【バンドリ×けいおん】唯「バンドリ?」香澄「けいおん?」   作:キラ@創作垢

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 ――高校生の頃から、私の毎日には音楽があった。

 それは、今も変わる事なく続いていた……。

 私が今でも私のままでいられるのは、きっと、音楽があったからだと思うんだ。


 あの日、何かをしなきゃって思っていた私に応えてくれた音楽が。

 何をしたらいいのか分からず、迷っていた私を導いてくれた音楽が。

 あの頃の私を、みんなに会わせてくれた音楽が。

 今の私を、あの子達に会わせてくれた音楽が。


 私を、みんなと繋いでくれた音楽が私は……大好き―――!!


#2-5.放課後の邂逅~平沢唯~

 

 

 

 

―――

――

―

 

 その日、Poppin'Partyのメンバーもとい、花咲川女子学園高校2年の5名は、朝早くから電車に揺られ、花咲川から遠くの桜が丘へとやって来ていた。

 

 今日の集合は、バンドの練習でもなければ、決して遊びに来た為でもない……学校の授業の一環として……である。

 

 

【桜が丘 駅前】

 

有咲「ふあぁぁ………眠……」

 

 慌ただしく駅前を往来する人々を見ながら、欠伸混じりに有咲はぼやいていた。

 

 

有咲「しっかしなー……せっかくのテスト休みだってのに、なーんで職場体験なんてやんなきゃいけねーんだ?」

 

たえ「仕方ないよ、日数調整の結果、そうなっちゃったみたいだしさ」

 

りみ「でも、私は嬉しいなぁ、ポピパのみんなで職場体験、楽しみだったんだっ」

 

沙綾「しかも、幼稚園の職場体験なんてね……ふふっ、私も楽しみにしてたんだ」

 

たえ「有咲は、楽しみじゃなかったの?」

 

有咲「べ、別にそんな事言ってねーだろ……つか……香澄のやつ、遅っせえな……」

 

 照れ隠しにそっぽを向く有咲だった、その時である。

 

 

声「ごめーーん! みんな、お待たせー!」

 

 人波を掻き分け、一際元気な声が有咲達の耳に届く。

 

 確認するまでもなく、それが戸山香澄の声だと言うことを、その場の4人は理解していた。

 

 

有咲「遅いぞ香澄……って、なんでお前ギターなんか持って来てんだよっ!?」

 

 叫ぶ有咲の目線の先……そこには、肩で息を切らす香澄と、そんな香澄に背負われた、香澄愛用のギターが目に留まっていた。

 

 

香澄「いやー、持って来るのに時間かかっちゃって……」

 

有咲「だからって……そんなもん普通は持って来ねえだろ……邪魔になるとか考えなかったのかよ」

 

沙綾「まぁまぁ……確かに、案内にも、具体的に何を持ってくるかまでは明記されてなかったもんね」

 

 沙綾が先日配られたプリントを見ながら言う。

 

 そこには『幼稚園に職場見学に行く生徒は、エプロンを一着と、園児と一緒に遊べるものを一つ持って来て下さい』という一文が添えられていた。

 

 

香澄「幼稚園の子たちと一緒に遊べそうなものって言えばこれしか思い浮かばなくて……みんなは何持ってきたの?」

 

りみ「私は……小さい頃に、よくお姉ちゃんと一緒に遊んだお絵かきセットを持ってきたんだー」

 

沙綾「私は弟達が小さい頃に遊んでたオモチャをいくつかね、だいぶ古いけど、まだ遊べると思うよ」

 

たえ「私は、ウサギのお人形さんセットを持ってきたの、『ゴルドニアファミリー』……すっごく可愛いんだよ」

 

有咲「昔、婆ちゃんによく読んでもらってた絵本があったから、私はそれを持ってきた」

 

香澄「みんな偉いね……ちゃんと準備してたんだ……」

 

 各自、きちんと準備をしていたことに感心する香澄だった。

 

 

有咲「へっ、香澄のことだからどうせ、準備のことなんかすっかり忘れて……んで、今朝になって慌てて用意したってトコなんだろうけどな」

 

香澄「有咲すっごーい! ねえねえ、なんで分かったの?」

 

有咲「お前のことだからなんとなく分かるんだよっ!」

 

たえ「ふふっ、有咲は香澄のこと、何でもお見通しだね」

 

有咲「だーーー! うっせー! いいから早く行くぞ!」

 

 赤面し、照れ隠しに叫ぶ有咲。

 

 そんな有咲に続き、歩を進める4人だった。

 

 

【桜が丘幼稚園】

 

 駅から歩いて数分、プリントに記載された地図を頼りに、香澄達5人は目的地の幼稚園へと到着していた。

 

 まだ開園の時間には早いのか、園内には教員の姿しかおらず、建物の中はがらんと静まり返っている。

 

 静かな園内を通り、職員室へと案内された香澄達は、幼稚園の先生達に向け、挨拶をしていた。

 

 

香澄「花咲川女子学園高校から来ました、今日は職場体験でお世話になります、よろしくお願いしますっ」

 

一同「よろしくお願いしまーす!」

 

園長「はい、お話は伺っておりますよ、こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 園長と見られる教諭に挨拶を交わし、香澄達は自己紹介をする。

 

 ――そして。

 

 

園長「それでは、今日一日、皆さんの担当をさせていただく先生です、平沢先生、どうぞよろしくお願いします」

 

声「はーいっ」

 

 園長の声に合わせ、一人の女性がデスクから立ち上がり――。

 

 

唯「平沢唯です、今日一日、よろしくお願いしまーすっ」

 

 茶髪をボブカットに切り揃えたエプロン姿の女性……平沢唯は香澄達の元へと向かい、自己紹介をする。

 

 

