ハイスクールG×A   作:まゆはちブラック

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――――これから30分、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入って行くのです……

       『ウルトラQ』ナレーションより







守護獣 ルクー 登場!


第八章 悲鳴あげる大地
第46話「遠い町・ウクバール」


駒王町から遠い位置に存在する町。

水が溜まった大きな囲い中心に噴水がある公園では、今日も通り行く者や楽しげに遊ぶ親子と子供達で賑わっていた。

 

そして、そんな公園の端にあるベンチで鳩の群れにエサをやる男性もいた。

彼の名は永田。この町にある宅配会社『らくだ便』で長年配送人の仕事をやっているごく普通の中年男性だ。

今日も休日の日課である公園に集まる鳩にエサを与えていた。

 

 

永田「…?」

 

「パパパパパ…」

 

 

エサに食い付く鳩を見てにこやかに微笑んでいた永田はふと空を見上げると、エサをやる手を止めた。

透明ではあるが、とんがった頭部に目の部分には風車の様に回転している赤い部位、尻尾が生えている奇妙な怪獣が空から静かに佇んでいたからだ。

怪獣は永田にしか見えておらず、その証拠に周りの人々は驚く様子もなく過ごしている。

 

普通、畏怖の存在である怪獣を見たら騒ぎ立てるであろう。

しかし、永田は逆に微笑んだ。その顔は家中を掃除していたら思い出の品が見つかった時の様に懐かしんでいるものだ。

 

惹き付けられる様に永田は自然と立ち上がり、一歩前へ出る。鳩が驚いて飛び立っていく中、永田は

 

 

永田「ルクー……」

 

ルクー「パパパパパ……」

 

 

怪獣の名を懐かしげに呟く。その怪獣、『ルクー』は何も答えず、目の部分をクルクルと回すだけだ。

 

懐かしさで明るい顔を浮かべていた永田だが、次第に曇らせていく。

 

 

永田「俺、帰り道がわからなくなってしまったんだ…」

 

スゥゥゥ…

 

 

永田の悲しげな声に応える様にルクーはうっすらと消えると、代わりに雲の塊が現れる。

 

 

ポォォォォ……

 

 

そして、雲が左右に別れると宙に佇む空中都市が顔を見せた。

お椀型の海に浮かぶ円形の孤島…。

カラカラと音をたてながら回る宙に浮かぶ風車…。

建ち並ぶ塔には階段がなく、梯子がかけられており、山の頂点にはルクーが静かに佇んでいる…。

 

 

永田「ウクバール…!」

 

 

永田はその幻想的な都市の名を嬉しげに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後――――。日本のとある地方にある廃屋に我夢とチームハーキュリーズの吉田はいた。

調査……というよりも純粋な疑問で来ており、2人とも疑問に満ちた顔を浮かべていた。

 

我夢が外に停めてある車の傍で待っている中、吉田は蜘蛛の巣だらけで腐敗した木片やら古びた家具が散乱しており、如何にも廃墟だ。

 

3日前の奇妙な体験をした上、ここに訪れた吉田は、後にこう語ったという…。

 

 

―――あの永田という名の男は、この世に生まれてから、ずっと……長い長い夢を見ていたのだろうか…?

 

―――それとも、永田の言っていたことは全て本当のことだったのだろうか……?

 

 

そして、時は3日前に遡る…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――3日前。夜に包まれた町を吉田と幼馴染みの男、庄司(しょうじ)は千鳥足で歩いていた。吉田はさほど酔ってはないが庄司の方は酷く酔っ払っており、顔が真っ赤で補助がなければまともに歩けないぐらいだ。

 

 

庄司「大体ねぇ~、よっちゃんは滅多に遊んでくれねぇから…!ひっく!真っ赤な顔しやがってぇ…」

 

吉田「ポストだよ、ポスト」

 

庄司「わかってんだよぉ~……。お!お嬢さんね。俺の幼馴染みのよっちゃんはね、チームハーキュリーズのリーダーなんだよぉ~!」

 

吉田「はいはい、酔っ払ってるもんすからね!すみませんね!」

 

庄司「せんしゃ転がすんだよ!せんしゃ!」

 

 

戸惑う通行人に吉田は謝罪しつつ、未だ話しかけようとする庄司の脇を抱えてそそくさと退散する。

 

そして、数分後。庄司が落ち着いたのを見計らった吉田は都内のおでん屋台に足を運んだ。

 

 

「はいよ」

 

吉田「どうも。へへっ!」

 

 

注文した煮卵としらたき、大根を受け取った吉田は美味しそうに頬を緩ませる。少し肌寒くなったこの季節に食べるおでんは格別だ。

 

吉田はおでんを頬張りながら隣でチビチビとグラスに入った水を飲む庄司にニヤリと笑いながら目をやる。

 

 

吉田「おい。お前、またオーディションに落っこちたろ?それであれだろ?落ち込んでんだろ?」

 

庄司「ちっ!ああ…俺はもう役者の卵なんだよ?そんぐらいでへこむかよ、バカヤロー……」

 

吉田「でもよぉ。何かあったんだろ?」

 

 

