【バンドリ×けいおん】唯「バンドリ?」香澄「けいおん?」   作:キラ@創作垢

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 ――思えば、もう何年も昔を振り返ることなんかしていなかったと思う。

 それ程に、今の私の日常は忙しく、とても充実していた。


 それでも、私は決して忘れてなんかいなかった。

 みんなで過ごしたあの日々、みんなで奏でたあの音……みんなで食べたお菓子の味……。

 それは、今も確かに私の中にある。

 
 だからかな、あの子達の輝きが……凄く、懐かしいと思えたのは。

 あの輝きはきっと、遠い昔、私にだってあったものだろうから。

 あの子達の輝きは、すっかり歳を積んでしまった私を、もう子供じゃなくなってしまった私を、あの頃に戻してくれた……そんな気がしたから―――。


#2-2.放課後の邂逅~秋山澪~

【花咲川駅前商店街】

 

澪「やっと着いた……ここが花咲川か……」

 

 初めて降りる駅を出てしばらく。秋山澪の眼前には、多くの人で賑わう商店街が広がっていた。

 

 平日の午前中にもかかわらず、商店街には子供の手を引く買い物客や、学生と思われる若者が行き交っている。

 

 

澪「ええっと……場所は……」

 

 名刺に書かれている住所をスマホの地図アプリに打ち込み、ルート検索を開始する。

 

 程なくしてからスマホには、目的地へのルートが表示された。

 

 

澪「そんなに遠くないな……よし、行こう」

 

澪(しかし、新商品のプレゼンなんて私に出来るかなぁ……でも、会社の命令なら仕方ないか……)

 

 

 ――学生向けのファンシー雑貨のデザインや制作をする会社に就職すること数年、澪の元に舞い降りた一つの指令。

 

 それは、風邪で休む事になった営業担当に代わり、制作担当である澪が新商品の商品説明をするため、花咲川の商店街にある雑貨店に向かってくれという内容だった。

 

 営業の仕事なんて人見知りの澪には難しいと思われる内容だったが、会社の命令では従わない訳には行かず、澪はその命令を渋々承諾するのだった。

 

 

澪「うん、良い街だな……ここ」

 

 商店街で作ったオリジナルの歌なのか、スピーカーからは明るく、可愛らしいBGMが澪の耳に入ってくる。

 

 街並みを歩く人の顔も明るく、それは澪の地元、桜が丘とはまた違った賑やかさで溢れていた。

 

 そんな街の雑踏を眺めながら、澪の足は目的地へと向かっていた。

 

―――

――

 

【商店街 外れ】

 

澪「え……? ええええええ???????」

 

 人通りの少ない商店街の外れに、澪の素っ頓狂な声が響き渡る。

 

 それもその筈、目的地についた澪を待っていたのは、無情にもシャッターで閉じられた古い店舗だった。

 

 すぐさま名刺に書かれている住所を確認するがここに間違いはなく、電話を掛けてみるも、不通のアナウンスが聴こえてくるだけだった。

 

 無駄を覚悟し、古びたチャイムを鳴らすも反応はなく、シャッターを叩いてみても、中から人が来る様子はない……。

 

 というか、そもそもこの店からは、営業している気配そのものが感じられない。完全に閉店した店のようだった……。

 

 

澪「そんな……どうして??」

 

 まさか、閉店……? とは考えられないだろう。昨日、担当から言われた店はこの名刺の店だったのだから。

 

 

澪「ど……どうしよう……」

 

 一度会社に連絡を入れて指示を仰ごうかと、通りに出てカバンからスマホを取り出したその時だった。

 

 

 ――どんっ

 

 

澪「うわっ!」

 

声「きゃっ!」

 

 突然、澪の身体に強い衝撃が走る。何が起こったのかと思った刹那、誰かが自分にぶつかったのだと言うことを理解し、澪はぶつかってしまった女の子に声をかけていた。

 

 

澪「ご、ごめんなさい! 怪我はない?」

 

女の子「痛たたた……っ」

 

