「ここは」
「おはようございます。ギルベルト少佐」
「ヴォイオレットか?」
「はい」
薬の匂いと白いシーツ。病院の服に身を包んだヴァイオレットが俺を覗き込みようにして見下ろしていた。ベットから起き上がると彼女は私のベットの横にたつ。
「ここは?」
「病院であります」
ヴァイオレットからあの戦場で起こったあらましを聞く。最後の最後で崩れた聖堂院の落石に頭を打った俺は気絶をしていたらしい。敵は殲滅していたからよかったもの、情けないものだ。最後の最後で馬鹿をする。
「ん、これは」
「義手です。申し訳ありません少佐。私の力が至らないばかりに」
「いや、いい。そうか俺は両腕を失ったんだな」
腕をあげると金属の光沢が光輝く。ヴァイオレットの漂揺が曇った。
「ヴォイオレット、君は大丈夫か?」
「はい。私は少佐に守られしまいました」
表情に影を落とすヴァイオレット。俺は安心させるように微笑んだ。
「いや、いいんだ。そもそも君がいなかったら私の命はなかった」
「しかし!」
「ヴァイオレット、ありがとう」
俺がそういうと彼女は口を噤む。俺は彼女の頭に手を伸ばす。金属の手が彼女の髪を掬ってから撫でる。あの絹のように感じる髪の手で触れることができない。
「私は兵士です。当然の事をしたまでです」
「それでも私は君に感謝しているんだ」
頭を撫でると彼女は寂しそうな表情を浮かべた。
「もう少佐の手は戻られないのですね」
「生きていただけでも幸運なんだぞ」
ヴァイオレットの言葉に俺はこらえきれなくって笑う。不思議そうにヴァイオレットが俺を見ていた。
「少佐、私はなにかおかしな事を言ってしまったのでしょうか?」
「いや、そうだな。君がまだまだ子供なんだと再確認してしまっただけさ」
「私は子供なのでしょうか?」
首を傾げるヴァイオレットに俺は頷いた。
「ああ、子供かな。君はもっと世界を知らないといけない。だから、ん。この話はまたあとだな。それでホッジンズいつまでそこにいるつもりだ」
扉の影から食えない一人の男が顔を出した。俺の士官学校時代からの悪友。そしてこれからヴァイオレットの雇い主となる男。
「あれ、バレていたのか?」
「ああ。それで、いつからそこにいた」
「少佐が目覚めてからです。ずっとです。敵意がありませんでしたので放っていたのですが」
「いや、それは盗み聞きをする駄目男だから君が気にする必要はない」
「おいおい、ひどい言われようだなぁ」
ホッジンズは笑みを浮かべながらこちらに歩いてくる。俺のベットに腰掛けようとしたところヴァイオレットに突き飛ばされる。
「うおぉ」
「少佐のベットです」
「ホッジンズ、あっちの椅子に座れ」
「へいへい」
ヒッジンズは椅子をとり俺と向かい合うように座る。
「ギルベルト、お前に話があるがまず戦場のこと、これから先のこと。何から聞きたい?」
剽軽でつかみどころがない彼の珍しい真剣な表情に俺は生き残ってしまったことを、これから先のことを考えなければならないと理解させられた。ふわりとどこか自分が関係ないような、見つめるヴァイオレットの視線に俺は少し先のことが不安になった。