一誠がサイラオーグとの模擬戦を終えて、数日後。
我夢、一誠、アーシア、木場、ゼノヴィア、イリナ達2年生は待ちに待った修学旅行当日を迎えた。
前日までに準備した荷物を止まらない好奇心と共にリュックサックに詰め、都市部の駅から京都行きの新幹線に乗り込んでいた。
松田「俺、実は新幹線乗るの初めてなんだよなー」
駅から出発して20分くらい経った頃、松田がウキウキしながら隣の元浜に話しかけていた。
車両の一番後ろの座席に座る我夢の隣には車窓に頭をよっからせて眠る一誠、その前の座席には松田と元浜が座っている。
通路を挟んだ向こう側の座席にはゼノヴィアとイリナ、その前には愛華とアーシアが座っており、楽しそうにおしゃべりしていた。
最初こそは彼女らの様に談笑していたが、我夢がつい先程行ってきたトイレから戻ってきた際には一誠は眠っていた。
話す中で眠たそうにしていたのが多々見受けられたが、昨日、楽しみのあまりよく寝られなかったというのが原因であろう。小学生の時の遠足でも、同じ理由で寝不足だったのは今でも覚えている。
生きていく中で幼馴染みが成長した面も垣間見えるが、変わってない部分があるのは安心したりするものである。
「ねぇ知ってる?外国に怪獣が出たって話!」
「知ってる、知ってる!モンゴル平原とイースター島に出たって話ー!」
「怖いね~…でも、流石に京都まで来ないよね…」
「とか言ったら来るかもよ?」
「そんなこと言わないでよぉ~!もぉ~」
我夢「(怪獣、か…)」
ふと耳を傾けた女子の会話を聞いて、我夢は今朝報じられたニュースを思い出す。
モンゴル平原とイースター島……日本時刻22時頃にそれぞれ怪獣が同時に地中から出現したと言うのだ。
目覚めた怪獣は直後に発生した霧に包まれ、忽然と姿を消したという。
数少ない目撃者によると、近くにいた怪しげな集団が絡んでいるとされているが、依然不明である………
というのが、人間界側の見解であるが、我夢には大体の検討はついていた。
我夢「(英雄派の仕業か…)」
そう。最近、頭角を現してきたテロリスト組織『
各勢力に幾度も攻撃を仕掛けてくる彼らだが、その侵攻の際、霧と共に姿を現し、撤退には霧と共に姿を消している。
この能力と類似する『
我夢「(しかし、怪獣を連れて何をする気なんだ?また僕達に差し向けるのか…?それとも別に……)」
けれど、わざわざ目覚めた怪獣を何に使う目的はわからない。
各神話勢力に攻撃を仕掛けるとは思うが、何処か引っ掛かる気味悪さに疑問が絶えず、今回向かう京都でも人波乱あるのではと警戒している。
木場「今、いいかな?」
我夢「…ん?木場君」
顔を俯かせて深く考え込んでいる中、声をかけられた我夢は顔を上げると、いつもの様に爽やかな顔を送る木場がいた。
我夢達とは別クラスの木場がここにいるということは前方の車両から来たらしいが、我夢は考えるあまり声をかけられるまで気付かなかった。
我夢「どうしたんだ?」
木場「もう一度向こうに着いた時の予定を聞きたくてね。万が一の時を想定してさ」
万が一の時────それは敵の襲撃があることを意味しており、我夢同様、木場も警戒している様だ。
予め我夢達の班と木場の班の予定情報はアクシデントの際に合流する為、取り合っている。細かい部分の再確認ということだろう。
我夢「わかった。ただ、ここじゃイッセーが起きるから、前の車両で話さないか?」
木場「わかったよ」
そう提案した我夢は席を立つと、木場と一緒に前の車両へ移動し始める。
「え…?高山君と木場きゅんが!」
「きゃーーーーっ!!まだお昼前なのに!」
「王道の兵藤×木場きゅんもいいけど、高山君×木場きゅんも良いわね~~~!!薄い本キタコレェェーーー!!」
我夢「……」
道中、危ない展開を妄想する女子の歓喜する声が聞こえてきたが、我夢は頭の中で考えず、木場と一緒にそそくさと前の車両へ移動した。
