【バンドリ×けいおん】唯「バンドリ?」香澄「けいおん?」 作:キラ@創作垢
確かに、照れくささはあったけど、不思議と悪い気は全然しなかった。
多くの人が、私達の歌を楽しみにしてくれる事が誇らしかった。
もう一度、みんなと音楽を奏でられるという事が、凄く嬉しかった。
10年前、卒業してからもう二度と過ごすことは出来ないと思っていた、私達の放課後。
もう一度、その放課後を過ごすことができる……それが、私達が今ここに集まっている、たった一つの理由だった――。
【翌日 桜が丘ライブスタジオ】
街に夜の帳が落ちようとしていた頃、桜が丘のライブスタジオ内に、彼女達の姿はあった。
唯「おいっす、みんな、昨日ぶりだね」
愛用のレスポールを携え、唯がスタジオの扉を開ける。
中には、既に楽器の調律を終え、唯を待つ律達4人の姿も見られていた。
紬「ええ、唯ちゃん、こんばんわ」
律「よー唯、やっと来たかぁ」
唯「えへへ、まさか、またみんなで演奏できるなんてね~」
紬「うんっ、私、昨日から凄く楽しみだったわ♪」
和やかに話す唯と律、紬の3人だった。
和気藹々とした彼女達に対し、澪と梓は急かすように声を投げかける。
澪「みんな、ライブまで時間がないんだ、唯も来たことだし……」
梓「ええ、そうですね。早速ですけど、練習……」
律「ああ、お茶だな、ムギっ! お茶の準備だ!」
紬「は~い、ちょっと待っててね~♪」
唯「ムギちゃん、私も手伝うねっ♪」
『練習しましょう』と言いかけた梓の言葉を遮り、律は紬にお茶の用意を提案する。
その言葉に合わせ、揚々とティーセットの準備をする3人に向け、澪と梓は呆れと怒りの声を上げていた。
澪「って!! おい律!!」
梓「皆さん、ライブまで時間がないって分かってますよね? もう今週なんですよ??」
律「言われなくてもわーかってるよ、でもさ、これが私達のいつもだったろ?」
唯「昔はいつもこうしてお茶飲んで……それから練習してたもんね~」
紬「ふふっ、うん、これでこそ放課後ティータイム……よね」
澪「ったく……3人とも……事の重大さが分かってるのか……」
梓「仕方ありませんね……唯先輩達、ああなったら止まりそうにないですし……ここは気持ちを切り替えるために、私達も一度お茶にした方が良いかも知れません……」
澪「ああもう……ただし、15分だけだからな! スタジオの時間もあるんだし、一息入れたらすぐに練習するからなっ!」
唯・律・紬「は~~い」
焦る澪の声に向け、3人は生返事で返す。
そして、紬の手により次々とティーセットが並べられ、かつて幾度となく過ごした放課後のお茶会が開かれるのであった。
律「あ~~~~……この感じ……すっっっっげえ久々……またこうしてムギのお茶を飲めるなんてなぁ……」
唯「うんうん、私もだよ……ほんと、懐かしいなぁ……」
唯「……あれ? ねえムギちゃん、もしかしてこの黒いのって……」
紬「ええ、最近流行りのタピオカを入れてみたのよ♪ なかなか美味しいでしょ」
律「へー、彩ちゃん達もよく飲んでるけど、意外と悪くない味だな……」
唯「うんうん、このマカロンもすっごく美味しいよ~~♪ ね、あずにゃんもそう思うでしょ?」
梓「はい……でもこの味、凄く懐かしい感じが……」
紬「あ、分かった? それ、憂ちゃんからの差し入れなのよ」
梓「やっぱり……」
唯「そだ、憂と純ちゃんからメール来てたよ、皆さん、頑張って下さいって」
のんびりとした空気で唯達は談笑をする……。その中でただ一人、澪の表情だけが他の皆とは対象的に暗く、陰鬱に満ちていた。
紬「澪ちゃん、お茶のお代わりはいる?」
澪「ああ……ムギ、ありがとう……」
その表情は僅かに焦りの色が伺えており、紬に返す声も、何処か余裕がない様に感じられる。
澪(ほんと、とんでもない事になっちゃったな……)
差し出されたカップを口に運びつつ、澪は昨日の事を思い返していた……。
―――
――
―
【回想】
――昨日、まりなが皆に告げた頼み事は、ほろ酔い状態にあった唯達の酒を飛ばすには十分過ぎる程の衝撃があった。
来週開かれるCiRCLE主催の大型ライブイベント、ガールズバンドパーティーのスペシャルゲストの枠に穴が空いてしまったこと。
そして、まりなが今まさにそのゲストを探していたということ。
困惑の表情を浮かべながら現状を話すまりなの言葉を、その場の全員が親身になって聞いていた。
