遊戯王Arc―Ⅴ The Revenge of Blue-Eyes   作:青眼

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 ―――変わり果てた世界の中で。新たな一日を刻んで行こう。


バトルマニア

 

 

 ―――うっすら意識が覚醒していく。酷い/懐かしい夢を自分は、桐原秋人は見ていたようだ。夢の中とはいえ、既に失ってしまったモノの声や顔が思い返すことが出来た。夢を見るということは眠りが浅いという意味らしいが、こうしてもう会えない人たちのと顔を合わせるのは嬉しかったりする。手が届かないからこそ美しいものがある、誰かがそんなことを言っていたが。こうして実体験してようやく理解できる辺り、人間というのはやはり愚かな生き物なのかもしれない。

 溜め息を一つ吐いてから、逃避しかけた現状に目を向ける。とりあえず、自分の腰回りに違和感をあったので首を下に向ける。案の定、思い浮かんだとおりの光景が目の前に広がったことにげんなりとした表情を浮かべながら口火を切る。

 布団を捲った先にあったのは、俺の体を勝手に借りて暖を取ろうとしていた長く、淡い紫色の髪を伸ばした少女の私服姿であった。まだ幼いながらも無駄に発達の良い体を押し付けていた少女は、蠱惑的な表情を浮かべながら俺の目と合わせる。

 

「おはよう藤原。んで、何か申し開きがあるか?」

「おはよう先生。いえ、別に何も無いわ。それにしても、動じないのね?」

「馬鹿か。ガキ相手に揺れる軽い精神してねぇわ」

「でも先生童貞でしょう?」

「引ん剝くぞテメェ」

 

 イラっとした俺の言葉にきゃあ、と黄色い声を上げながら腰にまとわりついていた女が離れる。一応、自分の教え子でもある少女が勝手に部屋に上がり、挙句の果てに異性である自分の寝室まで入って来ることに溜め息を漏らしながら、いそいそと部屋着を取り出す。上の服を脱いで簡素な無地のシャツに着替えた後、未だに部屋に居座っていた女にいい加減にしないと怒るぞと念を入れた視線を送る。

だが、向こうはむしろ楽しそうに嬉々とした笑みを浮かべるだけで出て行こうとしない。目覚めてからもう何度目かの溜め息を吐いた後、少女の元まで歩き――――

 

「出てけマセガキ」

 

 容赦なく首根っこを掴んで部屋の外に放り出すのであった。

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 平穏だったはずの休日を朝から破天荒極まりない事態になってしまったことに諦観の念を覚えながら、資料を片手に朝食を摂る。といっても、自分が作ったのではなく目の前の女―――藤原雪乃が作った料理なのだが。業腹な事にこれが美味い。まるで一級のシェフが作ったと言われても遜色のない出来と見栄えの良い料理を味わう。

 

「毎回毎回、人の部屋に入り込んでくるのやめろ。お前が来た後、毎回鍵を造り直すこっちの気分にもなってくれ」

「別にいいじゃない。それに、私の手料理を食べられるなんて贅沢よ? 並みいる男ならそれだけでも十分なご褒美なのだけれど」

「ハッ。胃袋から掴もうなんて随分な搦め手使うのな?」

 

 もはや日常になりつつある異常な光景と状況を嘲笑しながらコーヒーを啜る。自分があらかじめ買っておいたそれなりに値が張る高級な豆だが、自分が挽いて淹れたモノより上手いと感じるのは何故なのか。藤原はそれなりに裕福な家の出なので、もしかするとその道のプロからある程度の技術を教わっているのかもしれない。だが、なんとなくそれはとても信じたくないので敢えて黙っておくにする。

飲み切ったコーヒーをソーサーに載せて首を下に向けると、自然と藤原と視線が合ってしまった。ニコッと笑う彼女の表情は美少女のそれで―――事実、自分が教えているスクールではマドンナ的ポジションにいる―――、何とも絵になるのが腹立たしい。

 成績優秀。容姿端麗。文武両道。今回の様に家事スキルも完備で、非の打ちようのない万能人。だが、そんな彼女の手にまだ新しい絆創膏が張られているのに気づき、何の気なしに尋ねる。

 

「おい、その指のやつどうした?」

「あぁ、これかしら? ふふっ。知りたいかしら?」

「もったいぶるな。本気で出禁にするぞ」

「勿体ぶらないわよ。ふふっ。ちょっと、料理で指を切ってしまってね?」

 