10分程、木場の座席の隣に座りながら予定確認と非常事態についての話を再確認すると、我夢は元の車両へ戻った。
ちなみに我夢はついでに先程の女子の反応についてどう思うかを話したが、満更でもない反応を見せたので鳥肌が立ったのは余談である。
『御利用ありがとうございます。間もなく京都に到着致します』
そうこうしている内に新幹線はあっという間に京都駅に到着した。
京都に着いた駒王学園2年生一行は駅から数分歩いたところにある高級ホテルのロビーから抜けた先にある広いホールに集まっていた。
その名も『Misery Abate hoTel(苦痛を和らげるホテル)』───通称『MAT』。ここは京都中にある観光ホテルの中でも最高級に位置するホテルの1つである。
料理やルームサービス、施設等が充実しており、京都駅に近いことから、観光客がこぞって宿泊する大人気ホテルである。
こんな高級ホテルに団体の高校生が宿泊できるのが甚だ疑問ではあるが、このホテルのオーナーがサーゼクスとの繋がりがある為、格安で全員分の部屋を用意できたのだ。
また、このホテルの食事に出されるおはぎは絶品とのこと。何でもオーナーが大のおはぎ好きだからである。
脱線したが、本題に戻そう。
広いホールの床に集まって座る生徒達に教師陣が交代交代で注意事項諸々を説明していくと、ロスヴァイセの番が回ってきた。
皆が何を話すんだろうと思う中、ロスヴァイセは生徒達の前に出て、ハッキリとした口調で言う。
ロスヴァイセ「100円均一ショップは京都駅の地下ショッピングセンターにあります。何か足りないものがあれば、そこで済ませるように。お小遣いは計画的に使わないと後々損することになります。お金は天下の回りもの……あれやこれやと使えばすぐに無くなります。だからこそ、100円で済ませなければならないのです。100円均一こそ日本の宝なのです!」
『……』
長々と熱く語るロスヴァイセに生徒のみならず、教師陣も唖然としていた。流石にいつもふざけた調子のアザゼルも額に手を当てて、「駄目だこりゃ」と参っている様子だった。
ロスヴァイセが日本に来てからというものの、100円均一ショップへ毎日の様に足を運ぶ姿を我夢達は目撃しているが、まさかここまで病みつきになっているとは思いもよらなかった。
「ロ、ロスヴァイセ先生。ありがとうございました…」
話し終えた頃、次の先生が苦笑いしながらバトンを受け継ぐと、最終確認を始める。
余談だが、ロスヴァイセは教師に就任してからも男女問わず、すぐに生徒達からの人気を得た。美人で真面目なのにどこか抜けているところが接し安く、「ロスヴァイセちゃん」の愛称で呼ばれていたりする。
本人は先生と呼んでと言っているのだが、その性格からマトモに受ける生徒はいない。
「───以上の点に気をつけて下さい。それでは各自、部屋に荷物を置いたらさっそく自由行動していいです。京都駅周辺なら各班好きな場所へ行っていいですが、遠出は避け、午後5時半には部屋に戻るようにして下さい」
『はーい』
教師からの説明に生徒達は返事すると、教師陣は各班に宿泊する部屋のルームキーを手渡し、解散した生徒達は荷物を持って各部屋へと向かっていった。
ゼノヴィア「おおーっ!見ろ!アーシア、イリナ!珍しいものが沢山並んでいるぞ!」
アーシア「わ~、可愛い狐さんばかりですね!」
イリナ「ここでお土産買ってもお小遣い足りるかしら?」
解散してから数十分後。ゼノヴィア、アーシア、イリナは伏見稲荷大社の参道に立ち並ぶお土産屋を見ながら和気あいあいと歩いていた。
一誠「ははっ!楽しそうだなー、あいつらー」
我夢「そうだね。行く予定はなかったけど、満足してくれて良かったよ」
その光景を微笑ましく一歩離れた場所で微笑ましく眺めながら会話する一誠と我夢。
我夢の言う通り、本来行く予定ではなかった。
だが、せっかくの自由行動なので無駄にはしたくなく、京都駅から比較的近いこの伏見稲荷大社へ足を運ぶことを我夢は皆に提案したのだ。
