機動戦士ガンダムSeeD DESTINY~ANOTHER DESTINY~   作:Pledge

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お久し振りです、Pledgeです。

非常に間が空いてしまいましたが、投稿させて頂きます。

今話をご覧になる前に、前作『機動戦士ガンダムSeeD~Another SeeD Story~』の最終話のエピローグ、そして今作のプロローグで加筆・修正を行っております。

投稿が久し振りなので、覚えていないため混乱せず頭に入る方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、混乱を避けるために上記で挙げた二つをご覧頂いたほうが混乱することもないかと思います。



Operation - 4 極秘任務

C.E72年某日。

 

レオハルトは【プラント最高評議会議長】であるギルバート・デュランダルからの特命を受け、【FAITH】としての任務の出発のためアプリリウスの港にいた。

 

「リベラント隊長。MSの搬入作業は予定通り、1000で終了予定です」

「わかった。では、当初の予定通り出港時刻は1015とする。各員に再度通達。徹底させるように」

「はっ!」

 

作業の様子を見守っていたレオハルトの元に、整備服を着た男性が現れる。男性はレオハルトに敬礼、レオハルトが答礼し手を下ろしたのを確認すると、出発準備の作業経過の報告を行った。

 

レオハルトは男性に出発時刻を予定通りということを伝えると、乗組員に再度徹底させるように指示を出す。

 

目の前に寄港しているナスカ級エリティスには、MSや物資が運び込まれていく。そして、レオハルトの視線の先では自身の専用機JUPPITER(ユピテル) FERETRIUS(フェレトリウス)もアームでエリティスの格納庫へと運び込まれていく。

 

順調に進む作業を見守りながら、レオハルトはこれまでの経緯を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

軍事裁判が終わり、レオハルトがギルバートの執務室に行った時のことだった。

 

「そろそろ本題に入ったらどうだ、ギル」

「まあ、座りたまえ」

 

ギルバートは立ち上がりソファを手で示し、座るように促す。

 

レオハルトは話が長くなりそうなことを察しソファへと腰を下ろすと、正面に腰掛けたギルバートに目線で続きを促す。

 

「長い戦争が終わり、プラントは疲弊した。人的・物的資源共に、回復には相当な時間がかかるだろう」

「【ユニウス条約】も所詮は一時的な停戦のための条約。連合も資源の回復に躍起になり、回復すれば再び戦争を仕掛けてくる可能性は高い」

「その通りだ。【ブルーコスモス】。いや、【ロゴス】も健在だ。連合もMSを主力化した今、次世代の主力機の開発に力を注いでくるだろう」

 

プラントにとっての悲劇の地【ユニウスセブン】で締結された、プラントと地球連合との停戦条約。締結した【ユニウス条約】は停戦のための条約。

 

そう、停戦なのだ。終戦ではない。両者の戦争はまだ終わっておらず、今は戦力の充電期間なのだ。

 

【ブルーコスモス】盟主ムルタ・アズラエルを始めとしたタカ派が死亡したとはいえ、地球連合上層部では反コーディネーター主義を掲げる者たちが未だに大半を占める。

 

プラント内部では戦力が回復すれば再び戦争を仕掛けてくるという考えがある。

 

レオハルト個人としてもその意見には賛成であり、連合はただ戦力回復に努めているだけだと考えている。

 

「だが、それはこちらも同じだろう? GuAIZ(ゲイツ)をベースにした後継機、さらに次世代主力機の開発を指示したと聞いたが」

「耳が早いな、レオ。そちらに関しては、【統合三局】がやってくれることだろう。心配はしていないさ。それより、私には別の心配事があってね」

 

【プラント最高評議会議長】に就任したギルバートが最初に着手したのは、戦力の充実化。

 

先程も話に出た通り、 次世代主力機の開発やそれまでのつなぎとしての GuAIZ(ゲイツ)後継機の開発。レオハルトは知らないが、他にもトップエースへロールアウト予定の専用機の開発も指示が出ている。

 

ギルバートはMSについてはさほど心配はしておらず、懸念事項は別にあると伝える。レオハルトは内心でようやく本題かと思いつつ、ギルバートが口を開くのを待つ。

 

ギルバートが不意に立ち上がるとデスクの引き出しから封筒を取り出し、ソファに腰掛けるレオハルトへと渡す。

 

何も言わずに渡された封筒に訝しみつつも中から書類を取り出す。中に入っていたのは、ある人物に対しての報告書だった。

 