 藤原がサラッと口にした発言に少々目を丸くする。先ほども言ったが、目の前の少女はまるで絵に描いたかのような文字通りお嬢様なのだ。家は豪邸だし、家事は基本ハウスキーパーが済ませている。それでもいずれ独り立ちするのを夢見てか、それとも花嫁修業のつもりか家事も万能にしていると豪語しているあの藤原が初歩的なミスをするとは思わなかったのだ。よもや、今日は槍でも降り注いで来るのではないのだろうか―――

 

「それで、少し。料理に隠し味を、ね?」

「すまん少々見苦しい物を見せる。嫌なら部屋から出ていけ」

「ふふっ。冗談よ?」

「笑えねぇ冗談言ってんじゃねぇぞヤンデレ予備軍……!!」

 

 指に巻かれた絆創膏を剥がし、巻いてない部分と同じ綺麗な指を見せつけながら満ち足りた笑顔を浮かべる藤原に殺意を覚える。何かとこちらにちょっかいを掛けてくる目の前の子供に翻弄されっぱなしなことに、年長者としてのプライドが少し傷ついてくる。 

 ―――さて。朝食も終わり、食後の一時を過ごしたあと。そろそろ本格的に藤原に視線を向ける。目の前の彼女は頬を赤く染めながら恍惚とした表情を浮かべるので、本当に億劫だがこちらから話題を提示する。

 

「んで、今日は一体何のようだ。朝勝手に部屋入って来るのはよくあることだが、わざわざ朝飯作ってコーヒーまで淹れたんだ。何か用があるんだろう?」

「ええ。話が早くて助かるわ」

「もう何度目になるか分からんからな。それで荷物持ちか? 家出か? それとも恐喝か?」

「貴方の中で私はどういう女として認知されているのかしら?」

「容姿端麗で冷酷無比。かつ、家柄の事を利用するけどそれが最近鬱陶しく思ってるお嬢様だが?」

「いいわ。安い挑発に乗ってあげましょうか」

 

 笑みを浮かべた藤原は、徐に腰のホルダーからカードの山を取り出す。意外と短気なお嬢様の相手をするのは一苦労だが、腹ごなしにはちょうど良い相手だと前向きに考える。指をパチンと鳴らし、二人の目の前にあったテーブルの上半分が開く。剥き出しの電子回路の様なものが現れ、所定の位置に互いのカードの山。デッキをセットする。

 

「それじゃ、今日もよろしく」

「とっとと始めるぞ。お前の予定も済ませないとなんだからな」

 

 これが、今の自分にとっての日常となりつつある世界。かつての世界と比べればぬるま湯に浸かっているかのような退屈な日々。だが、日々の潤いが無いという訳でもない。はたして今日はどのような一日になるのやらと億劫に想いながらも、山札からカードを引くのであった。

 

☆ ★ ☆ ★ ☆

 

場所は俺の自室から打って変わり、己の職場であるデュエルスクールへと移動している。藤原との遊戯に付き合い、なんだかんだ彼女にちょっとした弱みを握られている自分はされるがまま彼女の用事に付き合わされている。藤原雪乃という少女への個人的な評価は、先ほど吐き捨てた通りませガキの一言に尽きるのだが。それを抜きにして客観的な評価として彼女はとても魅力的な少女だ。だからこそ、一応教師である己とは節度のある関係を取っていきたいのだが。

 

「そうしたい……んだけどなぁ……」

「あら、先生は私の相手をするのはお嫌いかしら?」

「嫌いでも何でもねぇよ。つか一々くっつくな、当たってんだろ」

「当てるのよ」

「もうやだこのJK………」

 

 腕に引っ付く形でこちらを誘導する藤乃に、そのまま付き合わされる俺を見る周囲の目。先ほども言ったが、彼女はとても魅力的であるがゆえにこのスクール問わず人気がある。一部の層ではファンクラブだの親衛隊だのが結成されており、過激派の連中は麗しい姫に近づく虫として俺の事を排除しに来ることが多々ある。

といっても、実力は今までの闘いの中でも下の下なので記憶する価値のある相手にならない。だが、流石にそれが定期的に怒るとなるとうんざりするので、可能であれば離れて歩きたいのだが――――

 

「~~~~♪」

 

