セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話 作:にゃるまる
「「「「「「マリア(さん)お誕生日おめでとう!!!!」」」」」」
「ありがとう…なんか慣れないわね、こうやって祝ってもらうなんて」
シャトーの一室、もはや誕生日の祝い事は此処でとなってしまったその部屋でマリアの誕生日パーティーは始まりを告げる。
響を始めとするS.O.N.G.の面々とアルカ・ノイズ達がマリアの誕生日を祝う。
「けど残念だったね響、キャロルちゃん達参加できなくて」
「そうだよね~、キャロルちゃん達と一緒にお祝いしたかったな~」
未来と響の言う通り、今回キャロルを始めとするシャトー勢力、そしてサンジェルマンを始めとするパヴァリア光明結社の面々はどうしても外せない用事があるので誕生日パーティーへの出席を断念しているのだ。
曰く南極に用事があるとか。
そんな所に何の用事だろうかと響は頭の片隅で何となく思ったが、すぐに忘れて目の前の誕生日パーティーを楽しみ始める。
並ぶ料理の数々、豪華な飾りつけ。
それらを楽しみながらもマリアの視線はとある人物を探し求めていた。
「(セレナ…?)」
そう、愛しい妹であるセレナの存在をだ。
キャロルから「あいつは連れてきても邪魔だから誕生日パーティーに参加させてやる」と残されたセレナだったが、その姿がどこにも見えないのだ。
祝い雰囲気の中、マリアの心に言いしれようのない不安が募る。
けれどもーー
「マリア…ね、姉さん、誕生日おめでとう」
背後から聞こえてきたその声に安堵する。
効き慣れた妹の声、その声に釣られる様に振り返り―――一瞬ん?と思った。
「…ど、どうしたのマリア姉さん?」
そこにいたのは確かにセレナだ。
その姿形も、声さえも間違いなくセレナだ。
だが、何だろう…
何故か《違和感》を感じる。
「…セレナ、よね?」
「そ、そうだよマリア姉さん。どうしたのそんな顔して?」
どこか焦った顔をする最愛の妹にマリアはん~…と唸る。
その唸りを前にセレナ―――いや、錬金術でその姿を誤魔化しているガリスは内心怒りを覚えていた。
「(なんでアタシがあんたなんかに最愛のマスターの真似っこなんてしないといけないのよ!!てか疑うな!!)」
内心愚痴りまくりながらもガリスはどうしてこうなったのかを思い出す。
そう、あれは数時間前の事―――
「………ズビ…ズビビ…」
シャトーにあるセレナの私室。
そこでセレナは――真っ赤な顔でベットに横になっていた。
「…37,8…完全に風邪、ですね」
「…マスター冷えピタ、です」
「あはは☆まさか誕生日当日に風邪をひくなんてね~☆」
「無理もないよレア~☆マスター今回の誕生日の為に超無理してたかんね~そりゃ風邪もひくよ~☆」
「マスター…(´・ω・`)」
周囲を囲むシスターズから看護を受けるセレナ。
それをありがたいと思いながらも壁に立てかけられた時計を見る。
パーティー開始までもうさほどの時間がない。
この状態ではもうパーティー参加など夢のまた夢だろう。
その事実がセレナに暗い感情をもたらす。
大好きなマリア姉さんの誕生日、それを祝うためにセレナは準備してきた。
美味しい料理、豪華な飾りつけ、喜ぶだろうと用意したプレゼント。
後は誕生日パーティーの開始を迎えるだけ…そう思っていた矢先にこれだ。
自身が参加できないだけならばまだ良い。
だが、マリアがこの事実を知れば必ず此方へと来てしまうだろう。
そうなるとせっかくの誕生日が滅茶苦茶になってしまう。
それだけは…それだけは、許せなかった。
「マスターお待ちを、今医療班から薬をもらってきまーー」
そんなセレナの視線がガリスを見定める。
比較的体格はよく似ており、ほんの少しばかり身長は向こうの方が高いが、それでも十分に許容範囲。
「――ズババ、バビビ(ガリス、こっちへ)」
「は?え、何ですかマスター?」
主の呼びかけに何の疑いを持つことなく近寄るガリス。
そんなガリスへ向けて起動するは、錬金術。
「――は?」
困惑するガリスであったが、時遅く。
錬金術は要求されたプロセスを実行していく。
光がガリスを覆っていき、突然の行動に戸惑うシスターズをよそにセレナは錬金術を操作する。
時間にして数秒足らず、錬金術の輝きが消え去った後に残されたのは――セレナと全く同じ外見となったガリスの姿。
