セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第108話

 

脳裏に浮かぶ、1つの光景。

何処かの学園の…校庭、だろうか?

其処に居るのは、恐らく私と2人の少女だった。

 

≪――しらべ~♪甘いデスよ~♪ふわふわクリームですよ~♪≫

 

≪――切ちゃん、こっちのカスタード美味しいよ?≫

 

机の上に並ぶ沢山の出店料理を次々と平らげていく2人。

口元をクリームいっぱいに汚しながらも笑顔で食べる少女。

そんな少女を仕方なさそうに、けれど嬉しそうにハンカチで口元を拭ってあげている少女。

 

幸せ、と言う言葉が形になるとすればこの光景を指すだろう。

2人の少女が笑顔で美味しい食べ物に舌鼓を打ち、共に笑うこの光景こそ幸せと現さず何というだろうか。

見ているだけで釣られる様に笑顔になる、眩しい程に幸福に満ちた光景。

 

 

―――だけど、私はそれを知らない―――

 

 

この学園は何処?

何で私はこの子達と一緒にいるの?

そもそもこの記憶は何時のもの?

どうしてこんな記憶が、あるの?

 

私は、こんな記憶を知らないのに――

 

「…マスター?」

 

「…え?あ、えっと…ど、どうしたのガリス?身体に何か問題でも?」

 

心配そうに覗き込んで来たガリスに慌てて返事をする。

心配させまいと、脳に抱いた違和感をかみ殺して笑顔を浮かべる。

その記憶の存在が何度も何度も脳裏に過りながらも、今はそれを黙殺して――

 

「あ、いえ。身体に関しては先程言った通り動きにくいだけですが…あの、大丈夫ですかマスター?顔色が…」

 

「うん、大丈夫だよ。流石に疲れが出てきただけだよ。それよりも撤退を早く終わらせよう。帰ったら師匠の説教が―――ッ!!」

 

待っているから、そう続けようとした言葉が止まる、止められる。

背筋に感じた冷たい何かが、遠くから感じる≪何か≫がそれを止める。

思わず向けた視線の先にあるのは、映像に映し出されたフロンティア。

間違いない、今一瞬あそこから≪何か≫を感じた。

 

気持ち悪く冷たい≪何か≫を――

 

「…何、今の……」

 

胸に過る不安。

それはさながら警告だった。

あそこで何かが起きようとしている事に対しての――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから行って。胸の歌を信じなさい」

 

その言葉が立花響の迷いを打ち払った。

月読調、そして暁切歌。

仲良しだった2人、けれども今は戦わなければいけない2人。

その2人の戦場となった場所から立花響は駆ける。

この争いを生み出してしまった原因を止める為に、駆ける。

 

そして残されたのは2人。

記憶を、想いを、自身が生きた証を残したいと願う暁切歌と、ドクターの暴走に巻き込まれていく大好きな家族の暴走を止める為に敵対の道を選んだ月読調。

 

「調ッ!!なんであいつを!?あいつは調の嫌った偽善者じゃないデスかッ!!」

 

暁切歌は吠える。

大好きな調と戦いたくないから、僅かにでも彼女と戦わなくてもいい可能性がある道を探るべく吠える。

なれど、それはもう―――

 

「でもあいつは自分を偽って動いてるんじゃない。動きたい事に動くあいつが眩しくて羨ましくて――少しだけ信じてみたい」

 

調の言葉がその可能性を容易く断ち切る。

もはや言葉での解決は不可能だと、知らしめる様に発せられたその言葉が暁切歌に静かに覚悟を決めさせる。

 

「さいデスか…でも、アタシだって引き下がれないんデス!!アタシがアタシで居られる内に何かの形を残したいんデス!!」

 

「…切ちゃんで居られるうちに?」

 

戦いの火蓋が切って落とされるのはもはや明確。

もうすぐ戦いが始まる。

大好きな2人が、仲良しだった2人が、

それぞれの想いと願いを叶える為に争う。

 

 

 

 

 

 

そうなる筈、だった。

 

 

 

 

 

 

「そうデス!!調やマリア―――――――ッ!?」

 

突如切歌が頭を抑える様にして座り込む。

何かに耐える様に下を向いて座り込んだ切歌に今まさに戦おうとしていた調でさえも心配して駆け寄りそうになるが…それは杞憂だった。

ゆっくりと切歌が立ち上がったからだ。

 

「――きり、ちゃん?」

 

敵対したとは言え2人が親友である事には何も変わらない。

心配する様に呟いた調の声に対して、切歌は―――ギアを解除して答える。

 

「……ごめんなさいデス調、アタシが間違ってたデスね」

 

そこにあったのは笑顔の切歌。

ギアを解除し、戦闘の意志はないと言わんばかりに笑顔で歩み寄って来る切歌の姿だ。

 

「…え?」

 

「そうデス、アタシが間違えてたんデス。調と戦うなんて可笑しいデスよ。マリアやマムだって間違えてるんデス、皆ドクターに騙されちゃってるんデスよ!!」

 

先程とは打って変わり彼女は自らの行動が間違えていると語り始める。

それは調にとって嬉しい出来事である筈だった。

なのに、そうなのに――

 

どうしてこんなに胸がざわつくの?