 年の頃は自分よりもずっと下だろう、高校生ぐらいだろうか、桃色の髪に流行り物の服が似合う女の子が尻もちをつき、涙目で座り込んでしまっている。

 

 それに続くように、女の子の友達だろう、眼前の女の子と同世代と見られる3人の少女達がこちらに向かってくるのが見えた。

 

 

女の子A「ひまり、大丈夫?」

 

女の子B「も~。ひーちゃんトロすぎー」

 

女の子C「まったく、前をよく見て歩かないからだぞ」

 

女の子D「あいたたた……す、すみません!」

 

澪「ううん、良かった、怪我はなさそうだね」

 

 女の子に怪我がなかったことにほっとし、安堵する澪。……その時だった。

 

 

 ――びゅううぅぅっ

 

 先程ぶつかった際の衝撃で肩から落ちたのだろう、運悪く開かれたカバンからは資料や書類が道に散乱し、それらが風に乗って四散していた。

 

 

澪「あ……あああああ!! 書類が!! 大事な資料が!!!」

 

女の子A「大変、急いで拾わないと!」

 

女の子B「もー、ひーちゃんのせいだからねー」

 

女の子C「いいからモカも拾うの手伝え! ひまり、そっち行ったぞ!」

 

女の子D「はーい!」

 

 それから、女の子たちの協力もあり、澪が落とした書類は、奇跡的に1枚の汚れも紛失もなく、澪の手に収められた。

 

 

澪「……うん、抜けはないな……あ~~、良かったぁ……」

 

 書類の枚数を確認し、カバンに仕舞い、同じ轍を踏まぬよう、しっかりと封を閉じる。

 

 

女の子D「本当に、すみませんでした!」

 

澪「ううん、こちらこそありがとう、本当に助かったよ。……ごめんね、私の不注意でぶつかっちゃって」

 

女の子D「そんな、私の方こそ前をよく見てなかったから……」

 

 などという会話が続くことしばらく、ふと澪は思い立ったことを口にする

 

 

澪(この子達、もしかしてこの辺りの子かな……)

 

澪「えっと、君たちって、この辺の子?」

 

女の子A「はい、まぁ……子供の頃からこの街で暮らしてますけど」

 

女の子C「アタシ達に、何かご用ですか?」

 

澪「……うん、あの……このお店なんだけど、知ってるかな?」

 

 これから伺う筈だった雑貨店の名刺を差し出し、澪は自分の状況を説明する。

 

 すると……。

 

 

女の子D「あー、私、このお店知ってます! 一昨日お引越ししてました!」

 

澪「え、それ本当?」

 

女の子D「はい! よかったらご案内しますけど……」

 

澪「うん、助かるよ、ありがとう」

 

 

 会社の営業担当がここに来たのは確か先週だ、その間に店舗が変わり、住所も電話番号も変更されたのだろう。

 

 今時にしては珍しく、ホームページもSNSのアカウントも無い会社なので、移転の情報が澪に入らなかったのも頷ける。

 

 渡りに船とはこの事で、すぐさま澪は女の子達に店への案内をお願いしていた。

 

 

 ――その雑貨店へ向かう道中、ひまりと呼ばれていた女の子が澪に問いかける。

 

 

ひまり「あの、お仕事って、何をされてるんですか?」

 

澪「うん、女の子向けにファンシー雑貨を作ってお店に紹介したり……そんな感じの仕事だよ、こういう会社なんだけど、知ってるかな?」

 

 澪は自分の名刺を取り出し、ひまりに手渡す。

 

 

ひまり「あー、私、この会社知ってます! 『スッポンモドキのおトンちゃん』シリーズ、私も持ってます!」

 

澪「ありがとう、あのシリーズ、私が考案したんだ」

 

ひまり「えっ、そうだったんですか?」

 

澪「うん、買って貰えて嬉しいよ、ありがとうね」

 

ひまり「ふふふっ……なんだか感激しちゃうなぁ……ねえ、巴もそう思わない?」

 

 ひまりに振られ、今度は巴と呼ばれた女の子が返す。

 