 ―――妙に上機嫌なこいつに不愉快な話をするのも嫌なんだよなぁ。

 甘い己の性格を呪いながらその場から連れて行かれること数分。栗色の髪を肩のより少し長く伸ばした、藤乃と同年代らしき少女がこちらに向け手を振る。こちらを引っ張ていた彼女も手を放し、楽しそうにハイタッチをしていることから学校の友人のようなものなのだろうなと想像する。友達との水入らずの空間を邪魔するのも申し訳ない。別に藤原の要件に付き合うのが面倒くさいとかそういうのではなく善意のつもりで来た道を引き返す―――

 

「どこに、いこうと、しているのかしら? ん?」

「いだだだだだだだ!! 耳を引っ張りながら器用に抓るな!! お前爪(なげ)ぇんだから抓るな馬鹿!」

 

 表情は笑っていても、俗に言う目が笑っていない笑みを浮かべる藤原と実力行使に根を上げる教師。なんともまあ情けない構図に名も知らぬ少女は苦い笑みを浮かべる。流石に初対面の少女に、生徒に虐げられる哀れな教師Aという不名誉な印象を与える事だけは回避するべく、やっとのことで藤原から解放された俺はやむなく自己紹介を済ませる。

 

「……桐原秋人だ。ここの教員の一人だ」

「あ、これはどうもご丁寧に……。あ、私は春菜って言います。星野春奈。流星の星に、野原の野、四季の春に菜っ葉の菜で星野春菜です!」

「―――わざわざ漢字まで説明するとか、律儀な子だな」

 

 朗らかに笑う星野という少女を見て、こういうのが普通の女の子なのだろうなと心が洗われるような感覚に陥る。最近の接点がある女の子は先ほどの藤原だったり、自分が担当するクラスの委員長。他にもいなくもないのだが、普通の女の子と会話するだけでここまで気持ちが上がるのかと内心で驚いている。

 

「それで、その星野さんと藤原の要件は何だ? 待ち合わせもしてたんだし、共通の用事なんだろ。つっても、ここに来たってことは大方デュエルモンスターズについてだろうけど」

「あ~……その、えっと、ですね? その~……」

「いいわよ春菜。要件は私が伝えてあげるわ」

 

 挨拶もそこそこに、とりあえずここに来た理由を尋ねる。だが、先ほどの自己紹介とは打って変わり、どこか言いにくそうに口を閉じてしまう。何か不味い事を聞いたのかと思い返してみるが、特に変なことを尋ねたつもりもないので己に非はないと確信する。すると、今もなお続く耳の痛みを引き起こした張本人が悪びれもせずに告げた。

 

「今から、私達二人のデッキ調整に。あと、春菜のデッキを作ってあげたいのよ」

「―――はあ?」

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「………なるほど? 学校行事でタッグデュエルがあると。それで、人気者の藤原毎度の如くタッグを組んで欲しいとせがまれて―――」

「公平性を保つためにくじ引きになったのよ。それで春菜とタッグを組むことになったというわけ」

「それで、その。私デュエルモンスターズは好きなんですけど、実戦経験とか少なくて。藤原さんが渡してくれたカードを試してみたんですけど、正直使い慣れなくて。それで、桐原先生に相談したらいいって藤乃ちゃんに言われたんです」

「………ちなみに、藤原が貸したのって何のカテゴリーだ?」

「『リチュア』よ?」

「初心者に儀式なんて扱い辛いデッキを渡すんじゃない!」

 

 大体の理由を把握し、藤原がさも当然の如く渡したデッキに頭を抱える。

 ―――デュエルモンスターズ。それは、この世界において政界、財界に匹敵する強力な発言力と存在感を放つ特殊な立ち位置にあるカードゲームの総称。野球やゴルフといったスポーツ界とは別枠、文字通り。そして、意味通りその界隈のトップ。プロデュエリストになればその注目度はより際立つ。その世界の覇者は膨大な財産を築いたり、スポンサーを背負ってチームを組んだり。なんにせよ、プロという称号は今を生きる決闘者(デュエリスト)達にとって注目の的なのである。

 勿論、デュエルスクール(・・・・・・・・)という名の通り。ここもまたプロ決闘者を育成するための教育機関の顔を持つ学園の一つだ。一応、そのスクールの中でも教師をやっているということから、藤原は一番頼っている―――というより小間使い―――俺に相談して来たのだろう。生徒が教師を頼ってきた以上、それには応えなければならない。面倒ごとを持ち込んできたのには溜め息を吐かざるを得ないが、今日はまだマシな方なのでやむなしと納得する。