レオハルトは印字されている文字を目で追い、数分の間はレオハルトが書類をめくる音だけが響く。やがて読み終えたのかレオハルトは書類を机の上に置くと、薄い笑みを浮かべるギルバートへと視線を移す。

 

「ようやくか」

「待たせてしまったね。諜報部の内偵と国防事務局の捜査、君の報告でほぼ決まったよ」

「ほぼ?」

「ああ、ほぼだ。内偵しても証拠は得られなかった。決定的な証拠はないが、状況証拠はクロだ」

 

レオハルトは書類を封筒の中に戻すと、机の上でギルバート側へと寄せる。

 

ギルバートは目標に対して行われた諜報部の内偵結果についても伝える。内偵対象も素人などではなくプロ。簡単にシッポを掴ませるはずもなく、決定的な証拠を発見することは出来なかった。

 

「なるほど。ならば、どうする?」

「証拠は無い。だが、状況証拠はクロだ。よって、秘密裏に処理することにした」

「だから、俺か」

 

知っての通り、レオハルトは国防委員会直属【FAITH】に属している。通常の指揮系統の外側に位置している。秘密を伝える人間を最小限に抑えることが出来る。それはつまり、情報の漏洩の可能性を下げることが出来る。

 

ギルバートの顔から笑みが消え、目標を秘密裏に処理。つまり、暗殺することを伝える。

 

証拠が無いから、裁判も出来ない。だが、限りなくクロ。放置していれば、内部情報が外部に流出してしまう。そうなると残る手は、暗殺しかない。

 

ギルバートは国のトップである為政者として、非合法の手段に出る。

 

「しかし、君だけで遂行するのもさすがに難しい話だ。そこで、諜報部を使う」

「大丈夫なのか?」

「そこは任せてくれたまえ。前段階での仕込みもしなければならない。実行するのは、少々時間が必要でね」

「仕込み?詳しく教えてくれ」

「もちろんだとも。君は、この任務の中心にいるのだからね」

 

そうしてレオハルトはギルバートから『仕込み』の内容を聞き、【プラント最高評議会議長】からの直々の特命を受ける。

 

すべての説明を受けレオハルトが席を立ち部屋を後にしようと歩き始めると、足を止め振り返る。

 

「質問の答えを聞いていなかったな」

「何だったかな?」

「俺を外した理由だ」

「そうだね。君の反応が見たかったから、かな」

 

いつも通りのギルバートの笑みを浮かべながらの答えに、レオハルトは何も言わずに踵を返し部屋を退室する。レオハルトが退室した部屋で、ギルバートはソファから立ち上がり背もたれの椅子に腰掛け背中を預ける。

 

「さて。残念だが、退場してもらおうか」

 

ギルバートは頬杖を付くと、視界の端で片付け忘れていたチェスの駒を見つける。それはポーンの駒。ギルバートはポーンを手に取ると、駒を左手で弄びながら不敵に微笑むのだった。

 

この時からしばらく経ったある日、レオハルトに特命の【極秘任務】実行の指示が出るのだった。

 

 

 

 

 

 

あの日のギルバートとの話があり、レオハルトは今こうしてアプリリウスの港で出港を待っているのだった。

 

レオハルトが時計で時間を確認すると、1005。出港時刻まで10分となっていた。レオハルトは踵を返すと、エリティスへ足を向ける。

 

エリティスの入場口まで来ると、入り口に立っていたのは白服を着た男と黒服の男が立っていた。

 

レオハルトが目を引いたのは、白服の男だった。不自然なことに左手だけ黒の手袋を着け、右目に眼帯をした偉丈夫だった。

 

事前情報からレオハルトは男が何者なのかを理解すると、男たちが敬礼したのを見て答礼する。

 

「お待ちしておりました、リベラント隊長。諜報部所属アイザック・クーロンと申します」

「特務隊、レオハルト・リベラントだ。今回の任務はよろしく頼む」

「いえ、こちらこそ。こちらはエリティス艦長のアサド・クレンスです」

「よろしくお願いします」

「よろしく頼む」

 

挨拶を済ませると、レオハルトはアサドの先導でエリティスの艦内へと足を踏み入れた。

 

アサドを先頭にそのまま艦橋へと向かうと、エリティスは出港準備に入る。アイザックはアサドの後ろの席に腰を下ろすと、レオハルトはアサドの右後方の席に腰を下ろした。

 

「定刻になりました。エリティス、出港します」

 