香澄「戸山香澄ですっ、平沢先生、今日はよろしくお願いしますっ」

 

たえ「花園たえです、今日一日、お世話になります」

 

りみ「牛込りみです、よろしくお願いしますっ」

 

沙綾「山吹沙綾です、平沢先生、こちらこそよろしくお願いします」

 

有咲「市ヶ谷有咲です、こちらこそよろしくお願いします」

 

園長「では平沢先生、彼女達のことをよろしくね」

 

唯「はいっ! かしこまりましたっ」

 

 園長の声に元気な返事をし、唯は準備に取り掛かる。

 

 そんな唯の様子を見て、香澄達は口々に言葉を投げ合っていた。

 

 

香澄「平沢先生、すっごく優しそうな先生だねー」

 

沙綾「うんうん、子供に好かれそうな感じがするね」

 

りみ「ほんわかしてて、暖かそうな先生だね……」

 

たえ「うん……今日一日、すっごく楽しくなりそう」

 

有咲「あの人、私達より年上だよな……なんか、全然そんな雰囲気しないんだけど」

 

園長「では平沢先生、園児が来るまでに、このプリントをあの子達に配っておいてね」

 

唯「あ、はーい……ん?」

 

 唯がプリントを園長から受け取ろうとした時……ふと、香澄達の視線に気付く。

 

 その目線がプリントの束から香澄達に向けられた時だった。

 

 

 ――ばさささっ

 

 余所見をしたせいもあり、手渡されたプリントが床に落ちていた。

 

 

唯「ああー、すみませんっ!」

 

有咲(テンポ悪っ……)

 

園長「あらあら……大丈夫?」

 

唯「はい……えっと、あと1枚……」

 

 デスクの下に滑り込んだプリントを拾い、唯が立ち上がろうとした時。

 

 

 ――ごちんっ

 

唯「あいたっ!」

 

 小気味の良い音と共に、デスクに頭をぶつけていた。

 

 

有咲「しかもドジっ子……あんなんで本当に大丈夫なのか……職場体験」

 

唯(何か……前にもこんな事あったような気が……)

 

 頭を擦っては目元に涙を浮かべつつ、ふと昔の事を思い返す唯だった――。

 

―――

――

―

 

【空教室】

 

唯「えっと、それじゃあ園児たちが来るまでの間に、色々と説明しとこうと思うんだけど……」

 

 プリントを手に説明を始めようとしたその時、ふと、唯の目線が香澄のギターに止まる。

 

 

唯「その大きな荷物は……もしかして、ギター?」

 

香澄「はいっ! 子供たちと遊べそうな物を持ってくるようにって言われたので、持ってきたんです」

 

唯「ふふっ、そうなんだ……」

 

 ふと、ギターを見つめながら唯は言葉を止める。

 

 そんな刹那の静寂の中、有咲が香澄に向けて言葉を放っていた。

 

 

有咲「それ見ろ、あんなでっかい荷物、やっぱり邪魔だったんじゃねーか?」

 

香澄「ううぅぅ……だ、ダメだったのかなぁ」

 

唯「あ、ううん! そんなんじゃないよ、戸山さん、ギターやるんだね」

 

香澄「はい……」

 

 やや落ち込んだような顔で唯を見る香澄だった。

 

 そんな香澄に向け、唯は微笑みながら言葉を返す。

 

 

唯「もし良かったら、あとでみんなの前で弾いてみてくれないかな? 楽しみにしてるね♪」

 

香澄「あ……は、はいっ!」

 

たえ「なんか、大丈夫みたいだね」

 

有咲「…………」

 

 それから唯により、プリントを元に幼稚園の一日の流れや、施設の案内を進められること数分。

 

 程なくして、通園する園児達の出迎えの時間が迫っていた。

 

 

唯「じゃあ、荷物はここに置いて……まずは、幼稚園に来る子供たちのお出迎え、行ってみよっか?」

 

香澄「はーいっ!」

 

 唯に連れられ、持参したエプロンを身に着けた香澄達は正面玄関へと向かう。

 

 広い玄関先には、バスの送迎で来園した園児の他、保護者に手を引かれて来る園児など、既に多くの園児と教諭達とで溢れかえっていた。

 

 

園児A「せんせー、おあよーございます」

 

唯「はーい、陸くんおはようーっ」

 

園児B「ひらさわせんせー、おはよー!」

 

唯「うん、海くんおはよー! 今日も元気だねー♪」

 

園児C「ゆいせんせー! きょうもおうたのじかん、ある?」

 

唯「うんっ! 空くんの大好きなお歌、今日もやるよー! 楽しみに待っててねっ♪」

 

沙綾「……………………」

 

りみ「……? 沙綾ちゃん、どうかしたの?」

 

沙綾「えっ……? あ、ううん……別になんでもないよ」

 

 多くの園児がまず最初に唯に駆け寄り、元気な挨拶をしていた。

 

 その光景から、唯が多くの園児から慕われているということが香澄達にも伝わって来る。

 

 

香澄「平沢先生、子供たちの人気者なんだねー」

 

沙綾「うんうん、みんな、先生の事が大好きなんだってのがよく分かるよね」

 

唯「ほら、よかったらみんなも挨拶してあげて?」

 

香澄「はいっ! みんなー! おっはよーっ!」

 

沙綾「おはよー! みんな、今日はよろしくねー!」

 

りみ「おはよー、みんな元気だねー」

 

たえ「おはよー、ふふっ……みんな可愛いなぁ」

 

有咲「なんか……こういうの照れるな……」

 

園児D「ねえねえ、おねえちゃんたち、だーれー?」

 

唯「お姉さんたちはねー、今日、みんなと遊びに来てくれたんだー」

 

園児D「ふーん、そーなんだ、おねえちゃんっ! おはよーっ」

 