突然の予定変更に不満を持たれるかと思ったが、そんなことはなく、むしろ楽しんでいるので結果オーライだ。
松田「京都を満喫する美少女トリオ。まずは1枚目!」
満喫するアーシア達を隣で松田が高そうなデジカメでパシャリと撮影する。
それを見た愛華は半目で物申す。
愛華「ちょっと、私は撮らないの?」
松田「被写体としてはちょっとなー…」
元浜「そうそう。微妙というか、インパクトに欠けるというか…」
愛華「あんた達ねー…」
我夢「お、落ち着いて…」
一誠「まあまあ」
松田と元浜に好き放題言われ、口元をひくつかせる愛華を我夢と一誠は必死に宥める。
愛華の為に言うが、彼女は決して不細工ではなく、むしろ可愛らしい顔をしている。ただ、アーシア達のレベルが高いせいでそう見えるだけだ。
「……ん?」
その近くを通りかかった青年は我夢達の騒ぎを耳にすると、ピタリと足を止める。
180センチもある長身に紺色のジャケットに白のTシャツ、ズボンは黒のチノパンで艶なしのレザーシューズを履いている……所謂キレイめと呼ばれるファッションで、背中にはリュックサックを背負っていた。
青年はそのまま我夢達の方へ顔を向けると、ジーと目を凝らす。
「もしかして……」
呟く青年の視線の先にあるのは、苦笑しながら愛華を宥めようとしている我夢と一誠だった。
それから我夢達は一番鳥井を通り抜け、両脇の狐の像に挟まれた門を潜り、本殿を抜けた先にある稲荷山へ続く階段を登っていた。
元浜「……ぜぇ、はー……ま、待ってくれ……。ど、どうしてお前達はそんなに動けるんだ……?」
歩き始めて数十分。汗だくだくの元浜は息を切らしながらよろよろと階段を上がっていた。
運動神経がない元浜にとっては地獄そのものだ。
松田「おいおい、元浜。情けないぞ。アーシアちゃん達だってまだ元気だってのに」
そんな元浜を上の段にいる松田は嘆息しながら言う。
松田は元々運動神経が良く、愛華も常人ぐらいの体力はある。人間より身体能力が優れてる悪魔、天使である我夢達はこれ程じゃどうってことはなく、息も乱れない。
我夢「…」
疲れ果てている元浜を松田より下の段にいる我夢は不安そうに見下ろす。ついさっき手を貸そうとしたが、意地でもあるのか、「これぐらい平気」と元浜にやんわりと断られた。
と言われても、当の本人はよろよろしているので、いつ階段を滑らせるか不安である。
そんな不安を我夢が胸中に秘める中、元浜が次の段へ足を下ろした瞬間
ズルッ!
元浜「っ!?」
足を踏み外した元浜はバランスを崩した。
前のめりに倒れた際の顔面の着地点は階段の角……このままだと最悪、鼻や歯が折れてしまう。
我夢「元浜っ!」
一誠「くそっ!」
気付いた我夢と一誠は脇目も降らず急いでかけ下りる。
だが、反応がコンマ1秒遅かったので、悪魔の走力を持ったとしても間に合わない。間に合っても顔面がぶつかるのは避けられない。
すっ転ぶ元浜の顔面が階段とぶつかろうとするその時だった。
「おっと!」
『!?』
ピンチを察したのか青年が下から勢いよく元浜の元へかけ上がってくると、元浜の腰に腕を回し、衝突を防いだ。
後一歩遅ければ大怪我するところだった……青年はふぅと安堵のため息をつくと、元浜の腰から腕を離して両足を地につけさせると、元浜へ向き直る。
元浜「あ…」
青年の顔を見た元浜は言葉を失った。
元浜へ顔を向ける青年は朝焼けの様に明るい茶髪、汚れのない水晶の様な純粋な瞳を持ち、目鼻口が整った顔を持っており、服装は大人びており、身長は180センチの長身を持ち、全体的に爽やかを感じさせるイケメン───我夢と一誠を目撃したあの青年だった。
「君、大丈夫?ケガはないか?」
元浜「……あ、はい。す、すみません……」
元浜があまりもの格好よさに見惚れ、青年からの問いに曖昧な受け答えをしていると、上からかけ下りてきた我夢と一誠。遅れて愛華、アーシア、ゼノヴィア、イリナがやってくる。