そして予定していた出港時刻1015になるとレオハルトが受けた【極秘任務】のため、諜報部の人間を引き連れ、出港するのだった。

 

出港してから数時間ほど立つと、レオハルトはアイザックを連れ艦橋を離れ艦内の一室へと向かう。この部屋は一時的にレオハルトの部屋として割り当てられた部屋で、レオハルトの私物が置かれていた。

 

2人は対面式の簡易的なソファに腰掛けると、レオハルトはアタッシュケースに収められていた今回の任務の作戦命令書を取り出す。

 

「大体の作戦概要は理解していると思うが、再度熟読してくれ」

「わかりました」

 

アイザックが命令書を読んでいる間、レオハルトはコーヒーメーカーから2人分のコーヒーを注ぐと、アイザックの目の前に置き、レオハルトも再び腰掛け一口飲んだ。

 

「事前に聞いていた内容と変わりありません」

「今回の作戦は極秘任務だ。表はもちろん、裏にも記録されない完全に秘匿される任務となる」

「承知しております。その点も考慮し、人員を選抜しました。無論、仕込みに参加している人員もです」

 

アイザックは命令書をレオハルトへと返すと、レオハルトは今回の作戦がいかに秘匿されているかを再度説明する。

 

アイザックは小さく頷きつつ、信頼のおける人材を選抜したことを伝える。その答えにレオハルトも満足気に頷くと、書類をアタッシュケースに戻し鍵を掛ける。

 

「現地に到着後は、速やかに作戦を実行したい。ネズミが勘付く前に」

「同感です。向こうも素人ではありません。ふとしたキッカケで気付きかねません」

「作戦開始の合図は周知しているな?」

「分かり易い合図です。問題は無いかと」

 

その言葉を最後に作戦内容の共有が終わり、アイザックは部屋を出ていき艦橋へと戻っていく。

 

レオハルトはそのまま部屋に残り、作戦地域の到着まで身体を休めることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。

 

レオハルトが仮眠から目覚め、目覚ましのシャワーを終え髪を拭いていると艦橋から通信が入る。

 

「リベラント隊長、30分ほどで作戦地域に到着します。艦橋へお願いします」

「わかった。すぐ向かう」

 

オペレータの言葉に応答すると、レオハルトは手早く軍服に着替えると艦橋に向かう。

 

艦橋に到着すると、ちょうどメインモニターに先行していた部隊の指揮官を務めている諜報部隊長バルドリッヒ・ゲヴェールが映し出されていた。

 

「久し振りだな、バル」

「おっと、これは予想外な援軍だ。まさか、ダンナが来るとはな」

 

今回のバルドリッヒの目的は、【ZAFT】脱走者の抹殺。その対象とは、現在の【プラント】の体制や地球連合との和平を不服とし、【ZAFT】脱走兵サトー・ジブラーンをリーダーとした、パトリック・ザラを信奉する集団である。

 

そんなザラ派のサトーをリーダーとした一派が、2人の現在地より3㎞先にある廃棄されたコロニーを根城にしているとの情報があり調査の結果、事実と判断された。

 

今回の任務の重要性を考慮し、諜報部を統括するバルドリッヒ自ら前線へと来たのである。

 

「俺は見届け人だ。手柄は諜報部のものだ」

「おっと、それは悪いな。ダンナも来てくれたことだし、先手を打つためにも早速始めさせてもらうぜ」

「ああ」

 

今回の情報は諜報部が苦心してやっとつかんだ情報のため、レオハルトは出張ることはせずサポートに徹することを伝えるとバルドリッヒは笑みを浮かべる。

 

バルドリッヒとの通信が終わりモニターから姿が消えると、レオハルトはアイザックへと視線を移し小さく頷く。

 

「作戦開始」

「了解。作戦開始」

 

同様にアイザックも頷くと、オペレータに短く指示を出す。

 

「クーロン隊長、艦はコンディションレッドに移行。別命あるまでパイロットはMSで待機」

「了解しました。エリティス、コンディションレッドに移行。各パイロットはコックピットで発進待機」

 

アイザックは再びレオハルトへと視線を戻すと、レオハルトはアイザックと目を合わし次なる指示を出す。

 

レオハルトは指示を出すアイザックを尻目に、椅子から立ち上がると艦橋を後にすると格納庫へと移動。自身もいつでも発進出来るように待機するのだった。

 

 

 

 

 