 園児の一人が有咲に向け、元気な挨拶をする。

 

 

有咲「お、おはよー」

 

 無邪気な笑顔の園児に対し、有咲もまた、笑顔を作って挨拶を交わす。

 

 その時だった……。

 

 

園児D「ていっ」

 

 ――むにっ

 

 突如、無防備な有咲の胸目掛け、園児の手が伸ばされる。

 

 

有咲「ひゃっ…………! な、ななななななな何を!?」

 

 反射的に触られた胸を両手で抑え、赤面する有咲。

 

 そして、その小さな手に残った感触を確かめるようにして、園児は一言呟く。

 

 

園児D「ママよりもおっきい……」

 

唯「こーらー、だめでしょそんな事したらっ」

 

園児D「へへーん、ゆいにはやってやんないよーだ」

 

唯「も~、また先生を呼び捨てにしてー、まちなさーーい、お姉さんにあやまりなさーいっ」

 

園児D「やーだよーっ」

 

 そして逃げるように園児は走り出し、教室へと駆けていく。

 

 後には、まだ硬直して動けない有咲と、やれやれと言った風な顔で園児を見る唯が残されていた。

 

 

有咲「ま、まったく……とんでもねーエロガキだな……」

 

唯「市ヶ谷さんごめんね……あの子、すっごいいたずらっ子で……気を悪くしないであげて?」

 

有咲「い、いや……別に平沢さんのせいじゃないですし……」

 

有咲(はぁ、子供……苦手になってきた……)

 

 そして、有咲の状況を近くで見ていた香澄達が有咲に駆け寄り……。

 

 

りみ「有咲ちゃん、大丈夫?」

 

沙綾「いやー、有咲、一本取られたね」

 

たえ「有咲、元気出して」

 

香澄「あはははっ、やんちゃな子だったね」

 

有咲「香澄……笑ってるけどお前もいっぺんやられて見ろ、すっげえ恥ずかしいんだぞっ!」

 

香澄「ふっふっふ……じゃあ、私が触って上書きしてあげよっか? なんてねっ♪」

 

有咲「マジで殴るぞ香澄いいいいいい!!!」

 

 香澄達にからかわれた事で緊張も解けたのか、いつも通りの感じに戻る有咲だった。

 

 

有咲「大体な、近くにいたんなら助けろってえの!」

 

りみ「あ、あの、ごめんね有咲ちゃん、すぐに行けなくて……」

 

沙綾「いや、別にりみりんは悪くないでしょ?」

 

たえ「有咲……いくら有咲のお願いでも、小さい子相手にそんなひどい事できないよ?」

 

有咲「おたえは一体何を想像してんだよ!」

 

香澄「もー、有咲もそんな怒っちゃやだよー」

 

 ――そんな5人を見て、ふと唯は思う。

 

 

唯(ふふふっ……この子達……凄く懐かしい感じがするなぁ)

 

 お揃いの制服を着てふざけあい、また笑いあう5人の姿に、かつての自分達の姿が映って見える。

 

 きっと、私もあの子達と同じぐらいの頃、あんな感じで笑い合っていたのだろう……と。

 

 そんな事を考える唯だった。

 

 

園児「ゆいせんせー、あのおねーちゃんたち、すっごくおもしろいねー♪」

 

唯「……うん、そうだねぇ」

 

 香澄達の姿を微笑みながら見つめる唯、そして……。

 

 

唯「さあ、みんな、そろそろ教室に行こっか!」

 

一同「はーいっ!」

 

 唯の声が玄関内に響く。

 

 彼女達の職場体験はまだ、始まったばかりであった。

 

―――

――

―

 

【教室】

 

唯「はーい、みなさーんちゅうもーく! 今日は、遠くの花咲川から、お姉さんたちが遊びに来てくれましたっ」

 

 およそ20名ほどの園児達が集まる教室に、唯の元気な声が響き渡る。

 

 そして、改めて園児に向け、香澄達の紹介がされていた。

 

 

香澄「みなさんこんにちわー! 今日一日、よろしくお願いしまーす!」

 

園児達「よろしくおねがいしますっ!」

 

 香澄の明るい声に負けないぐらいの元気な声が響き、教室内に活気が宿る。

 

 そして……。

 

 

たえ「これからの時間は何をすればいいんですか?」

 

唯「今からの時間は、みんなのお昼ごはんの時間まではお遊戯の時間なんだ」

 

沙綾「今からだと……だいたい2時間ぐらい……ですか、この予定表だと」

 

唯「うん、それで、お昼ご飯が終わったらお昼寝の時間があって、そこで職員の休憩の時間になるんだ」

 

有咲「じゃあ、昼食はその時に取るって感じになるんですか?」

 

唯「うん、そうだね。もちろん、その間に連絡ノートを書いたり、午後のお遊戯の準備をしたりもするんだけど」

 

りみ「大変なんですね……休憩っていっても、あんまりのんびりできなさそう……」

 

唯「まぁねー、でも、慣れちゃえば割と早く終わるんだけどね」

 

沙綾「次の仕事に備えて空き時間を使って効率的に……か、ウチのお店もよくやるから、やっぱどこも一緒なんですね」

 

香澄「それを一人でやるって、やっぱり、幼稚園の先生って大変なお仕事なんですね」

 

 唯の働きっぷりに関心の声を上げる香澄達だった。

 

 それから程なくし、唯の号令に合わせて園児達と香澄達は動き出す。

 

 

唯「じゃあ、牛込さんと花園さんはペアであっちの子たちと遊んであげて……山吹さんと市ヶ谷さんは向こうの子たちをお願いね」

 

たえ・りみ・沙綾・有咲「はいっ!」

 

香澄「平沢先生、わ、私はどうすればいいですか?」

 

唯「うん、戸山さんは、私と一緒にお歌のお手伝い、してもらってもいいかな?」

 