まりな「……っていう事なんだけど……みんな、お願いできないかな」
梓「ガールズバンドパーティー……そんな大きなライブに私達が……ですか……」
律「……………………」
まりなの言葉に、唯、澪、紬の3名は何かを思い出し、また梓と律の両名は戸惑いの表情で俯いていた。
そして、僅かな沈黙の後、唯が声を上げ……。
唯「ねえもしかして、それって……これの事?」
紬「私、その話、知り合いの子達から聞いたんだけど……」
澪「私も、今日花咲川に立ち寄った時に偶然そのライブに参加する子たちと知り合って……お客さんとして招待されたんだけど……」
相次いでカバンの中から1枚の紙を取り出す3人。
その手には、それぞれが今日知り合った少女達から手渡された、ガールズバンドパーティーの告知フライヤーが添えられていた。
まりな「え? みんな知ってたんだ?」
唯「すごい偶然だね……もちろんりっちゃんもこのライブの事、知ってたんでしょ?」
律「ああ……まぁ、な」
梓「すみません、そのフライヤー、少し見せてもらってもいいですか?」
唯「うん、いいよ」
唯からフライヤーを手渡され、告知内容を見る梓。
そこには、数時間ほど前に梓が知り合った少女達……Roseliaの名前も確かに記されていた。
梓「Roselia……友希那さん達も出るんだ……このライブ」
梓の中に、昼間会った少女達の顔が思い出される。
自分の音楽を、仲間を極限まで信じ、その仲間と共に最高の音楽を追求する少女達……そんな彼女達と同じ舞台で共演ができる……それは、この上なく喜ばしい事だ。
だけど……。
――自分はこのライブに参加することができない。
強い悔恨の念が、梓の心を支配していた。
まりな「お願い、みんなにしか頼めないの。もし良かったら、ガールズバンドパーティーに……ゲストとして、出演してくれないかな……」
頭を下げ、再度懇願するまりな。
そんなまりなの声に対し、唯と紬だけが嬉々として参加に乗り気でいた。
唯「うんっ! ねえやろうよ、みんなっ!」
紬「そうねっ、ねえりっちゃん、澪ちゃん、梓ちゃんも……もう一度、みんなでライブをやりましょうっ! 私、またみんなで演奏がしたいわっ」
律「あ~~~~……いや、実はさ……」
言い出し辛そうに、歯切れ悪く律は返す。
律「その日、私……仕事の関係で出張入っててさ……」
唯「えええええ…………そ、そうなの?」
紬「そんな……残念だわ……」
まりな「あちゃーー……そっかぁ……」
律「ああ……だから、本当に悪いんだけど、私は参加できな……ん?」
参加できない旨を伝えようとしたその時、律の携帯が着信を告げる。
画面に表示されたのは、昼間に律の報告を酷評した社長からだった……。
律「悪い、ちょっと仕事先から電話……」
言いながら席を立ち、会場を離れつつ律は電話を取る。
律「はい、もしもし、お疲れさまです」
律「はい……はい……え? 本当ですか??」
律「はい、あ、ありがとうございます……はい、じゃあ引き継ぎは明日メールで……はい、どうも、失礼します」
電話を切り、驚きの表情で席に戻る律に向け、唯が声をかける。
唯「りっちゃん、大丈夫だった?」
律「ああ…………なんつーか、はははっ……運命ってこういうのを言うのかな……はははっ」
澪「律……何かあったの?」
澪の問いかけに対し、手が震える感覚を覚えつつ、律は言葉を返す。
律「……ああ、さっき言ってた話だけど、出張……別の奴が行くことになった」
紬「えっ!? じゃあ……」
律の声に、紬と唯が喜びの声を上げる。
律「うん、少なくとも私は出られるよ」
まりな「りっちゃん……! あ、ありがとう!」
律「ああ、私はいいんだけど……あとは……梓次第だな」
梓の方を見つつ、律は言う。
梓「…………」
唯「あずにゃん……」
憂「梓ちゃん……」
菫「梓先輩……」
全員の眼が梓に向けられる。
プロのジャズマンとして音楽で生計を立てている梓の演奏……それは、根本的に唯達とは違う質を持つ演奏だった。
プロとしてのその演奏は本来、相応の演奏料を支払ってこそ鑑賞できる価値があり、いくら知人に頼まれたからと言って、おいそれと気軽に聴ける程安いものではない。
ソロでの活動をしているのならともかく、両親と共に音楽活動をしているのなら尚更だ。こればかりは梓だけの一存で答えが出るものではなかった。
