遊戯王Arc―Ⅴ The Revenge of Blue-Eyes 作:青眼
桐原秋人 LP4000
??? LP4000
「さてと。先攻か後攻、どっちがいい? 好きな方を選ばせてやるよ」
「………そうかい。それじゃ、僕は後攻を頂くとしよう」
「OK。それじゃ、俺の先攻からだ」
ディスクから引き抜かれた5枚のカードを互いに確認する。互いに今回初めて闘うものどうしだからこそ手の内を知ることは出来ていない。だが、どちらかといえば今は俺の方が不利なのは確かだ。
自分の物ではないデッキを使う。言うは易く行うは難しという諺があるように、そのくらいに他人のデッキを使うのは難易度が高い。加えてこのデッキは手伝ったとはいえ星野が自分の思いを込めて作った藤原とのタッグデュエル用のデッキ。どのようなカードを入れ、どのようなサポートに入ろうとしたのかを正確に把握しきれていない。まずは、このデッキには何のカードが入っているのかを把握する必要がある。幸い、デッキのカードを確認するためのカードは最初の5枚の中に引き込めてある。
「俺は手札から『マスマティシャン』を召喚。その効果により、デッキからレベル4以下のモンスターカードを墓地に送るが、何か発動するカードはあるか?」
「特にないね」
マスマティシャン/地属性/☆3/魔法使い族/ATK1500 DEF500
本来ならばディスクの液晶画面に表示されるカードを選択するところだが、今回はディスクにセットしたデッキを取り出して1枚ずつ丁寧に確認していく。手札のカードと合わせた40枚のカードと、エクストラデッキの15枚。合計55枚のカード全てを確認し終えた後、デッキをディスクに戻しオートシャッフル機能を作動。不正の無いシャッフルを終えた後、このデッキの為すべきことを果たすべく手を走らせる。
「………俺はデッキから『絶対王 バック・ジャック』を墓地に置く。そして、このカードが墓地に送られたことで効果発動。デッキの上から3枚のカードを確認し、好きな順番で入れ替えることが出来る」
ディスクから排出された3枚のカードと手札を照らし合わせる。今の手札で打って出ることは厳しいが、まだ始まって1ターン目。先行は攻撃することが出来ないということもあり、無理して動く必要もない。ある程度ならばこのカードで防げるだろうと判断してデッキトップの3枚の順番を操作する。
「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」
桐原 LP4000
場:マスマティシャン(ATK1500)
魔法・罠:2
手札:2
??? LP4000
場:
魔法・
手札:5
「大見え切った割にそれだけかい? 面白味の欠片も無い布陣だね」
「1ターン目で強引にデッキを回して息切れ起こしてどうする。完全に相手の息の根を止めれる自信があるならやればいいが、大して制圧力のカードを並べるだけなら子供にだってできる。そういうお前はちゃんと出来るんだろう? なぁお坊ちゃん?」
「君に乗せられるのは癪だが、まあ良いだろう。安い挑発に乗ってあげるよ! 僕のターン! 手札からフィールド魔法、『
ターン開始と同時に展開されるフィールド魔法により、辺りの景色が気味の悪い黒を基調とした廃墟や荒野のようなものへと変換される。まるで世界が滅んでしまったかのような世界に、過去に見た
「僕は手札から『悪魔嬢リリス』を召喚! このカードは通常召喚された場合、攻撃力が半分になってしまう。だけど、問題なのはそこじゃあない」
悪魔嬢リリス/闇属性/☆3/悪魔族/ATK2000→1000 DEF0
「僕は『リリス』の効果発動! 自分フィールドの闇属性モンスター1体をリリースすることでデッキから通常
「えぇ!? で、でも『マスマティシャン』は地属性ですよ!? そもそも闇属性じゃないんだからコストにすら出来ないんじゃ」
「違うのよ春菜。彼が発動したフィールド魔法『シャドウ・ディストピア』がある限り、互いのモンスター全てを闇属性へと変える。加えて、カードの効果を発動するために必要とするリリースによるコストを、1ターンに1度だけ相手フィールドの闇属性モンスターで代用できるのよ」
