セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
やっぱりやるならなにも問題なくやりたいですからね!!
さあ、その為にも延期公演のチケットを当てなきゃ(白眼)
――少し時間を遡る――
昇る、昇る、昇る。
高速で上昇し続ける景色に、見慣れた地表が遠のいていく景色に、目が慣れたのは何時だったか。
襲い掛かるGの耐圧に耐えながらもセレナは――1体のアルカ・ノイズの背にしがみ付きながらただひたすらに空を昇っていた。
眼下に存在するフロンティア、その真上へと―――
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≪空からの偵察ドローン破壊されました≫
≪海上方面でも同様です、やはりフロンティアの防護機能がある限りは上陸は難しいかと≫
「…そう、ですか」
アルカ・ノイズからの報告を聴きながら、セレナは内心では焦っていた。
先程感じた嫌な感覚、それが告げているのだ。
あそこで今何か起きてはいけない事が起きていると、
そしてこのまま放置してしまえば、最悪の形で終わってしまう、と。
故に、セレナはフロンティアへの侵入を急いでいた。
あそこへ行かないといけない、そう思わせる自身の中にある≪何か≫に従って――
だが、フロンティア侵入は困難を極めていた。
フロンティアに施された防衛設備による鉄壁の防衛網。
海上、そして空からの侵入は件の重力を操作する装置が侵入しようとする敵を全てぺちゃんこにしてしまう。
海上に浮かぶ救えなかった艦艇や、空にいた報道ヘリだった物がその証拠だ。
報道ヘリ、その言葉に少し前に起きた出来事が脳裏に浮かぶ。
どう見ても戦闘区域でしかない場所に、一般のヘリが侵入し、挙句に報道し始めた聞いた時は大変驚かされた。
ガリス曰く「遠回しの自殺ですかねぇ」な行動は当然ドクターの眼にも入ったのだろう。
即座に防衛設備が報道ヘリもろともペッチャンコにしようとした瞬間に、間一髪で救助出来たのは本当に不幸中の幸いだった。
今は諜報班による催眠での記憶操作を受けている最中で、それが終わり次第陸地へと転送される予定だ。
「…さて、どうしましょうか」
助けられた人命に安堵しながらもセレナは考える。
海上、空にはフロンティアの防衛設備があるから並大抵の手段では突破は不可能。
更にセレナ側の戦力は既に8割が撤退を終えている状態で残存戦力はそれほどいない。
それに、仮に今この場に全ての戦力が居た所で状況にさほどの変化はないだろう。
この状況下で考えられる作戦――それは全勢力を投入した強行突破策だろう。
いくら鉄壁の防衛網と言ってもそれには限度がある。
総勢力を以て攻撃を仕掛ければ恐らくは突破は可能だろう―――多くの犠牲を払えば、だが――
アルカ・ノイズが――家族が死んでしまう、ガリスを失いかけたあの経験が、あの喪失感がセレナから自然と犠牲を払う選択を奪っていく。
いずれは限界が来る、そう理解しながらも―――
だが、それならどうする。
あの鉄壁の防衛網を突破し、フロンティアへ辿り付くにはどうすれば良い。
防錆設備がある限り海上、空からの侵入は犠牲を絶対に必要とする。
その犠牲を許せないのであれば既に手段はないに等しい。
それでも…そう、それでも、セレナは考えるのを止めない。
止まりそうになる思考を無理やり動かして、考え続ける。
誰も犠牲を必要とせずに、そして目的を果たす、そんな理想的な作戦を考える。
「(何か…何かある筈なんです…!!何かがッ!!)」
セレナは必死に考える。
多くあった選択肢を削り、残された少ない選択肢さえも削りながら、それでも必死に考える。
思考に使う時間さえ惜しみながら、胸から込み上げる≪何か≫に急かされながら、
しかし、それでも作戦が浮かばなかった。
セレナがいくら必死に考えても理想な作戦が思い浮かばずにいた
それでもなおセレナは足掻く様に思考を止めない。
必ずある筈だと、止めない。
だが、その間にも時間は過ぎていく。
このままでは全てが最悪な形で終わってしまう。
フロンティアで起きている最悪な事態も、そして地球に落ちてくる月も―――――
「―――――ぁ」
≪月≫
その単語に釣られる様にセレナは空を見上げる。
ドクターウェルの暴走で地球に迫りつつある月を、その先にある星々の海を見上げて―――
―――1つの奇策に辿り付いた。
「た、大気圏外からの降下作戦ですかッ!!?」
セレナから伝えられた作戦内容に思わずガリスは叫んでしまっていた。
無理もない、そんな作戦今の所アニメやゲーム、映画と言ったフィクションでしか実践されていない無茶極まりない作戦であるからだ。
ガリスの反応は始めから予想出来ていたのだろう、何とかガリスを宥めてからセレナの口から詳しい作戦内容が発表されていく。
現段階で判明しているフロンティアに施された防衛設備の効果範囲は極めて広い。
フロンティアからすれば真下である海上、横と上側である空、これを広範囲に渡って攻撃可能ときた。
これを突破するのは難しいのは誰の目にも明らか。
――ならば、更に上からはどうだろう。
遥か上から――宇宙からならば――
「敵の…ドクターウェルの眼は恐らくはフロンティアで戦っている二課の皆さんと、今もなお海上で待機している米国艦隊に向けられている筈です。彼にとって目前に迫る脅威は二課ですが、米国艦隊も無視できる存在ではないですから、必ずこの2つを警戒している筈です。だから―――」
「…その不意を打つ為に、目が向けられていないであろう空から――宇宙からの大気圏外降下作戦、ですか」
セレナの話す作戦にガリスは一定の理解を示す。
セレナの話す通り、ドクターウェルにとって最も警戒すべきはフロンティアに上陸している二課で、その次に警戒するのが今なおフロンティア奪取と言う任務を果たす為にあれやこれやと手を打っている米国艦隊だろう。
確かに米国艦隊の持つ火器はノイズにはほとんど効果がない。
全火力を集中して数体倒せたら良いね、位のレベルだ。
そんな連中を警戒する必要があるか?と言われたら、無いだろう。
ただしそれはあくまで≪彼らだけ≫の場合だ。
仮に二課とこの米国艦隊が手を組んだとすればどうなる?
