機動戦士ガンダムSeeD DESTINY~ANOTHER DESTINY~ 作:Pledge
当分は本編前の話になると思います。
では、本編前の第一弾です。
C.E.72年4月。
【ユニウス条約】が無事締結され、戦犯裁判が終了してから約三週間。【プラント】のギルバート・デュランダル新議長は新たな戦火に備え準備を怠ることは無かった。
失われた資源や物資も回復し始め、【プラント】は新たな力を得るべく動き始める。
「新型の次世代主力量産機開発、及び六機の最新鋭MSの開発ですか」
「ああ。幸いにも、ベースは完成している。量産試作型があるからね。あれに改良を加えていけば、良いMSが出来るだろう」
「量産試作型。あれは惜しかったですね。【ユニウス条約】で【NJC】が禁止されたから、仕方ありませんが」
「ああ。お陰で、せっかく開発した四十八機が無駄になったよ。まあ、だから“アレ”の開発が何とかなったんだがな」
【プラント】は一ヶ月ほど前、新たな量産試作機を開発していた。その機体は量産機ながらも【PS装甲】を有し、動力は【NJC】を使っていた。
だが、【ユニウス条約】により【NJC】は禁止されてしまったためエネルギー不足により開発を中止。だが、動力として使用されていた【NJC】を解体し使用されている希少物質【ベースマテリアル】を用い秘密兵器の開発を行っている。
「コートニーは?」
「まだ傷が癒えないようだが、命に別条はない。彼には感謝しなくてはならないな。無論、君にも」
「護ることが出来たのは、コートニーのお陰です。私は何もしていません。私も、敵の策に嵌まった一人なのですから」
「失態だと考えているのなら、次の任務で挽回してくれたまえ。私の予想以上の結果で」
「了解しました」
デュランダルの元を立ち去り、長い通路を歩きながらレオハルトは思い出していた。
あれは、戦犯裁判が終わってからすぐのことだった。
【プラント】所属コロニー 【アルカナム】
【プラント】が極秘裏に所有し、外装はデブリに偽装されたこのコロニーにあの男の姿があった。
赤の軍服に身を包み、左胸には【FAITH】の徽章を身に付ける【ZAFT】のトップエース、レオハルト・リベラント。唯一違う点は、以前までの真紅の髪ではなくややくすみがかった金髪という点だった。
誰もがその変化に疑問を抱くが、直接問いを投げかけるような猛者はいなかった。そう思われたが、ついにその猛者が現れたのである。
「……」
レオハルトの視線の先には、短い間とはいえ自分が操縦し戦場を駆け抜けた相棒の姿。だが、その相棒、【Finis】の周囲には多くの人間と巨大な機材があった。
「名残惜しいかね?」
「自分で開発した機体だ。それなりに、な」
突然背後から声を掛けられるも、レオハルトは驚くことなくその問いに答える。質問をしてきた人物はレオハルトの目の前にガラスに映る、【統合三局】のハインラインだった。
「解体するわけではない」
「だが、あの機体に乗ることはもう無いだろう」
「確かにな。ところで、その髪は何だ?」
「これか」
ハインラインにそう聞かれ、レオハルトは視線を【Finis】から外さず呟く。ハインラインはレオハルトの隣に立ち、順調に進んでいる作業を見守る。
「ああ。髪の色が違っているではないか。染めたのかね?」
「逆だ。染めていたのを戻しただけだ。この髪が元々だ」
「ほぅ……。心境の変化かね?」
「俺は過去をすべて受け入れたつもりでいたが、どうやら逃げていたようだ。すべての過去を受け入れた。それだけだ」
「……なるほど。さて、私はもう失礼するよ。それと、【Finis】は我々【統合三局】が預かる」
「そうしてくれ。俺が預かれる物でもないからな」
レオハルトは背中越しにそう答えると、ハインラインは小さな笑みを零し立ち去っていく。それからすぐにレオハルトも踵を返すと、数ブロック先の区画に向かう。
一つの扉の前で足を止め、自動ドアが開き中に入る。部屋の内装は先ほどまでレオハルトがいた場所とさほど変わりないが、特別ガラスの向こうにあるものは違う。
そこにあったのは、以前までのカラーリングとは大きく異なりメタリックシルバーに塗装された機体が鎮座している。