「exactly。さあ、この3枚からカード選ぶと良い」
↓選ばれたカード
『聖なるバリアー ミラー・フォース』
『戦線復帰』
『メタバース』
人のモンスターを勝手に使われたあげく、相手の良いようにことが運ぶ天下になってしまったが然したる問題は感じない。選ばれたカードはどのデッキでも使われているような有名どころのカードばかり。ランダムとはいえ強力な罠を1枚仕掛けることが出来るというのは便利だ。
「さて。これで君の場はがら空きだ。更に仕掛けさせてもらうとしよう! 『悪魔嬢リリス』をリリースすることで、手札から『影王デュークシェード』を特殊召喚! このカードは自分フィールドの闇属性モンスターを特殊召喚でき、その数1体につき500攻撃力をアップさせる!」
影王デュークシェード/闇属性/☆4/悪魔族/ATK500→1000 DEF2000
「更に、自分フィールドの闇属性モンスターがリリースされたことでこのモンスターを特殊召喚する! 現れろ、闇黒世界を統べる魔王! 『闇黒の魔王 ディアボロス』!!」
闇黒の魔王 ディアボロス/闇属性/☆8/ドラゴン族/ATK3000 DEF2500
「そんな、1ターンで攻撃力の合計が4000!? もしこのまま攻撃が通ってしまったら桐原さんは―――!」
「伏せカードがブラフじゃないことを祈るよ。バトルフェイズ! まずは『デュークシェード』でダイレクトアタックだ!」
一瞬にしてこちらのライフを削り切るための布陣を整え、魔王に付き従う小柄な男がこちらに目掛けて短刀を放り投げる。その攻撃に動じることなく受け止めるが、流石に立体映像で出現したモンスターの攻撃を直接受けるのはそれなりに痛みが発生する。
桐原 LP4000→3000
「おやぁ? 何もないのかい? だったらこの一撃で終わりだねぇ!! 『闇黒の魔王 ディアボロス』でダイレクトアタック!」
禍々しいオーラを纏う魔王が咆哮と共に口を開き、その中から閃光を放つ。それは躊躇うことなくこちらへと迫り、その一撃を受ければこの戦いは敗北する。だが、まだ始まったばかりのこれを早々に終わらせることなど許されるはずもない。このデッキの真価は、次のターンからなのだから。
「トラップ発動、『カウンター・ゲート』。相手プレイヤーの直接攻撃を無効にし、デッキから1枚ドロー。それがモンスターカードならばこの場で通常召喚が可能となる」
魔王が放つ一撃は突如現れたワームホールのようなものに吸い込まれる。完全に攻撃を吸収した後、すかさずカードを引いて
「俺は『マンジュゴッド』を召喚。そして、『カウンター・ゲート』で通常召喚されたことで効果発動。デッキから儀式モンスター……『破滅の天使ルイン』を手札に加えさせてもらう」
「前のターンで『バック・ジャック』の効果でデッキの上を操作していたからか。まあ、そうじゃないと面白くない。メインフェイズ2でカード1枚伏せ、『ディアボロス』の特殊効果発動! 自分フィールドの闇属性モンスターをリリースすることで相手プレイヤーは手札を1枚選んでデッキ一番上か下のどちらかにおかなければならない!」
自分の近くにいた影王が姿を消したことで発動された能力により、手札のカードを一枚を選んでデッキの上に置くことにする。自分でも思ってもみないことに少し驚いたが、これは自分にとってとても好都合だ。
「墓地の『バック・ジャック』の効果発動。相手ターン中、墓地のこのカードを除外してデッキの一番上のカードを公開。それが通常罠ならばセットし、このターン中での発動が可能となる。デッキの一番上のカードは『彼岸の悪鬼スカラマリオン』。モンスターカードの為墓地に送られる」
「ふうん。サーチカードとは面倒な。カードを2枚伏せてターン終了だ。この瞬間、フィールド魔法『闇黒世界シャドウ・ディストピア』の効果発動! フィールドのモンスターがリリースされたターンのエンドフェイズ、ターンプレイヤーのフィールドに『シャドウ・トークン』を可能な限り守備表示で特殊召喚する! リリースされたモンスターの数は3体。よって、3体の『シャドウ・トークン』が出現する」
