セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第102話

 

ガリスと言う人形にとって人生とは≪誰かに捧げる≫ものだ。

己が生を生きる為でもなく、己が喜びを見つける為でもなく、己が快楽を得る為でもない。

主に捧げる、ただそれこそが≪ガリス≫と言う存在に与えられた人生であった。

故に――その選択は至極当然であった。

 

「マスターッ!!ご無事でしたかッ!!」

 

ガリスが持つ偽・聖遺物 ≪トライデント≫

その特性は≪視界に映る範囲の水を操る力≫。

そんな彼女にとってこの場はまさに独壇場であろう。

足元にあるのはこの星の大部分を占める水、海水。

ガリスはそれを視界に収めると同時に己が特性を起動させていた。

 

1つ、また1つ、尚も1つ。

増え続ける海水の竜巻は常識を覆して天へと昇り、堕ちる光を阻む。

光の熱で海水が蒸発しようとも、それを補うだけの水は腐る程にある。

故に海水の竜巻は途切れる事なく延々と光を阻み続ける。

ガリスの指示通りに、主を害そうとする光を阻み続けていた。

 

「ガリス貴女どうし――ッ!!?」

 

シャトーに居る筈の彼女が此処に居る、その理由を問おうとしたセレナであったが、彼女の視界に映ったその姿に言葉は止まる、止めざるを得なくなる。

其処に居たのは――傷ついた人形だった。

右手を掲げて海水を操作しながら、その身体はゆっくりとではあるが破損し、崩れていく。

華奢な身体は部分部分が破片となって落ちていき、誰かに傷付けられるのを嫌っていた顔も右頬部分が完全に消失している。

見るも無残なその姿に、そして今なお昇り続ける海水に、セレナはすぐに彼女に何が起きているのかを理解した。

 

「ガリス貴女まさか…リミッターをッ!!?」

 

セレナの手によって作られたオートスコアラー・シスターズには幾つかの制限システムが組み込まれている。

ミウの暴走を防いだ緊急安全装置もその1つである。

そしてリミッターはその中でも一番の制限システムとして構築されている。

シスターズの力の元、生命の元になっているのはセレナが作り上げた偽物の聖遺物である《偽・聖遺物》。

大多数を占める偽物、ほんの欠片程度の本物の聖遺物で作られたそれは≪聖遺物≫として機能し、歌の力で多くのエネルギーを生み出している。

だが、それは時に≪多すぎる≫事態を作ってしまう。

 

何事も多すぎず少なすぎずが理想。

シスターズと言う器を満たすだけならば問題ないエネルギーも器から零れ落ちるまでに作られてしまえば、それは器を破壊してしまう危険性があった。

だからこそ、セレナは彼女達にリミッターを作った。

一定以上のエネルギーを生み出さないそれを、何よりもシスターズの身体を想ってこそそれは彼女達に取り付けられた。

故に人形達は≪制限≫を課せられた。

定められたエネルギーだけを使う事を課せられ、それ以上の力を使う事を禁じられた。

人形達を想ってのそれは、人形達からすれば己の力を封じられた事と同義だ。

従来の敵であれば問題は無い。

だがそれ以上の敵が現れたら――彼女達は必ず負ける。

そんな絶望的未来を約束してしまったのが、この機能だ。

人形達を想う優しさは彼女さえ気づかないままに彼女達を苦しめる要因として課せられてしまっていた。

 

しかし、彼女達は主を恨まない。

人形達の役目は主に仕え、主を支える事。

その恩方に敵意を、怒りを向けるなど在る筈もない。

それに彼女達もその機能が自身達の身体を想ってのものだと知っていた。

だからこそ恨まないし、怒りさえも抱かない。

むしろ主の優しさに感謝する程だ。

 

だが、同時に彼女達は理解してもいた。

この先、主が進む道の先には絶対に困難が待ち受けていると。

≪このまま≫では力に成れないと理解していた。

だからこそ――彼女達は独断で調べ上げた。

己の身体を、その機能を、そして――リミッターの解除方法を、知った。

それを解除する事が主の優しさを無意味にすると理解しても、それを主が望んでいないと理解していても、彼女達は覚悟を以てそれを躊躇なく実行する。

己が主の進む道を守護する、その為にこの命を燃やせるのであれば――それは従者として冥利に尽きると言う事だから――

 

「ガリスッ!!すぐにリミッターを戻して撤退しなさいッ!!これは命令ですッ!!!!」

 

悲痛な叫びと共にセレナは≪命令≫だと言葉にする。

家族として向ける言葉ではなく、主と従者として絶対的な言葉を選ぶ。

なれど、その言葉にガリスは微笑みを以て――

 

「お断りします♪と、言うよりかは――もう無理と言った方が正しいかも、ですかね」

 

主と従者としてではなく、家族としての笑みと言葉を返す。

その身体はもうボロボロで、何時全てが壊れても可笑しくない程にその佇まいは儚い存在と化していた。

 

「――ッ!!…ど、うして……」

 

セレナは悟る。

彼女の限界を、迫る終わりを悟る。

それはもう先に待つ結末を覆すのが無理であるのだと悟る。

それなのに――なぜ彼女は笑っているのか。

迫る死を前に、何故笑っていられるのか。

 

「どうしてって…そりゃあ決まってますよ。マスターの為に戦って、マスターの為に死ねる。これ以上の喜びなんて他にありますか?従者冥利に尽きる、です」

 

眩しい程の笑顔で彼女は語る。

己が使命を、己が人生を全う出来たと屈託のない笑みを以て語る。

その言葉が優しい主を傷付けているとは知っていたが、それでも語る。

最後なのだからこれくらい許してほしいと、語る。

その姿に自然と涙が零れる。

自らの為に死に逝こうとしている家族に、涙が溢れ、止まらなくなる。

 

「――ああ、もう、泣かないで下さいよマスター。私が好きなのはマスターの笑顔だって、知っているでしょう?」

 

崩れる左手が優しくセレナの涙を拭う。

握るのもやっとな左手でハンカチを握り、拭う。

ゆっくりと、名残惜しみながら優しく拭い、その手がセレナから離れる。

 

「…ッ!!がり…す……」

 

「…もう、本当にマスターは泣き虫なんですから」

 

呟くその名に従者たる人形は微笑む。

主の為に生き、主の為に死ぬ人形は微笑む。

主との別れを済ませた彼女は迫る光に視線を向ける。

あれを何とかする、その為に必要な行動が何かを理解している彼女は覚悟を以て挑もうとして、ふと何気ない様にセレナに言葉を向けた。

 

「――嗚呼そうだ、マスター。もしもですよ?もしも、生まれ変わってまた貴女に会えるのでしたら――その時は私の我儘を聴いてもらっても良いですか?」

 

語るのは最後の願い。

生まれ変わりを信じて、何時かまた会えると信じて、そう伝わる言葉をセレナは――ただ首を縦に振って答えた。

その姿に、ガリスは満足そうにし、そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それでは、マスター。また会いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――人形はその身を瓦解させ、残った力を技に注いだ。

唸る水の竜巻は人形の想いに答えるが如く威力を増し、セレナの放つ竜巻と混ざり1つとなる。

1つとなった竜巻は光を削り―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――光を裂いた―――

 

 

 

 

 

 




さよならガリス   

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