我夢「すみません。ありがとうございます」
「はは、いいよ。でも、そんなに他人行儀されるのは違和感があるな~」
一誠「え?」
「ほら、この顔に見覚えない?我夢、イッセー」
何で自分達の名前を?と我夢と一誠は訝しげに思いながら青年の顔をまじまじと見ると、あっと声をあげる。
「「大悟!?」」
大悟「久しぶり!」
すっとんきょうな声をあげる我夢と一誠に青年は爽やかな笑顔で返す。
そう、この青年こそが我夢、一誠、イリナの幼馴染みである『
一誠「おおー…昔と比べて大人びてたから全然気付かなかったぜ」
大悟「まあ、小学校以来会ってなかったからね。無理もないさ」
我夢「元気そうだね。また会えて嬉しいよ!」
大悟「僕もさ、我夢。格好よくなったね。まあ、イッセーはそこまで変わんないね」
一誠「おいおい、それどういう意味だよ~~~!」
我夢「ははは!」
数年振りの再会を喜び、じゃれ会う我夢、一誠、大悟。
一誠に軽くヘッドロッグ決められながらもニコニコと笑う大悟を見て、イリナは呆然と呟く。
イリナ「あの人、大悟君だったのねー。会わないうちに随分かっこよくなっちゃって」
松田「すげ~イケメンだ…」
愛華「イリナさんの知り合い?」
イリナ「うん。ええとね…」
愛華に訊ねられたイリナは彼女と松田を加えて大悟が何者かを教える。
緊迫した空気から一変して訪れた和やかな空気にアーシアはつられて微笑んでいると、隣のゼノヴィアが訝しげに大悟を見つめているのに気がついた。
アーシア「どうしたのですか?」
ゼノヴィア「い、いや……。何でもない……」
アーシア「?」
そう言いつつも表情は依然として明るいものとはいえないゼノヴィアにアーシアは首を傾げる。
ゼノヴィアは不可解に思っていた。
それは元浜を助けた際の大悟の異常なまでの速さである。
あの状況は人間より身体能力が上である悪魔をもってしても確実に間に合わなかった。しかし、普通の人間であるはずの大悟があっさりと救いだした。距離的に元浜から大分離れていたはずなのにだ。
この違和感がゼノヴィアの脳裏から離れなかった。
ゼノヴィア「(大悟……君は何者なんだ?)」
ゼノヴィアは1人。我夢、一誠と笑い会う大悟を訝しげな目を向けるのだった。
大悟を加えた一同はしばらく階段を上がり続けると、途中に設けられた休憩所のお店でひと休みすることにした。
元浜「ふへぇあぁぁ~~~…」
我夢「お疲れ様。ごめん、無理をさせて」
休憩所の奥にある長椅子に座るのは完全にバテて、だらしない声で項垂れる元浜だ。その傍には我夢がついており、労いの言葉をかけながら、休憩所で買った冷えた水を渡している。
外では一誠と松田と愛華が山の絶景を眺めたり、写真に納めている。途中、一誠と松田が過敏に反応しているが、恐らく愛華にからかわれているのだろう。
その光景を尻目に大悟、イリナ、ゼノヴィア、アーシアは休憩所の外にある長椅子に座ってくつろいでいた。
イリナ「ねえ、大悟君。私のことは覚えているよね?」
イリナは単刀直入に大悟へ質問する。大悟が我夢と一誠に対しては昔のように接していたが、イリナには全く懐かしむ反応を見せてくれなかったからだ。
う~んと唸らせる大悟だが、首を傾げるばかりだ。
イリナ「紫藤 イリナ。ほら、昔、一緒に遊んだ幼馴染みの……」
大悟「ああー、イリナね。イリナ………え!?」
イリナのひと声で思い出した大悟はうんうんと頷くが、すぐに目を丸くして驚きの声を漏らすと、
大悟「君、女の子だったの!?」
イリナ「デジャヴーーー!」
大悟にそう言われ、ショックを受けたイリナは叫ぶ。
我夢と一誠とは違う反応を見せてくれると期待していたが、そんな期待もすぐに消し飛んだ。
イリナ「もう!大悟君もひどいわ!我夢君とイッセー君だけじゃなくて、私を男の子と思ってたなんて!」
大悟「はは、ごめん。あんなにやんちゃだったから…」
ぷりぷり怒るイリナを大悟は苦笑しながら謝る。
