神羅に努めるあるOLのある日の残業

1 / 1
さっきpixivにも投げてきたんすけどマジハーメルンの使い方わかんねーな特にタグとここの上のサブタイトルとここの前書きと後書きの使い方。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11758493


星の見えない街で暮らすということ

秋。

この季節になると、閉店間際の売店にお気に入りのマフィンがまだ残っているというだけで少し得をしたような、そんな気分になる。

そういった小さな得だとか幸せだとかをかき集めて日々を過ごすのは、この街の人間にはおあつらえむきの趣味だ。私にとってはそのかき集める対象がマフィンだった。

 プレーン生地にブルーベリーのマフィンが一番好きだが、チョコレート生地に砕いたクルミとアーモンドが混ぜ込んであるものも悪くない。この間の新作のオリーブとチーズは変わり種だったが、感激して買い占めたほどだ。

自動販売機(ベンダー)から出てきたばかりの紙カップのカフェオレにひたしてぱくつくと、凝り固まった一日の疲れが取れるような気がする。あのフロアでマフィンの種類に一番詳しい人間は私だ。断言できる。

本当に安い趣味だし、それで満足できるような安い女だと思う。だがそれでいい。

私が苦手とするもの、それは曖昧な立ち位置、曖昧な仕事、曖昧な金、曖昧な遊び。そしてそれらを武器にする曖昧な女たち。(それを言うなら、この会社だってあちこちとっても曖昧だ)

あの手の女同士の、あるいは女と男の小競り合いの間で勝ち残っていく生き方には、初めから縁はないし興味もない。

もっとも、その闘技場(コロッセウム)での闘いの挑戦権が生まれたときから手の内にあるのなら話は別だが。私は始めから観客にしかなれないのだ。観覧チケットだって買えるのか――訂正。観るのもごめん。

定時をとうに過ぎたオフィスに戻ると、もう他の背広連中の姿はない。蛍光灯が白々しく、自分のデスクの真上だけを照らしている。

楽しい季節にはまだ遠いが、気の早い仕事仲間は着々とハロウィンやクリスマスのパーティの準備や予約をしていると考えると、「君は仕事と結婚したんだろうね」という上司の皮肉もあながち間違いではないのかもしれない。

 いいえ、今はこのマフィンと結婚しているんです。甘い時間が終われば積みあがった仕事と再婚。

 

……小さい頃、まだ女の子が生きていくには形のない武器がたくさん必要だと気付く前の話。母は若くくたびれておらず美しく、父が生きていたとき。

 夏の間、グラスランドエリアの農園地帯に畑と牧場を持つ叔母夫婦の家を訪ねた。その滞在中、私と父は満天の星空を見た。プラネタリウムではなく本物の星空だ。

 ミッドガルにも無いものがあるんだ。すごいだろう。父はそう繰り返した。この星空はお金では買えないんだ。大人になっても覚えておくんだよ、と。

 私はその頃はあまりにも幼かったので、父の言葉の意味はわからなかった。大人になってから、よくあるミスをしでかし叱責されそのまま残業した夜、涙で濡れた顔をスーツの袖で拭き上げてふと見上げた夜空が、スモッグで煙ってただ薄ぼんやりと光っているだけであることに気付くまでは。

 

――冷静に考えると、いまこうやって一人残っているのは、自分のせいではなく、この時間になっても書類を送ってよこさないどこぞのソルジャー様(ロクデナシ)のせいなのだ。

正確には大隊長級(……よく知らない。部長ぐらいの地位だろうか)の誰かの下っ端の、そのまた小間使いの誰かさん。

 何時もやっていることでしょう?貴方達が「向こう」で使う物をリストアップして、それをタイプして、印刷して、どんな形でもいいからここに届ける。それだけ。

 それだけの事なのに何故この時間まで長引いているのか?いつもであれば昼前には届いているリストが夜の9時まで届かないとは。昔田舎にあったというチョコボ郵便をミッドガルでもやるつもりで、まずはチョコボを捕まえてくるところからやっているのだろう。このままではその辺りの鳩を伝書鳩として調教するほうが早そうだ。

 少し腹が立ってきた。恐れ多くも1st様に残業代を請求してやろうか。

 

 少しぼんやりしよう。その権利が私にはある。勝手にそう判断してデスクから離れる。

コーヒーと食べかけのマフィンを手に窓際へ。

 

このフロア、低層ながらも窓からの眺望だけは悪くない。

 夜になれば、昼間の灰色の街並みは一変して、街の灯りが花咲くように通りやビルを浮かび上がらせるのだ。

 そしてここから一番遠く、俗にピザの一切れと称される分厚いプレートの端、きわめて人工的に区切られ設計された街並みと街並みの途切れるところ、ピザの耳の切れ目のところにトッピングのようにお行儀よく置かれた種抜きオリーブのように大きく口を開け、煙を絶え間なく吐き出す大きな煙突――魔晄炉(リアクター)

 あの光こそが私の父親を死なせ、私と私の母親を拾い上げ、私の飯の種になっている光。無限に湧き出す光。気の触れた連中、テロリスト言うところの、星の生命。

 