シャドウ・トークン/闇属性/☆3/悪魔族/ATK1000 DEF1000
「ならば、こちらもエンドフェイズに墓地に送った『スカラマリオン』の効果と、永続罠『闇の増産工場』発動。『闇の増産工場』は手札・フィールドのモンスターを墓地に送ることでカードを1枚ドローする。手札の『儀式魔人プレサイダー』を捨て、1枚ドロー。
更に『スカラマリオン』はこのカードが墓地に送られたエンドフェイズ、デッキからこのカード以外の悪魔族・闇属性・レベル3のモンスターカードを手札に加える。俺は、『儀式魔人デモリッシャー』を手札に加える」
桐原 LP3000
場: マンジュゴッド(ATK1400)
魔法・罠:闇の増産工場(永続罠)
手札:3
??? LP4000
場:闇黒の魔王ディアボロス(ATK3000)
シャドウ・トークン(DEF1000)×3
魔法・罠:闇黒世界シャドウ・ディストピア(フィールド魔法)
2
手札:1
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「なんとかワンターンキルを防ぎましたね。でも手札の『
「あら、彼が今使っているのは貴女のデッキでしょう? 親の貴女が諦めて良いのかしら?」
「で、でもあのデッキ組んでまだ一日も経ってないんですよ!? それにサポート用のデッキで単独で戦えるカード何てそんなに………」
自分が作った親だからこそ、そのデッキを用いて闘っている桐原の事を星野は心配する。それは自分に自信を持てないからか、それとも本当に初心者からなのか。どちらにしてもあまりにも弱弱しい表情に藤原は少なからず嗜虐心が疼いたが、少なくとも今は彼女と共闘する関係だ。それに、桐原が何故自分のデッキではない彼女のデッキを用いたのか大体の理由は察している。
だからこそ優雅に。学園のマドンナとしての顔を使って星野に声をかける。
「―――安心しなさい。彼は負けないわ」
「え?」
「見ていなさい。手足のように他者のデッキを扱う彼の決闘を」
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「俺のターン、ドロー。『闇の増産工場』の効果を発動、手札に加えた『儀式魔人デモリッシャー』を捨てて1枚ドローする」
前のターン手札に加えた悪魔を捨て、新たなカードを手札に加える。墓地に溜まりつつあるモンスターたちを確認し、手札に眠る青枠のカード……儀式モンスターを召喚するための準備は着々と進みつつある。だが、相手の場に存在する魔王を倒すだけの火力がない。だが、それは今引いた一枚のカードによって覆されることになる。
「俺は手札から2枚目の『マンジュゴッド』を召喚。その効果によりデッキから儀式モンスターカード、『破滅の美神ルイン』を手札に加える。」
「なら、このタイミングで『増殖するG』を発動させてもらおう。君が特殊召喚する度にカードを1枚ドローさせてもらう」
「いいだろう。俺は続けて、手札より儀式魔法カード『エンドレス・オブ・ザ・ワールド』を発動する」
光の刺さない闇黒世界に黄金の光が溢れ出す。神々しい輝きが魔王には気に食わなかったのか忌々しそうに吼えるが、所詮は立体映像。怯える必要もなく淡々と処理を始める。
「この儀式魔法により、手札の『破滅の女神ルイン』。または、『終焉の王デミス』のどちらかの儀式召喚を執り行う。だが、先に手札に加えた『破滅の美神』は手札・フィールド上にある時は自身を『破滅の女神』として扱う。よって、俺は『破滅の美神』の儀式召喚の為にレベルの合計が10になるようにモンスターをリリースする。
だが、ここで墓地の『儀式魔人』の効果。儀式召喚を行う際、墓地のこのカード除外することでその召喚に必要なレベル分として代用できる。よって俺は墓地の『デモリッシャー』と『プレサイダー』。そして、手札の『破滅の天使ルイン』の3体を儀式の贄に捧げる」
