セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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緒川さんは小説だと書きにくいキャラだなと感じる今この頃


第10話

「……これは」

 

部下からの報告を聞き急ぎ足で辿り着いた緒川の前に広がったのは―――灰の山。

これが単なる灰であれば特に問題とならずに終わるだろう。

だが……目の前にあるこの灰の山が、人であったかもしれないと言う可能性がある以上そうはならなかった。

 

「緒川さんお待ちしておりました」

 

灰の処理をしていた黒いスーツの諜報員が自らの上司の到着に駆け足で近寄り、手短に現時点までに掴んだ情報を報告していく。

商店街エリアからここまでにあった監視カメラが何者かによって破壊され、映像や音声の類は一切残っていなかった事。

そしてこの近隣のエリアで犠牲となってしまった犠牲者のリストを作成したのだが……

 

「被害者の数が少ない?」

 

「はい、最低でもこれだけの灰となりうるだけの人が犠牲になったと言う事はなく、またこのエリアに装者両名が到着する前にはノイズ反応が完全に消失しています。緒川さんこれは……」

 

「……この事については僕から司令へ報告しておきます。周辺の生き残っている監視カメラの映像の確認をお願いします」

 

はいと言葉短めに去って行く部下の背を見ながら緒川は考える。

ノイズに一般的な攻撃の類が通用しないと言うのは世界の常識である。

過去幾度も多種多様な兵器で攻撃を試みているが、その全てにおいて対象に一切の傷を負わす事なく失敗している。

そんなノイズに唯一戦う術として発明されたのが桜井理論から生まれた≪シンフォギアシステム≫

緒川が所属する組織≪特異災害対策機動部二課≫はそんなシンフォギアを唯一保有する組織だ。

 

歌姫であり自らを剣であると語る少女≪風鳴翼≫が持つ第1号聖遺物≪天羽々斬≫

そして二年前の事件でその胸に宿す事となってしまった少女≪立花響≫が持つかつて≪天羽奏≫が持っていた第3号聖遺物≪ガングニール≫

現在において唯一ノイズと戦う術であるシンフォギアを持つこの2人の少女以外にノイズと戦う事が出来る人なんて判明している限りいないだろう。

 

「……しかし、これは」

 

被害者の数を優に超す程に積もった灰の山。

ノイズが灰となる条件は自らと同じ体積を持った人間と接触して灰素転換させる事。

詰まる所彼らは人間を巻き込まないと灰にならない。

それ以外の手段となれば、それはシンフォギア等で破壊され、灰となった場合のみだろう。

 

―――ではこの灰の山はどう説明する?

これだけの灰に灰素転換させられるだけの犠牲者はなく、ノイズを唯一倒せるシンフォギア装者は此処に来ていない。

あるはずのない灰の山、けれどもそれは現に目の前に存在しているのだ。

 

「…いったい何が起きているんですか」

 

 

 

 

しかし誰が気付けるだろうか。

実際はどこぞの弟子が勝手にアルカ・ノイズを持ち出して、ノイズ同士の仁義なき戦いがあっただけだと言う事実に、誰が気付けるだろうか……

 

 

 

 

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「………はぁ」

 

少女が師匠と仰ぐキャロルからのありがたーいお説教タイムから数時間後。

未だに説教タイムが継続しているガリィの尊い犠牲により説教タイムから解放された少女であったが、師匠から罰として倉庫の片付けを命じられていた。

キャロルが数百年を掛けて計画していた父からの命題が破綻仕掛けたと言う割には緩い罰だと思うが、彼女も彼女で少女に疑いを掛けた事、その為に危機に晒した自らに思う所があっての罰なのだろう。

 

「けど……ここって随分古そうな物ばかりですね、こっちの剣なんて博物館にありそう」

 

少女が片付けを命じられた倉庫にあるのは無数の聖遺物達。

キャロルが計画を果たすために何らかの力になればと集めた数々の品々はどれもこれも聖遺物としても歴史的価値が高い遺物としても十分な物ばかりだが、キャロルからすれば計画達成には不必要な物ばかり。

なれど腐っても聖遺物、そこらに破棄するわけにもいかず、こうして倉庫に放置されているのであった。

 

「片付け大変そうですけど……頑張ってやりましょう!」

 

目の前に広がる倉庫の現状に気合いを入れ直して片付けをしはじめようとしーーふと、それを見た。

倉庫に無数に転がる品々の中でも不思議と惹かれる鏡。

手入れされているのだろうか?埃を被っている他の品とは違い、透き通るような綺麗な鏡に何となく足を向ける。

 

鏡に映る自分、なれどその視線は自らを見ずに鏡の中へ、中へと向けられる。

まるで深海の中を覗き見しているかのような不思議な気持ちについ手を伸ばす。

伸ばして伸ばしてーーー

鏡に映る私が微笑んだような気がしてーーー

私が伸ばした手を《ワタシ》が掴もうとしてーーー

 

「おい馬鹿弟子」

 

え?と視線を向ければ部屋の入り口にいたのは師匠。

どうしてここに?と疑問を聞こうとするが、

 

「ここの片付けは中止だ。ガリィにでもさせておく。

お前は錬金術の準備をして俺の部屋で待ってろ。久しぶりに厳しく指導してやろう」

 

師匠からの錬金術の指導。

久しくなかったそれに思わず興奮を我慢することが出来ずに本当ですか!?と声高く聞き返してしまったが、師匠に良いからさっさと行けと怒られてしまった。

これ以上は師匠の機嫌を損ねてしまうなと素直に嬉しい感情を胸に部屋から退出していこうとして師匠の隣を通り過ぎた時ーー

 

「………………」

 

師匠が珍しく厳しい表情をしていた、ように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんな物まであったとはな」

 

自らの弟子が部屋を去ったのを見届けた後、キャロルの視線は1つの鏡へと向けられた。

その姿が伝承のそれと一致しない事、そして過去に焼失してしまった想い出の中にこれに関する記憶が混ざってしまっていた事からその正体を突き止めるのに時間を費やしてしまった。

鏡から漂うは気持ちの悪い《何か》。

その正体をうっすらと察しながらもキャロルは鏡を封じるかのように布を被せた。

過去の伝承においてもこの鏡はろくな使い方をされていないが………だが、もしも今考えている仮説通りであるのならば………

 

「………破壊するわけにいかない、か」

 

だが、同時にこの鏡をあの馬鹿弟子に接触させるわけにもいかない。

保存場所を変えておく必要もあるな………

 

「……エジプトの女王様とやらも余計な品を残してくれたものだ」

 

その言葉を最後にキャロルは鏡を手にして部屋を後にする。

滲み出る気持ちの悪い《何か》を堪えながらーーー

 

 

 

 

 

 


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