【Finis】の前にレオハルトが乗機として使用していた
レオハルトがこの場所にいるのは、【アルカナム】で行われている研究の妨害に万が一敵が来た場合に対処する護衛である。
護衛というからには、機体が必要である。だが、【Finis】は核で動いているため【ユニウス条約】に引っ掛かり条約違反になってしまう。そのため、以前まで使用していた
だが、ここでもまた問題が出てくる。
そうレオハルトは考えていた。だが、その不安はあっさりと解消される。レオハルトが
その結果、最新鋭とまではいかなくても、それに近い性能を有する機体となったのだ。それが、レオハルトの新たな機体、ZGMF–X313SEM
そして、その
さらに、
レオハルトの目の前にあるザク量産試作機も、解体される運命にある機体。だが、この機体に実際に乗り、先の【南アメリカ】で起きた独立戦争において武勲を挙げたコートニー・ヒエロニムスの願いにより【NJC】は外されているが、解体は最後ということになったのだ。
部屋に入ったレオハルトは、ザク量産試作機をじっと見つめる青年に歩み寄る。
「やはり、名残惜しいですか?」
「共に戦った相棒ですからね。ですが、それはリベラント隊長も同じでしょう?」
「軍属ではないのですから、普通に呼んで頂いて構いませんよ。レオで結構です。確かに名残惜しいです。兵器とはいえ、相棒ですからね」
「では、僕のこともトニーで構いませんよ。敬語も結構です。やっぱり、相棒ですからね」
コートニー・ヒエロニムス。
【ZAFT】に籍は無い民間人ながらも、これまでにテストパイロットとしてドレッドノートに乗ったこともある二十歳の青年。民間人ながらその実力は高く、並の【ZAFT】兵では太刀打ちできない戦闘センスを持っている。
「失礼。挨拶が遅れました。特務隊、レオハルト・リベラントです。話には聞いていましたが、こうして会うのは初めてですね」
「コートニー・ヒエロニムスです。こちらこそ……レオの噂はよく耳にしますよ。お会いできて光栄です」
レオハルトは開発に関わったドレッドノートのテストパイロットとして名を知っており、コートニーもレオハルトのことはよく耳にしていた。
だが、こうして会うのは今日この時が初めてであり、話すのも当然ながら今回が初めてである。
コートニーはレオハルトを愛称で呼ぶことに若干の抵抗があるのか、それとも単純に慣れの問題なのか。レオという呼び方に少々の逡巡が見えた。
そのことにレオハルトは気付くも、それほど気にする様子は無く話を続ける。
「だが、トニーのお陰でこの機体は回収された後、【ZAFT】の次世代主力量産機となるだろう。資料を読ませてもらったよ。トニーの提唱した兵装換装システムは興味深いな」
「ああ、あれですか……」
「様々な場面に対応出来るように、装備を換装するシステム。新たなMSを開発するより、より賢い方法だ」
「いえいえ、ただの思い付きですよ」
レオハルトの興味深いという言葉に、コートニーは苦笑を浮かべる。だが、レオハルトはコートニーの提唱した考えは、賢い方法だと述べた。
だが、それにもコートニーは謙遜の言葉と共に苦笑する。
コートニーの提唱した装備兵装システム。それは、一機のMSに数種類の装備を用意し、状況に応じてそれぞれの装備を換装し戦うことを目的としている。
それは、その局面に対応した新たなMSを開発するより、資金・資源・時間。あらゆる面においてその有用性を示している。
そしてコートニーの唱えたこのシステムは、後に【ZAFT】が開発する【ウィザードシステム】として残ることになる。
「謙遜しなくてもいいだろう。価値あるものだということは確かだ」
「ありがとうございます」
レオハルトからストレートに褒められてか、コートニーは頬をかきつつ照れ笑いを見せる。
だが、それは突然にやってきた。
それから数時間経ち、集められた技術者たちは四十七機のザクから【NJC】を取り出すことに成功し、さらには解体を完了。
そして、残るはコートニーの乗ったザクが最後となった時だった。
突然、レオハルトとコートニーを激しい衝撃が襲い掛かる。あまりの衝撃の大きさに、二人は立つことが出来ず床に四つん這いとなってしまう。
