セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第105話

 

≪―――から―――≫

 

意識が覚醒していくのを感じながら、聴こえる声に安堵する。

それは間違いなく彼女の――ガリスの声。

死んでしまったと、失ってしまったと思った彼女の声。

もう聴こえる事のないと思っていたその声をまた聴ける事に喜びながらゆっくりと目を覚まそうとして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ですからッ!!これは応急処置なんです!!治療なんです!!ですから心肺蘇生の為にマスターのお胸に触るのも人工呼吸の為にマスターと接吻するのも治療なんですから邪魔しないでくださいガリス殿ッ!!!≫

 

≪はぁ~ッ!!?ふっざけんなお前ッ!!たかが医療班に所属しているだけのアルカ・ノイズが私のマスターのあの素晴らしい胸に触るぅ?挙句にあの愛らしい唇に人工呼吸だぁ~?――殺す、絶対に殺す。お前顔と名前覚えたからな!!マスターに身体直してもらったら絶対にぶち殺すからな!!!!≫

 

≪そうだそうだッ!!医療班に所属してるからってお前がする必要ないんだぞッ!!!!なんならオレがやるッ!!!!≫

 

≪ふざけるな8803ッ!!!!その役目はオレだ!!オレしかいねぇッ!!!!≫

 

≪ふざけるな32221ッ!!オレは知ってるんだぞ!!お前クリスちゃんのおっぱいが好きだって言ってたよな!?マスターのあの慎ましく愛らしいおっぱいよりもあの脂肪の塊を選んだよな!!?≫

 

≪なッ!!?何故お前がそれを…そ、それを言うなら貴様だってそうだろうが!!!!お前響ちゃんの丁度良いのがベストだって言ってたのをおれ知ってるもんね~!!!!なんなら録音もしてるもんね~!!!!≫

 

≪おまッ!?それはあくまで理想は、て話だ!!てか録音消せやッ!!!!それに確かに理想は響ちゃんだがオレの中での理想以上の最高はやはりマスターのおっぱいに決まってるだろうがッ!!!!だからオレがやる!!オレしかいねぇ!!!!はい論破ぁぁぁぁッッッ!!!!≫

 

≪あ゛?あんたら名前と顔しっかり覚えたからな!!身体戻ったら全員揃って深海送りにしてやるから首洗って待ってろよ!!!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――嗚呼、これはあれですね。

マスターとして、創造主として、1人の女として、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――少しばかり、彼らにはお仕置きの必要が、ありますね―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…とりあえずの状況については把握しました」

 

時間にして数分程度。

大説教大会を終えた後、しょんぼりとしている面々を尻目にセレナは他のアルカ・ノイズより一通りの状況について報告を聞いていた。

あの後、体力を使い果たして気絶したセレナ、光に飲み込まれた響、未来の3名はアルカ・ノイズにより救出。

セレナは此処443の内部へ、2人は二課の潜水艦へ、それぞれ運び込まれた。

同時に敵ノイズ群の出現も停止。

出現していた全ノイズ群の殲滅完了と救助対象の全救助、そしてマスターであるセレナの目的の達成とその身の保護。

アルカ・ノイズに課せられていた全ての目的を達成した事により彼らの独断ではあるがこれ以上の二課との協力体制の必要性を不要と判断し、撤退。

現在は戦場となったエリアよりわずかに離れた後方にてシャトーへと帰還する手筈で準備を進めていたのだが――

 

「……あれが、フロンティア…」

 

彼女の視線の先にある存在――空に浮遊する大陸 ≪フロンティア≫ の存在がそれを阻んだ。

 

 

 

 

≪フロンティア≫

 

 

 

 

櫻井了子ことフィーネが自身の計画の為に密かに発見、研究していたとされるあの空飛ぶ大地は、彼女の残したデータ曰く―――あれは1つの星間航行船らしい。

生憎近代歴史ならばともかく遥か昔の古代歴史を学ぶ機会がなかったセレナからすればあの船がどういった経緯でこの星に存在しているのか、どうしてあんな船が存在しているのかと言った疑問には答えられない。

だが、それでも分かる事も幾つかはある。

元々は海底奥深くにて封印を施され眠って居た事。

その封印を神獣鏡の光が解除してしまった事。

あの船に使われている技術が異端技術の結晶体であると言う事。

そしてその異端技術を独占しようとしているのが、2勢力いる事。

1つはF.I.S.、そしてもう1つは―――米国。

 

「…人類の危機に協力して挑まないといけないのに……ッ」

 

