セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第96話

 

 嗚呼、とセレナは理解した。

振り下ろされる一撃――これを喰らえば私は≪死ぬ≫だろう。

死角からの一撃、持ち得る手段ではこれを防ぐのは叶わない。

あの純粋な力はこんな小娘の頭を容易く砕き、死に至らしめるだろう。

だが、不思議と恐怖は無かった。

迫る死に、この身を砕かんとする一撃に、恐怖も怖れも現れない。

あるのは、ただ1つの心残り。

――小日向未来を、私の親友を助けたかったと。

 

 静かに眼を瞑る。

迫る死の苦痛から僅かにでも逃れる様にと、

なれどーーー

 

《馬鹿弟子》

 

その瞼の裏で浮かび上がるは、キャロル。

師匠であり、恩人であり、家族であり、誰よりも救いたいと願うその姿を視た瞬間、セレナの心に1つの願いが生まれた。

 

 

ーー生きたい、とーー

 

 

生物であれば誰だって願うその願いをセレナは抱き、そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その願い、叶えよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪それ≫は歪な笑みを以て答えた。

 

 

 

 

 

 

 

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 アームドギアを掴む《それ》を、小日向未来――否、神獣鏡は理解できぬと凝視する。

これはなんだと目の前の人知を超えた存在に凝視し、そして恐怖する。

≪それ≫を≪腕≫と呼ぶ事さえもおこがましく感じる程に歪で、そして末恐ろしい≪何か≫を抱かせるそれを敢えて、そう敢えて名付けて呼ぶとすれば―――

 

≪化物≫、その一言に尽きるであろう。

 

「―――――――」

 

 仮面の少女――セレナの腕に纏わり付く形で顕現している≪それ≫は小日向未来のアームドギアを握りしめる。

強く強く、そのまま握り締めて破壊するのではないかと思う勢いで握り締める。

そんな状況においても神獣鏡は冷静に、そして機械的に状況を打破する手段を構築、それを実行しようとするが――それを阻むのはセレナの手に纏わり付く巨大な≪それ≫。

アームドギアを握る逆の手が振るわれる。

横から薙ぎ払う様に迫る≪それ≫に対し神獣鏡は空中に展開する幾つもの鏡へと即座に指示を下し、鏡は光を以て答える。

 

 光が≪それ≫に降り注ぐ。

天から雨を降らせる如く降り注ぐ光。

魔を払う力を持つ神獣鏡の力が宿っているこの光であれば――神獣鏡は自らの機能と先程までの戦闘情報から生み出したこの場で最も効果的な手段を選び、実行した。

降り注ぐ、降り注ぐ、降り注ぐ。

魔を象徴せんとしている≪それ≫に目がけて光が降り注ぐ。

くたばれと、死ねと、そんな想いが滲み出る様に必死に徹底に光が降り注ぐ。

実際、もしもこの降り注ぐ光が先程までのセレナに当たっていれば、間違いなく光は彼女の息の根を止め、神獣鏡はその目標を果たす事が出来ていただろう。

 

 

 

―――そう、≪先程≫までであれば、だが―――

 

 

 

「――――――ッ!!!!?」

 

 衝撃、それが最初なんなのか神獣鏡は理解出来なかった。

衝撃は少女の身体を容易く吹き飛ばし、海面を跳ねて跳ねて跳ねる。

まるで毬の様に海面を跳ねて飛んで行く小日向未来を吹き飛ばしたのは――降り注ぐ光を受けたと言うのに一切の傷を負わず、≪無傷≫の≪それ≫。

損傷した様子さえ見せずに揺れ動く≪それ≫は――攻撃の手を緩めない。

吹き飛ばされた小日向未来へ急速に接近したと同時に再度≪それ≫が振るわれる。

 

「―――ッ!!」

 

 咄嗟に神獣鏡は手にしたアームドギアを以て迎撃する。

生物と無機物、両者は衝突し、轟音と共に火花を散らしてぶつかり合う。

一撃、二撃、三撃とぶつかり合う。

数を増し、速度を増し、勢いを増す。

火花を散らし、暴風を生み出し、常人であれば視認する事さえも困難な速度となって衝突する。

 