 

巴「うん、なんていうか……働く女の人って憧れるよなぁ」

 

ひまり「うんうん、私も、働いてる女性って、ステキだと思います!」

 

澪「……そんな大袈裟な、別に大したことじゃないよ」

 

 人は生活の為、家族の為、自分の為、嫌でも社会に出れば働きに出なければならない。それは古今東西問わず、今も変わらない。

 

 かく言う澪も、この子達と同じぐらいの歳の頃には、その意味を漠然としか理解していなかったのだが……。

 

 

澪(なんていうか……若いよなぁ……)

 

 人で賑わう商店街を楽しそうに歩くひまりと巴を見ながら、澪はそんな事を考えていた。

 

 

女の子A「この人……」

 

女の子B「らーん、どうかした?」

 

女の子A「ううん……別に」

 

女の子A(……似てる)

 

―――

――

 

【花咲川商店街 ファンシー雑貨店前】

 

 ひまり達の案内により、ようやく澪は真の目的地へと辿り着く。

 

 店内には多くの若者が入り乱れ、小洒落た店内ポップには先程の話にもあった『スッポンモドキのおトンちゃん』シリーズの告知もされ、賑わいを見せていた。

 

 

ひまり「着きました、ここですよ」

 

澪「みんなありがとう……今度会ったら必ずお礼するよ」

 

ひまり「いえいえっ♪ それでは、お仕事頑張ってください!」

 

巴「もし良かったら今度は仕事じゃなく、是非遊びに来てください、おいしいお店紹介しますよ」

 

澪「うん、本当に助かったよ……それじゃあね」

 

 4人にお礼を言い、澪は真新しい空気の漂う店内へと入っていく。

 

 店内に入る澪の後姿を見送り、4人の少女達は口々に声を交わしていた。

 

 

蘭「やっぱり、似てた」

 

モカ「似てたって、なにが?」

 

蘭「うん……あの人の声、巴にそっくりだった」

 

巴「え、アタシに?」

 

ひまり「あー、私も思ってたんだ、あのお姉さんの声、巴によく似てたよね」

 

巴「アタシの声って、あんなに綺麗だったか?」

 

ひまり「……あのお姉さん、かっこいい人だったね」

 

巴「ああ、また、会えるといいな」

 

モカ「うんうん、お礼もしてくれるって言ってたしね~」

 

蘭「ふふっ……モカったら……」

 

ひまり「みんなー、そろそろ行こうよ、ショッピングモールで買い物してから、つぐのお店に行くんでしょ?」

 

モカ「あー、ひーちゃん待ってー」

 

巴「ったく、ひまりー! 走るとまたぶつかるぞー!」

 

 そして少女達……Afterglowの4人は歩き出す。

 

 彼女達はまだ知らない。

 

 澪と彼女達の間にある繋がりを……まだ、知らない――。

 

―――

――

 

【ファンシー雑貨店 事務所】

 

 店内に入った澪は店主の案内のもと、店の奥、事務所の一室へと入っていった。

 

 

店主「いやぁーすみません、店を移転したこと、お伝えしてなくて……」

 

澪「いいえ、地元の子に教えていただいたので着くことが出来ましたし、大丈夫ですよ」

 

店主「ああ、あの子達ですか……いい子達でしょう、商店街の人気者なんですよ」

 

澪「ええ……みんな優しくて、元気があって……ここは、本当に良い街ですね……」

 

店主「はははっ……そうでしょうそうでしょう、いやね、商店街で流れてる音楽も、あの子達とは違う子が作ってくれまして……」

 

澪「え、そうなんですか?」

 

店主「ええ……ああいう若い子たちに支えられて、私達はこうして今日も営業が続けられているんですよ……」

 

 優しい目で店主は言う。

 

 そして会話も程なく、仕事の話が進められる。

 

 

澪「……早速ですが、新商品のご説明をさせていただきます」

 

店主「ええ、よろしくお願いします」

 

澪「今回の弊社の新商品のアピールポイントですが……」

 