ならば当然、同じメンバーでもある両親への確認と了承が必要になるだろう。と、同じプロの道に関わる者として、律は梓の沈黙の意味を察していた。
梓「…………」
また、全員でステージに立てるかも知れない……こんな機会、おそらく二度と訪れはしないだろう。
出来ることなら、私も皆で……先輩達と、もう一度演奏がしたい……。
あの人達に、私達の音楽を……聴かせたい。
しばしの間、梓は思い悩み……そして決意する。
梓「すみません、少し待っててもらえますか、今から両親に……話してみます」
立ち上がり、梓は携帯を手にテーブルを離れる。
そんな梓の背を、その場の全員が心配の様子で見つめていた。
唯「あずにゃん……大丈夫かなぁ」
律「プロの世界のルールってのは唯が思う以上に小難しいんだよ、妙なしがらみばかりで、自分のやりたいことだって全部やれるってわけじゃないからなぁ」
直「はい……特に音楽の世界は尚更……ですよね」
澪(梓……)
梓「ああ、お父さん? うん、楽しんでるよ……それで、折り入ってお願いがあるんだけど……うん、実はね……」
梓「……って事なんだ……その……」
梓「うん、わかってます…………はい……もちろん、みんなに迷惑はかけないようにします、ジャズにも支障が出ないように気をつけます」
梓「お願いします、やらせてください……」
梓「………………はい……ありがとう……お父さん……ありがとう!」
数分の電話の後、明るい顔で梓が戻ってくる。
その顔を見た唯達の間に、安堵の溜息がこぼれていた。
律「あの感じだと、上手く行ったみたいだな」
紬「ええ、そうみたいね……」
梓「皆さんお待たせしました…………ふふっ、両親の許可、取れましたよっ♪」
唯「あずにゃん……っ!」
梓「父も言ってました、『若い連中に、お前の本気の演奏を見せつけてやれ』って……」
梓「ですからまりなさん……私も、ガールズバンドパーティーに参加させて下さい!」
まりな「梓……ちゃん、うんっ! ありがとうっっ!!」
右手を差し出し、梓はまりなに向けて微笑む。
差し出された梓の手を両手で掴み、歓喜の声を上げるまりなだった。
……そんな様子を、やや遠目に見つめる瞳が一つ……。
澪「………………」
澪は、戸惑いの眼でその光景を見つめていた。
律「みーお、澪ももちろんやるよな?」
唯「澪ちゃんっ! 澪ちゃんもやろうよ! またみんなでライブしようよ!」
澪「……唯……律……私は……その……」
確かに澪自身も、皆とまた演奏したいとも思っていた……でも、こんな大舞台に出るだなんて思ってもみなかった。
まりなの口から直接参加して欲しいと頼まれた事自体は嫌ではなく、むしろ嬉しいとすら思えたのだが……。
それと同時に、酷く巨大なプレッシャーが澪に襲い掛かっていた。
澪(……もうベースだって何年も弾いていないのに……こんな大きな舞台で演奏だなんて……)
澪(……それだけでも緊張するのに……それに、あの子達の前で失敗なんかしたら……)
今日会った子達……Afterglowの5人の顔が澪の頭をよぎる。
あんなにライブを楽しみにしていた子達の前で演奏だなんて……。
昔の5人で演奏できるという楽しさ以上に、絶対に失敗できないという重圧が、人一倍責任感が強く、繊細な澪の心を埋め尽くしていた。
まりな「秋山さん……」
澪「あの……さ、みんな、ちょっと冷静に考えてみないか?」
戸惑いながら、澪は言葉を続ける。
澪「律はさ、パスパレのみんなの前で演奏するの……怖くないのか? もし失敗したらって考えたり……」
言いながら、酷く滑稽な事を自分は言っているということに澪は気付く。
私の幼馴染は、その程度のことで怖気付くような奴じゃなく……むしろ、全力でその重圧に立ち向かおうとする強さを持っている……それが澪の知る、田井中律という人間だ。
律「あのな……私がそんな事でビビるとでも本気で思ってるのか?」
澪「わ、私は違うんだ……仕事や生活が忙しくて……ベースだってもう何年も弾いてないし……」
澪「そりゃあ、仕事で演奏してる梓や律はいいさ……勘だって鈍ってないだろうし、むしろ昔以上に腕も上がってるだろうしさ……」
澪「唯やムギだって……プライベートでよく演奏してるって言ってた……し……」
言いながら、まるで子供の言い訳のようだと、澪は自身の言葉の薄さを感じていた。
……出来ない理由を正当化して、必死で逃げようとしている子供のような言い訳をする自分に、心底嫌気が差す。
