セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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第120話

《つまり…君はこう言いたいのかね?我々にテロリストの言葉を鵜呑みにして協力しろ、と》

 

《馬鹿げている!!我々にテロリストに屈しろと言うのか!!》

 

《月の落下が起きているのは間違いない事実。ですがそれを避ける為にテロリストに協力するのは如何なものかと…》

 

弦十郎は通信越しにいる男達――日本の政治を動かしている各大臣達を前に静かに歯ぎしりをする。

ナスターシャ博士が提案してきた協力要請。

それは、歌の力――フォニックゲインを以て月の軌道を修復させるという内容だった。

マリアの歌声を中心に世界全ての人々に協力してもらい、膨大なフォニックゲインを呼び起こす。

そのフォニックゲインを収束し、月に照射する事で月にある遺跡を再稼働し、機能を正常化して月の落下軌道を変更させる。

それがナスターシャが提案した月の落下を唯一防げるであろう作戦だった。

その為に必要な世界中の人々の協力。

弦十郎はその事実を政府に報告して協力を仰ごうとしたのだが……

 

「――ッ!確かに彼女達の行動は世界中に恐怖と混乱を生み出しました!!ですが彼女達の行動は全てこの星に住まう人々の為に――!!」

 

《それが嘘ではないと言う証拠はあるのかね!!》

 

《所詮はテロリスト。窮地を脱する為についた嘘と言う可能性は十分にあり得る》

 

《幸い月の落下までに若干のゆとりがあります。その間に他の作戦を考えるべきかと》

 

返ってきた答えがーーこれだ。

所詮はテロリストの話だと、まともに受け取ろうもしない。

現に月は落ちていると言うこの状況で、だ。

 

だが、弦十郎も彼等の言葉に反論できずにいた。

この国を支える大臣達は間違いなく優秀な人材達だ。

弦十郎とて彼らから多くを学び、多くを助けられている。

彼らの言う言葉も正論ではあるのは間違いない。

 

確かに、F.I.S.は世界から見れば単なるテロリストだ。

シンフォギアを使い、ノイズを操り、世界中に混乱と恐怖をもたらした。

それは変えようのない事実だ。

だが―――

 

「彼女達は今!!命を賭して戦っています!!この星の為!人々の為に!!共に月の落下を防ぐ為に戦っているのです!!ですからどうか………どうかその想いを受け止めてください!!」

 

弦十郎は頭を下げながら叫び、願う。

ナスターシャの命を賭しての願い、ドクターウェルの願望の為に使われ、そして今捨てられようとしている子供達の為にも、願う。

自身にできる最大限を以て、願った。

 

《…君の言い分も理解はできる。だが政府としてもテロリストに与したとなれば―――》

 

今後の外交問題に関わる、そう繋げようとした言葉を遮る様に通信に映し出された映像に黒いスーツ服の秘書らしき男が混ざり、耳元で何かを小声で話している。

時間にして数秒足らず、交わした言葉も多くはない、

けれど――

 

《――ッ!!》

 

それを聞き終えた時、大臣は一瞬だったが驚愕した様に表情を歪める。

それが何の意味があったのかは弦十郎には理解できない事だ。

だが、1つだけ分かるとすれば――

 

《…分かった。君の提案を受けよう》

 

それが彼らの意見を変える何かとなったという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令!!どうでしたか!?」

 

政府との話し合いの為に留守にしていた弦十郎の帰還と同時に向けられた質問。

無理もない、その答えによっては準備していた全てが無駄となるのだから、聞きたくもなるだろう。

向けられる視線、それを受け止めながら弦十郎は――首を縦に振った。

 

「日本政府はこの作戦に全面協力すると約束した!!既に他国に対しても外交ルートを通して要請している!!作戦は決行可能だ!!」

 

弦十郎の報告に全員が喜びを露わにする。

通信機越しに聞いているナスターシャも今日初めて表情を和らげる。

歓喜に満ちた空間、けれどもその中で弦十郎だけは1人考えていた。

 

「(あれほど作戦に非協力的だった大臣達が一瞬で掌返し…いったいなにがあった)」

 

気になるのはあの時の内密話。

もしあれが原因と言うのであれば……その内容は、大臣達の気持ちが一瞬で切り替わる程のものだったという事になる。

ならばそれは何で――

 

「(《誰》が伝えてきたか…か)」

 

考えれば考える程気になるが…だが、今は置いておこう。

今最優先すべきは作戦の実行。

月の落下を防ぐ、それを果たさねばならない。

その為に動き始める二課とナスターシャ、だが不安の種はまだある。

 

「藤尭、彼女の調査はどうなっている」

 

それは今現在突如空から来襲してきた仮面の少女と交戦中の化物と化した暁切歌の調査。

藤尭が中心に二課の面々とナスターシャ、双方の協力で少しでも元に戻せるきっかけとなる情報を得られないかと調査をさせていた。

その言葉に藤尭は現段階で判明した情報を開示していく。

 

「ナスターシャ博士が提示してくれた敵装者暁切歌の情報とイガリマのデータ、そしてこれまでの戦闘データと此方が得た情報を解析して、1つだけ分かった事があります」

 