 澪の説明を、頷きながら店主は聞く。

 

 資料と自身の知識を元に商品説明をし、時折振られる質問にも適切丁寧に答え、澪は新商品のプレゼンを行っていく。

 

 営業担当とは違う、制作担当ならではの着眼点によるプレゼンに店主は興味を示し、次々と話は進んでいった。

 

 

澪「この辺りには女子校が2校ありますし、両校の長期休暇に合わせて告知していけば、この商店街でも大きくアピールできると思います」

 

店主「うんうん……いやいや、よくリサーチされてる、さすがだと思いますよ」

 

澪「はい、どうもありがとうございます」

 

店主「いやー、秋山さん、今日はありがとうございました。あとはお店の皆と相談して、後日改めてお話に伺いますね」

 

澪「はい、ご検討のほど、どうぞよろしくお願い致します」

 

 話は纏まり、澪のプレゼンが終わる。

 

 店主から前向きな返答を頂けたことに確かな手応えを感じ、澪は安堵の息をつく。

 

 

店主「では、社長と営業さんにもによろしくお伝えください、秋山さん、本日はありがとうございました」

 

澪「はい、こちらこそありがとうございました。 ……失礼します」

 

 

 ――ばたんっ

 

澪「ふぅ……」

 

澪(終わった……緊張したけど、どうにかプレゼンできた……良かったぁ)

 

 1時間程度のプレゼンは終わり、澪は雑貨店を後にする。

 

 そして会社の共有グループに報告のメッセージを入れ、時計を見る。

 

 

澪(もうお昼か……この辺りで何か食べてこうかな)

 

 時刻は昼過ぎ、時間もあるし、昼食がてらにどこかで休憩しようと思い、澪は商店街を歩く。

 

 そして商店街を探索することしばらく、焼き立てのパンの香り漂うベーカリーショップや揚げたてのコロッケが並ぶ精肉店のある通りで、澪は立ち止まっていた。

 

 

澪「喫茶店か……うん、ここにしよう」

 

 “羽沢珈琲店”という店名の書かれた喫茶店の戸を開ける。

 

 空調が効き、隅々まで掃除の行き届いた店内からはコーヒーの良い香りが漂ってくる。微かに聞こえるお客さんの声も良い感じのBGMとなり、店の雰囲気に溶け込んでいた。

 

 そして店に入った直後、店員と見られる少女の元気な声が店内に響いて来る。

 

 

【羽沢珈琲店】

 

店員「いらっしゃいませ! お客様、一名様でよろしいですか?」

 

澪「はい」

 

店員「かしこまりました、こちらへどうぞ♪」

 

 店員の案内に誘われ、澪はテーブルへ向かう、その時だった。

 

 

声「あれ……?」

 

澪「ん……? あっ……さっきの……」

 

 店員の案内で澪が座った席のその隣のテーブル。

 

 そこには、先程澪を雑貨店に案内してくれた、4人の少女達の姿があった。

 

 澪の来店に驚きを露わにし、少女達は澪に話しかける。

 

 

ひまり「え? ええええ???」

 

蘭「……どうも」

 

モカ「おー、さっきのお姉さんだ、こんにちわー」

 

巴「びっくりした、こんなにすぐ会えるなんて思いませんでしたよ」

 

店員「え? なに、みんな知り合いなの?」

 

モカ「ふっふっふー、実は今朝、このお姉さんの絶体絶命の危機を、みんなで救ってたのだよー」

 

蘭「絶体絶命って……モカ、話盛りすぎ」

 

澪(……世の中って、案外狭いんだなぁ)

 

―――

――

 

澪「コーヒーと、サンドイッチと……あと、隣のテーブルの子達に……このケーキセットをお願いします」

 

店員「はい、コーヒーに、サンドイッチに……蘭ちゃん達にケーキセットですね、ありがとうございますっ」

 

 メニューを手に澪は次々と注文を済ませ、店員の少女がそれを伝票に書き加えていく。

 

 

ひまり「そんな、いいんですか?」

 

巴「なんか、悪い気がするなぁ」

 

