セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
《人類の父》
そう名乗った人物が二課のサーバーに残したフロンティアの詳細情報は、フィーネこと了子くんが残した情報のそれを遥かに上回っていた。
了子君でさえも確保していなかったフロンティア内部の詳細マップやその機能、そしてフロンティアに使われている異端技術についてさえもが記されていた。
それが偽物である可能性も否めなかったが…了子くんの残した情報と照らし合わせた結果、その信憑性は高く、このデータが偽物である確率は極めて低いとみなされーー二課はこのデータを元に対フロンティア作戦を構築する事になった。
ーー怪しさの塊であるこのデータを信頼するのは組織的も、そして俺個人的にも選びたくない選択ではあった。
だが、フロンティアを………F.I.S.とドクターウェルにこれ以上の時間を与えてはいけなかった。
既に彼等は月にアンカーを打ち込み、無理やりフロンティアの浮上を速める対価に月の落下を速めると言う凶行を行っている。
人類を救う、その為に活動して居た筈の彼らが人類の寿命を縮めたのだ。
もはや彼らに―-いや、ドクターウェルは人類救済なんて目的はない。
己が夢を、欲に眩んだ歪んだ願望を叶える為だけにフロンティアを使おうとしている。
そんな凶行を許してはならない、だからこそ…あのデータを作戦に取り込んだ。
ドクターウェルの凶行を止める為のやむ無しの手段として――――
そして、作戦は順調に進んでいた。
データにあったフロンティアの内部マップと詳細情報のおかげで敵の動きもある程度であるが予測する事が可能で、敵の動きを想定した臨機応変なバックアップを常に可能としている。
そのおかげで作戦は順調だ、あまりにも順調だ。
このまま行けば事態収拾も時間の問題だろう。
「…だが………」
脳裏に過るはやはりこのデータを残した人類の父を名乗った謎の人物。
今まで二課のサーバーは米国を始めとした諸国からのハッキングを繰り返し受けて来た。
だが二課の防衛システム、そして優秀な職員のおかげでこれまでそのハッキングが成功された試しがない。
それもその筈だ、二課のサーバーは多額の予算と天才科学者たる了子くんの手で作られた電子上に存在する無敵の要塞の様な物だ。
この要塞を攻略する事は決して簡単ではない。
だが、人類の父を名乗るこの人物はその要塞を突破して見せた。
諸国からのハッキングの尽くを迎撃して見せた二課の防衛システムを堂々と物の数秒で突破してみせた。
だが、かと言って何かを奪う訳でもなくただこのデータだけを置いて去って行くと言う謎の行動。
「…読めん、な」
――弦十郎が人類の父に抱いた感想は、気味が悪いの一言だ。
この人物が残してくれたデータ、それは助かる。
このデータが無ければ作戦は此処まで順調に進まなかっただろう。
だがその目的が全く以て不明だと言うのは気持ちが悪すぎる。
それが純粋に俺達の力に成りたいと言う物であれば喜んで受け取ろう。
しかし、わざわざハッキングしてまでデータを置いて行ったのだ、正義感から……ではないのは間違いないだろう。
「…俺達とF.I.S.を争わせるのが目的と言う可能性もある、か」
敵の目的が二課とF.I.S.、2つの勢力を争わせて戦力を低下させようとしている線は十分にあり得た。
例えば仮面の少女が率いていた謎のノイズ軍。
彼女達とは一時的に共闘関係であったが、彼女達が敵か味方かは――はっきりしていない。
あの共闘も俺達の信頼を得る為に行った芝居であり、人類の父を名乗ってデータを二課に流し、二課とF.I.S.を争わせ、戦力が低下した頃に参戦してフロンティアの奪取を狙っている可能性とて十分にあり得た。
だが、そうとは思いたくない。
一時的な共闘関係であったとは言え、共に戦った相手をそんな目で見たくはない。
それにこれはあくまで極論だ。
確かに彼女達は敵か味方かははっきりしていないが……
可愛い愛弟子とその親友を必死に救おうとしてくれたんだ、それが全て芝居だったなんて思いたくもない。
可能であれば友好的関係を構築出来れば良いが……此方は向こうの動き次第と言った所だろう。
ひとまず人類の父については目下、緒川と諜査部が主となって調べているが…正直難しいだろう。
二課のサーバーを調べた結果、人類の父なる人物はサーバーにハッキングした痕跡を欠片も残していない事が判明した。
結果、逆探知等も難しく調査の方も難航していると報告が上がっている。
恐らくは、この調査も努力虚しく失敗に終わるだろう。
「…こんな時に了子くんがいてくれたら……」
仮にここに彼女が居ればきっと彼女は我々には理解出来ない知識を以てこの犯人を特定し、追い詰めてみせるだろう。
わたしにまっかせなさーいと上機嫌に答えて、期待に応える姿が目に浮かぶ。
彼女ならばそれが出来る、それを可能とするだけの知識がある。
そんな彼女に俺達はいつも頼っていた。
彼女ならば何とかしてくれると、何時も期待し、そして頼り過ぎていた。
今も真っ先に彼女の存在を思い出してしまうのがその証拠だ。
だが――もう、彼女はいないんだ。
他の誰でもない、俺達が……
「……俺も、女々しい男になってしまったもんだ…」
彼女がもういないと分かっていながらもその存在を求めてしまう。
それだけ風鳴弦十郎と言う男は彼女の存在を必要としていたのだと、改めて思い知らされる。
失ってから始めて、遅すぎる想いに……気付かされた。