吉田が訊ねると、庄司はグイッとグラス内の水を喉へ注ぎ込むと、グラスをテーブルへ置き

 

 

庄司「……あぁ、あった」

 

 

ハッキリと告げる。しかし、もったいぶっているのか、中々本題を話そうとはしない。

 

普段なら言いたがらないのは余程ひどいことがあったのかと察して追及しないだろうが、吉田は酒が回っている影響なのか気になり、しつこく問い詰めることにした。

 

 

吉田「言え。言えよ、正直に言っちまいなよ」

 

庄司「…分かったよ……言うよぉ…」

 

 

吉田のしつこさに負けた庄司は口を開き直すと、話し始めた。

 

 

庄司「実はよぉ……俺、1日トラックに乗ってたんだよ。宇宙人と」

 

吉田「………っ?宇宙人と?」

 

 

飛び出た予想外の単語に吉田は口へ運ぶ箸の手を止め、訝しげな顔を浮かべると、庄司は

 

 

庄司「今日、俺ぇ、宅配便のバイトを始めたんだけどさぁ……」

 

 

そう言って、今日1日の出来事を思い出していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝10時。庄司は通りすがる宅配業者の人達に軽く挨拶をしながら事務所へと駆け込むと、ピシリと姿勢を正し

 

 

庄司「あ、おはようございます!今日から働くことになりました!あの、庄司ですけど!」

 

 

元気よく大声で挨拶すると、その声に気付いた担当者らしき眼鏡をかけたにこやかな中年男性がオフィスの奥から歩いてくる。

 

 

「おお、新人か!元気いいなぁ~」

 

庄司「あざっす!」

 

 

誉められた庄司は素直にペコペコと頭を下げると、担当者と一緒に近くの机に広げた書類に目を通す。

 

 

「ええっとねぇ……」

 

庄司「はい!」

 

「それじゃあ、あんた。永田と一緒に回ってもらおうか。永田は“配送一筋25年”のベテランだからね。心配ないよ!」

 

庄司「はぁ…」

 

「日笠さん。ユニフォーム」

 

「はい」

 

 

庄司が頷くのを確認した担当者はデスクワークをする女性の事務員に声をかける。

事務員からユニフォーム一色を受け取った担当者は満面の笑みで庄司に手渡す。

 

 

「じゃあ、これに着替えてな」

 

庄司「はい」

 

 

受け取った庄司は笑顔で頷く。

今日から始める宅配便のバイトに胸を踊らせていると、

 

 

日笠「私、知りませんから…」

 

「っ」

 

庄司「?」

 

 

女性の事務員の意味深な呟きに笑みを止め、首を傾げる。

よほど社内では悪い話なのか、担当者は余計なことは言うなと諌める様に視線を注いでいる。

 

 

庄司「あ、あの、永田さんですよね?」

 

「…っ、うん!大丈夫だから!」

 

 

困惑する庄司の問い掛けに担当者はぎこちない笑顔で答える。

 

――――大丈夫、大丈夫というが仕事についてだろうか?それとも永田の性格?

庄司は疑問に思いながら、ユニフォームを手に更衣室へ着替えにいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着替えた庄司は外に出ると、さっそく永田がいる配達区域に着き、会話している2人組の男を見つけた。

その片方、スラッとして肉付きのよい永田らしき人物だろうと判断した庄司は帽子を外して挨拶をする。

 

 

庄司「おはようございます!あの、今日から入りました庄司です!よろしくお願いします!」

 

 

2人はうんうんと頷いて答えると、庄司はさっそく永田であろう男に本人確認する。

 

 

庄司「あの、永田さんですか?」

 

「いや。俺、清水」

 

庄司「へ?」

 

「いや。俺、梶」

 

 

隣にいる男にも違うと言われ、庄司は困惑する。

確かにここにいると聞いた筈なのだが…。

 

 

庄司「あの~…永田さんは?」

 

清水「永田……居たっけ?そんな奴」

 

梶「永田ねぇ……」

 

 

顔を見合わせる2人だが、わからないと首をひねる。

 

 

庄司「あの……配達25年のベテラン……」

 

梶「あっ、ウクバールだ!ウクバール!」

 

清水「あっ、ウクバールか。『ウクバール永田』!あぁ~…」

 

 

戸惑う庄司の呟きに思い出した梶は声をあげると、清水も思い出し、続けて声をあげる。

 

 

庄司「『ウクバール永田』。外国の人ですか?」

 

 

庄司がそう訊くと清水は「甘いな~」とニヤリと笑みを浮かべると、ペンで指差し

 

 

清水「外国なんてもんじゃない。宇宙。宇宙の人…!」

 

庄司「は、はぁ…」

 

梶「ほら、あそこにいるよぉ~」

 

 

顔を近付けて言われ、苦笑する庄司に梶は悪戯げな笑みで指差す。

庄司はその指先の方へ顔を向けると、そこには段ボールの山に囲まれ、背もたれのないパイプ椅子に座る中年男性――永田がほやほやとした顔で空を眺めながら水筒のお茶を飲んで休憩していた。

 