「は?え、ちょ」
自身の見た目が変わったことに驚き戸惑うガリス。
そんなガリスに鼻声交じりの声でセレナがお願いする。
《私の代わりにマリア姉さんを祝ってきてあげて》と
そして時は戻る。
「(マスターの願いだから仕方なく我慢するけどなんでアタシがこいつの誕生日なんて祝わないといけないのよ!!こんな事するよりもアタシはマスターの看護がしたいんだっつの!!)」
内心毒を吐きまくりながら終始笑顔で接するガリス。
実際、ガリスは超がつくレベルでマリアが嫌いだ。
その理由等もあるのだが…そこは今は置いておこう。
とにもかくにも大っ嫌いな相手に笑顔で接し、誕生日を祝わないといけないという苦痛。
それをマスターの為だとひたすら耐えながら、ガリスはセレナとしてマリアの誕生日パーティーを祝っていた。
「セレナ!!お久しぶりデス!!最近あんまり会えなかったから寂しかったデスよ!!」
「切ちゃん走ったら危ないよ。久しぶりセレナ」
「お久しぶりです切歌さんに調さん。ええすみません最近忙しくて」
「セレナちゃん元気だった?体壊したりしてない?食事とか大丈夫?」
「未来お姉さんもお久しぶりです、ええ大丈夫ですよ」
パーティー会場内で話しかけられる度に終始《セレナ》を演じるガリス。
その演技力は見事で誰もその素性を疑う事さえしない。
シスターズの最古参にしてマスターへの忠誠愛が一番高いガリスならではこそだろう。
彼女にとって完璧な《セレナ》を演じる事など容易い事である。
「――――――――」
そんなガリスを静かに見つめるマリアだけが明るいパーティー会場に似つかない表情をしていた。
「はぁ…疲れましたね…」
パーティーは順調に終わりを迎えようとしていた。
プレゼントも渡し終え、後は適当な理由で抜け出せば―――
「ねえ、ちょっと良いかしら」
そんなガリスに声をかけてきたのは今日のパーティーの主賓であるマリア。
内心また来たよ、と愚痴りながらガリスは再度セレナを演じる。
「どうしましたマリア姉さん?何か用――――」
瞬間、マリアの姿はすぐそばまで迫っていた。
――己の身体で周囲からは見えない様にアガートラームの短剣を此方へと突き立てながら――
「―――これはどういう意味ですかマリア姉さん?」
一瞬《セレナ》の演技が崩れかけるが、何とか持ち直してそう言葉を向ける。
なれどマリアから返ってきた言葉に―――
「…どういう意味?それは――私の台詞よ《ガリス》。色々と聞きたい事があるから素直に此方が聞きたい事だけに返事をしなさい。さもないと…分かるわよね?」
――嗚呼、これ無理だわと諦めた。
「セレナッ!!!!!」
「…え!?ま、マリア姉さん!!?」
やっと熱も下がり、鼻声も解消した頃にセレナの私室の扉を勢い良く開けて入ってきたマリアにセレナは驚愕する。
どうして、そう焦るセレナの視線はマリアの後ろで此方に向けて謝罪をするガリスの姿を捉える。
それだけで全てを理解した。
「熱が出てるって言うけど大丈夫なの?薬は?食欲はある?これ色々と持ってきてみたけど、リンゴは食べられる?それとも何かほかに食べたい物とかあるかしら?」
来訪するや否や口早に心配の言葉と無数の薬と果物を展開し始めるマリア。
そんなマリアにセレナは思わず言葉を漏らす。
「どうして分かったの?」と。
そんなセレナの言葉に、マリアは当たり前の様に――
「私がセレナを間違えるわけがないわよ。貴女は私の妹、妹を間違える姉がいるものですか」
当然でしょ、そう付け足した言葉に、セレナは笑ってしまう。
嗚呼、この人は――私のお姉ちゃんはこういう人だったなと、笑う。
「ちょ、どうして笑うのよセレナ」
「んーん、ごめんねマリア姉さん。心配かけちゃったね」
「これ位の心配可愛いものよ。セレナの為なら何でもするわよ私は」
「何でも?本当に?」
「う゛…え、ええ当然よ!!セレナの為ならなんだってやってあげるわよ!!」
「ふふ……ねえ、マリア姉さん」
「ん?どうしたのセレナ?」
「お誕生日おめでとう」
「――ええ、ありがとう、セレナ」
仲睦まじい2人はその後、2人だけで小さな誕生日パーティーを祝う。
小さなショートケーキと、持ってきた果物だけの食べ物で、
飾りつけなど一切してないセレナの部屋で、
誕生日プレゼントももうないけれど、
それでも、マリアにとってこの日一番嬉しい時間であった。