の議長を務めていた時から、彼女の影響力は父と同等と考えられていた。
さらに、現在の彼女は重病により歌手業務を休業しているという建前がある。そんな彼女が長期の休業期間を経て重病を乗り越え再び表舞台に姿を現せば、劇的な復活劇を遂げたという美談が生まれ、その影響力が増すことは想像が容易い。
そんな彼女を支持する【クライン派】と呼ばれる組織の様なものも存在している。信じたくは無いが、彼女が一声掛ければ現政権の長たるデュランダルに敵対する可能性も十分に考えられるのではないか。
そうなれば【プラント】内部に余計な不和が生まれ連合に付け込まれることも考えられ、最悪【プラント】という国家が二分化してしまう。
つまり、デュランダルはラクス・クラインとは相容れない存在。そう考えているのだ。
「【オーブ】の“彼女”はどう思うだろうな」
「【プラント】に居るのが“ラクス・クライン”だよ。【プラントの歌姫】と呼ばれた彼女が、【オーブ】に居るはずが無いだろう?」
デュランダルはラクス・クラインのことを、個人として捉えていない。【プラント】国民の意思をまとめるための象徴でしかないのだ。
そこに個人の意思は邪魔でしかない。彼女の意思など異物なのだ。彼女の意思に感化された者たちが、再び起たれると困るし、厄介事でしかないのだ。
「替え玉を用意することは【プラント】に利がある。それに、“彼女”を呼び戻すことに関しては、俺も危険だと考えていた」
「君が私と同じ考えで嬉しいよ」
レオハルトが【オーブ】へと亡命したラクス・クラインを呼び戻すことに反対だと知り、デュランダルは自分の考えを察し賛同していていることに内心では感心する。同時に、強力な賛同者がいることに安堵する。
2人の話し合いはそれで終わると、レオハルトは現地で合流することにして1度【WIA】の執務室へと戻る。
レオハルトが部屋に戻るとすぐに、隣に併設されている部屋からウルラインが訪れる。入室を許可すると、レオハルトはウルラインから一つの茶封筒を受け取り、中身を確認する。
「調査の結果、不審な人間は見受けれません。ただ、艦長に着任予定の人物なのですが」
「何かあるのか?」
少々言い淀んだウルラインに、珍しいこともあると考えつつレオハルトは続きを促す。ウルラインは資料の最終ページを確認するようにお願いする。
レオハルトは途中のページを飛ばし最後の資料に目を落とし、調査結果を読み進めていく。それと並行して、ウルラインからも報告を続ける。
「白服に昇任して間もないですが、能力を評価され艦長へと内定しました」
「ウルラ。お前の所見は」
「艦長就任については妥当かと。しかし、昇任したばかりということで、経験不足な面もあるかと思います。なので、当面はベテランの副官の元、艦長としての経験を積むのが定石だとは思います」
「確かに。ということは、これが原因かとも思ってしまうな」
レオハルトは机に置いた書類に書かれている一文を人差し指で軽く叩きながら、独り言のように呟く。
レオハルトが指で叩いたその場所には、【プラント】の最重要人物との間に非常に“親密”な関係が確認されたことが記されている。
その“親密”な関係が、現在も続いていることも。
「あるいは、その方が自分に都合が良いと考えたか」
「どういたしますか?」
「この件は終了だ。書類はすべて処分しろ。データもな。通常業務に戻ってくれ」
「かしこまりました」
ウルラインは返された書類を受け取ると、静かに口を開く。
「最後に、お耳に入れておきたいことが」
「どうした」
「【
ウルラインのその言葉に、レオハルトの眉が微かに動く。
【
【直轄特殊部隊】とは、文字通り国防に関する事務処理を行う部局である【国防事務局】が独自に抱える、【プラント】【ZAFT】の組織図のどこにも記載されていない、非公然部隊である。
【プラント】の広報関係を一手に取り仕切る【広報局】が、連合側の混乱を招くために意図的に流したという噂がある。
