セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第131話

 

――状況を理解したわけではない。

意識は曖昧で、正直今が現実なのか夢なのか、それさえも不明慮な所がある。

ふらつく脚、閉じそうになる瞼、乱れる呼吸。

まるで動けない身体を無理やり動かしている、そんな感覚。

今すぐに倒れて楽になりたいと身体が幾度も警告をする。

 

けれども、その警告を無視して立ち続ける。

目の前にいる女性に、敵である彼女に、死のうとしていた彼女に、

一言、言ってやらないと気が済まないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…貴女どうして……いえ、それよりもどうやって……」

 

突如姿を現したのは、仮面の少女。

自身を敵だと語った彼女を前にマリアの身体は自然と警戒をし、ガングニールを起動させようとするが…すぐにそんな行為を嘲笑う様に小さく口元を歪めると、身体の力を抜いた。

 

「(…今更…何をしようとしてるのよ……)」

 

―――元々彼女は、優しすぎたのだ。

目的のために犠牲は必要だと理解していながらも、その犠牲を生み出す事に躊躇し、迷い、そして――犠牲を出さない選択を選ぶ。

それが目的達成を遅らせる事を理解していながらも、その選択を選んでしまう。

それがマリア・カデンツァヴナ・イヴと言う人間なのだ。

 

そんな彼女に起きた数多くの裏切りと絶望。

セレナを殺したこの世界を変える、弱者も救われる世界へと変える。

その目的を果たす事だけを心の支えにしていた彼女にとって、それらの出来事はその支えを呆気なく打ち壊すのに十分過ぎたのだ。

 

――だからこそ死のうとした。

こんな苦しい想いをする位ならば、と。

あんな男に利用される位ならば、と。

……早くセレナの元へ逝きたい、と。

 

そんな彼女にとって目の前に立つ彼女はまさに最高のタイミングで来てくれたと言っても良いだろう。

彼女は明言している、マリアの敵だと。

あの会場での戦いで聞いたあの言葉にどれだけの意味が込められていたのか、どうして彼女がマリアを恨んでいるのか。

考えると浮かぶ疑問、されど今のマリアにとってそんなものは些細なものでしかない。

 

手を広げる。

抵抗などしないと言わんばかりに、無防備な身体を向けて、言葉なく伝える。

 

《私を早く殺してくれ》と。

 

仮面の少女はそんな向けられた瞳を見る。

生きる気力など欠片もない生気を失った瞳に、少女は小さく、ほんの小さく息を吐くと―――

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!!!」

 

 

 

 

 

――殴った。

今の彼女が持ちうる全ての力を込めた拳で殴った。

 

「――――ぇ」

 

殴られたマリアは突然の拳に困惑する。

痛みがじんわりと広がりを見せる中、マリアは己の胸ぐらを掴まれ、立たされる。

脚に力が入ってなかろうが関係ない、少女の幼い身体の何処にあるのかと言わんばかりの力で立たされると――顔面にもう一発拳が飛んできた。

衝撃と痛みが同時に襲い来る。

正真正銘全力で放たれた拳は最初に殴られた右頬とは逆の頬へと叩き込まれて、その勢いでマリアの身体は宙を舞い、壁へと叩きつけられた。

 

無音の空間に音が鳴り響く。

拳の音が、叩きつけられた音が、無音の空間に木霊する。

壁へと叩きつけられたマリアは自身の口から赤い血液が流れだしているのに気付いた。

口の中を切ったのだろう、舌を通じて口内に鉄の味が広がる。

己の血の味を、己の生きている証を、味わう。

 

「―――ぁ」

 

事此処に至り、マリアは――やっと恐怖を抱いた。

己の口内に広がる生きている証、そして少女の拳で感じた死の気配。

その2つを感じた事でマリアはやっと理解する。

死の恐怖を、己がしようとしていた行為の末路を。

 

怯える、死に。

怯える、死をもたらす者に。

怯える、己の行為に。

 

怯え、震え、恐怖するその姿はさながら弱弱しい子供を連想させる。

其処に居るのはステージ上で歌を奏でた歌姫でもなく、世界を相手に宣戦布告した装者でもない。

ただの死に怯える1人の人間でしかなかった。

 

そんな彼女に仮面の少女は足早に駆け寄る。

一歩一歩、意図的に音を鳴らして己の存在を知らしめながら駆け寄る。

 

「――ひッ」

 

今のマリアにとってその音は恐怖でしかない。

身体は無意識に逃げようとする、迫る死に――死をもたらす者から。

けれどもそれを少女は許さない。

逃げようとするマリアの胸倉を掴むと、もう一度無理やり立たせると―――

 

 

 

 

 

「――甘えないでください」

 

 

 

 

 

――声を発した。

憤る胸の感情を、堪え切れない感情を、己の全てを、言葉に変えて発する。

 

「貴女がどうしてこんな事を始めたのか、どうしてあんな男と手を結んだのか、その理由を私は知りませんし、仮に知ったとしてもきっと貴女に賛同する事は出来ません」

 

淡々と仮面の少女は想いを言葉に変換していく。

胸に燻ぶる怒りを、不条理なまでに湧き上がる怒りを、言葉にして紡ぐ。

 

「――ですけど、それでも貴女には《理由》があった。こんな事をしでかした理由が、あんな男と手を結んだ理由が、世界を敵に回した理由が、貴女にはあった。辛くても、苦しくても成し遂げたい想いがあった。それを成し遂げる為ならばどんな事でもしてみせると言う想いがあったのでしょう?でしたら―――」

 

不思議だと少女は思う。

どうして私はこんなにも怒っているだろうか。

目の前にいるのはただの敵で、知り合いでも友人でもないと言うのに…

それなのに、どうして私は―――

 

 

 

 

 

 

「――私は絶対に貴女の死んで逃げようなんて甘えを許しません!!」

 

 

 

 

 

 

――なんで、こんなにもこの人に死んでほしくないと願っているのだろうか。

 

「感じたでしょう死を!!全身を包む恐怖を!!その先にある末路を知ったでしょう!!貴女はそんなものに身を任せて逃げようっていうんですか!!成し遂げたい想いを途中で放り出してまでッ!!」

 

口が止まらない。

想いは次々と言葉となって口から溢れ出る。

延々と、止まる事なく、想いを叫ぶ。

 

「――甘えずに立てマリア・カデンツァヴナ・イヴッ!!!!辛くても、苦しくても!!他の誰が何を言おうが、世界がどうなろうが関係ないッ!!――ッ」

 

叫び続けた言葉が終わりに近づくにつれて、眩暈が酷くなり、意識が落ちようとする。

全身を包む様に襲い来る睡魔。

本能的にそれがタイムリミットなのだと理解した。

もうすぐこの身体がまたあの安らぎへと戻ってしまうタイムリミットだと。

理解する、もう時間に差ほどの余裕はない。

だから、だからこそ叫ぶ。

この想いを、胸に湧き上がるこの言いしれない感情を伝える為に、叫ぶ。

 

 

 

 

 

「始めたのなら必ず成し遂げなさい!貴女の成したい想いを!!貴女の……貴女の本当にやりたい事を!!」

 

 

 

 

 

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