ノイズを倒す事が出来るシンフォギアを持つ装者3名を有する二課、圧倒的火力と兵力を有する米国艦隊。
この2つが協力すれば――それは間違いなくウェルにとって望まぬ強敵となるのは間違いない。
だからこそウェルは米国艦隊をフロンティアに上陸させまいとしている。
どこか演技染みた攻撃で米国艦隊を攻撃したのも、残った艦隊に警戒させる為だ。
≪近づけばこうなる≫と、アピールして近寄らせない為だ、
だが米国艦隊も任務でここに居る。
フロンティアの奪取、その任務を果たす為ならば彼らは間違いなくフロンティア上陸を目指すだろう。
そんな彼らが仮に何かしらの手段で上陸したとなれば先程の二課との協力作戦の可能性は多いに高まる。
だからこそウェルは警戒し、その動きを監視している筈だ。
ウェルも所詮は人間だ。
この2つの勢力を監視している限り、その他の部分は疎かになっている可能性は十分にある。
これならばセレナの言う通りに真上、それも空からの奇襲に気付けない可能性も高く、無事に上陸出来るかもしれない。
だが、それはあくまで≪可能性≫でしかない。
もしかしたらウェルの眼は宇宙まで向いているやもしれない。
もしかしたら彼の警戒に米国艦隊が入っていないかもしれない。
もしかしたら此方が把握していない他の防衛設備があり、それが牙を剥いてくるかもしれない。
少しアクシデントが起きてば瞬く間に崩壊する、そんな危険な可能性の上に存在するこの作戦。
ーーはっきり言ってガリスは反対だった。
この作戦の要は奇襲だ。
ドクターウェルにその存在を気付かれずに、防衛設備を起動させずに、フロンティアへ侵入する。
そうなると必然的に少数メンバーでの作戦になる。
少数での作戦、それだといざと言う時にマスターを守れる人が少なく、マスターの身に危険が及ぶ可能性が十分に高くなる。
そんな危険性を孕んだ作戦を承認する事が出来るわけがない。
それこそガリスの嘘偽りない本音だ。
しかし、同時に理解もしていた。
作戦を語る時に見たマスターの瞳………あれは一度決めた事を絶対に崩さない時にする瞳だった、と。
あれをしたマスターに何を言っても無駄だ。
絶対にマスターは引かない、何があっても作戦を実行するだろうし、そもそもこの作戦だって1人で行こうとしているのは確定だろう。
犠牲を出さずに作戦を果たす、その為ならばこの人はーー優しいマスターならば絶対にそうする。
それをこの数日で痛い程に痛感させられたガリスは小さくため息を吐いた。
仕方がない、と。
「――分かりましたよマスター。ですが1つだけ提案があります」
「…?提案、ですか?」
ええ、提案ですよとガリスは微笑む。
自身の主の性格を痛感させられた従者は微笑んだまま―――
「1人で行くのは無しですよ。どうしてもって言うならあの時に約束した≪我儘≫、此処で使わせてもらいますね♪」
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≪マスターッ!!大丈夫ですか!?≫
聴こえて来たアルカ・ノイズの声にセレナの思考が戻る。
アルカ・ノイズの位相差障壁を改造して作られた対重力緩和バリア、そして自らが身に纏うシンフォギア、アガートラーム。
この2つのおかげで本来ならば人の身では耐えられる筈のない重力から身を守りながら高度を昇り続けていたセレナであったが、その影響を完全に無効化しているわけではない。
その影響だろう、一時的に気を失っていたのだと理解し、呆然とする頭をしっかりさせる様に幾度か振るった後でセレナは口を開く。
「私は大丈夫です!!それよりも――」
目標高度を目指して、そう続けようとした言葉が止まる、止まってしまう。
何故なら――彼女の目に映る神秘的な光景がそれを押し止めたからだ。
今彼女が居る高度こそ目標高度である300km、アルカ・ノイズ、そしてシンフォギアの力が無くては生身で到達する事が叶わない其処に今彼女はいる。
其処から見える光景は――空と宇宙を狭間を越えて先だからこそ見えるその光景は、セレナから一時的にすべての悩みを奪い獲った。
シンフォギアも、錬金術も、フロンティアも、師匠の事も、全てを忘れてしまいそうになる位に――