だが、今はそんな想いと向き合う時ではない。
今なお戦場で戦う彼女達を支援する、その役目を果たす為に1人の男としての己を忘れ、二課の司令である己を呼び覚まし目まぐるしく変わる戦場へと視線を向けようとして―――
「司令!!ひ、響ちゃんと調ちゃんが!!」
「――ッ!!何だとッ!!?」
その視線が捉えたのは、捕虜であった筈の調くんと共に外へと駆けだしていく響くんの姿だった。
「……良し、ガリスどうですか?」
場所は変わり443内部。
戦艦と空母としての機能を追加された443だが元々はあくまで巨大な輸送用と言う名目の空中移動基地として作られたアルカ・ノイズだ。
万が一に備えての物資置き場や小休憩が可能な個室、そしてシスターズのメンテ用ルームまで用意されている。
そんなメンテ用ルームにおいてセレナは今しがた終えた作業の結果を確認する様に机の上に寝る少女――元の人形姿へと戻ったガリスへと声を掛ける。
「ん~…少し動きにくい、ですかね?」
「あくまで臨時用に作っておいた予備躯体ですからね、動きにくいのは我慢してください。シャトーに帰ったら本格的な躯体を作りますからそれまでは、ね」
はーいと答えるガリスだが、机から起き上がる動きの1つ1つに動きにくさが現れている。
それをもどかしいと感じているのが表情に出るのですぐに分かってしまう。
それを申し訳ないと感じながらも、セレナはその姿に安堵する。
「(無事でよかった…)」
ガリスの無事、それが今やっと心の底から実感できた。
失ってしまったと、もう二度と戻らないと思っていた存在が、今こうして目の前にまた居る。
その事実に安堵しながらも、セレナの脳裏にあるのは疑問。
ガリスの無事、それは確かに嬉しい事だ。
だが同時に理解出来ない事でもあった。
≪何故ガリスは無事だったのか≫
彼女の無事は本当にうれしい、それに一切の偽りはない。
だがどうしてもその事実に疑問を抱いてしまった。
ガリスの身体の崩壊、それを目の当たりにした者としてどうしてもその疑問を解消させたいと願い、ガリスを予備躯体に移し替える中で彼女を調べ、そして1つの仮説を生み出した。
≪ガリス≫と言う存在が宿っているのは身体ではなく≪偽・聖遺物≫である、と。
彼女達シスターズにとって≪身体≫はあくまで器。
その心臓、その心、その魂が宿っているのはコアである≪偽・聖遺物≫であり、故に身体が破壊されようとも偽・聖遺物さえ無事であれば彼女達は無事である、と言う結論を導き出した。
――と言っても、これはあくまで仮説。
もしかしたら違うかもしれないけれど、これ以上の調査は此処では難しい。
本格的調査は、全てシャトーに帰還してから―――――
「……あ」
シャトー、その単語が脳裏を過ると同時に思いだす、と言うよりかは気づいてしまう。
今回起した不祥事の数々を、そしてそれを見ているであろう師匠の存在を―――
「……師匠、絶対に怒ってますよね」
独断出撃、並びに意図していなかったとは言えアルカ・ノイズの出撃。
更にはシスターズであるガリスの存在さえも露見してしまった。
――絶対に怒られる、そう思うと憂鬱になる気分を何とか持ち直しながらも今後の動きを決めていく。
偵察に向かわせた子達からの報告を聞く限り、二課のフロンティア攻略作戦は順調に進んでいる。
F.I.S.もノイズを展開させながらも必死の抵抗を続けているが、この調子であればドクターウェルを始めとしたF.I.S.の面々が捕まるのは時間の問題だろう。
それを踏まえて――私達は撤退準備を始めた。
理由は多々あるが、ガリスの状態やアルカ・ノイズ達の負傷。
そして何よりも…私が限界に近いと言う事だろう。
「―――ッ!!」
「マスター!?大丈夫ですか?」
身体を襲った痛みに表情が歪む。
それを心配したガリスに大丈夫だと答えながらも、全身に感じる痛みが増していくのを実感していく。
恐らくは師匠の薬の効果が切れて来たのだ。
師匠の作った薬はあくまで師匠個人が使う予定で製作していた物。
それを使用する予定の無かった私が使った事で薬は最高の結果を生み出す事が出来ず、あくまで一時的な痛み止め程度の効果にしかならなかったのだろう。
そしてその痛み止めがもうすぐ切れようとしている。
…無理もない、あの戦場ではあまりにも多くの事があり過ぎた。
黒い手の変化、謎の手の出現、そして――白いガングニール。
余りにも多く…多すぎる程に変化があり過ぎた。
正直、今この瞬間でもあの戦いで起きた出来事の数々が夢であったような感覚さえある。
それ位までに現実離れした出来事の数々であった。
だが――間違いなくあれらは現実にあった出来事なのだ。
「…………」
セレナが知る限り、ニトクリスの鏡にあの様な機能はなかった。
キャロルが独自に組み込んでいた可能性はあるが……それならそれで教えていなかった事に納得がいかない。
セレナも本能的に理解していた、この鏡には≪何か≫があると。
一度本格的な調査の必要があり、調査する前に使うのは避けるべきだと言うこの判断もまた撤退の理由の1つだ。
――正直を言えば、私も今すぐにあの戦場に向かいたい。
向かってウェルを、大人達を捕らえて、そして聞き出したい。
あの子達を…あんな優しい2人をどうして巻き込ん―――?
「……あれ?」
ふと、≪違和感≫に気付く。
先程まで何とも感じなかったなのに、不意に自らの思考に、その違和感に気付いた。
≪どうして私はあの2人を知っているの?≫と。