「――ッ!!アアアアアアッ!!!!」

 

 小日向未来は吠える。

本来宿っている筈の自我はなく、神獣鏡によって操られているだけの操り人形は咆哮と共に迫る≪それ≫にアームドギアを、そして光を以て討ち倒さんとする。

 

「―――――――――――」

 

 対するセレナは沈黙したまま≪それ≫を振るう。

自らの腕に纏わり付く≪それ≫を当たり前の様に武器にし、感情が宿っていない瞳を以て眼の前の敵を排除せんと力を振るう。

 

 激しく衝突する両者。

互いの矛がぶつかり合う度に轟音と暴風が生まれ、それが海面を荒立てる。

其処にはもはや相手を生かそうとする手加減も、相手を思いやる感情もない。

純粋なる力と力、互いが互いの息の根を止めようと殺し会うだけの場ーー戦場が其処にあるだけだった。

どちらかが死に、どちらかが生き残る。

その結果だけしか赦されないのが、戦場。

両者はその理に従ってぶつかり合う。

相手を殺し、己が勝者となるべくぶつかり合う。

 

 なれど、その戦場においてその理を覆さんとする者もまた、其処にいた。

 

「はあぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!」

 

 立花響は拳を武器に戦場へと飛び込む。

その脳裏には未だに多くの悩みを抱えているが、一時それを忘れ、彼女は二人の間を裂くように戦場へと姿を現した響の雄叫びと共に放たれた一撃が、二人の動きを止める。

 

「ねぇ!!未来も、そっちの子ももう止めようよ!!これ以上はーーー!?」

 

 響の願いを込めた叫びーーその返答は、力だった。

両者から向けられた攻撃を紙一重で避けながらも、響は諦めるかと拳を構える。

胸のガングニールが生み出す膨大な力、その対価である熱と痛みに耐えながら構える。

もうこれ以上誰も傷つけさせないと絶対の覚悟を以て少女は理を覆す為に、前へと進む。

 

「絶対に…絶対に止めるからッッ!!!!」

 

 覚悟を言葉に少女は駆ける。

戦場の理を覆し、皆が望む幸せな結末を迎える為にーーー

 

 

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「くふふ………うひゃひゃひゃひゃぁぁぁぁッ!!!!」

 

 三人の少女が争い会うその光景をドクターウェルは満面な笑みを以て視ていた。

ウェルの最高傑作である小日向未来(人形)と融合症例第一号、そしてーー愛しの英雄である彼女。

研究者として、そして一人の男として目の前にて起きている闘いから目が離せられないと興奮するが、ウェルは仕方なくその興奮を収めざるを得なかった。

この闘いにおいて最も避けたいのは小日向未来の敗北。

彼女の暴走が過ぎるおかげでフロンティアの封印が未だに解けていないこの状況で彼女を失うのは計画の失敗を現す。

ならばーーー

 

「マリア、シャトルマーカーを射出させてください」

 

 小日向未来が有利となる戦局を作り上げ、最悪の場合でもフロンティアの封印を解く事が出来る様にしておく。

それがこの状況において最も優先すべき事だとウェルは己が欲を抑えてそう指示を下しーー後ろから聞こえた扉の開閉音に何気なく振り替える。

 

「切歌!?貴女いつの間に戻ってたの?」

 

 マリアにそう声を掛けられたのは、切歌。

月読調の奪還のために出撃し、敵装者である風鳴翼と戦っていた筈の彼女が戻ってきている事に疑問に感じながらも、ウェルは優先すべきは目の前の事だと意識をそちらに向ける。

 

「ーーーーーーーー」

 

「………?きり、か?」

 

 放置された切歌はただ視ていた。

戦場を、そこで戦う仮面の少女をーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒く輝くLiNKERを隠し持ちながらーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おや?切ちゃんの様子が?

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