大悟に宥められ、不満が収まったイリナはずっと気になっていたことを訊ねる。
イリナ「あ。そういえば、大悟君って他県に引っ越してから何してたの?我夢君達とも音信不通だったみたいだけど」
大悟「うん。さっき我夢達にも話してたけど、僕は親の転勤で他県に引っ越したんだ。そして、そこの中学を卒業した後、より幅広く学ぶ為に海外の高校へ留学することにしたんだ」
大悟はそれから京都に来るまでの経緯を語る。
海外へ留学することに決めた大悟は両親と相談した後、共に移り住むことになった。その時に住所が変わったことや携帯を買い換えたことで連絡先がわからなくなってしまったそうだ。
高校へ留学・卒業後は考古学の分野に特化した短期大学へ進学した。考古学を専攻したのも、世界の謎を探求して冒険してみたかったからと幼い頃からの夢があったからだ。
短期大学卒業後は両親から離れ、しばらく世界各地を旅していたのだが、ふと日本の京都に行ってみようと思って帰国したところ、我夢達との再会に至ったのだ。
イリナ「へえ~そうだったんだ」
大悟の語った話にイリナは感嘆する。
イリナは小学校に上がってから間もなく海外へ移り住んでしまい、大悟とはしばらく会ってなかったが、再会するまでにここまで濃い経験を積んでいるとは予想出来なかった。
しかも、そんな彼と修学旅行先で再会するとは思いもよらなかっただろう。
アーシア「世界各地を冒険したって、一体どこを冒険したんです?」
大悟「地球の最北端から最南端まで色んなところを冒険したよ。アマゾンの密林の奥地やエジプトの砂漠、エベレストの頂上やら何まで……数え切れないぐらいさ」
アーシア「すごいですね~!私、世界のことをよく知らないので気になります!」
大悟が数々体験した冒険に興味津々なアーシア。
それもそうだろう。教会時代は聖女と崇められながらも軟禁させ、外界からの情報をシャットダウンされていたアーシアにとっては世界を旅した大悟は憧れの存在であろう。
乱入する形で我夢達と行動を共にすることにした大悟だが、初対面のアーシアだけでなく、ゼノヴィア、愛華、イケメン嫌いの松田、元浜すらともすっかり仲良くなり、意気投合していた。これも世界を渡り歩いたコミュニケーション力によるものだろう。
ゼノヴィア「…」
しかし、ゼノヴィアは仲良くしつつも、ただ1人懐疑的な考えを持っていた。
大悟は悪い人間ではなく、むしろ好青年で良い人間でどこも疑う必要はない。だが、先程、元浜を助けた際のあの常人離れのスピードが疑問を浮かばせている。
階段を上る時に聞いたのだが、本人曰く「冒険で鍛えられたから」らしいが、とてもそう簡単に説明できるものではないことは、長年戦場を潜り抜けてきたゼノヴィアにはわかる。
大悟「あ、もうこんな時間だ」
ゼノヴィアが訝しげに思う中、腕時計を見た大悟はそんなことを呟くと、長椅子から立ち上がり、リュックサックを背負って何処かへ向かう準備を始める。
イリナ「どこへ行くの?」
大悟「現地の知り合いのところへさ。この後、会うことになってるんだ。すまないけど、君達とは別れるよ」
イリナ「そっか、気をつけてね」
大悟「まあ、僕は京都にはしばらく滞在する予定だし、明日には出会えるよ。連絡先も交換したしね。じゃあ!」
そう言って席を外した大悟は我夢達のところへ向かい、別れる旨を伝えると、大悟は登ってきた坂を下りていった。
イリナ「大悟君。相変わらず爽やかなのは変わらないわね~」
アーシア「私、またお会いしたいです!」
大悟が去った後、イリナとアーシアは嬉しげな声色で呟いていると、ゼノヴィアはイリナの肩をちょんちょんと指で叩くと耳を貸すようにジェスチャーを送る。
耳元でゼノヴィアは
ゼノヴィア「イリナ。あの大悟という男……本当に普通の人間なのか?」
イリナ「っ!?それって───」
思わず大声を出しそうになるイリナをゼノヴィアはしっ!と静かにするように口の前を人差し指で立てる。
