セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「……み、未来?」
その姿にもしや、と言う淡い期待が響の胸に沸き上がるがーーー
「響さんッ!!」
聴こえてきた叫び声と共に衝撃が走る。
なにが、困惑しながらもその衝撃が仮面の少女が体当たりしてきた物だと理解すると同時にーーつい先程までいた場所に光が降り注いだ。
海水が蒸発し、僅かな時間でこそあったが海に穴が出来上がる。
あれだけの威力、もしも直撃していれば―――
「あ、ありがとう!」
「お礼は後で!次が来ますッ!!」
仮面の少女の警告通りに迫る光。
装者である未来の指示に従い、空に展開する幾つもの鏡。
それらから光が降り注ぎ、それらは間違いなく二人の命を刈り取らんとしている。
エクスドライブの影響だろう、先程よりも威力も数も増した光の雨。
それらを仮面の少女――セレナは黒い手を呼び出しながら時には盾に、時には道にして必死に躱す。
一撃でも喰らえば後はない、そう理解しながら必死に躱す。
そんな中で、立花響は光と光の僅かな隙間を潜り抜ける様に躱していく。
胸のガングニールの侵食。
これは立花響の命を蝕んでいる原因であるが、同時に最大限の力を発揮させる力の源とも化していた。
「はぁぁッ!!」
胸のガングニールが生み出す膨大なエネルギーを力へと変えて立花響は駆ける。
全身を駆け巡る異常な暑さを噛み締めて耐えながら、胸のガングニールが生み出す膨大なエネルギーを糧に立花響は降り注ぐ光を避け、そして叫ぶ。
自身の親友へ、ひだまりへ向けて叫ぶ
「どうして!!どうしてこんな事をするの未来ッ!!私達が戦う必要なんてないんだよ!?ねぇ、帰ろうよ未来ッ!!」
立花響には理解出来なかった。
どうして未来がこんな事をするのか。
どうして未来と戦う必要があるのか。
絶対に違う、未来はこんなことを望んでいない。
だからやめてほしい、掴んでほしい、と必死に手を伸ばしながら叫ぶ。
一度は傷つけてしまったその拳を、伸ばして叫ぶ。
きっと未来は理解してくれる、そう信じて―――――
「何を甘えた事を言っているの響」
だが、そんな思いを踏みにじるかの様に帰って来たのは――1度も聞いた事のない未来の冷たい言葉。
自身の記憶にある小日向未来と言う存在が絶対に発さない程に冷たいその言葉に、立花響は困惑し、そして疑問に感じてしまった。
――目の前の人物は本当に小日向未来なのか、と。
「戦う必要?あるよ。帰る必要?ないよ。だって――響はこれからずっと私と楽園で一緒に暮らすんだから」
「らく……えん?」
そうだよ、と未来は笑う。
立花響の記憶にある小日向未来と全く同じ笑みを浮かべる。
けれどもーーその笑みからはいつも感じていた温もりはない。
冷たい、ただ冷たい笑みがそこにあった。
「もうすぐ楽園が出来るんだ……誰もが苦しまなくて、誰もが傷付かなくて、誰もが笑顔でいられる理想の楽園が………私はその世界で響と一緒に居たい、響をずっと守ってあげたいんだ」
うっとりと、想像した素晴らしい世界に小日向未来が酔いしれる様に笑みを浮かべる。
響に守られてばかりだった私が、響を守れると。
いつも先へ先へと進んでしまう響がずっと永遠に一緒に居られるのだと、笑う。
けれどもーー
「――けど、響は絶対に来てくれないよね?楽園に行けば誰もが救われるのに、響はそんな楽園を否定するんだよね?」
同時に思う。
立花響は絶対にこの楽園を肯定しないと。
その理由までは分からないが、絶対に彼女は望まないと。
楽園を壊そうとするだろうと絶対の確信を以て言える。
だったらーーうん、それなら仕方ないよねと小日向未来はーーー