 バッカ言うんじゃねえよ。

私の声の代わりに私の頭の中で、私の言いたいことを、私の好きなロックスターの叫び(シャウト)が代弁した。

 平凡な主婦だった母に寡婦年金をたんまり出し、ちびのぼんやりした小娘を大学を出るまでに育てたのは紛れもなく父の会社(カイシャ)の金だ。父を蒸し焼きにしたものは発電所の配管とその中を巡る高圧高熱の蒸気であろうが、それ以前に父の死の直接の原因は何のだれそれ氏とか言う父の同僚の作業員がまだ残っている父をろくに確認せずにスイッチを押したせいだ。

どこかの部署のお偉い責任者だった父の上司が「奥様、棺は開けてはなりません。娘さんにもお見せするわけにはいきません」と、半狂乱の母を必死になだめていたのを覚えている。

ああ、父の顔を見てはいけないんだなとただ思って、手向けたかった花を叔母さんに返して寄越し、私はぬいぐるみを抱えて大人達の間で手持ち無沙汰にしていた。

…何でこんなことをふと思い出したかと言うと、今の心持ちはちょうどその時と一緒だったからだ。

自分ではもはや何も出来ない状況の中で、ぼんやりしている。

 

 

 ええ、ええ、そうですとも。私は満足している。

今の境遇に?ええ。あるいは今の年収に?ええ。スラムにほど近い安アパートで年老いて心身に山ほどの病を抱えた母と暮らすということに?日々の楽しみの半分は売店のマフィンだということに?ええ。星の見えない街で暮らすということに?ええ。

 

 フロアに鳴り響く電話のコール。

ランプを確認すると、フロア入口の呼び出し用電話だ。ようやくお使いが来たらしい。

 出る。

青い制服はいつ見ても独特だ。清潔感や規律正しさよりも、まず第一に「個人の自我を奪う」のを目的としているように見える。

まあいいか。目の前のこの……ずいぶん子供っぽく見える男の子がどんな人間だろうか私の知ったこっちゃないし。

 

「……であります」

何?

えらい早口で馴染みのない単語をつらつらとしゃべるものだから、ほとんど聞き取れない。

「(ここの部分は聞き流していい場所。相手の所属だとかなんとかを私が細かく聞く必要はない)……書類一式をお届けに上がりました。恐れ入りますが今一度確認をお願いします」

「はい、待ってましたよ。遅くまでご苦労様」

「大変お待たせして申し訳ございません」

本当に待たされた気持ちを、ただのお使いの坊やにぶつけるのも大人げないが、つい態度に出てしまった。

それでも直立不動、口調と姿勢は揺るがない。……見間違いじゃなくてまだほんの子供じゃないか。さっきまでボール遊びの球を抱えていたような幼さが残っている。

「貴方、兵隊さんなのにあまり訛りがないのね。珍しいわ。お国はどこ?」

「……あ、ニブ……です……であります」

 ニブ…どこ?

なんとなく、西大陸方面に行き来する書類のデータ上で見たことがあるような地名だ。

 

 想像する。グラスランドの森よりさらに深い緑の常緑樹が生い茂り、木こりと狩人がつつましく日々の営みを繰り返している。

立ち上る煙は電力を生み出す炉ではなく、炭焼き小屋と家の煙突やかまどのもの。

こだまする音は雑踏や車のクラクションではなく、鳥のさえずり、狼の遠吠え、木を切る斧や鋸、鹿を撃つ銃声ぐらい。

野いちごを摘みながら朗らかに歌う若い娘たちの、チェリーのような唇がその美しさを紡ぐ、麗しの郷。

 

…瞬き三回ほどの間に何だかよくわからないイメージを頭の中で巡らせてしまった。

「へえ、そうなの。大変ねえ」

上の空であったことを隠すように、書類の中身を精査するふりをする。少し少年の顔が緊張する。

「…はい。大丈夫。ありがとうね」

平凡な顔に出来る限りの優しい笑顔で労うことに努める。口角を上げると向こうも緊張が少し和らいだように見えた。

書類をクリップで留めながら、引き続き毒にも薬にもならない世間話をする。

「馴染みのない場所だからとんちんかんな事を言っていたらごめんなさい。あなたの故郷は遠いのでしょう?遥々来て、星の見えないこんなところで暮らすの、大変でしょう」

「いえ、慣れましたから」

「…慣れたからと言っても、故郷は懐かしくないの?」

 なんて空々しい台詞。ここまで中身のない言葉を弟どころか、自分の年齢の半分ぐらいの子供に吐けるとは。

「故郷」も「懐かしい」も私にとっては通り抜ける風のように意味のない言葉なのに。

 だが彼は答えた。半分は予想していてもう半分は予測していなかった答えだ。

 

「仕事ですから。……やりたいことがあるんです、ミッドガル(ここ)では」

 

 

彼の年齢ぐらいの少年少女にはよくあることだが――訂正、私ぐらいの年齢のいい歳こいたオトナにもときどきあることだが――きっと仕事と人生の区別がついていないのだろう。下手をすれば仕事と人生と憧れの区別だってついていないのだ。

 