 歌の手伝いという言葉に香澄の眼が一瞬煌めく。

 

 

香澄「わぁ……じゃ、じゃあ、私、ギター持ってきてもいいですか?」

 

唯「うん、お願い。……あ、もし良かったら、アンプもあるんだ、私の私物だけど、使ってみる?」

 

香澄「えっ!? いいんですか??」

 

有咲「つーか、なんで幼稚園にアンプがあるんですか……?」

 

唯「いやー、実は、私もたまーに演奏するんだよねぇ」

 

一同「……え? ええええ???」

 

 ギターを弾く素振りをしつつ、照れながらも唯は答える。

 

 その返答に5人の目が点になり、相次いで言葉が投げかけられていた。

 

 

香澄「もしかして、平沢先生もギターやるんですか?」

 

唯「うん、まぁね~」

 

沙綾「そういえば……SNSに……あああった、桜が丘幼稚園のアカウント、ほらこれ見て」

 

沙綾「このギター演奏してる動画……これ、平沢先生じゃない?」

 

 沙綾がスマートフォンの動画を再生させる。

 

 そこには、軽快にギターを弾き鳴らす唯に合わせ、元気に歌を歌う園児達の様子が撮影されていた。

 

 

たえ「すごい……上手な演奏……」

 

りみ「うんうん、園児のみんなも、楽しそうに歌ってるねー」

 

香澄「そっかぁ、平沢先生、ギターやるんだ……」

 

唯「うん、だからさっき戸山さんがギター持ってきたの見て、つい嬉しくなっちゃってさ」

 

香澄「あ、ありがとうございますっ! 平沢先生!」

 

唯「うふふっ……じゃあみんな、お願いね」

 

一同「はーい!」

 

 唯の言葉に従い、それぞれがペアを組み、園児達の元に駆け寄る。

 

 こうして、香澄達の職場体験実習は始められるのであった。

 

―――

――

―

 

りみ「みんな、おえかきセット持ってきたんだぁ、私と一緒にあそぼっ」

 

園児「うんっ! おねーさんとあそぶー♪」

 

りみ「わぁーっ……この子達、めっちゃ可愛い……」

 

園児「おえかきよりもにんじゃごっこやろーよ! おねーちゃんもやろー!」

 

りみ「ええぇぇ、あ、あの、おねーさん、忍者ごっこなんてやったことないよ~」

 

 

たえ「みんな、ウサギさんは好きかなー?」

 

園児「うんっ! うさぎさん、だーいしゅきっ♪」

 

たえ「今日は、みんなの好きなウサギさんをいっぱい持ってきたんだぁ」

 

園児「わぁ~~、かーわいいーっ」

 

たえ「ふふっ……持ってきて良かった」

 

 

園児達「…………」

 

沙綾「あ、ええと……陸くん、海くん、空くん……だっけ? 良かったらおねーちゃんと一緒に遊ばない?」

 

陸・海・空「うんっ♪」

 

沙綾(……何だろう、この子達、初めて見るのに他の子達とは違う……凄く、すごく懐かしいような、不思議な感じがする……)

 

陸・海・空「おねーちゃん! なにしてあそぶのー?」

 

沙綾「うん……そうだね、えっと……」

 

 

有咲「さすが沙綾だな……すげえ手慣れてる……」

 

園児「ねーねーおねーちゃん、がいこくのひと?」

 

有咲「えっ……?」

 

園児「だって、かみのけきんいろだし、おっぱいおおきいし……」

 

有咲「……っど、どこ見てんだよっ!」

 

園児「あははっこのおねーちゃん、おもしろーい!」

 

園児「あったかくていいにおーい! おねえちゃん、いっしょにあそぼー!」

 

有咲「ひゃっ! ちょ、ちょっと! うぅ、急に引っ張るなって……」

 

沙綾「あははっ! 良かったねー有咲、大人気じゃん♪」

 

有咲「さーあーやー! 笑ってないで助けてくれえええ!!」

 

 

唯「うん、みんなも大丈夫そうだね……じゃあ、みんなー! お歌を始めるよー!」

 

園児達「わーーいっ!」

 

唯「戸山さん、準備はどう?」

 

 すっかり子供たちと打ち解けている他の4人の姿に安心し、唯はギターの調整をしている香澄に問いかける。

 

 そしてしばらく、演奏の準備を終えた香澄が唯に向けて告げた。

 

 

香澄「お待たせしました、いつでも行けます!」

 

唯「じゃあ、戸山さんは私のオルガンに合わせて、演奏お願いね」

 

香澄「はいっ!」

 

唯「はーい、じゃあみんなー、カスタネットの人はいつものとおり、『うんたん♪』のリズムで叩いてねー」

 

園児達「はーいっ!」

 

園児「……うん、たんっ♪ うん、たんっ♪」

 

唯「あははははっ、そうそう、そんな感じでね♪」

 

唯「お歌を歌う人は、大きな声で歌おうねーっ」

 

園児達「はーいっ!」

 

 準備が整ったのを確認し、唯は香澄に問いかける。

 

 

唯「戸山さん、子供向けの曲で何か弾ける曲……あるかな?」

 

香澄「えっと……あ、じゃあ、きらきら星……弾いてみてもいいですか?」

 

唯「うんっ、いいよ♪ じゃあ、行くよ……」

 

 そして、香澄のギターと唯の奏でるオルガンの音に合わせ、園児達の合唱が始まった。

 

 

唯「……いち、に、さん」 

 

 

 ――じゃららんっ♪

 

香澄「……きーらーきーらー ひーかーるー♪」

 

唯「おーそーらーの ほーしーよー♪」

 

香澄「まーばーたーきー しーてーはー」

 

唯「みーんなーをー みーてーるー」

 