「じゃあ仕方ないよね!?響が嫌がるなら私は無理矢理にでも響を楽園に連れていかないといけないから!!響が悪いんだよ?響がこんなに素晴らしい世界を否定するんだから!!楽園に居れば響は傷つかないし誰も傷つけなくて済む!!もう響を責める人も響を虐める人もいない!!響を戦わせる人も、響が戦う必要も無い!!だって戦わなくて良いんだから!!もしも戦う必要があっても私がいる!!今の私は響に守られてばかりのお人形さんなんかじゃない!!響を守る力だってある!!置いて行かれるだけの存在なんかじゃない!!だから私は響を楽園に連れて行く!!例え脚も腕も声も何もかも奪ったとしても絶対に連れて行く!!だけど安心して良いからね響!!例えどんな姿になっても私が守る!!私が全部お世話してあげる!!私が響の全ての面倒を見てあげるから!!そう!!そうだよ!!これが!!これこそが私が望んでいた願い!!だから――だから安心して傷ついてね響♡」
ーーー狂愛。
まさにその言葉に相応しい程に彼女は狂っていた。
それが操られている影響からなのか、はたまた本心からなのか、それは彼女にしか分からないだろう。
だが、これで1つだけはっきりとしてしまった。
もはや言葉だけで解決する段階はとっくに過ぎ去った事だけは、はっきりとしてしまった。
小日向未来は己の愛の為に、立花響を傷付けてでも前へ進む覚悟を発した。
もう言葉だけでは止められない、止まらない。
それに対して響は――前へ進むのを躊躇った。
小日向未来の愛を、狂ったそれを前に躊躇った。
操られた影響、そう思い込もうとするが親友として長い時間を共にした響には分かる。
彼女の発言には≪本当≫も含まれている。
未来を守りたい、その為に頑張って来た道は未来からすれば置いて行かれるだけの道でしかなかったのだと、理解してしまった。
「――わ…たしは…」
ただ未来を、皆を守りたかった。
この力で、シンフォギアで守りたかった。
けれども、最も守りたいと願っていた相手は…守られるだけの存在でいる事を嫌だったと語った。
守られてばかりのお人形である事を否定したい、けれどもその力は無い。
守りたい相手はどんどん傷ついて、それでも前へ前へと進んでしまう。
その度に傷を増やす彼女を守りたい、そう願っているのに―――
そして私はそんな想いに気付く事なく前へ進んでしまった。
未来を絶対に守る、その想いだけに支配されて、守られる人の事など欠片も思ってなくて……
「――ねえ、響。今ならまだ遅くないよ。こっちへ来て?私も本当は響を傷付けたくはないから。だから――この手を掴んでほしいな」
未来が伸ばしたその手が魅力的に思えた。
掴んでしまいたい、と。
未来の想いを踏みにじって来た私だけど、その手を握る事で罪を消したいと。
――手を伸ばす。
贖罪する様に、伸ばされた手を掴まんと手を伸ばしてしまう。
未来が微笑む、記憶通りの温かい笑みで微笑む。
その笑みが、迷いを消していく。
ひだまりへ、私の居場所はあそこだと手を伸ばし、そして―――
「違います」
―――聴こえたその否定の言葉が戦場から全ての音を奪い去る。
伸ばしていた腕が止まり、その視線は未来から離れ、仮面の少女へと向けられる。
その表情こそ分からないけれど、それでも1つだけ分かった事がある。
――怒っている、と。
「――違います。未来さん…貴女が望んだのは、本当に≪それ≫なんですか?響さんを傷付けてでも傍に置きたいと願う、そんな歪んだ想いが…そんな物が、貴女が望んだ答えなんですか?」
仮面の少女は――セレナは思い出す。
守られてばかりの弱い彼女を、遠くの地で傷つき戦っていてもその無事を信じて祈る彼女の姿を、
立花響の力になりたい、そう願った彼女に答えた返答を――
「――?何を言っているの?これが望んだ事に決まって―――」
「貴女は!!響さんが帰る場所に――≪居場所≫になるんじゃなかったんですかッ!!」
―――聴こえて来たその雄叫びに、小日向未来は困惑するしかなかった。
だってそれを知っているのは―――――
「――――――キャル、ちゃん?」
小さな私の友達だけだから―――
セレみく セレみく