セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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リアル仕事が忙しい…
更新遅れがちで本当にごめんなさい…(土下座)


第110話

 

「呆けるな月読ッ!!」

 

振り下ろされる刃。

それが幼い少女の命を刈り取る直前に、その命を抱えて後方に飛び退いたのは――風鳴翼。

飛び退くと同時に向けるは千ノ落涙。

空に出現した無数の剣が目の前に君臨している≪化物≫へと降り注ぐ。

対する化物は己に降り注ぐ無数の剣を見据えて鎌を握り――動いた。

 

≪ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!≫

 

咆哮と共に高速に動くは6つの腕と6つの鎌。

迫り来る無数の剣の尽くを打ち払い、迎撃していく。

その様子を舌打ちしながら見ていた翼は降り注ぐ無数の剣の中に混ざるように1つの巨大な剣を生成し、それを討ち放つと同時に傍に置いてあったバイクに跨り、勢いよく駆ける。

向かう先は化物――ではなく、化物から距離を取る様に逆へ逆へと逃げる。

 

「ま、待って!!きりちゃんが…きりちゃんがあそこにッ!!」

 

抱き抱えた月読が抵抗する様に揺れ動くが、その力は弱い。

腹部に受けた傷と、そこから流れ出る血液が彼女の体力を奪い獲っている証拠だ。

幸い、ギアの防護機能が生きているおかげで出血量に対して傷口がそこまで深くはない。

だからと言って油断が出来る状態ではないのは明白。

すぐに治療を受けさせる必要がある、それ故の――撤退であった。

 

「――ッ!!今はお前の治療が優先だ!!」

 

風鳴翼はこの場において何が起きたのかをある程度は知っていた。

緒川が念の為にと月読調に仕掛けておいた盗聴器と二課の衛星映像等を使ったバックアップのおかげで2人の会話を、黒いLINKERの存在を、そして――その黒いLINKERによって化物へと変貌した暁切歌の事も。

しかしと翼はバイクをフルスロットルで駆けながらも後ろを振り返る。

 

其処に居たのは放った全ての剣を打ち落とし、此方を見失ったのか周囲を見渡している化物の姿。

荒く息を吐きながら獲物を探す様に見渡すその姿はさながら野生の獣と言えば良いだろうか。

知性を一切感じられない獣染みた行動、人のそれとは懸け離れた異形の姿、とてもではないがその正体が暁切歌と言う少女であったと信じられる物ではなかった。

何かの間違いであると言う可能性も決してゼロではない。

だがこの現状において最も高い可能性は――あれの正体が暁切歌であると言う事実だった。

 

「(とにかく月読の治療を優先だ…幸いあいつは此方を見失っている、これならば――)」

 

逃げ切れると、そう思った瞬間。

背後から聴こえたのは――何かが駆ける鈍く重い音。

それはさながら鉄の馬が走っている様だと翼は思った。

まさか、確認する様に背後を再度振り返ったの彼女の視界に映ったのは――

 

≪ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!≫

 

全速力のバイクに追い付かんばかりの速度で迫る暁切歌であった化物の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………な、によ…これ……」

 

理解が追い付かないとはまさにこの事を差す言葉だろう。

フロンティア内部にあるブリッチ、そこで正体を現したドクターウェルの歪んだ理想。

その前では自らの力など弱弱しい物でしかないと知ってしまったマリアはただそこで泣いていた。

己の不甲斐なさを、己の覚悟の甘さを、己を突き進んだ道の間違いを、

襲い来る無数の後悔に涙するマリアであったが、そんなマリアを更に追い込んだのが――

 

切歌と調の敵対、そして切歌の――異形化。

 

あれが本当に切歌なのか、理解が追い付かないままにただ呆然と映像を眺めていたマリアだったが、すぐに立ち上がり向かおうとする。

あの場所へ2人の元へ、行かなければと。

なれどその想いはあっさりと崩れ去る。

 

扉が、閉まっていたのだ。

鍵穴もなく、ドアノブさえもないその扉は一切出る事も入る事も許さないと言わんばかりに閉まったまま沈黙している。

どうして、困惑する想いでマリアは拳を扉へと撃ち付ける。

何度も何度も、開けと願いを込めて――

 