無言で澪の主張を聞く律達だったが、澪の軽薄なその言葉に……特に律は納得していなかった……。
澪「でも私は……違うんだ……きっと……いや、絶対にみんなの足を引っ張るに決まってる……」
律「あのなぁ……お前……いいかげんに」
澪の言い訳に痺れを切らし、一喝しようと律が息を吸い込んだその時――。
女性A「え? なになに? 軽音部のみんな、ライブやるの?」
女性B「え~~、マジで?? いつ? 私絶対に行くよ!」
女性C「ああ……また澪ちゃんの演奏が見れるのね……私、絶対に行くからね!!」
女性D「ねえねえ、わかばガールズは? 憂ちゃん達はやらないの~?」
どこからその話を聞きつけたのか、澪の周囲には人だかりができていた。
殆どの声が放課後ティータイムの復活を望む声であり、中でも澪に対する期待の高さが一際目立っている。
集まった人の数に先程までの怒りも吹き飛び、律は水を一口飲みつつ、座り直していた。
憂「凄いね、澪さんの周り、一気に人が……」
純「澪さんの演奏、凄く格好良かったもんね……私も憧れてたし、また演奏見たいなぁ」
和「澪、軽音部で唯一、ファンクラブもあったぐらいだからね……」
さわ子「ふふっ……ねーえ澪ちゃん、これだけ多くの人が澪ちゃんの演奏を聴きたいって言ってるのよ? ベーシストとして、これ程嬉しいことってないんじゃないの?」
澪「みんな……」
唯やまりな達だけじゃなく、こんなにも多くの人達が、私の演奏を楽しみにしてくれる……。
その気持ちは凄く誇らしく……嬉しい事だと思う。
だが、いや、だからこそ尚更に怖くなる……みんなの期待に……重圧に、押し潰されそうになる……。
勇気が出ない……あと一歩、前へ踏み出す勇気が出ない……っ!
律「ったく……澪のやつ……」
唯「待って、りっちゃん」
まりな「あのさ……秋山さ……ううん、澪ちゃん」
尚も怖気付く澪に喝を入れようと律が立ち上がろうとしたその時、まりなが再び澪に声をかけていた。
まりな「この曲、聴いてみてくれないかな……今度のライブに出る子達の歌なんだ」
言いながらまりなは自身のスマートフォンから音楽アプリを起動させ、澪に手渡す。
『Scarlet Sky』と書かれた曲名の隣には、偶然にも澪が昼間に知り合った、Afterglowの名前が表示されていた。
澪「…………この歌は、あの子達の……」
無言でイヤホンを耳に入れ、澪は再生ボタンを押す……。
~~♪ ~~~♪
軽やかに奏でられるギターとベースから始まるイントロに合わせ、凛とした歌声が澪の耳に流れ込んでくる。
その歌声を、ただ静かに澪は聴いていた。
歌声『――当たり前のようにこんなにも近くでつながってて 欠けるなんて思わないよ』
歌声『――決めつけられた狭い箱 ジタバタぶつかっても どうにもなんないことは わかり始めたし……』
「Scarlet Sky」
https://www.youtube.com/watch?v=kXL1MF-49V0
澪(この歌声は……蘭ちゃんかな……凄く前向きで、明るい声……)
イヤホンから聞こえる蘭の歌声が……Afterglowの演奏が……重圧に押し潰されそうな澪の心に響き渡る。
『――戦うための制服を着て 勇み足で教室へ進む 開け放つドアを信じ、進め!』
『――あの日見た黄昏の空 照らす光は燃えるスカーレット 繋がるからこの空で 離れてもいつでも……』
澪「………………」
唯「澪ちゃん……」
澪「…………」
唯達が心配そうに澪を見つめる中……澪は眼を閉じ、無心で曲に聴き入っていた。
…………。
……その歌は、あの子達の、純粋な想いを誓う歌だった。
時の流れに負けず、仲間と共に今という日々を生きようとする誓いの歌。
精一杯、彼女達の『今』を生きる輝き。
それは、遠い昔、自分自身にもあった輝きで……。
私が、みんなが持っていた、音楽に、仲間に対する純粋な想い。
いいのだろうか……こんな私が、あの子達と同じ舞台に上がっても……。
いや……きっとあの子達なら、私を受け入れてくれる……。
こんなにも優しく……力強く、勇気づけてくれる歌が歌えるあの子達なら……きっと……。
イヤホンから流れる歌声が、澪の心を支配していた恐怖心を振り払っていく。
振り払われた恐怖心は次第に前へ歩む勇気へと変わり、彼女達の歌声に呼応するように、とくんと心臓が高鳴る。
――そして。