蘭「そうですよ、別に……そこまでしてもらう程のこと、してないと思います……」

 

澪「ううん、今度会ったら必ずお礼するって言ったでしょ、だから約束は守らせてくれないかな」

 

 遠慮がちな少女達に向け、優しく澪は返していた。

 

 

蘭「あ、ありがとうございます……」

 

モカ「ありがとうございまーす」

 

巴「すみません、いただきますっ!」

 

ひまり「かっこいい……あ、ありがとうございますっ」

 

 そして、彼女達にちゃんとした自己紹介もしていなかったことを思い出し、澪は名刺を手に、彼女達の方を向く。

 

 

澪「そういえばまだ自己紹介もしてなかったね、秋山澪です。桜が丘で、ファンシー雑貨の制作をやってます」

 

 二度自身の名刺を一人ひとりに手渡しつつ、自己紹介をしていた。

 

 澪の名刺を受け取り、ひまり達も澪に向け、自己紹介をする。

 

 

蘭「……美竹蘭です」

 

モカ「青葉モカでーす、みんなからはモカって呼ばれてまーす」

 

巴「宇田川巴です、秋山さん、よろしく」

 

ひまり「上原ひまりです! えっと……あ、秋山さん! よろしくお願いします!」

 

 生まれて始めて名刺を手渡されたことで緊張してしまったのか、若干表情が固くなる4人だった。

 

 そんな彼女達の様子を察し、緊張を解す為、澪は言葉を重ねる。

 

 

澪「あー……その、もし良かったらみんな、私のことは気軽に名前で呼んでくれてもいいよ? もう知り合いだしさ。私もみんなのこと、名前で呼んでもいいかな?」

 

 自身の周囲に漂うぎこちない空気を取り払うように、優しく言葉を発する澪。

 

 その気遣いに応えるように、ひまり達もまた、親しみを込めて澪に接するのだった。

 

 

巴「はい、もちろんです! 改めてよろしくお願いします、澪さん」

 

ひまり「澪さん、よろしくお願いします!」

 

蘭「そっか、澪さん、桜が丘から来てるんですね」

 

 蘭達の暮らす花咲川と、澪の暮らす桜が丘は、およそ電車で1時間程度の距離がある。

 

 そう遠い距離ではないが、理由もなく立ち寄れるほど近いというわけでもなかった。

 

 

モカ「桜が丘かぁ……」

 

蘭「モカ、知ってるの?」

 

モカ「うん、桜が丘にあるスタジオの近くにはね、それはそれは美味しいパンを焼いてくれる喫茶店があるって話なんだー」

 

モカ「だから、いつかは行ってみたいと思ってたんだぁ~、えへへへへ~」

 

 じゅるりと涎を垂らしながらモカは言う。

 

 

澪「あのお店、私もよく行くんだ。もし良かったら今度買ってくるよ」

 

モカ「わぁぁ……あ、ありがとうございますー」

 

ひまり「それに、桜が丘といえば高校の制服、すっごく可愛いって評判なんだよね」

 

澪「……そうなの?」

 

ひまり「はい、制服目当てで桜高を受験する子も結構多いんですよ」

 

澪(……あの制服、そんなに人気だったのか)

 

巴「それで今日は、仕事で桜が丘から来てくれたんですよね」

 

澪「うん、そうなんだ……あ、みんなさっきは本当にありがとう。おかげですごく助かったよ」

 

ひまり「えへへっ、よかったです」

 

巴「ああ、案内した甲斐があったな」

 

モカ「ふっふっふー、モカちゃんたちのお手柄~」

 

 澪と蘭達の間に和やかな雰囲気が流れてくる。

 

 それから数分後。トレイに注文した品を乗せ、店員の少女がテーブルにやってきた。

 

 

店員「お待たせしました、コーヒーと、サンドイッチのセットになります、あと、こちらがケーキセットになりますっ」

 

澪「ありがとうございます」

 

モカ「おー、きたきたー」

 

店員「それと、私もお邪魔していいですか?」

 