園児「うん、たんっ♪ うん、たんっ♪」

 

園児「きーらーきーらー ひーかーるー♪」

 

全員「おーそーらーの ほーしーよー……」

 

 香澄と唯の歌声に合わせ、カスタネットの音と、園児達の歌声が幼稚園中に響き渡っていく……。

 

 唯と香澄、共に何よりも音楽を愛する2人の初セッション。

 

 その音色と歌声は、数多の子供の心を虜にしていくのであった。

 

 

 

園児「あー、ゆいせんせーのおうただー、みんな、いこー!」

 

園児「うんっ♪」

 

りみ「あれ? みんなー、どこいくのー?」

 

 りみ、たえ、沙綾、有咲達4人の元を離れ、唯と香澄の側へと園児達が集まっていく。

 

 

りみ「みんな、行っちゃったね」

 

たえ「あははっ……うん、そうだね」

 

沙綾「平沢先生も香澄もすごいなぁ、見てよほら、子供たち、みんな楽しそうに歌ってる……」

 

有咲「香澄のおかげで助かったけど……なんか客を取られたって感じがするな……」

 

沙綾「こうなったら仕方ないか、私達も行こうよ」

 

有咲「ああ、そうだな……」

 

 程なくして、手持ち無沙汰になった4人も唯達の元に集まり、合唱に交じることとなった。

 

 

先生「ちょっと、みんな……」

 

園児「あー、ゆいせんせーだ! ゆいせんせーがオルガンやってるー!」

 

園児「あのおねーちゃんたち、だーれー?」

 

園児「わたしたちもうたうー! ゆいせんせーといっしょにおうた、うたうのー!」

 

 他の教室からも園児が駆けつけ、いつの間にか香澄達の周りには多くの園児が集まり、揃って歌を歌い始める。

 

 さながらそれは、小さなライブ会場の様相を呈していた。

 

 そして、きらきら星の合唱が終わりを告げ……。

 

 

唯「あははっ、すごい人数になっちゃったね……すみません、他のクラスも巻き込んじゃって……」

 

先生「まぁ、平沢先生が歌うとこうなるのはよくあることだし……ね」

 

先生「いいわ、今日の予定は変更して、お歌のお時間にしましょう」

 

唯「はい……ありがとうございます」

 

園児「ねーねーゆいせんせー、きょうはぎたー、ひかないのー?」

 

唯「あ~、ごめんねえ、今日は先生、ギター持ってきてなくって……」

 

園児「ちぇー、そーなんだぁ……」

 

唯「ごめんねぇー」

 

 唯の声に何人かの園児の残念そうな声が漏れる。

 

 その声を聞いた香澄がある事を思い付き、そっと唯に提案していた。

 

 

香澄「……あの、平沢先生、もし良ければ、私のギター使って下さい!」

 

唯「え? で、でも……」

 

香澄「平沢先生ならきっと優しく扱ってくれると思いますし、何より私、平沢先生の生演奏、聴いてみたいんですっ」

 

唯「…………いい、の?」

 

香澄「はいっ♪」

 

唯「……うん、ありがとう、じゃあ、少しだけ借りるね」

 

 唯の手に、香澄のランダムスターが手渡される。

 

 その独特の形状故に唯が普段愛用しているレスポールとは感じが違うが、それでも唯はすぐに対応し、その指からギターの音色が紡がれた。

 

 

 ――じゃらららんっ♪

 

唯「ふふっ……可愛いギターだね、戸山さんに出会って、すっごく嬉しそうにしてる……」

 

有咲「分かるんですか? ギターの気持ち」

 

唯「うん、なんとなく、だけどね」

 

香澄「えへへ……平沢先生……私のギター、可愛がってあげて下さいっ」

 

唯「うんっ! よろしくね!」

 

 ――じゃららんっ

 

 再び、ランダムスターから音色が溢れる。

 

 それはまるで、唯の問いかけに対する返事のようだった。

 

―――

――

―

 

唯「じゃあみんな、何か歌いたい曲、あるかな?」

 

園児「わたし、プィキュアのうたがいいー!」

 

園児「えー、ライダーのうたがいいよー!」

 

唯「あははっ、あまり新しいのは先生わからないんだぁ、ごめーん」

 

 最近のアニメの歌など、子供らしいリクエストが飛ぶ中、一人の園児の要望に唯の耳が止まる。

 

 

園児「うーん、じゃあ、あめふりっ!」

 

唯「あめふり……うん、じゃあそれにしよっか」

 

園児「わーいっ♪」

 

唯「もし良かったら、戸山さん達も一緒に歌ってあげて?」

 

香澄「はいっ」

 

唯「じゃあ行くよ……いち、にー、さんっ」

 

 

 ~~♪

 

唯「あーめあーめ ふーれふーれ かーあさんが……♪」

 

園児「じゃのめで おむかえ うれしいな♪」

 

香澄達「ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン……♪」

 

全員「ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン――♪」

 

 

 ――その曲は、昔、唯が妹とよく一緒に歌った歌。

 

 唯にとって、最も思い入れのある歌だった。

 

 唯の指から溢れるギターの旋律が、その場の全員の耳に、心に響き渡る。

 

 とても穏やかな、ゆりかごのように優しい音色が、場の空気を一層和やかにしていく。

 

 その光景を目にした香澄達もまた、唯の演奏に聴き入っていた。

 

 

りみ「ふふふっ……本当にみんな、かわいい……」

 

沙綾「うん、みんな、とっても楽しそうに歌ってるね」

 

たえ「そうだね、香澄のギターも楽しく歌ってるよ」

 

有咲「……おたえにも、分かるのか?」

 

たえ「うん、ギターの気持ち、私もなんとなくだけど……ね」

 

香澄「おたえの言ってること、私も分かるよ、平沢先生と一緒に歌えて……私のギターも嬉しそうにしてる……」

 