永田を見る庄司に清水と梶は呆れた顔を浮かべ

 

 

清水「あいつな、自分は宇宙のどこかにある『ウクバール』って町から来たと思い込んでんだよ」

 

梶「馬鹿馬鹿しいよな~」

 

庄司「ははは…」

 

 

その話を聞いた庄司は苦笑しつつ、どうして事務員の女性が言っていた意味を理解した。つまり、永田は頭お花畑な人らしい。

 

 

永田「…っ」

 

 

と、そんなことを考えていると、庄司の視線に気付いた永田は笑顔でペコリと軽くお辞儀する。

 

 

庄司「ははっ…」

 

 

庄司もぎこちない笑顔でお辞儀を返すと、清水はポンと庄司の肩に手を置き

 

 

清水「…まあ、覚悟するんだな。お前も今日1日聞かされるぜ、ウクバールの話」

 

 

そんな哀れみの言葉をかけられながら、庄司の初バイトは始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不安を残しつつも、庄司は永田が運転するトラックに乗り、仕事を開始した。

永田は流石ベテランとあり、特に問題もなく順調に進んでいったが…

 

 

永田「ウクバールという町ではね、いつも風が吹いているんだよ。空には大きな塔や小さな塔がいくつも浮かんでる。そして、その塔のてっぺんにはな、黄色い風車がカラカラ音を立てて回っているんだよ」

 

庄司「はは…」

 

 

トラックでの移動中…。

 

 

永田「ウクバールの町にはね、階段というものはないんだよ」

 

庄司「いいっすね!そりゃあ~!」

 

永田「でも、ほら。沢山の塔が空に浮かんでいるだろう?だから、塔のてっぺんに登るにはね、長い梯子をかけなきゃならないんだ」

 

 

マンションの配達中…と、仕事の合間合間に庄司は延々と永田の話を聞かされていた。

庄司は先輩である永田に無礼なマネをする訳にもいかず、愛想よく受け答えするが、道中の人々に変な視線を感じられずにはいられなかった。

 

そして、ひと通り作業を終えた2人は河川敷で休憩した。

配達ですっかりくたびれた庄司は缶コーヒーをグイッと飲んで一息つき、

 

 

庄司「あぁ~…!いやぁ~~よく続くよね、おっちゃんも!俺なんかさぁ、足とか腰とかバキバキでボキボキで痛くてしょうがねぇよ」

 

永田「ははははっ」

 

庄司「おっちゃんキツくない?」

 

 

庄司はニコニコと笑う永田にそう問いかけると、永田は1拍あけ

 

 

永田「ああ……。でもなぁ、田舎からのりんごやみかんを届けてやると、みんなが喜んでくれるじゃないか。やりがいのある仕事だと思うよ」

 

庄司「へぇ~…」

 

 

その言葉に庄司はうんうんと頷きつつ、彼のことを考え直した。変わり者だろうが、仕事に誇りを持っている真面目な人なんだと…。

 

 

永田「それになぁ!俺が気に入っている理由がもう1つあるんだ!」

 

庄司「えっ!何よ、何?」

 

 

永田の仕事熱心さに感動した庄司は胸を踊らせながら尋ねるが、すぐに消え去ることとなる。

 

 

永田「こうやって車で色んな町を回っているとさ、いつかウクバールに帰る道が見つかるかもしれないじゃないか」

 

庄司「ああ…」

 

永田「だって、そうだろう?俺がこうして地球にいるってことはさ、ウクバールとこの世界がどっかで繋がっているってことだろ?」

 

 

それを聞いた庄司は笑みが消える。先程まで彼へ対する認識を撤廃し、やっぱり変わり者なんだとガックリする。

 

 

永田「さあ、行こうか」

 

庄司「…」

 

 

そう言って荷物を片付け、トラックに乗る永田を庄司は呆れた顔で眺めるのだった。

再開した作業でも…

 

 

永田「ウクバールの町にはね、いつも風が吹いているんだよ」

 

庄司「はいはい…」

 

永田「ウクバールの町はね、時たま大きな雲の中に入ってしまう時があるんだよ」

 

庄司「…」

 

永田「その上、ウクバールの町にはね、楽団もあるんだよ。あのね、太鼓やね、笛がね―――」

 

庄司「……」

 

永田「そして、ウクバールの町にはね、西風が吹くとね、サーカスがやってくるんだよ。このサーカスがまた凄くてね~…」

 

庄司「………」

 

永田「でね、ウクバールの町にはね―――」

 

 

相変わらず仕事の合間合間に楽しそうに話しかけてくる。そんな調子で話しかけてくるので、さすがに庄司もうんざりとしており、最初こそは適当に返していたが、終いには返事すらしなくなっていた。

 

そんなこんなで時間はあっという間に過ぎ、夕方に差し掛かっていた。

 

 

庄司「ええ!?もう5時!?」

 

 

永田が運転するトラックに揺られる中、庄司は手元の時計を見て目を丸くする。永田の空想話を延々と聞かされながらコツコツと作業をしていたので、もっと若い時間かと思っていたからだ。

 

それに対し、永田はニコニコしながら口を開き

 

 

