セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

122 / 166
第113話

 

《………シ………ラベ………?》

 

切歌の声は震えていた。

眼の前にある≪現実≫に、認めたくない≪現実≫に、怯えながらも絞り出した声は、震えていた。

あり得ないと、何かの間違いだと。

これは悪い夢か何かできっとすぐに目を覚まして終わるのだと。

そんな想いを抱きながら、暁切歌は豹変してしまった己の腕を伸ばす。

自身が知る姿と掛け離れた己の腕を、伸ばす。

 

これは夢だから、触れる筈がないと。

何も掴む事無く終わるのだと、そう信じて手を伸ばす。

なれど――伸ばしたその手は触れた。

風鳴翼の腕に抱かれた月読調に、力無く垂れるその手に、優しく触れた。

手の先から感じるいつもの月読調の感触が、体温を失っていくその手の感触が――

 

少女が抱いていた淡い期待を呆気なく打ち壊した。

 

≪……ァ…ァァ………≫

 

少女は理解する、させられる。

眼の前にある≪現実≫に、まだ幼い彼女には重すぎる≪現実≫に、

――月読調の、大好きな家族の死と言う≪現実≫を、理解させられた。

 

 

 

 

 

≪……ァ…ァァ……アアアアアァァァァァァァァァッッッ!!!!!≫

 

 

 

 

 

 

少女の叫びが灰に満ちた戦場に木霊する。

大事な存在を、大事な人を失った悲しみを、その死を救ってあげられなかった後悔を、

全て、全て声と涙に形を変えてさらけ出していく。

 

「―――ッ」

 

翼はその叫び声を悲痛な面持ちで聞いていた。

この場において月読調の死を回避する事が可能だった人物は、間違いなく彼女だ。

あの時、迷う事なく彼女の命を優先すればこうはならなかった。

二課で治療を受ければきっと回復していただろう。

 

――眼の前で泣き叫び、悲しむ少女の死を対価にして――

 

あの場において翼に与えられた選択はどちらかだったのだ。

月読調か暁切歌、そのどちらかの命しか、あの場において救えなかった。

それを調は察していたのだろう。

だからこそその命の選択を、自らが生き残れるであろう選択を投げ捨て、自ら飛び込んだのだ。

あの戦場に、自らの死が待つ戦場に。

 

≪ア…ァァ…アアアァ……≫

 

悲しい咆哮は鳴りやまない。

暁切歌の幼い心から溢れ出る感情を流し、叫び、止まらない。

――今この瞬間でさえも月の落下は継続し、フロンティアの上昇も続いている。

脚を止める時間など、誰かの死に涙する時間など、どちらにもない。

なれど、翼には彼女の涙を止める事が出来なかった。

 

理解出来るから。

大事な人を失う喪失感や悲しみを風鳴翼は≪知っている≫から。

故に彼女はただ眺める事しか出来なかった。

大事な人を失った少女の嘆きを、ただ眺める事しか――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪―――ダレ……≫

 

「……?」

 

そんな翼の耳に聞こえたのは切歌の口から零れた僅かな声。

それが何であるのかを問おうとした翼であったが――留まる。

否、思い留まるしかなかった。

何故なら、そこにあったのは――――

 

 

 

 

 

 

ダレガッ!!!!シラベヲコンナメニアワセタンデスカッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

零した涙の代わりに溢れる血涙と、鬼気迫る表情。

そこにあったのはただ≪怒り≫だけだった。

月読調の命を奪った者へ対する怒り。

それこそが、全てを泣き出した彼女に残された唯一の感情だった。

 

「―――それは」

 

切歌の叫びに近い問いに翼は真実を答えるべきか迷う。

今の暁切歌に、復讐と怒りに身を染めている彼女に伝えるべきか、その道を進んでしまった先駆者として、迷う。

今この瞬間、もしも真実を伝えれば彼女は間違いなくドクターウェルを殺しに行くだろう。

胸に込み上げる感情を力に変えて、親友の敵討ちを果たすだろう。

その想いは翼には十分に理解出来る。

彼女とて立花響に出会うまでは、奏が死ぬ原因となったノイズに復讐してやるとずっと思っていた。

――そんな事を奏が望んでいないと知っていながら。

だからこそ翼は迷い、そして決める。

 

「(この子を同じ道に引き込んではいけないッ!!)」

 

同じ悲しみを知る者として、その道を進んでしまった者として、翼は口を開く。

何とか説得しようとして、言葉を選びながら口を開く。

なれどその言葉は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決まってるじゃないですかぁ!!!!貴女の大事な親友を、貴女の家族を殺したのはぁ―――!!他の誰でもない、そこにいる風鳴翼ですよぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如聞こえた男の声に――ドクターウェルの叫び声に、阻まれた。

 




うちのウェル博士、原作よりクズいんですけど…(困惑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。