レオハルトはやや長めのヴァジュラを構え、CHAOSへとスラスターを噴射し向かっていく。再び互いのヴァジュラがぶつかり合い、火花が炸裂する。
だが、OURANOSはSSSの中でも屈指のパワーを持っている。
最初の斬り結びでOURANOSとの出力差に気付いたCHAOSのパイロットは、ぶつかり合いを嫌い後方へと退く。
「ちいっ!」
「逃がさん!」
だが、そんなことは開発に多少なりとも関わったレオハルトなら百も承知。単純なパワー差で敵を押し切り、撃墜。鹵獲できれば尚良いのだが、欲張り過ぎても良くない。
内心そう考えながら、レオハルトは退がるCHAOSを追う。
「こいつ!くそっ、アウルッ!!」
CHAOSのパイロットは、出力差を理解した上でクレバーな戦い方をしてくるレオハルトに歯噛みしつつ、ハンガーの破壊をしているABYSSのパイロットの名前を呼ぶ。
その間もレオハルトが振ったヴァジュラをシールドで防ぎ、わずかに後退しサーベルを受け流す。お返しとばかりに右手のヴァジュラを振る。
だが、レオハルトは機体を時計回りで回転。振り下ろされたサーベルを回避すると同時に、右脚でCHAOSの頭部に回し蹴りを喰らわせる。
衝撃で機体が吹っ飛び、コックピット内も激しく揺さぶられパイロットも苦悶の表情を浮かべる。レオハルトは回し蹴りを喰らわせ右脚が地面に着くと同時にスラスターを噴射。
転倒したCHAOSを仕留めようとした瞬間、OURANOSのコックピット内にアラートが鳴り響く。
レオハルトはCHAOSへの攻撃を中断し、即座にその場を跳躍。瞬間、先程までOURANOSの居た場所にABYSSの連装砲が着弾。
「何やってんだよ、スティング!」
「うるせぇ!」
距離を取ったOURANOS《ウラノス》に、ABYSSの胸部に内蔵された大出力ビーム砲“MGX-2235 カリドゥス複相ビーム砲”が発射される。
レオハルトはサイドステップで回避。だが、ABYSSが猛スピードで突っ込んでくると、“MX-RQB516 ビームランス”を勢い良く振り下ろす。
レオハルトは後方に下がりつつヴァジュラを収納して空いた右手に、サイドスカートにマウントしていたビームライフルでABYSSに向けて3度引き金を引き牽制射撃。ABYSSの接近を許さない。
「くそっ、どうなってんだ!こいつも、あいつも!新型は3機だろう!何の情報も……!!」
CHAOSのパイロットは、ABYSSと交戦を始めたOURANOS。そして、GAIAと交戦中の IMPULSEを睨む。
新型は3機。彼ら強奪犯が新型機がここにあること、3機は存在すること。一体どこから情報を得たのか定かではないが、何故かOURANOSとIMPULSEの存在は知らない。
謎は多いが、想定外の事態にCHAOSのパイロットは舌打ちし再びOURANOSを睨み付けると、ABYSSとOURANOSの戦闘に加わるのだった。
時間は少々戻り、OURANOSとCHAOSが交戦を開始した同時刻。
同じように、 IMPULSEパイロットのシン・アスカも、GAIAと交戦を開始。
シンは両手の“MMI-710 エクスカリバー レーザー対艦刀”を柄の部分で連結したアンビデクストラスフォームと呼ばれる形態を取り、GAIAに迫りエクスカリバーを勢いよく振り下ろす。
初撃はサイドステップで回避されるが、シンはエクスカリバーを振り回すと振り下ろしたのは逆のエクスカリバーでGAIAを斬りつける。
だが、GAIAのパイロットも素早い反応を見せる。シールドで防ぎつつ後方へと跳ぶことで勢いを軽減させる。
GAIAは宙へと跳躍しビームライフルで攻撃するが、シンは左腕に装着されたシールドで防御。エクスカリバーを左手だけで保持し、右手で腰にマウントしていた“MA-BAR72 高エネルギービームライフル”で攻撃。
宙で1発、着地したところでもう1発撃つが、GAIAは機動性を発揮し再び跳躍して回避。GAIA は宙で四脚のMA形態へと変形。
MA形態においては砂漠や密林での高い運動性、悪路走破性を駆使した一撃離脱戦法や対艦戦闘、近距離戦闘を得意とする。
