セレナが何故か蘇って記憶を無くしてキャロル陣営に味方する話   作:にゃるまる

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アナザー調が可愛い
けど何だろう、どこか既知感を感じる…なんか結構昔のアニメに似たような子がいたような気が…んー……


第123話

 

《――協力、だと》

 

――弦十郎の何とも言えない表情と共に返ってきた返答。

その様子を前に調…いや、フィーネはやはりかと表情をわずかに歪ませる。

彼らの当然の反応を前に、歪ませる。

 

こうなると予想はしていた。

フィーネは…櫻井了子はそれだけの裏切りを彼らにしている。

己が願望を叶える為に彼らを利用し、そして捨てた。

徹底的に、容赦なく、捨てたのだ。

 

あの時の自分が間違えた判断をしていた、とは思わない。

その最後で彼等を信じる道こそ選んだが、それでもあの時の自分が選んだ道は間違いなく嘘偽りない本心の行動だった。

《あの人》に会いたい、ただそれだけの願いを叶える為に―――

 

だが、理由はどうあれ櫻井了子は彼らを裏切ったのだ。

そんな相手から今更協力しろ等と言われたら…この反応は当然だろう。

一度徹底的に裏切り、敵対した相手からの協力要請。

提案したフィーネ自身でさえも逆の立場なら絶対に了承なんてしないだろうと自覚していた。

だが、それでも――

 

「(《アレ》の存在を許してはいけない――ッ)」

 

フィーネの両目が《アレ》を見据える。

フロンティアに君臨し、今はただ立ち尽くしている《それ》を。

フィーネの記憶にとって最悪な記憶に映るその姿と全く同じそれを、見据える。

 

《アレ》が過去に見た存在と全く同一であるのならば――恐らくまだ《覚醒》には至っていない。

昆虫で言えば、幼虫から蛹に成り代わろうとしている時期だろう。

ならば、まだ対処しうる策はある。

その為にも、彼らの――二課の協力が絶対に必要なのだ。

 

だからこそフィーネは提案を口にしようとする。

彼らが知りえない技術や知識、情報。

二課に存在さえ隠していた聖遺物の在処。

彼らが知らない未知の敵の存在。

フィーネが持ちうる彼らの利益となる全て、これを対価に協力させる。

これならば彼等も協力せざるを得ないだろう、と。

その想いで言葉を紡ごうとする。

だがそんな想いは―――

 

 

 

 

《――了解した了子君!!俺達は君に全力で協力しよう!!》

 

 

 

 

――通信機から聞こえる効き慣れた男の声によって阻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《―――弦十郎くん、提案した私が言うのもアレだけど…本気なの?》

 

「本気に決まってる!!むしろ俺から頼みたい…了子君!!俺達に力を貸してほしい!!》

 

二課の司令である弦十郎の言葉に二課の面々は多種多様な反応を見せる。

納得する者、仕方がないなと呆れる者、驚愕する者。

多くの反応を見せる二課の面々だったが、その中で1人の男が立ち上がる。

その表情に――怒りを見せながら。

 

「司令!!流石にそれは承諾できませんッ!!彼女が起こした事件をお忘れになったのですか!!」

 

男の名前は五十嵐。

二課に所属してまだ日の浅い彼には恋人がいた。

ほぼ同時期に二課に所属した女性職人、その仲は良好で婚約もさほどの時間を必要としないだろうと誰もが噂をしていた。

けれども――その彼女は今、二課にいない。

 

櫻井了子――フィーネが引き起こした《ルナアタック事件》

その事件の最中で彼女は重傷を負い、今もなお病院で治療を受けているのだ。

回復の見込みこそあるが、それには多くの時間と治療による苦痛を耐えねばならず、今こうしている間も彼女はベットの上でその痛みに耐えながら奮闘している。

そんな彼女を精一杯支えているこの男からすれば――彼女に怪我を負わせた張本人に協力する等あり得ないのだ。

 

「私は反対です!!彼女の力を借りずとも状況を打破できます!!ルナアタック事件を乗り越えた私達ならッ!!」

 

五十嵐の言葉に数名の職員が同意を示す。

その誰もがルナアタック事件で五十嵐同様に大事な人や物を失いかけた者ばかり。

五十嵐の気持ちを理解し、そしてフィーネに敵意以上の感情を持つ者が弦十郎の言葉に反発する。

 

「そ、そうですよ!!」

 

「フィーネに協力するなんて…は、反対です!!」

 

そしてルナアタック事件後に二課に配属された者達もそれに続く。

無理もない、櫻井了子と共に過ごした時間を持たない彼らからすればフィーネは《敵》でしかないのだ。

そんな敵からの誘いに、五十嵐の言葉が合わされば――彼等が反対へと回るのは必然だろう。

 

「おいお前ら落ち着けって!!」

 

その中で櫻井了子を知る者達――藤尭や友里、緒川と言った二課の中心メンバー達は五十嵐の言葉に乗って反対へと回った職員に落ち着く様に声をかけていく。

彼等とて完全に賛成、と言うわけではない。

フィーネの言葉に何かしらの裏があると疑っているのでは?と問われれば、NOとは言えない。

また騙そうとしているのでは、言う可能性さえ疑っている。

けれども―――

 