黄金の光が溢れた世界に吸い込まれるかの様に3体のモンスターたちが吸い込まれ、発動者である俺を中心に10個の淡い青い炎が取り囲む。炎は徐々に勢いを増していき、火柱となって新たなモンスターを降臨させる。
「契約はここに交わされる。滅亡する世界に天より下り、我が敵に破滅を齎せ。儀式召喚――――」
―――降臨せよ、レベル10『破滅の美神ルイン』」
破滅の美神ルイン(破滅の女神ルイン)/光属性/☆10/天使族/ATK2900 DEF3000
火柱が収まると同時に、煌きながら霧散していく青い炎と同時に銀色の髪を長く伸ばした憂いに満ちた表情の女性が、いや女神が片膝を折って降臨する。その美貌、風格から感じ取れるそれは目の前の魔王にも引けを取らない。だが、それを感じ取っていないのか。魔王を従える男は鼻で笑った。
「『増殖するG』の効果で1枚ドロー。レベル10の儀式モンスターだと思ったら、攻撃力2900? その程度じゃ、僕の『ディアボロス』を倒すのには程遠いね」
「………哀れだな」
「何――――?」
「デュエルモンスターズは、ただ単体モンスターによる攻撃一辺倒だけで勝てる程簡単なゲームではない。多くのカードと組み合わせることで、己のデッキの核たるカードの力を最大限に発揮させることこそがこのゲームの神髄。攻撃力が低い? そんなもの、初めから織り込み済みなんだよ」
尤も、このデッキを組んだのは俺じゃないけどな。言葉を区切りながら一枚のマジックカードをディスクに投入して発動させる。するとどうだろうか、発動されたたった1枚のカードで、魔王やその周りに顕れた黒い影の身に纏う悍ましい瘴気が薄れていくではないか。
「永続魔法『強者の苦痛』。このカードによって、相手フィールドに存在するモンスターの攻撃力は、自身が持つレベル×100分ダウンする」
「な、何!? それじゃ僕のモンスターたちの攻撃力が―――!?」
闇黒の魔王ディアボロス ATK3000→ATK2200
シャドウ・トークン×3 ATK1000→ATK700
「バトルフェイズ。『破滅の美神ルイン』で、『闇黒の魔王ディアボロス』を攻撃する」
「させるか、リバースカードーーー」
「残念だが、『破滅の天使』を儀式召喚の素材に召喚されたモンスターが攻撃する時。相手プレイヤーは効果の発動ができない。よって、伏せカードの発動は不可だ」
破滅の天使が魔王に肉薄し、飛び上がる。見下ろす形になった魔王を塵を見るように目を細め、その刃を以て体を文字通り真っ二つに両断する。ただの一撃。別段多くのカードを組み合わせたわけでもないが、その一撃は明確にこの勝敗を分かつ一撃となる。
「『ディアボロス』が一撃で―――!」
??? LP4000→LP3300
「まだだ。『破滅の美神』は一度のバトルフェイズで2回攻撃できる。『シャドウ・トークン』を引き裂け」
魔王を斬り裂いた余波が音量を引き裂く。一撃で二体モンスターを粉砕した女神は軽やかに身を翻して持ち場へと舞い戻る。その際、主に向けて斧を振りかざす。すると、ディスクが何かに反応するかのように電子音が鳴り響く。
「モンスターを戦闘破壊したことで、『破滅の美神』を召喚する際に贄となった『儀式魔人プレサイダー』の効果。このカードを贄として召喚された儀式モンスターが相手モンスターを戦闘破壊する度に、カードを1枚ドローする。この際、モンスターを墓地に送ることは不要。よって、カードを2枚ドローする」
ディスクが飛び出たカードを手札に収めながら、眼前にある2枚の伏せカードについて逡巡する。片方は『ルイン』が攻撃する際に発動しようとしたことから、攻撃反応型の伏せカード。恐らく、前のターンで『悪魔嬢リリス』の効果で選択されたカードの一つ。『聖なるバリアーミラー・フォース』だろう。『ルイン』が攻撃する際に効果の発動が出来ないことも踏まえ、必要以上に攻撃するのはみすみす罠にはまるようなもの。
そして、もう片方の