なれどその願いに扉は答えない。

開く気配さえ見せないその扉を前に、マリアはただ座り込むしか出来なかった。

己の血で赤く染まった両手を胸に、子供の様に泣きじゃくるしか出来る事のない己の不甲斐なさにただ涙を流すしかなかった。

 

「…どう…して……どうして……こんな…事に……」

 

こんな筈ではなかった。

一部の人だけが助かり、残りの多くは切り捨てられる。

そんな救いを間違いだと思って、1人でも多くの人を助ける為にこの道を選んだのに――

辿り着いたのは、あまりにも愚かな結末。

ドクターウェルの暴走、切歌と調の敵対、そして切歌の異形化。

もはや何が起きているのかさえも分からないこの現状こそが、望んだ結末だっただろうか?

 

――否、否だ。

このような結末、誰も望んでいなかった。

いなかったのに…どうして―――

 

「セレナ…ねえどうしたら良いの……セレナぁ……」

 

愚かなマリアはただ泣いた。

何も出来ない己に、愚かな自身に、ただ涙を流す事しか出来なかった。

答えの出ぬ問いを繰り返す様に呟きながら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

純粋な機動力だけであれば翼のバイクは背後から迫る化物のそれを上回っていた。

普通に競争すれば確実に勝つのはバイク、と言える位の差があるからだ。

だが、そんな差があるのにも関わらず、化物とバイクの距離は離れる事無くむしろ近づいて行っていた。

その理由は―――

 

≪ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!≫

 

咆哮と共に穿つは6つの鎌。

鎌から解き放たれる様に撃ち出された命を刈り取る刃が翼の乗るバイクを、そしてバイク前方の道を阻む様にそれぞれ飛んでくる。

 

「――ッ!!」

 

対する翼はバイクを器用に乗りこなし、迫る刃も前を塞がんとする刃も躱して見せる。

だが、その時にどうしてもバイクは左右に揺れ動き、速度が必然と低下してしまう。

それこそがこの距離差の原因だった。

どうにか距離を取りたい翼、なれどそれを阻止して距離を埋めてくる化物。

このまま平行線を辿れば、最後はどうなるか一目瞭然。

何かしらの打開策が必要だった。

 

「だがどうすれば……」

 

自身はバイクの運転をする必要がありまともな攻撃は不可能に近い。

月読は傷口の問題もあり、到底ではないが戦闘行為は不可能。

クリスへ救援を要請すると言う手もあるが、彼女は今フロンティア内部へ侵入中であり、呼び戻すのに時間も必要の上、当初の計画を崩すわけにもいかないから不可能。

 

「立花に―――いや…」

 

そうだったと己が思い浮かべた考えを翼は振り払う。

彼女に――立花に頼るわけにはいかない。

彼女はもう十分に戦った…十分すぎるまでに戦ったのだ。

その戦いの果てに彼女はガングニールを、戦う力を失った。

もう彼女には戦う力はない、以前の様に共に戦場を駆ける事は出来ないんだ…

 

――それでも立花は…彼女は必ず頼れば力に成ろうとする。

どんな事でも必死に動き、己の事など考えずに―――

だからこそ、頼れない。

十分に戦い傷ついた彼女がこれ以上傷つかない為にも、そしてこれからは私が立花を守る為にも――

 

「…しかしどうする……」

 

だが状況を打破できる策がないのも事実。

考えられる策全てにおいて人員不足、または月読の存在が邪魔をしてしまっていた。

 

「月読を避難させるだけの時間さえあれば――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でしたらぁ、その役目は英雄たる僕が受けてあげましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聴こえて来たその声が誰の物であるのか、その正体を理解する前に周囲に照射された光から生まれた無数のノイズ達。

それらは翼達に向かう事なく、全てが彼女達を追いかける化物――切歌だったモノに襲い掛かった。

 

「――なッ!?」

 

狙いを翼から迫るノイズに切り替えた化物とノイズとの戦いの火蓋が切って落とされたのを確認した翼は目に映る光景に驚愕しながらも、光が放たれた先へと視線を向ける。

其処に居たのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあどうも♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑顔でソロモンの杖を握るドクターウェルの姿だった。

 


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