「……そう、大変ね、仕事。頑張ってね」

……そうして、わかったような口で、わかったような顔をして、当たり障りのない言葉を吐き出すのだ。私は。魔晄炉の煙突みたいに、もうもうと。

 

敬礼し、少年兵……名前なんだったっけ、ナントカ君が退出する。

上司のサボりの結果をひっかぶり、名前も覚えてくれない年上の女に敬礼して出て行くなんて、ねえ。私の知っている年頃の少年というのは、セクシーな美人に心ときめいたり、ショールームに並ぶ最新のバイクに胸躍らせたり、櫛を片手に鏡とにらめっこしてミリ単位で髪を整えたりするものでなかったか。一端を自分が担ったとは言え、浮かばれない。

 

少しセンチメンタルになったところで、再びコールが響く。今度は外線だ。

「はい、」

部署名も言い終わらないうちに一斉掃射。

「コンニチワコンバンワ、ゴメン…ナサイ!…結構待たせたでしょ、本当心配かけました、申し訳ない!無事お手元に届きました?多分ちびっこいチョコボがヘルメット被ったみたいなのが届けに行ったと思うんですが」

べらべらと下手な相槌をさせまいと途切れなく言葉のマシンガン。軽薄そうな若い男の声だ。察するにこいつがソルジャー様だろうか。

「アー、ニコラエフ君だか、シュトラウス君だかが、ついさっき持ってきましたよ」

「ああ、ストライフですね、確かに。いやあ、悪いのは彼じゃないんですよ、おれ、おれのせいなんです〜ごめんなさい本当に!今度飯でも奢りますよ。2ndの飯でよければ。七番街にすごい良い店見つけて一人で入るのはちょっとなァって」

 無料の晩飯だと一瞬喜びかけて冷静になる。待て、いや、これは、体よくデートに誘われている。

 この声を聞くだけで軽薄そうだとわかるソルジャー2ndが置かれている立場というものはまったく知ったことではないが、自分の失態をあろうことかディナー一回で誤魔化そうとしているし、そもそも電話先の女の…私だ…その顔も年齢も何もかも確認せずに口説いているに違いない。

 こういう奴は私の半径1メートル以内での存在を許すわけには行かない。耳元の音声であろうと。

「ええ、ええ。ですから上に伝えておきます。お名前は」

その、なんだか犬みたいな名前の、ジャッキーだかシャックスだかいう男の名前を然るべき欄に書き留め、「旅先()()()()!」と電話を切る。

 

書類を打ち込み、メッセージ書き添えて然るべき部署に転送、端末の電源を落とし、フロアの電気を消して、部署のドアを出ると背後でオートロックの下りる音。

他の同僚であればこの空間にカツカツと小気味好く威圧的な音がするであろうけど、私の合わないハイヒールはとっくに何時間も前に履き替えられてバッグの中だ。

カードキーをかざして打刻、退勤。守衛に軽く会釈、敷地を出て10秒のバス停で次のバスを待つ。

ああ本当にくたびれた、と思っていると、次から次へ、ぽつぽつと、同じビルから同じぐらいくたびれた人間達が、一人また一人とバス停に列をなしていく。皆同じバスに乗るのだ。

そうしているうちにバスは到着し、バスの先客もやはり全員くたびれている。帰宅の途に付いているというのに、まるでこれから出荷される家畜だ。

 

今日は座れなかった。(同じ部署の男で、毎日バスの座席に乗った乗れないで一喜一憂する人間がいる。私のマフィンといい勝負だ)吊革を握って無言で揺られる。

 車内の床を見れば、誰かの靴の裏についていたのであろう、街路樹の枯れ葉がぱらぱらと車内の床に落ち、何度も踏みしめられて、ぼろきれのように張り付いている。まるで私じゃないか。

 知っている、その街路樹は、その根の張る土さえも、どこか「地べた」から持ってきたものであるし、たっぷりと化学肥料を混ぜ込んでようやく生きながらえているものであると。そう、それが私にとってのマフィン。

 

 大きな鉢植えだ。なんと大きな鉢植え。わたしたちの住む町は。世界を覆い尽くすような大きな樹であるのに鉢植えのような街、光るスモッグの夜空、人間ばかりがどこもかしこもひしめいている。

 間違いなく世界一の大都市だろう。だが、そこにいるわたしたちは?

 農場の牛飼いたちやら、港の漁師たちやら、炭鉱の鉱夫たちやら、森の木こりたちやら、そんな人たちに比べて、わたしたちは?

 あるいは思った、ここから出て、わたしたちは……わたしは、もし出ていくならば、生きていける?

 きっと家に帰ればベッドでまどろんでいる、鉢植えのような私の母を思った。帰る前にどこかで母の好きなパンとミルクを買っていかなければ。

それから……名前をまた忘れたS少年の事を思い、「兵隊を頑張ってお金を貯めて好きなバイクを買って、世界中乗り回しなさい」と願った。あの坊やがバイクが好きかどうかは知らないが。

最後に、やかましい2ndの事を思い出して、尻たぶを思い切り犬に噛まれちまえと願った。




この後書き欄何に使うの?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。