セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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イエーイ



切ちゃん誕生日

 

暁切歌はその日気分が最高潮に良かった。

最低でも朝自宅を出るまでは、最高潮だった。

 

《帰ってきたら誕生日パーティーやろうね、切ちゃん》

 

ちょっとした用事(提出期限が今日までだったプリントの提出)で自宅を出る際にヤル気満々で言った調の言葉が何度も脳内を連呼する。

その為に、最短で最速にまっすぐに一直線に彼女は用事を終わらせて自宅へと戻ろうとしてーーー

 

持っていた通信機から聴かされた内容に絶望した。

 

 

 

 

 

 

《切ちゃんお誕生日おめでとうーーッ!!!!》

 

《おめでとうーーッ!!!!》

 

《イエーイッ!!》

 

「………ありがとう、デス」

 

《暁切歌誕生日パーティー》そう書かれた垂れ幕と華やかに飾り付けられた自宅にて、本日の主役たる切歌は無理をした笑みを浮かべていた。

それもその筈、自宅にて執り行われている誕生日パーティーに参加しているのはーー切歌を除けば全てセレナが作ったアルカ・ノイズだけしかいないのだから。

 

《ケーキをお持ちしましたッ!!》

 

《ターキー焼けましたッ!!》

 

《ピザも焼けましたッ!!》

 

机の上に並ぶ料理の数々は本当に美味しそうである。

漂う香りと美味しそうな見た目は、食欲を刺激し、食べるのが好きな切歌であれば絶対に喜ぶ筈。

だが、切歌はそれをもそもそと食べるだけでなにも言わない。

いつもの明るい笑顔はそこにはなく、ただ静かに悲しげに料理を食べるだけのその姿に盛り上げようと頑張る彼らアルカ・ノイズも苦しい想いをしていた。

 

《おい、どーするよ切歌ちゃん完全に楽しんでないじゃないか》

 

《うーん……まぁ、気持ちは分かるけどなぁ、まさか誕生日に限って切歌ちゃん以外全員緊急任務だからなぁ》

 

そう、この場に他の装者達がいない理由は、まさかの緊急の任務が入ったからだ。

それも綺麗に切歌だけを除いて、だ。

国連に所属するS.O.N.G.は対アルカ・ノイズ災害のみならず人命救助や災害派遣と言った多岐に渡る活動を国連主導の元に行っている。

なのでこう言った緊急任務も日常茶飯事ではある。

だが、今回ばかりは流石に酷かった。

緊急とは言え切歌の誕生日に彼女以外の装者全員、そして外部協力組織であるキャロル率いるシャトー勢力までもが派遣されると言うまさかの事態になってしまったからだ。

おまけに今回に限ってどこも超がつくレベルで忙しいと来た。

故にせめて通信で誕生日を祝おうと言うささやかな願いも叶わず、派遣された者達は各々の役目を果たすべく今もなお奮闘している。

 

だが、それは流石に可哀想と思った我らが主人公、セレナはせめてもの気持ちでとアルカ・ノイズ達に本来は自分達で祝うために用意していた誕生日パーティーを引き継がせ、彼等も彼等で精一杯喜んでもらおうと奮闘はした。

だが、結果はこれだ。

いつもの笑顔ははそこにはない。

机に並ぶ豪華料理も、華やかに飾り付けも、今の彼女には虚しいだけの存在でしかなかった。

 

切歌も今日を楽しみにしていたのだろう。

大好きなマリアや調、セレナや皆と過ごす誕生日を心待ちにしていたのだろう。

それ故にその落胆は半端なく彼女を襲い、彼女から笑顔を奪い取っていた。

 

《くそ、何か……何かないのかッ!?彼女を喜ばせる何かがッ!!》

 

そんな顔を見せられては男が廃ると彼等も必死の打開策を考えるが、そうは易々と浮かばない。

どうしたら良いかと各々が必死に考え、そしてたどり着いた答えはーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーッ」

 

響達が派遣されたのは中東に位置するとある国。

そこでは、国連が難民への物資支援を行っていたのだが、この物資を狙って中東で活動している大規模反社会組織が強奪を企んでいるとの情報が入り、更にはこの組織はアルカ・ノイズを保有している事も判明。