出そうとなる大声を何とか堪えたイリナは一拍置くと、声を抑えて訊き返す。
イリナ「ちょっと、ゼノヴィア。それって、大悟君が人間じゃないっていうの?」
ゼノヴィア「お前も見ただろう?あの常人離れのスピードを。あれはそんやそこらの人間の鍛練でなせる技じゃない。私達の世界を知る人間でも出来ない速度だ」
イリナ「うん。でも…」
ゼノヴィアの疑念にイリナは共感しつつも、どこか違う気がして納得しきれてない状態だった。
大悟からは悪魔や天使の気配は感じず、正真正銘の人間である。エクソシストか何かかと思うが、身のこなし方や雰囲気からはとてもだが、戦い慣れしているものじゃない。
それにあの純粋かつ温厚な性格の大悟がそんな人を騙すような姑息な人間とはイリナには思えなかった。
愛華「イリナさん、ゼノヴィアっち。そろそろ行くわよー!」
頭をひねってそんなことを考えていると、外にいる愛華から集合の声をかけられ、思考を現実に戻される。
バテていた元浜がすっかり復活したことに合わせて、山登りを再会することにしたのだろう。
皆が集まり、愛華が人数確認するが
愛華「あれ?誰かいないわね…?」
何故か人数が合わない。
班とは無縁の大悟を除き、我夢、松田、元浜、イリナ、ゼノヴィア、アーシア、そして愛華本人。
全員揃っているはずなのだが、誰かを忘れているような気がしてならない。
皆が誰だろうと思う中、我夢はアッとすっとんきょうな声をあげると、足りない人物の名前を口にする。
我夢「イッセーがいない!」
その頃、皆から離れた一誠はひと足速く頂上目指してかけ上がっていた。
高い場所へ早く登りたいという子供心が一誠を駆り立てたからだ。
独断行動している一誠であるが、考え無しにしている訳ではない。最初から頂上を目指しているので、我夢達も後から追い付いてくることもキチンと念頭に置いた上でキチンと行動している。
他の観光客の邪魔にならない様に階段をかけ上がっていくと、一誠は頂上らしき拓けた場所に到着した。
一誠「ふぅ……あら?ここが頂上?」
不思議に思う一誠の視線の先は随分と古ぼけたお社だけがポツンと建っていた。頂上なら荘厳なお社があって、観光客で賑わっていると思っていたが、人っ子一人いない。周りには人の気配がなく、風でざわめく木々の音しか聞こえない。
おかしいなと怪訝に思いつつ、お社を背に向けた時だった。
「…京の者ではないな?」
一誠「っ!?」
突然謎の声が後ろから聞こえ、ハッとなった一誠は振り返る。
振り返った先には、山伏の格好をしたカラスや神主衣装に身を包んだ狐仮面の集団がいつの間にか一誠を取り囲んでいた。
集団から漂う空気から明らかに歓迎ムードでないことを察した一誠は身構えていると、集団の中から巫女装束を着た小学校低学年くらいの女の子が現れた。
大陽の日差しの様にキラキラと輝く金髪に金色の双眸。
しかも、頭部から生えている狐の耳、尾てい骨に当たる部分からはもふもふしてて柔らかそうな金色の尻尾が生えている。
起きているこの状況を一誠が把握できていないでいると、狐耳の少女は一誠を睨み付け、吐き捨てるように叫ぶ。
「よそ者め!許さぬ……許さぬぞッ!」
一誠「…は?何言ってんだよ?」
ゼノヴィア「おーい!イッセー!」
イリナ「イッセーくーーん!」
狐耳の少女に恨まれる意味が分からず、一誠が疑問の顔を浮かべていると、後ろからゼノヴィア、イリナ、我夢、アーシアが駆け付ける。
だが、このただならぬ状況に4人は動揺の色を見せる。
ゼノヴィア「何だこの状況は?」
イリナ「え、何々?妖怪さん?」
アーシア「あわわわ…」
我夢「イッセー。何が起きたんだ?」
一誠「わかんねぇ……。ただ、よそ者は許させねぇって…」
我夢「?」
一誠の話を聞いても敵意を向ける理由がわからず首を傾げる我夢だが、とにかく話そうと一歩前へ出ると、集団のボスと判断した狐耳の少女に話しかける。
我夢「君達はこの地の妖怪か?気に触るけど、僕達が何か悪いことをしたのか?詳しく教えてくれないか?」