四脚歩行形態の元となったTMF/A-802 BuCUEよりも、当然ながら攻撃力・防御力ともに強化されている。
GAIAがMA形態で着地したのを見て、シンはアンビデクストラスフォームを解き両手にエクスカリバーを手にするとスラスターを噴射しGAIAと距離を詰める。
「何!?」
まさか向かってくるとは思ってなかったのか、GAIAのパイロットは驚きの声を上げる。両者が交錯する瞬間、GAIAは機体をひねりエクスカリバーの斬撃を回避。
背部に2門装備された“MA-81R ビーム突撃砲”を発射。再びシンは左腕のシールドで防ぐと、右手のエクスカリバーを投擲。
投擲されたエクスカリバーはGAIAへの直撃コース。だが、MA形態ではシールドは使えない。GAIA素早くMS形態へと戻りシールドで防ぐ。
「こいつ!」
強力な攻撃を防いだ衝撃で機体が吹き飛ぶ中、GAIAのパイロットはシンへの悪態を吐く。
GAIAはバーニアを噴かし着地すると、GAIAの横にシールドで防がれたエクスカリバーが地面に刺さる。
「シン!命令は捕獲だぞ!分かっているのか、あれは我が軍の!」
「分かってます!でも、逃げられるくらいなら撃墜しますよ!機密漏洩と比べるまでも無いでしょ!」
その時、交戦するシンに通信がつながる。サブモニターに黒服の男が映し出されると、シンの撃墜を前提とした行動に注意が入る。
だが、シンの返事は焦りからか早口ではあるものの、非常に現実的な答えだった。
以前、シンたち3人はレオハルトによるMS教練を受けていた。当然ながらそれだけではなく、レオハルトは自分がこれまでに培ってきた知識や技術などを可能な限り3人に教えた。
無論、レオハルト自身もそれが必ずしも正しいことだとは思っていない。人間の数だけ違う考え方があるのだから、理解し納得したものだけを自分の中に落とし込むように、ということは伝えている。
レオハルトの言葉を、シン自身が理解し納得したものを自分の中に落とし込んでいった結果、今のシンに落ち着いたということなのだろう。
シンの言葉にたじろく黒服の男。シンは話は終わったとばかりに通信を切ると、再びGAIAとの距離を詰めるのだった。
そして同時刻。
依然として、CHAOSとABYSSの2機を相手取るレオハルト。
レオハルトは敵のことを内心ながら称賛する。少数で敵地に潜入し、初見のMSを使う。これは極めて難しいことだろう。
だが、敵のパイロットたちは【プラント】の最新鋭のMSを使いこなしている。恐らく、並のコーディネイターより能力は上。ヘタすると、パイロットに内定していた人間より巧く使っているのではないかとさえ思ってしまう程だった。
個人の能力は高いが、連携の腕はまだまだ未熟と感じていた。現に、ABYSSの攻撃が雑になり、少しずつスタントプレーが目立つようになってきたのだ。
「しつこいってんだよ!」
「アウル!」
急速に接近してきたABYSSのビームランスの振り下ろしを後方へと跳躍しつつ、レオハルトは引き金を引く。発射されたビームは、間に割って入ったCHAOSがシールドで防御。
CHAOSはビームを防ぐとすぐに上空へと跳躍。瞬間、後ろにいたABYSSがカリドゥスを発射。CHAOSをブラインド代わりにした攻撃だった。
レオハルトはブラインド攻撃に少々驚きつつも難なく回避。苛立ちが募ってきているとはいえ、未だに連携は忘れていないようだった。レオハルトは狙いがやや外れていることを残念に思いつつ操縦桿を倒す。
レオハルトはシールドを投げ捨て左手でヴァジュラを抜剣すると、左の操縦桿を倒しOURANOSの各部のスラスターが火を噴かせた瞬間、突如としてアラートが鳴り響く。
レオハルトが上に視線を向けると、ヴァジュラを手にしたCHAOSが上空から斬りかかってきたのだ。
「っ!」
レオハルトも同じようにヴァジュラをぶつけ防ぐと、いつの間にかABYSSがレオハルトの後方へと回っていた。
「アウル!」
「もらったぁーっ!!」