『――あたしたちだけの居場所で どんなときも共に集まろう 叫ぶ想いは 赤い夕焼けに……』
最後のフレーズが終わった時、余韻に浸る澪の眼が静かに開かれる。
その眼はもう、先程のように恐怖に怯える者の眼ではなく……むしろ真逆。
澪の瞳には、ライブに対する強い決意が込められていた――。
まりな「澪ちゃん……」
澪「…………月島さん、ありがとう……良い歌だったよ」
一言礼を言い、澪はまりなにスマートフォンを返す。
澪「すごいな、あの子達……こんなに素晴らしい歌を歌ってるんだ……」
唯「澪ちゃん……」
梓「澪先輩……」
心配の声を上げる皆に向け、澪は一言、口を開く。
澪「なあ律、この後時間あるか? セットリストを考えようと思うんだけど」
律「……澪……!」
澪のその言葉は、参加表明と同義の意を示していた。
まりな「澪ちゃん……ありがとう……本当にありがとう……っ!」
澪「……正直、まだ不安はあるよ……できるかどうかは分からない……ブランクもあるから、みんなの足を引っ張るかも知れない」
澪「でも……それでも、やってみたいんだ……みんなで…………あの子達に見せたいんだ……私達の音楽を……私達の輝きを……!!」
律「へへへっ、ああ……ライブに来る人全員に見せつけてやろうぜ……私達の青春を……放課後をさ!」
唯「うん……私も頑張るよ!」
紬「ええ……決まりね……!」
梓「はいっ! 放課後ティータイム、再始動ですね!」
さわ子「放課後の復活かぁ……いい響きじゃない、頑張りなさいよ、みんな」
――『放課後の復活』……さわ子のその言葉に、周囲からも次々と期待と歓喜の声が上がる。
女性A「やったーー! 私、最前列で応援するからねっ!」
女性B「で、どこでやるの? 唯ちゃん達のライブ」
女性C「花咲川だって! 私も有給使って行くから! みんな、頑張ってね!」
女性D「あ~もう、来週が待ちきれないよ~♪」
まりな「うん……うんっ、みんなっ……本当に……本当に、ありがとう……っ」
ライブの開催が決定し、先程とは違った賑わいが唯達の周りで繰り広げられる。
ある者は酔いの勢いで再びジョッキを開け、またある者は唯達にあらん限りのエールを送る。
そんな周囲の反応に、目頭が熱くなる感覚を抱きながら、まりなは感謝の言葉を言い続けていた。
ここだけでどれほどの人がライブに来てくれるのか……即座に数えるのが難しい程多くの人がライブに来てくれるのは、既に明白だった。
まりな「えへへっ……嬉しいよ……私、すごく嬉しい……」
律「まーりな、やったじゃん、集客効果バッチリだな」
まりな「あはははっ、ううん……それもだけど、私自身も……来週が楽しみになってきたよ」
まりな「高3の時の学園祭のライブ……みんなの演奏、私、今も覚えてるよ…………」
律「あははっ、懐かしい事覚えてるなぁ」
まりな「うん、だから……私も期待してるから……みんな、ライブの件、どうぞよろしくお願いします」
律「ああ、ま、私達に任せときなって」
律「出演するどの演者よりも、最高にカッコいいライブにしてやっからさ!」
喜びと感謝、期待と興奮……様々な感情に涙ぐむまりなに向け、親指を立てて律は宣言する。
憂「えへへへっ……お姉ちゃん……良かったね……ん……っ ああもうっ……何だろ、この感じ……」
和「ふふっ……憂ったら……泣くのはまだ早いわよ?」
さわ子「さてさて……来週か……私も、久々に頑張るとしましょうかね……♪」
純「その日なら仕事休みだし、私も行くよ。もちろん直とスミーレも行くっしょ?」
菫「はいっ! もちろんです!」
直「ええ、私も……必ず行きますね……!」
そして……。
律「よーーし!! みんな! グラス持ったなー! 放課後ティータイム……やっるぞーーー!!!」
一同「おーーーっっっ!!」
律の掛け声に合わせ、彼女達は、掲げられたグラスを一気に呷る。
その味わいは、今まで飲んだどの酒よりも美味く、深い味……。
放課後の復活を祝う、奇跡の祝杯だった。
―――
――
―
それから程なく、幹事の和の一声により同窓会は幕を閉じ……律と澪を除いたそれぞれの放課後が家路についた翌日。
ライブの打ち合わせと音合わせの為にと急遽予約を取ったライブスタジオに5人は集結し、今に至るのだった。
澪「いきなりこんな感じで、本当に大丈夫かな……」
律「みーお、そんな顔すんなって、大丈夫だよ、私らならできるって」
澪「律……」