それを聞いた狐耳の少女は歯を噛みしめ、わなわなと肩を震わせると、怒りをぶつける。
「しらばっくれるなッ!お前達が神聖なるこの地を荒らすだけでなく、母上を拐ったではないか!」
我夢「母上…?一体、何のことだ?僕達は君のお母さんを拐ってないぞ」
「そのような筈ない!私の目は誤魔化せんぞ!」
そう言って狐耳の少女は眼光を鋭くするが、我夢だけでなく、話を聞いていた一誠達も全く身に見覚えがない。
母親を拐った集団はわからないが、とにかくその集団と自分達を勘違いしているのはわかった。
我夢「待ってくれ。これは誤解だ!話を聞いてくれ!」
「ええい、これでもシラをきるかッ!者共、かかるのじゃ!」
我夢の制止虚しく、狐耳の少女が号令をかけると、控えていた妖怪達が一斉に襲いかかる。
仕方がないと思いつつ、我夢達は臨戦態勢に入る。
我夢「みんな!麻酔弾で対応するんだ!」
我夢の指示の意味を汲み取った一同はカートリッジを麻酔弾に変えたジェクターガンで応戦する。
我夢達は妖怪達の攻撃をかわしつつ、銃口から放たれる黄色の麻酔弾で次々と眠らせていく。
「おのれ…!珍妙な武器を使いよって!」
次々と仲間が眠らされていく光景に堪えきれなくなった狐耳の少女は自ら前線に出ると、我夢に向かって小さな火の玉を6連射する。
我夢「
我夢は直ぐ様、『
一誠「くらえっ!」
「そうはさせんっ!ぐぅっ!?」
「っ!?」
一誠が入れ替わる様に前へ出ると、狐耳の少女目掛けて麻酔弾を放つが、少女に当たる直前に烏天狗が割り込んで身を呈して庇った。
狐耳の少女が動揺する中、身代わりになった烏天狗はバタリと倒れるとその場で眠りについた。
ゼノヴィア「そこだ!」
イリナ「はっ!よっと!」
アーシア「妖怪さん達、ごめんなさい!」
ゼノヴィア、イリナも最低限の動きでかわしながら麻酔弾を放ち、アーシアは相手に謝りながらも麻酔弾で眠らせていく。麻酔弾なので相手が傷付くことはないが、それでも罪悪感を感じるのはアーシアの優しさ故だろう。
我夢達が出来るだけ傷付けず麻酔弾で応戦してから3分後。
次々と眠らせ、30人ぐらいいた妖怪達も起きているのは狐耳の少女含めて6人までとなった。
狐耳の少女が憎しげに睨み付ける中、我夢はジェクターガンを下ろして再度呼び掛ける。
我夢「彼等は生きている……麻酔で眠らせているだけだ!僕達には争う理由がない!お願いだから話を聞いてくれ!」
「敵意がないフリをして油断させるつもりじゃな!騙されぬぞ!」
『…っ』
我夢の説得に全く聞く耳を持たない狐耳の少女と妖怪集団。断固として戦う意思を見せている。
我夢達は苦い顔を浮かべながら、力ずくで止めるしかないと半ば諦めかけていると
大悟「ちょっと待った!」
『…え!?』
と、待ったをかける声が聞こえたかと思うと、木々の間を駆け抜けてきた人影が颯爽と飛び出し、妖怪達と我夢達の間に割り込む。
その人物を見た我夢達は思わず驚きの声を漏らす。
そう、その人物こそが先程別れたばかりの青年──長野 大悟その人だったからだ。
我夢「大悟!?」
一誠「一体どういうことなんだよ!?」
大悟「さっきぶり……かな?詳しいことは後で説明するよ」
予想外の登場に動揺し、問いかける一誠にそう言って下がらせると、大悟は狐耳の少女へ顔を向ける。
「大悟!これはどういう訳じゃ!何故、そやつらを庇うッ!」
大悟「
大悟は狐耳の少女───九重に説得を試みる。
お互いに名前を知っていることから、大悟とは以前から知り合いだったことが我夢達にはわかった。
それでも引き下がらない姿勢を見せる九重は問いを投げ掛ける。
九重「何故そう言い切れる!?」
大悟「友達なんだ!僕が保証する!お願いだから、今は手を退いてくれ……」
九重「っ……」
懇願する大悟は頭を深く下げる。
その行動に九重は一瞬驚く素振りを見せ、しばらく口を閉ざして考えると、
九重「……わかった。大悟がそこまで言うのなら、今は撤退しよう」
