ソードアート・オンライン 〜剣豪と絶剣〜 作:☆さくらもち♪
悪夢のような、その光景はとても現実味を帯びていた。
強迫観念に迫られた人々が幼い少年を責め立てる。
口で罵られ、身体は傷を負い、剣や槍などの武器が夥しいほどに突き刺されていた。
「……」
そんな異常の中、未だに呼吸をして生きている少年は果たして人間なのだろうか。
群集心理によって人々は誤ちだと分かっていながらもその手を止めることはない。
「なに、これ……」
そんな悪夢から覚めることはなく、一人の少女が正気を保ちながらも立っていた。
「ルア……?」
唯一自分が味方になると言ってあげた幼い少年は。
全身血塗れで武器が身体を貫かれていた。
呼吸をしていても、穴が空いたかのように風のような呼吸音しかなかった。
「……ゅ…う………き」
その身にあらゆる怨恨を詰め込んだような、真っ暗な泥水の瞳。
その視線がユウキに向くと堰を切ったように涙が溢れだしていた。
「ひ……とり……ぼ……ち。だ…………たよ」
微かな希望に縋っていたような悲しい声色で告げると耐えきれなくなった身体は事切れたように倒れていった。
「ルア!?やだよ!やだやだ!」
何が何だか分からないユウキはこれが夢だと気づけない。
あまりにも現実のような世界は幻想と現実の境目すらあやふやにした。
ーーーーーーーーーー
「ルア……やだ……」
お互いが両思いだと分かり付き合う事になったルアとユウキはあのまま再び眠りこけていた。
ルアが夢心地に浸りながら横になっていると隣で寝ているユウキが魘されるようにうわ言を呟いていた。
「……ユウキ?」
夢の内容は分からなくとも魘される夢は良い夢とは思えなかったルアはユウキを起こそうと身体を揺すった。
「置いて……かないでよ……」
「ユウキ、起きて」
どれほど揺すっても起きる気配を感じないユウキに焦りが生じ始める。
「ユウキ……ユウキ、お願い……」
「ぅ……ぁ……」
必死になりながら起こし続けていると漸く戻ってきたのかユウキが苦悶の表情で目を覚ました。
「起きた……?起きてる……?」
「ルア……?生きてる……よね?」
「……?僕は生きてる、よ?」
「良かった……良かったよおおおお……」
「……ぇ?」
急に泣き出して抱きついてきたユウキにイマイチ理解が追いついていなかったものの自分のせいだと思い、泣き止むまで頭と背中を撫で続けた。
「っく……ぐすっ……」
「……僕、悪いこと、やった?」
「ううん……ボクが変な夢見ちゃったから……ごめんね……」
泣き止んだとしてもまだ精神が参っているようで、絶対離さないようにルアを強く抱きしめていた。
それによってユウキの女性らしい柔らかさが頭に当たるが猫のようにユウキに擦り寄っていた。
「にゃあ……もう、大丈夫?」
「もう少し……このままがいいかな……」
「ん……眠い……」
「ほんと?ならまだ寝てる?」
「んー……抱っこ……」
ぎゅー、と言いながら逆にユウキに抱きつくルア。
ある程度戻ってき始めたユウキはそんな仕草にクスッと笑いながらも抱き上げた。
「少し……会って欲しい人がいるんだ」
「ん……誰?」
「アスナって言うんだけど、《閃光》って言えば分かるかな?」
「分かる」
「今日会おうって約束してたからさ。でも
夢で起きた出来事は明確に覚えているユウキは起きるとは思っていないが少しでも一緒に居ようと決めた。
その為に今から会いに行く相手に一人増える事を伝えていた。
「その人は、良い人?悪い人?」
あまり要領を得ない内容だったがユウキの知り合いだからこそ会話を望んだ言葉だった。
しかし今までルアと話そうとしていた相手は善人と悪人と分かれすぎていた。