 

「とりあえず、星野はデッキを見せてみろ。ある程度のことなら俺もサポートしてやるから」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 少々慌てながらもデッキケースごとこちらにカードを渡してきたことに少々驚きながらも、その封を解いてデッキの中身を一枚一枚丁寧に並べて行く。高レベルのモンスターはそこそこ。下級モンスターやマジック・トラップカードも使い勝手の良いカードばかり取り揃えていることから、実際に戦ってもそこそこ戦えるようにはなっている。だが、この二人が行うのはタッグデュエル。なので、ある程度は同じカードを共有しておけば更に連携がとりやすくなるのは間違いない。だが、そのためには問題が一つ。

 

「問題は、どっちが寄り添うかだな。見た感じ、藤原と星野。二人のデッキはまだ寄り添える範囲のデッキだ。星野がモンスターを展開し、それを残しさえすれば雪乃が上級モンスターを出しまくるからな」

「ええ。ただ、星野さんのデッキはモンスター・エクシーズをを展開するの。レベルを持つモンスターがフィールドに残り辛いのよ」

「……今の構築に儀式要素を加えるというのは駄目、なんでしょうか?」

「ダメってわけじゃあないが。そうなると展開力が落ちて器用貧乏なデッキになってしまう。俺としては、藤原がもう少しエクシーズ召喚をするようにすれば良いと思うが」

「先生? それ、私のデッキの特徴をみて言ってるのよね?」

 

 ニコッと綺麗な笑顔を浮かべながら殺意をむき出しにする氷の女王に肩を竦めながら、どこかに良いデッキが無かったものかと端末を操作しながら適当に検索する。だが、あまりにもカードプール(・・・・・・)が違い過ぎるせいで思うようにデッキ構築が進まない。スクール用のレンタルカードを使っても構わないが、公式戦や学校行事でそれらが用いられるのは世間体的にもよろしくはないだろう。

 それからは数時間、各々が提案したデッキの改善案を提案し。それを実践するためにカードを探しに街に繰り出した。支払いは何故か俺が持つことになってしまったが、日ごろからそんなに使わず貯めてしまっている自分がこの時だけは恨めしかった。星野は申し訳なさそうに頭を下げ続けていたが、藤原はその様子をクスクスと笑っているのが腹立たしい。

 

「んで、どうだよ。デッキ構築の出来上がりの方は」

「バッチリよ。流石は先生、私が昔使っていたデッキの事まで把握してるなんて。ご褒美はいるかしら?」

「そうか。んじゃとりあえずその差し出したスプーンを仕舞え。そして一人で食べろ。最後に俺を家に帰らせろ」

 

 小休憩に近くのフードコートで昼食になったが、それもやはり俺が会計を持つことになる。金に困る事のない生活をしているとはいえ、こうも我儘を押し通されると少々腹立たしい。加えて大人を舐め腐ったマセガキのいいように扱われていると思うと苛立ちは更に増す。繰り返される煽りと拒絶のやり取りを交わす中、黙々と障子を続けていた星野がとんでもない事を言い始める。

 

「二人とも仲良いんですね。先生と藤原さんってどんな関係なんですか?」

「許嫁よ。両親が認めた、ね?」

「本当ですかッ!?」

「嘘に決まってんだろ。てかなに悍ましいこと言ってんの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

「あら。貴方にイカせて貰えるなら、どこでイッても良いわよ?」

「公衆の面前で紛らわしい発音してるんじゃねぇ!」

 

 教師と生徒という関係で、十八禁相当の発言を流れるように口にする藤原に頭を抱える。ほとんど毎日ように平穏な日々を破壊し尽くしてくれる目の前の女生徒にちょっとした仕置きでもしてやろうかと考えたが、それはそれでまた何かしらの面倒ごとが起こる前触れになりかねない。こういうものは可能な限り触らないに限る。女子2人がガールズトークに花を咲かせ、荷物持ち兼支払い役の俺は溜め息を零しながら席を立つ。

 

「ちょっと手洗いに行ってくるわ。そこを動くなよ?」

「ええ。あ、戻ってくるときにアイスをお願いできるかしら?」

「あいよ。ストロベリーで良いよな。星野は何がいい。折角だ、驕ってやるよ」

「え、いえそんな! カードを買ってもらってお昼ご飯までご馳走になった上にデザートまで何て……」

「気にすんな。どうせ貯めてるくらいしか取り柄が無いんだ。こういう時は素直に大人に驕られとけ」

「………わかりました! ではバニラをお願いします!」

 