「今のは!?」
「良いことではなさそうだな」
「コンディション・レッド発令!コンディション・レッド発令!!」
状況を知るため、二人は【アルカナム】の指令室へと走る。その途中、【アルカナム】に敵が現れたことを知らせる警報が鳴り響く。二人は急ぐ足を速め、指令室に向かった。
指令室に入ると、数人のオペレータと共にハインラインやアジモフの姿があった。
「何事だ」
「招かれざる客のご登場だよ。先ほどの衝撃は、不明艦からの予告無しの攻撃だ」
「地球軍か?」
「かもしれん。だが、【ユニウス条約】が結ばれたばかりの状況で攻撃を仕掛けてくるとも思えん」
レオハルトの事態の状況説明を求める短い問いかけに反応したのは、苛立たしげなアジモフ。その理由は突然の攻撃に対してか、それとも研究を邪魔されたことに対してか。恐らくは、後者だろう。
レオハルトはアジモフから視線を外し、ハインラインに向け敵の正体について質問する。現状、【プラント】に敵対する国家といえば、やはり真っ先に思い付くは地球連合軍。
だが、【プラント】と敵対した各国家群は先日、【プラント】との間に【ユニウス条約】を締結させたばかりである。条約を締結しておきながら、このような暴挙に出るのかという疑問からハインラインは小さく首を振る。
「敵艦、照合データは?」
「該当パターン無し。まさしく、不明艦です」
「……」
「要求は無いんですか?」
レオハルトの質問にオペレータはそう答える。つまり、【ZAFT】のデータベースに登録されていない艦。新造艦なのか、はたまた地球軍とは関係のない組織の艦なのか。
それはハッキリしないが、レオハルトは一つだけ確信していることがあった。コートニーの敵からの要求は無いかという問いに、レオハルトは踵を返しながら確信をもって答える。
「ここにあるもの、一つしかないだろう。【NJC】だ」
レオハルトは素早くパイロットスーツに着替えると、生まれ変わった
「ハインライン局長、どうだ?」
「駄目だな。こちらの呼び掛けに何の応答も……。いや、今あったぞ」
「何だ?」
「MSを二機出してきた」
「ちっ!手段は選ばないか!」
敵が何者であれ、【NJC】を持つ者たちを見逃すわけにはいかない。レオハルトたちが生き残れば、様々な情報が流出することになる。それは、敵としても好ましくない。
だが、【アルカナム】が墜ち【NJC】が奪われたことが伝わるのは時間の問題。ならば、敵が取るべき道は自分たちの情報を出来る限り残さないこと。つまり、殲滅。
「ハッチ開放!出撃する!」
「良いのか?」
「敵がMSを出してきた以上、【アルカナム】の存在が知られていることは確実だ。むざむざと【NJC】を渡すわけにはいかない!」
「そうだな、その通りだ」
デブリに偽装されていた一部がスライドして開くと、そこからレオハルトの
出撃した瞬間、レオハルトはペダルを踏み込んでスラスターを噴かすと接近してくる敵二機に向かっていく。
以前よりも強化されたレーダーにより、
「(
レオハルトが敵を地球軍だと断定した頃、接近してくる二機のMSのパイロットもレオハルトの存在を認識していた。
「見つけたぜ!やっぱりここで当たりみたいだな!やるぜ、ミューディー!」
「援護頼んだわよ、シャムス」
「油断するなよ。あの機体、【ZAFT】のトップエース、レオハルト・リベラントの前の乗機の改良型に見える。なら、パイロットは」
「関係無いでしょ。やることに変わりないわ」
パイロットはシャムス・コーザ。色付き眼鏡を掛けた十九歳の黒人で、コーディネイターを人外のものとして嫌悪している。
さらに、余分な装甲や構造材を簡略化し軽量化にも成功しており、
これらの機体は、地球連合軍第八十一独立機動群————通称、【ファントムペイン】——―が
レオハルトは
近接攻撃が主体となる
ミューディーはシャムスの射線に被らないよう距離を詰めてくるその動きは素早い。だが、この程度で容易くやられるようなレオハルトではない。
レオハルトはシャムスとの射線上にデブリが来るように動き、ミューディーと一対一でぶつかれる状況を作り出す。
「ちっ!デブリが邪魔だ!!」