「手札から速攻魔法、『ツインツイスター』を発動。手札1枚をコストに、フィールドの魔法・罠を2枚破壊する。破壊するのは『闇黒世界シャドウ・ディストピア』と、伏せカード1枚だ」
手札を1枚墓地へ埋葬しながら吹き荒れた突風はフィールド全体に広がり、薄暗い陰湿な空気に満ちた空間と伏せカードの1枚が破壊される、開かれたカードは『闇よりの罠』。発動条件がライフが3000を下回ってからということもあり、このタイミングで発動出来なかったのだろう。珍しいカードを使っているなと素直に感心しながら、墓地に送ったカードの効果を適用させる。
「墓地に送った『魔サイの戦士』の効果発動。このカードが墓地に送られた場合、デッキから悪魔族モンスターを墓地に送る。デッキから………そうだな、2枚目の『彼岸の悪鬼スカラマリオン』を墓地へ送る」
これで新たなカードを手札に収めつつ、相手ターンへの対策も整う。手札消費もある程度激しいが、それを『プレサイダー』でカバーする辺り中々考えられてはいると内心でこのデッキの評価しておく。
さて。伏せカードに攻撃反応型の物が残ってしまっているかもしれない以上、『マンジュゴッド』で攻撃を仕掛けるのは愚策。欲張った行動は慎み、次の一手を打っておくことにしよう。
「バトルは続行せず、カードを1枚伏せてターンを終了。この時、墓地に送った『スカラマリオン』の効果でレベル3・闇属性・悪魔族の『魔界発現世行きデスガイド』を手札に加える」
桐原 LP3000
場: マンジュゴッド(ATK1400)×2
破滅の美神ルイン/破滅の天使ルイン
(ATK2900+『儀式魔人プレサイダー』+『儀式魔人デモリッシャー』)
魔法・罠:闇の増産工場(永続罠)
強者の苦痛(永続魔法)
1
手札:1
??? LP3300
場: シャドウ・トークン(DEF1000)×2
魔法・罠:1
手札:1
「僕のターン、ドロー! 確かに、先のターンは驚かされたよ。だが、僕のデッキのモンスターの力を使えばその程度の耐性は脅威ではない! 僕は手札の『悪王アフリマ』の効果発動! 手札のこのカードを墓地に送って、デッキから2枚目の『シャドウ・ディストピア』を」
「カウンタートラップ『神の通告』発動。ライフを1500支払うことで、モンスター効果を無効にして破壊する」
秋人 LP3000→LP1500
デッキから再び展開されそうになったフィールド魔法を手札に加えんとする四足獣の咆哮が轟く直前、突如として迸った雷がその体を焼き尽くす。無慈悲にも発動された神による天罰が受け入れられず、目の前の男は目をパチクリとさせた。
「は? え? は?」
「どうした。お前のターンだぞ。それともなにか、これで終わりなのか?」
「わ、分かってるよ! ぼ、僕は……僕は……! っ、カードを。モンスターをセットして、ターンエンド……!」
「―――そうか。所詮その程度か。つまらん。『闇の増産工場』の効果で、フィールドから『マンジュゴッド』を墓地に送ってカードを1枚ドローする」
桐原 LP1500
場:破滅の美神ルイン/破滅の天使ルイン
(ATK2900+『儀式魔人プレサイダー』+『儀式魔人デモリッシャー』)
マンジュゴッド(ATK1400)
魔法・罠:闇の増産工場(永続罠)
強者の苦痛(永続魔法)
1
手札:2
??? LP3300
場:1
シャドウ・トークン(DEF1000)×2
魔法・罠:2
手札:0
「俺のターン。ドロー。
―――いい引きだ。ライフコスト1000を支払い、速攻魔法『コズミック・サイクロン』を手札より発動。相手フィールドの魔法・罠カード1枚を除外する。目障りな伏せカードにはご退場願おう」
秋人 LP1500→500
突如として吹き荒れる烈風。それは容赦なく目の前の男の伏せカードを吹き飛ばし。その正体を露わにする。開かれたカードは『聖なるバリアーミラーフォース』。攻撃反応型の罠の中でも最古にして王道の罠カード。その効果は、攻撃表示モンスターを全滅させるという恐ろしい効果だが。生憎と攻撃反応型のカードを一切発動させない今の『ルイン』の敵ではない。
「これで妨害させることを考えずに展開できる。俺は手札に加えた『魔界発現世行きデスガイド』を召喚する」
