朝バナナダイエットが日本で大流行した。国内でのバナナの増産体制が整った頃、一皮剥けた男達は股の間の露出している内臓がポロリと落ちて、『バナナ』が生まれた。バナナは見境無く人間を襲った。冷凍バナナは鈍器にもなるのだ。驚異的なスピードで増殖するバナナに、文明は蹂躙されつくすのか。人間vsバナナの滑る話。

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バナナ・パンデミック

ショッピングモールの入り口には、車によるバリケードが形成されている。一階と二階を繋ぐエスカレーターには複雑にからんだカートや棚が道を塞ぎ、階段も同じような状態になっているので、ここを通るのは物理的に不可能になっている。

二階への唯一の侵入方法は、二階からワイヤー梯子が降ろされた時のみ。簡単だが、だからこそ今日までバナナを退けることが出来たとも言える。……時には非情な決断も余儀無くされた。バナナに包囲された仲間の助けを求める声がバナナに蹂躙されるものへと変化したとき、また救えなかったと何度も涙した。

 

『やだ……バナナやだ……助けてよっ!誰か──いやぁ!?』

 

『んほおおおおっ!?』

 

「……すまない、すまないっ。無力な私を許してくれぇ!!」

 

「優花、しっかりしろ。優花!」

 

見殺しにしたも同然な、仲間達への懺悔が声になっていた。肩を揺すられて、ようやく正気になれた。

 

「はっ……ごめん大悟。夢をみてた」

 

「……今ので外のバナナ共に勘づかれたかもしれない。俺は外を見回ってくる。……頼むぜ優花?子供もいるんだぞ」

 

言われてはっとする。翔太君は、爆弾をトラックの荷台に積んで突貫して私たちを助けてくれた義昌さんに託された命なんだ。それを私は、私の心が弱いせいで。

 

「優花お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「翔太君、起こしちゃってごめんね。なんでもないから。大悟」

 

「行ってくる」

 

「大悟お兄ちゃんはどこに行くの?僕にも話して」

 

「翔太君……ただの見回りだよ。だから、安心して」

 

「ほんとに?」

 

「うん、翔太君は絶対に私達が守るから」

 

「分かった……おやすみ優花お姉ちゃん」

 

「おやすみ」

 

しばらくすると、すやすやと寝息を立て始めた。少し離れても大丈夫だろう。大悟が戻るのが遅い。施設の中だから、大丈夫だとは思うが。窓辺から双眼鏡で外の見回りをしている大悟に合流するべきだと、階段へ向かった。

 

「優花か、少し不味いぞ。バナナ共が思ったより集まってやがる」

 

双眼鏡を受け取り見てみると、確かにバナナの数が多い。

 

「明日の遠征は、辞めた方がいいと俺は思う」

 

「そんなっ……ラジオでは市役所に自衛隊が救助にくるって。これを逃したら次はいつになるの?食糧だって」

 

「冷静になれ。六本級の数も多い。何房相手だろうと強気に闘えた昔とは違うんだ。それに今回はもとはと言えばお前が……すまん。今のは失言だった」

 

「そうね。これは私のせい」

 

私が大事な作戦前夜に大声を出したから、計画が狂ってしまった。この責任は、私にある。

 

「優花……今回は諦めよう。次はまた来るさ」

 

「いいえ、作戦は決行する。万が一の時は、私が囮になるわ」

 

「馬鹿な考えはよせ!お前を救おうとしてヤられちまった直哉に託されてんだ。……囮なら俺がやる」

 

「バナナは男よりも女を優先して襲う習性がある。翔太君を任せられるのは大悟しかいないの。お願い」

 

「優花、お前……あのときの義昌さんと同じ目をしてんじゃねぇよ……約束しろ。絶対に死ぬな」

 

「うん。大悟、私は死なないよ。六本級だって握り潰すし、バナナを喰らってでも生き続けるわ」

 

「バナナを喰らってでも、か。皮肉の効いたジョークだな。そろそろ寝とけ。明日の俺達が後悔しないように」

 

「ええ、そうね」

 

翌朝、バイクの排気音がして跳ねるように飛び起きた。

枕元には汚い大悟の字で『わりぃ、直哉に夢で喝入れられちまった』と書きなぐられたメモが落ちていた。

 

「あれ、大悟お兄ちゃんは?」

 

「翔太君行こう、時間を無駄に出来ないわ」

 

「え、駄目だよ。大悟お兄ちゃんも一緒に行かないと──」

 

「行くのよッ!!大悟は死んだわッ!!」

 

『ザザッ──勝手に俺を殺すんじゃねーよ』

 

大悟の声がした。いつの間にか通話中になっていた携帯電話と、外の大悟が繋がっているのだと直ぐに分かった。

 

「馬鹿、どうして勝手に」

 

『メモは見ただろ?ざっと30房は引き殺せたが、これ以上はちょっとキツい。死ぬ気で橋の方に誘導するから、十分後出発してくれ。あと、こんな状況だから言わせてもらうが、お前のこと好きだった。じゃあな!』

 

一方的に、言いたいことだけ言って……あの馬鹿。私の気持ちも知らずに。電話は切れてしまった。バイクの音も遠ざかり、聞こえなくなった……いや、まだ闘ってる。大きな心音がクラクラするぐらい聞こえてくる。

 

「翔太君、わがまま言っていい?」

 

「大好きな大悟お兄ちゃんを助けたいんでしょ?直ぐに行こうよ」

 

「うん。翔太君の言うとおりだった。一緒じゃないと駄目みたい」

 

ショッピングモールの搬入口からトラックに乗り込み、エンジンを掛ける。トラックはパワーがあるから、ヘタクソな私のクラッチでも動かすことは出来る。電線から急降下してくるバナナの群れがフロントガラスを汚し、パニックになりかけるが、翔太君がワイパーを動かしてくれて助かった。このまま橋へと向かうと、町中の夥しい数のバナナの群れが橋へ向かっているのを、その背中を踏み潰して大悟の元へ急いだ。

 

「生きてて、大悟っ……!」




需要があったら、冷静になった後で絶望しながら続きを書きます。


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