セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第130話

 

――ふと、目が覚める。

世界を揺らす僅かな振動。

地震と呼ぶには弱弱しいものではあったが、彼女が意識を取り戻すのには十分であった。

 

「………こ…こは…?」

 

眼前に広がる無限の黒。

延々と視界を埋め尽くし、世界の果てにまで広がりを見せる黒。

そんな黒に染まった世界で目覚めたセレナは――不思議と安心感を抱いていた。

 

心地が良く、安心する。

まるで母親のお腹に眠る子供の様に、この黒はセレナに安らぎを与えてくれる。

その安らぎに浸りながらも、セレナは感じていた。

 

 

 

私は此処を知っている。

それもつい最近に訪れた事がある、と。

 

 

 

記憶があるわけではない。

《既知感》とでも呼べば良いだろうか。

此処に来た事がある、此処でこの安らぎを感じた事がある。

その既知感がセレナにその答えを導き出した。

 

「(けどどうして私……)」

 

けれどもその既知感はセレナが此処にいる理由までを教えてくれない。

だからセレナはごく自然に思い出そうとする。

此処に至った理由を、自らの記憶を呼び起こし、思い出そうとする。

しかし――

 

「―――ッ!?」

 

それを阻むのは痛み。

頭に走ったその痛みによって思い出す事を阻まれる。

まるで思い出すなと言わんばかりに―――

 

普段のセレナであればそれでも思い出そうと足掻くだろう。

だが、今のセレナはそれを選択しなかった。

この世界にある安らぎ、それが彼女から思い出すと言う選択を奪い取っていた。

 

世界を揺らした振動が収まっていく。

ただでさえ小さかった振動が、今では感じる事さえ難しいものにまで低下している。

それと同時にセレナの意識もまた闇に飲まれようする。

眠れと、此処は安全だと、意識を奪い取っていく。

逆らう、と言う選択肢さえ浮かばなかった。

瞼が閉ざされ、意識が刈り取られていく。

深い、深い闇の底。

人が睡眠と言う手段の身を以て辿り着ける闇の底。

其処に向かう、それが正しいと向かおうとし―――

 

 

 

―――――♪

 

 

――歌声を、聞いた。

弱弱しく、涙交じりの歌声を。

どこか懐かしい音色で奏でられる歌声を。

――無意識に手を伸ばしてしまう歌声を、聴いた。

 

意識が覚醒する。

闇の底へと向かっていた意識は浮上し、全身に力が戻っていく。

そして――進む。

一面に広がる闇の中、その中から聞こえる歌声を目印にただ歩む。

 

闇が囁く。

眠れと、安らぎに身を任せろと。

全ては私達が解決すると、囁く。

それに悪意はない、純粋に彼女を案じた声であると理解できた。

 

それでも彼女は進む。

この歌を、この歌声を、知りたいと前へ進む。

闇の中を、ただ歌声だけを目印に進み、そして―――

 

「―――あ」

 

――1つの光が見えた。

闇の中で輝く弱弱しい1つの光に手を伸ばす。

手の先に触れる光、それは徐々に光の強さを増していき、そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は歌う、歌姫として、装者として奏でる歌声ではなく、昔を懐かしむ歌を、幸せだったあの頃を思い出せる歌を、小さく歌う。

その瞳に希望はなく、膝を抱える様に座る彼女の姿に覇気もない。

ただ絶望に身を任せる女性――マリアは歌声を奏でながら思う。

 

――何も出来なかったと。

 

世界を変える事も、調と切歌が争う事も、暴走した切歌を止める事も、何も……何も出来なかった。

閉じ込められた部屋の中でマリアはただ己の無力さを嘆いた。

こんなにも私は何も出来なかったのか、と。

こんなにも私は無力だったのか、と。

こんなにも、私は――弱かったのか、と。

 

「…どう…して……」

 

…こんな筈ではなかった。

セレナを殺したこの世界を、力ある者だけが救われ弱い者は見殺しにされるこの世界を変える為にこれまで頑張ってきた。

辛い事も、悲しい事も、全て耐えて乗り越えて見せた。

全ては世界を変える、ただそれだけの為に――

 

けれども、その末路がこれだ。

ドクターウェルの暴走を許し、私についてきてくれたあの2人を戦わせてしまい、挙句に切歌を化物へと変貌させてしまい――その挙句に私は籠の中のお姫様ときた。

閉じ込められ、ただ過ぎていく光景を何も出来ずに見るだけ。

あまりにも滑稽な姿に自らの笑う笑みさえ浮かんでくる。

 

「……は……はは……」

 

月の落下は以前続いている。

ドクターウェルによって早まられた降下速度から計算すると、地球衝突までそこまでの猶予はないだろう。

唯一の可能性だった歌を以て月遺跡を再稼働させると言う計画も、あの《死神》を見た民衆がパニックを引き起こしてしまい、絶望的な状況だ。

例え1人で計画を続行しても、たった1人の歌声では、月遺跡の再稼働なんて夢のまた夢だ。

…月の落下も止められない、世界も変えられない、愛した家族も救えない。

絶望に続く絶望。

繰り返される絶望に必然的にマリアは理解する、理解させられる。

 

もう、何をしても無駄だと。

 

「……ごめんねセレナ…私疲れちゃった…」

 

私が此処に閉じ込められているのはあの男が私に何かしらの利用価値があると判断しての事だろう。

それが良くない事であるのは明白だ。

だったら、そう、だったらせめて―――

 

懐から取り出したのはセレナのアガートラームのペンダント。

破損し、シンフォギアとしての機能は無いそのペンダントを握りしめながら――近くにあったガラスの破片を手にして首に押し付ける。

あんな男に利用される、そんな汚名を受ける位ならば――

 

ガラスの破片が首を皮膚を突き刺さる。

感じる痛み、迫る死と恐怖。

それを感じると共に、破片と共に手にしているアガートラームの感触がマリアに最後の思い出を蘇らせる。

幸せだったあの頃を、セレナと共に居られた辛くとも幸せに満ちたあの頃を、

優しい思い出、温かい記憶。

死を前にそれを見たマリアは自然と流れる涙と共に静かに覚悟を決めると、瞳を閉じて一気に破片を首元へと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――?」

 

ふと、気付く。

痛みが、ない。

確かにガラスの破片をこの首元に押し込んだ筈なのに、訪れるべき痛みがない。

どうして、その想いで彼女は瞼を開く。

一度は閉ざした瞳を、生きる事を諦めた瞳を開き、彼女は見た。

 

己の腕を掴む黒い手を、破片を食い止める黒い手を、

そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……貴女は、何をしてるんですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

あの少女を、仮面を付けたあの少女を、目の前に立つ少女を、見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切歌は目の前の光景に戸惑っていた。

ほんの数秒前まで激しい戦いを続けていた戦場で、足を止めて《それ》を見上げる。

困惑し、戸惑い、それでも見上げるしか出来なかった。

何故なら――

 

「これ…どういう事デスか?」

 

彼女の視線の先にあるのは《死神》

破壊と言う慈悲を撒き散らす死の象徴。

その存在を知る人々から恐れられ、嫌悪されるその存在は今――

 

固まっていた。

 

切歌の技を受けた状態で、腹部に切り裂かれた傷を残して、ただ固まっていた。

死んではいない、けれども生きてもいない。

そんな印象を抱かせる位に身動き一つも見せないその姿はさながら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

大事な《何か》を失った機械の様に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

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