魔界発現世行きデスガイド/闇属性/☆3/悪魔族/ATK1000 DEF600
「『デスガイド』は召喚に成功した時、デッキからレベル3の悪魔族モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚できる。この効果で俺はデッキから2枚目の『儀式魔人デモリッシャー』を特殊召喚」
儀式魔人デモリッシャー/闇属性/☆3/悪魔族/ATK1500 DEF600
「俺はレベル3の『デスガイド』と『デモリッシャー』のでオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築する」
召喚された小悪魔的なバスガイドと、大斧を振りかぶった悪魔の二体が粒子となる。直後、プレイヤーである俺の目の前に広がる宇宙に似た様々光が飛び交う宇宙の様な空間へと吸い込まれ、一筋の閃光が迸る。
―――これこそがエクシーズ召喚。俺がいるこの世界で、儀式召喚以外に確認できた特殊な召喚法。同じレベルのモンスターを2体以上重ね合わせて召喚できる、漆黒のフレームを持つモンスター群の名称である。
「エクシーズ召喚。浮上せよ、ランク3。『虚空海竜リヴァイエール』」
虚空海竜リヴァイエール/風属性/★3/水族/ATK1800 DEF1600
「俺は『リヴァイエール』の特殊効果を発動する。
↓使われたORU
儀式魔人デモリッシャー
儀式魔人プレサイダー/闇属性/☆4/悪魔族/ATK1800 DEF1400
「さて、これで準備は整った。まずは『ルイン』で『シャドウ・トークン』と『ルイン』で伏せモンスターを攻撃だ」
命令を受けた女神が憚る悪霊と伏せモンスター……三つ目の化け物、『クリッター』を容赦なく惨殺する。『プレサイダーが』女神に付与した効果の恩恵に預かり、破壊したモンスター数。2枚のカードを補充していると、男は苦しそうに表情を歪めながらモンスター効果を適用させる。
「『クリッター』が墓地に送られたことで効果発動! 攻撃力1500以下のモンスターカード、『魂を削る死霊』を手札に加える!」
「戦闘破壊されない闇属性のモンスターカード。確かに便利だな。まあ関係ないが。戦闘続行、『リヴァイエール』で最後の『シャドウ・トークン』を粉砕する」
宙に浮かぶ神聖すら思わさせられる緑の竜が波を起こす。悪霊はそれに浄化されるかの様に飲み込まれ消滅し、目の前の男を護る壁モンスターは全て消滅する。
「『儀式魔人プレサイダー』、プレイヤーにダイレクトアタックだ」
無情に命令を下し、キシシと君の悪い笑い声を上げながら魔人は長刀を男に振るって斬り刻む。立体映像による演出とはいえ、ディスクから奔る衝撃に男は呻き膝を突く。
「くっ、だが。まだだ。まだ僕のライフは残ってる! 次のターンで『魂を削る死霊』を壁にしてしまえばまだ勝負は」
??? LP3300→1500
「馬鹿かお前は。このターンで決着を着けるに決まってるだろう。永続罠『闇の増産工場』の効果で、『プレサイダー』を墓地に送ってカードを1枚ドローする。
そして、手札から速攻魔法『リバース・オブ・ザ・ワールド』を発動する」
手札を補充しながら発動される新たな魔法カード。砂時計のような時を刻む容器には青と金を基調とした色がそれぞれ彩られており、ゆっくりと交互に反転し続ける。
「これは手札の儀式モンスターを贄に捧げ、手札か。それともデッキに眠る『破滅の女神』か『終焉の王』をこの場に降臨させる速攻魔法だ。贄として、手札にある『終焉の王デミス』を捧げる」
「デッキの儀式モンスターを降臨させる速攻魔法カード!? そんなカード聞いたことないぞ!?」
「俗世に疎い坊ちゃんなら知らなくても仕方ないだろうな。なんせ、儀式召喚はコストが余計にかかる弱小カテゴリーだからなぁ?」
手札に宿る『終焉の王』が半透明な姿で現れ、低く地鳴りするかのような唸り声をあげながらその身を八つの青い炎へと姿を変える。先に召喚した『破滅の美神』の様にサークルが広がり、青い炎が猛り火柱が上る。