再びコックピット内に鳴り響くアラート。だが、レオハルトはこの状況でも冷静だった。すでにABYSSは距離を詰めており、ビームライフルを構える余裕は無い。
レオハルトはビームライフル手放し、右手にもヴァジュラを抜くとABYSSが振り下ろしたビームランスを受け止める。
「なっ!?」
「こいつ!?」
通常のMSに比べて大きい出力を持つCHAOSとABYSSの攻撃を受けつつも、押し切られない。むしろ、徐々にではあるが押し返しつつある。
その時、CHAOSとABYSSのコックピットにアラート音。視線を向けると、迎撃に出てきたAMF-101 DINNが攻撃を加えてきた。
CHAOSとABYSSは同時にOURANOSと距離を取るが、CHAOSは再び
OURANOSに攻撃を。
ABYSSは両肩のシールド裏面に内蔵された“MA-X223E 3連装ビーム砲”を発射。攻撃範囲が広いため拠点攻撃を目的として搭載された装備。
攻撃範囲が広いという目的通り、3機編成でやってきたDINNを同時に撃墜したのだ。
だが、さらにその後ろからはまた別の編隊をABYSSのレーダーが捉える。ABYSSのパイロットは苛立ちと不快感を露わにするかのように舌打ちをする。
「スティング、次から次へと限りが無い。パワーの問題もある」
「……くそっ!」
その時、アーモリーワン全体が激しく揺れ振動する。
一同は驚きつつも、揺れの正体にレオハルトはいち早く気付いた。
「(外からの攻撃?港か。まさか、こいつらの友軍?)」
レオハルトはこの揺れが外からの攻撃であると同時に、もしかして強奪犯の仲間なのではないかと推理する。
実際にレオハルトの推理は当たっており、港が攻撃され大爆発。港に駐留していたナスカ級やローラシア級は大損害を被り、港が復旧するまではかなりの時間を要するほどの被害を受けていた。
そんな中、【プラント】側の人間とは違い強奪犯はこの揺れに別の意味を見出していた。
「スティング、今の」
「ああ、お迎えの!時間だろ!?」
「遅刻。置いてかれるぜ?」
「お前も手を貸せ!こいつが!!」
今の爆発は強奪犯たちにとって、迎えの時間を知らせるアラーム音の様なもの。かなり荒っぽい方法ではあるが。
ABYSSのパイロットの言葉に、CHAOSのパイロットはOURANOSの振り下ろされたヴァジュラをいなし、反撃しつつ答える。
ABYSSのパイロットの言葉にCHAOSのパイロットは苛立たし気に答えていると、突如としてOURANOSの戦闘姿勢が攻撃的なものに変わる。
今までレオハルトは時間を稼いで友軍の到着を待ち、数で包囲し撃墜または鹵獲しようと考えていた。だが、今の揺れでレオハルトはその考えを改める。
今までは隠れていたであろう強奪犯の友軍が恐らくは港を攻撃し、我々の追撃を潰した。つまり、もうこれ以上はこの宙域に長居するつもりは無い。レオハルトは敵の撤退の意を感じたのだ。
ならば、友軍の到着を待っている時間も無い、とレオハルトは考え撃墜の確たる意思を持って攻勢に移る。
「アウル、離脱するぞ!援護しろ!ステラ、そいつを振り切れるか!」
「すぐに墜とす!」
CHAOSのパイロットが離脱を宣言し、 IMPULSEと交戦するGAIAのパイロットは撃墜すると強い口調で宣言。
今まで以上の激しい攻撃でIMPULSEを撃墜しようと試みるが、シンはCHAOSとABYSSが離脱の動きをしている気配を感じて焦りを覚え始めていた。
だが、ここで焦って攻撃を急いては離脱されるだけではなく、自身の撃墜の可能性もある。シンは多少の焦りを覚えつつも、GAIAの攻撃を受け流し合間合間に反撃しつつ絶好の機会をうかがう。
そしてCHAOSとABYSSは相互援護し宙へと浮かび、【プラント】の側面へと飛んでいく。レオハルトは放棄したシールドとビームライフルを回収するとすぐに後を追い、後ろから攻撃を仕掛ける。
CHAOSとABYSSへ発射された精確な4連射を、左右移動や機体のバレルロールなどで難なく回避。
すると、ABYSSが突然機体を反転。3連装ビーム砲を発射。だが、レオハルトはビームの間をすり抜けABYSSとの距離を詰め、ヴァジュラを横に振るった。