有咲「ま、こればっかは、ギタリストにしか分かんねー感覚なのかも知んねーな……」

 

―――

――

―

 

 そして、ささやかな演奏会は終わり、園児達は昼食を済ませ、昼寝の時間となる。

 

 それと時を同じくして、ようやく香澄達も休憩の時間となった。

 

 

沙綾「みんな、寝静まったみたいだね」

 

 すやすやと寝息を立てる園児達を見ながら、沙綾が言う。

 

 

有咲「ああ……変なことして起こすなよ? 香澄」

 

香澄「もー、いくら私でもそんな事しないよぉ」

 

たえ「でも……んんん……やっとご飯が食べれるね~」

 

有咲「ああ、午前中はなんだかんだあっという間だったな……」

 

沙綾「うん、楽しかったよね」

 

たえ「ふふふっ、いっぱい動いたから、ご飯がおいしいっ」

 

りみ「みんな、午後も頑張ろうねっ」

 

唯「あ、いたいたっ」

 

 教室の隅で弁当を空ける香澄たちの元に、唯も弁当箱と水筒を片手にやって来ていた。

 

 

香澄「平沢先生、さっきはありがとうございましたっ♪」

 

唯「ううん、こちらこそ、戸山さん、ギター貸してくれてありがとうね♪」

 

唯「もし良かったらお昼、私もご一緒していいかな?」

 

香澄「はいっ、もちろんですっ」

 

 唯を快く受け入れ、香澄は席を詰める。

 

 そして、ポピパの5人に唯を合わせた6人により、席が囲まれていた。

 

 

沙綾「しかし、さっきの演奏は本当に楽しかったね、平沢先生の演奏、すごく上手で……」

 

唯「あ、それなんだけど、もし良かったら、私のことは気軽に唯って呼んでくれてもいいよ? なんかずーっと名字で呼ばれるのってくすぐったくてさ」

 

香澄「はーいっ、じゃあ、唯さんも私達のこと、ぜひ名前で呼んで下さいっ」

 

 唯の案を、香澄達もまた快く引き受ける。

 

 それにより、今まで互いに引いていた一線が失われ、一層親しみのある空気が教室内に流れていった。

 

 

唯「うん、私もみんなの事は名前で呼ばせてもらうね、よろしく、香澄ちゃんっ♪」

 

香澄「よろしくお願いします、唯さんっ♪」

 

沙綾「あははっ、香澄ったら、すっかり唯さんと仲良くなったみたいだね」

 

有咲「ま、唯さんと香澄、お互いに波長が合うんだろ……雰囲気とか似てるしなぁ」

 

 二人を見ながら、やや素っ気なさそうに有咲は言う。

 

 

たえ「あれ? 有咲、もしかして焼きもち?」

 

有咲「……っ! だ、だーれが妬いてるってんだよっ」

 

りみ「あははっ……有咲ちゃん、顔真っ赤~」

 

有咲「り、りーみーっ……」

 

 そんな感じで昼食会は始まり、話は次々と膨らんでいく。

 

 今日の職場体験の感想、触れ合った子供たちの話……。

 

 そして、香澄達の今と、唯の過去についても……話は広がっていった。

 

 

唯「香澄ちゃんがギターを持ってきたのを見た時は本当にびっくりしたんだぁ、もしかして、香澄ちゃん達もバンドをやってたりするの?」

 

りみ「はいっ、私達、Poppin'Partyっていうバンドを組んでるんですっ」

 

香澄「私がギターとボーカルで、おたえもギターで、さーやがドラムで、りみりんがベースで、有咲がキーボードなんです」

 

 唯が自分達に興味を抱いてくれたことに対し、嬉しそうに全員を紹介する香澄だった。

 

 

有咲「香澄ちゃん達“も”って事は、ひょっとして、唯さんもバンドをやってるんですか?」

 

唯「うん、今はもうやってないけど、私も高校生の頃、軽音部でバンドやってたんだぁ」

 

沙綾「軽音部……部活でバンドを組んでたんですね」

 

唯「うん、放課後部室に集まって……みんなでお茶飲んだり、ライブで演奏したり……楽しかったなぁ」

 

 上を見上げ、唯は過去を思い返す。かつての日々が記憶の中に蘇り、自然と唯の顔に笑みがこぼれていく。

 

 

たえ「じゃあ、唯さんはその頃からずっと、ギターを続けていたんですね」

 

唯「うん、大学を卒業してからはバンドのみんなともなかなか会えなくなっちゃったけど、それでもギターだけはずっと続けてるんだ」

 

唯「……今の私がこうして昔と変わらず私でい続けられるのは、きっと、軽音部のみんなと、ギー太のおかげだと思うから……さ」

 

有咲(……ギー太?)

 

唯「ふふふっ……バンドって、音楽って、楽しいよね♪」

 

香澄「はいっ! 有咲の蔵でこのギターに出会って……それで私、音楽をやるようになって……有咲やりみりん、さーや、おたえ……色んな人に出会えたから……」

 

香澄「――私、バンドも音楽も大好きですっ!」

 

唯「香澄ちゃん……」

 

 まるで咲き誇るように輝いた笑顔で香澄は言う。

 

 純粋に音楽を愛し、仲間と共に音を紡ぐ喜びを、感動を、楽しさを……香澄達は知っている。

 

 だからこそ、あんなにも輝いた笑顔で言えるのだろう。

 

 その笑顔に、かつての自分の姿を重ねながら、唯は優しく頷いていた。

 

 

有咲「香澄のやつ……へっ……照れるじゃねーか」

 

たえ「私もだよ、香澄……香澄に、みんなに会えて、バンドが組めて、本当に良かったって思ってる」

 