その頃、バルドリッヒが旗艦としているナスカ級フォン・ゲーテから諜報部所属のシグーが出撃。最後に隊長機としてバルドリッヒの乗機ゲイツも出撃していく。

 

「コロニーより、アンノウン出撃。ジン2、シグー3の混成でゲイツが1機混じっています」

「フォン・ゲーテのMS部隊とは?」

「間もなく接敵します。……戦闘、開始しました」

「始まったか。リベラント隊長、戦闘が開始しました」

 

アイザックが自身のMSのコックピットで待機中のレオハルトへと通信を繋げると、軍服姿のレオハルトがモニターに映し出される。

 

パイロットスーツを着ていないレオハルトを見て、怪訝そうな表情を浮かべるアイザック。その疑問にレオハルトは、一笑に付す。この程度のこと、何の問題も無いのだと。

 

「我々も出撃しよう。友軍を失うわけにはいかないからな」

「同感です。では、お任せします」

「了解した」

 

エリティス格納庫内が慌しくなると、エリティス内のシグーが発進位置へと移動していく。諜報部所属のMSはすべてダークグレーに統一してカラーリングされている。

 

ダークグレーのシグーが出撃していき、最後にレオハルトのJUPPITER(ユピテル)が発進位置につく。

 

「レオハルト・リベラント、出撃する」

 

レオハルトのJUPPITER(ユピテル)が宇宙へと飛び出すと周囲にシグーが集まり、レオハルトからの指示を待つ。

 

「IFFを修正。裏切り者を狩りつくせ」

「はっ!」

 

レオハルトがそう声を掛けると、諜報部のMSは散開。レオハルトもフットペダルを踏み込むと、トップスピードで自身の敵へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

レオハルトたちが出撃したことは、バルドリッヒの旗艦であるフォン・ゲーテも当然ながら察知していた。あまりにも早いレオハルトの出撃に、フォン・ゲーテ艦長から通信が入る。

 

「クーロン隊長。まだ出撃するには早いと思いますが?」

「リベラント隊長はデュランダル議長の特命を受けており、我々もリベラント隊長の指揮下で動いています。申し訳ないが、口出しは無用に願いたい」

 

アイザックに不満の言葉をにべもなくシャットアウトされてか、不満そうな表情を浮かべ通信は終了した。アイザックは不愉快そうに顔を歪める、吐き捨てるように呟いた。

 

「ドライデンめ、腰巾着が」

「まあまあ、そう言わず。彼も彼で、必死なんですよ」

「奴は保身で忙しいようだからな」

 

アサドが苦笑し窘めるように言うと、アイザックから返ってきた厳しい言葉にアサドは再び苦笑する。

 

フォン・ゲーテ艦長を務めるのはエメ・ドライデン。アイザックと同じ白服で、性格はアイザックの様子から分かるように、お世辞にも良いとは言えない。

 

アイザックは不愉快な気持ちを振り払うかのように、モニターに映るリベラント機へと視線を向けるのだった。

 

 

 

 

出撃したレオハルトは真っ直ぐにバルドリッヒへの元へと向かっていた。

 

各所でバルドリッヒ隷下のシグーと、黒一色にカラーリングされたジン・シグーと交戦している。そして同様に、バルドリッヒも黒にカラーリングされたゲイツと交戦状態にあった。

 

交戦中のバルドリッヒも猛スピードで接近中のレオハルトに気付くと、不審げな表情を浮かべる。

 

レオハルトがバルドリッヒの元へと向かっていると、1機のシグーが10時の方角からレオハルトの近くにやってくる。

 

レオハルトはレーダーを一瞬だ確認した次の瞬間、レオハルトは右肩部アーマーから“インティ ビームサーベル”を抜剣しシグーを胴体部分で両断する。

 

「邪魔だ」

「!?」

 

レオハルトが自分の部下を斬り捨てた瞬間を横目で目撃し、驚きで目を見開く。だが、すぐに交戦中であることを思い出し正面へと目を向けるが、先程まで自分が交戦していた黒のゲイツがおらず、別の場所に向かっていることに気付く。

 

「どういう、っ!?」

 

どういうことだと疑問に思うも振り下ろされるビームサーベルに気付き、瞬間的に回避は不可能と判断し“MA-MV03 2連装ビームクロー”で受け止める。

 

両者のビームがぶつかり合い、火花がスパークする。

 

「お前の相手は俺だろう、バルドリッヒ」

「何の真似だ、ダンナ!」

「言っただろう、見届けに来たと。裏切り者の死をな!」

 