誰を信じて誰を信じなくていいのかの境界線がぐちゃぐちゃな為、出した結論が『自分以外全員悪い人』だった。
「良い人、だよ。でもそれはボク個人の情が入ってる。だからルアがその人を視て決めて欲しいかな」
「……ん、分かった。……まだ引っ付いてる方が、いい?」
元々ユウキを安心させる為に抱きついた行動だったが未だに抱き上げている状態から解放されなかった。
「んー、ボクとしてはこのまま抱っこした状態で会ってもいいよ?」
「……やだ。見られるの、や」
強い拒絶にユウキは大人しくルアを降ろすと指を絡めて手を繋いだ。
「これで我慢するから」
「ん……暖かい」
ユウキの手を自分の頬に擦りながら言う。
その時の表情が幸せそうな顔にユウキは声に出さなかったものの心底嬉しい気持ちで溢れていた。
「こそばゆいけど……ボクも暖かいよ」
「ん!じゃあ、行こう?」
手を繋ぎながら宿屋を出るとユウキとルアは親友であるアスナに会いに行く為に外を出歩いた。
日照設定が良かったのか程よい温度だった。
そして、ユウキとルアの2人組に大量の視線が向いていた。
片や幼少年。
片や異名持ちの美少女。
ある意味視線は大量に集める組み合わせだった。
「いっぱい、見られてる気がする」
「そお?あまり気にしたことなかったや」
「それは慣れてるから」
視線を向けられることにあまり良い思い出がないルアは自然と足早になっていた。
「ルア……?」
「ぁ……ごめん。早かった」
周りの目が向き出してからルアの様子が変だと気づいたユウキは早めに移動しようと足を早くした。
あまり先を見れていなかったのだろう。
ユウキは前を歩いている男性プレイヤーにぶつかってしまった。
「わっ」
「っ……いってぇなあああああ?」
わざとらしい声で訴えるもユウキが前をしっかり見ていなかったが故に起きた事故だった。
「おいおい……どこのどいつがぶつかってきたかと思ったら《絶剣》様じゃねえかよ」
「ごめんよ。前しっかり見てなかった」
「謝れば済むと思ってんのか。これだからゆーめいじんは」
どうしてやろうか、と考えている男性プレイヤーはユウキの隣にいるルアに目をつけ、手を繋いでいることからそういうこと、と理解し、これから要求する内容に膨らんだ。
「おい、そこの餓鬼」
「お前の隣にいる女、一晩貸せや」
その瞬間に男性プレイヤーは数メートルほど吹き飛ばされていた。
ルアの手には自身の愛刀が握られていた。
ソードスキルの発動すらなかった。
街の中だった為に《圏内》扱いで生きているだろうが、それでも数メートル吹き飛ばせる膂力などSAO内には何人もいる訳がなかった。
「……手が、滑った」
そう言い訳のような言葉を紡ぐも節々から殺気が溢れ出していた。
「大丈夫だから。抑えてルア。ね?」
これ程まで怒っているルアを見た事があるわけが無いユウキはどうすれば収まるのかが分からなかった。
「と、とりあえず……《転移・61層》!」
転移結晶で強制転移すると、ユウキは急いでルアを連れて裏路地に向かった。
「ボクは全然気にしてないから!だからお願い」
「……別に。ただユウキに手を出されるのが嫌だっただけ」
ルアにも突然無意識に身体が動いて反射で攻撃していた為、どう説明すれば良いのかが分からなかった。
ただ1つ言えるのは、あの汚い手がユウキに触れるのが嫌だった。
「……少しやり過ぎなとこあったけどね。でも守ってくれたのは嬉しい」
「ん……」
「でもボクはあんなの良くあるから。本当に気にしてたらダメ」
「………………分かった」
かなり長い間が空きながら渋々頷くとユウキはまた手を繋ぐ。
「でも嬉しかったよ!ありがとう、ルア!」
「うん。どういたしまして」