セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第104話

 

「……が……りす…?」

 

≪はい!!ガリスでございますよ、マスター!!≫

 

――セレナは夢を見ているのではないかと現実を疑った。

だって彼女は――死んだのだ。

その身を犠牲に、主を守る為、主の目的を果たす為に、死んだ筈なのだ。

その終わりを…この眼で見たのだ。

だからこそ、これはきっと夢だと思った。

彼女の死を受け入れられない少女が夢見る幸せな夢。

聴こえてくる声も幻聴で、次の瞬間には現実が―――

 

 

 

 

 

≪ふんどっこいせぇッ!!!!≫

 

 

 

 

 

――聴こえて来た女性にあるまじき声と共にその身を襲うは、痛み。

トライデントが器用に一回転し、掛け声と共に頬を殴り飛ばしたのだ。

感じる痛みから手加減は無かったと予測できる。

結構な痛みが襲う頬に手を当てながら呆然としている私に対して――

 

≪ご無礼をお許しくださいマスター、ですが…これでお分かりですよね?≫

 

何を言っているのかを一瞬理解出来なかったが――すぐに彼女の言いたい事が分かった。

頬に感じる痛みが、その答えを知らしてくれたから、分かった。

 

「……げん…じつ……?」

 

≪はい、現実ですよ≫

 

「……いきてる、の?」

 

≪はい、生きてますよ≫

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほんとうに……ガリス、なの?」

 

≪はい、ガリスですよ、マスター≫

 

 

 

 

 

 

 

 

自然と、涙が零れるのが分かった。

悲しみではない、喜びによる涙が、頬を伝っているのが分かった。

つい先程の悲しみを上回る喜びが涙と言う形になって零れていく。

止めようとしても止まらないそれに、けれども流れるのがうれしく感じるそれに、セレナは喜びを露わにしようとするが―――

 

≪正直そこまで喜んでくれるのは嬉しいですが…マスター。今の貴女にはまだやる事がおありでしょう?≫

 

トライデントから聞こえる彼女の声にセレナは思い出した様に顔を挙げる。

そこにあるのは、裂けて、分裂し、今なお落ちる光。

それを見て、セレナは成すべき事を思い出す。

 

≪…お手をお貸ししましょうかマスター?≫

 

聴こえて来たその言葉に思わず笑ってしまう。

そもそも貸す手がないじゃないかと内心ツッコミを入れながら――セレナは立ち上がる。

その動きを、心も、身体も阻まない。

壊れかけたのはもう過去の事。

今の彼女は、立ち上がれる。

彼女の声があるからこそ立ち上がれる。

立って、前を見据えて、歩き、友を救うと言う願いを――

 

「――此処で待っててくださいガリス、すぐに終わらせてきますからッ!!」

 

―――果たせるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響さんッ!!!!未来さんをッ!!!!」

 

叫びに近いその言葉に、立花響は即座に反応してみせる。

今や全身に結晶が出来上がりつつある身体を、痛みで意識が飛びそうになる身体を、歯を噛み砕く程に噛み締めて、最後の力と言わんばかりに小日向未来へ――己がひだまりへと駆ける。

 

「――ッ!!」

 

対する神獣鏡はそれを躱そうとするが、身体が動かない事に気付く。

生命力が低下しているから、と言うのもある。

だがそれでも神獣鏡が計算した数値では今の彼女の動きを躱せる位の余力は在る筈だった。

なのに身体は動かない。

ならばと神獣鏡は迫る響へ攻撃を敢行せんとするも、それもまた動かない。

明らかに可笑しい、そう感じる神獣鏡は――気付く。

 

「――ッ!!」

 

身体の中にある違和感。

それが何であるのかは、すぐに分かった、分かってしまった。

≪小日向未来の精神≫が、目覚めようとしている。

その目覚めかけの精神が、神獣鏡の動きを阻んでいるのだ。

 

≪響を傷付けさせない≫と。

 

「―――――ッ!!!!」

 

神獣鏡の力が弱くなるに連れて彼女に掛けられている洗脳も解除されて行っているのだろう。

故に目覚めた彼女は状況が理解出来なくても、まずそれを選んだ。

自身の親友を、小日向未来にとっての太陽を守る事を選んだのだ。

その選択が、神獣鏡の選択肢を全て奪いとって見せた。

 

「未来ぅぅぅぅぅぅッッッ!!!!!」

 

神獣鏡を、未来の身体を響は抱きしめる。

もう離さないと、絶対に離さないと強く強く抱きしめる。

身動き1つ許さないその力に神獣鏡は抵抗しようとするが――時は既に遅い。

 

上空にあるのは、光。

仮面の少女が己の力である黒い手で空中にあったシャトルマーカーを捕まえ、それを利用して一点に集中させた光が、放たれていた。

迫る光、自身が敵へと放った光。

それが今この身を焼かんと迫ってきている。

その状況に神獣鏡は――終わりだと察した。

どうやっても打開する手段はないと諦め、その諦めがシステムを止めた。

 

「―――――ッ」

 

その瞬間、小日向未来の精神が戻る。

抱きしめられた感触が、自らの太陽の温もりを感じながら迫る光に飲み込まれようとした最後に――

 

「――――――ぁ」

 

≪それ≫は見えた。

光の向こうに居る仮面の少女を、

彼女は気づいていないのかもしれないがその仮面の左目の所が割れている彼女を、

 

 

もう1人の親友と――小さな親友と同じ瞳をした彼女を、見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

海上に無数に浮かぶ破壊された軍艦の上で男は1人ワインを飲みながらその戦いを見守っていた。

落ちる光に焼かれた2人が海に落ちたのを、力を使い果たしたのか同じく海に落ちるセレナを見守りながら、男は拍手を送る。

パチパチと、まるで劇を見終えた観客が送る様に拍手を送った。

 

「――おめでとう。

無事に親友を救えてうれしいよ、ボクは」

 

男にとってそれは間違いなく本音だ。

此処で装者の離脱は男にとって不利益でしかない。

最低でも、キャロルの存在がある以上は男にとって装者は必要である。

 

それに、セレナの見せた成長。

あの腕、そしてガングニール。

間違いなく、彼女は成長していっている。

その成長に男は堪えきれない笑みを浮かべながら拍手を送る。

装者の損失無くその願いを叶えた彼女に、そして成長していく彼女に、惜しみない拍手を送る。

良くやったと、嬉しいよと。

そして――嗤う。

 

 

 

 

 

 

「さあ、始まるよ、もうすぐ。

ボクが用意した第二幕が。

君がそこでどうするのかを、見せてもらうよ、ボクは」

 

 

 

 

 

 

男は笑う。

破壊された軍艦の上で1人笑う。

今から始まるであろう出来事を想像して笑い続けた。

 

 




アダムお兄さんの出番増える……かなぁ?

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