その備えとして立花響を始めとした装者達とキャロルを始めとしたシャトー勢力は応援の為にテレポートジェムにて現地入り。

物資支援を行う国連の護衛を行っていたが、予想通りに反社会組織がこれを強襲。

アルカ・ノイズも展開し、難民と国連部隊を守りながらの戦闘となって苦戦していた。

 

「響さん!!大丈夫ですか!?」

 

セレナの叫びに響は迫るアルカ・ノイズを拳で殴り飛ばしながら笑顔で大丈夫と答えるが………状況は芳しくない。

予想よりもアルカ・ノイズの数が多いのだ。

ただ戦うだけならば問題ないのだが、彼女達の背中には守らなければならない人達がいる。

力無き人々が、助けを求める人々がいる。

その存在が彼女達を苦しめていた。

守らないといけない、それ故に思うがままに戦えずにどうしても苦戦を強いられてしまう。

 

そんな状況を反社会組織の幹部は満悦そうに眺めていた。

自身の力やアルカ・ノイズだけでは勝てない事は最初から理解している。

ならば、作ればよいだけだ。

勝てる状況を、勝利への条件を、

 

勝てる、これならば勝てる。

装者を倒したとなれば裏社会での彼の名は有名となるだろう。

そうすればこの組織のトップ………否、それ以上を目指せる。

そんな妄想に浸りながら男は満足そうに止めを刺さんと指示を下そうとしてーーー

 

 

 

 

 

《オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!!》

 

《騎兵隊のお通りだこの野郎ッ!!!》

 

 

 

 

 

自らが指揮するアルカ・ノイズ達を視たことがない変なアルカ・ノイズ達が突如現れて蹂躙していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アルカ・ノイズが出した結論。

それは任務を終わらせて皆と一緒に彼女が望んでいた誕生日パーティーを執り行うと言う答えだった。

それ故にアルカ・ノイズ戦闘班は総員出撃。

反社会組織が持つアルカ・ノイズの尽くを粉砕し、その勢いで中東のあちこちにあった反社会組織の拠点を制圧。

更には国連が執り行う予定だった難民への物資支援を彼等が行う事で任務は完了。

呆然とする装者やキャロル達にテレポートジェムを渡して帰国させーー切歌の自宅にて執り行われている彼女の望む誕生日パーティーを燃え付きながら見ていた。

 

《………疲れた、マジくそ疲れた………》

 

《拠点多いっての………あんなにあっても使わないだろ………》

 

此処にいる代表数名以外のアルカ・ノイズ達もシャトーで同じように燃え尽きていたが、代表アルカ・ノイズの視覚と共有されている映像から見える光景に誰もがその価値はあったと満足しているだろう。

そこにあったのは笑顔。

とても嬉しそうに、とても楽しそうにいつものーーいや、いつも以上の笑顔を見せる切歌の姿。

此れを見れたのであれば、頑張った甲斐はあったものだ、と誰もが思う中でーー

 

「あ、あの……」

 

その彼女が近づいてくる。

どこか申し訳なさそうにしながら近づいてきてーー彼女は頭を下げた。

 

「えっと………あ、ありがとうデス!!それと……ごめんなさいデス………喜ばせようとしてくれてたのにあんな態度してしまって………本当にごめんなさいデス!!」

 

なんともまぁ彼女らしい言葉にさてどう返答したものかと考えてーーふと、名案を思い付いた。

それはーーー

 

《では、お願いを1つ》

 

「お願い…デスか?何デスか!?どんなお願いでも叶えてみせるデスよ!!」

 

 

 

 

 

 

《笑顔を。貴女の笑顔を見せてください》

 

 

 

 

 

 

「………そんなので、良いんデスか?」

 

《そんなので良いんです。私達は貴女の笑顔を見るために頑張ったのですから》

 

お願いと言うにはささやかなそれに切歌は戸惑いながらもーー笑う。

この日彼等が視た中で最高の笑顔を視た彼は満足げに、彼女を祝う為の言葉を送る。

 

 

 

 

 

 

 

《お誕生日おめでとうございます、暁切歌さん》

 

 

 

 

 

 

「ーーッ!!ありがとうデス!!」

 

 

 

 

 

 

その日、誕生日が終わるその時まで切歌は最後まで笑顔で楽しんでいた。


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