青春謳歌死体まみれ 作:もちもちスイカ
絶体絶命の状況に直面したことはあるか? 俺はある、というか今だ。
「おい、黒坂! 大人しく銃を捨てて投降しろ!」
「ぐっ.....」
出入り口には大勢の警察官。未成年相手だというのに随分な力の入れようである。
まあ、そのおかげで俺はここから逃げることができなかった。ともに行動していた仲間は俺を見捨てて逃亡してしまったのだ。
仕方なく俺が選んだ最後の手段は、人質を取って籠城すること。我ながらクソみたいな作戦だと思ったがどうしようもなかった。
そんなわけで俺は現在資産家の娘の頭に銃を押し付け、絶賛籠城中であった。
「.....どうすりゃいいんだ」
銃の撃ち方なんて正直わからない。人質を取ったものの、この後どうすれば逃げられるのかさえ分からない。てか、今さっき俺の苗字呼ばれてなかった??
「総員突入準備! 構え構えッ!」
不慣れな俺の様子に気付いたのか、警官たちは今にも突入しようと分かりやすく準備を始めた。どんだけ舐められてるんだ俺は。これでも気分は一人前の犯罪者だぞ。
「クソっ、人質取ってる意味ねえじゃねえか!」
しかし、気持ちがどれだけできていようと雑魚は雑魚。俺はただ額から流れる汗を拭うことしか出来ない。
せめて、ささやかな抵抗だけでも。思いついた俺はすぐさま出入り口の守りを強化しようとするのだが。
「ねぇ慎ちゃん....どうしたの? 私とキスするんじゃないの?」
「は、はあ!? アンタ、今どんな状況下分かってんのか!?」
それはまさかの人物によって阻まれた。そう、俺が人質に取っている女だ。
銃口を頭に突きつけられているというのに、女は俺に向かってキスをせがんでくる。
自分には銃なんて見えていないとでも言うのか。銃口を押しのけて俺の唇に近づいてきた。変に体にまとわりついてくるもんだから、俺の視界は彼女の顔によって遮られてしまう。
「お、おいコラ! 前がっ、前が見えない!!」
「ねーえ....ほら早くぅ....チューしよーよ」
「馬鹿野郎っ!? おま、どこに手を突っ込んでんだよ!?」
俺が、女に逆らうことなんて出来る訳もなく。なされるがままにベットへ押し倒され_____
「突入ッ突入ッ! 黒坂ァ!大人しく銃を捨てて....って、何やってだお前?」
「.......へへ、笑えよ。無様だろ?」
突入してきた警官たちは立てこもり犯の予想外の状態に言葉を失った。
部屋の中にいたのは、人質であるはずに資産家の娘に好き放題されている犯人の姿。
その様子からはとても彼が人質を取っていたとは思えない。むしろ、彼が被害者のようであった。
「19時46分、
抵抗することもなく俺はあっさり捕まった。
人質の女性によって無力化、そして逮捕。そんなあまりにも情けない様に警官たちの中には俺を笑う奴もいた。
「よぉ、黒坂。まさかお前とこんな形でまた会うなんて思ってなかったぜ」
「ゲッ。何でアンタがここにいるんだよ...」
「仕事だバカ。手間かけさせんじゃねえよ!」
ガタイの良い警官二人に両腕をガッチリと押さえられながら、連れていかれた先には見知った顔が一人。だらしなく腹を膨らませた髭面の男。
警官たちに警部、と呼ばれたその男は俺に新たに手錠をかけ直すと二人の警官に出てくように言った。
仮設テントに二人きりになった俺と男。気まずい沈黙が訪れるも、それを破ったのはやはり年上であった。
「まぁ....予想通りというか、なんというか。お前にこの手の犯罪は向いてねえよ」
「ありがたい助言をどーも。言われなくてもよく理解してる....」
男に助言を受けるも、俺はプイと顔を背ける。
説教なんか嫌という程にされてきた。それに自分が犯罪をするには不向きであるという事も誰より知っている。本物の連中は俺なんかとは種族が違う。
「はぁ.....最悪だ」
これから自分の身に起こることを考えると、自然とため息が漏れた。そんな様子の俺を見て、警官は意地悪く口元を緩ませた。
「中々珍しいぞ。死ぬほど苦労してあそこから卒業したってのに、また戻るなんて」
「止めてくれ...考えただけで吐き気と頭痛が.....」
暴力、薬、金、権力。そして死体死体死体死体。二度と思い出したくないと思っていた記憶たちが脳裏によぎる。
「これは、お前には二度目のアドバイスになるが....」
そう言うとゆっくりと向き合う形で腰かける男。帽子を取り、語り掛けるように話す彼の様子は2年前のあの日を思い出させた。
「あそこでは目立つな。生半可な棘じゃ、簡単にへし折られる。勝ちたいのならナイフを持て。生きたいのなら群れになるんだ。分かったか少年?」
「.....分かってるよ。アンタの教えに従ったから卒業できたんだ」
10年前、少年法が未成年犯罪法へと変わり、未成年への取り締まりは以前にも増して強化された。犯罪は明確に序列化され、ある一定以上の罪を犯した者には特別な罰が与えられることとなった。
それは、国が用意した更生施設への強制入居。更生施設の名前は少年院改めクリミナルスクール。厚生施設と言っても、位置しているのは本島から離れた孤島。実際にそこで暮らしていた俺に言わせれば、あそこは極悪未成年犯罪者の隔離場所だ。
「運が良いぞ黒坂。今回は夜中に入島できるそうだからな」
「アンタらに捕まった時点で俺の運勢は最悪だ。もう喜べねえよ...」
確かに夜中に島に入るのは昼に比べてリスクが低い。だが、俺にはそんな些細な幸せを喜ぶ余裕がなかった。あまりのストレスに吐く息全てがため息になってしまう。
「まっ、そう気を落とすなよ。確かにあそこは最悪だが、歴代トップクラスの早さで卒業できたお前なら問題ないだろ?」
「ったく....自分じゃないからって簡単に言いやがって」
ムカつく野郎だ。相手に聞こえるように大きく舌打ちをするも、男は気にすることなく話を続ける。
「もうお前の投獄手続きは終わってるからな、あとはもう俺の役目はないんだが....特別にこれをプレゼントしてやる」
そう言って手渡されたのは一枚のマスク。俺がつけるには大きめのサイズである。
「無いよりかマシだろ? お前は相変わらず面だけは良いからな」
「....ありがたく貰っておくよ」
男から渡されたマスクを着け、俺は渋々席から立ち上がる。外から聞こえてくるのは新たにやって来たであろう車の音。迎えは到着したようだった。
「じゃあな。もう二度とアンタに会わないことを願ってるよ」
「へっ、俺もだよバカ野郎が」
乱暴な別れを済ませた俺は覚悟を決め、地獄への片道切符を握るのであった。
第一話お読みいただきありがとうございました!