永田「ウクバールには時計というもんがないんだ。だから夕方なるとね、大きなサイレンが鳴るんだよ。するとね、大人は仕事を止めて、子供は遊ぶのを止めて、みんな家に帰るんだよ」

 

庄司「はぁ…」

 

 

またもや語るウクバールの話に庄司はため息をつく。

口を開けばウクバール、ウクバールと話をするものだから庄司は心身共に疲れ果て、もう何とも言えなかった。

永田は続けて

 

 

永田「ウクバールはどっかにあるんだ……。だって、俺の故郷なんだから…」

 

 

目を爛々と光らせながら語る。

現実のしがらみで上手くいかない自分と相反して幻想に囚われている永田に庄司はくたびれた顔でぼそっと呟く。

 

 

庄司「あるある……ウクバールはあるよ……。おっちゃんの()()()にな…」

 

永田「……え?」

 

 

その心無い呟きに永田は振り向く。

先程まであった笑顔が一瞬で消え去り、目を見開いた。

本当にあると信じる永田には充分ショックであり、固まってしまった。

 

しかし、最低だが言うタイミングを間違えただろう。

彼らが乗るトラックのハンドルを握っているのは永田であり、ショックで固まったまま運転している……よそ見運転という危ない状態だ。

 

 

庄司「…ん?あっ!?おっちゃん!」

 

 

当然、よそ見したせいでトラックは意図しない場所へ突っ込む。立ち入り禁止のコーンを吹っ飛ばし、地蔵へ突っ込もうとしていた。

 

 

庄司「わあぁぁぁーーっ!!」

 

永田「!?」

 

キキキィィィ~~~!!

 

 

庄司の悲鳴で気を取り戻した永田はブレーキを踏み、間一髪のところでトラックは停まり、大事故には至らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。屋台から離れ、近くのフェンスに吉田は夜空を眺めつつ、顔を俯かせ芝生に座る庄司の話を聞いていた。

 

 

庄司「俺ェ、馬鹿なこと言っちゃったかなぁ……」

 

 

全てを話した庄司はそう呟き、ふぅ…と嘆息する。

いくら変人とはいえど、自分と同じ人間。好きなものを馬鹿にされたら傷付くのは庄司にもわかっていた筈なのに…。

 

すると、夜空を見上げた庄司はフェンスに乗り、

 

 

庄司「おっちゃーーんっ!!駄目だよ、ウクバールなんて夢見てるだけじゃ!人間っていうのはね!“現実”と向き合って生きなきゃ!!“現実”だぜ、大事なのはーーっ…!!!

 

 

大声で夜空に向かって虚しく叫んだ。永田に聞こえていようがあるまいが、吐き出さられずにはいられなかった。

役者になるという夢が叶えられず辛い日々を送る庄司には、さめない夢を見続けている永田が哀れであり、同時に羨ましくもあったのだ。

 

その声に反応した周りの人の視線も気にも止めず叫び終えると、庄司はフェンスから離れ、くたびれた様子でどっかりと座った。腹の底から思いっきり叫んだせいで息を荒くする。

 

 

庄司「はぁ…はぁ…」

 

吉田「大丈夫か?」

 

 

心配そうに声をかける吉田に心配ないと頷くと、庄司は閃いた様に口を開けると

 

 

庄司「あ、そうだ…。よっちゃん、XIGだろ?」

 

吉田「ああ」

 

庄司「証明してやってくれよ、おっちゃんにさぁ……」

 

吉田「証明って何を…?」

 

庄司「…だから、おっちゃんが“地球人”だってことだよ」

 

吉田「えぇ?」

 

 

唐突の依頼に吉田は苦笑する。変わり者の人間にそこまで大層なことをする必要があるのか吉田にはわからなかった。

困惑する吉田に庄司は

 

 

庄司「…だって、自分が地球人だってことがわかればさ……あぁ、そうだよ、うん……おっちゃんもウクバールのことなんて忘れて、現実と向き合って……現実なんだよぉ…大事なのは……

 

吉田「おい」

 

 

そう語るが、次第に声が小さくなっていき、最終的にはその場で眠ってしまった。

吉田が声をかけながら肩を軽く叩いても全く起きる気配がない。

 

こんな場所でよく眠れるなと吉田は呆れつつ、夜空を眺める。暗闇のヴェールに包まれた空には数多の星々が煌めいている。

 

 

吉田「ウクバールねぇ…」

 

 

吉田は空に浮かぶという都市の名を不思議そうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、アパートに戻った永田は居間で腕を組み、黙々と考え込んでいた。

 

 

(庄司「ウクバールはあるよ……。おっちゃんの()()()にな…」)

 

永田「…」

 

 

永田は庄司に言われたことを思い出す。言われた時は信じられず思わず固まってしまったが、よくよく考えてみれば、何故自分しかウクバールが見えず、誰も知らないのかと疑問に思うと、1つの結論に至る。

 

 

永田「ひょっとして……ウクバールはどこにも無いんじゃないのか…?」

 

 

永田は今までの人生を振り返りつつ思う。

――25年近く探しても…………探しても…………。ウクバールの町が見つからないのは、あの町が自分の頭の中にしかないからじゃないかと……。

 

 

ジリリリリ…!

