セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
仕事忙しいデス…ハードです…
けど頑張ります!!
≪暁切歌デス!!よろしくデス!!≫
――初めて切ちゃんに出会った時、眩しいと思った。
白い孤児院の生活、それは恐怖に震える毎日だった。
激しい訓練と苦痛を強いられる投薬、そして時折起きる大人による不条理な暴力。
彼らの気分1つでその日の食事も無く、暴力を振るわれ、寒い反省部屋で寝かされる。
児童虐待、なんて言葉が可愛い程に過酷なそれらが此処では当たり前にあった。
なれどその事実に誰も口を挟む人はいない、だってそれこそ此処でのルールだから。
彼らにとって必要なのはフィーネを受け入れる為の器になりうる子供だけ。
その候補に上がりもしない子供なんて、彼等からすれば単なるおまけでしかなかった。
だから、なにも遠慮しない。
訓練で死のうが、薬で身体を壊そうが、《気紛れ》でどうなろうが、どうでもいいから。
そんな環境で子供達は生き残ろうとしてーー己を殺す。
大人達からの怒りを買わない様に、己を殺し、大人の言われるままに動く人形になろうとする。
そうすれば飢えに苦しむ事も、暴力に怯える事も、寒さに震える事もない。
それが此処での子供達が生み出した己を守る為の手段だった。
だけど、切ちゃんは違った。
不条理な大人達に真っ向から立ち向かって、そのせいで食事を無しにされようが、暴力を振るわれようが、寒い反省部屋で寝かされようが、己を殺さなかった。
いつも笑顔で、いつも眩しくて、いつも誰かの為に動ける優しい心を持っていて――
そんな切ちゃんに――私は救われていた。
《しらべしらべ!これあげるデス!ささっと食べちゃうデスよ!!》
お腹が空いているのに自分のご飯を私に譲ってくれた事。
《アタシが悪いんデス!!アタシが悪いから殴るならアタシを殴るデス!!》
切ちゃんは何も悪くないのに、私の為に庇ってくれた事。
《しーらーべ♪来ちゃいました!》
反省部屋に自ら来て、寒い部屋の中で一緒に暖まり合う様に引っ付いて寝た事。
全て、全て覚えている。
切ちゃんがしてくれた事、切ちゃんの優しさを全て覚えている。
その優しさがあったからこそ私は今日まで生きてこれた。
あの辛い白い孤児院生活を生き延びる事も、マリアやセレナ、そして大人達の中にも優しい人がいると教えてくれたマムと出逢えた事も、
切ちゃんが居たからこそ、切ちゃんがくれた優しさが合ったからこそだ。
だからいつか恩返しがしたいと思った。
切ちゃんがくれた全てに恩返ししたいって。
切ちゃんがくれた幸せを、今度は私が切ちゃんにあげたいって。
だからーー私は後悔なんてしてないよ。
切ちゃんにやっと恩返しが出来たんだから、
切ちゃんに貰った沢山の物を返す事が出来たから――――。
「(…嗚呼、けど……)
秋桜祭で食べたクレープ、あれもう一度食べたかったなぁ。
切ちゃんと…お姉さんとで………もう………いち………ど………………
「…………よみ……ッ………つ………み………ッ!!」
誰かの叫び声、それがアタシの意識を目覚めさせる。
何が起きたのか、理解できぬままに腕を動かしてーー驚愕する。
そこにあったのは見慣れた腕ではなく、厳つい腕。
それも6つときた。
腕だけではない、己の身体さえも普段の当たり前の姿とは別物に成り代わっている。
己の身体に起きた異変にどうなっているんデスか!?と思わず叫んでしまいそうになりながらも周囲を見渡す。
何が起きたのかを少しでも理解する為に、情報を求めて視線を動かして――≪それ≫を見た。
周囲を埋め尽くすは、灰の山。
風に揺らぎ、空を舞う灰は何処か神秘的な光景に見える。
そんな灰に混ざる様に大地を削り抉る様に切り裂かれた傷跡が幾つも確認できた。
灰の山に、戦闘痕らしき傷跡。
それらが証拠となって暁切歌に理解させた。
この場で激しい戦闘が起きたのだと、多くのノイズが討ち倒されたのだと理解させた。
なれど、今の彼女にとってそれはどうでも良い事実でしかない。
今の彼女の瞳の先にあるのは、彼女の心を掴んでいたのは―――
「月読ッ!!しっかりしろ!!月読ッッ!!!!」
――灰の中にある≪赤色≫
黒い灰の中に存在するその色が、まるで黒い絵の具に赤色をぶちまけた様なその光景が、
その中心で風鳴翼の腕に抱かれている人物が、力無く倒れる少女の姿が、暁切歌を捕らえて離さない。
≪――シーーラーーベ?≫
――どうして?
暁切歌の脳裏にある言葉はただそれだけだった。
どうしてこんな事になっているのか、何故調があんなに元気を無くしているのか。
理解出来ない現実、それを前に無力でしかない切歌はただ呆然と歩み寄るしか出来なかった。
≪――シ―――ラベ?≫
歩み寄る度に近づいていく距離。
距離を縮めるに合わせて見えてくる彼女の姿。
それは切歌の知るどの姿とも異なっていた。
いつも繋いでいた腕は力なく揺れ、いつも切ちゃんと呼んでくれた口からは血液が流れ落ちている。
見えてくる光景が、見えてくる姿が、最悪な可能性を何度も何度も浮かび上がり警告してくる。
視るべきではない、知るべきではない、と。
なれど脚は留まる事を知らない。
前へ前へと、彼女の元へ――大好きな調の元へと、向かう。
「――ッ!!」
背後より迫る存在にやっと気づいた風鳴翼が剣を構える。
その眼から涙を零しながら、腕に抱えた調を守る様に抱き抱え、剣を構える彼女に対し切歌は何もせずにただ歩み寄った。
腕を動かせばすぐに当たる近距離、そこまで接近した切歌はただ呆然と翼の腕に抱かれた己の親友を――家族を見つめる。
≪シラ――――≫
――続く言葉は出なかった。
切歌は思っていた。
呼びかければいつも通りの返答が帰って来ると、いつも通りの光景がそこにある、と。
そう信じていた彼女の言葉は止まる、止めざるを得なくなる。
その瞳が、その心が――
青ざめた肌の、瞳に光を宿していない月読調を捉えたから。
きりしらきりしら