 元気よく答える星野の頭を軽く撫でながらフードコートを去り、近場のトイレに駆け込む。散々資料を持ってスクール内を歩き回っているが、ここまで外出して歩き回ったのは久しぶりだ。意外と疲れが溜まったのか老廃物を出しながら深呼吸を一つ。疲れもしたが、十二分に日ごろの業務で凝り固まった体をほぐせた気もしなくはない。結果としては連れ出してくれたあの二人に感謝しながらアイスを買ってフードコートに戻る。

 ――――すると。目を疑うような厄介事がその場で行われていた。

 

「なぁ雪乃。ここはやはり二人でタッグを組もうじゃないか。俺と君なら相性は抜群だよ?」

「アナタもしつこい男ね。残念だけれど、私のパートナーは既に彼女なの。そ・れ・に。アナタ、正直好みじゃないのよ」

 

 二人の下に居る一人の男性。見た感じ雪乃たちと同年齢といった感じだが、見た感じとておも胡散臭い。これでもかというぐらいに自分を良くみせようとした悪趣味な貴族の様な漢なのだが、どこかで見たことがある顔だ。先ほども言ったが藤原雪乃というのは美少女で、良い意味でも悪い意味でも目立つのが雪乃だ。一緒に居た(おとこ)が居なくなったから声をかけてみようとでも思ったのだろう。だが、普段はああやって絡まれても後攻ワンショットキルでフルボッコにするのが常なのに、今日はそれをしないのは何故なのだろうか。

 ―――とりあえず、見て見ぬ振りも出来ないよな。

面倒ごとが増えたと思って帰るのが億劫になるが、意を決して彼女達の元へと戻る。

 

「待たせたか。すまんな、意外とアイスを買うのに手間取った。んで、何この状況?」

「え~と………その、そちらの男性が藤原さんのパートナーを変われって突然絡んできまして……」

「先生なら分かるでしょう? いつものアレよ。ア・レ」

「OK大体察した。つーことは過激派の方か、面倒くせえ」

 

 いつものアレというのは、藤原雪乃(かのじょ)の親衛隊等のストーカー集団ということだろう。相手にした数はもう記憶していないが、何かと絡んで戦いを挑んでくるから何となく記憶はしている。つまり、目の前の男はその時に相手をした人物の一人ということなのだろう。

 

「まあ俺は構わないけどさぁ。早いとこアイス食おうぜ。せっかく買ったのに溶けちまう。ほれ、そっちも俺のやるから少しは頭ぁ冷やして―――」

「部外者は引っ込んでいてくれないかな? 今、僕は大事な話をしてるんだ」

 

 アイスの入ったカップを一つ、見ず知らずの男に渡すも一蹴される。外見だけでなく性格的にも難がありそうな目の前の男に辟易しながら、とりあえず他の二人にもアイスを渡しておく。星野は目の前の状況におどおどしながら。藤原は男などいないかのように優雅にアイスを口にする。まるで相手にされていないのは自分でも分かっているだろうに、それを気にせず男は藤原に食い下がる。

 

「なあ雪乃。どうしてこんな見るからに階級の低い人たちとこんなところで食事してるんだい? 君にこんなところは似合わない。それに、公平性を取るためとはいえ、君とこの子が釣り合っているとは思えない」

「………………………………」 

 

 男に言われるがままの藤原。その言葉の矛先は彼女だけでなく星野にまで向いた。さりげなく自分のことを貶された本人は苦笑しながら申し訳なさそうに頭を下げる。何一つ悪い事をしていない星野の浮かべるそれは、哀愁に満ちたもので。何となく理由は察していた。

 考えるまでもないが、実戦経験の少ない彼女が学園のマドンナといきなりタッグを組むことになって。自分が弱く頼りないからこうして他人を巻き込んでのデッキ調整になっている。自分でも分かっているとはいえ、それを他人から指摘されるというのは精神的にくるものがある。

 ―――――だから、まぁ。

 

「おい。いい加減にしろ三下」

 

 ――――――こういう展開になってしまうのも仕方のないわけで。

 