 

永田「…っ!」

 

 

そう思った矢先、突然黒電話が鳴り響く。時刻はもう11時に迫っており、電話をかけるにしては充分遅い時間帯だ。

夜分遅いのに誰だろう?と怪訝に思いつつ、永田は受話器を取る。

 

 

永田「はい、もしもし?」

 

 

永田が応答した瞬間、受話器から返ってきたのは声でなく環境音だった。

ヒュウウゥゥーーと心地よい風を受け、カラカラと音を立てて回る風車の音………。

その音を耳にした瞬間、永田は自然と笑顔になった。

 

 

永田「ウクバールだ…!ウクバールの風の音だ…!」

 

 

空想と思っていた故郷の音…。故郷に想いを馳せる永田は受話器から音が途切れるまで聞き続けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして3日後。チームハーキュリーズ、我夢、一誠らは汗だくでエリアルベースのトレーニングルームにある筋トレ器具でトレーニングに励んでいた。

ここ最近の2人はパワーアップの基礎中の基礎である体を鍛える為、ハーキュリーズのトレーニングにご一緒させてもらってるのだ。

 

吉田の話にチェストプレスで鍛えていた我夢と一誠は手を止める。

 

 

我夢「地球人の…証明ですか?」

 

一誠「…?地球人ってことは…」

 

志摩「そこ2人、さりげなくサボるな…」

 

「「ははっ!」」

 

 

考え込む2人だが、ぜぇぜぇと息をつく志摩に魂胆がバレ、筋トレを再開する。

 

 

桑原「物事の基本は…!体力~~っ!!」

 

 

そんな2人を尻目に桑原は力を込めてバーベルを思いっきり持ち上げていると、向こうでトレーニングしていた吉田がタオルで溢れ出る汗を拭いながら近寄る。

 

 

吉田「どうだ、桑原?知恵はないか?」

 

桑原「俺っすか?いやぁ~~俺ぁ、物心ついた時から何となく地球人だったし…」

 

吉田「おい、お前は?」

 

志摩「おお、俺も誰かから“地球人だーー!”って、教わったこともないし……。いや、たまにね……人間離れしてるって言われることは…あるんですけど……」

 

一誠「そりゃ、堕天使だから、当たり前でしょ…!」

 

志摩「へへっ、そうだな…!」

 

 

志摩のさりげないボケに一誠はツッコむ。

 

 

吉田「他ならぬ、幼馴染みの頼みだからな。何とか力になりたいんだが~…!!」

 

 

吉田はチェストプレスで鍛えながら、どうにかせんと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

志摩「天使サイドの調査でも、ウクバールなんて都市なかったらしいし、そもそも聞いたこともないって言うし…」

 

吉田「うぅむ…」

 

 

筋トレを終えたシャワーを浴びた一同は火照った体を更衣室で冷ましていた。

一誠は濡れた髪をタオルで拭いていると、我夢が電子辞書の様な小型デバイスで何かを調べているのに気付いた。

 

 

一誠「何やってんだ?」

 

我夢「その、永田さんって人の生まれた家を見つけているんだよ。生まれ育った家を思い出せば、永田さんも地球人だって納得してくれるかもしれないから…」

 

「「「「あぁ~~なるほど~~…」」」」

 

 

我夢の説明を聞き、一誠とハーキュリーズの3人は口を揃えて納得する。

納得するかはともかく、証拠ないのとあるのでは全く信憑性が違うものだ。

 

 

我夢「あっ!あった!」

 

 

そうしていると、数十秒も経たないうちに永田の家を発見した。

吉田は画面を覗きこみ、住所を読む上げる。

 

 

吉田「T都M市…?」

 

我夢「あっ!この家、空き家になったまま、今も残ってますよ」

 

桑原「本当だ…」

 

 

永田が地球人という証拠を見つけた吉田はさっそくT都M市にある永田が生まれ育った家へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。出勤した庄司はいつもの様に事務所へ足を運ぶが…

 

 

庄司「え?永田さん休み?」

 

「そうなんだよぉ~」

 

 

担当者によると、永田は無断欠勤しており、連絡すらもつかないそうだ。永田は25年間休んだことがないので今回の様なケースは初めてだと驚いたという。

 

それを聞いた庄司は胸騒ぎがした。

自分が言ったことで深く心を痛め、自殺に至ったのではと…。

 

 

庄司「すみません!俺、様子見てきます!」

 

「あ!?おいっ!」

 

 

青ざめた庄司は居ても立ってもいられず、事務所を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、吉田は我夢が探し出した住所を元に永田の生家へ訪れていた。

 

 

キィッ…

 

吉田「…」

 

 

車を停め、吉田は外に出ると、前方に建つ永田の生家を眺める。

何年も放置されていたのか家は既に朽ち果てて、廃墟となっていた。

 

吉田は廃屋に入り、調査を開始した。

外観だけでなく中も荒れ果てており、クモの巣や埃やこけ、木材の腐敗があちこち発生しており、辛うじて家の原型を留めているのががやっとといえる状態だった。

 

 

吉田「?」

 

 

その最中、廊下を歩いていた吉田は柱に何かが刻まれているのを見つけた。

それは子供の頃の永田の7歳~12歳までの身長を刻んだものだった。

 

その上を吉田は擦り

 

 

吉田「やっぱり地球人だよなぁ…」

 

 

と呟く。ここで少なくとも幼い時に過ごした痕跡が残っているのだから、永田が地球人であるのは間違いないだろう。

 

 

ピピッ…!