りみ「私も……香澄ちゃんに出会えなかったら、きっとこんなに楽しい生活、送れてなかったと思うな……」

 

沙綾「香澄がいなかったら、私、きっと今もあの時のこと、後悔してばかりいただろうからね……」

 

沙綾「香澄には……ううん、香澄だけじゃない、みんなにはいくらお礼を言っても言い足りないぐらい、感謝してるよ」

 

香澄「みんな……!」

 

唯「……ふふっ、みんな、いい子達だね……」

 

唯(私も、みんなに会いたくなっちゃったな……)

 

 楽しく笑いあう香澄達の姿を見ながら、この後開かれる同窓会の事を心待ちにする唯だった。

 

 

唯「そうだ、みんなは一体、どんな演奏をするの?」

 

香澄「あ、そうだ! その事なんですけど、実は今度……」

 

声「せんせー……」

 

 香澄が言い始めるのを遮るように、突如として園児の声が唯達に投げかけられる。。

 

 その声の先には、陸と呼ばれていた一人の園児が、泣きそうな顔で唯達を見つめていた。

 

 

唯「あれ、陸くん、どうかしたの?」

 

陸「ぅぅ……先生……っおしっこ~」

 

唯「え……? あ、時間っ!! 今何時!?」

 

 驚いた様子で唯が時計を見る。

 

 既に休憩の時間はとっくに終わり、園児を起こしてトイレに連れて行かなければならない時間となっていた。

 

 

陸「ふぇ~ん、もれちゃうよぉーー」

 

唯「ちょ、ちょっと待って……! い、いま行くから! みんなごめん! 話に夢中ですっかり忘れちゃってた!」

 

 慌てて弁当箱を片付ける唯達、そして……。

 

 

園児「うぇ~んっ! せんせーはやくー!」

 

園児「えぐっ……えぐっ……せんせぇ、おトイレ、もれちゃうよぉー!」

 

園児「えぐっ……ぐずっ………うわぁぁぁぁぁん!!!」

 

 先程まで寝息を立てていた園児達は気付けばいつの間にか目覚めており……。

 

 そして、一人が泣き出せば、あとはもう止まらない。

 

 一斉に、教室中で泣き声の大合唱が始まっていた。

 

 

唯「あ、あわわわわわ……え、えっと……!」

 

沙綾「唯さん、とりあえず行きましょう! 私もトイレのお手伝いしますから!」

 

唯「へ? あ、うん、沙綾ちゃんごめんねっ!」

 

りみ「あ、あの、私達は……?」

 

唯「ごめーん! みんなは泣いてる子をおねがいっ」

 

有咲「ちょっ! んな無茶苦茶なっ」

 

園長「ちょっと、平沢さん! 一体何事なの?」

 

唯「す、すみませーーーーーんっっっ!!」

 

 教室内の騒動に他の先生達も巻き込まれながらの、慌ただしい午後が始まる。

 

 園児の対応にあくせく目を回してる唯を見ながら、香澄達は仕事の大変さと、それに見合う楽しさを垣間見ていた――。

 

―――

――

―

 

 そして、騒動は一段落つき、午後のお遊戯会も問題なく進み、気付けば、園児の帰宅の時間となり……。

 

 

園児「せんせー! さよーならー!」

 

唯「はーい! また来週ねー、ばいば~い!」

 

 最後の園児を見送り、仕事にも一区切りがついた頃。

 

 

香澄「終わっちゃったねー」

 

りみ「うん……少し寂しい気もするけど、楽しかったね」

 

有咲「ああ、後半ドタバタしてたけど、結構楽しかったよなぁ」

 

沙綾「有咲、すっかり子供たちの人気者だったもんね」

 

たえ「うんうん、有咲、すっごく楽しそうだった」

 

有咲「……いいから行こうぜ、職員室で今日のレポート書くんだろ?」

 

 照れくささを隠しながら、足早に向かう有咲に続き、香澄達も職員室へ向かっていた。

 

 

【職員室】

 

先生「園長先生、今度の保護者会の資料です」

 

園長「はい……ええ、こちらで確認します、どうもね」

 

先生「平沢さーん、今度の遠足のプリントなんですけど、用意できてますかー?」

 

唯「はーい、今転送しますっ!」

 

りみ「わわ、子供たちが帰ってからも、お仕事って続くんだね……」

 

香澄「なんか、こっちの方がずっと大変そうだね……」

 

有咲「ああ、あんまし邪魔にならないようにしとこうぜ」

 

沙綾「私達が幼稚園だった頃も、きっとこんな感じで先生達、頑張ってたんだろうね……」

 

たえ「うん、大人って……すごいんだね」

 

 園児が帰ってからの事務仕事に追われている先生達の邪魔にならぬよう、香澄達は今日のレポートを作成していた。

 

 

園長「みなさん、今日はどうもご苦労様でした……どうでしたか? 職場体験は」

 

 仕事が一区切り着いたのか、園長が香澄たちに声をかける。

 

 香澄達も既にレポートの作成を終えていた所だったので、園長に向け、笑顔で返していた。

 

 

香澄「はいっ! 先生のお仕事って……大変かもって思ってましたけど、唯さ……ううん、平沢先生を見てたら、すっごく楽しそうだと思いました!」

 

園長「うふふっ……それは良かったわ……また、いつでも遊びにいらして下さい……」

 

香澄「はいっ、今日は、本当にありがとうございました!」

 

園長「平沢先生、平沢先生も、よろしければどうかしら?」

 

 園長が唯に向けて声をかける。

 

 唯もまた、仕事を一区切りつけていたようだった。

 

 

唯「はい、みんな今日はお疲れ様、ありがとう、おかげですっごく助かったよ」

 

香澄「そんな、私達も楽しかったです、ありがとうございました!」

 

一同「ありがとうございましたっ」

 