巴「つぐ、今から休憩?」

 

店員「うん、お母さんに言って休憩もらったんだ」

 

 そして、つぐと呼ばれた少女は澪に向き合い、自己紹介をする。

 

 

つぐみ「はじめまして、羽沢つぐみです。お姉さん、蘭ちゃん達とお知り合いだったんですね」

 

澪「はじめまして……もし良かったら、つぐみちゃんも好きなのどうぞ」

 

 メニューを手に、澪はつぐみに差し出す。

 

 

つぐみ「え、私もいいんですか?」

 

澪「うん、みんなにもご馳走したし、これも何かの縁ってことで、ね」

 

つぐみ「あ、ありがとうございますっ」

 

 澪の言葉をありがたく頂戴し、つぐみは厨房にいる母親にケーキの追加注文を済ませ、再び席に着く。

 

 

澪「今朝はみんなのおかげで助かったよ、本当にありがとうね」

 

モカ「お仕事、どうでしたー?」

 

澪「うん、バッチリ、上手く行ったと思うよ」

 

巴「それは良かったです、澪さんの仕事が上手く行って、アタシ達も案内した甲斐がありましたよ」

 

モカ「やっぱり、大人になってからやる仕事って、大変なのかなー?」

 

ひまり「う~ん、どうなんだろう……澪さんはお仕事、楽しいですか?」

 

 自分達より歳上の女性と話す機会がそう無いのか、次第にひまり達の興味は澪の仕事へと移っていく。

 

 

澪「仕事は……そうだなぁ……大変なこともあるけどやっぱり楽しいよ、好きで選んだ仕事だから、やりがいだってあるしさ」

 

蘭「やりがい……ですか」

 

澪「うん、自分達で何日も話し合って、苦労して作ったものがお店に並べられて、それをひまりちゃん達ぐらいの子が喜んで買ってくれるのを見た時は、この仕事やってて良かったって思う」

 

澪「こんな私でも、世の中の役に立ててるのかなって……そう思うんだ」

 

つぐみ「お母さんも言ってました、私のケーキをみんなが美味しそうに食べてくれることが、この仕事の一番の楽しみだって」

 

巴「アタシも、バイトしててお客さんにお礼言われた時、すっげー嬉しかったな」

 

澪「ああ、ごめんね、なんだか自分の話ばかりで……みんな、今日は学校お休みなの?」

 

ひまり「はい! 今日は、創立記念でみんなお休みなんですよ」

 

巴「澪さんを送ったあと、みんなで買い物して、ちょうどここでお茶してたところなんです」

 

モカ「それでこのあと、5人でバンドの練習もするんですよー」

 

澪「……バンド?」

 

 バンドという単語に、澪の眉が僅かに動く。

 

 

ひまり「私達、バンドを組んで音楽をやってるんです♪」

 

澪「……そう、なんだ」

 

つぐみ「はい! 実は来週、近くのライブハウスで大きなイベントがあるんですよ!」

 

 次第に、話題は彼女達のバンドの話へと移っていく。

 

 自分達が幼馴染同士で、Afterglowというバンドを結成し、来週、大きなライブを控えているということ。

 

 今日はその打ち合わせと、この後スタジオで練習を控えているということ。

 

 そんな彼女達の話を聞きながら、澪は昔を思い返していた。

 

 

澪(バンドか……懐かしいな)

 

 澪の脳裏に蘇る、昔の記憶。

 

 一人の幼馴染に誘われるがままにベースを買い、日夜練習に励んだこと。

 

 高校に入って間もなく、その幼馴染と共に軽音楽部を立ち上げ、メンバーを募集し、合宿に行ったり、学園祭でライブをしたこと。

 

 他にも新歓ライブ、遥か海を渡ったロンドンでの演奏、卒業ライブ……そして、毎日のように行われた、放課後のティータイム。

 

 お茶にケーキを囲って過ごした高校時代の情景が瞼の裏に浮かび、自然と口元が僅かに緩んでいく。

 