 

 

そんなことを考えていると、XIGナビから通知音が鳴る。

 

 

吉田「はい、こちら吉田」

 

我夢「吉田さん。ポイント2-2-6のN1付近の磁場に微かに歪みが生じています」

 

吉田「どうした?」

 

我夢「偶然だと思うんですが、ポイントの中心に現在、永田さんが住んでいるアパートがあるんです」

 

 

幻想に囚われている永田が住んでいる場所に磁場…。

もしかしたら、これは偶然ではないのかもしれない。

 

 

吉田「わかった!すぐ現場に向かう!」

 

 

吉田はそう言って通信を切ると、すぐさま車で永田のアパートへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中、同じ永田のもとへ向かおうとしている庄司と偶然出会い、2人は彼の住むアパートに到着した。

車を停め、吉田と庄司は外に出ると、アパートの階段を上っていく。

 

 

吉田「お前、来ないでいいから!」

 

庄司「そうはいくかよ!」

 

 

一歩も引く気がない庄司に吉田は嘆息しながら進んでいくと、永田の住む2階の部屋の前に着いた。

 

 

コンコン…

 

吉田「永田さん?永田さんっ!」

 

 

ドアをノックして呼び掛けるが一向に返事が返ってこない。

怪訝に思った吉田はドアノブを引っ張ると

 

 

吉田「開いてる…!」

 

庄司「…っ!」

 

 

ドアは施錠されておらず、何の抵抗もなく開かれた。

吉田と庄司は顔を見合わせると、永田の部屋へ駆け込む。

 

玄関からそのまま居間へ進むと、永田が大の字で倒れていた。

 

 

吉田「永田さんっ!?」

 

庄司「おっちゃん!おっちゃん!目ェ開けろよ、おっちゃんっ!!おっちゃんっ!!」

 

 

その光景に一瞬で青ざめた庄司は声をかけながら肩を揺さぶる。だが、永田は一向に起きる気配がしない。

まさか死んだのでは…?最悪なケースが脳裏に浮かんでいると

 

 

吉田「おいっ」

 

庄司「ん?」

 

 

そう言った吉田に腕でグイッと後方へ引き離される。

吉田は永田の胸元に耳を当てて心臓の鼓動音を確認すると、心臓はドクンドクンと健康なリズムを刻んでいた。

 

 

吉田「大丈夫だ。眠ってるよ」

 

庄司「眠ってる…?」

 

吉田「ああ、庄司。あの毛布取ってくれ」

 

庄司「わかった」

 

 

吉田のひと声に落ち着いた庄司は襖から毛布を取り、吉田へ手渡した瞬間、

 

 

永田「……う~ん」

 

「「!」」

 

 

永田はパチリと瞼を開け、目を覚ました。

彼の目覚めに2人は安堵していると、永田は寝そべったまま2人を見上げ

 

 

永田「……夢を見た……ルクーが迎えに来てくれんだよ…」

 

吉田「ルクー?」

 

庄司「?」

 

 

楽しげにそう言うと、吉田と庄司は何だそれ?と顔を見合わせる。

ルクーが何者だとしても、まだ夢と現実の区別が出来ないのは寝ぼけているからだろうか?

 

 

永田「俺、ウクバールに帰るんだ」

 

庄司「おっちゃん、しっかりしろよ…。それ、夢なんだよ……」

 

永田「あるんだよ、あの町は。ほら!ウクバールの風の音が聞こえる」

 

 

呆れる庄司にそう言いつつ、永田は吉田に黒電話の受話器を手渡す。

 

庄司はチラリと床を見ると、黒電話から伸びる電話線は切れていた。

嘆息をついた庄司は「何でわかんねぇんだよ…」と苛立ちながら、永田の肩を掴みかかり

 

 

庄司「いいか、おっちゃんっ!ルクーなんていないし、ウクバールなんて町はっ…!そんな町は、どこにもねぇんだよっ!!」

 

 

肩を揺らして哀れみを込めて叫ぶが、永田は相変わらずニコニコしており、庄司の叫びが耳に入っていない。

 

 

吉田「…っ、庄司!」

 

庄司「…え?」

 

 

すると、隣で受話器を耳に当てていた吉田に呼び掛けられる。吉田は何があったのか大きく目を見開いていた。

庄司は吉田から差し出される受話器に耳を近付けた。

すると、

 

 

ヒュウウゥゥゥゥーーーー…

 

 

と風の音と風に揺られてカラカラと音を鳴らす風車の音が聞こえてきた。

目を見開いた庄司はもう1度電話線を見るが、電話線は相変わらず切れたままだ。

 

 

庄司「嘘だろ…!?」

 

 

庄司は言葉を失う。電話線は確かに切れていた。

しかし、現に音が聞こえている。受話器や黒電話自体に細工をした形跡もない。

 

――ウクバールは実在するのか!?と2人が呆気にとられていると、

 

 

カァン!