「…それは?」

 

藤尭が捜査する機器に映し出されたのは、1つの映像。

様々な機器を以て化物の解析し、得られた全てがそこにはあった。

藤尭がその中でも示したのは、1つの赤外線写真。

監視衛星から取ったであろうその写真には――

 

 

「――あの異形化は装者自身を変貌化させた物ではなく、ギアを強制的に変化させ、彼女をコアとして使う事で起動している一種の生態兵器の様な物だと言う事が分かりました」

 

 

まるで揺り籠で眠る子供の様に、化物の中心――人間で言う心臓辺りで膝を抱えて丸くなっている暁切歌らしき人影を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁッ!!!!」

 

《ガ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!》

 

唸る咆哮に立ち向かうは仮面の少女。

呼び出した黒い手が化物の動きを阻み、その隙を狙う様にセレナの腕に纏う黒い手――《黒い腕》と仮称するそれが振るわれる。

対する化物は自らが持つ6つの腕に防ごうとするが、それを黒い手が許さない。

ギチギチと音を上げながら縛り上げる黒い手によって動かない6つの腕。

その代わりにと言わんばかりに背中から延びる刃の触手が一斉に黒い腕へと襲い掛かる。

 

「―――ッ」

 

迫る触手、なれどセレナは怯まずに前へと進む。

その結果、刃の触手が次々と黒い腕へと突き刺さる。

1つ、2つ、3つ――

鋭利な刃を持つそれらが次々と黒い腕を突き刺し、切り、黒い腕を排除しようとする。

なれど、セレナの脚は止まらない。

近づく刃の触手を黒い腕で受け止め、黒い腕から逃れた触手には黒い手を呼び出して対応しながら、前へ前へと進み―――

 

「てりゃああああ!!!!」

 

――殴りつけた。

 

《ッ!!?ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!》

 

化物を襲う衝撃は並大抵のものではなく、襲う激痛に悲鳴に近い叫び声が鳴り響く。

しかしセレナの攻撃は止まらない。

黒い腕の一撃で飛ばされた化物へ駆ける。

敵の接近に気付いた化物は即座に起き上がろうとするが、それをセレナは許さない。

右手に生成したのは拳銃。

そこから発射された鏡の弾丸が直撃し、割れて黒い手を呼ぶ鏡面を作り上げる。

鏡面から生まれる黒い手が起き上がろうとする化物の動きを雁字搦めにして、封じる。

今度は背中の刃の触手もろとも全てを、だ。

 

「…………」

 

全身を縛り上げられ、もはや動く事さえも出来なくなった化物をセレナは見下ろす。

見下ろされた化物は、怒りを露わにする様に、吠える。

復讐の邪魔をするなと、吠える。

そんな化物に対し―――

 

黒い腕が顔面を殴った。

叫ぶなと、吠えるなと、煩いと、殴る。

何度も何度も何度も何度も――――

徹底的に、遠慮なく、躊躇なく、殴る。

 

「――――アハ」

 

飛び散る血しぶき、黒い腕を通して感じる殴った感触。

それらを感じながら、返り血で顔を赤く染めながら――セレナは笑う。

仮面越しでも分かる位に、禍々しく笑う。

 

「アハ…アハハ……」

 

セレナの胸に最初にあったのは、間違いなく怒りだった。

風鳴翼を、セレナの友達を傷つけた。

その怒りが彼女を戦わせた。

だが…そう、だがだ。

 

気付いたら、それは消えていた。

否、消えていた…と言う表現は違う。

《上塗り》されたのだ。

戦う最中でセレナの胸に込みあがった感情に―――

 

《胸が裂けそうなほどの嫌悪感》に、塗り替えられたのだ。

 

「アハハ…アハハハハ!!!!」

 

殴る殴る殴る。

胸の奥底から込み上げる感情に、目の前の存在に対する嫌悪感に従って、殴る。

殺せと、殺してしまえと、《何か》が言うままに拳を振るう。

 

「アハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

 

――気づいたら、化物の声は消えていた。

振るった拳を止めてみると、気絶しているのだろうか。

黒い腕の拳を受け止め続けた顔は既に元の形をしておらず、血と肉が混ざった変貌したものと化している。

それを見ても、セレナの胸中にあるのはただ――満足感だった。

目の前の嫌悪感を排除できている、その事実に興奮する満足感。

それに身を震わせながら、セレナの視線は――化物の心臓辺りを見る。

 

「―――」

 

《そこ》だと理解した。

あそこにある、あそこにあるのだと理解した。

黒い腕を伸ばす、ゆっくりと伸ばす。

もうすぐ……そう、もうすぐだ。

もうすぐ、もうすぐで――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《トリモドセル》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風鳴翼はただ見ていた。

一方的な虐殺を、戦いと呼ぶにはあまりにも残虐なそれを、

圧倒的力の差を、どこかあの死神との戦いを連想させるそれを、

そして、それを前にして―――

 

「やめろぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

風鳴翼は、剣を抜かずにはいられなかった。

 

 




セレナ ―――――――カウント 1

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