セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第125話

 

――その結論に至るまでにさほどの時間を必要としなかった。

あの場において戦闘能力がある人材。

フィーネの言う計画に必要不可欠な人材。

それを差し引いていき、最後にある条件を加えると結論が出てしまうからだ。

そう、最後の条件――フィーネにとって万が一の場合失っても良い人材と言う条件を、だ。

 

「…ああ、ほんっとうに最悪な気分」

 

異形と化し、暴走しているマスターに刃を向ける。

それだけで憂鬱な気分になると言うのに、極めつけは《こいつ》だ。

地面に倒れ伏す《化物》。

私からすればどうなっても構わない存在だが、フィーネ曰くこいつも計画に必要不可欠らしい。

なので仕方なく…本当に心底仕方なく庇った。

マスターに牙を向けた、その時点で数万回殺し尽くしても足りない位に嫌悪感と殺意を漲らせるこいつを、だ。

 

「……偶然を装って殺しても良いんじゃないかしら?こいつ」

 

《ダメに決まっているでしょ》

 

耳に掛けた通信機。

マスターから頂いている物とは異なるそれから聞こえる声にウンザリとする。

お前本当に地獄耳だなと。

 

「別に良いじゃない、アンタに必要でも私には欠片も必要じゃないもの」

 

《…そう、そこまで言うなら私は止めないわよ。ただし《アレ》に取り込まれている貴女のマスターとやらを助けると言う約束も反故にさせてもらうけど》

 

――くそばばぁめ。

彼女の語る脅し、それはガリスに逆らう気力を無くさせるのに十分過ぎる程に的確だった。

思いっきり聞こえる様に盛大に舌打ちをかましてやりながら、ガリスはトライデントを構える。

本来ならばその武器を捧げるべき御方に、己のマスターに、愛すべき家族に、向ける。

 

「(……マスター)」

 

自身の主に武器を向ける…それは本来あってはならない出来事だ。

この武器も、この身も、全てはマスターの為に捧げる。

その為に私は生まれてきたのだ。

オートスコアラーとしてマスターの敵を排除し、マスターを救う為に喜んでこの命を捨てる。

それこそが《私》に与えられた存在意義――だった。

 

なのにどうだろう。

目覚めた時に天使の様な笑顔で迎え入れてくれて、

この身には勿体ない程に暖かく、優しい時間を過ごさせてくれて、

その中であの人は多くのものをくれた。

多くの優しさを、多くの幸せを、勿体ない程たくさんくれた。

《兵器》としてではない、《家族》としての笑顔に満ち溢れた日常を、くれたのだ。

 

だからこそその御方に武器を向ける、その行為に躊躇がないと言えば嘘になる。

今すぐにトライデントを下ろしてしまいたい、そう思う気持ちの方が圧倒的に強く、無意識に体はその考えに従うとしている程だ。

だけど――その気持ちを封じてトライデントを向ける。

それが罪であると理解しながらも、ガリスは決意する。

例えこの身が罪に塗れようとも―――

 

 

 

 

「――絶対に貴女をお助けします、マスター」

 

 

 

 

――今此処に家族同士の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…始まった、か」

 

氷と破壊、2つの衝突が始まったのを見ながらフィーネは駆ける。

目標は1つ、風鳴翼の元へだ。

彼女の身に何が起きたのか、それは同調した月読調の記憶から理解している。

恐らく彼女は負傷…それもかなりの重傷を負っている筈だ。

それこそ命を失っても可笑しくないレベルの…致命傷レベルのをだ。

 

「急がないと…ッ」

 

今のフィーネであれば、命さえ無事であるのならば絶対に助ける事が出来る。

だからその命の灯が燃え尽きる前に急がねばと駆けだそうとするが、不意に起きた眩暈で足を止めざるを得なくなる。

 

「――ッもう、時間がない、わね」

 

フィーネが急ぐ理由は風鳴翼の命が危ういと言うだけではない。

――《フィーネ》の魂が《月読調》の魂を飲み込もうとしているのだ。

そう、櫻井了子の魂を飲み込んだ時の様に――

 

「…ッ必死に抵抗しても……これか…」

 

誓って言うがフィーネに月読調の魂を飲み込もうとしている意思はない。

むしろ今現在必死に魂の飲み込みに足掻いている程だ。

だが、フィーネと言う強大過ぎる存在の魂は、傷つき弱っている月読調の魂を無意識に飲み込んでしまいそうになっているのだ。

今はフィーネが精神面で抵抗し続けているおかげでギリギリのラインではあるが彼女の魂は無事ではある。

だが、少しでも気を抜いてしまえば月読調の魂は自然とフィーネの魂に飲み込まれてしまうだろう。

そこまで彼女の魂――精神は弱っている。

 

…無理もないだろう。

幼い彼女にはあまりにも多くの出来事が起きてしまった。

親友の異形化から始まり、友を救う為に奏でた絶唱。

多くの出来事を通して、肉体面でも精神面でも傷ついてしまった彼女は今非常に弱まっている。

……このまま彼女の身体にフィーネが残り続けたら、その先に待つのは――――

 

「…急がないと」

 

今の眩暈は恐らく月読調の魂がフィーネの魂に引き寄せられた事による影響だろう。

残された時間は少ない、だからこそその残された時間を最大限に活用せねばならない。

故に彼女は駆ける。

風鳴翼の元へ、その命を助ける為に。

 

駆けながらその視線は止まらずに周囲を見渡す。

どこかにいるはずの彼女を――風鳴翼を探して。

 

「どこ…どこなの…ッ!!」

 

残された時間が少ないと言うのもあるのだろう。

フィーネは自身が焦っていると理解しながらも、駆ける脚を止める事が出来ずにいた。

フロンティアは星間航行船として作られている。

多くの人を載せる事を想定された作りは自然と広大な規模を必要としてしまう。

この船本来の目的を考えるのであれば納得できる規模だが、今はその規模がフィーネを苦しめる。

 

月読調の魂、そして風鳴翼の命。

その双方を救わねばならない彼女は急ぐ。

速く、速くと駆けていき――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――♪」

 

 

 

 

 

 

――《それ》を聞いた。

人を誘う様な歌声を、聞き慣れた歌声を、けれどももう二度と聞こえる筈のない歌声を。

 

「…まさか……」

 

あり得ない、そう想いながらもフィーネは歌に引き寄せられる様に駆ける。

フィーネは…いや、櫻井了子はこの歌声の主を知っている。

自身が歪めてしまった子を、風鳴翼の親友であり家族であった子を、

大好きな歌と共にこの世を去った筈の、あの子を知っている。

 

 

 

あの子を――《天羽奏》を、知っている。

 

 

 

「――奏ちゃん!!」

 

思わず、思わずその名を口にしてしまった。

要る筈のない者の名を、けれど聴こえるその歌声の主の名を、

けれど、其処に彼女はいない。

 

 

 

 

 

 

その代わりにと言わんばかりに、乱雑な応急処置をされた風鳴翼だけを残して

 

 

 





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