唯「みんな、もし良かったらまた遊びに来てね、園児たちも待ってるからさ」

 

一同「――はいっ」

 

 唯の言葉に、元気に返す香澄達。

 

 そしてレポートをまとめた香澄達は、唯から今日の証明の判子を貰い、それぞれが帰宅の準備を始める。

 

 

香澄「先生方、今日はありがとうございました! お先に失礼します!」

 

唯「うん、みんな、今日は本当にありがとう!」

 

 時刻は既に陽も傾く頃合いになり、帰りの挨拶を済ませた5人は幼稚園を後にする。

 

 ――その帰り道。

 

 

【帰り道】

 

香澄「あ~~~!!」

 

 突然、弾けたように香澄は大声を上げる。

 

 

有咲「わっ、香澄……いきなりでっかい声出すなよっ! びっくりしただろ?」

 

香澄「私、忘れ物しちゃった……! ごめんみんな、先行ってて!」

 

沙綾「香澄? うん、気をつけてねー!」

 

りみ「香澄ちゃん……忘れ物って一体……なんだろう……?」

 

 香澄は慌てて幼稚園に駆けていく。

 

 そして程なく、幼稚園の門が見えた時、偶然にも門前でホウキを手に掃き掃除をしていた唯と鉢合わせする。

 

 息を切らせ、唯の元に駆け寄っていく香澄に、唯は声をかけていた。

 

 

香澄「はぁ……はぁ……ゆ、唯さーーんっ!」

 

唯「か、香澄ちゃん? どうかしたの? ……あ、何か忘れ物?」

 

香澄「はい……はぁっ……ゆ、唯さん……お昼の時、私達がどんな演奏してるかって……聞いてくれましたよね……?」

 

 息も絶え絶えに、香澄は言葉を続ける。

 

 

唯「えっ? ああ、うん……実は興味あったんだ」

 

香澄「あの、もし良かったら……来週、ここに来てくれませんか?」

 

唯「……これは?」

 

 香澄から1枚の紙を手渡され、唯はその文面をまじまじと見つめる。

 

 香澄から手渡されたそれは、来週に開かれるライブのフライヤー……ガールズバンドパーティーの告知フライヤーだった。

 

 

唯「……ガールズバンド……パーティー?」 

 

香澄「はい、今度……花咲川のライブハウスで大きなライブがあるんです……それで、そのライブ、私達も、ポピパも参加するんですっ」

 

香澄「なので……もし、もし良かったら……ぜひ、唯さんも……来て下さい、私達の歌、聴きに来て下さいっ」

 

唯「……いい、の? 私なんかが行っても……」

 

香澄「はいっ! ぜひ唯さんに、私達の歌……聴いてもらいたいんですっ」

 

唯「……そっか……うん、ありがとう」

 

唯「日程は……うん、この日はお仕事もお休みだから、行ってみるよ……ありがとう、香澄ちゃんっ」

 

香澄「唯さん……あ、ありがとうございますっ!」

 

唯「このために精一杯走ってきてくれたんだね……香澄ちゃん、本当にありがとう……」

 

香澄「こちらこそ、フライヤー……受け取ってくれて、ありがとうございます」

 

 そして、唯と香澄は硬い握手を交わし、来週の再会を誓い合うのだった。

 

 

唯「香澄ちゃん……ライブ、がんばってねっ♪」

 

香澄「はいっ! 唯さんもお仕事、頑張ってくださいっ! 失礼しました!」

 

唯「うん、またねー!」

 

 再び駆け出す香澄の背を、唯は満面の笑顔で見送る。

 

 何事にも全力で向き合う少女を後姿を、唯は静かに見つめていた――。

 

―――

――

― 

 

唯「すみません、お先に失礼しまーす」

 

園長「はい、平沢先生、今日はご苦労様でした」

 

唯「はい、園長先生、今日はあの子達の担当、任せていただいてありがとうございました!」

 

園長「あの子達、平沢先生に担当になって貰えてとても喜んでいたわ……園児達もみんな平沢さんの事を慕っているし、これからもよろしくお願いしますね」

 

唯「はいっ! それでは、失礼します!」

 

 そして職員室を抜け、差し掛かる夕日を背に、唯は駆け出す。

 

 その途中、スマートフォンからメッセージアプリを立ち上げ、メッセージを送る。

 

 相手は、かつて青春時代を共に歩んだ一人の後輩……。

 

 

 彼女に一通のメッセージを送った直後、すぐさま返信が届く。

 

 

 ――『私も、今から向かいますよ……楽しみですね、同窓会』

 

 

唯「うん、私も楽しみ……早くみんなに会いたいな……」

 

 画面を優しく見つめ、唯は駆け出す。

 

 その足取りは更に軽く、唯は向かう。

 

 放課後の集う時は、刻一刻と近付いていた――。

 

 

 

 

 

 ――こうして、5つの放課後は、それぞれが異なる輝きを持つ少女達との、運命的な出会いを果たしていた。

 

 この出会いが後に、放課後の復活……そして再来へと繋がる奇跡になっていたという事を、この時の彼女達はまだ、知らない――。




唯、澪、律、紬、梓ら放課後ティータイムとバンドリ5バンドの出会い、いかがでしたでしょうか。

次章より物語が動き出します、引き続きご覧になってくださいませ……。

※10/18一部修正

10/13より歌詞の掲載が可能になった為、歌を歌うシーンに歌詞を載せました。

この改正により、少しでも読み手の方に物語の臨場感が伝わってくれれば幸いです。

この物語で特に評価できる点があれば教えて下さい

  • 大人になったけいおんキャラを描いた所
  • 作品の枠を超えたキャラの掛け合い
  • 随所で見られる原作小説とゲームネタ
  • ライブの選曲
  • 『輝き』というテーマ
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