ずっと見ていたい、思わずそう願ってしまう偉大な景色を前に、セレナは意識を取り戻す様に頬を軽く叩いて気合を入れ直し、下を見る。
此処からだと小さく見えるフロンティアに、今から向かう戦場を見下ろしてから、セレナは周囲を見渡す。
其処にはガリスを始め少数のアルカ・ノイズの姿があった。
その数30名弱、だが彼らはフロンティアへ上陸しない。
彼らの目的は此方の知りえない防衛設備があった場合の対応だけであり、防衛設備が無いと確認されたらそのまま443へと帰還する手筈となっている。
フロンティアへ侵入してしまえば装者達の戦いに巻き込まれるのは間違いない。
それから逃れる為の手段としてセレナが指示したのだ。
それ故に実質的な上陸部隊は――セレナとガリスの両名のみ。
「…あの、あのねガリスーーー」
「此処まで来ておいて帰れ、は無しでお願いしますよマスター」
有無を言わさぬガリスの言葉にセレナは押し黙るしかなかった。
ーー本音を言えばガリスを連れて行くのは反対だった。
今の彼女は予備躯体で何とか動いている状態で不具合が生じる可能性も高く、また発揮できる実力も従来の三分の一程度だ。
この状態での戦闘行為を始めとする激しい行動は極めて危険であるのはだれの目にも明らかだった。
それらの理由がガリスを連れてきたくなかった理由でもあるのだが……一番の理由としてはやはり――先の一件を思い出してしまうからだ。
セレナを守る為に命を投げ捨てようとした彼女の姿を―――
あの時は運良く助かったが、二度目もそうなる確証はない。
付いてくる絶対条件として二度とああいう事はしないと約束させたが、それでも怖いのだ。
失うかもしれない、またあの喪失感と恐怖を経験してしまうかもしれない、と。
だからこそセレナは本音を言えばガリスに来てほしくなかった。
もうあんな経験をしたくない為に、そして自分なんかの為に命を投げ捨てる様な行動をさせない為に。
けれども、彼女は来た。
≪我儘≫を理由に、付いて来た。
断る事も出来たのに、けれどもどうしてかそれを口にする事は出来なかった。
その理由は――理解出来ていた。
――怖いのだ――
いくらセレナが優秀な錬金術師でも、いくらノイズと戦う力を持つシンフォギアを使える装者でも、
所詮彼女は――年端もいかない少女なのだ。
本来ならば戦場なんかとは無縁の生活を、学園に通い、勉学をし、遊び、青春をする、そんな普通の生活をする子供でしかないのだ。
そんな彼女が今まで戦ってこれたのは心のどこかで安心していたからだ。
≪自分が頑張れば誰も傷つかない≫と。
けれどもその安心は崩された。
未遂とは言えガリスの死を、家族の死を経験してしまった彼女の心にあったその安心は無くなり、それに拍車を立てる様に自身の身体に起きた様々な異変が彼女に不安を募らせる。
安心の崩壊、不安の加速、その2つがセレナに遅すぎる恐怖を――戦場の恐怖を教えてしまったのだ。
だからこそセレナはガリスが付いて来ると言った時に、間違いなく本心から付いてくる事に反対しつつも――心のどこかで安堵していた。
あそこへ、戦場へ1人で向かわなくても済む、と。
セレナの幼く弱い心がそう思ったのも――間違いない事実だ。
それ故にセレナは挟まれる様な想いでここにいた。
ガリスを死なせたくないから帰還させたいと願う心と、1人にしないでほしいと願う弱い心の2つに。
けれどもセレナはそんな心境を誰にも知られない様に振る舞う。
自分の不安を伝えたら作戦に影響が出ると、耐えて振る舞う。
2つの想いに挟まれ、悲鳴を挙げそうになる心を殺しながら、セレナは作戦の指揮をする。
1人の指揮官として振る舞う事でその不安を忘れようとして―――
「――マスター」
そんな折にガリスの声が聞こえた。
その声に、2つの想いが強く反応し、胸の中で渦巻いていると理解しながらもセレナは笑顔を浮かべる。
いつも通りの笑顔を、いつも通りのセレナの表情を、浮かべる。
「ど、どうしたのガリ――――」
軽い衝撃と共に全身を冷たい感触が――ガリスが抱き着いてきた感触が全身を包む。
突然の行動に思わず挙動不審になりながらも言葉を続けようとして―――
「マスター、我慢しないでください」
――その一言がセレナの全ての行動を奪い去った。