ガリスが手に入れたらしい情報曰く、米国は以前に発生したルナアタック事件によって月の軌道の異変を感知しており、その軌道異変の結果が――いずれ月が地球に衝突すると言う最悪な結末をもたらす事を知った。

月と地球、2つの星が衝突すればどうなるか――誰にでも分かる。

最低でも未曽有の大惨事は確定、2つの星が消滅する可能性だってかなりの割合で…否、ほぼ確定で起きる。

詰まる所この星は―――詰んでいた。

 

本来ならばすぐにこの情報を公開し対処方法を全ての国家協力の元に行うべきだろう。

そうすれば幾つかは対処法が生まれたかもしれない。

だが……米国はこの情報を2つの理由を以て隠匿した。

1つは純粋に情報公開によるパニックを恐れて。

もう1つは――自らが逃げ出す為に。

 

米国の目的はフロンティアの制圧、制御する事にある。

星間航行船と言うこの船の異端技術を使い、地球を捨てて逃げ出す為に。

それはさながらノアの箱舟の様に―――

 

それで全ての人民を救えるのならばまだ問題は無かった。

だが、幾らフロンティアとは言え全ての人民を救う事は不可能。

だからこそ米国は情報を隠匿したのだ。

フロンティアと言う存在を誰に知られる事もなく、選ばれた人だけが救われ多くの人々に事実を知らせないまま最後を迎えさせる為に……

 

そんな事実を知り、抵抗活動を始めた勢力こそF.I.S.から離脱した1人の研究者と3人の装者。

米国より先にフロンティアを制圧し、その異端技術の解明を以て多くの人々を救おうとした者達。

ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、暁切歌、月読調。

世界を敵にし、世界を救おうとした悪であり正義である者達。

彼女達の理想、理念は間違いなく本物だったのだろう。

正義を成す為に悪となる、善悪と言う言葉を彼女達に問うのであれば彼女達こそまさに善と呼べる者達であっただろう。

だが、そこに異物が混ざり込んでしまった。

目的の為に協力を仰いでしまった男――ドクターウェルの存在がその理想を掻き乱した。

悪を被った善と呼べる者達を、本物の悪へと染め上げようとする男を加えてしまった。

 

それこそが、彼女達の最初で最後の間違えた選択だった。

世界を救うと言う目的を果たすのであれば彼女達はこの男を誘うべきではなかった。

そうすれば彼女達は人々に悪だと後ろ指を指されようとも、何かしらの手段を以て世界を救う事が出来たのかもしれない。

多くの人に悪だと言われても、数人の人には善だと言われたかもしれない。

孤高であっても英雄だと呼ばれたかもしれない。

だが……嗚呼だが、それはもう過去の話だ。

 

「……被害は」

 

《……米国の増援艦隊のうち半数が海面に叩き付けられ破壊、現在救助活動を実施しておりますが…生存者の数は少なく……》

 

セレナの視線の先にあるのは、破壊された軍艦。

米国の増援艦隊、出現したフロンティアを奪取しようとした彼らはフロンティアからの攻撃を受けて――艦隊は半壊状態。

残った半数は先に救助していた米国艦隊の指揮官と多国籍艦隊の面々の説得を受けてひとまずは安全圏へと避難しているが……それでも、失われた命は戻らない。

 

――そう、失われてしまったのだ―――

 

恐らく――いや、確実にこの行動を起こしたのはあの男だ。

命を奪う選択肢を選んだのはあの男だ。

だが、それでも――あの男の仲間である以上、その罪は彼女達にも掛かる。

 

故に、そう故に決まった、決まってしまった。

彼女達は正真正銘の悪となってしまった。

人の命を奪った悪となってしまった。

もはや彼女達が世界を救おうとも、もはや彼女達が多くを救おうとも、彼女達に善を見る者はいない。

気分次第で命を奪えるのだと証明してしまった彼女達は――もう、完全なる悪でしかないのだ。

最低でも世界はそう認識する。

人命を奪った彼らを悪だと判断し、その罪を裁くのに一切の手加減を無くすだろう。

 

「―――ッ」

 

…これだけは止めたかった。

誰の命も失う事なく終わりを迎えたかった。

それが希望と呼べる物でさえない程に弱弱しい可能性だと知っていたも、その未来を望んでいた。

そうすればあの子達に…あの優しい子達に掛かる罪は少なく済んだのに……

 

――故に、怒りが沸いた。

この事態を引き起こした者達への怒りが、そのきっかけを作った者達への怒りが、あの優しい子達に悪を押し付けた大人へと怒りが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクターウェルと、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、そして今はまだ顔さえも分からないナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤへと、怒りと抱いた。

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにセレナノイズの被害は命令通りゼロです(負傷兵はいる)

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