“ES05A ビームサーベル”を抜き斬りかかるミューディーに対抗し、レオハルトも
インティを手に、レオハルトはミューディーに向かっていく。ミューディーが振り下ろしたビームサーベルを軽やかに避けつつ背後に回り、インティをコックピットに向けて突き出す。
「!?」
だが、その攻撃は防がれてしまう。
レオハルトが即座にその場から離脱した瞬間、スコルピオンからレールガンが発射される。続けて、ミューディーは振り向き様に左肩部増加アーマーのラック内に格納されている“Mk315 スティレット投擲噴進対装甲貫入弾”を投擲する。
投擲されたスティレット—―短剣の一種—――は三本。だが、レオハルトは冷静に“MMI-GAU2ピッキオ 74mm近接防御機関砲”でスティレットを撃ち落とす。
続けてレオハルトは、“JDP8-MSY0540 ゲイ・ボー”の改良型として装備されている、三つ折りにして背部に収納されていた“MA-313ビーム速射砲 ミスラ”を両肩に展開。レオハルトは続けて二回引き金を引き、四発のミスラを発射する。
「くっ!」
ミューディーは“対ビームシールド”でミスラを防ぐと、ビームサーベルを収納し“M7G2 リトラクタブルビームガン”の照準をレオハルトに付ける。
マシンガンのように連射されるビーム。デブリの隙間を縫うようにして回避していくレオハルト。だが、先ほどのシャムスと同様にデブリが射線上に入ったため止む無く攻撃を中止。
逃げたレオハルトを追うべく動き出したミューディーの正面に、突然レオハルトが現れる。
「!?」
コックピットシートに座るミューディーの目に、不気味にモノアイを光らせる
「これで一機。……っ!」
「ミューディー!!」
レオハルトは零距離でミスラを撃ち込もうとした瞬間、コックピットにアラートが鳴り響く。遠距離から発射された、
レオハルトは即座に後方へと退くが、シャムスは接近しつつ両腰に装備された大型ビームライフル“M9009B 複合バヨネット装備型ビームライフル”を連射しながらミューディーの援護にようやく到着する。
改良前の両者の機体の特性を知るレオハルトとしては、近距離と遠距離で連携されたら厄介なことになるのは確実。そのため、早々にどちらかを撃墜することを考えていた。
まだ戦闘開始から十分ほどしか経っていないが、レオハルトが当初抱いていた考えを修正する。レオハルトの予想以上に、敵パイロットの技術は普通のナチュラルに比べたら格段に高いのだ。
簡単に倒せると思っていたわけではないが、レオハルトの予想より敵もMSも優秀なのだ。レオハルトは二機が揃ったことで面倒なことになったと考えると共に、一層気を引き締める。
「(中々厄介だな)だが、負けるつもりも無い」
レオハルトは思いを口にすることで自らを鼓舞すると、操縦桿を倒しペダルを踏み込む。それを見て、シャムスはバヨネットを平行に連結して長距離用の連装キャノンモードにし連射。
「コーディネイターが!!」
周囲のデブリを粉砕しつつ、レオハルトに迫る連装キャノン。だが、レオハルトはすぐにその場を離れる。だが、シャムスの目的はレオハルトに当てることではなく、周囲に浮遊するデブリ群の除去。
連装キャノンに続けて、シャムスは
シャムスの攻撃もあって、デブリは大分破壊され見通しがかなり良くなった。その状況を見て、再びミューディーが仕掛ける。
やや上から距離を詰めてくるミューディー。そして、見通しが良くなったことで遠距離からはシャムスの援護射撃が実に効果的だった。
ミューディーは所々でフェイントを織り交ぜつつ、シャムスとの連携でレオハルトを確実に追い詰めていく。レオハルトもどちらかの撃墜に動くも、必ずどちらかが牽制しカウンターを仕掛けてくるのだ。
それほどまでに、二人の連携は巧みでレオハルトにとっては厄介なものだった。
「(ちっ、厄介だな……!!)」
レオハルトがそう思った時、
「(新手!?いや、違う。向かっているのは……【アルカナム】!?まさか、こいつらは!)」
ミューディーが振り下ろしたビームサーベルを切り払い、シャムスの撃ったバヨネットを機体をバレルロールさせて避けつつレオハルトは唇を噛む。
「(失態だ……!こいつらは、俺の足止めか!!)」