だが、実際に【直轄特殊部隊】は存在する。レオハルトがこの存在を知ったのも【WIA】の長官に就任し、【プラント】のことを表裏問わずに調べた結果であり、知ったのも偶然という側面が強い。
それほどに巧妙に存在は隠匿され、その存在を知る者は極一握りに限られる。
「何をしているか探ろうとしましたが、察知されるが恐れがあったため一時手を引きました」
「【
「かしこまりました」
「報告はもう無いな?下がっていい」
レオハルトの命令にウルラインは何も言わずに了解の意を示すと、レオハルトの命令を伝えるため部屋を退出していく。
レオハルトは頬杖を付きながら、先程の書類に書かれていた報告内容を頭の中で反芻する。
「彼女がお前の新たな手駒か。あるいは、あの艦自体か」
レオハルトの脳裏に浮かぶのは、書類の最後に載っていた
ウルラインが調べてくれた調査結果を考えると、大抜擢とまではいかなくとも周囲を驚かせる人事にはなるだろう。邪推する人間も出てくるという想像も容易い。
「ポーンで終わるか、プロモーション出来るか」
続いて頭の中に浮かぶのは、【直轄特殊部隊】のこと。
非公然ながらも【国防事務局】に組み込まれた組織。国防に関連した組織なので、一応は【国防委員会】の下部組織のような位置付けにはなる。
だが、実際はデュランダルの直轄部局のようになっている。デュランダルの人望なのかは不明だが、現在の国防委員長がパッとしない人間だというのも原因の一因なのかもしれない。
「動き始めたということか」
レオハルトは誰も居なくなった部屋で呟くと、火種に火がつきジリジリと燃える音が鳴った気がした。
C.E.73年9月某日
【プラント】は先日、【ZAFT】次世代主力量産型MSという名目で開発された
当初は【NJC】搭載型のZGMF-X999A ザク量産試験型を開発していたが、【ユニウス条約】の締結により【NJC】が禁止されると同時に、MS保有数にも制限が掛けられてしまった。
そのため改良を加えたZGMF-1000
原型機であるZGMF-X999A ザク量産試験型が採用していた黄色に変化するPS装甲が不採用となっているが、機体の装甲は大気圏の突入に耐用する堅牢性は受け継いでいる。
MS保養数に制限が掛けられたことにより、局地戦向け専用機の役割を単機で担える多用途性を兼ね備えさせるため、かつてコートニー・ヒエロニムスが提唱した武装換装システムを元にした、兵装換装方式【ウィザードシステム】を開発。
装備する兵装が定まっておらず出撃の度に変更することが可能であり、1機で多種多様な状況に応じた兵装を変更することが可能な、国力の面から考えても非常に有効なシステムである。
ちなみに、機体名のZAKU《ザク》とはZaft Armored Keeper of Unityの頭文字を取って命名され、ザフトの輝かしい新時代を担うもの、という願いが込められている。
さらに、【プラント】は新型MS5機を正式パイロット任命前ではあるがロールアウトを決定。【プラント】で工廠の役目を持つアーモリー市でも、一番の規模を誇る【アーモリーワン】にて格納状態にあった。
最後の1機は最も早く完成した機体なのだが、重大なトラブルによりロールアウトが大幅に遅延。そのため、同時期のロールアウトは見送られる形となった。
そしてレオハルトも現在、【アーモリーワン】に駐留しており1号棟ブリーフィングルームに姿があった。
会議室は等間隔で椅子が並べられており、その名の通りブリーフィングに使うための部屋だった。部屋には4人の姿があり、その内の1人がレオハルトだった。
「ここでシンが焦ったのが敗因だな。シンを戦闘不能にした後は、動揺したルナマリアを撃墜して最後はレイだけだ」
会議室のスクリーンには、4機のMSが映っている。1機はレオハルト専用機の
諸々の事情により見送られる結果となってしまったが、
そして残りの3機のうち2機は、
1機の
もう1機は白に塗装し、【ブレイズウィザード】を装備。多数のスラスターを備えた機動戦型の兵装である。