ゲイツと現時点の最新鋭機とでは、出力には大きな差がある。徐々に押し込んでいき、レオハルトはゲイツを蹴り飛ばし“高エネルギービームライフル ジェガ”で追撃を加える。

 

バルドリッヒはビームを回避。だが、未だ混乱の極みにあるバルドリッヒは出来る限りの速度で距離を取る。

 

だが、レオハルトは手を緩めない。背部で三つ折りで収納している“ビーム速射砲 ミスラ”を展開し2度引き金を引く。

 

1射目でバルドリッヒの移動を阻害し、2射目で撃墜を図る。だが、何とか避けられる。しかし、そんなことはレオハルトも承知している。こんなアッサリと撃墜出来るなどとは思っていない。

 

引き金を引いた瞬間には、ミスラを収納し操縦桿を押し込みフットペダルを踏み込む。ユピテルの各部バーニアが一斉に火を噴き、あっという間にトップスピードまで到達すると再びインティで斬りかかる。

 

「ちいっ!!」

 

再びビームサーベルとビームクローがぶつかり、火花がスパークする。

 

「ダンナ、俺が裏切り者だと!?どういうことだ!」

「諜報部の内偵、国防事務局の捜査で貴様が裏切り、連合やラウに機密情報を流していたことはわかっている。今回の作戦も貴様が追っていた作戦も、貴様を殺すための餌だ!」

 

ゲイツがパワー負けし、振り下ろされたインティがゲイツの左腕を斬り落とす。吹き飛びつつバーニアで後方へと距離を取るバルドリッヒ。

 

そう、バルドリッヒたちがここにやって来たサトー一派の排除というのも、デュランダルの指示で偽装したもの。すべては、裏切り者と目されるバルドリッヒ・ゲヴェールを抹殺するため。

 

バルドリッヒがサトー一派と思っているのも、諜報部特殊作戦室に所属する隊員である。同じ諜報部とはいえバルドリッヒが騙され順調に事が運んだのも、諜報部内の高い地位にある人間が協力しているからである。

 

「(ちっ!俺の素性がバレた!?どうこの状況をどう切り抜ける!?……待てよ。俺の素性が分かったのなら何故、こんな非合法な手段に出る?何故、裁判をやらない?……なるほど、そういうことか)」

 

バルドリッヒが周囲へと目をやると、すでに自分の部下はすでに全機撃破され、周囲を取り囲むようにして待機している。

 

バルドリッヒは自身の圧倒的不利を悟りビームライフルを投げ捨てると、国際救難チャンネルを使いレオハルトへと呼びかける。

 

「ダンナ、降伏するぜ」

「何?」

「降伏する。本国へ移送してくれ。そして、裁判を要求する」

 

バルドリッヒは自身の素性がバレたのではなく、疑いが濃厚な()()なのだ。明確な証拠があるわけではないのだ。ならば、本国へ移り裁判を行えば勝てることは十分に考えられる。

 

だが、こればかりはバルドリッヒの認識が甘いと言わざるを得なかった。

 

レオハルトはバルドリッヒの言葉には何も答えず、ジェガを投げ捨て一気に距離を詰める。驚きビームライフルを向けるバルドリッヒだったが、呆気なく腕ごと斬り落とされ右手に新たに抜剣したインティでコックピット部分を貫かれる。

 

「裁判など必要無い。貴様はここで死ぬ。それだけだ」

 

コックピット部分を貫かれた衝撃で激しくショートし、火花が散るコックピット内。メットのバイザーも割れ、吐血するバルドリッヒ。

 

急速に失われていく血の影響で薄れていく意識の中で聞こえたレオハルトの声に、バルドリッヒは血に濡れた口を歪ませる。

 

「くそったれが……。初めから、俺を()るつもりだったってことか……」

 

レオハルトがインティを引き抜くと、ゆっくりとした動きで遠ざかっていく。徐々に小さくなっていくレオハルト機を睨み付けながらバルドリッヒは力の限り叫んだ。

 

「ギルバート・デュランダルーーーーーッ!!!」

 

爆散するバルドリッヒ機を見届けると、レオハルトは反転しバルドリッヒの旗艦であるフォン・ゲーテへと向かう。

 

到着すると、フォン・ゲーテの周りをアイザック隷下のシグーが取り囲んでいた。レオハルトを追ってきた残りの機体も、同様にフォン・ゲーテの周囲に展開する。

 