「契りは今ここに交わされる。全てを刻み、憂う女神よ。我が前に姿を晒し、慈悲の刃でこの世界に破滅を齎さん」
―――儀式召喚、レベル8。『破滅の女神ルイン』
破滅の女神ルイン/光属性/☆8/天使族/ATK2300 DEF2000
青い炎の中より降臨するは、『破滅の美神』を少し若くさせたかのような憂いに満ちた表情の女神。つまらなさそうに錫杖にも似た諸刃の斧を片手で持ち、腰を越えて膝元にまで届く銀の髪はとても美しい。見る者全てを魅了する、まさに『女神』の名を持つにふさわしい麗しさである。
もう少しの間、せっかく降臨した女神の姿をこの目に焼き付けておきたいところだが。正直なところ、早いところ決着を着けたいこともあってさっさと攻撃指示を下す。
「終わらせろ。『破滅の女神ルイン』でダイレクトアタックだ」
――――――終焉の輪舞。
「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁ!?」
??? LP1500→0
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「ま、負けた? 僕が? 他人のデッキを借りた、こんな奴なんかに―――?」
自分がまけたことが信じられないのか。最後の一撃を喰らってからの男は突然始まった決闘を見物しに来た野次馬たちが多くいる中で尻餅をついたまま呆然としていた。決闘が終わったこともあって、ソリッドヴィジョンで現れていたカードやモンスターも消滅する。カードをデッキに戻し、オートシャッフル機能を用いて均一になるようにした後。デッキを持ち主に返す。
「これは返す。というか、なんで俺がお前のデッキを使ったか理解してないだろ」
「あー……うん、それは、確かに」
申し訳ないように苦笑しながらデッキを受け取る星野。それに少しだけ溜め息を漏らしながらデコピンで額を軽く打つ。
「あいたっ!?」
「あのなぁ。俺は別にお前が貶されようとどうでもいい。けどな、お前自分が貶されてるってのに苦笑するだけ何も言わねぇじゃねえか。だから仕方なくお前のデッキで相手してやったんだよ」
とっても面倒くさかったけどな。最後に沿う言葉を付け加えながら、溜め息を一つ零しながら人込みを掻き分けて座り込んだ男の下に向かう。男はひっ、と小さく悲鳴をあげるが。俺はそれを無視して男の胸倉を掴む。より一層、体を震わせて顔も蒼くなっていく男のありさまは滑稽と言う他にない。
「なあ。俺は優しいからよぉ。藤原と一緒にいるからよくお前みたいなやつも出て来るんだわ。だからな? 別にお前に対して怒るつもりもねぇし、その気すら起こらねぇ」
そこで一度言葉を切り、だがなと付け加えてにっこりと笑顔を浮かべてやる。きっと、周りからすれば酷い顔をしているのだろう。だが、今のこいつにやるべきことは二つだけなのだ。一つは、星野に謝罪させること。もう一つは―――
「ここに誓え。もう二度と俺たちの前に現れないと。でないと―――次は、俺のデッキでお前ごと砕くからな?」
最後にそう脅しをかけて掴んだ手を放す。男はそれを最後に失神したのか仰向けに倒れ込んだが、自業自得なので気にしないでおくことにする。予定がかなり変わってしまったが、まだこの二人のデッキ調整は済んでいないのだ。早々に済ませなければ朝にまでかかってしまう。
「おら、邪魔者は消えた。腹ごなしも済んだだろ? 次の店に行くぞ」
「せっかちな人ね。そういえば、貴方。自分のアイスは?」
「要らん。そういえば星野。お前のデッキだが、指摘したいところが3つほどできた。さっさと調整を済ませるぞ」
「えぇ!? あの、私的にはかなりの自信があったデッキなんですが! あの聞いてますか!? あの―――!!!」
―――罪滅ぼしのつもりなのかもしれない。
あの時、自分の教え子を護りきれなかったことからか。あの時と同じことをしているのは、もう二度と知り合った人が傷つかないようにしたいからか。
―――今の俺の姿を。あいつが見たら笑うのかねぇ………?