「……何かな。部外者は黙っててほしいとさっき」

「生憎と今日はこの二人の引率係でな。そろそろ予定が押しそうなんだよ。だから面倒くさい話は後日にしろ」

「君如きが私と対等だとでも? 今の三下という発言を取り消すなら」

「取り消すかよ。人の目を見て話せず、他を想うこともせず、己の意見だけを貫こうとするクズに掛ける言葉なんざねぇよ」

 

 自分でも面倒なことに首を突っ込んでしまったと理解はしていた。だが、これ以上は見て見ぬふりをすることなどできない。多かれ少なかれ藤原には感謝しなければならないところはあるし、星野にはこれからもデュエルモンスターズを楽しんでもらいたい。その為にも、勘違いした目の前の男にいいように言われるなど以ての外だ。

 

「それともなにか? いいとこ育ちの坊ちゃんは甘やかされたからそんな感じになっちゃったのかな? だとしたらそれは申し訳ない事をした。育つ環境を選ぶことなんて子供には選べないよなぁ? いやぁごめんなさいね?」

「………さっきから黙って聞いていれば好きな事ばかりほざくな。よほど生まれ育った環境が劣悪だったのが見て取れる」

「生憎と戦場みたいなところを駆け抜けてきた傭兵くずれみたいなもんでな。んでどうする? 育ちの良い坊ちゃんは言われるままでおめおめと引き返すのかい?」

 

 分かりやすく相手の逆鱗に触れるようなワードを並べて挑発する。雪乃にしつこく言い寄るところを見る限り、この男の性格は自分が世界の中心にいると錯覚してる典型的なパターンだろう。それ故に慢心し、自分が絶対的な物だと驕る。こうすれば簡単に乗っかって来る。現に、目の前の男は徐に懐からある物を取り出した。

 決闘盤(デュエルディスク)と呼ばれるそれは、某社によって製造されたソリッドヴィジョンと呼ばれる3D映像投影装置であり。デュエルモンスターズというカードゲームを世界規模の大ヒットゲームへと変貌させたきっかけとなったもの。これを構えたということは、事の成り行きをデュエルモンスターズで決めると言っているのと同義。喧嘩を売ったのはこちらだから当然それを受けるのだが。その前にやるべきことが一つ。

 

「―――おい星野。今のお前のデッキ貸せ」

「え!? あ、あの私のデッキ完成したばかりですし先生はご自身のデッキを使った方が」

「い・い・か・ら・貸・せ」

 

 戸惑いながら断る星野から少し強引だがデッキを取り上げ、自身のディスクにそれをセットする。オートシャッフル機能によって不正が無いようにシャッフルが施されたデッキから5枚のカードを引き、準備を整える。こうなってしまった以上、この闘いが終わるまでこのデッキを星野に返すことは出来ない。人によっては命にも等しいとさえ言われるデッキを強引に奪ったのは自分も悪い事をしたとは思っている。

 ―――だが、こうでもしないと苛つきが取れなかったのだ。その理由を説明するのは、また後になってしまうが。今はただ、流されて欲しい。

 

「正気かい? 自分のデッキじゃなくて、他人のデッキを使うだなんて」

「まぁな。それに、ほら。このデッキ組んだばっかりでな? ちょうど実戦したかったところなんだよ。いやぁいい相手がいてくれて助かったよありがとなぁ?」

「………減らず口を。その舐めた態度が取れないように叩きのめしてやるっ!!」

 

――――決闘(デュエル)ッ!!!

 

 

()

 

 

 

 

 

 




秋人「これ読者の皆も思った事だけどな。前作との違う点結構出てきたよな。俺が先生やってたり、いきなり新キャラ。それもタッグフォースのキャラを投入したりとかさ」
藤原「あら。先生は私の事嫌いなのかしら?」
秋人「嫌いってわけじゃないが、よくもまあお前みたいな扱い辛い奴をセレクトしたなあって」
藤原「うふふ。まあ、私を描写するのは確かに難しいかもしれないわね?」
秋人「ところでよ。せっかくだし藤原にききたいことがあるんだが」
藤原「あら、何かしら? 他愛のない事なら何でも教えてあげるわよ?」
秋人「お前、夏の暑い時でも肉まん食べるってマジ?」
藤原「―――――あら、もう時間のようね。それじゃ皆、また次回で会いましょう?」
秋人「あ、おいコラ! 質問答えろって! 逃げんなよ藤原!」

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