大悟の誠意に折れた九重は隣にいた烏天狗にアイコンタクトを送ると、烏天狗を筆頭に妖怪達は眠らされている仲間を回収し始める。
取り敢えず戦う必要がなくなり、ホッとする我夢達に九重は鋭い目付きで睨み付け
九重「…じゃが、お前達の疑いが晴れた訳ではない。必ず母上を返してもらうぞ!」
そう言い残すと、突如吹いた一迅の風と共に九重と妖怪達は消えていった。
あれだけの激闘があったにも関わらず、何事もなかった様に静かとなった山中に残された我夢達と大悟。
ひと息ついたところで振り向いた大悟は我夢達に謝る。
大悟「ごめん、みんな!普段はあんな険悪じゃない……本当は良い人達なんだ!」
一誠「いや、そりゃあいいけどよ…」
我夢「大悟。彼等とはどういう関係なんだ?それに、何故僕達が疑われているんだ?」
根は持っていないが、真面目に謝られた一同がじたじになる中、我夢は質問を投げ掛ける。
すると、大悟は神妙な顔を浮かべ
大悟「さっき九重が言っていたけど、九重のお母さんは拐われたんだ。ここ最近、現れた怪しげな集団に。事件現場に偶然居合わせた僕は傷付いた従者を手当てする為に隠れ里に運んだんだ。九重はその時に知り合った友達だよ」
そう説明すると、我夢達は納得する。
怪しげな集団──思い浮かぶのはやはり、『
得体の知れない集団に母親を拐われたのだから、今日やって来た悪魔と天使である我夢達を仲間と疑うのは当然警戒するだろう。
大悟と九重達、妖怪の関係を把握していると、大悟はリュックサックを背負い直し
大悟「九重のことは任せてよ。君達が悪い人じゃないって説得してみせるから」
そう言って爽やかな笑顔で返すと、大悟は木々の奥へ立ち去っていった。
大悟が立ち去った後、我夢達は直ぐ様XIGナビでアザゼルに何があったかを報告すると、愛華達と合流して一通り観光すると、ホテルへと帰った。
我夢は予感していた人波乱が今、起きようとしているのを実感していた──────。
その夜。京都市内のビルの屋上から1人の男が町の夜景を見下ろしていた。
その男は四之宮だった。3年生である彼は京都にいないはずだが、何故かこの京都に姿を現していた。
四之宮はニヤリと怪しげな笑みを浮かべる。
四之宮「さぁて、楽しそうなことが始まりそうだな……。おっと、いけねェ……この顔のままじゃマズイな」
一応、3年生である四之宮がここにいることがバレれば後々面倒なことになる。
大事なことを思い出した四之宮は顔に掌を当てて、3秒して離すと、別の人間の顔に変わっていた。
ヘビクラ「ンッフッフッ……完璧♪」
四之宮───ジャグラーは取り出した手鏡を見て自分の顔が完璧に変わっていることを確認すると、気味の悪い鼻笑いをする。
その姿はかつて地球防衛組織の隊長として活躍していたヘビクラ・ショウタ───ジャグラーの本当の姿だった。
顔だけでなく、背丈だけでなく服装も駒王学園の制服から黒の紳士服に変わっている。
これ程見た目は大きく変わっているが、四之宮の体には憑依したままだ。
憑依していないと、体の本来の持ち主である四之宮が死んでしまうからである。
ヘビクラは手鏡を胸元の内ポケットにしまうと、上着の
ポケットから何かを取り出すと、クククと鼻で笑い
ヘビクラ「…京都を巻き込んだこの祭り。さぁて、俺はセレブロが遺した玩具で参加するとするか…」
意味深な言葉を呟く。
怪しげな笑みを浮かべるヘビクラの手には、新しい5枚の怪獣メダルが握られていた。
次回予告
※(イメージBGM:ウルトラマンティガ次回予告BGM[初期])
裏京都に伝わる勇者の伝説。
それは何をもたらすか?
九重のガイドで京を満喫する一行に霧が……。
次回、「ハイスクールG×A」
「霧より出でし英雄」
お楽しみに!
D×Dのキャラにパワーアップアイテムを授ける?
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