唯「……りっちゃんの言うとおりだよ澪ちゃん。私達、今までどんなに大変なことがあっても乗り越えて来たんだもん……だから、今度もきっと大丈夫だよっ!」
一切の迷いなく放たれる唯の声に、澪は頭を振り、再度芽生えつつあった戸惑いを振り切る。
澪「唯……ああ、いつまでもウジウジしていられないよな……うん、私もやってみるよ」
紬「ふふふっ、じゃあ早速だけど、音合わせ、やってみよっか?」
梓「そうですね、まずはふわふわ時間からやってみましょう、先輩方、スタンバイお願いします」
律「よし、じゃあやるか!」
律の声に合わせ、それぞれが所定の位置に立ち、楽器を構える。
……彼女達の、実に数年ぶりの演奏が始まるのであった。
律「……ワン、ツー、スリー!」
~~♪ ~~~♪
唯のギターから始まり、それに合わせるように各パートが入り、イントロが始まる。
律(入りは完璧……あとは……歌の出だしだけど)
唯「…………」
律(おい唯! 歌!)
唯「あっ! キミを見てると、いつもハートDOKI☆DOKI……」
律(やれやれ……まぁ、久々だしな……)
~~♪ ~~♪
澪(律! ちょっと待って! 走りすぎだ!)
律(やべ! あれ……澪、なんか音違ってないか?)
唯(次、澪ちゃんのパートだよね?)
澪(っっ……ごめん…………歌詞飛んだ……唯、頼む!)
唯(ううん、大丈夫だよっ!)
唯「ふとした仕草に今日もハートZUKI★ZUKI……♪」
律(はははは……いやー、こりゃ相当練習しなきゃな……)
紬(ふふっ……でも、この感じ……)
梓(はい、凄く懐かしくて……)
唯(楽しいな……♪)
澪(…………っ……)
彼女達の演奏は、途中何度か危うい場面を迎えてはいたものの、それでもどうにか最後まで続けられた。
それは正直なところ、完璧とは程遠い出来栄えだったが……それでも止まることなく、最後までやり切ることが出来た。
その確かな事実に、5人の中には危機感以上の安心感が生まれる。
まだ……指は、手は、感覚は覚えている……昔、幾度となく演奏した自分達の代表曲は、完全に失われたわけではなかったのだ。
律「ふぅ……危なかったけどどうにか演奏しきれたな」
額に流れる汗を拭いつつ、律は言う。
澪「ごめん、唯、あんなに歌ったのに……私、歌詞、飛んで……」
唯「ううん、大丈夫だよ、澪ちゃん」
律「私もかなり走ってたからなぁ……ま、何回かやってきゃ勘も戻ってくるよ」
紬「ええ、梓ちゃんもさすがね……ソロパート、凄く綺麗だったわ」
梓「あ、ありがとうございます」
律「でも、一番簡単なふわふわでコレか……やっぱセトリ考え直したほうがいいかな?」
唯「う~ん……でも、私はこのセトリが一番だと思うんだけどなぁ」
律「あ~~、他の曲の音源が無いのは痛いよなぁ……」
昨日、全員が解散したその日の内に律は澪と共にライブで演奏する曲のセットリストを考え、メッセージアプリにあった放課後ティータイムのグループチャットに転送していた。
全員がそのセットリストを見て律に賛同していたのだが……ふわふわ時間以外の音源が行方不明となっていたのは予想外のトラブルだった。
澪「音源か……たぶん私の実家にあると思うんだけど、やっぱり今からでも探して来た方がいいんじゃないか?」
律「今から行っても探してる時間ないだろ……ライブまで時間もないんだしさ……」
律の言う通り、ライブまでの時間は刻一刻と迫ってきている。
当然、ライブ当日までの間にも各々仕事があり、そして少しでも集まれる時間を作るため、今週いっぱいは全員の仕事も忙しくなることは既に決まりきっていた。
本来、5人が2日も続けてこうして集まれる事自体が既に珍しいことなのだが……それでも、ライブまでに可能な限り時間を作り、仕上げに費やさなければならない。
今現在も多忙を極める自分達が、どれ程過酷な道を歩もうとしているのか、今更になって律は実感していた。
紬「だ、大丈夫よ! みんなで力を合わせれば、きっとなんとかなるわ!」
唯「そ、そうだよ! あ、そうだ! もう一度演奏してみようよ!」
気落ちしかけた皆の気を持ち直そうと、唯と紬が声を上げる。
だが、その声も虚しく、全員の顔に僅かながら焦りの色が浮かんでいた。
曲のマスターが無いということは、原曲を聴くことが出来ないということ。
それは、手探りで曲そのものを構築しなければならないということ。
