セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第98話

 

 ――目覚めたら共に戦っていた相手に拳を向けられていた――

 

全く以て眼の前の現状が理解出来ないとセレナは困惑する。

そもそも今自分は目覚めたら――と言った。

それはつまり、私は寝ていたと言う事になってしまう。

戦場で?戦いながら?……いくらなんでもありえない。

いったいどうなっているのか、理解が追い付かない状況に脳が混乱したのか身体がふらつく。

咄嗟的に手を伸ばし、支えにしようとして――気付く。

 

「…なん、ですか…これ……」

 

 ≪そこ≫にあったのは自身の腕に纏わり付く様に顕現している巨大な≪何か≫。

どことなく黒い手に似ている様な形をした≪それ≫だが、本能的に理解する。

≪これ≫は違う、と。

黒い手の様な自身の力で従える物ではない。

それはさながら―――何かに貸し与えられている力だと、そう印象付けられた。

 

「えっと、だ、大丈夫だった?痛くはない?怪我とか大丈夫?」

 

 腕に纏わり付く≪それ≫の存在に更なる困惑が襲う中で、先程までとは様子が違う仮面の少女に安堵して近づいてきた響が心配する様に声を掛ける。

返事をしようとして、ふと彼女の状態に違和感を抱く。

ーーー傷が、増えているのだ。

最後に視た時よりも明らかに多くなっているそれはセレナに違和感を抱かせ、そしてその違和感と腕に纏わり付く≪それ≫が、意識が無い間に何が起きたのかをセレナに理解させた……させてしまった。

 

ーー彼女を襲ったのは恐らく自分だとーー

 

考えるだけで最悪な想像、なれど恐らくそれは想像ではなく、実際に起きてしまった事なのだと本能的に理解した。

 

 セレナは元々頭はかなり良い。

アルカ・ノイズ研究に錬金術、優秀な師であるキャロルの教えがあったとは言えそれらを数か月で学び、応用、発展できるレベルにまで鍛え上げたその知識力は間違いなく本物だろう。

――だがその頭の良さが、引き起こしてしまった現実を嫌でも理解させる。

傷ついた響、疲弊している未来、意識が無い時間とその間に顕現した≪これ≫。

証拠はーー揃っていた。

 

「――ッ!!」

 

 思わず唇を噛み締める。

私はいったい何をしているのかと自分自身を責め立てる。

未来お姉さんを助けにきたのに、彼女だけではなく響さんまで傷つけるなんて何をしているのかと、責める。

責めて責めて、そして――決意する。

もう誰も傷つけさせない、と。

未来さんだけじゃない、響さんも、皆守って見せると。

だが―――

 

「大丈夫です!!ご迷惑おかけしてすみません!!」

 

 叫ぶセレナの脳裏は覚悟を決めたとは言え未だに混乱もしていた。

戦場での意識消失、腕に纏わり付く≪それ≫。

理解出来ない事があまりにも多く、脳が混乱しているのが簡単に分かるが……それを考えるのをやめる事で脳の混乱を無理矢理抑える。

正体不明の≪これ≫も幸い、と言っても良いのか、セレナの腕の動きに合わせる形で此方の意志に従って動いてくれている。

 

 ならば――今はそれで良い。

今最も優先すべきは、未来お姉さんを救う事。

その最優先目標を前に≪これ≫の正体も、私の身体や精神の事もどうでもいい。

むしろ感謝するべきだろう、≪これ≫がある事で選択肢が増えたのだから。

 

「(けれども…)」

 

 口元の血を拭う未来を見据えてセレナは考える。

どうやって彼女を救うのかを、考える。

≪これ≫があるおかげで戦闘方法における選択肢は増えた。

だが、彼女を救う術が増えたわけではない。

今の所あるとすれば、実力で未来お姉さんを気絶させてシンフォギアを剥ぎ取ると言った強引策。

しかしそれは恐らく――

 

「(未来お姉さんの様子を見る限り恐らくシンフォギアを通して脳に何かしらの細工、または脳に影響のあるシステムが搭載されている可能性が高い…それを無理やり剥がしたら…)」

 

 脳とは複雑かつ繊細だ。

僅かな傷1つで命を奪い獲ってしまう可能性だって十分にある。

そうなると、シンフォギアを無理やり剥がすのはあまりにも危険すぎる選択だろう。

かと言って他に策が―――

 

「――――――あ」

 

 ふと、思い浮かんだのは1つの策。

成功する可能性は五分五分、なれど剥ぎ取る強引策よりかは絶対に真面な策。

だがそれには響さんの協力が必須だと彼女を見て―――驚愕する。

 

「はぁ…はぁ…ッ…も、もしかして何か作戦とか、あるの?」

 

「ひ、響さんッ!?」

 

 呼吸が荒く、見ただけで分かる位高熱を発している彼女。

そこまでならばまだ体調不良だけだと思う事が出来た。

だが……胸元に出来上がった結晶の存在がそれを許さない。

結晶と高熱、それが何を意味しているのかを知らないセレナは慌てて彼女に近寄るが……

 

「――あつッ!?」

 

 近づくだけで肌が焼ける程の超高熱。

人間が発する事が出来る熱の限界を超えきっているそれは、明らかな異常であった。

とてもではないがこれ以上戦わせられないと近場に居るアルカ・ノイズに連絡して彼女を回収してもらおうとするが、それを止めたのは――響だった。

 

「…私なら大丈夫だよ、へいきへっちゃら、だから。それよりも………さっきの様子だとあるんだよね、未来を助けられる作戦が………それを教えて………」

 

 確かに作戦は、ある。

未来お姉さんのシンフォギア≪神獣鏡≫の特性は魔を払う力。

魔を払う、それは≪魔≫と識別される聖遺物や対シンフォギアにおいて最強の力を誇り、現に彼女の力を前に響さんも私も苦戦を強いられた。

 

ーーだったら、その力を利用してやればよい。

シンフォギアを殺す力を神獣鏡にぶつければ恐らく神獣鏡は破壊され、破壊されたギアは未来お姉さんから自動的に解除されるはずだ。

問題はギアを破壊するに至る威力だが、それに適した物がF.I.S.のヘリから射出されて上空を飛び回っているからあれを利用すれば良い。

後は私と響さんで未来さんの攻撃を上手く利用して彼女にぶつければ解決だが……この状態の彼女にそれは過酷でしかない。

 

「いけません!!そんな状態で戦わせる事なんて出来ません!!すぐに回収させますので響さんは戻って治療を――」

 

どうしてこうなっているのか、そこまでは分からない。

だが、これ以上彼女に戦わせられないと即座に判断する。

機動力がある響さんの協力は欲しいが、こんな状態の彼女を戦わせられないし、すぐにでも治療を受けさせないといけない。

その為のアルカ・ノイズを呼ぶ為に通信を起動しようとして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い………此処で未来を助けられなかったら――私は絶対に私を許せなくなる………未来と、約束したから……未来は絶対に守るって………もう二度と未来から手を離さないって誓ったから!!だから―――お願い……私に…私に未来を救わせてッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 頭を下げ、叫ぶ彼女の願い。

正しい選択をするのであればその願いを無視して彼女を引き上げらせるべきなのだろう。

だが――

 

 

 

 

 

 

 

「―――――分かりました。ですが絶対に無理だけはしない事、これだけは守ってください」

 

 

 

 

 

 

セレナには、出来なかった。

誰かを守る為に己を犠牲にするその姿が――――自分と被って見えたから。

 

 




セレひび

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