 

「「?」」

 

 

突然窓に何かが当たる音が聞こえ、2人は振り向く。

窓には突如吹いてきた強風によって吹き飛ばされた桶がへばりついており、窓もカタカタ揺れている。

遠くから響く風鳴りは受話器から聞こえる環境音すらも解き消す程ますます大きくなっていく。

 

 

カラカラカラカラ…!

 

「「…!?」」

 

 

しかも窓が開いていないのにも関わらず、室内の風車は激しく回り始める。吉田と庄司が怪訝に思う中、満面の笑みを浮かべる永田は窓に向かって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永田「ルクーーーー!!」

 

パリィィィィンッッ!!

 

 

そう叫んだ瞬間、現実と夢の狭間を壊す様に窓は突風で粉々に吹き飛ぶ。

飛んで来るガラスの破片に吉田達は身を屈める。

破片の雨が静まり、吉田と庄司は割れた窓から恐る恐る町を見ると

 

 

ルクー「パパパパパ……」

 

「「!?」」

 

永田「ルクー!」

 

 

ルクーが目の部分にある風車の様な赤い部位を回転させながら静かに町へ佇んでいた。

吉田と庄司が驚く中、永田は嬉しそうに頬を緩める。

 

 

吉田「こちら吉田!ポイント2-2-6 N1に怪獣が出現!」

 

庄司「おっちゃん!?」

 

 

吉田はXIGナビで連絡を取っていると、目を爛々と輝かせた永田が家から駆け出していた。

庄司は急いでその後を追う。

 

 

『わぁぁぁーーーーー!!』

 

永田「ルクー!」

 

庄司「おっちゃん!」

 

 

逃げ惑う人々の間を駆け抜け、永田は親へ駆け寄る幼子の様にルクーの元へ走っていく。

庄司は必死に追うが、避難でこちらへ向かってくる人々のせいで中々前へ進めず、距離の差が埋まるどころかどんどん離れていく。

 

 

ルクー「パパパパパ……」

 

シャンッ…シャンッ…

 

 

ルクーは永田の声が届いたのか方向を変えると、永田のいる方へシンバルの様な足音を立てながらゆっくり歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、吉田も町中走り回って、行方が掴めなくなった永田を探していた。

 

 

吉田「(あの怪獣は本当にウクバールから来たのか?永田という男は一体…)」

 

 

吉田は疑問に思っていた。永田は地球人であり、空にあるというウクバールなんていうのも存在せず、全て彼の空想の産物である。

しかし、電話線が繋がっていない黒電話からウクバールの音が聞こえ、今まさに現実に怪獣ルクーは現れた。

本当に彼の空想なのかと…。

 

 

庄司「おっちゃぁぁーーーーーんっ!!」

 

 

庄司も別の場所で走り回って探すが、永田は一向に見つからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルクー「パパパパパ…」

 

シャンッ…シャンッ…

 

 

その間にもルクーはゆっくりゆっくりと町中を歩いていく。周りの空気は幻想の様にぼやけており、ルクーが実像かはたまた幻かと惑わせる様に漂っている…。

 

 

キィンッ!

 

ポワンッ!

 

 

そこへ我夢が変身したガイアと一誠が変身したダイナが光と共に颯爽と現れる。

 

 

ガイア「グアッ!」

 

ダイナ「ハッ!」

 

 

素早く身構えるガイアとダイナ。

しかし、

 

 

ルクー「パパパパパ…」

 

シャンッ…シャンッ…

 

「「?」」

 

 

ルクーは2人が眼中にない…それどころか視界にすら映っていないのか、ペースを変えずゆっくりと歩き続ける。

 

 

ガイア「デュアッ!」

 

ダイナ「デュッ!」

 

 

首を傾げる2人だが、気を引き締めると、ルクーの目前へ出て、止めにかかるが

 

 

ガイア「デュ!?グアァァッ…!」

 

ダイナ「グァァ…ッ!?」

 

 

ルクーは全く微動だにもせず、抑えるどころか逆に押されてしまう。足に力を入れて踏ん張るが、ズザザザザ…と地面の擦れる音が鳴るだけで押されるばかりだ。

 

 

ルクー「パパパパパ…」

 

シャンッ…シャンッ…

 

 

2人の妨害を受けてもルクーは気にも止めず突き進む。

シンバルの様な足音を響かせ、永田の元へと…。

 

 

永田「ルクー!ルクー!」

 

 

同じ頃、永田もルクーに会うため、展望台の階段を急いで駆け上がる。

待ちわびた様にはしゃぐ永田は迎えにきたルクーの名を呼びながら。

 

 

ルクー「パパパパパ…」

 

ブンッッ!!