宇宙での防衛能力を重視して設計され、大気圏内外を問わず運用可能だが無重力下での機動戦で高い能力を発揮し、飛行能力を得られない事から地上では機動力強化装備として機能する。
そして最後の1機は、白と青を基調としたカラーリングにV字アンテナ。
ZGMF-X56S
型式番号の5は換装型、6は開発ナンバー、Sは
インパルスはコアユニットであるコアスプレンダー、上半身のチェストフライヤー、下半身のレッグフライヤーの合体でMS形態となる機構を導入し、生存性と戦闘継続能力に秀でる。
また、合体機構によって上下半身も変更可能なため、それらの交換装備が用意されれば戦闘中に異なる機体に乗り換える様な運用も可能となる。
さらに
シルエットは高機動戦・通常戦闘用仕様であるフォース、接近戦・対艦戦仕様であるソード、砲撃戦仕様であるブラストの3種類が用意されているが、これらのシルエットは必要とされるエネルギーがそれぞれ異なるため、装着したシルエットにより機体が消費するエネルギーも異なる。
そのため、装着したシルエット毎に
また、インパルスは全形態において大気圏内におけるホバリング機能を持ち、シールドとビームライフルを標準で携行する事から、戦闘における汎用性はより向上する事となった。
そして現在、映像に映し出されているのは高機動戦に優れる【フォースシルエット】を装備していた。
映像に映し出されているのは、昨日行われていた模擬演習の模様である。レオハルトVS残りの3機である。一見、不利に思える状況ではあるが、レオハルトのは持ち前の技術とMSを巧みに操り、3人を翻弄し最終的には撃墜判定を出している。
「前も同じだったじゃない。頭に血が昇ったシンがやられたのをきっかけに、負ける。パターンが出来ちゃった感じね」
そう言って肩をすくめるのは、ショートの赤い髪に快活そうな印象の少女。彼女の名前は、ルナマリア・ホーク。
2ヶ月前に
「うるさいな、ルナ。ルナだって、あっさりやられてるだろ」
口をとがらせ不機嫌そうにムッとした表情で口を開いたのは、シン・アスカ。
同じく赤服のエリートでルナマリアとは
だが、ルナマリアに指摘されたことから分かるように、直情的な性格ですぐに周りが見えなくなり易い傾向にある。
実力は確かであり、それは
「レイ、どう思う」
「はい。ルナマリアの言う通り、シンが敗北のキッカケとなったのは事実だと思います。ですが、我々3人の連携が稚拙であったことも問題のように思います」
「同感だ。確かに、シンがキッカケではあった。だが、それはキッカケに過ぎず、連携がまだまだお粗末だ。故に、お前たち3人の撃墜は必然だ」
レオハルトが話を振ったのは、今まで静かに話を聞いていたレイ・ザ・バレル。
レイの主観の立ち位置に居ながらも俯瞰で観た私見に、レオハルトは小さく頷く。続いてレオハルトも所見を述べる。曰く、3人の撃墜は偶然ではなく必然であると。
レオハルトは手にしていたリモコンで映像を止めると、3人に厳しくも戦争の真理の言葉を投げかける。その言葉に感情は無かったが、それが妙にリアルでシンとルナマリアはたじろぐ。
レオハルトは実際に戦場に立ち、命のやり取りをしていたのだ。間近で命が散っていくのも見ており、命を散らせる瞬間も見ているのだ。そんな人間の言葉に、リアルが感じられるのは必然である。
その時、建物全体に正午を告げるサイレンが鳴り響く。
「今回の摸擬戦でのそれぞれの気付いた点、反省点・改善点などをレポートで提出するように。期限は明日の正午まで。以上だ、解散」
レオハルトが部屋を退室した後、部屋に残された3人は正していた姿勢を崩す。
そのままその部屋で話していた3人だったが、昼食の時間ということを思い出し部屋を出ると食堂へと向かった。
3人はそれぞれのメニューを注文し受け取ると、広い食堂の一角に腰を下ろす。シンはカツ丼に漬物、汁物のセット。レイはパスタを注文し、ルナマリアはヒレカツ定食を注文していた。
3人の話題は自然に、先程まで行われていた摸擬戦の反省会の内容へと移っていく。