 

「2人で一緒にドクターを止めるデスよ!!アタシ達2人の力があれば、それにマリアやマムだって協力してくれますから楽勝デスよ!!だから調……一緒に行くデスよ」

 

差し出された右手。

いつも通りの笑顔で、いつも通りに差し出された右手。

普段であれば迷う事なく握った右手に、調は躊躇う。

何故か、躊躇ってしまう。

握ってはいけないと何かが警鐘を鳴らしている。

 

「…握ってくれないんデスか?」

 

その躊躇いを読み取ったのか、切歌の表情が僅かに揺らぐ。

悲し気に崩れた笑顔に、調は無意識に否定の言葉と共に右手へと手を伸ばしてしまう。

 

「ち、違うよ切ちゃん!!ちょっと混乱してただけだから…そうだね。2人でなら大丈夫」

 

ゆっくりと、ゆっくりと調の手が切歌の差し出された右手へと延びていく。

いつも通りに、手を握ろうとする。

 

「そうデスよ調。アタシ達なら大丈夫デスよ」

 

切歌は笑顔を浮かべる。

いつも通りの愛くるしい笑顔を、人懐っこい笑顔を、≪暁切歌の笑顔≫を浮かべる。

そして―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ!!!!!駄目デスッッッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月読調が呆然と胸に感じた衝撃に身を任せながら地面に倒れた。

何が起きたのか、それを理解しようと前へと向けた調の視界に映ったのは―――

 

 

 

 

 

 

切歌の左手に握られた黒いLiNKERが調を突き飛ばしたであろう右手に深々と刺さっている光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…上手く行かないものだね、中々に」

 

遠くから予想とは別になってしまった光景を眺める男はそう呟く。

彼が暁切歌にしたのは、簡単な催眠。

その内容もいたってシンプル。

 

≪月読調にこのLiNKERを使えば君の望む幸せが訪れる≫

 

催眠は成功していた。

だからこそこの絶好の機会に彼女にLiNKERを打ち込もうと催眠は発動し、そしてそれは実行されようとしていた。

だがその催眠を上回ったのが――暁切歌の月読調を想う気持ちだろう。

故に彼女はギリギリで催眠から解き放たれ、月読調を守る為に彼女を突き飛ばした自らにLiNKERを打ち込んだ。

 

「…これが愛、だね」

 

男は笑う。

自らの予測した結末とは違ったものとなった光景に怒りを抱くわけでも悲しみを抱くわけでもなく、ただ笑う。

――男にとって実際装者であれば誰で良かった。

ただ利用しやすく、そしてLiNKER無しでも戦える二課の装者よりは、LiNKER無しでは戦えない使い潰しても良い者としてF.I.S.の面々を選んだだけだ。

故に、男にとってこれもまた想定した1つの結果。

そして今からは―――

 

 

 

 

 

「見せてもらうよ、君を。

証明してもらうさ、ボクに―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――切ちゃんッ!!!!」

 

黒いLiNKERが全て彼女の体内へと流れ落ちたのとほぼ同時に調は立ち上がる。

友を心配し駆け寄ろうとするが、それを阻むのは――風。

暴風、とでも呼べばよいだろうか。

切歌を中心に発生した暴風は周囲へと吹き荒れる。

元々調のギアは踏ん張りが効かない、故に吹き荒れる風に調は吹き飛ばそうになるが、咄嗟的にギアの丸鋸を起動させて地面に突き刺す事で何とか耐える。

 

「切ちゃん!!ねえ聞こえる!?切ちゃんッッ!!!!」

 

吹き荒れる風に視界を奪われながらも必死に呼びかける。

大好きな親友を、大好きな家族を、呼びかける。

きっと無事だと信じて、呼びかけ続ける。

だがその呼びかけに答える者はなく、無音が調を不安にさせていく。

そんな切歌に少しでも近付こうと必死に前へ前へと向かう。

この暴風の先に大好きな切歌がいる、いつもの笑顔でそこにいる、そう信じて、

なれどその想いは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調を襲う無数の刃が呆気なく打ち砕いた。

 

 

 

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