 

 

 

 

 

 

全員聞けッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

――鳴り響いた弦十郎の叫びが騒ぎを一瞬で消し去る。

そしてその場の誰もが弦十郎に視線を向ける。

二課の司令であり、この場を仕切る男に、視線を向ける。

疑い、怒り、困惑、様々な感情を持った視線を向けられながら――弦十郎は語り始める。

 

「…確かに了子くんは一度俺達を裏切った。その中で多くの仲間が傷つき、倒れたのも俺は知っている」

 

「でしたらッ!!」

 

「だがッ!!!!…だが、だ。あの裏切りの中で俺は了子くんの不器用な優しさが残っていたのも、知っている」

 

――やさしさ?

その単語の意味が理解できないと困惑する五十嵐であったが、それを補足する様に弦十郎の傍に立つ緒川が続く。

 

「…ルナアタック事件において多くの被害が出たのは知っての通りですが…大勢の負傷者を出した一方で死者がゼロである事が最近の再調査で判明しました」

 

緒川の調査結果を示す様に次々と調査データが表示されていく。

それを見ると、確かに死傷者がいない。

複数の警察官や自衛隊がノイズとの交戦で負傷こそしているが、それでも命を失うまでには至っていない。

更にはノイズとの交戦で負傷した自衛隊員や警察官からの調査内容に本人からの証言として《ノイズは自分が持っていた武器へ対して集中的に攻撃を行い、武器を破壊され戦闘継続が不可能になると彼等は自分を無視して去っていた》と書かれてる。

そしてあの場においてノイズを指揮出来たのは――ただ1人。

 

《……………》

 

その調査報告を聞きながら、フィーネは沈黙を保っていた。

賛同するわけでも反発するわけでもない。

ただ黙って沈黙を維持し、様子見に徹する。

 

「…俺とて了子くんを疑ってないのかと言われたら、そうだとは言い切れない。もしかしたら何か企んでいるのやもしれない。もしかしたら俺達を騙そうとしているのかもしれない。二課の司令としてその可能性を捨てきれていないと言うのも、また事実だ」

 

弦十郎の言葉に五十嵐は追及しない。

ただ黙って彼の話を、二課の司令である風鳴弦十郎の言葉に耳を傾ける。

怒りも何もかも一時忘れて、ただ話を聞く。

 

「――だが、それでも俺は信じたい。二課の司令である前に、1人の男として、風鳴弦十郎は彼女を信じたい。確かに俺達は一度彼女に裏切られた。だが、その全てが嘘だったとは思えない。櫻井了子として、共に二課の仲間として過ごしたあの時間で培われた絆を、俺は信じたい」

 

――弦十郎は言いたい事は言ったと言葉を終える。

その後に待つ反応がどんなものであるのか、それを頭の片隅で考えながら、ただ沈黙し、反応を待つ。

更なる反発が起きるだろうか、それとももう付いていけるかと出ていくだろうか。

けれども、どんな反応であろうともそれを受け止めよう。

司令として、そして1人の男として言いたいことを言い切った者として、その結果を受け止めよう。

その想いでただ黙って待った。

皆の反応を、皆の答えを、

そして―――

 

 

 

 

「―――はぁ…仕方ない、ですね」

 

「ええ、仕方ない、わね」

 

「ええ仕方ない、ですね」

 

 

 

 

聞こえてきたその声を皮切りに――二課が再び動き始める。

全員が持ち場に付きなおし、各々の仕事へと戻っていく。

その場に反対する者はおらず、その場に文句を言う者はおらず、

全員が己の役目を全うせんとする二課のいつもの光景がそこにあった。

 

「……お前たち」

 

「全く仕方ないですね、あんなに惚気られたらやるしかないじゃないですか」

 

「1人の男として(キリッ)…いいわね、あんなの一度言われてみたいわ」

 

「僕で良ければ言いましょうか?」

 

「「「「是非とも!!(女性職員一同の叫び)」」」」

 

いつもの二課の雰囲気に戻ったそこで、ただ1人だけ残っていた男――五十嵐。

彼はただ1人残り、そして画面に映るフィーネを見据えると

 

「…1つだけ貴女にお願いがあります」

 

《…何かしら?》

 

 

「今回の事件が解決したら、必ず彼女の治療を手伝ってあげてください。悔しいですが、貴女の医療技術を上回る医者を私は知りませんから」

 

《―――ええ、約束するわ》

 

 

五十嵐の願いにそう答えると、彼は満足げに自分の定位置へと戻っていく。

彼がいつもの位置へと戻り、そして弦十郎の視界にはいつもの二課が戻ってくる。

いつもの二課、いつもの頼りがいのある仲間たち。

弦十郎は思う、俺は間違いなく――――

 

 

 

 

 

 

「では了子くん、俺達はどうした良い」

 

 

 

 

 

――最高の仲間に巡り合えた。

 

 

 

 

 

 

 


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