だが、ABYSSは機体を後ろに傾けることで回避。そしてその先には、ビームライフルを構えたCHAOSの姿。
「!」
レオハルトが目を見開いて驚いた瞬間、ビームが発射される。驚いたとはいえ、レオハルトは冷静さを失ったわけではない。
レオハルトは首を傾けて回避すると、ABYSSの追撃を避けるため距離を取る。
「(CHAOSが巧くABYSSをカバーしている。手強い)」
「(ちいっ!この新型、厄介だな。攻撃が巧く躱される。こいつを墜とすのは骨だな)」
やや直情的な傾向が見られるABYSSを、冷静なCHAOSが巧く立ち回りカバー。共に決定機を作り出すも、片方は経験と技術で乗り切り、片やコンビネーションでレオハルトの攻撃を躱す。
両者が考えていることは同じ。手強い、ということだった。
その頃、GAIAはというと依然として地上でIMPULSEに苛烈な攻撃を加えていた。
「墜ちろーっ!!」
GAIAは空中でMAへと変形すると、“MR-Q17X グリフォン2ビームブレイド”でIMPULSEとのすれ違い様に斬りつける。
シンはIMPULSEを屈ませて避けると、走り去っていくGAIAにビームを撃つ。だが、GAIAは倒壊しかけている建物の陰に入りビームを回避。
再び建物の陰から出て来た時にはMS形態へと戻り、振り下ろされたヴァジュラとIMPULSEのエクスカリバーとぶつかる。
「くっそーっ!!」
シンは左手にしていたエクスカリバーを突き刺そうとするが、GAIAは素早く距離を取る。今度は正面からではなく、シンから見て左側に回り込み再びヴァジュラを振り下ろす。
CHAOSとABYSSが地上から離れ離脱の動きを見せているのに、依然としてIMPULSEと積極的な戦闘を続けるGAIA。
そんなGAIAを見て、CHAOSのパイロットは苛立たし気に声を荒げる。
「ステラ、もういい!離脱だ!!合流しろ!!」
「墜ちろ!墜ちろ!墜ちろーっ!!」
CHAOSはレオハルトを相手に時間稼ぎを行い、ABYSSは追撃部隊を攻撃してIMPULSEの増援に行けないように援護している。
CHAOSが戦闘を切り上げて早く合流するように促すが、その声は届いていないのかGAIAはIMPULSEとの戦闘を続行する。
「じゃあ、お前はここで『死ね』よ!」
「っ!?」
「アウル!この馬鹿野郎!!」
「しょうがないじゃん。止まんないんだから」
その様子にイライラが爆発したのか、ABYSSのパイロットが酷く突き放す言葉を投げかける。その瞬間、今まで激しく動いていたGAIAが停止し棒立ちになる。
CHAOSのパイロットが狼狽した様子でABYSSのパイロットの言葉を咎めるが、どこ吹く風といった感じで反省している様子では無かった。
「くそっ!!」
理由は分からないが突然動きを停止したGAIA。その好機を見逃すわけもなくエクスカリバーで斬りかかろうとする。
だが、CHAOSのパイロットはどうしようもない苛立ちを口にしつつレオハルトを蹴り飛ばすと、ビームでIMPULSEの攻撃を許さない。
「ステラ!!」
「死ぬ、いや……。死ぬのはダメ……。いやぁあああああ!!」
表情は蒼白になり両手で身体を抱きしめうわ言の様に呟いていると、突然悲鳴を上げGAIAは地上から飛び立ち、レオハルトやCHAOS、ABYSSを無視してプラント内部の側面部へと飛んでいく。
「結果オーライだろ?」
ABYSSのパイロットの皮肉めいた言葉に、顔は見えないが不敵な笑みをしていることが容易に想像でき、CHAOSのパイロットは眉を顰める。
結果が良かろうと、過程が最悪ではないかと。
だが、今はそんなことを考えている余裕は無い。眼前には厄介な新型がおり、視線をずらすとGAIAを追ってきたもう1機の新型がやって来たのだ。
すでに作戦予定時刻は大幅に過ぎ、恐らくは友軍も守備隊と交戦をしているはず。可能な限りこの場を速やかに脱出するため、CHAOSのパイロットは気合を入れ直す。
レオハルトはやや焦りを覚えつつ、自身と対峙するCHAOSを見据えるのだった。