「それにしても、あの摸擬戦。シンが突っ込んでやられちゃったとはいえ、3対1でもあっさり負けちゃってちょっとショックよね」
「当たり前だろう。俺たちは
ルナマリアがぼやくようにそう呟くと、また自分の失敗を口にされシンは顔を顰めるとカツ丼を雑にかき込む。すると、口一杯に詰め込みすぎたのか咳き込むシン。
そんなシンに、レイは冷静に水を渡す。コップに入った水を一気飲みするシンを尻目に、フォークに巻き付けたパスタを口に運ぶ。
「確かにそうなんだけど、あたしたちだって一応赤なのよ?もうちょっと出来ると思ってたの」
「過信するのは、摸擬戦だけにした方がいい。リベラント隊長が仰っていた通り、実戦だったら俺たちは今こうして食事はしていない」
窘めるわけでもなく、ただ淡々と事実だけを述べるレイ。そんな身も蓋もないレイの言葉に、ルナマリアだけでなくついさっきまで不機嫌だったシンまで肩を落としていた。
「赤など、所詮は
フォークをくるくると回しパスタを巻き付けながら、レイは気落ちする2人に向けて追撃の言葉を投げかける。
辛辣ではあるが正論にルナマリアは何も言い返すことは出来ず、同じく気落ちするシンと顔を見合わせる。2人は同時に小さく溜息を吐くと、これ以上傷付けられないように食事に集中するのだった。
3人とは反対側の場所には、やや遅れてやって来たレオハルトが食事を受け取り空いている席に1人腰を下ろす。
レオハルト自身に自覚は無いが、その独特な雰囲気やこれまでの功績。さらには以前のレオハルトを見たことのある人間は、髪色の変化に戸惑うなど様々な理由から距離を取られていた。
とはいえ、レオハルトはそんなことを気にする様子もなく淡々と今日の昼食に選んだ、チキン南蛮定食を食べ進めていく。
「こちらの席、よろしいですか?」
半分ほど食べ進めたとき、不意に声を掛けられ顔を上げる。そこに居たのは、【プラント】防衛部第7防衛班オリンベル隊隊長ラミリア・オリンベル。
「ご自由に」
レオハルトは珍しい人物に声を掛けられたと内心考えながら、食事を再開する。
彼女は【第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦】の最中、パトリック・ザラによって軟禁状態にあったアイリーン・カナーバを中心とした穏健派議員を解放し、クーデターを敢行。
強硬派の議員たちを拘束すると同時に議会を占拠。パトリック・ザラの死を契機に暫定評議会を起ち上げ、連合との停戦交渉を行っている。
彼女は、そのクーデターを行った部隊の急先鋒。ではなく、秘匿されていたカナーバらの軟禁場所を調べ開放するなど、後方任務を行っていた。地味ではあるが、重要な役割を担っていた。
そのため、彼女が穏健派議員を解放しクーデターに協力したこと。そして、クライン派であることは大多数の人間が知らないことだ。
レオハルトの正面の席に腰を下ろすと、おろしハンバーグ定食を食べ始める。箸を綺麗に使い食べ始めると、不意にレオハルトへと話しかける。
「光栄です、彼の有名なトップエースとお食事出来るとは」
「自分の任務をこなしただけです」
「あら、殊勝ですね」
ラミリアのチクリと刺すような皮肉に、レオハルトはさして気にも留めずにただの結果だと告げる。
自分のことなど眼中にも無いような態度に、ラミリアの眉間に皺が寄る。ラミリアはハンバーグを箸で切り口へと運ぶと、続けて米を口に運び咀嚼する。
ハンバーグの美味しさにラミリアの表情が綻ぶが、正面に居るレオハルトの存在を思い出し表情を引き締める。だが、レオハルトは相変わらず自分のことなど眼中にない様子に再び眉間に皺が寄る。
「最近、お忙しいようですね?」
「【WIA】の長官という大事な仕事があります。疎かには出来ません」
「パトリック・ザラの次は、デュランダル議長ですか?フットワークが軽いんですね」
【WIA】へと改編後に長官にレオハルトが就任したことは、周知の事実。就任以降のレオハルトは、今までより忙しくなったのは当然である。