 隣のテーブルで広げられる光景にかつての自分の姿を重ね、澪は彼女達の話に静かに耳を傾けていた。

 

 

蘭「そういえばまりなさん、大丈夫かな……ゲスト、呼んできてくれるかな」

 

モカ「まー、なんとかなるんじゃないの?」

 

巴「スペシャルゲストか……一体どんな人が来るんだろうな」

 

ひまり「かっこいい人達だといいなぁ~」

 

つぐみ「楽しみだよね……今からワクワクしちゃうなぁ」

 

ひまり「あの、澪さんはバンドとか、興味ないですか?」

 

澪「ううん……実は私も高校の頃、幼馴染に誘われて……軽音部でバンドを組んでたことがあったんだ」

 

蘭「えっ……? そうだったんですか?」

 

巴「ち、ちなみに、パートは何やってたんですか?」

 

澪「ベースだよ、昔は結構弾いてたんだ」

 

ひまり「わぁ、わ、私と一緒だー! 嬉しいなーっ♪」

 

 眼前の女性がバンドを組んでいたこともさる事ながら、その女性が自分と同じ楽器を担当していたことに対し、ひまりは喜びを露わにする。

 

 それは他の4人も変わらず、澪がバンドを組んでいたことにある者は驚き、またある者は興味を惹かれていた。

 

 

澪「ふふっ、懐かしいなぁ……みんなの話を聞いてたら昔を思い出したよ」

 

ひまり「澪さん、綺麗だから演奏も凄くかっこいいんだろうなぁー」

 

澪「そんな……むしろ私なんて上がり症で、全然だったよ……」

 

 実際の評判はさておき、澪は話を続ける。

 

 

澪「でも、そんな私を受け入れてくれて、みんなで毎日部活やって……楽しかったな」

 

蘭「…………」

 

 懐かしむように澪は昔を振り返る……。

 

 そんな風に話す澪を見ながら、ふと、蘭の中にある疑問が浮かび上がる。

 

 その心に抱いた疑問を言葉に変え、蘭は澪に投げかけた。

 

 

蘭「あの……澪さん」

 

澪「……ん?」

 

蘭「その……澪さん、今はバンドやってないんですか?」

 

澪「うん……みんな生活や仕事が忙しくて、なかなか会う機会も取れなくなってね」

 

 少し寂しそうな眼をしながら、澪は続ける。

 

 そんな澪の顔を見つつ、僅かに蘭の表情が曇っていく。

 

 

蘭「そうなんだ……やっぱり大人になると、いつまでも変わらず……『いつも通り』って訳には行かないものなのかな」

 

つぐみ「蘭ちゃん……」

 

 いつまでも子供のままではいられない。時が来れば、嫌でも人は成長し、大人になっていく。

 

 そして、大人になれば今の自分と周囲の環境も自然と変わっていく……。それは、蘭が高校に入学した時に体験したことでもあった。

 

 いつの日か、自分達が学校を卒業し、大人になった時、やはり自分達の関係も変わってしまうのか……?

 

 環境が変わってしまう事への不安が、蘭の胸をちくりと刺す。

 

 だが、次に澪が言った言葉に、蘭はその考えを改める事になる。

 

 

澪「うーん、どうだろう」

 

澪「確かに会う機会は減ったけど、それで関係が消えたってわけじゃないからなぁ」

 

蘭「…………」

 

澪「そりゃあ、学生の時みたいに毎日会ってって事はなくなっちゃったけど……それでも、たまに会うと、みんな学生の時とそんなに変わってないんだ……特に私の幼馴染なんてまさにそうでさ」

 

澪「だから、大人になったからと言って、何もかも変わるってわけじゃないと思うよ」

 

蘭「…………」

 

澪「……それに、あいつらと私は、数年会わないだけで消えちゃうような、そんな寂しい仲じゃないって、少なくとも私は思ってる」

 

 そう、自信を込めて澪は言ってのける。

 

 その言葉には一切の迷いがなく、澪の仲間への確かな信頼と自信が込められていた。

 

 澪の話を聞き、蘭は優しく微笑み、一礼する。

 