レオハルトが到着すると、すぐにドライデンが慌てた様子で通信をつなげてくる。

 

「リベラント隊長、どういうことなのですか!何故、ゲヴェール隊長を!」

「奴が【プラント】を裏切ったからだ。だから、処分した」

「なっ!?そんな、バカな……!リ、リベラント隊長!私は違います!私は、裏切ってなど!」

 

バルドリッヒが裏切っていたことを伝えると、ドライデンはさらに慌てふためき自身の潔白を訴える。

 

そんなドライデンの言葉を、冷めた表情で聞き流すレオハルト。

 

ドライデンの頭にあるのは、自分の絶対的な身の安全。自分がこれまで築いてきたこれまでのキャリアを奪われないために、この場の全権を持っているであろうレオハルトに訴えかける。

 

「我々はデュランダル議長の特命で動いている。デュランダル議長からは、バルドリッヒ・ゲヴェールの処分という命令しか受けていない」

「で、では、すぐに本国に帰還しましょう」

 

レオハルトのその言葉を聞いて大丈夫だと思ったのか、先程までの慌てた表情から一転して冷静な風を装いレオハルトに帰還を促す。

 

「しかし、バルドリッヒが優秀だったとはいえ、たった1人で出来たかと言えば疑問が残る。奴には協力者がいたのではないか、と」

「た、確かにそうですな」

 

レオハルトが不意に口にした、協力者の存在。そう言われ、確かにとドライデンは考える、確かにバルドリッヒは優秀だった。だが、レオハルトの言う通り1人で出来たかと聞かれると疑問を覚えざるを得ない。

 

「そういえば、貴官はバルドリッヒと近い関係にあったな」

「!! そ、そんなことは。ま、まさか……」

 

レオハルトの呟きにドライデンが否定しようとした時、ドライデンは勘付く。レオハルトは、自分を処分しようとしていると。

 

実際、今回バルドリッヒの作戦に同行しているのも、内定の結果によって分かったバルドリッヒと近い関係にある人間を選抜されている。無論、この件にもデュランダルが一枚噛んでいる。

 

「バルドリッヒ・ゲヴェールの抹殺に成功。だが、フォン・ゲーテの攻撃を受け止むを得ず撃沈、といったところか」

「お止めください、リベラント隊長!私は、裏切ってなどおりません!私は、私は!!」

「貴様が協力者で無かろうと、組織の癌細胞は除かなければいけない。手の施しようがなくなる前に」

 

先程以上に慌てふためき、必死に懇願するドライデン。それはドライデンだけではなく、フォン・ゲーテの艦橋にいた人間も同様だった。

 

だが、レオハルトは冷酷に淡々と命令を下す。

 

「沈めろ」

「はっ!!」

 

レオハルトが短くそう告げると、フォン・ゲーテの周囲で待機していたMSが一斉にフォン・ゲーテに攻撃を加える。

 

至近距離で攻撃されたナスカ級に成す術などあるはずもなく、あっさりと大爆発を起こし轟沈する。

 

その時、黒のゲイツがレオハルトに近付いてくると、通信をつなげる。

 

「初めまして。今回、仕込みを担当したアーネスト・ラザフォードと申します」

「任務ご苦労。施設を放棄し、本国に帰還する」

「はっ!」

 

今回、偽装部隊を率いたのは諜報部特殊作戦室アーネスト・ラザフォード。

 

レオハルトの指示を受けアーネストは部隊をまとめると、廃棄コロニーへと向かい施設の放棄に移る。

 

そして、レオハルトはエリティスへと帰投。施設の放棄を終えたアーネスト率いる部隊と合流し、本国に進路を取るのだった。

 

 




今話の投稿、そして加筆・修正を行った理由として、今になって物凄い違和感を覚えたからです。

命令に忠実な男が、疑惑を覚えたからと言って独断で手を下すだろうか?と。

そう考えたとき、それは無いな、と思いました。
ということで、今回の作業を行いました。

お叱りの言葉もあるかと思います。
改めてお詫び申し上げます。

そして、更新が全く無いのに感想も送って頂いて、ありがとうございます。
返信を出来ていないのですが、送って頂いた感想が声援のお言葉だったので、非常に嬉しく思っております。

そのお言葉も、投稿の後押しとなりました。
ありがとうございます。

完結までまだまだ程遠い作品ではありますが、気長にお待ち頂けたらと思います。

完結はさせたいと思っておりますので、よろしくお願い致します。


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