 

ガイア「デュアッッ!?」

 

ダイナ「グアッ!?」

 

 

自分を呼ぶ声が届いたのか、ルクーは両腕を振り払ってガイアとダイナを吹っ飛ばす。

振り払われた2人は宙で1回転しながら背中から地面に叩きつけられる。

 

 

ルクー「パパパパパ…」

 

シャンッ…シャンッ…

 

 

邪魔者がいなくなったルクーは永田の元へ行こうと、ゆっくりゆっくり歩き続ける。

 

 

ガイア「グアァァァァァ……!」

 

ダイナ「ハァァァーーー……!」

 

 

立ち上がったガイアとダイナはそれぞれ、クァンタムストリーム、フラッシュサイクラーの体勢に入る。

 

 

永田「ルクゥーーーー!!ルクゥゥーーーーーー!!

 

ルクー「パパパパパ…?」

 

シャンッ………

 

 

と、丁度その時、展望台の頂上に上がった永田の呼び掛ける声がルクーの耳に入った。

ルクーが足を止め、永田の方へ振り向いたその時だった。

 

 

ウウゥゥゥゥゥ~~~~~~~…!!

 

永田「!」

 

吉田「!?」

 

庄司「?」

 

ガイア「…?」

 

ダイナ「フッ…?」

 

 

どこからともなくサイレンの音が鳴り響いた。町中から流れているのでなく、空から鳴っている。

その奇怪な音に吉田と庄司は足を止め、ガイアとダイナは攻撃の手を止めた。

 

 

(永田「ウクバールでは夕方になると、大きなサイレンが鳴るんだ。そしたら、みんな家に帰るんだ」)

 

吉田「まさか…」

 

 

吉田は以前、庄司から聞いた永田のウクバールについての話を思い出す。

夕方にサイレン……。今鳴っているこのサイレンがそれではないのかと察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永田は空を見上げると、雲の間から宙に浮かぶ空中都市が姿を現した。

 

 

永田「ウクバール…!」

 

 

宙に浮かぶ大小の塔、ヒュウウゥゥと常に吹く風にカラカラ音を立てて回る風車―――――。

そう、それは間違いなく永田の故郷ウクバールだ。

ウクバールは彼を迎えに来たのだ。

 

 

永田「ウクバール…!!」

 

 

永田は25年さ迷い続け、ようやく見つけた故郷に思わず笑顔がこぼれる。

しかし、ウクバールを待つのは彼だけでない。

 

 

ルクー「…」

 

スゥゥゥ……

 

ダイナ「!?」

 

ガイア「…!」

 

 

サイレンの音を聞いたルクーは足から静かに消滅し始め、5秒もしないうちに消えた。

それと同時に鳴り響いていたサイレンの音も止んだ。

あの巨体が蹂躙したのにも関わらず、町には損傷1つもなかった。

まるで初めから何も無かったかの様に…。

 

 

「「……?」」

 

 

ガイアとダイナは何だったんだ?と困惑しながら顔を見合わせると、夕陽に照らされる町を呆然と立ち尽くすのだった。

 

 

庄司「おっちゃーん……どこ行っちまったんだよぉ…」

 

 

そして、あの日以来……。永田は忽然と姿を消してしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在。吉田は我夢と共に廃墟となった永田の生家へ訪れていた。

呆然と立ち尽くす吉田の耳には、壁につけてある古びた風車がカラカラ音を立てて回るばかりだ。

 

 

我夢「吉田さーん」

 

 

すると、外にいる我夢に呼び掛けられる。空は暗くなり始め、もうすぐ夜になるから帰ろうということだろう。

吉田が我夢の声につられるまま、帰ろうとした時だった。

 

 

吉田「…?」

 

 

ふいに吉田は部屋の壁側にある物に目が止まる。

クモの巣や古びた襖の奥に隠れてよくわからないが、絵画が描かれたカレンダーの様に見えた。

 

気になった吉田は部屋に入ると、クモの巣を取り除き、襖をどける。

すると、吉田は露となったカレンダーを見て、息を飲む。

 

1966年と随分昔だが、それは関係ない。

問題なのは、そこに描かれている絵画だ。

 

宙に浮かぶ風車がついた大小の塔に浮かぶ都市の真ん中で佇むルクー……。そう、永田が言っていたウクバールそのものだった。

 

その後、吉田は皆にこう言ったのだという。

 

 

―――永田は幼い頃に見たカレンダーの中の町を自分の故郷だと思い込んでいた……ただの風変わりな男だったかもしれない。

でも、もしかしたら……ウクバールは本当にどこかにあって、永田はようやくそこに戻ったのかもしれない……と。

 

 

廃屋から出てきた吉田はぼそっと呟く。

 

 

吉田「あの男にはウクバールが必要だったのかなぁ?」

 

我夢「え?ウクバール?」

 

吉田「遠い町さ…」

 

 

訊き返す我夢にそう返すと、吉田は車に戻っていった……。

 

 

 

 

 




次回予告

またまたあいつがやって来る…。
人の心を蝕む死神のようなあいつが…!


リアス「邪魔しないでよ」


リアスに何が…?

次回、「ハイスクールG×A」
「迷宮のリアス」


「一人ぼっちなの?あたしと遊ぼう」


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