譜面すらも無いこの状況でその時間を作り出すのがどれ程大変な事か……音楽に関わる仕事をしている者は特にだが、想像するだけで気が遠くなっていた。
律「あー、どうしよ」
どうしようかと考えあぐねいていた時、がちゃりとした音を立て、スタジオの扉が開かれる。
直「お疲れさまです……あ、やっぱりやってましたね」
菫「お姉ちゃん、皆さん、どうも」
梓「直、それに菫も、どうしたの?」
そこには、ノートパソコンなどの各種機材を手にした直と菫の姿があった。
菫「はい、私はお姉ちゃんに仕事のお話と……あと、先程お姉ちゃんから皆さんの事情を聞いて、私から直ちゃんに相談したんですよ、そしたら……」
直「ええ、既にお話は菫から伺ってます、放課後ティータイムの歌の音源なら、私全部持ってますよ」
律「……え、マジで?」
直の言葉に驚愕の声を上げる5人。
直「はい……昨日もお話したと思うんですけど、私、今フリーの作曲家をやってまして……」
直「作曲家を志した時に私、練習と特訓を兼ねて、放課後ティータイムの歌と私達、わかばガールズの歌を全部パソコンに打ち込んでみたんですよ」
澪「全部って、あの何曲もある歌を全部?」
直「はい……菫や梓先輩に音源貰って……最初は大変でしたけど、でもやってくうちに楽しくなってきちゃいまして……」
菫「もし良かったら聴いてみて下さい、直ちゃんの作った曲、凄く丁寧に打ち込まれてるんですよ」
そして、直はノートパソコンを起動させる。
恐らく仕事用のパソコンなのだろう、作曲に関わる様々なアプリケーションのアイコンが雑多に並ぶ画面の中に『HTT』というフォルダを見つけ、クリックする。
開かれたフォルダには、放課後ティータイムの全ての歌が一覧に表示されていた。
直「ふわふわ時間……あった、これです」
直の指が、『ふわふわ時間』と書かれたMP3ファイルを起動させる。
音楽再生アプリが立ち上がり、懐かしいイントロとともに機械的な歌声がスピーカーから聞こえ始め……。
『~~♪ ~~~♪』
律「うはっ、イントロは完璧だな……まるで昔の私達の音そのものだ……」
歌声「――キミを見てると いつもハートDOKI☆DOKI……」
澪「凄い、歌声まで再現されてる……!」
唯「ねえ、これってもしかして……」
直「あ、わかります? ボーカロイドで打ち込んでみたんですよ」
菫「ふふふ、直ちゃん、たまに動画サイトにボカロの曲も投稿してるんですよね」
梓「驚いたよ……直にこんな才能があったなんて……」
直の作ったふわふわ時間は、律達の想像以上の完成度を秘めていた。
他にも、U&Iやふでペン、カレーのちライス等。過去に唯達が演奏した全ての曲が完璧な再現度で打ち込まれており、誰もがその出来栄えを絶賛するのだった。
更に……。
紬「あの、この、OFF.RGtっていうのは?」
直「はい、リズムギターの音源のみをオフにしたバージョンです」
澪「えっ、そんなバージョンもあるの?」
直「はい……勿論他にも、ドラムやベース、リードギターやキーボードをオフにしたバージョンもありますよ」
直「それらとは逆に、各パートのみの音源もあります」
律「すげえ、これなら演奏のイメージも掴みやすいな」
直「あと、譜面も全曲分、全パートを揃えてありますので、必要なら仰って下さい」
紬「わぁ……直ちゃん、凄いわ……」
澪「なんかもう、感心で言葉が出ないな……ここまでやってくれてたなんて……」
直のその手際の良さに感服し、溜息すらこぼれる5人だった。
5人全員が今後の練習のために望んでいたもの、自分達が演奏する曲の音源……それは、律達の予想以上の形で眼前に並べられていた……。
律「これがありゃ、自主練もかなり捗るな……」
梓「あ、あの! 直、もし良かったらこの音源、貸してくれないかな?」
直「はいっ、そう思って、セットリストの曲は既にクラウドサーバーに保存してあります。後ほど梓先輩にURLをお送りしますので、皆さんで是非使って下さい」
直「スマートフォンやパソコンがあれば、すぐにでもダウンロードして聴けると思います」
唯「直ちゃん、ありがとう!」
梓「直、ありがとう! 直だって本当は凄く忙しい筈なのに、それでも私達のために、ここまでしてくれて……本当にありがとう……!」
直「いいえ……私も、皆さんのライブを楽しみにしてるんです……私にはこのぐらいしか出来ないですけれど……それでも、皆さんのお役に立てればと思いまして」