 

蘭「うん……澪さん、ありがとうございます」

 

 たとえ卒業して離れたとしても、それで関係が消えてなくなるわけじゃない。

 

 その言葉が、蘭の中に芽生えかけた不安を優しく解いていた。

 

 

巴「もー、蘭、気にしすぎだって……大人になったからって、アタシ達が蘭の前から消えるわけないだろー?」

 

モカ「そうそう、大人になっても、モカちゃんはずーっと蘭と一緒だよ~」

 

ひまり「卒業して大人になっても、私達は私達……『いつも通り』の、みんなだよっ」

 

つぐみ「うふふっ……でも私、蘭ちゃんがそう思ってくれてて、すごく嬉しいよ」

 

蘭「みんな……うん……そう、だよね」

 

澪(いい子達だな……みんな)

 

 

 ――隣のテーブルに映る少女達の瞳は、眩しいほどに輝いているように澪には見えていた。

 

 彼女達が掲げた誓いは、彼女達が思う以上に儚く、難しい誓いでもある。

 

 でも、この子達ならきっと出来るだろう。

 

 私のように、時の流れに翻弄される事もなく、今ある瞳の輝きを守って行けるだろうと……澪は確信していた。

 

―――

――

 

 そして、澪がAfterglowの5人とお茶を交わすことしばらく。

 

 次の仕事の時間が来た事もあり、伝票を持ち、澪は席を立つ。

 

 

澪「それじゃ、みんな今日は本当にありがとう、バンド活動、がんばってね」

 

ひまり「あ……あの澪さん! もし良かったら、今度のライブ、澪さんも来てくれませんか?」

 

澪「私も、いいの?」

 

蘭「はい……澪さんにも、私達の歌、聴いて貰いたいと思います」

 

巴「アタシのドラム、結構評判いいんですよ」

 

モカ「ふっふっふー。あたしのギターテクを見たら、きっと澪さんもモカちゃんの虜に~」

 

つぐみ「みんな、頑張って練習したんですよ」

 

ひまり「なので、もし良かったら、澪さんにも聴いてもらいたいと思いますっ」

 

 言いながらひまりは一枚のフライヤーを澪に手渡す。

 

 そのフライヤーを受け取り、澪もまたひまりに言葉を返していた。

 

 

澪「……ありがとう、うん。なんとか時間作って行けるようにするよ」

 

ひまり「はい! よろしくお願いします!」

 

つぐみ「では、お会計お預かりします、ありがとうございました! ごちそうさまでした!」

 

一同「ごちそうさまでした!」

 

 皆がケーキをご馳走してくれたお礼を言い、澪を見送っていた。

 

 彼女達の礼に片手を上げ、澪は別れを告げる。

 

 

 ――その帰り道。

 

 

澪「いい子たちだったな……あの子達のライブ、律も誘って行ってみようかな……」

 

 やや傾きつつある陽光を浴びながら、澪は駅方面へと歩き出す。

 

 ほどなくして会社に戻り、報告を済ませ、残りの仕事に取り掛かる。

 

 そして、時刻は定時を迎え、街に西日が差し掛かる頃――。

 

 

澪「お疲れ様でした、お先に失礼します」

 

 一足先にタイムカードを切り、澪は会社を後にする。

 

 その道すがら、携帯を手に電話を掛ける……相手は、先程話に上がった幼馴染だった。

 

 

澪「……ああ、律か? 今日、忘れてないよな…………うん、私も今から向かうよ、それじゃ、また後でな」

 

澪「ふふっ……みんな、元気にしてるかな」

 

 足取り軽く、澪は夕暮れに染まる街を歩く。

 

 かつての仲間達の集う所へ向けて、その足は自然と速まりつつあった――。

この物語で特に評価できる点があれば教えて下さい

  • 大人になったけいおんキャラを描いた所
  • 作品の枠を超えたキャラの掛け合い
  • 随所で見られる原作小説とゲームネタ
  • ライブの選曲
  • 『輝き』というテーマ
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