そんなレオハルトに向けて、ラミリアから再び皮肉が飛んでくる。
以前はパトリック・ザラに重用されてきたレオハルト。そして、【WIA】長官とは内外の諜報関係を一手に担う組織である。
そんな重要なポストに就いたレオハルトは、新たに最高評議会議長に就任したギルバート・デュランダルからも前議長と同様に重用されていると推測することは容易だろう。
そんなレオハルトを見て、ラミリアは巧く立ち回ったと言いたいのだろう。要は、上手に権力者に取り入りましたね、と。
レオハルトは内心深く溜息を吐く。何故、自分はここまで敵視されているのかと。
レオハルトは、ラミリアと今まで個人的な交流は無い。お互いが高い地位にいるため、無論ながら顔は知っているくらいである。
何故自分がここまで敵視されているのかと疑問を抱くが、まあ仕方ないかともレオハルトは思う。レオハルトの功績を考え納得する人間もいれば、理解はしつつも嫉妬する人間もいる。
感情と理屈は別なのだ。理解は出来ても、納得はしたくない。そんなところだろうと、レオハルトは当たりをつける。
そう考えながらも、レオハルトは意外だった。交流は無いが、情報としては知っている。その情報では、こういう人間とは思っていなかった。あるいは、何か目的があってそう装っているのか。
レオハルトは【WIA】長官として、【WIA】がクライン派としてマークしている彼女の情報に1つプラスすることにした。クライン派と目される人間は、程度の差はあれど【WIA】の監視の目があるのだ。
「オリンベル隊長はお変わりないようで。デュランダル議長も、
「!?」
「失礼」
ラミリアが来る前に大体食事が終わっていたレオハルトは、立ち上がりつつラミリアに皮肉を口にする。トレイを持って歩き去りつつ一瞬だけラミリアを一瞥する。
あえて、こちらからも皮肉を口にすることで相手の反応を見る。それによって、情報ではなく実際の体験した情報として、彼女個人の情報に新たな文言を足すことが出来る。
「(感情が顔に出やすい。いや、顔だけではなく外に出やすい性質のようだ)」
トレイの返却口へと歩きつつ、最後の一瞬に見えたのは力が込められた両手。ここが食堂でなければ、怒鳴られていたかもしれない。
「(予想外の状況に弱い?やや直情的な面もあるのか?)」
レオハルトは出口で最後にもう一度だけラミリアの座っていた場所へと視線をやると、ラミリアと目が合った。彼女は、嫣然とした笑みを浮かべていた。
レオハルトは食堂を出て廊下を歩きながら、先程の彼女への評価を改めると同時に警戒度を引き上げる。
「(何を考えている。何故、自ら怪しまれるようなことをした。自ら注意を引き、【WIA】の監視の目を分散させたい?)」
レオハルトは考える。ラミリアは何を企んでいるのか。何故、自分に接触してきたのか。意味があるとしたら、それはクライン派としての行動なのか。それとも、ただの気まぐれ故の行動なのか。
「(いずれにしろ、情報通りではないということか。勉強になったよ)」
建物の入り口には、レオハルトを見つけたのか敬礼をしているウルラインの姿があった。レオハルトは行くぞ、と短く声を掛けると。ウルラインの運転する車でレオハルトは走り去っていく。
ラミリアも食事を終えると、トレイを返すとレオハルトとは別の出口から食堂を後にする。
「如何でしたか、我らのトップエースは」
「優秀なのは確かね。軍人としては、だけど」
「お眼鏡には適いませんか?」
「まだまだ若い、ということよ」
ラミリアはいつの間に自分の後ろにいた副官と、驚くこともなく会話する。不意に現れることは慣れているのだろう。
ラミリアはわずかに言葉を交わしたレオハルトを、軍人としては優秀であるが、まだまだ若い。という評価を下す。
この判断が、彼女にとって吉となるか凶となるか。
今回で時が結構経ちました。
ということで、原作開始が近いです。
早くて次回、遅くても次の次には原作開始となります。
最後まで、私の拙い作品にお付き合い頂ければ幸いです。