笑顔を絶やさず、直は続ける。
フリーの作曲家という、時間を自由に使える仕事を選んだとはいえ、それでも彼女はまだ駆け出しの身である。
今日、これだけの準備をするのにどれ程直が自分の時間を割いてくれたのか……そこには梓の想像以上の手間があったことは、言うまでもないことだった。
澪「律……これなら……」
律「ああ、仕事の空き時間や家に帰ってからでも、十分各自で自主練できるな」
紬「あ、そうだ、菫ちゃん、私にお話があるって言ってたけど、何のお話?」
菫「はい、お姉ちゃ……いえ、『紬お嬢様』」
紬「……?」
あえて『お姉ちゃん』ではなく、『お嬢様』という固有名詞を使い、菫は紬に向き合う。
それは、これから発せられる言葉は、姉としてではなく、琴吹グループ役員であり、琴吹家令嬢としての琴吹紬に向けて投げ掛けられることを意味していた。
菫「お嬢様の今週の予定ですが、既に私の方で各方面の調整を済ませておきました」
菫「ですので、来週からは非常に忙しくなると思いますが、その分、今週は思う存分ライブに費やして下さい」
紬「菫……ちゃん……!」
菫「私も直ちゃんと同じです……皆さんのライブ、とても楽しみにしてますっ」
明るい笑顔で菫は言う。
その顔は直と同じ様に、ライブへの期待感で満ち溢れているように5人には感じられていた。
紬「すみれ……ちゃん……っ、うん、ありがとう。ありがとう……!」
律「ははっ……凄ぇ応援されてんなぁ、私達」
澪「ああ……皆の期待に応えるためにも、絶対に成功させなきゃ……」
梓「はい……そう、ですね」
唯「よーし、ねえみんな、もっかいやろうよ!」
紬「ええっ! もう一度、演奏しましょう!」
梓「直、菫、よかったら聴いてってくれる?」
直「はい、もちろんですっ」
菫「ええ、ありがとうございますっ」
律「よし、じゃあやるかっ!」
律達はステージに上がり、楽器を構える。
そして、再び彼女達の演奏が始まる。
その演奏は先程までの演奏とは違う、不安から開放された、本来の彼女達の演奏だった。
こうして5人で演奏するきっかけをくれたまりなに、昨日再会できた全ての人に、あの頃の懐かしさを思い出させてくれた5組の少女達に感謝の念を抱きながら、一心不乱に唯達は音を紡ぐ。
どれ程の時間が過ぎようが変わらない、5人が集まれば、どこであろうが私達は放課後に戻り、あの頃と同じ音を奏でることができる。
菫と直、憂に純、……また、和にさわ子達……自分達に関わる人全てがライブを楽しみにしてくれている。
重圧以上の楽しみが、興奮が5人の中に宿る。
その興奮が、彼女達の音を更に盛り上げる――!
菫「すごいな……お姉ちゃんも皆さんも、あんなに楽しそうに演奏してる……」
直「うん……ライブの当日、凄く楽しみだね」
彼女達が紡ぐその音は、演奏を聴いていた菫と直の心にも確かに響いていた。
かつての興奮が、懐かしさが二人の胸を打つ。
自分達の中の時計が、まるで学生の頃まで戻される感覚を覚えながら、菫と直の二人はステージ上で奏でられる歌に聴き惚れていた。
そしてその日、放課後ティータイムの数年ぶりの演奏は、日付を跨ぐギリギリまで続けられたのだった――。
放課後ティータイム、再結成です。
次章より再びバンドリキャラも登場します。
過去と今の輝きが織りなす奇跡の物語をどうぞご覧ください。
※10/18一部修正
10/13より歌詞の掲載が可能になった為、歌を歌うシーンに歌詞を載せました。
この改正により、少しでも読み手の方に物語の臨場感が伝わってくれれば幸いです。
この物語で特に評価できる点があれば教えて下さい
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大人になったけいおんキャラを描いた所
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作品の枠を超えたキャラの掛け合い
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随所で見られる原作小説とゲームネタ
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ライブの選曲
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『輝き』というテーマ